どけ! 私はお姉ちゃんだぞ!   作:サイリウム(夕宙リウム)

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うまい話にゃ裏がある

 

「ぬ~~、どうしたもんかなぁ?」

 

「あれ、キャンディ。どうしたのそんなに紙とにらめっこして?」

 

 

放課後。うんうん悩みながら何かとにらめっこしているキャンディにメジロドーベルが話しかけてきた。ドーベルのジャージという服装と今の時間を考えるに今からどこかで練習しようとしたところ何か忘れ物に気が付き、教室に取りに帰ってきたというところであろうか。

 

 

「ん? あぁドーベルか。いやこの前の選抜レースでスカウトもらえたのはいいんだけどどこがいいかなぁって悩んでた。」

 

 

キャンディの手元、彼女の机を見ると学園が配布しているチーム及びトレーナーの情報が書かれた冊子と彼女が受けたスカウト先の勧誘チラシのようなものが広げられている。

 

それを見て『ふ~ん』と言いながら許可をもらってそのチラシを見るドーベル。表面はよくある売り文句が書かれており、印刷されたものだが裏返してみると各チームのトレーナーが走り書きしたキャンディ用の目標だとかトレーニングメニューが書かれている。

 

 

「いやさ、聖徳太子でもないんだし一気に言われても解らんから『お手数ですけど何か紙に書いていただけないでしょうか? ほら、ご自身のチームの勧誘用にチラシとかありますよね。その裏か余白にでも書いていただければ』って言ったら皆さん余白びっしりに書いてくるもんだからおねえ……、キャンディちゃんびっくり。」

 

「なるほど、人気者はつらいわね。……あ、こことここ。所謂ハズレだからやめといたほうがいいよ。」

 

「ホント! 感謝感謝……。ん? もしかしてドーベルってそこらへん情報通?」

 

 

ふざけて救世主!みたいなノリで乗っかってみたら恥ずかしそうに『違う違う!』と否定するドーベル。なんでもメジロ家の方でそういうハズレのチームだったり関わらない方がよさそうなトレーナーについて教えてもらったらしい。なんでも近いうちにお家の圧力で自主退職なさるそうで……、キャンディちゃんヒェ!ってなりました。

 

 

「あ、そういえばキャンディってあんまりチームとか知らなかった感じなんだ。ん~、そんなに時間かからないだろうしよかったら教えようか?」

 

「ぜひ!」

 

 

メジロ家お嬢様のドーベルお嬢様によるとなんでも今の中央は“リギル”一強時代。強そうな奴は大体リギルとかいうとんでもないチームらしい。田舎で引き籠ってた私でも知ってるシンボリルドルフ、ナリタブライアン、マルゼンスキーがそのチームらしい。……何その厨パ。

 

 

「……厨パ? まぁ確かにすごい人ばっかりだよね。」

 

 

ちなみに本来ならリギルだけ入部テスト的な選抜レースがあるらしいがそのレースはもう少し先の話らしい。

 

 

「ん? もしかしてあの後スズカがスカウトされてたチームって……!?」

 

「うん。あの厳しそうな女のトレーナーさんがチームリギルを受け持つトレーナーさん。東条ハナさんね。」

 

「あ~、道理で騒がしかったわけだ。普通自チームで開くレースでスカウトするような強豪チームがわざわざスカウトしに来てたら周り騒ぐよね。」

 

 

あの選抜レースが終わった後、私の倍ぐらいのトレーナーさんたちがスズカの方にスカウトしに行ってたけど、途中で急に静かになってその後さっきよりもすごく騒いでたから何かと思えばそんなことがあったんですねぇ。ちなみに観客席の方から見ていたドーベルとスズカ本人からの話を総合すると『たくさんのスカウトの人たちに囲まれてあわあわしてたスズカの元に颯爽と現れる東条氏、登場に驚き静かになる他トレーナー。静かになって落ち着くスズカ。そこで東条氏のスカウト! 周り何も言えない! スズカは「他の人何故かやめちゃったし、スカウトしてくれるのなら……」』という感じだったらしい。

 

 

「うん、そんなに付き合い長くないけどスズカらしい気がする。」

 

「だよねぇ。」

 

「あ、ちなみにドーベルは何か決まってるの? この前選抜レース出ないって言ってたけど。」

 

