サリーのロボトミーコーポレーション 作:エリック
しばらく時間がたった後、管理人からいつもとは少し違った様子の作業指示がやってきた。
「職員:アンジェリーナはアブノーマリティ【罰鳥】に洞察作業を行うように」
「……?まるで別の管理人が指示を出してるみたいな文面ですね?」
人が変わったような作業指示の文面に些か困惑しつつもアンジェリーナは指令を遂行する。アンジェリーナはピエロ恐怖症の管理人が布団を頭から被って丸く縮こまりながら友人に指示を出していることなど知る由もない。
アンジェリーナが収容室に入ると同時に、楽しげなファンファーレが鳴り響いた。
「「「試練が2連続!?」」」
安全・情報・教育チームのランクⅣ職員たちが同時に驚く。彼女らの経験では2回連続で試練が来たことなんてなかったから。
しかし試練は職員たちが驚いている暇を与えない。
「職員:モルティ・ダコタ・ジュリアン・メイ・サンチェスは試練【肉体の調和】の鎮圧に向かうように」
「鎮圧メンバーの体力が怪しくなったら、ジーニーくんが足止めに呼ばれるかもしれない。準備はしといてね。」
「分かりました、ご武運を!」
安全チームは先のことを考えながら、
「っし!行くぞモルティ!」
「やってやりますよ。」
情報チームは好戦的に、
「……大丈夫、すぐ帰ってくるよ。」
「待ってる。」「すぐに助けに行きますから!」
コントロールチームは堅い笑顔を浮かべて、
「白昼は初めてですから何があるか分かりません。対応するための心構えをしておいて下さい。」
「うぃ。」「分かりました。」
教育チームは潰しが効くように、
それぞれ声をかけてから鎮圧に向かう。
【ヒハハ!ギャハ!ギヒヒ!】
「見つけた。」「いました!」
卑下た笑みを浮かべて気色の悪い動き方をする【肉体の調和】、それを最初に見つけたのはメイ。時間を置かずにサンチェスが追いつき、攻撃を開始する。
「ふっ……!」
【肉体の調和】はサソリのような身体つきをしている、ピエロの顔面のコラージュのような何か。全身が顔面のコラージュのため、どこを攻撃してもたいがい全て顔という致命的な弱点に当たる。
故にメイは緊張で身が強ばる前に攻撃を放った。
E.G.O.で強化された一撃は鈍重で、【肉体の調和】は一瞬とはいえつい怯んでしまう。
ありえない見た目をした化け物の生物的な一面を見たメイは「殴れば殺せる」ことを理解したらしく恐怖と困惑から脱することが出来た。
「大丈夫、いつもの試練と何も変わらないよ。」
「はい。」
【肉体の調和】の巨体に隠れているであろうサンチェスに声をかけ、メイは攻撃を続ける。
しかし、【白昼】とカテゴライズされるだけあって【肉体の調和】は【黎明】とは比べ物にならないほどタフで、また強力だった。
【ギャハハハハ!!!】
サソリの頭に相当する場所の顔がメイに噛み付く。ただ齧りとるだけでは無く、メイの胴体を咥えて噛み締めた。
【クマの手】で防御されているためその攻撃がメイの胴体を食いちぎることはないが、メイはその場に縫いとめられた。
「この……っ!」
メイも黙ってはやられない。【肉体の調和】の目を殴り、何とか怯ませて口を開かせようと躍起になるが、【肉体の調和】もなかなかしぶとかった。
【キハハハハ!クカカカカカ!】
「メイさん上です!」
サンチェスに言われてメイは反射的に上を見る。
そこにはサソリで言うと尾の部分に相当する、ピエロの顔が針状の突起がついた足を咥えている部位が、まさに今メイ目掛けて振り下ろされていたところだった。
メイはその場から動けない。【肉体の調和】がメイの胴体をガッチリと咥えてその場に縫いとめられている。
だったら、
「んっ……!」
振り下ろされた【肉体の調和】の尾にメイは裏拳を叩き込んで被害を逸らす。左に逸れた【肉体の調和】の尾はメイが接敵した時には既に死んでいたオフィサーをミンチに変える。
かなり威力が高いことを把握しつつ、メイは再び自身に食らいつく顔の対処に戻る。
「まだです!」
その瞬間だった。サンチェスがメイに忠告を飛ばすと同時にメイの身体が横薙ぎにぶん殴られる。メイをぶん殴ったのはサソリで言うと右のハサミに相当する部位の顔。顎がメイのこめかみにヒットし、メイは視界に火花を散らす。
「守ってください!」
