陸と海の狭間で   作:稲村

9 / 10
こんにちは!重雷装巡洋艦、大井です!

今日は北上さんと待ちに待ったドライブデート!!私は今日寝ずに夜を明かすほど楽しみにしています!

北上さんの愛車…あぁ、北上さんは何にでも似合うわね…

それでは皆さんも北上さんの魅力に酔いしれてください!!!!


第九話:北上×MR2 G-Limited SUPER CHARGER ADpackage(AW11)

「♪~」ジャー

 

こけは鎮守府裏手の倉庫前、早朝から車を洗車している娘…重雷装巡洋艦の北上は、大井とのドライブを前に、自身の愛車を洗車していない事に気付き、早起きして洗車をする事にしたのである。

 

「うへぇ…前走った時に付いた虫の死骸が…」

 

シャンプーで洗い流し、見なかったことにする。しばらくして拭き掃除も完了した北上は近くにあったミニ脚立に腰掛けて愛車を眺めていた。

 

「夕張からの紹介で買ったけど、やっぱりカッコいいなぁ〜。」

 

北上の愛車は初代のトヨタ・MR2(AW11型)である。フィアット(ベルトーネ)・X1/9に影響されて作られたと言われる、国産初のミッドシップ(MR駆動)車だ。

 

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MR2は1970年代末、当時の社長が『トヨタには、将来常識では考えられない一味変わったクルマがあってもいいのではないか。』と開発主査達に提案した事から開発が始まり、1983年の東京モーターショーに出展されたSV-3をほぼそのままに1984年6月に販売を開始した。

 

MR2の基本的な構造は、フロントエンジン、フロント駆動であるカローラの配置をひっくり返したようなものになっており、コストダウンが図られている。当時は高嶺の花で、スーパーカーにしか存在しなかったミッドシップレイアウトを約150万円からという安価な価格で楽しめると一躍人気になった。

 

MR2という車名は、ミッドシップ・ランナバウト(Midship Runabout)・ツーシーターの略であり、日本語に直すと『小型のミッドシップ車両』になる。リトラクタブルのヘッドライトも相まってスーパーカーブーム世代から熱狂的な支持を受けた一台でもあり、当時、『スーパーカーには手が届かんけど、MR2なら買える!』とバイトや仕事に精を出した人も多かった事だろう。

 

北上が夕張から入手したこのMR2はダークブルーマイカに塗られた最終型の1989年式。エンジンフードに取り付けられたダクトが盛り上がっており、エンジンは4A-GZEという事でスーパーチャージャー仕様、リヤスタビライザーが取り付けられている事からADパッケージ仕様車である事が窺える。当時流行りだったTバールーフやサンルーフではなく、敢えてのノーマル屋根にこだわって探したとは夕張は言っていたが、確かに時折すれ違う同じクルマ達はみんな屋根が少し違うのが見てとれた。

 

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「意外と実用でも不便と思った事が無いのも特徴だよね。まぁシートはちょっと合わなくて変えちゃったけど…」

 

北上の手元に来た時のMR2はコッテリ…とまではいかないにしろ、そこそこ手を加えられたチューンドカーであった事は事実だ。エンジン本体はフルバランス取り、強化メタルガスケット、S/C本体はプーリー径の拡大でブーストアップされており、純正の165psから200ps前後までパワーアップしていた。燃料系も追加のI/Jを打って燃圧も上げていた。それらを純正のCPU+レビックで制御する、夕張の現在の愛車であるリベロと異なり、かなり古典的な改造を施されていた。内装もシートはブリッドのバケットシートに変わっており、エアコン撤去、追加メーターが並ぶかなりスパルタンな仕様になっていた。

 

だが、譲ってもらうにあたって、北上の座高では前が見えにくいという事で、シートは若干座高の高いADパッケージ純正に戻して、上げていたブースト圧もS/C本体のOHと同時にプーリー径をノーマルに戻して不要になった追加I/Jも撤去した。北上は夕張のようにバリバリ走りに行く人ではなく、日常の買い物やたまに行く姉妹達とのお出かけ程度しか使わない。故にモアパワーよりも壊れずに快適に乗れる仕様を求めた。

 

また、初代であるこのAW11型のMR2は標準では全てのグレードにエアコンは付かない。販売店のオプションで装着するような形になっていたが、エアコンもマニュアルとオートの二種類がある。北上は響き的にオートの方が良さそうと戻す際にオートエアコンにしてくれと依頼したそうだが、部品が見つからなさすぎて夕張が悲鳴を上げていたのはここだけの話…

