エンジェルズシェア〜オラリオ店〜   作:カリスマピーナッツ

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今回は少し短いかもしれません。
引き続きキャラ崩壊注意です。口調が最難関でした。


悪神であり女神であり唯の酒豪でもある

 

 

 

 

 今宵、ひっそりと主役を飾るのはバー「エンジェルズシェア」。万人を酔わせ夢心地へと誘う魔性の店。

 極上の酒精香る店内は、いつもいつも分厚い静寂にあるとは限らない。夜の舞台は騒がしく、この酒に合わず品がないが、たまにはこんな夜もいいじゃないか。心地よい沈黙を噛み締めて煽るのも酒ならば、心の内側の本能を煽るのもまた、酒だ。

 

 これもまた、酒の顔。今夜は宴に酔うとしよう。

 

 

 

 

 

 

「あ〜やってられへんでホンマ!」

 

 

 

 ドガッと叩きつけるようにグラスを置いたのは、ただの呑んだくれと言っても差し支えない人物。毎晩と酔い潰れては二日酔いと闘い、以前も団員に介抱されていた姿を夜の街で見たことがある。

 神の気品も威厳も全て、かなぐり捨てて飲む姿は清々しく気持ちのいいものだ。らしさの欠片もないが、人と目線を合わせて飲めるのもまた、彼女が人気の一因なのかもしれない。

 

 

 

「勢いがいいのは結構だが、潰れても介抱するつもりは無い。気をつけろ」

 

 

「え〜、ええやないかそんくらい!」

 

 

「服を汚されたくはないからな」

 

 

 

 酒癖の悪さは折り紙付き、オラリオでも右に出る者は少ないだろう。自身で酒豪と豪語するものの、ダル絡みをする時点で美の女神と同一視している。酒に関してはどちらにも軍杯は上がらず、どんぐりの背比べか。

 

 きっと面倒事になると、大胆にも一気飲みをする姿を見て先が思いやられる。しかし、不思議と躁鬱にはならない。たとえ、どれ程の深い泥酔に身を落とそうと酒を楽しむ心を、彼女は損なっていないから。これも女神がなせる技なのだろうか。

 

 

 

「最近はごっつ忙しくて、酒も飲めへんかったからしゃーない」

 

 

「ああ、怪物祭か」

 

 

 

 つい先日の怪物祭では稀に見る大事件が起きた事は、一時期その話題で持ち切りだった事から想像に難くない。

 件の中心であるガネーシャの方は謝罪とともに賠償を行ったそうだが、渋々という感情が見え隠れしていたそう。恐らく納得がいかないのだろう。知らぬ罪で被害を被るのだから不満も募る。

 しかし、人を守り支える者の立場としてはこの失態は致命的なようで、誠心誠意の謝罪で信頼を取り戻そうと回っているらしい。

 

 この件に関しては真実や黒幕についてある程度の察しがついている彼は、静かに黙する。予想外の関わりを築いてしまったためか、首を突っ込まざるを得なくなった彼はもう何も考えたくない。

 これも全てあの女神の所為だとして、忘れよう。

 

 

 

「暗い話もお終いや! さあ飲むで!!」

 

 

 

 新たに入った酒をブン取り、その喉と心を潤していく。かなりの度数を持つリキュールだがまるで、血肉が酒だとでも言うように堪えない。

 酒豪と言うにもあながち間違ってないかもしれない。

 

 

 

「そういえば、家ん所のやつが世話になったなあ」

 

 

「ああ」

 

 

「うちのレフィーヤが気にしとったで、オマエのこと」

 

 

 

 初めて耳にする名前だが、別段興味もない人間に何を思われようとも構わない。終始受け身のスタンスで対人関係を営む彼は、特筆すべき反応を示さなかった。

 大方、いつかの道中で偶然助けた誰かというだけの事。感謝されて不快になる程捻くれた心はないが、特に気に留める大事でもない些事である。

 少なくとも彼は見返りだけを求めたような偽善ではないので、関係を深めようという思考には至らなかったそう。

 

