サリーのロボトミーコーポレーション   作:エリック

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超今更ですが、これはpixivに投稿しているやつの転載版です。
どうして転載しているかと言うと、pixivはアカウント登録していないとR18が見れないので、登録していない人向けに転載している感じです。
ですから、改ページの代わりに大量の改行を使っていて見づらかったり、ルビの置き換えガバがあったりします。
あったら優しく教えてあげてください。
それと、前も言っているかもしれませんが、こちらのネツァクは原作の口調(≒図書館のネツァク)に準拠しています。気になるならpixivの方にどうぞ。


#16 エフゲニ

大規模な職員の異動命令が下されました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

14日目が始まる前に、セフィラ統括AIのアンジェラからエージェントたちに通達が届く。

通達には部署の移動と、それに伴う各部門責任者の変更が記されていた。

 

「ダコタさんだー!先輩がいるよぉ!良かったよぉ!」

 

「なになになになに!?イェソドさん!アンジェリーナの精神汚染度を調べてください!」

 

安全チームに所属していたアンジェリーナは情報チームへの移籍となる。とりあえずの責任者を任されていた重圧から解き放たれた彼女は、自分に作業のノウハウを教えてくれたダコタに泣きついた。

それはもうすごい勢いで、「泣きつくというか喰らいつくと言った方が正しいようにも見えるなぁ……」なんてモルティは考えている。

 

対するダコタはオフィサーや同僚から聞いた安全チームでのアンジェリーナの活躍と勇姿とはかけ離れたアンジェリーナの言動に大いに困惑していた。

抱きついて、キスだか頬ずりだかをしてこようとしているアンジェリーナの頭を押さえつけつつも、直属の上司であるイェソドに諌言するのを怠らない。さすがは現時点で1番ランクが高いエージェントと言うべきだろうか。

 

「安全チームで気を張って、精神的に疲れたんでしょう。少しの間構ってやりなさい。くれぐれも業務準備だけは怠らないように。」

 

「はぁい!」

 

「ちょっ!?」

 

頼みの綱だったイェソドにさえも梯子を外されたダコタは絶望する。自身の胸に頭をグリグリと押し付けてくるアンジェリーナの背中を優しく叩きながら、ダコタは虚無顔で今日の業務予定を立て始めた。

ダコタもなんだかんだ面倒見はいいのだ。

 

そして、アンジェリーナの他に同僚たちとの再会を喜んでいた者たちが3人。

 

「あ、ジュリアンくん。」

 

「……お、スーザン久しぶり。イェーナもこの部門らしいぞ。」

 

「そうなんだ。研修以来、久しぶりの同期集合ね。」

 

新コントロールチームの新入り3人組だ。

前日からコントロールチームにいたジュリアンと情報チームにいたスーザンが少し話す。こころなしか、2人とも声が弾んでいた。

前日の通達でエフゲニがコントロールチームに来ることを知った2人は、近況報告を思いとどまってエフゲニを待つ。

 

愛称で呼び合う程度には、3人とも仲が良かった。

 

「あ!2人とももう来てたんですね!お久しぶりです!」

 

「えぇ、久しぶり。」「あぁ。久しぶりだな。」

 

「3人で部門勤務ですよ。嬉しいけど怖くもありますねぇ。」

 

エフゲニが入室し、3人は少しの間近況報告を兼ねて言葉を交わす。今までどんなことがあったのか、それぞれの部門の先輩にどんなことを学んだのか、とか。

 

「……ということがあって、アンジェリーナさんは誰にでも丁寧な言葉使いみたいです。指示や助言もわかりやすいんですよ〜。」

 

「……なるほど、それで今イェーナは敬語なのか。」

 

「イェーナって、結構素直なところあるわよね。」

 

「???何の話ですか?」

 

裏表のない真っ直ぐな性格と管理人や同僚たちに評されているエフゲニ。その素直な性格は一緒にいる人によって良くも悪くも影響される。

 

唐突な敬語に少しだけ身構えた2人だったが、それが悪い影響では無いと知り、あまりの人畜無害さに呆れ半分嬉しさ半分といった反応を見せた。

 

「そのままのお前でいてくれ。」

 

なんてジュリアンに肩を叩かれて、エフゲニの混乱は加速する。どうやらエフゲニは誰かに影響されている自覚がないらしい。

 

「みなさん、業務が始まります。おしゃべりは切り上げて集中してください。」

 

「了解です。」「はい。」「分かりました。」

 

マルクトに注意され、3人は気を引き締め直す。

同期3人で作業ということは、裏を返せば先輩たちのフォローは見込めないのだ。

 

「エフゲニ→オールドレディに愛着作業」

 

「……え?僕が1番ですか?」

 

いつも業務終盤に1度だけ作業を指示されるエフゲニは、業務開始と同時に作業指示が出されたことに困惑を覚える。なんなら、管理人はあまり自分のことを信用していないのかとも思っていた。

 

「オールドレディの作業か。イェーナなら大丈夫だろ。」

 

「そうね。きっとイェーナの人畜無害なところを見て管理人も任せたんじゃないかしら?」

 

「そう……ですかね?まぁおばあちゃんのアブノーマリティらしいですし、お話聞いてきます。」

 

頭の上に疑問符を踊らせながらもエフゲニは作業へと赴く。

 

人の話を楽しそうに聞くエフゲニがオールドレディに好かれるまであと数分。

 

「アンジェリーナ→宇宙の欠片に愛着作業」

「モルティ→幸せなテディに愛着作業」

 

その裏で、情報チームにも指示が飛んでいた。

いつもと同じようにアンジェリーナは宇宙の欠片に、モルティは幸せなテディに愛着作業を命じられる。

 

「モルティもアンジェリーナも、いつもそいつらに作業してるよな。管理人にニコイチとして認識されてんじゃね?」

 

「やめてくださいよ……」

 

「恥ずかしがるなよ。好きなんだろ?ん?」

 

「モルティさんはともかく、宇宙の欠片は形而上学的姿をしてるのでそれは無いですよ。」

 

「おいコラ。」

 

とまぁ和気あいあいと作業に向かう。

新チームだというのに、コントロールチームも情報チームもいい雰囲気だった。

 

そんな2部門とは対照的に、ほぼお通夜状態の部門が1つ。

 

(なんでメイさんがこの部門に!?アンジェリーナさんもエフゲニさんもいなくなってるし、もしかして俺なんかやらかした!?)