追加メーターもブースト計と水温計だけを残して撤去。デカデカとステアリングコラムに鎮座していたタコメーターもお役御免とばかりに外された(外したメーター類は夕張が保管している。)

 

外装類は特に夕張の時から変わりない状態だったが、夕張があえて外して保管していたというエンブレムをボンネットに貼り付けていた。鷹が書かれたこのエンブレムは、A70型スープラの前期型と同じ七宝焼きという特殊な伝統工芸の技術を用いて作られている。販売終了後、しばらくして補修部品として出されるエンブレム類はプラスチックになってしまったので、製造時の物である七宝焼きのエンブレムはオークション等でも高値で取引されていたりする。

 

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しばらくして大井と合流し、鎮守府を出発して郊外のアウトレットを目指して走っていた時のこと、大井がふと北上に質問する。

 

「そういえば、北上さんは何故この車にしたんですか?」

「急にどうしたのさ大井っち。」

「いや、冷静に考えたら前のクルマと毛色が違いすぎるから…」

 

以前、北上が所有していたのはMH21S…スズキ・ワゴンRの3代目である。特にスポーツグレードに乗っていた訳でもなく、白で標準のノンターボモデル。これといって特徴もない普通にクルマを使っているうちの一人だった。

 

「あー…いや、確かに初めはあんまり興味なかったし、あれから乗り換えるつもりもなかったんだけどね。」

 

と、北上は大井が少し前に遠征に行っていた間のことを話し始めた。

 

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「あ〜お菓子無くなった…」

「多摩姉食い過ぎだって、またバルジ付いちまうぜ。」

「にゃ〜!!!木曽がいじめてくるぅぅぅ」

「こればっかりは多摩も自業自得だクマ…」

 

ある日の昼下がり、大井を除いた球磨型が北上の部屋に集まっていた。丁度お菓子を切らしてしまったので、球磨と唯一車持ちな北上が買い出し担当となった。ワゴンRのエンジンをかけ、いつも通りにサイドブレーキを解除してDレンジに入れてアクセルを踏んだのだが…

 

「あれ…?」

「北上、発進しないのかクマ?」

「いや、ドライブレンジに入れてるのに前に進まない…空ぶかししか出来ないんだけど…」

 

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「うーん…ATが逝ってる。OHも出来るけど、時間考えたら載せ替えが確実だよ。」

「費用ってどれくらい?」

「まぁ部品代とか諸々で…こんくらいかな。」

「ひゃー、まぁそんくらいにはなるよね〜。」

 

北上は史実で工作艦だった時期があった過去があるだけに、多少であれば機械弄りも苦では無い、オイル交換等は御手のものだ。だが、ここまで重整備になると流石に明石や夕張を頼る事になる。この日は自身の所有車両であるワゴンRの修理の為に来ていたのだが、予想通りそこそこの値段が掛かることが判明した。元々足として安価で買ってきたクルマというのもあり、修理するかどうかを考える事にしたのだが、ここで夕張がある提案をする。

 

「…ねぇ北上、良かったら私のクルマ買わない?」

「え?夕張の車って…あの青いやつ?」

「そう、今新しいクルマ作っててその内店に売ろうかとも思ったんだけど、身近で乗ってくれる人がいるならそっちの方が嬉しいしね。」

 

その時に紹介されたのがMR2だった。スポーツカーに特に興味がなかったが、何だか惹かれるモノがあって気付いたら手付金を払って購入したのだが…

 

「…ねぇ、これエアコンどうなってる?」

「あー、エアコンはいらないからポイしちゃった。」

「エアコンだけ戻していただけると北上ウレシイナァ…」

 

…と、言うわけでエアコン戻しに1ヶ月ほど時間を要する事になった、因みに多摩はお菓子が買えなかったので1週間位拗ねていたとか。

 

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「んでまぁこの数ヶ月、ボチボチ直していった結果がこれだよ。」

「そういう事が…いろいろあったんですね。」

 

そんなこんなで話し込んでいると、アウトレットのあるショッピングセンターが近寄ってきた。手前の信号が赤だったので止まる。前の車は軽自動車だが、背が高いので信号が少し視認しにくい。『前のクルマの時は向こうの立場だったのか。』と心の中で思いつつ、周りの車も自分達より背丈の高いクルマばっかりだった事に時代の変化を感じた。

 

「周りと比べてこの車は低いですね…」

「んあー…昔は皆こんな感じだったんだけどね〜。」

「そうでしたっけ。」

「うん、今はSUVとかも多いでしょ?」

 

