言い訳ではありませんが、やはり複数の小説を書いているとこうなる事はありますね……ううむ。
ですが、存在そのものを忘れた訳ではありません!!信じてください!
布団か程よく温いとまるで冬場のコタツの魔力の様に抜け出しくない気持ちになるのは俺だけだろうか。
程よい温さはじんわりと体を縛り、ふかふかの布団が意識を奪っていく。こんなものはセイレーンだって抗えないだろう。
そうだ、いっその事羽毛布団をセイレーンに投げつけてこの恐ろしい魔力の布団で寝て貰えれば勝てるのでは? という、寝息にしてもとんでもない飛躍した理屈を頭の中で思い浮かべると、布団の上で欠伸をしながら体を起こした。
今日は土曜日で学校は休みだ。今日は特にやる事も無ければ課題も無い。それに昨日の夜はある出来事によって疲れがまだ抜けていないから、このまま禁断の2度寝をした。
すやすやと暖かい暗闇の中に意識を落とすと、ガチャりと扉が開かれた。白髪が見えたから加賀姉さんかな?
でもなーんか加賀姉さんにしては髪が長いような……ダメだ、眠くて目が開けられない。
「お、おーい……しきか……じゃなった。ご主人様〜起きて下さい〜」
「むにゃむにゃ……今日お休みだからもうちょっと寝かせて……むにゃ」
「え、えぇ……? 確かに休みの日はそうしたいけど、それじゃあメイドとしての立場がないんですよ! ほら、起きて下さい〜!」
体を揺すられて寝たくても寝られず、思わず目を開けた。朝日を背にして映し出されたのは、白の三つ編みが特徴的な長髪であり、メイド服を来たメガネの女の子だった。
「……エディンバラさん?」
見た事あるKAN-SENの名前を呟いたと同時に、驚いた猫のように布団から体が飛び上がり、目玉が飛び出る程の衝撃を受けながら、俺は叫んだ。
「エディンバラさん!?!?」
叫んだ驚きでエディンバラさんも同様に驚き、朝から家が震えていた。
「優海ー!? 声が大きいですが、何かあったのですか?」
1階から心配した母さんの叫び声がここまで聞こえ、エディンバラさんが大丈夫だと大きな声で返事をし、エディンバラは慌てながらクローゼットの中にいる俺の私服を取り出した。
「さ、さぁご主人様! まずは着替えましょう! いつまでもパジャマじゃやる気が出ないと言いますし!」
「え? 今?」
何を慌ててるのか、エディンバラさんが無理やりにでも服を着せようとしていた。
「ちょちょちょ! 着替えぐらい1人で出来るから!」
何とかエディンバラさんを宥めさせ、俺は朝からドタバタしながら着替えを済ませた。
「そういえば……昨日ベルファストさん言ってたな〜エディンバラさんを今日一日俺の家に居させるって」
確か理由は、エディンバラさんの実力を見せるとか言ってた様な気がする。だけどその原因を作ったのはエディンバラさん本人だ。
まぁ詳しい事はさておき、今日はエディンバラさんがこの家に過ごすという事で認識しても大丈夫だろう。
いやぁ……大変だった。姉さん達に訳を話すのは。
極度に他の人、特に女性との関わりを持つ事に反対している赤城姉さんにこの話をすると、怒る所か顔色ひとつ変えずにエディンバラさんをどうにかしようとしていたから本当に怖かった。
もし赤城姉さんが今日部活の遠征でここにいなかったらこの家所かこの辺一帯が火の海になっていただろう。
この時ばかりは神様に感謝したいぐらいだ。
「では、私は近々ある迎春の儀*1に関して呼ばれているので、留守を頼みます」
「はーい、でも気をつけてね? 母さん体弱いんだから」
「三笠さんや他の方がいますから大丈夫です。では、行ってきますね」
母さんはそう言って出かけてしまい、これで家は俺とエディンバラさんの二人になった。
