陸と海の狭間で   作:稲村

7 / 10
初めまして、妙高型重巡洋艦、妙高と申します。

私の妹に当たる那智、足柄は車が大好き。非番の日はずっと二人で車を触ったり乗り回したり…私には何が楽しいのかよくわからないですが、時々無茶やって事故して帰ってくる事だけはやめて欲しいものです。

それでは、本編どうぞ。


第七話:那智×March SUPER TURBO(EK10)

「うおおおおおおおおおおおお」

「これっ、ちょっ。」

 

ここはある場所にある狭い峠。そこを一台の車がもの凄い速さで駆け上がっていた。小さな車体からは、到底想像出来ない速さをしているところから、差し詰め黒い弾丸と呼ぶべきか。

 

このクルマをドライブしているのは重巡洋艦の那智、横に乗るのは同じく足柄である。車好きの二人は、こうして次の日が非番の夜は夜な夜な峠に繰り出して走り、夜通し改善点を話し合い、次の日には駐車場で車をこねくり回すような生活を送っている。那智も足柄も普段は仲間でも、車に関してはお互いをライバル視しているらしく、時折仕上がった車を二人でチェックするといった事をしている。

 

「っぷはー。アンタ、今度は何触ったの?」

「プーリー径拡大、コンピューターをLINKにって感じで主には機関系に手を入れた感じだな。」

「かなり手を入れたわね…私もどうしようかしら。」

 

那智の愛車は、当時『マッチのマーチ』で一世を風靡した日産の初代マーチ、その中でもモデル末期に登場した『スーパーターボ』と呼ばれるスポーツグレードだ。

 

「切り替わりのロスを感じないのは流石というかなんというか…」

「今その辺りはまだ手付かずだからな、今回のコンピューターの入れ替えも劣化の事前予防みたいなもんだし。」

「私の新車じゃこれは味わえないからねぇ。」

「安全装備がてんこ盛りだったら仕方ないさ、この車の場合、事故ったら終わりだからな。」

 

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のちに『日産の当たり年』とまで言われた1989年。R32のGT-R、Z32のフェアレディZ等後に名車と呼ばれる車達に混じって、モデル末期に入ってたマーチの一部改良で追加されたのが『マーチスーパーターボ』だった。

 

ベースは前年に追加されていた競技ベース車両のマーチR。このモデルに搭載されたMA09ERTと呼ばれるエンジンは、国内では唯一、世界的に見ても数少ないターボチャージャーとスーパーチャージャーを同時搭載したエンジンだった。低速域はスーパーチャージャーが担当し、ある一定数の回転数を超えたところからは、高回転が得意なターボチャージャーに切り替わるというシステムを搭載した珍しいエンジンは、930ccにも関わらず、最高出力110ps、最大トルク13.3kgmを誇った。

 

たかが110psと侮ること無かれ、驚く程のパワーはないが、車重は現代の軽自動車よりも軽い770kgしかない。それでいて軽自動車の2倍近い馬力を出しているのだから遅い訳がないのだ。その証拠にWRCや全日本ラリーでクラス優勝も果たしている。

 

そんな那智のスーパーターボは、見た目は殆どノーマルながら、中身には程々に手を加えており、近くのミニサーキットや峠で走りを楽しんでいる。エンジン本体はノーマルながら、メタルガスケット、ハイフロータービン、スーパーチャージャーのプーリー径拡大加工、コンピューター変更等で140ps弱程にパワーを上げて、スーパーターボでよく弱点とされるブレーキに関しても、フロントにパルサーGTI-R用のキャリパーとローターを移植し強化。フロントに14インチ、リヤに13インチのハイグリップタイヤを履かせ、バキバキに効かせた機械式のLSDを組み込んだスーパーターボは、車格が上のシビックやインテグラ等とタメを張るレベルの速さを誇るらしい…

 

室内にはマーチR純正のロールケージ、メーカー不明のセミバケットシートが装着されてる事以外は殆ど手付かずのノーマルだ。ただし、マーチRで設置されたオイルクーラーを搭載する為にエアコンは取り払われている。マーチR及びスーパーターボは、複雑なシステムを搭載した代わりにパワーステアリングを装備出来なくなっており、特にフロントに太いタイヤを履かせたこのマーチは駐車場等の切り返し等には苦労するそうだ。

 

