もしも、アズールレーン学園に入学したら   作:白だし茶漬け

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ハッタリの解明

「犯人は……貴方です、ウォースパイトさん」

 

 張り詰めた空気の中で言った言葉を引き金に、空気が凍りついた。

 

 俺の指先に指されたKAN-SENに誰もが注目する中、金髪の騎士はわなわなと怒りで体を震わせていた。

 

「私が……犯人? デタラメを言わないで貰える?」

 

「そうよ! ウォースパイトが犯人な訳ないじゃない!」

 

 ウォースパイトさん以上に、エリザベスさんが怒っていた。無理もない、姉妹艦を犯人と疑われているんだ。

 

 逆の立場だったら俺だって怒るし、無実だって言う。だけど、引く訳には行かない。エリザベスさんを払い除けてでも、俺は責任を持ってウォースパイトさんに問い詰めた。

 

「俺だって、誰かを疑いたくなんかありません。けど……」

 

「なら、それ相応の証拠がある訳よね?」

 

 ウォースパイトさんが啖呵を切ってそう言ってきた。自分が疑われているんだ、こんな風に怒るのも無理は無い。けど、それしか考えられなかった。

 

 しかし、証拠と言われて出せる物は無く、ベルファストさんの到着を待つしか無かった今となっては、歯切れの悪い言葉しか出てこず、ウォースパイトさんは重い溜息をついた。

 

「当てずっぽうも大概にしなさい、指揮官。全く……」

 

「失礼します」

 

 ウォースパイトさんが呆れていた所に、ベルファスト先輩がちょうどよくこの部屋へとたどり着き、ベルファスト先輩の手には、ピアノ線が握られていた。

 

「ご主人様、頼まれた物と……言われた通りの物を調査が終わりました」

 

「あ、ありがとうございます。ベルファスト先輩」

 

 ちょうどいいタイミングだ。流石ベルファスト先輩……狙ったんじゃないかと思うほどだ。

 

 ベルファスト先輩からピアノ線を貰った後、全員ベルファスト先輩が言っていた『調査』という言葉を気にかけており、その様子を察したベルファスト先輩は、皆に聞こえるように調査報告をしてくれた。

 

「ご主人様の考え通り、倉庫にあったこのピアノ線を誰かが持ち出した形跡があり、使用されていました」

 

「ピアノ線を……? じゃあ、誰かが持ち出したと言うことですか?」

 

 イラストリアスさんの質問にベルファスト先輩は頷いた。

 

「ええ。ですがピアノを修理した報告はありません。つまり、別の意図で使われたと言うこと……ですよね、ご主人様」

 

「はい。そして使い方が……これです!」

 

 ベルファスト先輩に渡されたピアノ線を思い切り引くと同時に、この部屋の大扉が勢いよく開かれ、誰も触れていないのにも関わらず扉が開けられた事に全員肩を上がる程驚いていた。

 

「ええ!? どうして勝手に扉が開いたんですか?」

 

 ジャベリンが扉に何かあるのかと扉に近づき、ドアノブに手を付けようとしたその時、ベルファスト先輩がジャベリンの腕を掴み、ドアノブに触れないようにしていた。

 

「申し訳ございません。ですが闇雲に触れては怪我をしてしまうので」

 

「怪我……?」

 

「そこの扉のドアノブには、さっきベルファスト先輩が持ってきたピアノ線を巻きついているんだ」

 

 L字のドアノブに巻かれたピアノ線を外す為、俺の手に巻きついているピアノ線を引っ張る。

 

 すると、ドアノブの巻き付かれたピアノ線は俺が持つ糸の先端と直線に繋ぐような形になり、俺が糸を引っ張るにつれて徐々に緩み始め、ピアノ線はドアノブに離れて行く。

 

「このドアノブはL字になっているから、こんな風にドアが開いたら、後は引っ張るだけで簡単に回収できるんだ。これがドアが暗闇の中で開けられた理由……かな」

 

「なら、そのトリックを使ってどうやってウォースパイトが扉を開く事が出来るのよ! ウォースパイトは私と奥のステージに居たのよ。直線に引いたら、直線上の貴方に当たるじゃない!」

 