「あ~、実は家の方でちょっと紹介してもらって。……恥ずかしいんだけど私、男の人がちょっと苦手で。お婆様が安心できる女性トレーナー紹介してもらったからそこでお世話になる予定なの。」

 

「なるほどなぁ。……メジロ家ってやっぱすごいや。」

 

 

お金持ちのお家はいろんなことできるんやなぁ。『ここのチームはマイルが得意』『ここは中距離が得意な所』『あれ? ここダート専門のチームだった気がするけどなんで?』などとかなり親身になって私のチーム選びに付き合ってくれるドーベル。

 

私の思惑的にチームはできるだけいいところでなおかつ、スぺにとって一番いい指導をしてくれるところ。そこに私が先に入っておくことでスぺを受け入れやすい状態にしておくのが目標。まぁ私の気遣いが杞憂で自分で好きな所選んで入ってくれるのなら問題はない。でもやっぱり一つ受け入れてくれるところあったら安心の度合い強いと思うから……、まぁそんなわけで私の距離適性とかそういうの二の次でスぺのためのチームを選びたい。

 

スぺの適性は多分中距離か長距離あたり、彼女の夢が『日本一のウマ娘になる』だからそれを証明するのに一番適切なレースは……、クラシック級なら日本ダービー。シニア級なら天皇賞あたりがそれに当たると思う。世界一となってくるとジャパンカップとかも入れたいだろうけどまずはこの三つを必ず取らせるレースとして考えよう。

 

ま、今挙げたレース中長距離なんでそれが得意なトレーナーさんのところにお世話になればいいんだけどね! と、いうわけでなんかよさそうな所知ってる、ドーベル?

 

 

「う~ん。私ティアラ路線に行こうと思ってたから長いところが得意なチームはあんまり知らないんだけど……、この中にあるのだったら確かココとココ。あとココが強かった気がする。ごめんね。」

 

「いやいや、全然情報持ってなかったから教えてくれてほんと助かる! ありがとね、ドーベル。」

 

「ふふ、どういたしまして。……そういえば中長距離って言うぐらいだからキャンディもクラシック路線で行くの? 確かフクキタルとスズカもそうだったと思うけど。」

 

「私? 私は……、今のところどんなに頑張っても通用するのが1800ぐらいだから今年来年あたりはどうだろ、もしかしたらドーベルといっしょのティアラ路線に行くかもしれない。でも“目標”は長いのだから追々、ね。」

 

「そっか。ならぶつかったときは勝負ね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ま、そんな会話があったんですよね。あのあとドーベルが忘れ物もって練習に戻り、私はスカウトを頂いたチームのところに見学にでも行こうかと自身の教室から出ていた。にしてもお金持ちのメジロ家令嬢、メジロドーベルちゃんには大変お世話になり申した。

 

自分の練習あるのにかなり長い間親身になって色々考えてくれたのはマジでありがたい。最後には『あ、ヤバイ! もうこんな時間だ!』ってなるまで一緒にやってくれたもんなぁ。……今度何か甘いものでも奢ってお詫びしないとね。

 

 

「さぁ~て。結構いい時間だけど練習見れるんですかねぇ……、ん?」

 

 

 

『いしや~きラーメン。いしやきラーメン~。』

 

 

 

 

校内に謎の屋台が出現した。

 

 

 

 

『安いよ、安いよ~。今なら値引きセール中だよ~。お買い得デスワヨ~。』

 

 

 

 

葦毛で高身長のウマ娘が『石焼き拉麺』と書かれた暖簾が印象的の謎の屋台を引きながら校内を闊歩している。一瞬『これが都会、こんな意味不明な現象が起こるなんて都会は怖いところだべ』みたいな考えが頭の中に過るが、都会でも田舎でも頭おかしい奴はおかしい。たぶんこれもそうなんだろう。

 

にしても制服を着てるから生徒なんだろうけど校内で屋台引きながらラーメン売るとはなんとまぁ……、中央はかなり自由なんだねぇ。しかもメガホン大音量で客引きとは色々とすごい。騒音でやめさせられたりとかしないんだ。

 

 

「お~う。そこの姉ちゃん。ちょっと寄ってかね? 今なら一杯食べるともう一杯ついてくるぞ!」

 