焦った様子で言うサンチェスの通り、メイは自分の顔を腕をクロスさせることで守る。その瞬間、頭上から【肉体の調和】の尾が振り下ろされた。
「っつぅ……!」
ミチミチと嫌な音をたてる背骨を伸ばす要領で尾を押し返し、メイは血反吐を吐き出す。どうやら先ほどのガードで歯をかみ締めた時に頬を噛んで切ったらしい。
「うっえ!?なんだこのキモイの!?」
「援護します!」
「手伝います!」
そこに増援が到着する。メイの体力が30%ほど削られていたため、それなりに良いタイミングでの増援だった。
「離……して……!」
【肉体の調和】が増援に気を取られたタイミングを見計らってメイは【肉体の調和】の目玉に肘鉄を食らわせる。反射的に開いた口をこじ開けて、メイは拘束から抜け出した。
「ピンピンしてやがるぜ……!」
「痛覚が薄いんですかね……?」
「射線だけ開けといてください!重なってなきゃ撃ち抜けますんで!」
やってきた増援3人組も声をかけあって即座に連携をとる。メイがタンク役をやっている間にサンチェスめ含めた4人の連携はほぼ完璧に取れていた。
「職員:メイは安全メインルームで待機するように」
「ごめん、削りきれなかった。」
「大丈夫です、退路は確保しますから!」
短い引き継ぎをしてメイは退却を始める。
【肉体の調和】がその後ろを追いかけるが、他の職員の攻撃もあってか【肉体の調和】がメイに追いつくことは無い。
「クソっ!案外足早ぇぞコイツ!」
「エレベーターに乗りそうです!どこまで行ったか見失わないようにしましょう!」
ダコタがボヤき、サンチェスが冷静に状況をまとめた。
管理人も【肉体の調和】の行き先には検討がついていないらしく、いろいろと考えた末新たな指示を出す
「職員:メイは情報メインルームにて待機するように」
「ジーニーくん、マキくん、もしかしたら【肉体の調和】がここまで来るのかもしれない。いつでも接敵できるようにはしておいて。」
「了解!」「準備します!」
メイは移動指示だけで管理人の考えを十全に把握し、考えられうる未来を2人に告げた。
ただ、その注意は杞憂に終わる。
「直進です!」
「了解。軽く捻ってやるよ!」
最後方のモルティが【肉体の調和】の行き先を目視する。
先頭を走るダコタとサンチェスは最悪の場合を想定して上を注視していたため、モルティからの情報は非常に助かっていた。
「これでとりあえず、コントロールまで直通はなくなった。さっさと追いついて捻り潰すぞ!」
そのまま廊下を直進し、【肉体の調和】は再びエレベーターへ。
「こっち向け!」
だがエレベーターに乗る前にモルティが【肉体の調和】に向けて発砲する。射程外のため攻撃が外れたのか、それとも当たったがダメージを負わせられてないのかは分からないが、【肉体の調和】の注意が後ろに向いた。
「よくやったモルティ!総攻撃だ!」
「混戦になりそうですね……それぞれの死角をカバーしつつ戦いましょう。」
「やってやる……やってやるぞ……!」
近距離戦闘組の3人が各々覚悟を決める。
ダコタが攻撃を、サンチェスが右ハサミを、ジュリアンが左ハサミをそれぞれ担当する布陣を敷いた。
【ギャハハハハハ!グフフ!ギハハハハハハハ!!!】
ダコタたちの前で【肉体の調和】が不気味に笑う。
けれど、勇気の高い職員たちはそのくらいでは揺るがない。
「ふっ……!」
「くたばれっ!」
正面でダコタが殴りちらかし、モルティが眉間を寸分たがわず撃ち抜く。
超近距離で戦うダコタには死角が多すぎる。【肉体の調和】の尾がダコタに振り下ろされるが、ダコタにはその攻撃が見えていない。
「ジュリアンくん!」
「合わせますっ!」
尾が2本の槍に止められる。
たった一言で状況と作戦を伝達し、サンチェスとジュリアンがダコタの頭上で槍を合わせて尾を受け止めたのだ。
「横から来るぞ!」
言うが早いか、モルティが【肉体の調和】の尾を撃ち抜く。
狙撃でふわりと浮いた隙を見てサンチェスとジュリアンは尾を押し返し、左右から繰り出される叩き付けをそれぞれでガードする。
サンチェスとジュリアンの連携がなければダコタが潰れていただろう。
モルティの狙撃がなければ【肉体の調和】の尾を押し返せずにサンチェスとジュリアンは攻撃をまともに食らっていただろう。