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「なんで左側だけフォグランプ外してるの?」

「ラジエーターの冷却に効果的らしい。前周りが殆ど塞がってしまっているから、こうでもしないと空気を取り入れられないみたいなんだ。」

「ギチギチに詰まっているのも考えものね…」

 

このマーチは乗り味も強烈だ。ステアリングからのキックバックもスゴいし、トルクステアも強烈だが、それこそ那智がこのクルマを乗り続ける理由だと言う。

 

「暴れん坊を手なづけて乗り回すのは楽しいじゃないか。」

「まぁその気持ちは解るわね。敵と闘って勝った時の高揚感的な。」

 

那智、足柄共に戦闘に関する実力や意欲はかなり高い事もあり、こういった趣味に対する熱量も相当な物だ。今時の車と違い、快適装備も少なければ、それを操る腕っ節も求められるこのクルマは、己の技量で相手の技術を上回る事を好む那智にとっては最高の相棒なのだろう。

 

「しかし…一時期と比べると、マーチ自体もだいぶと数を減らしてしまったな。」

「ホント、私達がまだ学生だった頃は…ってこんな事言ってると歳を取った事を実感するわ…」

「自分から振っといて自分で落ち込むなよ…」

 

10年に渡り、63万6000台を売り上げ、キャッチコピーの『マッチのマーチ』で一世風靡した初代マーチも、最終型でも今年(2023年)で31年前、初期型になると41年も前のクルマになる。況してや、残りやすいスポーツカー達と違い、大衆車として消費して潰されていく事が多いコンパクトカーなので、気がつくと『そういえば、最近見なくなったなぁ…』なんて言われるようなクルマの一種になる。スーパーターボは特殊車両ということもあり、残存数も一定数存在するが、それでも部品供給に不安が残る事が多い。

 

 

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「その内、サニーみたいにマーチを知らない世代も増えてくるだろうな。」

「あぁ…そういえば去年で生産が止まったんだったっけ。」

 

2022年いっぱいで日産はマーチの生産、販売を終了した。初代から数えて4代、41年に渡るモデルライフを終え、後継はワンサイズ上のノートが請け負う事になる。晩年は他社のコンパクトカーや自社のノートに押されて販売台数を極端に減らしていた。日産が苦しかった時期を2度も支え、一時期はコンパクトカーの売上で上位争いをしていたとはとても思えない呆気ない最期だった事もあり、ネット上ではかなり話題になったようだ。

 

ゴーン体制になってからの日産は、昔からの名称を残す事をどちらかと言うと嫌がる傾向にある。初代の時に兄貴分だったパルサーはノートに名前を変え、ステップアップ先のサニーやブルーバードはシルフィに統一され、そのシルフィすらも消え去った。活気のあった頃の日産から名前が残っているのは、今やフェアレディZとスカイラインくらいの物だろう。

 

「いつの日か、私達の事も忘れ去られる事もあるかもしれないわね。」

「あぁ…だが」

 

那智は腰掛けていた古いベンチから立ち上がって、マーチのボンネットを閉めた。

 

「私たちは国の為というのは当然として、皆の『当たり前』を護るためにも戦ってる。その事を忘れずに戦う限りは、このマーチのように誰かの記憶に鮮明に残る筈さ。」

「…ええ!」

 

そう意気込んだ二人はまたマーチに乗り込み、夜が明け始めたこの場を後にした。この後鎮守府に朝帰りした二人の前に鬼の顔で妙高が立っており、鎮守府全体に響き渡る位の声で怒られたそうな…

 

 




那智×MA10

外装:左Fフォグランプ取り外し

内装:大森3連メーター(ブースト、油温、水温)、マーチR用ロールケージ、メーカー不明フルバケ、フロアマット、アンダーコート、A/C撤去、MOMOステアリング(33φ)

エンジン:ヘッドガスケットをメタルガスケットに変更、ダイレクトI/G化、タービンハイフロー加工、S/Cプーリー径拡大、LINKフルコン化、藤壺製マフラー(中間〜出口)

駆動系:NISMO製LSD(2way)

足回り:NISMO製ショック&スプリング、パルサーGTI-R用ブレーキキャリパー&ローター(F)、ブレーキシュー強化(R)

ホイール:ワタナベ8スポーク(F14インチ5.5J/R13インチ4.5J)
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