 

ポカン、と口を開けながら放心しているのか考え込んでいるのかよく解らない時間を過ごしているとあちらの方から声をかけられた。葦毛の彼女以外に店員らしき人物がいるように見えないし、彼女が店長なのだろう。食べていかないかと言うことだが……、そういえば小腹が空いている。おやつにラーメンも乙なものだろう。石焼きラーメンが何なのかは全く想像ができないが気になる。

 

 

「あ、じゃあお言葉に甘えていただきます。この……石焼きラーメン? って奴を一つ。」

 

「あいよぉ!」

 

 

目にもとまらぬスピードでそれまで引いていた屋台を止め、私が座れるように丸椅子が展開される。私が席に座る頃にはすでにテーブルはきれいに拭かれ、店主の女性は麺を茹で始めていた。

 

 

(この店……、出来る!)

 

 

屋台を引いていた時は制服だったが、いつの間にかに黒いTシャツとエプロン。それに白い鉢巻きを装着している店長。長い葦毛を後ろにまとめている彼女は何もしていなければどこかの令嬢のような美しさだが今は料理人。それも鼻に届いてくる香りは素晴らしくいいものだということから考えて腕のいい料理人だ。

 

 

「へい、お待ち!」

 

 

その声と共に私の前に現れる白い器。伝統的なラーメン用の器。その中身は……

 

 

「注文の冷やし中華だ!」

 

 

冷やし中華だった。

 

 

思わず顔を上げる。とても気持ちのいい笑顔を浮かべる店長。そして視線を戻す。最近は見なくなったサクランボが乗せられている冷やし中華。もう一度顔を上げる。いい笑顔を店長が汲んだ水をこちらにおいてくれる。もう一度視線をを下げる。

 

冷やし中華だ。

 

キレイな黄色のちぢれ麵にキュウリ、ハム、タマゴを細長く刻まれたものが乗せられている。少し顔を近づけてにおいを嗅ぐと先ほど店内にあふれていたラーメンの鶏がらのニオイではなく、少し鼻につくさっぱりめのスープの香り。普通においしそう、うん、おいしそうなんだが……。

 

 

「あ、あの~。店主? 私ラーメン頼んだんだけど……?」

 

「も、もしかして冷やし中華駄目でしたか! そうとは知らず、私、私……。」

 

 

頭に浮かんだ疑問点をそのまま口にして店主に文句を言おうとしたが……、その前に頭に巻かれたタオルの鉢巻きを外し、両手に持ちながら若干涙ぐんでいる葦毛の彼女。えぇ……。

 

 

「ま、まぁお腹自体空いてますんで……、とりあえずいただきます。」

 

 

何故か泣かしてしまったし、出されたものを下げてもらうのも悪いので食べることにする。きれいに積まれているキュウリやハムを崩すのは申し訳ないが、おいしく食べるためにすべてを崩し一通りかき混ぜる。そしてすべての具材を一口サイズに纏め、そのまま放り込む。

 

 

「…………、普通にうまい。」

 

「だろぅ?」

 

 

さっきニオイを嗅いでいたスープの味がしっかりと出ているがそれでもしつこ過ぎない味わい。キュウリとハムもいい素材を使っているのが解る。そしてタマゴ。よく冷やし中華の卵はスープを吸い過ぎて味が濃くなりすぎることがよくあるが……、これはそれがない。卵の香りがちゃんと残っているし、食感もいい。なおかつスープがキツすぎないように調整されているおかげでうまい。

 

 

「いや頼んだのラーメンだったのに冷やし中華だったんだけど!」

 

「にゃはは、うまかったならいいじゃねぇか! んでお前さん名前なんて言うんだ?」

 

 

いやうまかったからいいとかそういう話ではない気がするんだけどなぁ? 元々石焼き拉麺とかいう謎の食べ物求めて入ったわけだし……、まぁ確かにこの冷やし中華そんなこと気にならないぐらいにうまいっちゃうまいが! なんか調子狂うなぁ……。

 

 

「……オースミキャンディ。店主さんは? 見た感じ先輩みたいだけど。」

 

「あたいはゴールドシップって言うんだ。べ~つにそういう先輩後輩気にしなくていいぞ? 堅っ苦しいの嫌いだし。よろしくなキャンディ!」

 

