「あっるっこー、歩こおう!私はー元気ぃ、歩くのー大好きい、どんどん歩こーう!」
人通りのない道に、どこか調子はずれな歌が響く。
芸術家コンビ+演出家のトリオは今、近くの街に向かっていた。
「よく言うぜ、なら自分の足で歩けってんだ。俺はお前の乗り物じゃねえんだぞ」
自分自身が中に入って操る絡繰、ヒルコの肩に横乗りになって次は鼻歌を歌い出したダイダラにドスを利かせた声を向けるサソリ。
「言ってませんー、歌ってるんですぅ」
だがダイダラはどこ吹く風。ああ言えばこう言うの典型のような言い訳で降りるどころか背中の上でころんと寝そべり一体何が面白いのか笑みを浮かべる。
「私体力のない女の子だよお?ね、ね。あとでお礼に旦那の眼球いっぱい舐めてあげるからさぁ」
「止めろ。俺の作品が穢れる」
「あはは!そうだよねぇ、流石旦那。それでこそデイダラの次に偉大な芸術家だよ!」
名前が出たことでチラリとサソリは隣を見るが、そこにデイダラはいない。
姉がやらかした不祥事の後処理を今、彼は行っている。
「それと比べてさっき道にいた雑草はなに?可愛い君の似顔絵を描いてあげるって…やだ、気持ち悪い目で私のこと見てさ。きっとそういうつもりだったんだよあれ。だって目ん玉引きずり出してペロペロしてあげたらおしっこ漏らして喜んでたもん」
いや、違う。あれはただの商売だった。
きっと旅の路銀にしようとしていただけだとは口に出さない。
「ふひ、変態だあ…変態さんだったよね旦那。こおんな女の子にお腹の中グジュグジュにされただけでみんな白目剥いてアヘ顔見せてくるし、さっきの変態さんもお腹の上あたり刺したらドピュって変な液私にぶっかけてきたし」
「ありゃ
「あはは…つまんなぁい!私汚されかけたんだよ旦那!服も着替えなきゃいけなかったし髪もべったりして洗うの大変だったし!ふひ、あはは…どうしようデイダラ、お姉ちゃんデイダラの赤ちゃん産む前に知らない男の人に穢されちゃったよう」
それは明らかに異常であり、会話が成立していないというある意味典型だった。
だがサソリは特に反応することもなく、身体の上にダイダラを背負ったまま歩みを進める。無視していれば、自然とこの女は大人しくなるとよく知っている。
ただ、無視し続ければ次の瞬間何をやらかすか分からんから意識を向けることだけは心がけているが。
「…もういいよ。旦那のスケベ。私の身体の感触楽しむために全力で意識を集中するなんて」
「なわけあるかボケ。嫌なら降りろ」
「ううん、嫌じゃないもん。好きだよ?私旦那のことは」
「…」
「だって生きた匂いがしないもん。腐った肉の匂いと血の匂い…暴力の匂い…すごく落ち着く」
すぅっと鼻を暁の該当に擦りつけ、思い切り息を吸う。
ダイダラの鼻孔を擽るのは土の匂いと…噎せ返るほど濃厚な死人の匂い。
「なんだか眠くなっちゃった。ねぇ、旦那…なんで人は殺し合うんだろうね」
まるで脈絡がないが、そのヘドロのように濁った眼をとろんとし始めたダイダラには些末なこと。そもそも彼女が筋道の立った会話を行うなど、ずっと一緒にいるデイダラでさえ何年も見ていない。
ただ、何となくその質問をサソリは無視することが出来なかった。
「…は、ンなもん決まってるだろ」
“この世界がどうしようもなく狂っているからだ”――。
◇
「――ちゃん、ねーちゃん起きろ、うん」
「はえ…?でえだら…?」
最愛の弟の声に、ダイダラは微睡の中から戻ってくる。
身体がヘドロの中にあるように上手く動かないが、起きた時はいつもこんな感じだ。
「…おはよおのちゅー」
「はいはい、そういうのは将来彼氏が出来てからにしたほうがいいぜ、うん。取りあえず起きてくれ、宿に着いたぜ」
抱っこを強請るように両手を広げるダイダラだが、彼女の愛しいデイダラはハグするようにポンポンと優しく背中を叩く。
「ん、もう少しこのまま」
「はいはい」
苦笑するデイダラだが、その表情に嫌気はない。
