_4大陣営の代表者のサイン全員貰わないと、アンタ退学だから
昨日、学園の理事長にそう言われ、途方に暮れていた。
そのせいで前後の記憶が思い出せず、気がついたらここ、ロイヤルにいた。結構急ぎめに来たけどもう空は暗くなり、夜になっていた。
街ゆく人々は皆高そうなドレスとスーツを身にまとい、男の人は黒いシルクハットに片眼鏡がよく似合っている人が多く、女の人はやたらとつばが大きい羽が刺している帽子を被り、如何にもお金持ち。というオーラが否が応でも溢れ出していた。
街並みも重桜とは全然違う。前にユニオンに少し行ったけど、それと同じでやたらと高い建物が多いが、乱雑に建てられているのではなく道に沿うようにして建てられいた。
しかも地面が全て石で出来ており、地面は絵になるような丸石が綺麗に置かれていた。
どれもこれも重桜とは違う雰囲気が醸し出しており、新鮮な気持ちと同時に、少し周りの人の視線を感じた。
「何かしらあの子……あんなに周りを見て」
「この辺りの者では無いな。服がエレガントでは無いな」
(めちゃくちゃ浮いてるよなぁ……)
急いでロイヤルに来たから俺は仕方なく、指揮官用の学生服でここに来たけど、周りの人は俺を見てヒソヒソと何かを喋っていた。
十中八九、俺の事だろう。だって俺の事を見て話してるし。
別に俺だって時間があれば私服で来たし等と、反論はせずに心の中でブツブツと呟いていた。
ロイヤルに着いたらこの辺で迎えが来る筈だから早く来て欲しいと思っていると、1台の車がこちらにやってきた。
車はかなり縦長く、黒塗りの高級車だった。リムジンと言うのだろうか。車体の先端には、金で出来ていた小さな王冠が取り付けられており、誰が寄越した車なのか容易に想像できた。
車が俺の前に止まると、運転席の窓が開いた。そこに居たのは、眼鏡をかけた栗色の女性だった。
「失礼します。指揮官の天城優海閣下でしょうか?」
「か……閣下? でも、名前はそうです」
「迎えが遅れてしまい申し訳ございません。私はロンドン級重巡1号艦、ロンドンです。エリザベス女王陛下の命により、お迎えに参りました。どうぞ、最後尾の席で度の疲れを癒してください」
「は、はい」
ロンドンさんの言う通り、俺は最後尾のリムジンの扉を開けた。すると、そこには車内と言うにはあまりにも生活感がある部屋が待っていた。
外の暑さを忘れる程の空調が効いた高級感ある漆黒の部屋に、長いソファーに数々の飲み物がズラリの並んだショーケース。
なんだここは。俺はいつの間にかどこ〇もドアをくぐって誰かの部屋に入ったのだろうか。あまりにも非現実な車内に俺はつい扉を閉め、もう一度車内を見ると、やはりさっき見た車内が目に映った。
「おやおや、無闇に扉を開け閉めするのは些か礼儀が悪いですよ」
リムジン車内の奥から、今度はメイド服の来た女の人がやってきた。
髪はさっき見たロンドンさんと同じ様な色だけど髪は長く、胸元空いた黒と白のクラシックなメイド服を着ていた。
というかなんで胸元空けてるの? そのせいでメイドさんの胸が零れてしまいそうな程の上半球を見てしまい、思わず一瞬目を背けた。
そういえばベルファスト先輩も胸元が空いたメイド服を着ていたような気がする……メイドさんってあの衣装が普通なのだろうか。
よくよく考えてみると、赤城姉さんや加賀姉さんも同じ様に胸元を空けていたような気がするし……これが普通なのだろうか。2人曰く、胸が大きすぎて苦しくなると言っていたけど……彼女もそんな理由なのだろうか。
「え、ええと……あなたは?」
胸を見ずにしっかりと目を見て話、彼女の事を聞くと、彼女はリムジンのソファーに座りながらも、丁寧に頭を下げた。
「私はタウン級軽巡洋艦のサブクラス、サウザプトン級のニューカッスルと申します。貴方様に会えて光栄です」