 エリザベスさんの言う通り、このトリックを使ってただピアノ線を直線に引いたとしても、その直線上に俺が座っていた。でもだからって、使えない理由にはならない。

 

「いいえ、関係ありません。だってシャンデリアを経由すれば、問題なくピアノ線を引くことが出来ますし、俺にも当たりません。その証拠に、シャンデリアを調べた時、細い糸を擦ったような傷もありました」

 

 それに、ドアノブの方にも多数の傷があった。多分、このトリックを成立させる為にどの糸が適切であるとか、長さを調整する為に犯人は何度も試行錯誤をしたのだろう。

 

「……まさか、扉を開けたトリックを推理しただけで私を犯人に仕立て上げるのかしら? 指揮官、私達が目下で解決すべきなのは、王冠がどこにあるかよ。目的を見失わないでくれる?」

 

 ウォースパイトさんの言う通り、確かに俺たちの最終目標は王冠がどこにあるのかを探し出す事だ。

 

 だからこそ、今警備の人やKAN-SEN達が血眼になって王冠を屋敷中に探しているが、収穫が無いのが現状だ。

 

「こんな事してる場合なら早く王冠を見つける為に外に……」

 

「そうやってこの部屋の中にある王冠を外に持ち出そうとしているんですか?」

 

 空気がざわめき、ウォースパイトさんは表情を浮かばせないが、一瞬手足を強ばらせた態度をとった。多分、この中に王冠があるのは確定だ。

 

 しかし、この部屋には王冠を隠せられる場所も無ければ、全員ボディチェックを受けて誰も王冠を持っていないのは確認済みだ。

 

 なら一体どこか……答えは簡単。探しきれてない所にある。それがこの部屋だ。

 

「そもそも、なんでわざわざ扉を開けたのかは、犯人が王冠を持って外に逃げ出した事を刷り込ませる為だ。現に、俺たち全員はある人に言われるまで全員外に出て探そうとしたでしょ?」

 

「じゃあ、王冠はこの中に? でも隠せる場所なんて……」

 

 確かにここに隠せる場所は無い。だが、暗闇の中で身動きが取れない以上、隠せる場所は限られてくる。

 

 俺はウォースパイトさんがいたステージへと足を運び、皆が王冠を見つけてくれるという期待の目に晒されながらも、このステージにある筈の王冠を探す。

 

 ここの床は……大理石で作られたタイルを敷き詰めて出来ているのか。

 

 取り外しは……出来そうにない。計算し尽くされ、完璧に密着しているのは、良い建築技術だと関心するが、それでは俺の推理が成立しない。

 

 口元を手で覆いながら視線を落とすと、ふと何かが反射したような光が目に当たった。

 

「何だ?」

 

 床に何かあるのかと床を凝視すると、よく見ると1タイルおかしな模様がある。模様というか……大理石の歪み方が少しおかしい。

 

 左右反転していて、まるで鏡の様だ。

 

 今の所隠し扉というものは無い。……いや、そういえば隣の部屋には鏡が無かった。

 

「鏡か……」

 

 そういえば三笠おばあちゃんが鏡の面白い話をした事を思い出した。あの話をした事を利用すれば……

 

 もしかしたらと思い、左右反転した大理石の床にコンコンと拳を当て、続いてその隣の大理石のタイルを叩くとと、さっきと違う音が聞こえた。

 

「……! これだ!」

 

 大理石のタイルに模した何かは無理矢理はめ込んだせいか他とは違い大きさが違う。

 

 その為、少しのぐらつきがあってすぐに外すことが出来た。俺はタイル……いや、鏡を外すと、そこには色取りの宝石が埋め込まれた黄金に輝く王冠が姿を現した。

 

「見つけました! 王冠!」

 

 ようやく探し出した王冠を見て、上がったのは喜びの歓声では無く、それによって浮き出た事実に対しての悲壮感だった。

 

「そこって……ウォースパイトが居た場所……よね」

 

「……」

 

 ウォースパイトは口を閉ざし、全員ウォースパイトさんから距離を置き、ロイヤルメイド隊の各々は警戒の目を向けた。

 

「ウォースパイトさん……いや、アールセヌはこの位置の大理石をくり抜き、ガラスの反射を使ってカモフラージュをしたんですね」

 

