サリーのロボトミーコーポレーション   作:エリック

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攻撃が胸に突き刺さる。ガードは間に合うわけもなく、彼女はただ驚きながら攻撃を受けるしかできない。

胸に剣がめり込む。これまで1度も知りえなかった感覚は彼女に死を予感させるには十分だった。

攻撃の圧力に負け、彼女は後ろに飛ばされる。彼女は壁に激突し、尻もちをついて無様に座り込んだ。

襲撃者は勝利を確信して、いつもの調子で彼女に語りかけた。

【モルトシュラーク】

雪の女王は、いつものように技を教授する。

【剣そのものを鈍器として扱う技だ。ロングソードは刀身すら持ち手となる。剣が手から離れたことで油断しただろう?だが、あの窮地からでも手があるのが帝国流剣術だ。】

雪の女王は上機嫌に話す。今回の窮地は演出されたものではないらしく、メイが決闘内で技を盗み成長していたことが嬉しいのだと言いたげに雪の女王は語る。

【ふむ?アバラが2.3本イカれたか。まぁ無理もない。モルトシュラークはその高すぎる殺傷力故に通常の勝負では禁止されているからな。】

だが、それを聞かされているメイにはその言葉が届いていないだろう。

血反吐を吐き散らし、光の消えた目でここでは無いどこかを見つめるメイには、もう何も届くことはないだろう。


#? 臆病な私の物語④

私はいつも、なにか知れぬ希望に縋り、それを追い求めてきた。

「希望を諦めて、苦痛を尊敬するに至った」なんて言っても、希望を永久に回避することはできない。希望は、希望から身を振りほどこうと思っていた人達にさえ襲いかかるとなにかの本で読んだ。

 

あぁ、

 

どうして、あの時希望を抱いてしまったんだろう?

油断さえしなければ、雪の女王の重たい一撃を逃れられたのかもしれないのに。

 

希望が油断を誘い、吸い寄せられるように集められ、まとめて叩き潰される。

 

一連の流れをずっと間近で見ていたのに、どうしてまた縋ってしまったんだろう。

 

「……もう、いいや。なんでもいい。」

 

このまま目を閉じて眠ってしまおう。

 

誰も救えなかった私はここでおしまいにしよう。

臆病な私の物語はここでおしまいだ。

 

「本当に?」

 

誰かの声がした。聞いた事のあるような、遠い昔に忘れたような、そんな声が。

 

「本当に、こんな結末でいいんですか?」

 

「……いいよ、もう。なんでもいい。私にできることなんて、何一つなかったんだ。」

 

「本当に?」

 

別の声が話しかけてくる。ほんの短い間しか聞いていない、長いこと私を苦しめていた声が。

 

「本当に、あなたは何も成せてはいないんですか?」

 

「なにか成せていたら、こんなふうに終わったりしなかっただろうさ。」

 

「本当に?」

 

記憶に新しい声が話しかけてくる。 1度だけ聞いた、あの時救えなかった声が。

 

「あなたの経験は血肉となって、いろいろな人に受け継がれているはずです。」

 

「そんなことない。現にあなたを喪った。今だって、私の手から命が零れていく。」

 

「本当に?」

 

目の前で零れた声が話しかけてくる。最後に聞いたのは錯乱と狂気に塗れていて、聞くに耐えなかった声が。

 

「僕たちは、そうでした。でも、あの人はまだ間に合う。」

 

「分かってる。でも、私はもう立ち上がれない。」

 

あなた達を見殺しにして、何も出来ないと諦めて、そうやって見捨ててきた私にできることなんて、何も無い。

 

辛くても、苦しくても立ち上がって、策を弄して技を盗んで、それでも届かなかった。

 

なら、これ以上どうしろと言うんだろう?

何ひとつ成せなかった私に、どうしろと言うんだろう?

 

「そんなに自分を責めないでください。あなたは優しい人だから、僕はあなたを恨んでいません。」

 

あなたが恨んでいなくても、私は私を許せない。

だからたくさん頑張った。いっぱいいっぱい頑張って、いっぱいいっぱいになってしまった。

 

「そんなに後悔しないでください。あの状況ではあれしか方法がなかったんですから、私はあなたを憎んでいません。」

 

過去を振り返れば、私にできることはもっとあったはずだ。

なのに、私はそれをしなかった。私の慢心が、あなたを死に追いやった。

 

「それでもきっと、酷く自罰的なあなたは、私たちのために涙を流すのでしょう?」

 

あぁ、その通りだ。私は自分を責めた。自己満足にしかならない自罰で周りを見ず、結果あなたに何もしてあげられなかった。

 

「だったら、楽になるまで泣いてください。」

 

泣いてもいいんだろうか?こんな私が、何も出来なかった私が、自分のために泣いてもいいんだろうか?

 

「泣いて泣いて、泣き疲れて、どうにか前に進めたあなたが、」

 

「「「「どうか、()たちを忘れてくれますように。」」」」

 

私の背中に手が置かれる。4本の、暖かい手が。

 

「知っているんです、僕たちのことがあなたの心に消えない傷を負わせたことを。」

 

「知っています、私たちのことであなたが常に気を張っていることを。」

 

「知ってるんですよ?その贖罪として、あなたが1人で全部抱え込んでることだって。」

 

「知らないはずがないでしょう?僕たちが、あなたの枷になっていること。」

 

背中に置かれた4本の手が、私の背中を押してくる。

 

「僕たちのことは、あなただけの責任じゃない。」

 

「それは、私たちが自分で抱えなきゃいけないものだから。」

 

「だから、あなたの贖罪を、返してもらいます。」

 

私を押す手の力が強くなる。私の思い違いや後悔を置き去りにするように。

 

(はなむけ)を送ります。」

 

後輩が言う。

想定外の事態でもいの一番に対応出来た、出来のいい後輩が。

 

「あなたがきちんと、終われるための(はなむけ)を。」

 

視界が白く染まる。

私の後悔を、悔恨を、自責を、恐怖を、

全てを取り払ったような白で染まる。

 

「ありがとう。」

 

あなたたちの贖罪を、私は今、あなたたちに返した。

だから私は二度と繰り返さないように、二度と誰かに贖罪を被せないために戦う。

 

もう二度と、負けたくない。

 

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