元々この寝起きの習慣は、幼い頃デイダラが姉に強請っていたことだった。気が付けば逆になっていたが、互いにまだ生きてる…置いて行かれていないと実感できるこの時間が好きだった。
「んん…良い匂い。このまま二人共溶けて一つになればいいのに…」
「最高の演出家と最高の芸術家が?ならもう何もいらねぇな、うん」
「…やっぱ駄目、私にはデイダラが必要だもの」
「オイラもそうだぜ、うん」
クスクスと笑い合い、抱きしめ合ったままパクリとダイダラはデイダラの鼻の先を口に含む。そのまま暫く唇で甘噛みをしてようやく満足したのか、ホールドしていた手を離した。
「寝起きに気持ちの悪いもん見せつけんじゃねぇ」
「旦那も混ざる?きっとすごく気持ちいいと思うよ」
ようやく話が出来るとサソリが口を挟むも、相変わらずダイダラはにへらと笑い狂ったままだ。
「そのまま殺してやりてぇが、まずは聞こうか。お前この街に俺たちが来た理由覚えているか?」
こてんと首を傾げる仕草は、明らかに分かっていない。
「むー、んー?私が読んでる漫画の新刊ってもう出てたっけ?」
やはりかとサソリは溜息を吐く仕草を見せる。
「さっき書店に寄ったらあったぜ、うん。ねーちゃんほんとこれ好きだよな」
「わ、ありがとデイダラ!大好き!」
ガバ!とダイダラがデイダラに飛び掛かるが、忍者として身体を鍛えているデイダラにとって小柄な姉を受け止めるくらい造作もない。
「イチャイチャしてんじゃねぇぞ馬鹿姉弟。ここに立ち寄ったのは物資の補給だろうが」
絡繰の身体をしているサソリは飲食など必要ないが、デイダラたちには当然いる。それに全員が指名手配されている身としてはこの道中何度も襲撃に会い、クナイなどの武器やサソリの毒の元となる薬もそろそろ心許無くなっていたし、何より彼らはこの後ペインからの指示により、最近暁の周りを嗅ぎまわるネズミを駆除してこいと言われている。それも込みの補給だ。
こういう大きな街には大抵彼らのようなアングラな存在に商売する闇の売人が根付いている。今回向かおうとしているのは、もう何度も売買を成立させた所謂信頼できる売人だ。
「そうだっけ?そうだったね、なら私が寝ている間に買ってきたらよかったのに」
「…お前を一人になんざできるわけねえだろうが」
一見ダイダラの身を案じるようなサソリだが、真相はその逆だ。
万が一自分とデイダラがいない間に彼女が起きたら?…何をやらかすか分からない。いや、確実に何かをやらかす。それが何なのか想像も出来ないし恐ろしい。下手をすればついこの間の谷隠れの里の二の舞を、寝起きの運動がてら平気で行うに違いない。
何よりこの三人の中で一番名と顔が知られているのはダイダラだ。常に世界から死を望まれ続けている呪われた少女がこのダイダラなのだ。暁の演出家として、何より自身の演出家である彼女が殺されるのは非常に痛い。
「旦那一人で行ってくればよかったのに。なに、寂しいの?ママがおっぱい飲ませてあげようか?」
「死ねクソアマが。それと忘れんな、今のお前は
デイダラが行ってくればとは、言い出さない。
たった一度だけだが、偶々寝起きのダイダラの傍にデイダラがいなかった時の、彼女が見せた発狂具合はもう二度とごめんだ。
「はーい、ごめんなさーい。…うん、目が覚めた。じゃあ行こうか!」
湯の国という場所はその名の通り、どこを掘っても湧き出る豊富な湯で有名だ。その為観光名所として栄えていて、国中に繁華街が乱立している。
また中立国としての一面も持っており、大国でありながらも唯一忍などの戦力を所持していないこの国に癒しを求めて訪れる観光客は多い。その中には当然各国の里の忍者も含まれているが、中立を守るこの国で刃傷沙汰は法度とされているので驚くほど争いごとは少ない。
「相変わらず、平和な国だ」