「ど、どうも。アズールレーン指揮官で重桜出身、天城優海です。本日はよろしくお願いします」
こちらも深々とお辞儀をすると、ニューカッスルさんは少し驚いた様子だった。
「まっ、指揮官なのにそんなに頭を下げられるなんて」
「いやぁ……お世話になるんだし、こうでもしないと失礼かなって……ダメ、でしたか?」
「いいえ。寧ろ、ふんぞり返って来る事を予想していましたが……ふふ、やはりベルファストの言う通り、素晴らしい指揮官ですね」
「ベルファスト先輩の事知っているんですか?」
知っている人の名前を聞き、思わずベルファスト先輩との関係に迫った。
「ベルファストは後輩ですよ。一応私、ロイヤルメイド隊の隊長ですから」
そう言ってニューカッスルさん……いや、先輩は3年生の学生証を持って見せてくれた。
「3年!? じゃあ先輩じゃないですか!」
「ですけど今は客とメイドの関係です。さぁ、こちらにお座りください。お飲み物に冷たいジュースは如何でしょうか」
ニューカッスル先輩はリムジンに招待し、ふかふかのソファーに案内すると、冷たいオレンジジュースをくれた。
ソファーに座り、ニューカッスル先輩が傍にあった壁電話を取って、ロンドンさんの名前を出すとリムジンは動き出した。
これだけ大きい車なのに、車内は揺れすら起きず、ロンドンさんの技量が目に見えるようだった。
リムジンの大きな窓からロイヤルの街並みが通り、子供のように窓にしがみついてロイヤルの街並みを見た。
どこを通っても建物が繋がっているように続き、まるで小説やアニメで見る中世のファンタジーの世界観の様だ。
重桜はここまで建物が連なっておらず、重桜と違って自然は少ない印象を持ったが、しばらくして交差点に入り、角を曲がると街並みは変わっていき、大きな川が見えた。
「わぁ、大きな川だな……」
「あれはセーヌラ川ですね。ユニオンでは有名な川です」
「あ、聞いた事あるかも……」
ニューカッスルさんから川の名前を教えて貰い、さらによく見てみると川の傍には緑が生え、そこの木の陰で休んでいる人や絵を描いている人、はたまた日向ぼっこしている犬までいた。
自然が見えないって思っていたけど、こういう風な小さな自然というのも、風情があっていい気持ちになる。
しばらくすると、今度は大きな塔の上に壁時計があった。あれも教科書で見た事ある。確か……グリッジ塔だったっけ。
確かあの時計を基準に各陣営の時計が設定され、時差等も計算もあれを基準にしている筈だ。そんな時計が俺の目に映っているんだから、まるで自分は今正しい時間の中に居るんだなという不思議な感覚になる。
確か、ロイヤルと重桜では時間は8時間も差があり、今ロイヤルは夜だから……重桜では夜明け前ぐらいだろうか。
母さんと姉さん達は今どうしているんだろうか。心配は無いだろうけど、初めての1人長旅で不安に駆られ、心細さで思わず家族のグループメッセージにリムジンの車内やロイヤルの街並みを移した写真を添付したメッセージを送った。
「今、ロイヤルに……着きましたっと……」
メッセージの送信ボタンを押し、もう一度窓の外を見ると、連なった建物の風景から一変して広い場所へと入っていった。周りには広大な広場が広がり、窓の向こうには、何やら大きな城が建っていた。
「貴方様、そろそろ目的地のエリザベス女王陛下の城に到着します。下車のご準備を」
「え、城って……アレですか?」
俺は窓に見える巨大な白い城を指を指し、ニューカッスルは笑顔で頷いた。
「マジですか……」
驚愕していると車は城の傍で一旦止まると、大きな門が開かれ、城の中へと入っていった。
そうして城の中に入り、リムジンを降りた俺の前に現れたのは、綺麗に整列したメイドのお出迎えだった。
「ようこそいらっしゃいました。指揮官様」
