芸術家の弟と演出家の姉   作:◯のような赤子

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ちょっと軽い息抜きに
個人的にはナルトの二次創作でも割と歪んだ主人公だと思います。


芸術家の姉

私には一人、顔が瓜二つの可愛い双子の弟がいる。

両親なんかいない。そんなもの見たこともないしこの岩隠れの里ではそんな孤児どこにでもいた。多分、だからだろう。

生きるために私たちはいつも二人だった。何をするにしても二人で、初めて飢えを凌ぐために人の家に盗みに入り、そこで初めて人を殺した。

 

その頃はまだ私たちは忍術なんか習っていなくて、相手も忍者じゃない…一般の人。

 

近くの岩山で偶々拾った錆だらけのクナイで、口封じのために必死に背中に突き立てた。綺麗ごとならどうとでもまだ言えた。

食べるためだった、弟を守る為だった。孤児なんだ、私たちは。だから誰も助けてくれない…なら奪うしかないじゃないか。

錆びたクナイで切るでも貫くでもなく、ギコギコとまるで鋸のように上下左右に振って…初めはプツプツと筋を切る感触からグジュグジュと水気を帯びた粘土をこねくり回すような音が夜の民家に聞こえ出し、この時ようやく家主が死んでいることに気が付いた。

 

弟は、それをただ見ているだけだった。でもそれで何かを咎めるようなことはしない。

 

だって私は姉なんだもの。

 

弟を…家族を守るのは当然でしょ?

 

 

 その日に家から盗んだ食べ物は、鉄の味しかしなかった。でもいいんだ、弟はこんな美味しいものは初めて食べたって血まみれの私が手渡したそれを喜んでくれたから。

 

 この時気が付いた。力があればこんな美味しいものが食べられる…何をしてもいいんだって。

 だから忍術を独学で弟と二人で学んだ。幸い顔も忘れた両親は忍者だったので、生まれ育った家の中を漁れば教科書のようなものが出てきたので基礎を覚えるのに苦はなかった。今にして思えば、私と弟は所謂天才だったのだろう。

 

 すぐに忍者としての腕は上達し、大人の下忍でも簡単に返り討ちにして殺すことができるようになった。

 欲しかった力が、安心してくらせる環境が手に入ったのだ。誰も私たちをもう脅かすことができない。そうなってくると私たちは初めて獣のような食って寝る生活ではなく、人としてそれぞれ趣味を持つようになる。

 

 「ねーちゃん!これ見てくれよ!」

 

 ある日家で干し肉を食べていた私にパタパタと弟が嬉しそうな声で駆け寄ってきた。

 

 その手には粘土で出来た不細工な何かの動物を象ったような人形が置かれていて、弟は鼻息を荒くしながらキラキラとした目で私を見つめてくる。

 

 「へぇ、よく出来てるね。デイダラが作ったの?」

 「たりまえじゃねーか!見ろよこのデザイン!中々に前衛的だろ?うん」

 

 確かに前衛的だ。何せ一体これが何なのか姉である私でさえ分からないのだから。

 でもこれはデイダラが初めて作ったものだ。なら私以外の人にも見てほしい。できればちゃんと。

 

 「どうせだったらさデイダラ、みんなにも見てもらおうよ。きっとみんな褒めてくれるよ?」

 

 こういうにはよく分からないけど、作品は人の目に触れて初めて作品なんだとこの時何となく思った。でもデイダラは私の提案に嫌そうに顔を歪めた。

 

 「…無理だよ。だってさ、みんな俺たちを見て逃げるじゃねーか。うん。それに俺のこれは芸術(アート)だ。ねーちゃん以外に理解なんか出来ねぇさ」

 「でも勿体ないよ?せっかくデイダラが作ったものなんだし、大丈夫。私がみんなに()()()()()()()()()()

 「…ほんとかねーちゃん?だったらさ、俺芸術家ってモンになりてんだ!これ作ってる間楽しくってさ、その間も何個も駄作を作っちまって、それは全部もう壊したけど、でも壊すのも楽しくて…でもなんか足りねーんだ。うん」