 

安全チームのジーニーは脳みそをフル回転させて考えるが、ジーニーには何ひとつとして身に覚えがない。

 

「大丈夫?」

 

「いえ!あ、ちがっ……!あの、はい!大丈夫です!」

 

メイがジーニーを心配そうに覗き込んで訊ねるが、ジーニーは混乱していてよく分からない答えを返す。

メイは胡乱げな目でジーニーを見るが、ガッチガチに緊張しているジーニーが可哀想になったらしく、少しの間そっとしておくことにした。

 

「ねぇ、メイさん。ジーニーくんの様子が変ですが、何かあったんですかね?」

 

「うーん……昨日のF-01-69の作業に失敗したことで落ち込んでるのかな?」

 

「あぁ〜……たしか利き手側を撃たれて、作業を中断して戻ってきたんでしたっけ?それは落ち込みますね……」

 

「うん。それにジーニーくん、裏路地23区の出らしくてね……モルティくんによれば、23区にいるグループの1つが約束にとっても厳格なグループらしいし、彼も契約を重視してるのかも。」

 

2人は自分たちが原因ということを露知らず、そんな推論を立てる。2人で何かコソコソと話しているのを見たジーニーはさらにビクビクしていた。

 

「ジーニー→T-09-97使用」

 

そんなジーニーを不憫に思ったのか、管理人はジーニーに作業を命じる。ジーニーは「やべぇよ……これマジでミスできねぇよ……」と小声で何度も呟きながらT-09-97を使用しに向かう。

 

可哀想なくらい真っ青な顔をしたジーニーを2人は心配そうに見つめている。その視線がジーニーをさらに追い詰めていることなんて2人は知る由もない。

 

「あぁぁぁ……どちゃクソ緊張してきたぁ……」

 

昨日メイが「ちょっと話がある」と言っただけで先輩であるアンジェリーナがあれだけ焦っていた。だからきっと、有能で厳格で、恐ろしい先輩なのだろうとジーニーは予想している。

 

「……とりあえず、これだけしっかり終わらせよう。」

 

両手で頬を叩き、ジーニーはT-09-97の保管庫に入室した。

 

「……あ?」

 

そこにあったのはジーニーの背丈よりも大きい未知の素材でできた球体とそれを覆うように絡み合う2匹のトカゲと蛇の中間のような生物を模した謎の金属。

 

「……分かんねぇ……なんにも分かんねぇ……」

 

どうにかそのオブジェクトが何でできているのか知ろうとするが、ジーニーの知識では何も浮かばない。

けれど、ジーニーはそれの使い方だけは分かった。

 

「分かった」と言うより「知っていた」と言った方が正しいのかもしれない。ジーニーのエスはすぐにでもT-09-97を使用しようと訴えかけてくる。しかし、超自我はT-09-97の危険性を訴え、ジーニーのエスを叩き潰そうとする。

 

けれど欲望は無限で、それを止める資源は有限だった。

 

「や……でも管理人から使用するようにってお達しが来たし……?ちょっとくらいなら大丈夫だって。」

 

誰に言い訳しているのか、ジーニーは都合のいいおべっかを並べて自分自身を納得させる。

ジーニーは【彼方の欠片】を取り出すと、その槍を球体に向かって差し込んだ。

 

今日の業務で得たエネルギーの一部を勝手にT-09-97にぶち込み、ジーニーはT-09-97の稼働を待った。

 

【…………!】

 

ブゥン、と音が鳴り、T-09-97が稼働する。球体を包む謎の金属が青白く発光した。

 

「頼む……頼むぞ……!」

 

ジーニーはT-09-97を見つめながら両手を合わせて祈る。

T-09-97はグラグラと揺れ、ガツンガツンと壁をのたうち回りながら徐々に光を強めていく。

 

「いい……!いいぞ……!」

 

青かった金属塊が光で白く輝き、T-09-97はいっそう激しく暴れ回った。「大丈夫だ、上手くいく」とジーニーは自分に言い聞かせながら、ほんの少しの不安もありつつT-09-97を凝視する。

 

ジーニーはT-09-97から一瞬たりとも目が離せなくなっていた。

 

「行ける!行けるぞ!」

 

黄金と蒼白に明滅するそれを見ながらジーニーは叫んでいた。その熱狂具合といったら尋常ではない。どんなスポーツも、どんなスキャンダラスな出来事も、ジーニーの現在の興奮を超えることはないだろう。

 

T-09-97が一際大きく跳ね上がる。それが重力に引かれて戻ってきた時、T-09-97は黄金の輝きを手に入れていた。

 

「っっっっしゃあああああああああああぁぁぁ!!!」

 

ジーニーは吠えた。叫ぶ、なんて生易しいものじゃない。欲望のままに、本能に突き動かされるままに快哉を叫ぶ。

足を踏み鳴らし、腕を高く掲げ、全身全霊で喜びを表現していた。

 

T-09-97から【彼方の欠片】が戻ってくる。

より鋭く、より強固になったE.G.O.を手に取り、ジーニーは帰ってきた相棒を愛おしそうに抱きしめた。

 

「良かった……成功したな……!」

 

ぎゅうっと強く抱きしめたあと、ジーニーは【彼方の欠片】を誇らしげに提げる。存在感を増した【彼方の欠片】がジーニーの喜びに呼応するように脈動した。

 

「悪くない……これは悪くないぞ!」

 

作業の経験からアブノーマリティはろくでなしの集団だと考えていたジーニーはその考えを改めてメインルームへと戻ってくる。

 

「戻りました。いや、T-09-97は最高ですね!ちょっとエネルギー使いますけど、E.G.O.を強化してくれるみたいです!」

 

「おかえり、ジーニーくん。武器が強くなったら自分の身を守る力も増すけど、周りに与える影響も大きくなる。そこだけ注意してね。」

 

メインルームに戻ってきて開口一番に飛び跳ねんばかりの勢いで報告するジーニーを見て、メイは少々たしなめるものの「とりあえず元気になったみたいでよかった」と胸を撫で下ろす。

あのままビクビクされていては仕事にならない。

 

「いやぁ、アブノーマリティってろくでもないのばっかだと思ってましたけどそんなことないんですね!たぶん安全チームの全員が強化するんじゃないでしょうか?」

 

「どうだろうね?調整の鏡は初日から結構使ってたけど、T-09-80は全然使ってないから分かんないや。どっちもいい効果があるだけに、利益があるから使うってわけでも無さそうだし……」

 

「でもこれだけいい効果があるんですよ?」

 

「それでも。何か大きなデメリットがあるかもしれないしね。調整の鏡は一日に何度も使うと人間性を喪失するんだって。」

 

「……あの、サラッと怖いこと言うのやめてください…………」

 

ジーニーがジト目でメイを見るが、メイはそれよりもジーニーが元気になって、自分と普通に話してくれるようになったことを喜んでいた。

 

これで、作業についての話や安全チームのアブノーマリティのことについて話が聞ける。

 

「ジーニーくん、ちょっと話は変わるんだけど……」

 

「メイ→T-09-97使用」

 

メイの出鼻を挫くように管理人から指示が出る。メイは行く宛ての無くなった言葉を飲み込んだ。

 

「呼ばれちゃった。それじゃあ行ってくるね。帰ってきたら安全チームのアブノーマリティについて聞かせてね?」

 

「はい。お帰りをお待ちしています。」

 

話の邪魔をしないようにと気を使っていたサンチェスに目配せしてメイはT-09-97保管庫に向かう。サンチェスは少しだけバツの悪そうな、気恥しそうな表情を見せてから軽く会釈をしてメイを見送る。メイに遠慮をしていたことを結局気づかれてしまったサンチェスは「敵わないなぁ」と呟いた。

 

サンチェスはメイの目配せの意味をきちんと理解している。

だからサンチェスはえいやっと気合を入れてジーニーの方に歩み寄った。

 

「緊張はほぐれましたか?」

 

「!?サンチェスさん!すみません、職務中なのにはしゃいでしまって……」

 

「いえいえ、大丈夫ですよ。むしろ、メインルーム(ここ)でも気を張ってしまって、管理作業の時に集中が切れてしまっては本末転倒ですからそのくらいの方がいいと思いますよ?」

 

「そう……ですか?」

 

「えぇ、ランクⅣのダコタさんだって、メインルームにいる時はよく軽口を叩いてますし、メイさんもダコタさんと漫才をやってたりしますよ。」

 