そういえば今エディンバラさんは何をしているのだろうか、見送りを終えて居間にいるエディンバラさんを見つけると、エディンバラさんは皿洗いをしていた。
「手伝いましょうか?」
「大丈夫ですよ〜もうすぐ終わるので」
エディンバラさんは手際よく皿洗いを終え、洗われた皿はいつにも増して綺麗になっていた。流石ロイヤルメイドという事だろうか。
まぁ、ロイヤルメイド自体どういうものなのかよく分かんないけど。
「そうだ、聞きたいことがあったんだった。ロイヤルメイドってなんなんですか? 学園の部隊……というのは何となく分かるんですけど」
説明しておくと、アズールレーン学園には部隊というものがある。まぁ言ってしまえば部活みたいな物だ。
バスケ部や剣道部、普通があれば、ロイヤルメイドの様に変わった物もある。その中でもロイヤルメイドはメイド服に俺の事をご主人様って言うものだから、気にならない訳が無い。
「えー、でも今の私ロイヤルメイドじゃないし……」
「それでも前はそうだったんですよね。その時の事でも良いので教えてください」
「うーん、指揮官は学園の理事長のエリザベス様の事は知ってますよね?」
エリザベス……学園の理事長のクイーン・エリザベスさんの事だろう。学園の理事長でありながらも、ロイヤルという陣営の代表的存在……というか、女王様らしい。
その為、ロイヤルの政治にかかりっぱなしだから学園にもあまり姿を見せず、大変な毎日を過ごしているらしい。
「ロイヤルメイドはその女王様と指揮官に最高で最上の奉仕をする為に日々励んでいる部隊なんですよ」
「奉仕って言うと……例えば?」
「へ!? そ、その……なんというか……よ、夜の……お世話とか……」
「え? 何で? 聞こえないんですけど……」
あまりにも口ごもったてたからエディンバラさんに近づき、耳をすませた。
だけどエディンバラ先輩は顔を真っ赤にし、メガネを外してメガネ拭きでメガネを拭いた。
「ねぇ、奉仕って何の事ですか?」
「な、何でも無いですよ!! とにかく、今日は指揮官の身の回りのお世話をしますからね!」
「……って、言われてもなぁ」
正直、やって欲しい事は無かった。
特にして欲しいことは思い浮かばずにいると、エディンバラ先輩は困った顔をしてじっと俺を見ていた。
悪い事なんてしてないのに何故か悪いことをしている罪悪感が込み上げ、必死に頭を悩ませた。
数分悩み、洗濯カゴを持って外に出ている母さんを見つけると、俺は閃いた。
「そうだ。母さんの家事を手伝ってくれないかな? 母さん、身体弱いから」
「はい。どんと任せてください!」
エディンバラ先輩は胸を張って早速母さんの元に行き、家事の手伝いを開始した。
「天城さん、手伝いますよ」
「あら、エディンバラさん。良いんですよ、お客様の手を煩わせる訳にはいけませんし」
「いえいえ、これでも私はロイヤルメイドですから。むしろ手を煩わせてくださいよ」
母さんは少し考えた後、快く手伝いを受け入れ、エディンバラ先輩は早速洗濯取り掛かった。流石はメイドさんと言うべきか、手際良く濡れた服を物干し竿にかけ、カゴに入っている洗濯物がどんどん無くなっていく。
凄いなと思ったのも束の間、エディンバラ先輩が布団カバーをかけようとした瞬間、どこからともなく風が一瞬破天荒になり、布団カバーがエディンバラ先輩を覆った。
覆われたエディンバラ先輩は視界を奪われてしまい、何も見えなくなってしまい、物干し竿を支えている棒に頭をぶつけ、物干し竿は支えを失い、竿にあった洗濯物全てが地面に落ちてしまった。
「うおっ!? 大丈夫? 2人とも」
「私は大丈夫です。そちらは大丈夫ですか? エディンバラさん」