 「そう…じゃあさ、私が演出してあげる」

 「演出?」

 「うん。デイダラは芸術家で、私はそれをもっとみんなに理解してもらえるように演出するの。どう、楽しそうじゃない?」

 

 ぱあっと分かり易く満面の笑みを浮かべて、デイダラが私に抱き着いてくる。その際ギュっと持ってきた人形は握り潰しちゃったけど別にいいや。

 デイダラが作ればそれは芸術。私はそれを演出するだけだ。

 

 

 数年後、私たちは岩隠れの里から指名手配された。なんでだろ、私たちはただ更なる芸術の為にオオノキのおじーちゃんのところから禁術盗んだり、それを手当たり次第に演出して披露していただけなのにな。

 

 その更に数か月後――暁という組織が私たち姉弟に誘いの声をかけてきて、軽い一悶着の後。

 

 

 私は弟デイダラの演出家だけでなく、暁の演出家ダイダラという肩書まで持つようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 「うーん、空が青いねー」

 

 どこか能天気にも聞こえる少女の声が、彼女の言う通り晴れた青空へと吸い込まれていく。するとまるで少女の機嫌を伺うように心地いい風が吹き、彼女のルーズに結い上げても肩甲骨の辺りまで垂れた金髪を揺らして去っていく。

 いや、人がいれば間違いなく風は彼女のご機嫌を伺っていたと断言するだろう。

 

 断崖絶壁の上で足を揺らすその崖下には、見るも悍ましい肉片の数々。

 

 ピンクの艶々とした肉片が、その周囲には赤黒い早くも渇き始めた血液が、灰色の脳漿が四方に飛び散り、この渓谷の一角を極上の悪意を持って色とりどりに染め上げていた。

 

 戦場を駆ける歴戦の忍であっても間違いなく吐き気を催すこの景色には、武器などという無粋なものは見当たらない。当然だ。

 戦いなんてものはなかった。そしてこの悪意の被害者たちは忍ではない。

 

 偶々この近くの小さな隠れ里に住んでいた、一般人…その全てが人生における最後の自己表現に励んだのだ。

 

 「…相変わらず、頭のイカレたクソアマだなダイダラ」

 「おかえりサソリの旦那。向こうは終わらせてくれた?」

 

 ズッズッと何かを引きずるような音を出しながら遠慮の一言もなしにサソリは罵倒するが、その対象であるダイダラは気にも止めず、首だけをこてんと傾げるように…まるで汚泥のように濁り切った眼を向けて、弟が敬う姿勢を見せる芸術の先輩へ頼んでいたことはどうなったのか聞く。

 

 

 「馬鹿らしい、あんな弱小隠れ里の忍だけを集めて殺せなんざやってられっか」

 「旦那ぁ、それってなくない?演出家である私が珍しく芸術活動に勤しんでみたのにさぁ。偶には良いと思ったんだよね、旦那やあの子には是非私の苦労を少しは知ってほしいなって!」

 「何が苦労だ、いつも楽しそうにその腐った頭をドロドロに溶かしているだろうに」

 

 まぁねー、とダイダラはケラケラと笑う。それは人を馬鹿にしたものではなく、頭蓋鑢でゆっくりと削るような…例えようのない壊れた笑いだった。

 

 「あの子の芸術を真似て、取り合えずぶちまけてみてけど駄目だね。なんかこう…うん、ただ汚いゴミが広がっちゃったなーって」

 「そりゃそうだろ。あいつの爆発には信念があるからな。今お前が言ったような()()()()()の精神なんざ、俺もあいつも持ち合わせちゃいねぇ」

 

 “一瞬の美”と“永遠の美”と方向性は違うが、サソリはこの場にいないデイダラを認めている。周りから理解できない狂人のような己が求める美を探求する姿勢を持ちあわせるからこそ、互いにはない感性を持つ芸術家として僅かでも敬意を抱きあっている。

 けどダイダラは違う、ただの狂人だ。

 

 どうしようもない狂った価値観と愛情表現しかないこの忍界が生んだ怪物…だが同時に自分の芸術を演出する上ではこの女以外など絶対にありえないとサソリは認めてもいた。

 

 「…いいね旦那は。あの子の気持ちが理解できて。羨ましいなぁ…崖下の汚物の群れみたいにその傀儡の中身ぶちまけない?」

 「やれるもんならな。お前に俺の本体を引きずりだすことなんざ出来ねえよ」

 「うん、分かった。じゃあさ」

 

 死んで――?