苛立つような口調で呟くサソリだが、悪目立ちを避けてか争いごとを起こす様子はない。そもそも自分たちは追われる身なのだ。目立つほうがどうかしていると思う彼だが、そもそも暁の外套にどう見ても人間じゃない骨格のサソリはかなり目立つ。それでも周りが不信な眼を向けないのは忍というものは基本クセが強く、中には鎖帷子を肌着にするような頭のおかしい連中が平然といるためだ。
「まぁいいんじゃねぇの?うん、こんなのんびりした雰囲気も偶には。折角来たんだ、楽しもうぜ旦那」
「…まぁ、事を起こすような雰囲気じゃねぇ。それは確かだ」
呑気なことを言うデイダラだが、その眼はせわしなく頭に被った編み傘の隙間から周囲を伺っている。無論会話を交わすサソリもだ。が、一人だけ、忍界きっての問題児であるダイダラには警戒心の一文字もない。
「わぁ、温泉だあ!ね、ね、デイダラ。後で一緒に入って昔みたいに洗いっこしようよ!」
「ねーちゃん、あんま大きな声で言うなって。流石に恥ずかしだろ?うん」
ほのぼのとした姉弟の雰囲気に、周囲を通りがかる人は暖かい目を向けるもその少女が史上最悪のテロリストだと気づける者はいない。
ダイダラの編み笠を片手でデイダラが持ち、腕にしがみつくダイダラの顔をすっぽりと覆い隠しているからだ。またダイダラの顔はずっと愛しい弟の方を向いているので、見えたとしても彼女の後頭部くらいなものだ。
三人の足は、徐々に今以上に雑多な場所へと向かっていく。周りは人ごみで溢れ、少し歩けばいくらでもある路地裏の一つ、気づけば三人はスルリと身体を潜り込ませていた。もう人は見当たらない。だが先頭を歩くサソリは更に奥へと進み、とある扉の前で立ち止まり李小さくノックをした。
「…どなたかな?」
「黒衣が赤い雲を率いてやってきた。入れてくれ」
合言葉にすぐさま扉が聞かれる。
中にいたのは初老の上等なスーツを着た男性だが、明らかにカタギの雰囲気を出していない。
「サソリの旦那か、久しいな。よく我が湯けむりファミリーを頼ってくれた」
男の名はイオウ。この湯けむりファミリーのボスであり、マフィアの頭目だ。
「まさかお前が直接出てくるとはなイオウ」
「はは、そろそろ来るころだと思っていたんだ。さ、中に入ってくれ」
「世話になる」と短くサソリが言うように、イオウはこの街の裏の顔役だ。
争いごとこそ中々起きないこの場所だが、所謂ショバ代や暁のようなテロリストに物資を売りつけることでシノギを得ている。
促されて中に入るとそこは外見の薄汚さとは打って変わり、上等なマホガニーのデスクに高級なソファーとまるでホテルのような仕様だった。
「相変わらずの金のかけ方だな。角都が見たら勿体ないとネチネチ言われるぜきっと、うん」
「角都さんか、あの人の金に対する執着心は尊敬に値するが、金は使ってなんぼだろ。デイダラさん」
「俺もそう思うが、あいつには言うなよ?後が面倒だ」
用意されたソファーに座り、部下が持ってくる持て成し用の紅茶に舌鼓を打ち、サソリたちと会話を弾ませるイオウだが、その視線は決して編み笠の下に隠れたデイダラの腕にしがみつくダイダラへと向けられることはない。挨拶さえもだ。まるでそこにダイダラは
「リストは用意しておいた、すぐに用意してくれ」
「ああ、
商談は順調に進み、ボスであるイオウから渡されたリストを持って部下の一人が逃げ出すように物資を保管している部屋へと駆け込んでいく。すると今まで大人しくデイダラの匂いを嗅いでいたダイダラがふと、呟く。
「…喉渇いた。ねぇデイダラ、ここって何か飲み物ある?」
たった一言、ただ当然のことを口に出しただけで、イオウたちの全身からぶわりと嫌な汗を噴き出す。
「ん、ああ、ねーちゃんの分もちゃんと用意してくれてたんだな。サンキューな、おっさん」
「あ、はは…も、もちろん。いや、当然だ」
「…デイダラ、そのままくれてやれ」
サソリに言われた通り、デイダラは器用に編み笠で隠したままダイダラへお茶の入ったカップを手渡す。
「ほらよ、ねーちゃん」