母さんはこんな状態でも驚きはせず、落ち着いてエディンバラさんをおおっている白い布団カバーを取り、目を回しているエディンバラ先輩の姿を現した。
「う……うぅ、はっ! 洗濯物が! ご、ごめんなさい! 直ぐにお洗濯しなおしますから!」
失敗を取り戻そうとエディンバラ先輩は地面に落ちた洗濯物を全て取り込み、急いで洗濯機がある部屋まで持ち込もうとした。
「あっ、気をつけて! そこに段差が……」
しかし母さんの注意は虚しく、山のように積まれた洗濯物で前が見えないエディンバラ先輩はすぐ側にある段差に気が付かず、その段差に足をつまづかせ、エディンバラ先輩は盛大に転けてしまった。
「うっ……どうしてこんな目に〜」
「大丈夫ですよ。洗濯はまたすればいいのですから。とにかく怪我の治療をしましょう。優海、救急箱を」
「うん、待ってて下さいね、先輩」
縁側から台所まで数分と経たずに往復し、母さんに救急箱を渡し、母さんはエディンバラ先輩が怪我をした膝を治療した。
「うぅ、ごめんなさい。1日だけとは言え、メイドなのに……」
「いえいえ、失敗は誰にでもある事ですよ」
「でも、アイツなら絶対に失敗しないから……」
「アイツ……?」
「多分、ベルファスト先輩の事ですよね」
エディンバラ先輩は小さく頷き、スカートを小さく握りしめた。
「ベルならこんな失敗はしないし、迷惑だってかけない。はぁ、姉なのにどうしてこんな……」
エディンバラ先輩から、目に見えてベルファスト先輩に対するコンプレックスが感じられた。
確かに、姉なのにそれよりも完璧な妹がいるという劣等感は、末っ子である俺には多分永遠に分からない気持ちだ。
どう声をかければいいかも分からず、どうしたらいいと母さんに目配りで伝えた。
俺の目配りに気づいた母さんは少し悩み、少しすると何かを思いついたのか、エディンバラ先輩に1つのお願い事をした。
「そうだ、エディンバラさん。優海と一緒に買い物に行ってくれませんか?」
「へ? い、良いですけど……どうして指揮官と一緒に?」
「優海だけだと他の事に目移りしそうで心配なので」
「えぇ〜? そんな事ないよ」
「昔お釣りを騙して勝手に木刀を買ったのは誰ですか?」
母さんは何年か前の事を笑顔で告げ、俺は覚えてないと誤魔化すように下手な口笛を吹いた。
下手な口笛を圧のある笑顔で見続けた母さんに負け、その笑顔は今度はお釣りをねこばばしないで下さいという意味だった。
「それに、エディンバラさんも重桜は初めてで気になる所もあるでしょう。案外がてらにどうでしょう?」
エディンバラ先輩は少し悩み、母さんの提案を受け入れ、早速汚れたメイド服から赤城姉さんの古着である赤と黒の和服に着替えた。
少し丈が長いが、和服の裾は元々長いからそこまで気にはならなかった。初めての和服を着たエディンバラ先輩は慣れない衣服に戸惑いながらも、重桜独特の服を着られて嬉しそうな顔を少しだけ浮かべた。
「わぁ……でも、ベルならもっと似合うんだろうな」
エディンバラさんはそう呟くと、また微笑みを浮かべた。
「では、お使いお願いしますね。優海、エディンバラさん」
そう言って母さんは携帯端末からお使いリストのメモを転送した。
メモのリストはバターや砂糖、薄力粉、卵とココアパウダーだった。これは何かの食材だろうか。
「じゃあ行きましょうか、エディンバラさん。ちょっと遠出になりますけど」
「はい。荷物持ちは任せてください」
「あはは。じゃあ、行ってきます」
家の扉を開け、エディンバラ先輩と一緒に市場へと歩いていった。
石畳の坂道をくだり、ちょっとの森の道を抜け、いつも通りの道を進んでいく。いつもと違うのはエディンバラ先輩と一緒と言う事だ。
エディンバラ先輩は慣れない道と服で上手く歩けなくなってしまい、思うように動かなかった。