ジーニーが口をポカンと開けて驚く。昨日メインルームに伝令に来ていた姿とさっきまでの口調からは想像がつかない行動に、ジーニーはただ驚くことしか出来なかった。

 

「メイさんは、僕たちが緊張をほぐせるようにいろいろと考えてくれるんです。管理作業で言えば施設内で一番上手いですし、頼りになる先輩ですよ。」

 

メイが不真面目な印象を与えないようにフォローしつつ、サンチェスは結語を述べる。ジーニーは、メイとサンチェスの2人が自分を責めるために来たのでは無いと分かったのか目に見えて安心していた。

 

「ただいま。ちょっとではあるけど武器が強化されたね。今のところ、特に危険性はないっぽいかな?ただ、これは私の印象でしかないんだけど、強化に失敗したらエネルギーもE.G.O.も無くなるんだと思う。」

 

「お疲れ様です。E.G.O.の消失ですか……一応、警棒が支給されているとはいえ武器なしは心もとないですね……」

 

「そんなことまで分かるんですか?」

 

メイの報告にジーニーが驚いて返す。メイは苦笑しながら「まぁただの勘だけどね。」と返すが、それでも凄いとジーニーか思った。

自分は、使えば確実に強化されると思っていたから。

 

(……アレ?でも俺、武器が強化されてる間は祈ってたよな……?)

 

小さな疑問がジーニーに芽生える。ジーニーはまだ知らない、メイは常に自分を俯瞰し、俯瞰して得た小さな疑問から仮説を立てて「勘」を導き出していることを。

 

(ま、いっか。)

 

そして、ジーニーがそれをできるようになるにはまだもう少しかかりそうだった。

 

「サンチェス→古い信念と約束使用」

 

「今度は僕の番ですか。結果として、ジーニーくんが言ってたことは正しかったですね。」

 

「まぁ、いい効果だからね。あんまり気負わずにね?」

 

「はい、行ってきます。」

 

三度古い信念と約束(T-09-97)の使用命令が下される。今度の使用者はジーニーの言った通り安全チーム最後の人員、サンチェスだ。

メイは言外に「強化の成否は自分ではどうにもならない」と告げ、サンチェスはその意を十全に理解する。

 

サンチェスが出ていった後、メイは改めてジーニーに向き直る。

 

「それじゃあジーニーくん、改めて安全チームのアブノーマリティについて話してもらえるかな?アンジェリーナさんから「危険なアブノーマリティがいる」って聞いてるから、事前情報が少しでも欲しいんだ。」

 

この話を聞いて、やっとジーニーはメイとサンチェスというベテラン2人組が派遣されてきた意図を理解する。恐らくだが、昨日施設にやってきたO-02-40の対応のためにこのふたりは回されてきたのだろう。

そして、施設内で唯一【F-01-69】の相手ができる自分が安全チームに残されたという訳だ。

 

「はい、大丈夫です。恐らくですが、「危険なアブノーマリティ」っていうのは昨日アンジェリーナさんが作業した【O-02-40】のことだと思います。特徴はいくつもある大きな目と吸い込まれそうになる感覚を覚えるランプ、全ての羽根が抜け落ちて皮が剥がれた身体だと聞いています。」

 

「なるほど……他には何か聞いた?」

 

「あとは……脳波測定のジェルと血液採取を嫌がったと聞きました。自分や自分の周りの環境が変化するのが耐えられないタイプなんでしょうか?」

 

「うーん……それだけだとなんとも。ご飯は普通に食べてたんだっけ?」

 

「と、聞いていますね。」

 

話を聞きながらメイは数多の情報を、客観的なもの・主観的なもの、データの裏付けがあるもの・ないもの、信頼性の高いもの・低いものなど、ありとあらゆる分類分けを行って頭の中を整理する。

 

ある程度情報を整理して、メイは作業計画を頭の中で組み立て終える。ひとつの作業につきとりあえずひとつ、昨日指示されていた本能作業だけ2つの作業計画を組み立てて、メイは話を切り上げにかかる。

 

「ありがとう、だいたい今わかってる範囲での情報は掴んだよ。お礼ってわけじゃないんだけど、ジーニーくんはなにか困ってることとかないかな?」

 

「困ってること……ですか?そうですね、F-01-69の機嫌を昨日損ねてしまったので、どうやったら上手く作業できるかなってのが、今困ってる事ですかね。」

 

ジーニーは昨日晒した無様を思い出して話す。相手はメイ、自分よりずっと作業について詳しい相手だ。どれだけ喚こうが自分のヘタクソさを隠すことは出来ない。

 

「たしか、抑圧作業を1番好むアブノーマリティだったよね?」

 

「はい。ですが、昨日は2/3抑圧作業だったのに、全ての作業で機嫌を損ねてしまって……」

 

「なるほど……記録とかレポート、見せてもらってもいい?」

 

メイのその言葉に従い、ジーニーは昨日までのF-01-69の作業レポートをメイに見せた。メイはすごい早さでレポートを読み進め、1分も経たないうちに解決策を提示する。

 

「昨日は、思考の孤立化とリビドー分化についてやってたね。その時の会話記録なんだけど、「愛着はとうに捨てた」って発言がある。これって、何らかの原因で愛する人を喪わないといけなくなって、それを悔やんでるんじゃないかな?」

 

ジーニーは驚いた。意味のわからない独り言だと思っていた何気ない一言からここまでの情報を拾ってくるなんて思っていなかったから。

 

「それに、交流を好むアブノーマリティのNeBoxとの相性が良くなかったらしいし、抑圧は抑圧でも、愛着の崩壊とか、忘却の加速とかの作業の方が作業好感度がいいのかもしれないね。一回試してみたらどうかな?」

 

「なるほど……非常に参考になりました。ありがとうございます。」

 

ジーニーは素直に頭を下げる。自分では出てこなかったであろう手段の数々に驚嘆し、素直にメイを尊敬した。

 

「戻りました。僕のは強化されなかったみたいですね。その代わりなのかエネルギーも消費されませんでした。【古い信念と約束】は問題なく稼働していたはずなんですが……」

 

首を捻りながらサンチェスが帰ってきた。メイはどうして【古い信念と約束】がそのような挙動をしたのか考える。

 

ジーニーは「いつか自分もああなれるんだろうか」と2人を羨ましそうに見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お?スーザン?こんな時間にこんなところでどうしたんだ?」

 

「それはお互い様よ。私はちょっと寝付けなくて。」

 

「そっか。俺はチーフ会議の帰り。なんか目が冴えたから共有スペースでもウロウロしようかと思ってな。」

 

「あれ?2人ともこんな時間にどうしたんですか?」

 

「「イェーナ」」

 

「眠れないと思ったら、こんなところで2人に会うなんて奇遇ですね!」

 

「そうだな。すごい偶然だ。」

 

「……そうだ、眠たくなるまで、3人でちょっと話さない?」

 

「いいですね!」「賛成。」

 

「じゃあまずは、今日の業務でも振り返ろっか…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジーニー→F-01-69に抑圧作業」

 

「来たか。メイさん、ご意見ありがとうございます。かなり参考になりました。ここで聞いたこと、活かしてきますね。」

 

「えぇ、行ってらっしゃい。」

 

ジーニーがメイにお礼を告げてメインルームを後にする。

メイはそれに笑顔で「行ってらっしゃい」と返すことができるようになってきた。

 