 

 その宣告はサソリにも、告げた当の本人であるダイダラにも聞こえなかった。

 彼女たちがいる遥か遠方で、目視できるほどの巨大な爆発と共にそれに見合う爆風がダイダラたちの元に押し寄せたからだ。

 

 「お?おー!流石デイダラ!すごい!ねぇ見てよ旦那!サソリの旦那!」

 

 もうダイダラの頭の中に先ほどのやり取りのことなどない。

 ぴよんぴょんと跳ねながらサソリが纏う暁のマントにしがみつくその姿は、まるで恋人のように親し気だ。

 

 「見なくても分かる。…相変わらず自己表現の仕方が派手な野郎だ。冷美の欠片もねぇ」

 「駄目!見るの!」

 

 言葉通りに顔を背けるサソリだが、それを許さないとダイダラは傀儡作品ヒルコの顔を無理やり掴み、そして爆発の方へと向ける。

 

 「C2でもC3でもない、ただありったけのチャクラと粘土を使ったら、どの程度の規模の芸術を表現できるか試した貴重な瞬間だよ!嗚呼すごい…もうあんなことまで出来るなんて。でも…勿体ないなぁ」

 

 出た、とサソリは溜息を吐く。

 

 「どこかの里の中心…ううん、どうせなら木の葉の里くらい大きな隠れ里であれを放てばもっとあの子の名が売れるのに。爆発に巻き込まれた何の罪もない人たちが上げる悲鳴と言う名の芸術を称える讃美歌が爆音の裏で歌われその厚みが更にあの子の芸術を、美を昇華させていく。いっぱい死んで、いっぱい殺して。殺して、殺して…この地上に私とあの子だけが残ればもう、至高の名はデイダラだけのものになるのに」

 「まるで愛の告白だな」

 「まるでじゃないよ、そのままだよ旦那。私はデイダラを愛している。ずっと、誰よりも…もし何もない荒野であの子が飢えたのなら、私は喜んで自分のハラワタを引きずり出してあの子に食べさせるよ」

 

 当然だと吐き出す息には、少女のものとは思えない艶のある色が滲み出ている。もしサソリが生の肉体を持っていたのなら、迷わず押し倒していたであろうほどに。

 

 「でも駄目。私はこんなにデイダラのことを愛しているのに、全然あの子の気持ちが理解できない。だから…まだ旦那のことは殺さない、殺してあげないよ?だって旦那は私がデイダラの芸術に向き合う姿勢を知るための贄だもの」

 「俺にはどうでもいいことだ。それよりもいい加減手を放せ、殺すぞ」

 「あはは!そんなつもり一切ないくせに!でもいいよ、殺す?殺しあっちゃう?二人であの子が帰ってくる前にグチャグチャのドロドロになるくらいグチャグチャになってさぁ、そしたらデイダラは悲しんでもっと自分の芸術と向き合ってくれるよね?」

 

 いい加減頭がおかしくなりそうだ。いや、もうおかしくなっているのかもしれない。

 このどうしようもない壊れた演出家を、自分は傀儡にしてでもずっと手元に置きたいと心の隅では思っているのだから。

 

 「ねーねー旦那ぁ、どうやって殺し合う?なんなら旦那の傀儡全部口寄せして集団プレイでもいいよ?ふふ、ぐずぐずのシチューになった私を見たらきっとあの子、C4よりもっと面白いもの思いつくんじゃないかなぁ…!」

 「…そんなクソどうでもいい演出を考える暇があるなら、次回の俺の作品を引き立てる演出でも考えてろクソが」

 