「りょーかい。こちらこそよろしく。……マジでうまいな、おい。」

 

 

ゴールドシップ、ゴールドシップねぇ。あいにく情報が来るスピードが遅い田舎にいて、そこまで中央のレース結果とかを確認するなら趣味の時間に使いたかった口だからあんまり知らないんだが……、たぶんコイツGⅠぐらいとっててもおかしくなさそうだな。身のこなしが伊達じゃない、過去に敗戦した中央から来た奴の何倍ぐらいだろうか。まぁとりあえず今の私じゃ勝ち筋はない。

 

 

「なぁ、キャンディさぁ。持ってる書類勝手に読んだけどチーム探ししてんの? 長い距離得意なところ。」

 

 

目の前にいる先輩の強さを考えながら冷やし中華を口に運ぶうちに、食べる方に意識が集中し始めたころ、いつの間にかドーベルに書いてもらった資料を勝手に読んでるゴールドシップがいた。

 

 

「……なんで勝手に見てんの? まぁそうだけど。あとおかわり。」

 

「あいよ! ……いや~、気になっちゃってさぁ。ついつい見ちゃったぜ! わりぃな! はい、お待ち!」

 

「絶対悪いって思ってないでしょ……。」

 

 

そう言いながら新しく来た冷やし中華を混ぜて口に運ぶ。

 

 

「んで、たまたまあった縁だけどいい話があるんだ! ちょうどあたしが所属してるチームに空きがあるんだけど来るか? これでもゴルシちゃんダービー落したけど二冠ウマ娘だぜ? ウチのトレーナー悪癖あるけど悪いところじゃねぇし、お勧めだけど。」

 

「ふ~ん、なるほどねぇ…………、って二冠バ!」

 

 

は? いや、は? ……いや確かにあり得ない話でもないのか?

 

 

「あ、信じてねぇな~ぁ? ……ほい。これ私の記事。」

 

 

そう言いながら手渡される新聞記事。皐月賞、菊花賞を制覇したゴールドシップがこの後春の天皇賞に挑むという記事が書かれている。いや、マジか。というかこの記事どっから出した?

 

この先輩のいう通りならかなり私にとっていい話だ。この先輩がスぺが入学するまでいるかどうかわからないが、この記事の書き方からして去年はクラシック級。なら普通に彼女は在籍しているだろう。それに彼女を育て上げたトレーナーの能力は非常に私にとって都合がいい。この先輩を育てられるってことはいくらこの先輩の才能が高かったとしてもそれを磨き上げる才があるってこと。担当の才能だけに頼ってるだけじゃ普通はGⅠ取れない。取らせてるってことは磨き上げる才能がこの先輩のトレーナーにあると言うこと。

 

……アリだな。というかこれに乗らない理由がない。

 

 

「ねぇ、先輩。先輩のチーム入りたいんだけど。」

 

「(にちゃぁあ)待ってましたぁ。んじゃ、この書類書いちゃって? 実はトレーナーからよさそうな奴スカウトする権利もらっててな。この前の選抜レース見た時からお前さんに目ぇつけてたんだよ。」

 

「へぇ……。それはありがたい話だね。……ほら、書けたよ。」

 

「……よし。ちゃんと書けてるな。んじゃ、新人さんいらっしゃ~い。『スピカ』にようこそ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何日か後。夜、寮にて。

 

 

『? どうしたのお姉ちゃん? すごい疲れたお声してるよ?』

 

「……すぺ。おいしい話にはなにか裏があるんだよ。気を付けなさい。」

 

『? うん、わかった!』

 

 

 

 

 





ゴールドシップ

トレーナーから(勝手に)よさそうな奴(もしくは面白そうな奴)スカウトする権利をもらっている。春の天皇賞が近いのにラーメン屋台で遊んでいた彼女。キャンディが帰った後にエアグルーヴに発見されて追いかけられた。なお、2013年春天。

え? この時期に彼女が一回目の春天走ってるのアニメと時間軸合わないって? うん、ならなんでテイオーより先にスぺがデビューしてるのかな? 私わかんない! この世界の時間に関して深く考え始めると頭が爆発するので考えないでください。



とりあえずストックはこれでおしまいです。続きは感想とか評価とか頂けたら書きます。
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