いつぞやの記憶はまだ残っている。

だが、みんな無事に帰ってきてくれるようになってきたのだ。今までの恐怖はまだあれど、支障がない程度にまでは良くなってきていた。

 

ジーニーはいつも通りにエレベーターで階を上がり、F-01-69の収容室へと向かった。

 

「よぉ、昨日ぶりだな。」

 

【またお前か。なぜお前とばかり顔を合わせなければならんのだろうな?】

 

「それは俺も思ってるよ。でもまぁ、管理人のお達しだからしょうがねぇだろ?」

 

【……まぁ、契約を交わしたのは他ならぬ私だからな。それについての異論はない。】

 

言葉を交わすうちに、ジーニーが昨日損ねたF-01-69の機嫌が治っていることを知ってジーニーは胸を撫で下ろす。

 

(んで、【愛着崩壊手順】を稼働するならこれ使えってことだけど……)

 

ジーニーは小難しい言い回しを多用するセフィラから通信装置を通じて渡された1枚のカードを見つめる。

収容室内に備え付けられた通信機の隣にあるなにかの機械に差し込むようにと命じられたが、ジーニーはそれが何かよくわかってはいない。

 

『其れが何か、決して考えてはいけないよ。其の知識は御前の心を壊して仕舞うだろうからね。』

 

なんて言われてしまってはジーニーも聞きづらい。

現時点ではそれが何か分かるはずもないため、とりあえずジーニーはカードを謎の機械に差し込んだ。

 

【今度はなんだ?よく分からない連中との会話は勘弁願いたいな。】

 

「さぁな。今回の作業については俺も聞かされてない。なんなら、知ろうとすることすらダメなんだってさ。」

 

これまでの作業でF-01-69とジーニーの間に奇妙な信頼関係が生まれたのか、抑圧作業だというのに2人ともかなりフランクに話している。イェソドやマルクトが見れば怒り狂い、ホドやランクの低いエージェントが見れば「何やってるんだ……?」と不思議に思うであろうやり取りを2人はしていたが、その安寧は唐突に終わりを告げる。

 

【────ッ!】

 

突然収容室の壁面からF-01-69に向かって何かが射出される。それはF-01-69に刺さると同時に体内へと潜り込み、完全に飲み込まれた。

F-01-69は反応出来ずにそれをくらい、小さな呻き声を上げる。

 

そして、F-01-69に異変が起こる。

 

【……き、サマ……!ナにヲ……!】

 

F-01-69は異常な膨張と収縮、拡大を繰り返す。体組織そのものが作り替えられているかのように影が蠢き、存在そのものが塗り変わるかのように明滅を繰り返す。

 

【蟆丞Ι雋エ讒倡ァ√r鬨吶@縺溘?縺具シ∝・醍エ?↓閭後¥縺ェ繧峨?∫嶌蠢懊?蟇セ萓。縺後≠繧九%縺ィ繧定ヲ壽ぁ縺吶k縺後>縺?シ】

 

「何言ってるんだよ!?分かんねぇよ!」

 

部屋いっぱいに膨張し、モヤのような影でジーニーを取り囲むF-01-69だったものがジーニーに何かを語りかけてくる。

その言葉はもはや言語としての体裁を保ってはおらず、ジーニーはただただ困惑することしか出来ない。

 

【謔ェ鬲斐→縺ョ螂醍エ??縲∵悍繧薙□蠖「縺ァ邨ゅo繧峨↑縺?%縺ィ繧堤衍繧九′縺?>?】

 

影の至る所が青く光る。それは幾何学的な模様を描いており、それは3重に重なっていて、

それは、ジーニーが昨日見た模様だった。

 

「クソっ!やってやるよ!」

 

ジーニーは先ほど強化された【彼方の欠片】を中段に構える。昨日見て、昨日受けたその弾丸を弾き返すために。

 

魔法陣が強く発光した直後に魔法の弾丸は射出され、ジーニーに向かって飛びかかる。

だが、ジーニーの正義はそれら全てを抑圧できるだけの強さがあった。

 

棒術のように【彼方の欠片】を振り回し、魔法の弾丸がジーニーの身体に命中する前に弾き落とす。数十、あるいは数百単位で襲ってくる弾丸の対処に追われているジーニーは気づいていなかった。

 

目の前でF-01-69が元の形に戻りつつあることを。

そして、F-01-69が不気味な笑みを浮かべていることを。

 

【くっ……くふっ……!くははははははは!いい!いいぞ!最高の気分だ!ふははははははは!!!】

 

「なっ!?」

 

F-01-69の激情にジーニーは思わず振り返る。そこには先程より存在感を強めていたF-01-69の姿があった。

 

【何かが……何かが掴めそうな感覚だ!これまであった胸の痼が完全に取れて、あの時のようにまたひとつ上の存在へと成った感覚!ふははは!いい!いいぞ!ふははははは!】

 

いつの間にかジーニーに向けられていた魔法の弾丸を射出する魔法陣は消えていて、F-01-69も元の姿へと戻っている。

 

【素晴らしい!久しぶりにいい気分だ!ふはは!お前にも何かくれてやりたいところだが、あいにく手持ちがなくてな!もうすぐ何かを掴めそうだから、次にお前がやってきた時になにか用意しておこう!】

 

「…………そりゃどうも。」

 

ハイテンションなF-01-69にかなり引きながら、ジーニーはそう返事して収容室を後にする。

 

「なんだったんだよアイツ……」

 

多少弾丸は掠めたものの、大きなダメージを受けていない上に作業を良い結果で終わらせたジーニーは首を傾げながらエレベーターに乗る。

 

「……ん。ジーニーくん、おかえり。作業はどうだった?」

 

「あー……どうなんでしょう?途中めちゃくちゃ不機嫌になりはしましたが、最終的には今まで見たことないくらい上機嫌になってました。そりゃもう見てるこっちが引くくらいに。」

 

メインルームに戻ってすぐ、帰還に気づいたメイが話しかけてきた。

ジーニーはいいのか悪いのか、若干判別がつかない結果に首をひねりながらひとまずの報告をする。

 

報告を聞いたメイも首を傾げて何かを考え込んでいる様子。

ジーニーはあまり深読みさせるのも悪いと思ったのか、「まぁ結果だけ見ればいい感じでしたし、深く考えなくてもいいとは思いますけどね」と付け加える。

 

「……まぁ、詳しくは試行回数重ねないと分かんないか。とりあえず上手くいったみたいで良かったよ。」

 

「えぇ、メイさんのおかげですね。」

 

そう言って2人は会話を切り上げる。アブノーマリティの記録がほとんど取れていない安全チームでは、まだまだやるべきことがたくさん残っているのだ。

 

「メイ→O-02-40に本能作業」

 

その1つ、データの収集が不十分なアブノーマリティへの作業がメイにあてがわれる。

 

「私だね。それじゃあ行ってくるよ。」

 

安全チームの2人にそう声をかけてメイは作業へと赴いた。

 

「今までのアブノーマリティとは違う存在感……か……」

 

メイは独り言を呟いてエレベーターが到着するのを待つ。安全チームはその構造上、覚悟を決めるまでの時間が圧倒的に短い。

 

「まぁ、やってみるしかない……かな。」

 

メイは覚悟を決めて収容室に入る。

その瞬間、数多の巨大な瞳がこちらを見つめてきた。

 

(………………!?)

