※少し独自設定を加えました
沢山の評価ありがとうございます!
モンスターを屠った際のドロップアイテムの中で、確率論に縛られた物ではなく確実に落ちるアイテムを、その光沢と形状の特徴から鉱石や結晶を連想させるため一般的に魔石と呼ばれている。多岐に渡る可能性を秘めた魔石は、冒険者にとって是非とも回収しておきたいアイテムでもある。
何故なら、魔石は金に成るからだ。
大型のファミリアならばその限りでもないが、人手不足且つ資金不足といった悩みを抱える小規模なファミリアにとっては、安定した生計を築ける可能性であるから何よりも見逃せない。
そのような冒険者やファミリアを支える為のサービスが魔石の換金である。最もメジャーなものはギルドの換金サービス。駆け出し冒険者にとっても比較的良心的な仕組みを定め、例えばオラリオ内外の情勢によって上下するレートを、ギルドはその中でのみ決して変動しない一定の基準で換金を行う。それによりルール上公平な等価交換が可能である。
元より大規模な機関であるため、換金スペースは毎日万人の冒険者で昼夜溢れている。
しかし、何も換金サービスが冒険者ギルドだけの特権という訳でもない。最もメジャーというだけで、意外にもほぼ全ての商業ファミリアや商店はこのサービスを提供している。
その最たる例はメルクリウスファミリアだろう。それ以外にもガネーシャファミリアも提共しているそうで、他にも探せばわんさか有るだろう。
実は、ギルド以外で換金を履行した方がより多く稼げる事もよくある。
ギルド内では独自の目安があるため、少なくもないが多くもない、といった塩っぱい結果になる事も頻りにあるが、その他のは世界情勢に合わせたレートなので、金運が良ければ一回の狩りでも小金持ちになれる。基準は所詮ギルド内のみ有効なので、それ以外では参考にならない事も多く、以上の事からギルドを利用しない冒険者もチラホラといる。
ギルドの方は飽くまで報酬という扱い以上はないので、このような厳しい設定なのかもしれない。
だが、何故こぞってオラリオの商店、商業ファミリアは換金サービスを提供するのか。
簡単で至極単純に、金になるからだ。
魔石というのは未知のエネルギーを秘めており、オラリオを始め世界中の産業と技術の発展に一役買っている。皆はモンスターから落ちる魔石によって生かされていると言っても過言ではない。なので、どれほど質が悪い劣悪な魔石であろうと、米粒のように極小の魔石であろうと最低金額の価値は付く。何であれ金になるから行っているのだ。
実を言うと、冒険者が日常を生きる為の血肉になる魔石の換金よりも、魔石を直接売った方が圧倒的に稼げるといった落とし穴も存在する。主にギルド側が張り巡らしたブービートラップだが、中々悪どい商売をしている。
意図的に本来の相場よりもかなり低い値段に基準を設け、平等という甘美な譫言で冒険者を神経まで毒牙にかけて信用を得る。普段から全面的に冒険者をサポートしているから、非常に容易い事だ、と言うのはギルド長の有り難いお言葉。
そしてディルックは、何よりそのようなギルドの在り方を嫌悪していた。
エンジェルズシェア。彼が営業しているオラリオの一介の酒場すらも、同じように換金サービスを提供している。ディルックは酒場のオーナーでありながら、魔石を売り捌く敏腕の営業マンでもあった。
なぜ酒場が魔石を? と思うかもしれないが、例に倣い理由は単純では無い。
彼にとって、魔石の商業で稼げる金銭は飽くまでおまけ程度にしか思っていないだろう。彼が目を付けているのは闇派閥の情報ただ一つであった。並ではない禍根を残し、彼の背中に深い傷を刻んだ闇派閥の残党を、ディルックは未だに探し続けている。
その為の最も手っ取り早い方法がこの商売であったのだ。
しかし、唯でさえ酒場の収入すら芳しくないというのに魔石の換金の進捗など、お察しの通り。甚だしく滞っている。
元より彼自身も過度な期待はしていなかった。有れば僥倖と、重く受け止めている事も無い。ならば売る為の魔石はどのようにして調達しているのか。
挙がるとすればたった一つ。魔石を拾おうとするならば誰もが赴く場所。天然魔石の巣窟であるダンジョンへ、ディルック自身が狩りをする事で魔石を揃えている。宵は酒精の如き男だが、日が主役ならば彼は仄暗い影に立つ。
最早、主役であっても申し分ない実力は兼ね備えている。たとえ第一級冒険者であろうと膝を折ることすら叶わない人も多いだろう。
