サリーのロボトミーコーポレーション   作:エリック

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そうだ、僕は理解したかったんだ。
理解できないことを理解して、理想に近づこうとしていたんだ。
理想に近づけると、夢を見てしまったんだ。


#17~18 ジュリアン⑤

「マキ→たった一つの罪と何百もの善に愛着作業」

 

「僕が……?」

 

「きっと管理人もさっきのマキの姿を見て、お前に作業を任せる自信がついたんだろ。ウジウジしてるよりそっちのがずっといいぞ。」

 

不安そうに呟くマキの背中をジーニーが叩いて鼓舞する。マキは少々バランスを崩したものの、すぐに表情をキリッとさせて宣誓した。

 

「そうですね……!行ってきます!」

 

自信をつけたマキは軽い足取りで収容室へと向かう。管理人に安心してもらえるよう、良い作業ができると自分に言い聞かせて。

 

部門間を渡り歩いてマキはたった一つの罪と何百もの善の収容室へとたどり着く。

 

「初めての作業……少し緊張しますね……!」

 

精神的ダメージをくらわない緊張を感じつつもマキはたった一つの罪と何百もの善の収容室へと入室した。

 

【ふむ?新顔だな。】

 

「えぇ、はじめまして。僕はマキといいます。」

 

【東洋の樹木を示す言葉だったか?これからいくらでも成長出来るいい名前だ。】

 

先ほどまでマキが抱えていた苦悩を知ってか知らずか、たった一つの罪と何百もの善はそんな一言。

マキもその一言で自信をつけたのか、目を輝かせながらたった一つの罪と何百もの善と語り合う。

 

「今日から配属の新人ですが、管理人から頼りにされるように頑張りますよ!」

 

【フフ、好い気概だな。近ごろは“懺悔”を必要とするものもおらず、罪を告白したいものもめっきりと減ったのでな?ちょうど我も暇をしていたところだ。】

 

先ほどまでの緊張はどこへやら、マキはたった一つの罪と何百もの善と和気あいあいと話していた。

ただ、PeBoxが生産されているところを見ると一概にその緊張感のなさが悪いものだと言うことは出来ない。

 

【そろそろよいだろう。マキ、楽しいひと時だった。自信を持ってこれからも励むと良い。】

 

「僕にもできるでしょうか……?」

 

【うむ。今回の作業だけで見れば、かなり優秀であったぞ。多少自惚れても構わぬくらいにはな。】

 

「……!はい!頑張ります!」

 

たった一つの罪と何百もの善の管理作業をNeBoxを1つも生産することなく完了したマキは、たった一つの罪と何百もの善に促されて退出する。

 

「とりあえず、初作業を無事に終えられて良かったです!」

 

いい笑顔で収容室から出てきたマキだったが、安全チームに戻る道中でその表情は徐々に曇っていく。

 

「……シャオさんとメレンデスくんは、大丈夫でしょうか?」

 

優しい性根の彼は、研修で顔を合わせた同期を心配して教育チームの方に視線を投げて立ち止まっていた。

 

「シャオ→罰鳥に洞察作業」

 

「仕事やだなぁ……」

 

マキの心配とは裏腹に、シャオは緊張とは無縁だった。

 

「またそんなことを言って……とりあえず行くんだ。初めての作業なんだから、適度な緊張感を持ちつつマニュアルの手順を思い出して……」

 

「分かった分かった分かりました〜。ちゃんとやるよ、ちゃんと。」

 

口うるさい母親の話を聞き流す娘のようにシャオはメレンデスの話を途中で遮る。メレンデスはシャオはちゃんと話を聞いてるのだろうかと胡乱げな表情をしていた。しかし、アブノーマリティの危険性はいくらシャオとて分かっているだろうと思ったのかそれ以上の追求を止める。

そんなメレンデスから逃げるようにシャオは手早く準備を終えて罰鳥の収容室へと急いだ。

 

「ま、洞察作業だからいいか。プロトコル稼働でできる作業が多いし、終わるまでぼーっとしとけばいいしね。」

 