 

全身のうぶ毛が逆立つ程の悪寒。自分は矮小な存在であり、目の前の存在感にとっては吹けば飛ぶ程の実力しかないと思い知る程の存在感。

その圧力のあまりメイに緊張が走る。

 

(大丈夫……落ち着いてやれば大丈夫だから……たぶん。)

 

しかしメイも手練の職員。目の前の存在に絶望することも恐怖することもなく、緊張するだけで自己を取り戻す。

低い勇気や慎重を、その自制をもってカバーしていた。

 

「こんにちは。ちょっとだけ検査があるんだ。ご飯もあるからちょっとだけ我慢してね?」

 

いつもキュートちゃんにしていたようにメイはO-02-40に話しかけて作業を開始する。

 

まずは栄養供給手順の稼働。これでエサを与えている隙に検査に必要なサンプルを収集する。

必要なサンプルは栄養要求量変化率確認と免疫システムの管理のための血液サンプル、それに固有の特性確認──O-02-40に特徴的なランプを分析するための映像記録。

 

「出来れば環境刺激因果の分析もしたいけど……それは欲張りすぎかな。」

 

メイはテキパキと準備をする。エサは壁面から出してもらうよう申請し、出てくるまでの間にランプを記録するため映像装置の画角を調節し、録画を開始する。

 

「ふぅ……とりあえずこんなものかな。ごめんね、ちょっとだけ撮らせてね。」

 

アブノーマリティを興奮させないように、メイはエサを警戒しながら食べるO-02-40を撫でながら話しかける。

それが良くなかった。

 

【──────!!!】

 

O-02-40が意味をなさない叫び声を上げる。NeBoxが急速に生成され、メイの精神と肉体を蹂躙した。

 

「──ッ!大丈夫だよ。怖がらないで……よしよし……」

 

それでもメイは単純接触を続ける。一瞬メイは痛みと困惑に押しつぶされそうになったものの、作業前に見た昨日のレポートにて『食事中に血液採取を行った』という記載があったことと『その際にO-02-40が不機嫌になった』という注意書きを思い出す。

 

(多分この子は、その時のことが記憶に残っちゃってるんだろうな……)

 

「とりあえずサンプルの収集は諦めて、中立刺激の強化を優先させようか……」

 

小声でメイが言う。O-02-40はメイの落ち着いた声掛けで安心したのか、平静を取り戻して安心したように食事に戻る。メイはO-02-40の食事が終わるまで、ゆったりとO-02-40を宥めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何やってんだ、お前ら?」

 

「ダコタさん!」

 

「あ、あの……寝付けないから、昨日の反省とかいろいろ話してて……」

 

「明日には響かないようにします!」

 

「……ま、無理に寝ようとするよか眠くなるまで待つのが得策だしな。止めはしないよ。」

 

「「「ありがとうございます!」」」

 

「……ほい、ホットミルク。あんま身体冷やすなよ?寒くなったり眠くなったりしたら、すぐ部屋に戻るようにしなよ?」

 

「「「はい!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メイの作業の後、クリフォト暴走が近くなったの管理人はハイペースで作業を回し始める。

 

「ダコタ→宇宙の欠片に愛着作業」

「ジーニー→魔弾の射手に抑圧作業」

 

2人に手早く作業を出し、クリフォト暴走を発生させる。

 

「ジュリアン→たった一つの罪と何百もの善に愛着作業」

「ダコタ→オールドレディに愛着作業」

 

「また私か……さっき【宇宙の欠片】に作業したばっかりだってのに、管理人も人使いが荒いな。」

 

「……今日、最初のエフゲニ以来オールドレディの作業入ってませんよね?孤独は大丈夫なんでしょうか……?」

 

ダコタの愚痴をモルティが拾う。自分の知識と照らし合わせた結果モルティは心配なことがあるらしく、ダコタにそう諌言した。

 

「あぁ、【孤独】な。精神汚染耐久が施設でいちばん高いのは私だし、なんかあっても大丈夫だろうと思って管理人も私を指名してるんだろうよ。」

 

んじゃ行ってくる、とびっくりするほどの適当さでダコタはメインルームを退出する。

 

(とは言っても、私も【孤独】がどんな影響を与えてくるのか分かんねぇからな……)

 

後輩たちには精一杯の強がりを見せたダコタだったが、彼女はオールドレディにほとんど関わっていない。

その事実が不測の事態への対応に不安を残しており、その事実がダコタの気を重くする。

 

「んま、無様だけは晒さないようにな。」

 

ダコタは深く考えないようにしてオールドレディの収容室へと入室した。

 

「やっほーばあちゃん、久しぶ……」

 

その瞬間、ダコタに黒いモヤが飛びかかる。そのモヤは全身にまとわりつき、扉をこじ開けてダコタを無理やり外へと押し出す。

困惑するよりも先に、ダコタに不思議な幻覚が見えてきた。

 

【みんないなくなった】

 

【寂しい】【1人は嫌だ】【助けて!】【死にたくない!死にたくないよ!】【家に帰して!】【なんで人ってすぐ死ぬんだ……】【行かないで!行かないで!】【お前は私を見捨てたんだ!】【全部私のせいだ……全部私のせいなんだ!】【また、あなたに会いに行かないと……】【アハハハ!アハハハハハハハハ!!!】【みんなここから出られないんだ!】【こんなところで死にたくない……お母さん……会いたいよ……】【あたまがはたらかない】【どうすればいいんだ!】【死にたくないよ……】

 

いくつもの声が頭の中に直接響き、それらが何度も頭の中を反響する。

大量の記憶が頭の中に直接ぶち込まれたことでダコタは動けなくなってしまった。

 

何分、あるいは何十分経ったのか分からないが、とにかく幾分か時間が経った後、ダコタにこびりついていた孤独は空気に溶けるように消え去り、頭の中の声が消えた。

 

「なん……だったんだ……?」

 

少し精神的なダメージを受けたものの、【幸せなテディ】の作業をした時よりも軽いそのダメージにダコタは安堵しつつも、声の主がなんなのかということに首を捻る。

 

「まぁ、知らなくていいことは知らないに限るな。」

 

ダコタはそう結論づけてメインルームに戻っていった。

まだまだ作業はたくさんあるのだ。

 

「ダコタ→幸せなテディに愛着作業」

「アンジェリーナ→罰鳥に洞察作業」

 

「そらきた。」

 

愚痴を零しつつも、彼女は作業に再び赴く。

 

そして、別の場所でも愚痴をこぼしている人が1名

 

「ジーニー→魔弾の射手に抑圧作業」

 

「また俺かよ。しかもあいつ、【次は何か用意しておく】とか言ってた癖に【今はまだ掴めていない】とか意味わかんねぇことばっかり言うしよ……」

 

安全チームのジーニーだった。ジーニーはどうやら、魔弾の射手が言っていた約束を反故にされたことについてご立腹らしい。約束を大切にする彼らしい発言だ。

 

「全く……悪魔は契約を守るんじゃなかったのかぁ?」

 

抑圧作業も手馴れたもので、ジーニーは軽口を叩きながら軽い調子で扉を開ける。

 

【お前か!やっとだ!やっと掴んだぞ!ふはははは!!!】

 

すると、そこにはのっけからハイテンションで、もはや何もしなくてもPeBoxを生産してくれるんじゃないかと思うほど上機嫌な魔弾の射手の姿があった。

 

【さあこい!今こそお前との約束を果たす時だ!】

 