「大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫で……」
そう言った瞬間エディンバラ先輩は坂道の所で躓いてしまい、急いで倒れるエディンバラ先輩を受け止めた。受け止めたのは良いけどその後反動でエディンバラ先輩のメガネがずり落ちてしまったが、エディンバラ先輩自身がメガネを上手いこと空中でキャッチし、事なきを得た。
「ふぅ、危なかった」
「ご、ごめんなさい指揮官」
「これぐらい大丈夫ですよ。ささ、もうすぐ市場ですよ」
少し緩やかな石畳の坂道を上がると、海の地平線が見える市場に到着した。今日は一段と賑わっており、活気が溢れかえっていた。
辺りはお客を呼び止める為に大きな声でアピールしている人や、どれを買うか悩んでいる人、忙しなく働いている饅頭やのんびりしている饅頭もいて大盛況だ。
「わぁ……! 大盛り上がりですね」
「大きなお祭りみたいなものが近いですから、そのせいかもしれませんがね。さぁ、買い物をすませましょうか」
顔を振り返ると、そこにはエディンバラ先輩の姿は無く、あるのは人混みだけだった。
エディンバラ先輩の姿が見えなくなった数秒、今の状況を理解した俺は冷や汗をかき、周りを見てエディンバラ先輩を探したが、人混みだらけで見当たらなかった。
まだそれほど遠くまで行っては無い筈だと近くをうろつくと、俺を呼ぶ声が微かだが聞こえた。
「しきかーん〜!! 助けて下さい〜!!」
人混みの中で手を挙げているのがエディンバラ先輩だろうか、なんということだろうかかなり奥の方に巻き込まれていた。
急いで人混みを掻き分けながらエディンバラ先輩の所に追いつこうとしても、重桜の人たちは獣の尻尾が生えている人が多いから思うように動けないし、めちゃくちゃ暑いし視線も遮られてエディンバラ先輩を見失ってしまう。
こうなったらやっちゃいけない方法だけどアレをやるしかない。適当な所へと人混みを抜け、屋根が登れそうな店を見つける。
丁度いいところにハシゴがかけられている店を見つけ、見つからないように登り、屋根へと飛び乗り、上からエディンバラ先輩を見つける。
「ええと……あ、いたいた。白髪はやっぱり目立つな〜」
重桜には白髪の人はあまり居ないからエディンバラ先輩はすぐ見つけられた。相変わらず人混みを抜けれずに流されているエディンバラ先輩を見失わ無いように別の店の屋根へと飛び移り、エディンバラ先輩を追いかける。
「瓦の屋根って走りずらいな……」
「こらぁぁ! うちの店の屋根に乗ってるのは誰だ!?」
店の男の人が俺に向かって怒鳴り、ビクッと肩を上げた。恐る恐る店の人の顔を見ると、それは顔見知りの男性であり、あっちも俺の事を見ると怒るのを止め、逆に驚いた顔を見せた。
「んん? おぉ、天城さんちの坊やじゃないか! そんな所だと危ないぞ?」
「いや〜実は俺の友達……? 先輩がこの人混みに飲まれちゃって……見逃してくれませんかね? 今度そっちの商品買いますから!」
「なるほどな〜。そんな事なら仕方ねぇ、でも、うちの店で問題は起こすなよ〜?」
「ここだけじゃなくて、他の店でも問題は起こしませんよ。それじゃ!」
雑談を終えて屋根を走るけど、斜面もあるから上手く走りずらい……それでも真ん中を走れば良いのだが、幅が狭い。気をつけないと屋根から落っこちてしまう。
さて、そんな事よりエディンバラ先輩をどう助け出すかが問題だ。場所を見つけたけど救い出さなければ意味が無い。かといってこんな人混みの中で飛び降りてエディンバラ先輩を助け出す訳にも行かない。
走りながら悩んでいると、誰も通っていない行き止まりの脇道があった。丁度数分後にエディンバラ先輩がそこを通るので、少し急いで屋根を飛び移り、その脇道に飛び降りてエディンバラ先輩を待つ。