くあぁ、と大あくびをしてシャオは眠そうに収容室へと入っていった。

 

「はいはいよろしく。えぇと、1番サボれそうな作業はっと……」

 

シャオは洞察作業プロトコルをポチポチといじり、シャオは1番人力手順の少ない【清掃手順稼働】を選択する。

手順稼働後、シャオは稼働プロトコルに異常がないかの確認や空いた時間を使った別の作業などは一切せず、その場でごろりと横になってウトウトしていた。

 

一見罰鳥の処罰対象になりえそうな行動だが、罰鳥がそれを咎めることはない。

彼はただ、森の安寧を乱すものに罰を与えて平和な森を守りたかっただけなのだ。平和に眠っているだけの者に、どうして罰が与えられようか?

 

罰鳥はニコニコしながらシャオの平和な眠りを眺めている。PeBoxは最高生産効率を誇っていた。

 

「……ん?プロトコル止まった?ふあ……戻んないと怒られるだろうなぁ……」

 

やれやれどっこいせっと言いながらシャオは立ち上がる。そして罰鳥を一瞥することさえなく収容室を後にした。

 

「まー。」

 

「失礼だぞシャオ。あ、おいこら寝るな!まだ業務レポートがあるだろう!」

 

「え〜?」

 

「「え〜?」じゃない!」

 

収容室に戻って早々に休もうとするシャオにメレンデスは小言を言う。そのやり取りはどう見ても母と娘だった。

 

反抗期よろしく面倒がるシャオと少し怒りながら相対するメレンデスを見かねてか、サンチェスが2人の間に入った。

 

「シャオさん、やるべき事はきちんとやりましょう。やるべきことさえやっていれば、誰も文句は言いませんよ。」

 

「あー……まぁ代理チーフがそう言うなら……」

 

「メレンデスくんも。もうすぐあなたも作業に呼ばれるでしょうから、いつでも行ける準備と心構えをしておいて下さい。」

 

「そういえば、僕も人の心配ばかりできる立場じゃないですね……準備してきます。」

 

サンチェスのたった一言で2人は各々がやるべきことを開始する。メレンデスが作業計画の概要を4つ書き終えた時、ちょうど管理人から指示が飛ぶ。

 

「メレンデス→蓋の空いたウェルチアースに本能作業」

 

「僕ですね。なんだかんだシャオも上手くやってましたし、負けてられませんよ。」

 

「そうですね。あまり気負わずに行ってください。」

 

メレンデスは静かに闘志を燃やす。サンチェスはその闘志を否定はしないが前のめりすぎると危険だと穏やかに諭していた。

 

メレンデスは教育メインルームを出て、蓋の空いたウェルチアースの収容室へと急ぐ。先ほどシャオが作業を行った収容室の前を抜け、突き当たりの扉を潜る。

 

「お?なんだ遅刻か?」

 

扉を抜けた先に待っていたのは、3名の先輩職員たちだった。

施設内で実力がトップクラスのランクⅣ職員であるダコタに加え、もうすぐランクⅣに昇進するだろうと教育セフィラに言われていたランクⅢ職員モルティとアンジェリーナに一斉に視線を向けられて、思わずメレンデスは硬直してしまう。

 

「いや、あの違くて……!」

 

「ダコタさん、あんまり新人からかわないでくださいよ。さっき作業指示出てたの知ってるくせに。」

 

「確か、ウェルチアースの作業に行くんでしたっけ?ウェルチアースは管理が楽なアブノーマリティではありますが、裏を返せば逆鱗もハッキリしています。よく観察して逆鱗を避けるようにしてくださいね。」

 

ダコタの軽口を重く受け止めてしどろもどろになるメレンデスだったが、モルティとアンジェリーナがフォローに入ることで何とか平静を取り戻す。

モルティはダコタを諫め、アンジェリーナはメレンデスの目的を思い出させると別方面のアプローチをしていたことも、メレンデスの混乱からの回復に一役買っていた。

 

「なんだよー、ちょっと緊張ほぐしてやろうと思っただけだろー?」

 