「いや……俺も作業しなきゃだしさ……?」

 

【そう水を差すな。お前たちは私からエネルギーを得るために私を上機嫌にするのが仕事なのだろう?私が許可する、今回は何もするな!】

 

「あのなぁ……ハァ……お前、このこと絶対管理人とかセフィラにバラすなよ?」

 

魔弾の射手の言うことにも一理あると思ってしまったジーニーは、今回の作業をブッチしてレポートを適当に仕上げることを決意する。

ただ、申し訳程度の理由付けとしてクリフォト抑止力の強化手順を申請した。その作業を選んだ理由は「単純にハイテンションの魔弾の射手(コイツ)がウザイ」という、至極自分本位な理由だったが。

 

【私は、先の貴様の作業で1つ上の存在へと相成った。それはお前も知っているな?】

 

「あぁ、なんか言ってたな?」

 

【それで、だ。私は私の意思で私の意志を物質化できるようになったのだ!】

 

「……は?」

 

自分の常識をあまりにかけ離れた発言にジーニーの理解が追いつかない。

 

【言葉の通りだ。私の意識を物質という形で具現化させ、それを気に入った者に祝福として授けられる。】

 

「えぇ……なんだその呪い……まぁ?良かったんじゃねぇの?よくわかんねぇけど。」

 

理解はしていないが、ジーニーはとりあえず話を切り上げようと魔弾の射手の言葉を肯定し、祝福する。魔弾の射手は満足そうに胸を張り、ジーニーに熱い視線を送った。

 

「……?なんだよ、いきなりメンチ切ってきやがって。」

 

【貴様にこれをやろう。】

 

「??????」

 

あまりに唐突な一言に、ジーニーの思考がショートした。

 

【これは私がいつも使っている喫煙具だ。気分を落ち着け、魔法の弾丸の制御に一役かってくれる。更に、スナイパーに必要な、素早いポジショニングと発砲にも役に立つぞ?こうやって、煙で風向きを見るんだ。】

 

まるで胡散臭いセールストークのように魔弾の射手が懇々とそれの実用性を説いてくる。

普通のセールストークと違うのは、【断られる】という選択肢がセールス側にないことだろうか?

 

「え……いらない……」

 

【まぁそう言うな。便利だぞ?私の意識も付いてきてお得だ。】

 

「いらんいらんいらん!!!」

 

【まぁまぁまぁまぁ】

 

ジーニーは本気で抵抗するが、上機嫌な魔弾の射手には通じない。抵抗する手を押さえつけられ、半強制的に口の中にパイプを突っ込まれる。

 

【似合ってるな!安心しろ、お前はいいスナイパーになれる。】

 

「べつになる気はねぇんだけどな……まぁいいや、とりあえず、これ貰ってくな。他に用がないなら行くけど?」

 

【あぁ、今回はそれでいい。またいつでも来ていいぞ?魔法の弾丸の扱い方は、お前にならいつでも教えてやる。】

 

別にいらねぇよ、とジーニーは呟いて収容室を出た。

収容室を出てすぐに、ジーニーは大きなため息をつく。

 

「はあぁぁぁ……これ、メイさんとサンチェスさんにどう説明すりゃいいんだよ……」

 

こんな職場でパイプなど、作業の役にも鎮圧の役にも立たない。ただふざけているだけだろうと思われる、なんてジーニーは思っていた。

 

「おかえり、ジーニーくん……あ、E.G.O.ギフト貰ったんだ。おめでとう。」

 

メイのこの言葉を聞くまでは。

 

「!?メ、メイさん!E.G.O.ギフトって?」

 

「……!?E.G.O.ギフトはね、アブノーマリティに気に入られたら貰える、祝福みたいなものかな?ちょっとだけど私たちの価値観に影響もある、狙って貰うのが難しいものだよ。」

 

急に距離を詰めて訊ねてきたジーニーに驚きつつも、メイはE.G.O.ギフトについてわかる限りの説明をした。

 

「私のこのメガネもE.G.O.ギフトだよ。これはオールドレディから貰ったの。あとはダコタさんが【罰鳥】から、【罰鳥】からはスーザンさんも貰ってるね。それと、モルティくんが【幸せなテディ】、アンジェリーナさんが【宇宙の欠片】からそれぞれ貰ってるかな?」

 

思っていたより身近に存在したE.G.O.ギフトに、ジーニーは口をあんぐりと空けることしか出来ない。

メイは心配そうに「大丈夫?」と覗き込んでくるが、ジーニーは混乱の極地にいた。

 

「メイさんのそれ、自前のじゃなかったんですか!?」

 

「あぁ……うん、そうだよ。結構自然なE.G.O.ギフトも多いからね。」

 

今明かされた衝撃の事実。ジーニーは「結構仕事にも慣れたと思ってたけど、俺の知らないことってまだまだあったんだなぁ……」なんて遠い目をしていた。

 

「良ければ、もう少し詳しく教えようか?」

 

「はい!お願いします!」

 

もっと知識が必要だとジーニーは思い、先輩から詳しい話を聞く。メイは「私も分からないことがあるかもしれないから」とサンチェスを呼んで、2人体制でジーニーに基礎知識を叩き込む。

それをするだけの余裕が安心チームの3人にはあった。

 

対照的に、ひっきりなしに働かされる職員が1人。

 

「ダコタ→O-02-40に本能作業」

 

「えぇ……また私かよ……」

 

ダコタだ。

クリフォト暴走直前に【宇宙の欠片】に作業指示を出されてからというもの、メインルームに戻る度に作業を命じられるダコタは、レポートと作業計画でてんやわんやだった。

 

「さっき【幸せなテディ】に作業したから休めると思ったのにさぁ……」

 

「…………お疲れ様です。」

 

「えっとぉ……あ、あの、頑張ってください!」

 

後輩2人が慰めてくる。

けれどダコタの気は重い。O-02-40といえば、昨日アンジェリーナが作業した「現状のサイトで一番危険」とされているアブノーマリティだ。

 

「……気は重いけど、イェソドさんに怒られる前に行ってくるかぁ……メイさんのレポートがあるのが救いだな……」

 

よっこらしょっと言いながらおじさん臭く立ち上がったダコタは、参考資料にとメイのレポートの写しを持ってO-02-40の収容室へと向かう。

 

胸元で【くちばし】が踊る。いつ貰ったのかもう覚えていないそれはダコタの正義を少しだけ高めてくれる。

 

「まぁ、今回はメイさんと同じく【栄養供給手順の稼働】と【中立刺激の強化】をするか。恐怖条件づけはデブリーフィングが難しいってメイさん書いてるし。」

 

メイの作業記録を参考にして、ダコタはこれからの作業計画を瞬時に組み立てる。気づけばもう収容扉の前まで来ていた。

 

「結構ギリギリだったな。んじゃ、行くか。」

 

ダコタは収容室へと入っていった。

 

【────!】

 

その瞬間、いくつもの視線がダコタに降り注ぐ。ダコタは持ち前の勇気と自制をもって冷静でいられたが、新人たちなら恐怖していただろうなと思い至る。

 

「んま、いつも通りやればいいんだ。」

 

ダコタはしばらく動向を観察していたが、O-02-40の視線が動かない。

もしやと思い至って、ダコタは右に移動する。すると視線も着いてくる。左に移動、視線も左へ。

 

「……もしかしてお前、これが気になるのか?」

 