脇道からエディンバラ先輩が通りかかるのを待ち、白髪にメガネをかけた赤と黒の服を着た女性。間違いない、エディンバラ先輩だ。
エディンバラ先輩を見つけ、すかさず手を伸ばしてエディンバラ先輩の腕を掴み、こっちに引き寄せた。
「よしっ! 捕まえ……」
「きゃぁぁ!! だ、誰ですかー!?」
「へっ?」
何が何だか分からないパニック状態のエディンバラ先輩は俺の頬に全力ビンタをした。
KAN-SENの全力ビンタだから痛いというものを通り越した形容できない鋭さが頬から首にかけて全身に渡り、体を回転させながら行き止まりの壁へと激突した。
ハッと我に帰ったエディンバラ先輩はようやく人を殴ったのか理解し、理解した頃にはもう俺は壁にめり込み、それを気合いで抜け出した俺がいた。
「はっ! つい人間を殴っちゃった……って、ええ!? 指揮官!? どどど、どうして指揮官が倒れてるのー!?」
「やばい……首やったかも……」
「だ、大丈夫ですか!? ま、まさか私が殴ったのって……ご、ごめんなさい指揮官!」
「い、いえいえ……無理矢理こっちに引っ張ったこっちも悪いので……」
流石にこれは強引過ぎたと反省しながら首を労り、エディンバラ先輩は何度も謝った。
「うぅ……」
「まぁまぁ、とにかく行きましょう。今度は離れないようにしましょう」
そうしてエディンバラ先輩と今度こそ離れないように距離を維持し、人混みの中でようやく目当ての店にたどり着いた。その店は重桜でも珍しいパン屋であり、小麦粉の変わりに米粉を使ったパンが人気の店だ。
伝統を重んじる重桜では、他陣営発祥であるパンは少し向かい風気味だったが、美味しさや目新しさで日に日に客足が増えているらしいとか。
そんなパン屋に入ると、獣耳をピンと立て、俺の来客を歓迎した店員が大きな声でいらっしゃいませと言ってくれた。するとその店員さんは顔見知りであり、俺の顔を見るとカウンターから乗り出す様な勢いで俺の来店を歓迎した。
「あ、優海君じゃない! 買い物?」
「こんにちは。これありますか?」
俺は母さんのメモを見せると、定員さんはすぐに店の裏に行って材料を取ってきてくれた。俺がここの店の人と知り合いな事に興味を持ったのか、エディンバラ先輩は肩を叩いてそのことを聞いた。
「ここの人とお知り合いなのですか?」
「昔から母さんのお使いでここに来るんですよ。ここだけじゃなくて、ここの市場の店の人も、多少は顔見知りですよ」
伊達にこの島に住んでる訳では無い。ちゃんと市場の人も俺の事を覚えていてくれているから、俺も覚えないと失礼というか、皆良い人たちだから嫌でも覚えてしまう。
本当に、良い人達ばかりだ。耳がない【かごなし】の俺にここまで良くしてくれているし、指揮官になった日にはもう市場の人達から多くの差し入れを貰った。
それに、重桜は他の陣営と比べて他陣営の人には少し敏感な所がある。伝統を重んじ、神様に対して信仰心が強い重桜の人達にとっては、カミの加護がない他の陣営の人達にとっては、それは【かごなし】と同じ扱いをしている。
それが故に昔、【鎖国】という他陣営との一切の貿易や交流を断ち切った物があったと言うが、セイレーンが出現した頃にはそれは無くなったらしい。
少し皮肉だけど、セイレーンが出てきたおかげで今の重桜があり、【かごなし】の偏見が少なったと考えればいいものだろう。
「おーい優海君、メモの材料を用意したわよー」
「お、ありがとうございます。ええとお金お金……あった」
店員にちょうどのお金を私、紙袋にある材料を確かめると、そこには材料以外に丸いパンが2つあった。
パンは触るともちもちしており、中にはずっしりとした何かが入っていた。