 

 

「そうか」

 

 

「いや反応薄ない!? もっと何かないんか?」

 

 

「無いな」

 

 

「ほら、レフィーヤって結構可愛いんやで! 幼くて、エルフやし……」

 

 

「興味無いな」

 

 

「え〜つまらんなあ。そんなんじゃ灰色なままやで」

 

 

 

 何かと色恋沙汰に繋げようと奮闘するこの女神は、完全に酒が回って酔っている。あの様な無茶苦茶な飲みっぷりは神ですら落としてしまう。やはり「エンジェルズシェア」は恐ろしい。

 

 因みにだが、ディルックに関して惚れた腫れたのエピソードを期待しない方が良いだろう。琴線に触れて命の保証がないだとかの話ではなく、単に経験が無さすぎるだけで満足出来る引き出しがない。

 

 まるでその機能が欠陥しているのかと思うほどに、彼は恋愛に関心が無かった。所謂、普通の生活の中で生きていたのなら二つ三つは掘り出せただろうが、彼の人生は余暇が生じる隙がない程に凄絶なもの。未だ進行形で恋愛の匂いはしない。

 

 思春期を代表するような他人の色恋に口出しや冷やかしを、慕われるべき神が悪戯で行うなど、ロキファミリアの今後をディルックは静かに案じた。

 

 

 

「悪いけどウチ、悪神なんやわ」

 

 

「勝手に心を読まないで貰えるか」

 

 

「ええやんけ別に! 減るもんやないし」

 

 

 

 そう言ってから一拍、意図的な間が生まれた。ほんの一瞬のみ世界の終わりを錯覚するような強烈な静寂に、心中で首をもたげるディルック。

 対して目の前の悪神は、スっと一息吸い込み目を薄く開いた。

 

 

 

「今回もウチのもんが助けられた。ホンマにありがとう」

 

 

 

 畏まって彼女らしくない謝礼だ。悪神と自称し悪性の欠片も見えないのなら、その名前もそろそろ返上した方がいい。

 純粋な感謝なんて彼にとって何時ぶりかも分からない。この約六年、人の闇と汚れに触れてきた彼は、真っ直ぐな感情に耐性が無かったようで少し狼狽してしまう。

 

 かなり長い間、彼女には世話になった記憶が今でも確りと残っている。最早腐れ縁だが、この繋がりを切るのは少し、いや、とても憚られる。

 

 少しは気を向けても良いかもしれない、と彼の心は少しずつ前を向き始める。

 

 

 

 

 

 

 騒がしさを取り戻した空間。彼女は持ち前のマシンガントークでディルックを困惑させる。そこは取り戻さなくても良かった。

 

 しかし殆どが団員自慢であって、浅い知識と虚無の経験からも彼は、彼女の愛を確かに感じた。誰からも愛されるのは無理な話だが、誰か一人が強く愛してくれたなら、それだけで人は前を向ける。

 彼は自分に無いものを、ロキファミリアに密かに見出し羨望した。またいつの日か愛される事を夢見る青年は、その時だけは少年のような瞳だった。

 

 

 

「これからもウチのもんが世話になる。やからこれからも宜しく頼むわ」

 

 

 

 彼女は何時もの悪戯っぽい笑みを浮かべてそう言い放った。やはり彼女はそれが一番似合っている。

 

 

 

 奇しくもオーナーと同じく深紅の髪を揺らしては、酒を飲んでは呑まれる女神。その傍らに甘く蕩けるぶどうジュースで乾杯する酒場のオーナー。

 

 静寂の中で一人酒、上品で甘い二人酒。確かにそれもいいが、偶には騒ぎたい時もあるだろう。

 とある夜。強い酒と甘美な香りの中に、世にも珍しいたった二人の宴会があったという。

 

 

 

 

 

 

 

 




ロキ様ですね。結構好きです。
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