人知れずオラリオでもトップクラスの力を携えるディルックは、魔石の厳選にも抜け目ない。彼は第一に等価交換を重んじ、平等や公平よりも分相応を心掛ける。勿論、蔑ろにしている訳でもないが、だからこそ彼はオラリオのやり口を嫌悪していた。
そんな彼は今日も今日とてダンジョンへ訪れる。太陽を背負い、瞳には炎を焚べながら。
奇しくも今日は、ロキファミリアの帰還の日とは知らずに。
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まるで駆け出し冒険者の初陣を祝うかのように、矮小なモンスターは言語にもならない声を発するここは、ダンジョンの上層。ビギナーの門出を飾る場所であり、モンスターも比較的小柄かつ脆弱。唯一ダンジョン内で穏やかな場所と言ってもいい。
とはいえ気性は大変荒く、油断は禁物。ベテランからすれば大したことのないモンスターも、初心者にとっては脅威の存在に変わりない。
しかしそんな上層に似つかわしくない、暴れ唸る紅い炎が。迸る飛沫は周囲の敵を焼き、その圧倒的なまでの火力は黒い大地を更に黒く焦がしていく。それとは対照的に涼しい顔をして繰り出すディルックの存在は、ここではあまりにも場違いである。
以前とは違い黒を基調とした禍々しい大剣ではなく、白を主色としたシンプルながらも精密な造りをしている得物を振るう。炎を纏う轟速の一振りは、発している熱気ですら弱小なモンスターを滅しかねない。この破壊力の前に、立ち向かうには途轍もなく弱すぎた。この差異は次元が違うという言葉ですら生温だろう。
だが、何もかもが異なる。以前の一件と比べかなり弱火気味であった。以前の彼の繰り出す炎は、その根底に荒々しい怒りが宿り、対象を喰らうように燃え盛っていた。
が、今の彼からはそれが感じられない。
「フッ……!」
無謀にも背後から攻撃を仕掛けるのは、醜悪なゴブリン。愚かにも相手との力量差を理解出来ず、死角からなら、と浅はかな思考で夢を見ているらしい。やはり知能が足りていない。
身体すら向けずに頚に目掛け一振り。その一閃は容赦なくゴブリンの首を寸断し、二回三回地を転がっては霧散した。
結わえた赤髪を炎の様に揺らし黒い外套を着込む、いつもの格好でディルックはダンジョンを歩んでいた。より質のいい魔石の確保を目的としており、そのため戦闘には一切の手を抜かない。効率重視で事を進めている。
苦戦しながらも奮闘する若き英雄達の姿を横目に、ダンジョン内を己のステイタスを存分に発揮して駆ける。度々進行を妨げるモンスターを軽く切り伏せ、返り血も浴びずに。
勿論、魔石の回収は忘れない。
時々紅く煌めき、宙を舞いながら一気に敵を屠るその姿からは、どう見ても作業の進捗は順調に思える。
しかし、歯車は引き寄せられる様に狂う。予め定まった運命には、誰にも逆らえない。
時は来た。また歯車も順調に狂っている。
「ブモオオオオオッッッ!!!」
「…………!!」
ディルックの前に突如として立ち塞がった、居る筈のないモンスター。筋骨隆々とした巨躯は赤く染まり、二メドル以上の身の丈程ある無骨な大剣を振り回し、息荒く自分以外の全てを威嚇している。
本来であれば
ナワバリ意識の強いモンスター全般は、本来自身の居る階層から大きく上下に移動する事はない。しかし、中層の中でも一際厄介なミノタウロスが上層へと。
絶対にあってはならない事だ。起きてはいけない事態だ。突拍子もないと、非現実的だと笑えた筈の最悪の時が来てしまった。
少々暴走気味のミノタウロスだが、凶暴性に拍車がかかりレベル2であろうと手に負えない状態。唯でさえ、通常でレベル1がミノタウロスと遭遇した場合は遺言を考えろ、とも言わしめるというのに。
だが、所詮中層のモンスター。ディルックの脅威となるにはまだ足りなかった。
「邪魔だ」
紅蓮が容赦なく牙を剥く。繰り出される威圧もそよ風の如く歯牙にもかけず、彼が振り下ろす大剣は業火を手向けとして、斬首に処した。
ミノタウロスの皮膚は硬いことが特徴だが、彼からすれば紙も同然。それは偏に積み上げた研鑽があるから。
罪も未練も何もかも、彼の剣は焼き切る。断罪の意志がそこには有った。
「妙だな」
問題なのは、何故ミノタウロスが上層へ上がって来たのかだった。これでも彼は長い間ダンジョンへと赴き、時には単身で深層まで潜った事もあるが、このような前例は聞いたことがない。