「あれ? 俺これ頼んでませんよ?」
「サービスよサービス。優海君が彼女を連れてきたお祝いよ」
「彼女?」
俺とエディンバラ先輩は互いに顔を見合わせると、エディンバラ先輩は彼女と間違われて顔を赤くし、ぐるぐる目になりながら店員さんに間違いを正した。
「い、いえいえいえ!! 私と指揮官はそんな、こ、恋人関係じゃありません! ええとええと……しゅ、主従関係……と言いますかええと……」
「主従関係……? え、優海君、どゆこと?」
「話せば長くなりますけど……まぁ、後輩と先輩という事で。とにかく、俺はこれで! おまけのパン、ありがとうございます!」
これ以上長くなると状況が悪くなると悟り、おまけのお礼をしながら店を出ていき、少し陽が傾いた帰路を歩いた。
時間は14時過ぎとなり、小腹が空く頃合だ。店員さんから貰ったおまけのパンを1つを手に取り、エディンバラ先輩に渡した。
「はい、どうぞ先輩」
「い、いいんですか?」
「2つありますから。それじゃ、いただきまーす」
もちもちふわふわのパンを頬張ると、中に入っていたのはこしあんだった。滑らかな餡子は豆の風味と甘みが広がり、おまけには勿体ないぐらいの出来栄えだった。
エディンバラ先輩もあんぱんを1口食べると、あまりの美味しさであんぱんをあっという間に食べ終えると、少し物足りなさそうにしていた。
俺は食べかけのあんぱんを半分……には出来ず、小さい方と少し大きい方にあんぱんをちぎり、大きい方にちぎったあんぱんをエディンバラ先輩に渡した。
「良いんですか?」
「はい、一緒に食べた方が、美味しいですから」
「ですが、一応主人の物を食べるなんて……」
「じゃあご主人様のお願いという事で」
メイドであるエディンバラ先輩には返しようが無い言葉でエディンバラ先輩に大きいあんぱんを渡し、後で交換してと言えない様に小さくちぎれたあんぱんを一口で食べ、飲み込んだ。
しかし、いきなり飲み込んだせいで小さいあんぱんでも喉に詰まってしまい、息が出来なくなる。
胸を叩いてあんぱんを飲み込もうとしても上手く飲み込めないところ、エディンバラ先輩が慌てながらも水筒を渡してくれたおかげで事なきを得た。
ここぞという時にすかさず行動してくれたエディンバラ先輩の姿が、顔が似ている姉妹だからかベルファスト先輩と姿が重ねて見え、思わず口の口角が上がって笑ってしまった。
「な、何で笑ってるんですか?」
「いや、やっぱり姉妹なんだな〜って」
「ん、んんー?」
エディンバラ先輩は訳を聞こうとしたが、多分言ったらそんな事無いと否定するだろう。だけど、否定させたく無い気持ちがあった俺は何も言わず、ただ笑ってエディンバラ先輩を誤魔化しながら家へと帰った。
家へと戻り、母さんに頼まれた物を渡すとどうやら無事買えた様だ。すると母さんはエディンバラ先輩呼び、買ってきた物で何か作る様だ。
あの材料なら恐らく重桜では余りみないが、あの焼き菓子を作るのだろう。母さんとエディンバラ先輩がいるなら俺の出番は無さそうだ。
このキッチンから離れ、居間の方でダラりと身体をのばし、畳の上で寝転がる。うーん、この少し冷んやりとした畳の感触がとても良い。重桜に住んでる人ならではの感覚だ。
猫のように畳の上に寝転がっていると、携帯から着信音が鳴り、携帯を手に取って画面を見る。
液晶画面には番号しか書かれておらず、知らない人からの電話だと知る。
悪徳業者? と一瞬思ったけど、この番号は個人の番号だ。悪徳業者とかそういうものは無いと考え、電話に出ることにした。
「もしもし?」
『もしもし、ご主人様ですか?』
「ん? ベルファスト先輩ですか?」
『はい。ベルファストでございます』