一字一句メイド一人一人が同時にそう発し、同時にカーテシーと言われる一礼をした。あまりにも統率された光景に圧巻され、ぽかんと口を開けそうになるのを我慢した。
「こ、これはご丁寧に……? 今日は皆さんよろしくお願いします」
俺も出迎えてくれたメイド達1人1人に挨拶していると、ニューカッスルさんが呼び止めた。
「貴方様、そろそろしないと女王陛下が怒ってしまいますよ?」
「あぁそうか……じゃああと1人!」
俺はリムジンの後部座席では無く、運転席にいるロンドンさんの元に行き、挨拶を済ませた。
こっちに来るとは思っていなかったのか、ロンドンさんはぽかんとしていたけど、時間が無いから手短に済ませる。
「ここまで運転してくれてありがとうございます! じゃ、また!」
「は、はい……」
お礼を言えてスッキリした俺は、ニューカッスルさんの後を追って城の中へと入った。
「……運転しただけなのにお礼とは。ふふ、変な人ですね」
城の大扉を開いた先には、広大な広場が待っていた。
白い大理石で出来た壁と床、道順に添えるように敷いている赤いカーペット。そして極めつけは、二階上がる枝分かれした階段の壁に、大きな理事長の自画像がそびえ立っていた。
だけど、自画像には少し違和感があった。顔は理事長そのものだし、衣装も女王様が着そうな服だ。
違和感の正体を探ると、俺はある事に気づいた。
「なんか……胸が大きすぎるような気が」
よく見ると肖像画に描かれたエリザベス理事長の胸がすこし……いや、かなり盛られているように見えた。
「あの、これ誰ですか?」
「クイーン・エリザベス女王陛下でございます」
「母親……とかじゃなくて?」
「KAN-SENに親はいませんよ」
「だってなんか違う所が……」
恐る恐る指で胸の辺りを指そうとすると、ニューカッスルさんはゆっくりと上げた手を上から押し戻し、圧が強めの笑みを浮かべた。
「世の中知ってはいけない事や、見て見ぬふりする事も大事ですよ?」
「は、はぃぃ……」
これ以上首を突っ込むのは止めようと、心の中で誓った後、ニューカッスルさんは2階に上がって大扉を開き、待っていたのは豪華食事が並んだテーブルがあった大広間だった。
そこには爵位が高そうな出で立ちをしたKAN-SENが紅茶を嗜みながら待っており、テーブルに座っているKAN-SEN達は全員こちらに目を向け、俺に興味を示すように見つめていた。
指揮官という立場上人から見られる事は多いけど、やっぱり見られるのは慣れていないし、少し緊張して体がそわそわしてしまう。
今更身だなしが乱れてないか服やズボンが緩んでいる所を少しだけ直したり背筋を伸ばしたりもして心の姿勢も正していき、改めてテーブルの方に目を向けると、そこにはKAN-SENだけじゃなく、人間の人も何人か座っており、その中には知っている人もいた。
「お、来たね優海君」
「マーレさん?」
厳格な空気の中で、助け舟的な存在感を出していたマーレさんとまさかの場所で出会った。思わず出そうな程安心感が身体を駆け巡り、折角正した姿勢も直ぐにヘロヘロになった。
「どうしてこんな所に?」
「奥の椅子にふんぞり返る予定の暴君女王に呼ばれてね。優海君が来るって言わなかったら誘いには乗らなかったよ」
「今自分の出身陣営の代表を暴君とか言いませんでした?」
「事実だからね」
だからといってこの場で暴君とか言うか普通……? そのせいで向かいに座っていたKAN-SEN達がマーレさんに少し鋭い目線を向け、少し空気が冷たくなった。
「マーレ様、今はそのような発言は遠慮してはいかがでしょうか?」
唾の大きい白い帽子で、服も白いドレスの白髪のKAN-SENが口火を切った。
「アンタもアンタだイラストリアス。有力貴族の1人でありながら、そのマイペースな振る舞いは如何なものかな」
マーレさんは決して引くこと無く、逆に啖呵を切る様にして口を出した。
