サリーのロボトミーコーポレーション 作:エリック
15日目
エネルギー生産を最優先に考えるロボトミー社としてはありえないことが起こる。
新しいアブノーマリティの抽出を済ませたにも関わらず、管理人は新部門の創設よりも安全チームの開放度をあげることを優先したのだ。
安全チームは職員の治療や救護を司るチーム。
少しお調子者で、底抜けに明るい管理人はオフィサーの死にさえ罪悪感を覚えているのだろうかとアンジェラは首を捻る。
そんなことは全く知らないエージェント達は、管理人に有るまじき非効率的な部門開放のことよりも大きな関心事があった。
「あー……15日目なぁ……」
「うん……覚悟しとかないとね。」
「今日は……忙しいでしょうね。」
始業前、社宅の共有スペースでメイとダコタ、それにサンチェスが神妙な面持ちで話し合っている。
雰囲気の重さが気になるが、その沈痛な空気ゆえに後輩たちは誰も聞きに行けない。
「あのぉ……モルティさん……?」
「モルティさん……お願いします。」
「頼みますよモルティさん。」
聞きに行けないとはいえ、気になるものは気になる。どうにかあの雰囲気に飛び込める猛者はいないかとエージェント達は顔を見合せ、モルティに白羽の矢がたつ。
「えぇ……俺嫌だよ……だって見るからに深刻そうじゃん……」
「でもモルティさんが1番古参組と付き合い長いですから……」
「俺たちはモルティさんを信用してるんですよ。」
「そうそう。昨日もメイさんにアポ取ってくれたじゃないですか。」
アンジェリーナが感情に訴え、ジュリアンが自尊心をくすぐり、ジーニーが実績を述べる。
3人とも、全く別角度からモルティをじわじわと追い詰めていた。
「いや……それでもやだよ。いたずらに不安になるくらいなら、いっそ聞かない方がいいと思わねぇ?」
「俺たちもう不安なんで……」
「あー……」
「「「「「お願いしまーす!」」」」」
「えぇ……」
他の職員全員に頭を下げられ、モルティも断るに断れなくなってきた。先の追い込みと合わせて断る口実が見当たらなくなっていて、モルティの冷や汗が止まらない。
「何やってんだよ、お前ら?」
その異様な雰囲気に割って入ってくるものが1人、ダコタだ。
後ろからの「今聞いてしまえ」という視線に押されて、モルティはようやく覚悟を決める。
「ダコタさんたちが深刻そうなんで、後輩どもが心配してたんですよ。そんなに深刻そうにして、今日はどんな地獄が待ってるんです?」
「あぁ、そういう……ま、基本的にはいつも通りだから安心しな。心配なのは、作業の密度だ。モルティとアンジェリーナはいっぺん、めちゃくちゃ作業指示が多かった日があったろ?」
「10日目……ですか?」「あぁ……あれは辛かった……」
モルティとアンジェリーナが死んだ魚の目をして答えた。10日目は2人にとってよほど辛かったらしい。
「5日目もそんな感じでな。これまでのデータから、部門完全開放日か5の倍数の日はかなり忙しいんじゃねぇかって話してたんだ。」
「えぇ……アレがまた来るんですか……?」
「嫌だなぁ……」
「ま、今日は頭数もあの時より増えてるし、1人あたりの業務量は10日目よりも少ないんじゃないか?んま、そういうことだから覚悟を決めとけよ。それにそろそろ時間だし、E.G.O.とか準備しとけ。」
はぁい、と後輩一同は緩い返事をして各々更衣室に向かう。
メイとサンチェス、それにダコタだけが共有スペースに残っていた。
「ダコタさん、みんなはなんだって?」
「なんか私たちが集まって話してたから心配だったみたいですよ。なんでも、「どんな地獄が待ってるんだ」っておののいてたみたいです。」
「……それで、ダコタさんはどういうふうに返したんです?」
「ま、基本的には事実だけだな。業務密度の話をして、終わりだ。」
「それがいいでしょうね。いたずらに不安にさせるのもどうかと思うもの。」
「ですね。僕らには、管理人のことが分かりませんからね。」
酷く言葉足らずな会話を3人はしていた。
古参組は知っている。
新規アブノーマリティの追加がない日は、管理人の気が緩むことを。
そして、その気の緩みで1人の職員が死んでしまったことを。
今回から分割で載せてみます。
好評なら続けますが、不評なら戻します。