ダコタは胸元の【くちばし】を軽く持ち上げる。すると、視線は少しだけ上を向いた。

ダコタはすかさずレポート用紙に「罰鳥と関係がある可能性あり」とメモした。

 

「白い小鳥がくれたんだ。そいつなら元気してるぜ?元気すぎてムカついてるくらいだ。」

 

【─────!】

 

ダコタがそう言うと、O-02-40は言葉にならない奇声を上げた。その声は空気を震わせ、ダコタの精神を不安にする。怒っているのかNeBoxの生産が止まらない。

 

「……ってぇ!まずいまずい!早く栄養供給手順を稼働させないと!」

 

ダコタは地雷を踏み抜いたかもしれないと思い、とりあえず別のものに注意を向けようと栄養供給手順を稼働させる。

壁面から餌が飛び出て、O-02-40の眼前に差し出された。

 

「まぁ、食いながら話でもしようや。」

 

ダコタが言うと、O-02-40は渋々といった様子で出された餌を食べ始める。ダコタは「そういやこいつ、さっきからずっとエサ食わされてんな……」と思いつつも口を回す。

 

曰く、「あの小鳥はいつも罪人を探して大忙しだ」

曰く、「小鳥の罰は私たちが気を引きしめるきっかけになっている」

 

曰く、「あいつの悪人を見つけ出す能力は大したものだ」

 

腹の底がムカムカするようなおべっかを、最大限に誇張して伝えている。ダコタもメイの背中を見て育ってきたのだ、自制するのはずいぶん慣れている。

 

O-02-40もその言葉で上機嫌になったのか、PeBoxをたくさん生産した。

 

「よしよし、お前はホントによく食うな。」

 

触れられること自体に忌避感を持っていないか確認するためにダコタがO-02-40に触れるが、O-02-40は特に拒絶反応を示さない。

 

(この様子だと、次回は血液採取できるかな。)

 

ダコタは素早くメモして収容室を出る。罰鳥を褒める自分も、それを聞いて喜ぶO-02-40の姿も、ダコタには耐え難い苦痛だった。

 

「さて……ホントにそろそろ休憩できると思うけど、試練も近いんだろうなぁ……」

 

ダコタは少しだけ愚痴をこぼしてメインルームへと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「3人とも、何をしているんですか?」

 

「!?サ、サンチェスさん!」

 

「なかなか眠れないので、少し今日の反省をと……」

 

「すみません!すぐ片付けますね!」

 

「あぁいえ、いいんですよ。ただ、時間も時間なので少し心配しただけです。かく言う僕も眠れなくて、水を飲みに来た口なので。」

 

「そうなんですか?」

 

「えぇ、環境が変わるとストレスになりますからね。眠れなくなるのは当然です。ですが、布団に入って横になるだけでもずいぶん違いますよ。」

 

「なるべく早く切り上げます!」

 

「うーん……そういうことでは……あ、そういえば。目を閉じるだけでも睡眠の50%の疲労回復効果があると聞いたことがあります。どうしても眠れなくて翌日が心配になったら試してみてくださいね。」

 

「「「ありがとうございます!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後モルティは【幸せなテディ】の、サンチェスが【宇宙の欠片】の作業にそれぞれ派遣される。

 

サンチェスの作業が終わった直後、全体に指令が下された。

 

「コントロールチーム各位→M3廊下移動」

「情報チーム各位→Y2廊下移動」

「メイ・サンチェス→安全下部廊下移動」

「ジーニー→安全上部廊下移動」

 

「うし、行くか2人とも!」

「……ダコタさん、疲れたのは分かりますけど、業務指示ですよ。」

「移動か……そちらは任せます。」

 

各チームにいるチーフと暫定チーフの3人が部門全体に指示を出す。情報チームとメイ、そしてサンチェスはその指示だけで次の試練がなんなのかをある程度理解する。

 

「深紅だから手早く対処しよう。特に私たちはO-02-40……オブジェクト名は大鳥だっけ?のいる廊下を任されてる。早くしないと脱走されるかもしれない。」

 

「えぇ、気を引きしめましょう。」

 

メイとサンチェスは大鳥という脅威を外に出さないために特に気を張っていた。

 

「モルティ→罰鳥に洞察作業」

 

「それじゃ、鎮圧は任せます。俺はあのクソ鳥に作業してきますよ。」

 

モルティはそれだけ言って手早く収容室へと入室した。

その瞬間、けたたましいファンファーレと三体のピエロが出現した。

その出現場所はそれぞれ、【幸せなテディ】・【大鳥】・【オールドレディ】の収容室前。

【幸せなテディ】と【オールドレディ】の収容室前に出現した【深紅の黎明】にオフィサーが攻撃を仕掛けるが、4割程度は攻撃を外してしまっているために倒し切るには至らない。ただ、この2体は脱走するタイプのアブノーマリティではないため管理人は放置する腹積もりのようだ。

 

「来たよ。」

 

「ここで止めます。」

 

残る【大鳥】の収容室前には、事前にメイとサンチェスが陣取っている。メイが【カワイイ!!】で前に出て、サンチェスは後ろから【ソーダ】で撃ち抜く。

移動している間はろくに攻撃が当たらないものの、【深紅の黎明】が立ち止まってからは一方的で、すぐさま倒し着ることが出来た。

 

曲が一周し、残る2体の【深紅の黎明】はそれぞれ【罰鳥】の収容室前と【宇宙の欠片】の収容室前に出現した。

 

「蹴散らすぞ。」

 

「はい。」「はい!」

 

【罰鳥】の収容室前に現れた哀れな【深紅の黎明】は数の暴力で扉の前にたどり着くまでにゴリゴリと体力を減らされ、やっとたどり着いたと思ったらダコタの右フックであえなく撃沈。

 

「きやがったか。」

 

1人しかいない【宇宙の欠片】の収容室前に出現した【深紅の黎明】についても、ジーニーの高い正義でそう時間をおかずにぶちのめされる。

手伝ってくれたオフィサーが最後の爆発に巻き込まれて3人ほど死んでいった。

 

「うわぁ……近寄らなくて良かった……」

 

ジーニーは初めて見る【深紅の黎明】の最後っ屁にドン引きしていた。

E.G.O.武器が潤ってきたこととエージェント各位の能力値の強化により、最初の頃からは考えられないほど手早く試練を鎮圧できるようになってきている。

 

(でもなぁ……【試練】って言うくらいだし、もっと危ねぇのが出てきそうな気もするんだよなぁ……)

 

ジーニーはそう予感したが、それがどういうものかを考える前に管理人からメインルームへと戻るように指示された。

 

試練を超えた後、管理人は気が大きくなっているのか次々に管理作業の指示を出しまくっていた。

 

まずはジーニーとメイにそれぞれ魔弾の射手の抑圧作業と宇宙の欠片の愛着作業を割り当てる。2人が無事に作業を終えたことを見届けてからジュリアンにキュートちゃんへ本能作業を行うように指示、アンジェリーナに蓋の空いたウェルチアースへ本能作業に行くように命じて、ダコタを過労死させようとばかりに幸せなテディの愛着作業に彼女をぶち込む。

その後、いちばん信頼を置いているメイに宇宙の欠片の愛着作業を命じて、忘れてたと言わんばかりにスーザンに罰鳥の洞察作業を言い渡す。

 

目まぐるしく動き回ったエージェントたちはみなクタクタ。

特に今日の過労死枠のダコタと、キツい作業と連続作業が重なったメイはメインルームでへたり混んでいた。

一日中【魔弾の射手】に抑圧作業をしていたジーニーと来たらもっと酷く、床に倒れてダイイングメッセージを遺している。1番の新人であるはずの彼は、なぜか1番働かされていた。

 

そんなエージェントの死屍累々な様子を見て申し訳なくなったのか、管理人は業務の終了を宣言した。

 

「ちょっと疲れた……」

 

「しんど……」

 

「………………死ぬ」

 

特に疲れていた3人はゆらりと起き上がり、のそのそと退勤していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………!?