物腰が柔らかいと思っていたけど、マーレさんって以外とそうでも無いのか? 明らかに空気が悪くなりつつあり、熱が出るように口喧嘩が勃発した。
まるで言葉が飛び交う砲弾の様に強く、激しくなり、各々の主張だけが強くなって行った。
ここでの俺は単なる部外者であり、強く言える立場では無い。
でも、だからといって何も言えない言い訳にはならない。KAN-SENがいるのなら、俺は指揮官として今ここでやらなければ行けない事があると思い、勇気を出して前に出て食卓に並べられたテーブルを叩き、目線をこちらに向けた。
「み、皆さん! 少し落ち着きましょう! 皆同じ陣営の仲間……見たいなものなんですから!」
部外者である俺がいきなり口を割った事で、全員の意識がこちらに向けてくれた。ヒートアップした言い合いでの中断だから見られている目線が痛く、鋭かった。
言い表せない圧に潰されながらも、こうして割り込んだ事の責任を持って、声をあげ……ようとしたが、何を言い出せば良いのか分からなかった。
見切り発車で割り込んだから騒動を鎮静する言葉とか道具とか持っている訳が無い。冷や汗を垂らしながら必死にこの後に続く言葉を探し続けようにも、頭がパニックになって言葉の発し方さえ忘れ、口をごもり続けるとマーレさんは呆れたのか席を立ってしまった。
「確かに、同じ陣営の仲間なのにこうもなるのは馬鹿馬鹿しい。俺は外に出ていく」
「ま、待ってくだs」
マーレさんを引き留めようとしたその時、奥の玉座から何か硬いものを叩きつける様な金属音が鳴り響き、俺やマーレさん、そしてこの場にいる全員が一斉に玉座へと目を向けた。
玉座には赤いマントと黄金の王冠を頭に被った金髪の少女……いや、女王のクイーン・エリザベスさんがいつの間にかここに来ていた。
エリザベスさんの他にも側近か何かのKAN-SENもいた。
エリザベスさんと同じ金髪で紫色の瞳を持っており、金髪の一部が犬の耳の様な形をしていた。
どことなくエリザベスさんに似てはいるが、驚くべき所は服装だ。
金色の大きなボタンのついた前掛けに、灰色の衣装の上に紫がかった艶のある黒いチョッキ状の軍服を羽織り、首には白いマフラーを巻かれていたが……下は何も履いてなかった。
スカートとかズボンとか、そういう物が一切なく、肌色を顕にしていた。
(しかも服の裾の隙間から何か黒い紐が見えているけど……まさかアレって)
言葉にする事さえ恐ろしくなった俺は、この事を深く考えず、エリザベスさんに意識を向けるようにした。
エリザベスさんはさっきの口喧嘩の様子を見たのか、ここから出ていこうとするマーレさんを見ながら肩をすかし、気だるげそうに玉座に腰を下ろした。
「これはなんの騒ぎかしら?」
「アンタの事を話していただけさ。悪いが俺は外に出ている」
「そんな勝手な事、女王の前で許されると思って?」
エリザベスの側近のKAN-SENが巨大な剣を構え、今にでもマーレさんに切りかかろうとしていた。
玉座からマーレさんの距離はおおよそ数メートルあるが、KAN-SENならばそんな距離はひとっ飛びに違いない。
KAN-SENは艤装を付けなければ一般の人間と身体能力は大きく変わらないが、艤装を展開すれば話は別だ。
海の上では無くともKAN-SENの身体能力そのものは別格に上げられ、人間には到底敵わない力となる。
それを理解しているのか、マーレさんは油断ならない目付きで側近を睨みつけ、二人の間には見えない火花が飛び散っていた。
先に側近のKAN-SENが先手を打とうとして地面を蹴ろうと腰を落とした時、エリザベスさんが手を叩いて側近の集中を削いだ。
「やめなさいウォースパイト。一応客がいるのよ」
「……申し訳ございません。女王陛下」
「来ないなら俺は外に出るぞ」
「好きにしなさい。貴方が居ても空気が悪くなるだけだから」