ギリギリの窮地を4人は連携で繋ぎ止めていた。
「職員:ジュリアンはコントロールメインルームで待機するように」
「職員:サンチェスは教育メインルームで待機するように」
「すみません……少し休みます……」
「冥土の土産です!……1度引きます!」
ジュリアンとサンチェスが置き土産とばかりに左右のハサミを一突きし、管理人の指示通り退却する。
残ったのは守る者のいないインファイターのダコタと後方から狙撃を行うモルティのみ。
「モルティ!やれるよなぁ!?」
「ったく!むちゃくちゃ言いますね!」
ダコタの一言でモルティは自分に求められている役割を十全に把握する。
ダコタのむちゃくちゃすぎる要望にモルティは文句をこぼすが手は止めない。
【グフフフフ!キカハハハハ!】
「……そこっ!」
要望の通り、ダコタに向けられた攻撃をモルティはミスなく撃ち抜く。
攻撃と狙撃の勢いがぶつかり合って相殺し、ダコタに当たる頃には半分以上攻撃の勢いは削がれていた。
「まだ終わってねぇぞ!」
「ほんとアンタむちゃくちゃですよ!?」
安全チームの下部廊下で怒号が飛び交う。泣き言に近い怒号は上げれどモルティが狙撃の手を止めることはなかった。
「職員:ダコタは情報メインルームで待機するように」
「奴さんもうボロボロだ、カッコイイとこ見せろよ?」
「アンタの尻拭いはしてやりますよ!」
撤退していくダコタを追いかけ、【肉体の調和】が移動する。互いに軽口を言い合いながらスイッチし、モルティは【肉体の調和】と相対する。
「決める……!」
モルティは連射式リボルバーを全弾使い切るくらいの勢いで撃ち込む。前に誰もいなくなったモルティを【肉体の調和】が薙ぎ払うが、身体が宙に浮いてもなおモルティは攻撃の手を止めない。
「チッ……!いい加減くたばれ!」
悪態をつきながら受身を取り、モルティは弾倉に残る最後の弾を放つ。バランスを崩しつつもその一射は見事【肉体の調和】の眉間に突き刺さり、【肉体の調和】が内側から弾けて沈黙する。
「っし!……?まだ試練が終わらない?」
目の前の敵を倒してなお続く試練に首を傾げながらも、モルティはひとまず情報メインルームへと戻っていった。
「アブノーマリティ:魔弾の射手、依頼作業です。指定座標に魔弾を撃ち込みなさい」
【ほう?依頼かね。フン。】
試練が終わらなかった理由は簡単、【肉体の調和】の下位存在、深紅の黎明に出た【開始の歓声】が三体、安全チームの上部廊下に出現したから。
出現したタイミングから見て、【肉体の調和】の死亡によって生み出されたか【肉体の調和】の死亡によって呼び寄せられたかのどちらかだろう。
ただ、同じ廊下に出てきたのが運の尽き。
【射出位置固定……弾丸転送準備……完了。】
魔弾の射手は銃口と指定箇所に魔法陣をそれぞれ3枚ずつ展開する。
【ジーニー、よく見ておけよ?これがお前の持つ魔法の弾丸の使い方だ!】
言うと同時に魔弾の射手は引き金を引く。
対価として支払われたポジティブエンケファリンによって精製された弾丸は、推進力を失うことなく突き進む。
その弾丸は【開始の歓声】三体を貫き、廊下を進み、扉をこじ開け、射線上にいた全てのオフィサーに風穴を開け、教育チームの端にあるエレベーターすらも貫通してどこかへと飛んでいった。
同時にファンファーレが鳴り響き、試練が終わりを時間を告げる。
【見たかジーニー!圧倒的な暴力!小細工を粉砕していく力!これこそが魔法の弾丸の真骨頂だ!フハハハハ!】
収容室の中で魔弾の射手がご機嫌に騒ぐ。
管理人はそんな彼を気味悪がったのか、ダコタやサンチェスの治療がまだ終わっていないというのに業務を切り上げさせたのだった。
「あぁ、良かったダコタさんいた。」
「???メイさん?どうかしましたか?」
「業務終了時、まだダコタさん、治療終わってなかったでしょ?軽く処置するからちょっと来て。」
「あぁ、そういう……正直、自分でやんなきゃかと思って困ってたところです。サンチェスも治療終わってなかったんですが、そっちは?」
「サンチェスくんはジーニーくんがやってくれてる。あと、念のためモルティくんもマキくんが様子を見てるよ。ジュリアンくんはリアクターの回復が間に合ってたから大丈夫。」
「よく見てますね……そんじゃ、治療お願いします。」