 決めた、傀儡にした時は絶対にその気持ち悪い猫なで声を出す口を二度と開けないように制作しようそうしよう。

 ともかくあの小僧にこんなにも早く戻ってきてほしいと願ったのはもう何度目だろうか?もしやこれがダイダラの言う愛なのかなど、サソリの唯一生身の部分がダイダラの思考に犯され始めたその時。

 まさに待ち人来るとはこのことだろう。上空に自然界では存在しない造形をした鳥が此方に向かってくるのが見えた。

 

 「おーい、旦那―!ねーちゃん!」

 「デイダラぁ!」

 

 降りてきた弟を、姉がひしと抱きしめる。

 これだけなら美しい姉弟愛が見えるのだが、イカレた姉に育てられたこの弟が、当然イカレていないわけもなく。

 

 「しっかりと見てくれたかねーちゃん、うん!クソ雑魚谷隠れの里の連中が上げる悲鳴と恐怖が、オイラの爆発を更に刹那的に彩る様をさあ…!」

 「うんうん!見てたよお姉ちゃんしっかりと!すごいねデイダラ!爆風にもちゃんとナメクジ共の憎悪が乗ってて、お姉ちゃん立派になったなって少し感動しちゃった」

 「へへ、そうだろねーちゃん。もういつまでもオイラも子供じゃねぇってんだ!…うん、どうしたんだねーちゃん?」

 

 急に俯くダイダラ。

 それを心配してデイダラは顔を覗き込むがサソリには分かっていた。

 

 これから小芝居もとい、彼女の演出が始まるんだと。

 

 「そう…だよね。もうデイダラは立派な芸術家だし、私みたいな無名の演出家なんかむしろ邪魔だよね…」

 「な、なに言ってんだねーちゃん!」

 

 そうだ、一体この小娘のどこが無名なのだろうか。

 暁という組織は基本それぞれが里を抜けた抜忍で、その殆どが超高額の賞金首もとい各国のブラックリストに載っている。当然サソリは砂隠れの里から、そして必死に姉を宥めようとしているデイダラも岩隠れの里から“生死問わず(デッドオアライブ)”の賞金をかけられる身。正体不明の暁の長は当然賞金などかけようがないし、最近新たにメンバー入りした飛段はそもそも賞金をかけそうな関係者を全員殺していて彼もまた賞金首入りはしていない。けどダイダラだけは違う。

 

 彼女の場合は各里や各国なんてものではなく、世界中が血眼になって“絶対死(デッドオンリー)”を掲げる史上最悪の犯罪者だ。忍界で唯一、『見かけたら即逃亡(命を大事に)』の対象ともなっている。

 

 「オイラがここまで来れたのも全部、ねーちゃんのおかげだろ!?ねーちゃんがオイラの芸術を演出してくれるおかげで、さっきの爆発も思いついたんだし、うん。オイラにはねーちゃんが()()()()()よ!」

 

 ドロリと歪んだ愛情が鎌首をもたげたのを、サソリは見逃さなかった。

 

 「そうなんだ…うん、ごめんねデイダラ。私、何かあなたに置いて行かれたような気がして…」

 「置いていくわけねぇじゃねえか、うん。オイラ達はずっと姉弟で、ずっと一緒だろ?」

 

 再び姉弟の抱擁で互いを確かめ合う二人。

 本来は美しい、先ほどの巻き返しになるはずが、今回は違っていた。

 

 ピチャピチャと厭らしく水気を含んだ姉の舌が、弟の耳を犬のように舐め上げていく。時には甘く耳たぶを噛み、吐息をふぅっと優しく耳の穴へと吹きかける。

 

 明らかに姉弟のそれを超えた行い。けどデイダラはくすぐったいと笑うだけで、ダイダラの雌の顔にも一切違和感を抱く様子は見られない。当然だ。

 何せデイダラにとって姉弟とは、姉とは弟にこういう行為を、顔をするものだと幼い頃からずっとそう()()()()()()()のだから。あの日、ダイダラが自らの意思で人を殺したその時から…もうとっくに弟は姉の歪んだ依存という演出()に犯されていた。