「そのようで。……じゃあ優海君、何かあればそこのKAN-SEN達が力になってくれるさ」
マーレさんは俺に対してだけ笑顔で別れてこの部屋から出て行ってしまった。
「気にしなくて良いわよ。あの子は貴族とかそういうの嫌いだから」
「どういう事ですか?」
マーレさんの身なりと、ここに呼ばれたという事から、マーレさんもかなり上の立場の人だと思うけど……。
そういえば、マーレさんが重桜にきた時、マーブルヘッドが何か言ってたっけ……確か、ロイヤル英雄の家系の末裔……だったっけ。そんな人がどうしてエリザベスさんを目の敵にしているのだろうか。
頭の中でまーレさんとエリザベスの間柄について考えていると、エリザベスさんがまた杖を地面に叩き、意識をこっちに向けさせた。
「何そこで立っているのよ下僕! アンタの席を用意しているからそこに座りなさい!」
「は、はい!」
「ご主人様、こちらでございます」
聞いた事ある声に目を向けると、空いている席の椅子を引いていたのはベルファスト先輩だった。
「あ……ベルファスト先輩!」
「お久しぶりでございます。ですが、ここではベルファストとお呼び下さいませ」
「よ、呼び捨てはちょっと……」
「ふふ。とりあえずお座りになってください。まずは長旅の疲れを癒す為、我がロイヤルの料理を堪能してください」
ベルファスト先輩が椅子を引き、軽く会釈した後にゆっくり座ると、即座にテーブルに料理が運ばれた。
運ばれてきた料理はスープ、肉料理、魚料理と豪勢な物であり、盛り付けでこの料理を作った腕の高さが見込められる。
目で既に美味しいと頭で伝わってきたせいでお腹の虫がなり、早くこの料理を食べたいと手がテーブルの上のナイフとフォークを欲しがっていた。
「では皆の者、まずは下僕がロイヤルに来た事を祝福するパーティーを始めるわ。存分に堪能しなさい!」
エリザベス理事長の掛け声と共に、それぞれ美しい所作で料理を食べ進めた。
「さぁ、ご主人様もどうぞご堪能ください」
ベルファスト先輩はナイフとフォークに手を向け、食器に手をつける前に、俺はまず手を合わせた。
「じゃあ……いただきます!」
早速焼き色が完璧なステーキから食べようとナイフとフォークを持ち、前もって勉強していたテーブルマナーを思い出してステーキを食べるけど……緊張して味が分からない。
その理由はKAN-SEN達の目線がこっちに集中しているからだ。食べ方が汚かったのか、それともマナーが間違っていたのか、KAN-SEN達は興味深そうに見ていた。
「え、ええと……何でしょうか?」
「いえ、重桜の食前の挨拶を間近で見ましたが、いただきますとは何をいただくのかなと思いまして」
「あぁ……」
イラストリアスさんが皆の疑問に答えてくれた。そういえば『いただきます』って重桜独自の文化だったっけ。
それなら珍しく感じるのは無理もない。
ただこっちもそれ程深い意味を持ってないで会釈しているからどうしても言われても上手く説明はできないかもしれないけど、教えられた事と自分の考えを合わせて説明した。
「ちょっと食欲が失せるかもしれないですけど、このお肉やお魚はこの前まで生きていたんですよね。その、重桜は命を取って命を得るっていう考えがあって、その責任や感謝の意を込めて、食材に対してこう言うんですよ。いただきますって」
命を食べて、それを糧として生きる。人間も動物もそれは変わらない。だけど、人は感謝をしながら食べる唯一の種族だ。
だからこそ、こうして挨拶は大事だし、残す事は許されない。それが人として、命を食べるという事だから。
「まぁ、それは素晴らしい考えですわ。伝統を重んじる重桜ならではの文化ですわ」
イラストリアスさんは感激して拍手を上げ、他のKAN-SEN達も拍手をしてくれた。そんな大したことは言ってないのに恥ずかしくて頬を赤く染め、あまり目を向けられないまま食事をしてしまう。