と北上が指差す先にはピカピカの新車であろうハリアーがいた。ドライバーは若い男性で、助手席には彼女と思しい女性が座っている光景を見て、時代の流れを感じずにはいられない。その『テ』のクルマは今やSUVやミニバンに取って代わられたが、かつてはこのMR2のような2または4シーターのスポーツカーの独壇場で、寧ろSUVやミニバンの方が数少ない存在だった。

 

「いつだったからか、暫く内地に戻ってきていないと時代も変化しているんだね〜。」

「ええホント、私達も初めは戸惑いましたもんね。」

 

北上と大井はこの鎮守府でも割と古参な部類に入る。それ故、一度出たら暫く帰ってこないような任務も多く帰ってきたら知らないモノが…というパターンも結構多い。事実スマホはある任務から帰ってきてから支給されたのだが、任務地にはスマホが普及してなかったらしく、暫く操作に戸惑っていたという位だ。

 

「まぁ…そういう流行りとか流行を追うってのも楽しいんだけど、たまには追いかけずにのんびりするのも一手かなと思ったのさ。」

 

思い返せば艦として生まれた時から数えると百年以上、艦娘として生まれてから数えても早三十年近くが経とうとしている。時代の流れから軽巡洋艦、重雷装巡洋艦、高速輸送艦、回天搭載母艦、終戦後は工作艦として活動して艦としての生涯を終えた。だからこそ、北上は流行に流れる事は得意である。だが、このクルマに出会った時に、時には立ち止まって振り返るのも『アリ』かなと思ったのかもしれない。

 

敢えて時代に取り残されてみる、という決断はそれまでさまざまな時代の変化に対応してきた北上にとって新鮮な感覚をもたらした。先に進むだけではなく時折過去を振り返る重要性をこのクルマに教えてもらったと北上は話す。

 

「ポルシェの話になるけど、『最新の911は最良の911』とかよく言うんだ。」

「911…って言うと確か空母のグラーフさんが乗ってませんでしたっけ?」

「そうそう、あの子の型は初期のモデルだけどね。」

 

最近鎮守府にやってきたグラーフ・ツェッペリンは、愛車としてドイツ本国から輸入してきたある911に乗っているが、こちらの紹介はまた後日…

 

「その子が言ってたんだけど『最良は最新型かもしれないけど、私に取っての『最高の911』はコレだ。』って話を聞いて、あぁ、私も同じような感じなんだなぁって。」

「要するに、北上さんが『最高』だと思ったからこのクルマを買ったと?」

「今になって考えたらそうだなぁって話。お、やっと信号変わった。」

 

ノロノロと半クラッチで進むMR2、ショッピングセンターの入口に差し掛かると、丁度歩道を渡ろうとしていた親子がいた。『お先にどうぞ』と譲る為に北上はその親子に向かってパッシングをした。リトラクタブルの特性上、閉じた状態から点灯させるために、車体からライトがせり出す動作があるが、これはどうやら老若男女誰にもウケが良いらしく、パカパカと開いたライトに、目の前にいた男の子は指を指してキャッキャと喜んでいる。母親も笑顔で会釈しながら歩道を歩いて行った。

 

「やっぱり、子供っていいよね…」

「やっぱり北上さんも子供欲しいんですか?」

「んー…もうちょい歳食ったらね。」

 

過去を振り返り、見えてくる未来もある。あの子供と母親の姿を見て、北上は考えた。もう少し歳を重ねたら意中の男性と結婚して…子供と夫と幸せに過ごす姿を想像する。それはそれで楽しい未来が待っているだろう。だから、その時までその『夢』を見させてくれたこのクルマをもう少し大切にしていこう。

 

「んーっ。やっと着いたぁ。」

「お疲れ様です北上さん、さぁ!ショッピングに行きましょう!」

「あぁ、大井っち、ちょっと待ってぇ。」

 

ただ、今はもう少しこの相方に振り回されるのも悪くない…かな?

 

 

 

 




北上×AW11

外装:フルノーマル

内装:MOMOステアリング(38φ)、ケンウッド1DINデッキ、Difi製ブースト、水温、油温計

エンジン:フルバランス取り、メタルガスケット

駆動系:OS技研スーパーシングルクラッチ、TRD製LSD(1way)

足回り:オーリンズ製特注車高調、ブレーキバランス変更

ホイール:TE37SV(F:14インチ6J/R:15インチ6.5J)
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