ましてや、モンスターテイマーなど何者かの介入がなければの話だが。
僅かな間思考を巡らせるが結論には至らず、休むに似る事となってしまった。現状、情報が少なすぎるためこれ以上の考えは無意味と判断したディルックは、当初の予定通り魔石の採集を再開した。
予想していなかったとはいえ、多少のイレギュラーで躊躇なく中断出来るほどに猶予はない。第一、約束を反故にするつもりは彼には全く無い。
だが、後で情報収集としてギルドへ寄ってみても良いかもしれないと、ディルックは珍しい考えをしていた。
「……あの、少しいいですか」
「どうした……。君は」
ダンジョン内での見知らぬ冒険者との会話というのは意外と頻りにあるもの。基本的に死と隣合わせのダンジョンでは、困ったら助け合いの精神を重んじる。勿論そんなに甘くないが、遍く冒険者が卑怯でかつ自己中という訳でもない。
今回も大方、ポーションなど回復物資を分けて欲しい、または戦闘の手助けだろうか。
そう思い振り向けば、ほんの少し返り血を浴びた跡が残る美少女だった。
滑らかで色艶のある金髪に、人形のように円で純粋な瞳。しかしか弱いと言えばそうではなく、重心の置き方一つ、立ち振る舞い一つが達人のように精錬されている。魅せるよりかは武骨な戦い方を好むタイプ。
ディルックは強く警戒する。この少女は只者ではないと。自身に追随する力を内包していると。
妙な緊張感が漂うところで、意に返さず少女は質問を投げかける。
「白髪の子を見ませんでしたか? このくらいの……」
そう言って少女は、自身の手を自分の首元の高さまで上げ、その子の身長を表した。どうやらこの少女、人を探しているようだ。
訳ありという事でも無さそうだが、どのような関係かは聞くつもりもない。ヒントになり得るかもしれないが、そこら辺はデリケートな領域でありこの少女の歳ならば尚更、無闇に触れない方が良いだろう。
そもそも、ディルックは白髪の子に心当たりは無い。何故かあのいけ好かない女を頭を過ぎり顔を顰めるが、あれはどちらかと言えば銀髪だったと頭を整理する。
「……いや悪いが心当たりはない」
「そう、ですか」
彼の返答を聞き少女の表情全体が大きく下がる。ここまで明確に気落ちしている瞬間に巡り会うのも、そうそう無い。
しかし喜ばしい事でも、記念すべき事でもないため、寧ろ助けになれない罪悪感がふつふつとディルックの心に湧き上がってくる。何ともきまりが悪い。
何故だかその後ろ姿が放っておけない彼は、彼女を呼び止め協力の意志を伝えようと声を掛ける。
「……君が良ければ、僕も捜索を手伝おう」
「いえ大丈夫です。私も仲間を待たせているので」
「何……?君が探しているのは仲間ではないのか」
「……はい」
「そうか……。呼び止めて悪かった」
そう言い捨て、ディルックはダンジョンの更なる奥へと足を進める。
今日は謎が多く、少々濃い一日になった。やるべき事や考える事も山ほど生まれ、前途多難になる予感がする。しかし悪い予感ではなく、先の暗闇を切り開き目的の導となる兆しが彼には見えた。
そんな中、彼の頭の片隅に残るのは今日出会った一人の少女。彼は少女を知っている。
「剣姫」の名を授かりしロキファミリアの第一級冒険者。その優れた容姿と秀でる実力で、突然現れては男性人気を一気に博している著名人だ。恐らく、全くもって知らない者はオラリオ内には居ないだろう。
ディルックは、その「剣姫」に対し妙な既視感を覚えている。出会った瞬間から今の今までこの引っかかりを除く事は出来ず、しぶとく頭にこびり付く。
少女の風貌は、どうしても過去の記憶と重なって離れない。まるで記憶を投影している様に、思考の中で滔々と繰り返される。たとえ気のせいだと分かっていたとしても。
この剣で、彼は立ち塞がった存在を須らく切り伏せてみせた。他者の命も業も、全てまとめて正しく。しかし、いざ自分自身が目の前に立ち塞がった時、彼は剣をその首へと滑らせることは出来なかった。皮肉なものだと彼は自嘲した。
未だに彼は、断ち切れない。
だが知らないだろう。
この世界の歯車は、「出会い」によって加速することを。
本編というよりソードオラトリアかもしれない……。
ちなみに旦那にヒロインは居ない予定です。らしき人は居ますが、アイズさんではない事を先に言っておきます。それっぽくなってしまったので。
真面目な性格で、金髪で、風使い。もう一人しか居ないじゃない。