「ありがと。…ぷはぁ、生き返るねー!ありがとおじさん!…お礼って顔を見ながら言うもんだっけ?」
「別にいいだろ、うん。本人も気にしてないみたいだし」
「そう?じゃあいいかな。デイダラ以外興味ないし」
クスクスと笑い声が聞こえる。ただそれだけでイオウたちにとっては何よりも恐ろしかった。
裏社会においてダイダラの名を知らない者はいない。湯の国のような場所でさえ、最悪の狂人として“
…だからこそ理解できない。
「美味いか?ねーちゃん」
「うん、美味しい。いる?口移しで飲ませてあげようか?」
どうしてデイダラはあんな狂気に飲まれた目を向けられて平然としていられるのか。…どうしてあんな、慕うような優しい目を…そんな悍ましい怪物に向けることができるのか。
「――サソリの旦那、約束のもんだ」
「確認する。……よし、受け取れ」
金の入った袋を渡されるが、イオウは確認するのも億劫なようですぐに部下へと渡す。
確認しなくていいのかとサソリは視線を向けるが、イオウは疲れ切った様子で初めてチラリとダイダラの方を見た。
「そうか…迷惑をかけたな」
「いや、そんなことは…ただ申し訳ないが、早く行ってくれ…もう限界だ」
「分かった。おい、行くぞ馬鹿共」
「あいよ。だってさねーちゃん、行こうぜ」
「えー、このお菓子美味しいのに…持って帰っていい?」
完全に油断だった。
ピョコンと編み笠の下からダイダラの顔が出て、イオウに強請るような視線を向ける。
お願いするような、小さな子供のように眉根を下げるその仕草は大変愛らしく思う。
だが、その眼だけは駄目だった。
腐ったドブさえ清流に感じるほど濁り切って澱んだ瞳。視線を交わすだけで目が腐り落ちる…頭の中がグチャグチャにされるような感覚がイオウを襲う。
「あ…、ああ…っ!」
「いいの?やたー!ありがとー!じゃあ貰うねー」
ピョンピョンとダイダラが嬉しがる度に、胸の膨らみが揺れるがそんなものに誰も見向きもしない。イオウを含め、彼の部下全員が口元を抑え吐き気を何とか堪えており、唯一新人らしい若者が、その光景を信じられないと驚いているだけだ。
「――ボス、御一行が帰りやした」
「そうか、ご苦労」
失礼しますと若者は報告を終え、部屋から出ようとした瞬間。
「…聞かなくていいのか?何で俺たちがああなったのかを」
煙草に火を着け、どこを見るでもない目をしたイオウが若者を呼び止める。
そのことに驚く若者。他人の便所は覗き込むなとは、彼にイオウが教えた裏社会のルールだったはずだ。
「そうだな、でもあれは例外だ。むしろ知ったほうがいい」
ギシリと椅子を軋ませ、イオウは指を絡めまるで懺悔するかのように話し始める。
「サソリの旦那はうちにとっての上客でな、お前が来る以前からそれなりにうちを使ってもらっている。そんな旦那がある日、あのガキ二人を連れてやってきた」
暁に入る前から、デイダラはともかくダイダラに関してはそれなりに有名だった。でもそれは単純に、頭のイカレた女という意味で…それと彼女に関する噂によるもの。
一晩泊めてくれた一家の母親に、自分の旦那と子供の殺させ絞った血で風呂を浴びさせただの、整った顔をしている彼女にすり寄ってきた男どもの局部を笑いながら切り取り、火炙りにして食わせたなどのそんな噂…だからだろう。
裏社会を生き延びてきたイオウ、その一人息子が興味を持ったのは。
「え、ですがボスには子供は…」
「ああ、
若者は信じられなかった。自分が慕うボスの子供が殺されていたから…じゃない。
何故我が子を殺されたボスが、その報復をしないのか、だ。
「普通に殺されたなら、きっとそう思ったんだろうさ。…でもあんなのは…普通じゃない、狂ってやがる」
初めてダイダラがこの湯けむりファミリーを訪れた時、イオウの息子ユドノは一晩抱きたいと迫った。お前は雌で俺は雄、金ならいくらでもやるから取り合えず抱かせろと。
“いーよ。でも私も楽しませてね?”