まさかの電話してきたのはベルファスト先輩だった。意外な人がかけてきたのという驚きの前に、何で電話番号を知っているのかが気になり、ベルファストさんに問い詰めた。
「どうして俺の電話番号を?」
『ご主人様の願書に書かれていましたので、利用させて貰いました』
あれぇ……たしかそれって個人情報とかも満載な筈じゃ……まぁ、いっか。ベルファスト先輩なら変な事はしないだろうし。
「ところで、何の用ですか?」
『……姉さんはどうしてるかなと思いまして』
「あぁ、心配要りませんよ。今母さんとお菓子を作ってる最中だと思います」
様子を見るために居間からキッチンに戻ると、キッチンに近づく度にいい匂いがしてくる。
キッチンに戻ると、2人はオーブンを見つめながら話をしているようだった。
「エディンバラさんはお菓子作りが上手なのですね。参考になります」
「い、いえいえ。私よりもベルの方が上手ですよ。何もかも、ベルの方が上だし、ベルの方が……姉っぽいし」
エディンバラ先輩の言葉がつまり、目に見えて落ち込んでいた。
多分、ベルファスト先輩へのコンプレックスが原因だろう。末っ子である俺は、エディンバラ先輩の気持ちを汲み取るのは難しく、声をかけようにもかけられない状態だ。そんな中、母さんはそっとエディンバラ先輩の肩に手を置き、エディンバラ先輩は母さんの顔を見た。
「……赤城は1番上の姉ですが、周りを見ずに暴走する癖があります。艦歴で言えば私が姉ですが、この家にとっては長女です。もう少し自覚を持って欲しいです」
すると母さんはいきなり赤城姉さんの愚痴をエディンバラ先輩に聞かせた。まぁ、俺もちょっとはそう思っていたから同意はする。
「加賀は少し我が強いです。もう少し丸くなって、他の人と仲良くして欲しいです。土佐は剣と美術、どちらも出来る文武両道……などと言われてますが、それ以外は駄目ですね」
まさかの姉さん達の愚痴を笑いながら話したが、エディンバラ先輩は反応に困っていた。それはそうだ。いきなり他人の姉の愚痴を聞かされたら誰だってそんな反応をしてしまう物だ。
どうしてこんな事を言ったんだろうか……その理由はすぐに分かった。
「どうですか? 皆は優海の姉なのに随分と欠点だらけです。ですが、堂々としています」
「……私もそうしろと? 無理です……私なんか」
「いいえ、そんなことありません。貴方はメイドとして充分すぎるぐらいに優秀だと思いますよ。朝の洗濯では貴方は怪我こそはしましたが洗濯物を汚れないように動き、寝起きの優海の為に朝食は軽めのものをしていましたよね。他人を優先するその姿、流石ロイヤルメイドです」
(凄いな母さん……よくエディンバラ先輩の事を見てる)
更には俺が気づかなった所をピタリと当て、エディンバラ先輩はそんな事無いと言い返した。それでも母さんはそれを上から押しつぶすようにエディンバラ先輩の良い事を何度も何度も言い続け、遂にエディンバラ先輩は折れて顔を赤く染めた。
「自分の良い所は、案外自分では気づかない物ですよ。そうですよね、優海?」
「え"、バレてた?」
「バレバレですよ。盗み聞きしてないで、貴方も来なさい」
「はーい。……じゃ、ベルファスト先輩。また後で」
バレていた事に気づかず、エディンバラ先輩にバレないようにベルファスト先輩の電話を切った。
「し、指揮官!? 聞いていたんですか?」
「あはは……ごめんね。でも、母さんの言う通りですよ。エディンバラ先輩には、先輩にしかない良い所があるんですから」
「うっうぅ……そんな風に真っ直ぐ言われると照れちゃいます……」
ついにエディンバラ先輩は羞恥心が満タンになってしまい、膝を曲げて頭を隠すように蹲ってしまった。褒めるにしてもやりすぎだと目だけで母さんに視線を送ると、母さんは笑ってその視線を受け流した。