 

 「絶対に離さないでね?約束…私があなたをもっと上の芸術へと導いてあげるから」

 「ああ、俺たち二人が揃えばどんな芸術家だろうが負けるはずがねぇ。なんてったってねーちゃんの演出は完璧だからな、うん」

 

 「おい、いい加減その気持ちの悪い愛撫を止めろ。見ていて吐き気がしてくる」

 

 「あ、そういえば旦那まだいたの?」

 「あん?旦那いつからそこに?うん」

 「同じ顔で異口同音を吐き出すな、気持ち悪い…それよりもデイダラ、そこの演出家の望みはちゃんと叶えてやったんだろうな?機嫌を曲げられちゃ次の俺の演出に支障が出る」

 「ああ!そうだよ、聞いてくれねーちゃん!旦那ったら全部オイラに任せて勝手に戻ってやがんの!俺の芸術性と嚙み合わねぇ…とかカッコつけて!」

 「あー、そうだったね。どうしようか…でもデイダラ、ちゃんと全員殺してきたんでしょ?」

 「え?うん。だってねーちゃんがそうしろって言ったし。ちゃんと里ごと吹き飛ばしてきたぜ、うん」

 「ならいいよ、元々何もかもぶち壊す予定だったし。それよりもねぇ、ねぇ!これ見て!」

 

 くいっと暁のマントの裾を掴み、ダイダラは自らが演出し手がけた作品をデイダラへと披露する。

 

 「じゃーん!ちょっと挑戦してみましたぁ!タイトルはええと…“ぶちまけ”?」

 

 ふざけた口調のダイダラだが、見せられたデイダラは真剣にジっと見て判定を下す。

 

 「…悪いけど駄目だな、全然駄目。これはタイトルが付けられるような高尚なモンでも、ましてや芸術とも認められねぇ。まじでゴミだぜ、うん」

 「ありゃーデイダラから見てもそっか。旦那からも同じ酷評いただいたんだよねぇ…」

 「当たり前だ。こんな洗練さの欠片もない、ましてやどういう意図で作ったのかも定かでないもんを、芸術だと認められるか。よくてガキの落書き以下だ。よく言ったデイダラ」

 「おいおいサソリの旦那、オイラこれでもいっぱしのアーティストだぜ?いくらねーちゃんでもこればっかしは忖度できないっての、うん」

 

 そっかーとデイダラの言葉にポリポリと頬を掻くダイダラだが、その視線はもう崖下の哀れな犠牲者にはない。

 ヘドロのような汚臭さえ匂いそうな濁り切った眼は、暁において唯一弟の理解者であるサソリへと向けられていた。

 

 「…臭ぇな」

 「ん?確かに匂うな、崖下から…うん。ちょっと無駄に凝りすぎだぜねーちゃん」

 「そうじゃねぇ、お前はいい加減に…はぁ、もういい。次の仕事場へと向かうぞ、馬鹿姉弟」

 「はーい旦那、りょーかいでーす」

 「まぁ、ちょっと寄り道したからな。それに怒られるのは俺たちじゃねえ、旦那だぜ。うん」

 

 一癖も二癖もあるこの姉弟を、唯一制御できるだろうと押し付けたのは暁の長であるペイン(だとサソリは思っている)だが、その勘は当たっている。

 まず不死身コンビである飛段と角都ではデイダラを理解できずダイダラがどんな手を使ってでも排除に動くし、ゼツは白い方と黒い方で反応がまちまちで、鬼鮫は早々に色々と諦めていただろう。そしてイタチだが…間違いなくダイダラは彼がパートナーとなった瞬間殺しに掛かる。しかもその方法はえげつない。確実に弟であるサスケだけでなく、木の葉全てを混沌に陥れ、その様をイタチを雁字搦めにしたうえで目の前の光景から逃げられないよう瞼と舌を切り取り塩漬けの生首と化した弟のサスケの口の中で咀嚼させてやるとは本人がイタチを前にした言葉だ。