ニコリと笑いながら、そのまま二人はユドノの部屋へと消えていった。
正直イオウは焦った。相手は赤砂のサソリとして各国から恐れられた忍の連れ。弟だと紹介されたデイダラもまたそんなサソリのパートナーだと聞く。暴れられればひとたまりもないと。
「だがデイダラもサソリの旦那も…笑ってた。これでしばらく用意しなくてすむ…とな」
話を進めるにつれ、イオウがカタカタと震え出す。手の平にはじっとりと汗を掻き息も荒い。
しかしイオウは話すことを止めようとしない。もう二度と、あんな出来事はあってはならないと彼は心に決めていた。
「その日、一晩旦那たちは泊っていった。…あまり言いたくないが息子のユドノは当時何人も女を壊していてな。それとあの頃でもイカレた女と噂されたダイダラがどんなものか確かめようと、当時の若い衆が見に行ったんだ…ついでに混ぜてもらおうとな」
でもそこで繰り広げられていた光景は…裸になったダイダラが、跨りながら上下に身体を揺らし…部屋全体と己をを血で真っ赤に染めながらユドノを手に持った錆びたクナイを振り下ろす様。
話を聞くだけで若者は口を抑えた。胃がムカムカする…その感覚さえ気持ち悪い。
「ユドノは解体されていた…錆びたクナイで何度も何度も丹念に、液状になるまで。…ダイダラは引きずり出したハラワタを縦に引き裂いて直前にユドノが食べたもんを床に並べていたらしい」
「う…おぇ゛っ!」
もう、我慢の限界だった。
ビシャビシャと部屋の床を汚されようと、イオウはただ静かに見つめている。
何せまだ彼はマシなのだ。話を聞いただけで実際には見ていない。
イオウもまたその光景を見ていない一人なのだが、事が済んだ後…ダイダラは裸のまま服も着ずにイオウの部屋を訪れ、シーツを袋状に詰めたユドノを見せて、褒めてと言わんばかりの満面の笑みを浮かべて…。
“おじさん!この玩具、頭に千本刺したら手足がビクビクって動いてすっごく面白かった!でも、もう壊れちゃったから返すね!今度来た時は新しいの用意しておいてね、あはは、楽しかったなぁ!”