おかげで美味しいステーキの味が分からなくて勿体ないことをした。料理を食べ進め、ようやく全部を食べ終えた所でエリザベス理事長が杖を叩き、こちらに視線を向けさせた。
「さて、食事も済んだ所で下僕にはやって貰いたいことがあるわ」
「やって貰いたいこと?」
「実は……」
エリザベス理事長が何かを言おうとしたその直後、突然この部屋の明かりが消えて、この部屋が暗闇に包まれた。
「な、何事ですの!?」
「皆様、落ち着いてください。ここは私達メイド隊が対処を……」
「駆逐艦の妹達よぉぉ! このアーク・ロイヤルがいる限り大丈夫だ! さぁこの声の下に集まって来い!!」
突然の停電にパニックを起こし、辺りは大騒ぎだ。指揮官としてここはこの場を収めようと声を上げるが、それが逆に引き金となって更にパニックを起こしてしまった。
何をどうすれば良いのかも分からず、暗闇であわあわする事しか出来ない自分が情けなく思っていると、直ぐに明かりが付けられ、部屋が元の空間に戻った。
食事が置かれたテーブルが少しごちゃごちゃしてはいるが、KAN-SENは他の人には怪我は無く、ホッと胸を撫で下ろした所、エリザベス理事長が自分の頭を触って絶句していた。
「な……無い! 無い! 王冠が無いわ!」
エリザベス理事長は頭に被っていた王冠が無いと叫び、その辺に落ちてないか探しても見つからなかった。そう言えば結構豪華な王冠被っていたなと思い返しながらこっちにも落ちてないかと探したが、この辺りには落ちてなかった。
王冠を無くしたと耳にすると、みんなはざわめき始め、そのざわめきをかき消すかのような高らかな笑い声が部屋中に響き渡った。声はこの部屋の上に聞こえ、上と言っても2階は無く、上にあるのは天井に描かれた絵画とシャンデリアだけだ。
とにかく上に宙吊りされているガラスのシャンデリアに目を向けると、シャンデリアに僅かな人影があり、人影は光によってゆっくりとその姿を照らした。
白くて長いトレンチコートにマントを羽織り、素顔隠す白い仮面に白いシルクハットに白いステッキを手に持ち、もう片方の手には様々な宝石が光り輝く王冠……エリザベス理事長が被っていた物があった。
「ははははは!! 御機嫌ようKAN-SENの皆様とロイヤルの英雄よ!」
仮面の男……いや、声からして女性……? あまりにも声が中性的すぎて男か女のかすらも分からず戸惑い、白い仮面の人は俺に目を向けていた。
「あれは……怪盗アールセヌ!!」
イラストリアスさんが恐らくシャンデリアの上にいる人物の名前を挙げた。
「アールセヌ……? 何ですかそれ」
「今ロイヤルを騒がせている怪盗ですわ。まさかこの目で見るとは思いませんでしたが……」
「怪盗!?」
「予告通り、今宵月の様に輝くこの王家の王冠を頂戴しました。それでは、私はこれにて……」
するとアールセヌから煙が巻かれ、いつの間にかシャンデリアから姿を消してしまい、足場も何も無い所で消えた事を目の当たりにして不思議に思いつつも、どこに行ったのか皆は部屋中をくまなく探した。
いや、それよりも……扉の方を守らないとダメだ。この部屋の出入口はあの大きな扉のみ。あそこに誰かを通らせてはダメだと頭で直ぐに理解した。
急いで扉の方に目を向けたが、遅かった。もう既に大扉が開かれており、逃げ出した事は明白だった。
「今すぐ城の中全員に警告よ! この白の門を閉じ、ここから誰一人として外に出さないで!」
エリザベス理事長の号令の元、城全体にサイレンが鳴り響き、窓にはシャッターが下げられ、完全に中から外部には出られなくなってしまった。
「一体全体……何がどうなっているんだ?」
だが1つ言えることがあった。このロイヤルでの旅行は……どうやら旅行どころでは無さそうなのは間違いなかった。