サリーのロボトミーコーポレーション 作:エリック
これ以上苦しみませんように。」」」」
業務が終わり、各々が自室だったり会議室だったり、社宅の共有スペースだったりに戻っていく。
決闘を終えたばかりのメイは業務終了時に教育チームにいたが、メインルームには戻らずにそのまま退勤する。
業務時間外は施設内のクリフォト抑止力が大幅に上がるため、万が一職員が取り残されては危険となる。職員の事故を防ぐための措置だった。
「とりあえず……部屋に戻って寝よう。」
メイはあれだけの死闘を繰り広げたにも関わらず、いつも通りの日常に戻ろうとしていた。
そんな彼女に、非日常が襲いかかる。
「いたーーーーーー!!!」
メイの背後から大声が響く。振り返って見てみると、安全チームチーフのジーニーが汗だくで叫んでいた。
「あぁ、ジーニーくんお疲れ様。何かあったの?」
メイはこの期に及んでいつもと同じような返しをする。
ジーニーはメイの一切合切を無視してずんずんと近づいてきた。
よく見ると後ろには同じく安全チームのマキに加えてチーフ会議に出席してるメンバーのジュリアンとモルティ、それに加えてなぜかダコタとアンジェリーナが続いている。
「「何かあったの?」じゃないですよ!どこほっつき歩いてたんですか!?」
「え……?いや、マニュアル通りに退勤しただけだけど……」
「アンタ怪我人ですよ!?分かってます!?」
ジーニーにすごい勢いでまくし立てられてメイは少しびっくりする。ジーニーがまくし立てている間にも同行メンバーはいろいろな準備を進めていた。
「いやでも……そんなに痛くないし……」
「それただのランナーズハイですから!それに、[[rb:社宅>ここ]]は再生リアクターがないんですよ!ほっといて治るわけないでしょう!?安全チームなんですから自覚持ってくださいよ!!おいマキ!ストレッチャー!」
「用意よしです!」
「おっし、そんじゃダコタさんとアンジェリーナさん、お願いします!」
「はいよ。まぁそういうわけなんで失礼しますね。アンジェリーナ!足持て足!」
「了解です!」
そう言うが早いか、メイはダコタとアンジェリーナに抱えあげられる。素早い動きでダコタがメイの脇の下を抱えあげ、アンジェリーナが足を持ち上げる。
現状の施設でメイの次に勇気が高いダコタと、勇気はそれほど高くないがダコタと息ぴったりのアンジェリーナの活躍で、メイが暴れる前に素早く彼女をストレッチャーに移す。
「うっし、移動すんぞジーニー!ハコは押さえてんだろうな!?」
「当たり前です!ネツァクさんにさっさと押さえてもらいましたよ!」
「メイさん、今から処置するので暴れないでくださいね?」
アンジェリーナからの一言で、メイは「そういえば集まったメンバーは勇気が高めだなぁ」と気づく。
(別になんともないんだから心配しなくていいのに)
同僚の心配なんて露知らず、メイはそんなことを考えていた。
「……あれ?そういえばサンチェスくんは?勇気が高いメンバーが集められてるなら、サンチェスくんもいるはずだよね?」
「…………メイさん、何も言ってないのに俺の意図読むのやめてくれません?」
「サンチェスも処置される側ですよ。アイツ結構長いこと氷漬けでしたし、バイタルチェックは必要だってホドさんがえらい心配してました。」
げんなりとするジーニーをよそに、ダコタがメイの疑問に答える。その一言にメイはとりあえず納得し、ストレッチャーの上で弛緩する。
「マキ!今できることはとっととやっとくぞ!スキャナー用意しろ!」
「スキャンしますね。メイさん、ちょっと動かないでください………………はい、OKです。データ転送しました!」
「はいはいおっけー……うぇ!?は!?ダコタさん!ストレッチャーの速度落としてください!」
今は廃れた翼が開発したエコー式簡易造影機を用いてメイの体内を調べたジーニーは驚愕のあまり変な声を上げる。
「なんかあったのか?」
「メイさんアバラが折れてます!肺に刺さってるしちょっと内臓傷ついてるし……うぇっ!手のひらの筋肉ぐちゃぐちゃですよこれぇ!」
「えぇ…………どの辺が平気なんですかメイさん……」
ジーニーの話を聞いてダコタがドン引きする。当の本人はケロッとした様子で「よく分かんないや……」みたいな表情をしているのがいっそうメイの異常さを際立てていた。
そんなこんなしているうちに処置室に辿り着いたらしい。ジーニーがチーフの権限とネツァクの許可証でロックを解除して準備を整える。
「アンジェリーナさんは処置室のこと分かりますよね?あとはお任せします。」
「えぇ。ダコタさんがいるから大丈夫ですよ。チーフの方たちは会議をしておいて下さい。……出来れば、今日のメイさんみたいな人をどうするか、を中心に。」
任されました、とだけジーニーは返すと処置室の扉は閉まった。ここからは、ダコタとアンジェリーナにバトンタッチだ。
「とはいえどうすっかなぁ……?骨折れてるんだろ?」
「たしか、W社の特異点を使った治療キットがあったはずです。どうにか骨を正しい位置に戻して、その後で使えば綺麗に治るはず……」
「あー……んじゃあ切開かなぁ……肺にも刺さってるらしいし、胸に空気も溜まってるだろうしなぁ……」
「まぁ、だから私たちが任せられたんだと思いますけど……」
メイを置きざりにしてダコタとアンジェリーナが今後について話し合う。自分の体のことなのにメイはずっと蚊帳の外だった。最初にすっとぼけた反応を返したメイは、現状信用されてないらしい。
「そんじゃ、麻酔から始めるかな。アンジェリーナ、よろしく。」
「はい!」
考え事をしているうちに話はまとまったらしく、アンジェリーナがメイに酸素吸入機にも似たマスクを装着させた。他方でダコタは治療に使う機械をどこからか取り出してくる。
【巣】ではよく見るその機械はどこの翼が作り上げたものだったか、メイは記憶を探るが思い出す前に麻酔が効いてきた。
「そうだメイさん、一つだけ忘れてました。」
眠りに落ちる直前、ダコタが自分に話しかけてくる。眠りに落ちる直前の微睡みの中、メイはそれをたしかに聞いた。
「お疲れ様でした。よくぞご無事で。」
ダコタがどんな表情をしていたかは、見えなかった。