「あのですねぇ……俺たちならそれ分かりますけど、今日入ってきたばっかの新入りが、ランクⅣ職員からそう言われて軽口だって笑い飛ばせると思います?」

 

「あ、こちらのことはいいので作業に行ってください。ダコタさんのさっきの発言も、本気じゃないですから気にしないでくださいね。」

 

メレンデスはぎゃあぎゃあと軽口の言い合いをする情報チームの面々を見ながらも、アンジェリーナに促された通りに蓋の空いたウェルチアースの収容室へと急ぐ。

情報メインルームを出てから、アンジェリーナの発言に対して「は、はぁ……」としか返せなかったことが失礼に当たるんじゃないかとメレンデスは思い直すが、訂正するのももう遅いだろう。

なにせ既に収容室の目の前まで来ているのだ。

 

「やるか……」

 

困惑に歪んでいた表情を引き締め直し、メレンデスは初の作業に勤しむ。

 

【おやおや新入りさんかな?いらっしゃい。】

 

「あっ……」

 

蓋の空いたウェルチアースがメレンデスに話しかけるが、メレンデスはそれよりも気になったことがあるのかその挨拶を盛大に無視した。

 

「ウェルチアースじゃないですか!え?なんで収容室にウェルチがあるんです!?」

 

【おや、ここの外で見たことがあるのかい?】

 

「見たことあるというレベルじゃありません!深夜の受験勉強のお供でしたよ!いやぁ……懐かしいな……最近じゃめっきり見なくなりましたし……」

 

【それじゃあ、ウェルチアースのキャッチコピーは言えるよね?】

 

「もちろんです!キャッチコピーは」

 

「【【別世界のソーダ(OTHERWARLDRY SODA)!】】」

 

メレンデスとウェルチアースたちの声が重なる。彼らの話を聞く限り、ウェルチアースはロボトミーコーポレーションの外でも普通に販売されているものらしい。

そんなものがどうして収容されているんだ、とメレンデスは一瞬だけ思ったが、ウェルチアースヘビーユーザーの彼はその疑問を上手く行動に昇華出来なかった。

 

【いいねいいね!ちょっとここで休んでいきなよ!ウェルチアースのファンなら大歓迎さ!】

 

「いやそうもいきませんよ。初作業ですし……」

 

【いいじゃあないか!これから君の作業が上手くいくことを祈って乾杯しようよ!】

 

ウェルチアースたちの言葉に押し切られる形で、メレンデスはウェルチアースの缶を手にする。ウェルチアースたちの助言によって、この作業とは言い難い会合は「水分補給量の調整」ということになった。

 

不思議な会合はわちゃわちゃと続き、あっという間に終わりの時がやってくる。

 

「……あ!そろそろ戻らないと怒られてしまいます!」

 

【……そっか。まぁこれからも頑張るんだよ。】

 

「ありがとうございます。同期にもそう伝えておきますね!」

 

かなり良い雰囲気で作業を終えたメレンデスはすぐさま身支度を整えて教育メインルームへと戻る。

途中、またも情報メインルームを通ったが、今度はからかってくるダコタをモルティが相手し、モルティに気を取られている間にアンジェリーナがそそくさとメレンデスを退出させる。情報チームのダコタの扱いが割と手酷かった。

 

「ただいま戻りました。シャオ、レポートは出したよな?」

 

「出してなきゃ代理チーフに怒られてるよ〜」

 

戻ってすぐにシャオとメレンデスは言い合いを始める。ただ、それは喧嘩と言うにはあまりにほのぼのとしすぎていて、ある種じゃれているようにも見えた。

 

「メレンデスくん、お疲れ様です。もうすぐ通常のクリフォト暴走がくるはずなので、シャオさんは身体をほぐしておいてください。メレンデスくんは早めにレポートを仕上げておいてくださいね。」

 

「うぃ〜」「分かりました。」

 

サンチェスの言葉通りにシャオとメレンデスは行動を始める。業務はまだまだ続いている。油断は禁物だ。

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