 

 

 勿論、暁の誰しもが分かっている。

 あのイタチを相手に()()()()()()()()()()()()()と。

 だがダイダラの場合出来ないではなく、どうにかして出来る形にまで落とし込んだうえで確実にやらかす…それが出来てしまう、取り合えずやってしまう。

 故に彼女は史上最悪のテロリストとして、世界中から命を狙われているのだから。

 

 「分かっているのならさっさと歩け。もう二度とお前の我儘には付き合わんぞ」

 「むっふっふ~。そんなこと言って私知ってるんだよ?旦那、もう私の魅力に囚われてるってこと」

 「ガキが。せめてあと10年後にその台詞を吐きやがれ」

 「ごめんって旦那ぁ、そう怒んないで。次は旦那に最高にクールな演出を約束するからさ!」

 「……絶対だぞ?ならいい」

 「やっぱあんた、ねーちゃんには十分甘いぜ、うん」

 

 いつものように下らないやり取りを交わしながら、芸術家+演出家トリオはもう崖下などには見向きもせず、その場を離れていく。

 

 ふと、そういえば気になることがあるんだったとデイダラは満面の笑顔で腕にしがみつく姉へと視線を向ける。

 

 「なんでねーちゃん、あの里を滅ぼそうとかいきなり言い出したんだ?別にリーダーからそんな指示されてなかったし、何もない辺鄙な場所だったぜ?うん」

 「俺も実は気になっていた。てっきり珍しい秘術を抱えた一族でもいるという情報をお前が掴んだものと思ったが、明らかにそういう意図じゃなかったしな」

 「あはは!そんな秘術とか()()()()()()()()、お馬鹿な私みたいな小娘が掴むわけないじゃん」

 

 ダイダラの腐り落ちた脳髄にあるのはたった一つ、デイダラしかない。

 

 「なら、なにがお前をああさせた?…一体何が気に食わず、お前はそんなことをしたんだ」

 「ふふ、決まってるじゃん旦那。…なんかさ、あの里に絵画の神童とか言われる子供がいたらしくてさ、絵を描くのがすごく上手くて、将来はプロの芸術家間違いなしだって里の連中も持て囃してたみたいでさ」

 

 だから滅ぼした、気に食わないから。

 

 「だって芸術家だよ?芸術家。そんなものデイダラ以外()()()いらないし、里の連中もデイダラみたいなすごい芸術家がこんな近くにいるのに気づかない腐った眼の連中しかいないわけだし、なら生きてる意味ないよね?そんな連中が吐いた空気をデイダラが吸って、もしこの子の芸術への感性が損なわれたら一体どうするの?私に死ねと言うの?ああ、旦那は別ね。だって旦那は初めてデイダラ以外に演出してもいいかなって思えた人だし、おかげで私の演出の幅が広がって感謝もしてる。だから旦那は別にいいの、()()死ななくて」

 

 空気が歪む、腐る。

 もし感知系の忍がこの場にいれば、彼女たちの半径2里以内の動物が一斉に怯える様が垣間見れたことだろう。

 

 「でもあれは駄目、イタチも駄目。…私のデイダラの芸術を理解できない蛆の沸いた糞しか詰まってない頭の持ち主なんか全部、全部死んでしまえばいい!!あんなっ、あんな…ッ!!」

 「ねーちゃん、嬉しいけど爪が食い込んで痛いぜ、うん」

 「あっ!ご、ごめんねデイダラ!お願いだから嫌いにならないで!」

 「なるわけねーじゃねえか、うん。それよりも続きだ、旦那も気になってるみたいだぜ」

 「う、うん。…でもさ、結局はそれしかないんだよね」

 

 パっとしがみついていたデイダラの手を放し、ダイダラは耳を傾ける二人の前に立ち塞がり…そしてグリンと首を90°近く傾け、三日月状に壊れた笑みを浮かべた。

 