「…次からはお前も他の連中みたく目を合わせるな、口も開くな。絶対にあの怪物に興味を持たせるな…でないとお前を玩具として渡さないといけなくなる。…いいな?」
「旦那―、確か今日一日はこの街にいるんだよね?」
イオウのところから、宿に戻ってきた三人。
軽く食事を済ませたダイダラは弟の膝枕に恍惚の表情を浮かべた後、ふと身体をサソリの方へと向けた。
「なんだ、藪から棒に。明日にはターゲットがいる隣町に行く…まさかお前、観光したいとか言い出すんじゃないだろうな?」
「いえーす、正解―!」
人差し指と中指を立て、ちきちきと交互に動かすダイダラ。
「というわけでデイダラ、でーといこ!デート!」
「デートだぁ?ねーちゃん流石にそれは…」
「…嫌なの?」
ドロォっと瞳が不安気に揺れる。
チラっとデイダラが念のためサソリに確認を取ると、溜息を吐きながら了承する姿が見えた。
「いや、行こうぜねーちゃん。うん」
「やた!じゃあ着替えるね!」
何の恥じらいもなく、ダイダラはその場で忍装束を脱ぎ始める。
谷間が少しできる程度の小ぶりな胸や下着を惜しげもなく晒すダイダラだが、そもそもデイダラは小さい頃から見慣れているし、サソリは興味もない。
ダイダラが普通の着物に着替え終える頃、デイダラもまた街中を歩いておかしくない恰好に着替えていた。
「…夜までには帰ってこいよ」
「あんたは俺たちの親父か、うん」
「あはは!行ってくるねパパ!何なら私の脱ぎたてほやほやのそれ使って、遊んでていいからねー」
「触りたくもねぇ…さっさと失せろ」
ばいばーい!と手を振って厄が去っていく。
部屋にはサソリだけが残り、急に静かになる。
「…暇だな」
やることは先に終わらせるサソリだ。することがない。
薬や毒の調合は先ほどデイダラ達が食べている間に終えたし、傀儡も今は作りたいアイデアが特に思い浮かばない。
ふと、視界に脱ぎ捨てられたダイダラの服が入る。
「…洗濯でもしてやるか」
「ふんふんふーん♪」
「ご機嫌だな、ねーちゃん」
横にべったりと全身でしがみつく姉の姿に、弟のデイダラは苦笑こそ浮かべと離れる様子はない。あまりの仲睦まじさに、顔が瓜二つでなければ本当にカップルのように周りには見えただろう。途中忍らしき男性がダイダラたちの方を見るが、お腹いっぱいだと気にもせず別の方へと歩いて行った。別にダイダラが変装をしていたり、変化の術で顔を変えているわけではない。
顔もでまわっているが、一番の特徴は何かと聞かれれば、彼女を知る全ての者がその腐った眼だと声を揃える。ドブのようなヘドロのような、汚泥のような、蠅や蛆さえも逃げ出すあの澱みを見間違えるはずがないと。
「だって久しぶりじゃん?こうやって二人きりになるのって」
今のダイダラはあまりの嬉しさに顔の半分以上をデイダラに押し付けて歩いている。つまり眼さえ見られず堂々としていれば、彼女はどこにでもいる可愛い少女なのだ。
「デイダラ、あーん♪」
「恥ずかしいってねーちゃん…ん、あんがと」
途中休憩がてら立ち寄った茶屋で隣同士に座り、持った団子をダイダラは愛する弟に食べさせる。口では恥ずかしがっているが、それを拒否するデイダラではない。
茶屋はダイダラたちの他にも観光客がいて、店先にはいくつもの席が用意されていた。彼女たちが今座っているのも、目の前に林が見えるが場所で精々がおこぼれを啄みに雀が何匹かいる程度。デイダラが道路側でダイダラがその奥、これならダイダラが眼を開けても回りこんで態々見に来ないと分からない。
「も少し休憩したらさ、次温泉行こうよ!さっき貰ったチラシに家族湯ってのがあってね?――」
姉もこんなに喜んでくれているし、来てよかった。
茶屋を後にして歩きながら、心からそう思う。
――さて、問題はここからだな、うん。
キャラ紹介
デイダラ
みんな大好き芸術は爆発馬鹿。
頭のおかしい姉がいるせいで、若干どころかかなり常識をどこかへ忘れ去ってしまった人。姉というものは弟の身体を舐め回すものだと思っている。ほぼ毎日のように耳を舐められているので最近聞こえづらい気がするのが少し悩み。
ダイダラ
好きなものは弟、将来お嫁さんにしてほしい相手も弟。大好物も弟なブラコンねーちゃん。
仮の話ではあるが、もしデイダラが死んだらその瞬間に人類全てを巻き込んだ壮大な自殺を始めようとする。割と真面目にこの世界の平和はデイダラ、お前にかかっている。
サソリ
パパでありママ。
ようするに保護者。