「そういえば、クッキーってやつを作ってるの? 重桜じゃあんまり無いものだよね?」
「ええ。折角ロイヤルの方がいるので手伝って貰って作ろうかと思いまして。……エディンバラさん、私は他陣営の料理に疎いので分かりませんが、そろそろオーブンを止めなければ不味いのでは?」
「ふぇ?」
「……ん? なんか焦げ臭くない?」
鼻が曲がるほどでは無いが嫌な予感がする臭いだ。まさかとは思いエディンバラ先輩と俺はオーブンを見ると、オーブンから少しだけ黒い煙のような物が中から出てきた。
黒い煙を見たエディンバラ先輩は慌ててオーブンの火を止め、オーブンのドアを開いて中のクッキーを助け出した。
無事クッキーは綺麗な焼き色になっているが、少し黒く焦げていた。
「す、すみません! 目を離した隙に……」
「ん? 別にこのぐらい大丈夫じゃないですか?」
試しに俺は手前にある丸い形のクッキーを手に取り、そのまま1口食べた。
「あぁ! 食べちゃ……」
エディンバラ先輩が止めようとしたが既に遅く、少し焦げたクッキーは俺の口の中に入っていった。
重桜では味わえないであろう牛乳と砂糖が溶け合った甘さと、サクサクとした食感。そしてその甘さを引き立たているのは焦げだ。この苦味が甘さを更に引き立たせ、一つ一つが小さいからどんどん食べる手が止まらない。
そんな美味しそうに食べている俺を見たエディンバラ先輩は、不思議そうな顔をしていた。
「し、指揮官。それ、焦げてるので無理しないで食べなくても……」
「ふふ、エディンバラさん。重桜には【焦がし醤油】という焦げを使った調理法があるのです。焦げだけではありません。世の中、失敗から何かが作れる物ですよ」
「失敗から……?」
「そうです。何も失敗を恥じることはありません。失敗を失敗として受け入れずに、そのままにする行為自体が恥じなのです。でも貴方は違う。失敗を受け入れ、次に進む。その姿勢が貴方にはあり、魅力というものかもしれません」
「……み、魅力ですか? えへへ……」
「ふふ、あ。こら優海。そんなに食べると晩御飯が通らなくなりますよ」
母さんに弱めの手刀を頭に叩かれてしまい、エディンバラ先輩が作ったクッキーの食べる手を止めた。
「いや〜つい美味しくて。ずっと食べてたいぐらいですよ」
「ず、ずっとですか……えへへ」
「……優海、今後はその言葉はあまり多くの人に言ってはダメですよ」
「え? 何で?」
「何でもです」
呆れたかのように母さんはため息をつき、それに気にもとめずにクッキーに手を伸ばそうとすると、母さんはペチンと叩き、クッキーを食べさせるのを止めた。
母さんの隙をついてもう一度伸ばそうとしても母さんは見逃さずにもう一度手を叩き、癖毛の獣耳も落ち込むぐらいの気持ちで諦めた。
「しゅん……」
「ご飯が食べられなくなっても良いんですか? 晩御飯の支度をしますから待ってなさい」
「あ、私もお手伝いしますよ。重桜の料理も気になるので!」
「はい。今度はこちらが教える番ですね」
どうやら長いは無用なようで手伝える事も無く、そのまま居間へと戻っていき、晩御飯が出来るまで着信履歴からベルファスト先輩に連絡をすると、ワンコール以内にベルファスト先輩は直ぐに出てきてくれた。
「もしもし?」
『はい。ベルファストです。……姉様はどうですか?』
「将来、絶対にいいメイドさんになりますよ」
『ふふ。ええ、だって姉様は優秀なメイドですから』
晩御飯が出来るまで、俺とベルファスト先輩は互いにたわいのない話をした。
やがて台所からいい匂いが立ち上り、丁度いいタイミングで姉さん達も帰ってきた。どうやら今日は、より賑やかな食卓になりそうだった。