 「ねぇ、もし周りに持て囃されただけの芸術家気取りが二人の前にこうして立っていたとして…二人はさ、そいつのこと許せる?」

 「無理だな。傀儡にするか迷う以前の問題だ」

 「だな。生きていた証拠さえ残せないレベルの勘違いヤローだぜそいつと周りの連中は。なら殺しつくして当然だな、うん」

 「ああ、むしろよく教えてくれたダイダラ。礼を言ってやる…そうか、だからお前はああいう()()をしたんだな?」

 「あは!旦那だいせいかーい! わー、ぱちぱちぱちー」

 

 手だけでなく口でもダイダラは拍手を演出し、更に続ける。

 

 「あれを見れば分かるでしょ?芸術家を気取る罪の重さが!そして跡形もなくなくなった里を見た者たちの誰もが理解するはずだ!そう…っ!」

 「芸術は爆発だってなぁ!やっぱサイコーだぜねーちゃんは、うん!オイラのサイコーのベストパートナーだ!」

 「んんっ、もっと…もっと頂戴デイダラぁ…!」

 「ああ、何度でも言ってやるぜ、うん!ねーちゃんはサイコー!究極にしてこれ以上ないオイラの演出家だあ!!」

 「ふぁ…しゅごい…もう足腰が生まれたての小鹿ちゃんだよぉ…!」

 「おい、いつまで下らん茶番劇をするつもりだこの馬鹿姉弟が!それとダイダラ、次は俺の番だろうが!」

 「えーもう少しでイける…はいはい分かりましたー、謝りますぅ。だからその触手みたいな尻尾向けないでくださいー」

 「ったく、分かればいいんだ。いいか、お前はデイダラだけの演出家じゃねぇ。暁の、しいては俺の演出家でもあるってことを忘れんな」

 「はーい。…あれ、でも旦那この後、私のこと傀儡を使って滅茶苦茶にするんじゃなかったっけ?」

 「はぁ!?おい旦那、そりゃ一体どういうことだ!?俺のねーちゃんにあんなことやこんなことをだとう!?」

 「ッッ、ぶち殺すぞキサマ等ァッ!!」

 

 

どこまでも広がる青空の下。

三つの黒衣が血色の雲を纏い争っている。

 

「おい待て!C2ドラゴンは貴様卑怯だろう!?」

「知るか旦那!やらしーあんたのことなんかもう大嫌いだ!!赤砂のサソリにふさわしく、このままあんたの身体粉々に吹き飛ばしてやるぜ!うん!」

「ふひ、あははははははははは!!良い!殺してデイダラ!嗚呼…好き、大好きみんな!愛してる!旦那のことも!デイダラも!みんなみんなみいいんな…!この世界、もっと滅茶苦茶にしちゃおうよ!」

 

 

 二人の男と、一人の女。

 孤立した繋がりだけを求めた姉弟と、孤立こそを望んだ一人の男性。

 己が美を追求し続ける芸術家たちと、そんな彼らを理解できない演出家。

 

 これはそんな彼女たちが奏でる歪で…そしてどこまでも救いのない物語――。

 




 自分の中では正直デイダラの姉を呼ぶときの言い方は、とあるナルト二次創作品の “あーね”を言わせたいんですよねぇ…あれが完璧にグッドなんや。
 (あの素敵な作品とは比べられないくらい真逆のダクファン染みたドロドロとしたものを書こうとしてはいますが)


キャラ紹介

ダイダラ

岩隠れの里の抜忍でデイダラの双子の姉
容姿はデイダラと瓜二つだが、身長は15センチ小さい151センチと小柄で髪はデイダラよりも長く適当に結い上げても肩甲骨まで垂れる程度。
瞳孔が常に開いていてハイライトがなくドブのように濁り腐っている。
デイダラに異常な愛と執着を抱いており、その為なら文字通り何でもやるヤバみちゃん。 

デイダラとサソリの演出家にして暁の演出家。
暁の外套は前を開けて肩にかける程度で着ているので、どこかダボっとした見た目。
裾を引きずりながら歩いているので外套の下の部分はボロボロ。
太もものポーチの中には道具の他に初めて人を殺した際用いた錆だらけのクナイを常備している。
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