 

「……なんだ、コントロールチームのみんなか。

 

「寝ちゃった……のかな?風邪ひいちゃいそう……

 

「……毛布だけ、掛けといてあげようかな。

 

「……あと、筋肉が強ばらないように、書き置きだけ残しとこうか……

 

《おはよう。変な姿勢で寝てるから、お風呂入って筋肉をほぐすといいよ》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

退勤したメイは、社宅へ繋がる通路を粛々と歩く。

ロボトミーコーポレーションには会社と通路で直接繋がっている社宅があり、その社宅にエージェント全員が住むことになっている。

 

「まぁ一応、2ヶ月働けば外に出られるらしいけど……まだ遠い話ね。」

 

メイはまだ見ぬ休暇に思いを馳せながら歩いている。

 

「────!」

 

「────?」

 

「────!」

 

ふと、誰かの言い争いの声が聞こえた。声の主はメイにも聞き覚えがある声だった。

 

「マルクトさん、何かありましたか?」

 

「……メイさんですか。今ちょうど、あなたのことでネツァクとイェソドが言い争っているんです。」

 

上層セフィラの4人組が集まり、何か会議をしている場面に出くわしたようだ。扉が開け放ししされていたためセフィラ会議と気づかず入ってしまったメイは恐縮する。

 

「すみません、そうとは知らず……出ていった方がいいですよね?」

 

「いえ、私たちもアンジェラや他の人の助けが必要だと思ったところですから。メイさんが良ければここにいてください。」

 

マルクトにそう言われ、何をしていいのか分からないメイはオロオロとネツァクとイェソドの言い争いを見ていた。

 

「おや?メイじゃないですか。あなたを明日から正義ランクⅢの職員として管理人に報告しておきます。ですのでそのつもりでいるようにしてください。」

 

「ネツァク!メイはまだ規定の数値に達していないから昇進の話は先送りにすると言っているでしょう!」

 

「ちょっとくらいいいでしょう、別に。ほら、メイもそう思いますよね?」

 

「それが危険だと言っているんです!メイ、この愚かな判断が危険な事だとあなたにも分かるでしょう?」

 

「え?えっと……」

 

2人の喧嘩がメイに飛び火する。2人ともメイの上司、管理職側の人間だ。どちらを立ててもどちらかの顔を潰す羽目になる。ゆえにメイには答えが出せない。

 

「イェソド、ネツァク、メイさんが困ってますよ。」

 

メイが右往左往しているとマルクトが助け舟を出てきた。メイにとってはこれ以上なくありがたいタイミングでの助け舟だった。

 

「ではマルクトはどう思うんです?」

 

「私は昇進させてしまって問題ないと思いますよ。メイさんは優秀ですし、現状、【魔弾の射手】の管理業務がジーニーに集中しているので彼の精神汚染度に不安があります。メイさんを昇進させることで負担を減らせば、事故の確率も下がるとコントロールチームは判断します。」

 

「…………っ!ホド!あなたならこの危険性が分かりますよね!」

 

「わ、私も昇進させていいと思う。メイさんはとても優秀だってマルクトから聞いてるし、研修を受けてないのにランクⅣまで昇進しててかなり優秀だと思うから……」

 

メイが初めて見るセフィラもメイを援護する。イェソドは肩を震わせており、非常に怒っているのが目に見えて分かった。

 

「私はどうなっても知りませんよ。」

 

吐き捨てるように言ってイェソドは退室していった。

残されたメイは何が何だかといった様子で混乱していたが、マルクトに礼を言われる。

 

「メイさん、ありがとうございます。」

 

「私は何もしてませんけど……」

 

「いえ、2人がメイさんに話を振ったおかげで、私たちが話に入る隙が産まれました。あのままだと会話は平行線だったでしょうし、本当に感謝しているんですよ。」

 

マルクトはメモを握りしめてメイにほほ笑みかける。

メイは「そういうものなのかな……?」と首を傾げていた。

 

「そういえば、モルティがメイさんを探していましたよ。」

 

「モルティくんが?なんでだろう?」

 

「なんでも、チーフ会議がうまくまとまっていないみたいで……あ、噂をすれば。」

 

マルクトがメイに伝達事項を話したタイミングで、ちょうど話に出ていたモルティがメイを見つける。

 

「メイさん!良かったいました!すぐ来てください!チーフ会議がお通夜状態で進まないんです!」

 

「……そういうことなら、ダコタさんに頼んだ方がいいんじゃない?ほら、私よりも早くランクⅣになってたわけだし……」

 

「あの人は信用出来ないんです!」

 

「ほう?」

 

後ろからモルティに声がかかる。その声はモルティにもよく聞き覚えがあって、いつも1番近くで聞いていた声で、

 

そして、最悪のタイミングで見つかってしまった。

 

「そうかそうか。私は信用出来ないか。」

 

ダコタはにこやかな笑顔を貼り付けているが、目だけが絶妙に笑っていない。

 

「い、いや、俺の話じゃなくてですね?あ、そうだほら!メイさんは元コントロールチームで現安全チームじゃないですか!だからジュリアンともジーニーとも面識があるんですよ!だからお願いしてるわけで……」

 

「後で社宅裏に来いよ。」

 

無慈悲な宣告をして、ダコタは去っていった。

モルティは「終わった……」と崩れ落ちているが、メイは社宅裏なんてものが存在しないことを知っているため、あくまで冗談だろうと結論づける。

 

「……とりあえず、今日のチーフ会議には私も行くよ。でも、チーフじゃない私があんまり出しゃばりすぎるのもどうかと思うから、3人だけで会議ができるようには頑張ってね?」

 

「…………はい。」

 

死んだ魚の目で答えるモルティに苦笑しつつ、メイは会議室へと赴く。

メイが2人きりの沈黙に耐えられなかったジュリアンに泣きつかれ、そんなジュリアンの扱いに困り果てているジーニーに相談されるまであと数分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわあ!めっちゃ寝てた!おい2人とも!すぐ起きろ!」

 

「…………ん?……わぁ!」

 

「……ぁぇ?もう朝ですか……?痛たた……」

 

「変な姿勢で寝たから身体ガッチガチじゃん!」

 

「……アレ?私、毛布なんて着てたっけ?」

 

「ジュリアン、スーザン、机の上に書き置きがありますよ!」

 

《おはよう。変な姿勢で寝てるから、お風呂入って筋肉をほぐすといいよ》

 

「誰か知らないけど助かる!とりあえずすぐ風呂だ!今日の業務に支障が出ないようにしないと!」

 

「えぇ!」「そうですね!」




クリスマスに投稿しようとして間に合わなかったやつです。
リアルが多忙で全然書けていませんでしたが、何とか2日間時間を作って書き上げました。
よく考えると、2日で2万字って普通に狂気ですね。
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