 三笠おばあちゃんから聞いた、手品でよくある手法らしく、小さい頃、鏡の反射を利用してそこにあった物が急に消えるマジックをやってくれた事を思い出し、これもそれと同じ理屈だったのだ。

 

 多分、シャンデリアの点検をした日に細工をしたんだろう。シャンデリアにホログラム装置を設置したのも同じ日のはずだ。

 

「けど、アールセヌは本来こんな隠しトリックをする算段じゃなかったと思います」

 

「え? 何でですか?」

 

 ジャベリンの質問には、他の誰もが頷き、俺の答えを待った。

 

「えーと……まず、最初からこれを使うんだったら、隣の部屋の鏡じゃなくて、予め加工しておいた鏡を使う筈です」

 

 鏡が無くなった事をしれたおかげで、俺もこの隠しトリックに気づいた訳だし。

 

「じゃあ、アールセヌは本来どうやって王冠を盗もうとしたんですか?」

 

「それは……うーん、多分だけど。ドアを開けたトリックと同じ様に、シャンデリアを経由して王冠を盗んだと思う」

 

 もう片方のドアノブに糸を巻き付けせ、そこから暗闇の中で王冠を盗んだ後、糸に王冠を引っかける。そうすれば後は力いっぱい王冠を投げれば、王冠は糸を伝って目的の場所まで辿り着けるという訳だが……これを利用する為には、間違いなく1人では無理だ。

 

「そして……犯人は2人居ると思います」

 

「ふ……2人!? アールセヌはこれまで単独で宝石や宝を盗んだのよ!?」

 

「けど今回、2人いないと成立しないんですよね……」

 

 まず、犯人が2人だと思った理由の一つが本来想定していたであろうトリックだ。

 

 まず、暗闇になってパニックが起きた中で、王冠を奪わえる事が出来たのは、エリザベスさんの隣にいたウォースパイトさんで間違いない。だが問題はその後だ。

 

 例え奪ったとしても、王冠を持ち出さなければ意味が無い。そこで、暗闇の中でも確実に目的の場所に行けるよう、予めシャンデリアを経由して糸を設置し、王冠にそれを通す事で、王冠を移動させる事が出来る……。

 

 ここまでは、シャンデリアに付いていた傷やドアノブの傷から合っているはずだ。そしてこのトリックを使う為には、協力者……もとい、王冠を受け取る人間が必ず存在する筈だ。

 

 そうでなければ、王冠はドアにぶつかってしまい、持ち出すことが出来ないからだ。

 

 残念ながら、そのもう1人の犯人が誰かまでは分からない……が、姿を見せないという事は恐らく、今は逃走手段の確保に当たっているのは間違いない。だったら、こっちはこの王冠を守り、ウォースパイトさんを逃がさないようにするしかない。

 

「ウォースパイトさん。貴方は本来、この糸を使って王冠を協力者に渡そうとしたんじゃないんですか?」

 

「……証拠は?」

 

「それは……無いです。けど、貴方が実行したであろう証拠はあります」

 

「それは何?」

 

「……手を見せてください」

 

「手?」

 

「はい。いくら細くても、扉を開ける為には相当な力を入れないとダメですし、糸を回収する為に巻尺のような装置も必要です。つまり、貴方がしている手袋にある筈です。糸の跡がね」

 

 ウォースパイトは頑なに手を見せようとせず、近くにいたベルファスト先輩が失礼をしてウォースパイトさんの右手を掴み、手を開かせると……白い手袋にはうっすらとだが、黒い汚れがあり、糸の細さと一致していた。

 

 周りの人達はざわめき、エリザベスさんは信じられない目をウォースパイトさんに向け、体を震わせた。

 

「待ちなさい。この汚れだけで犯人と決めつけるのは早計よ。もっと確信的な証拠を見せないと、説得力が無いわよ」

 

 ごもっともな意見だ。あんな汚れはどうとでも説明が出来る。だが、これで確信した。

 

 あれは……ウォースパイトさんの姿をした怪盗アールセヌだ。それが分かった今だからこそ、突きつけられる証拠がある。

 

 俺が来るという、怪盗にとってのアクシデントという証拠が。

 

「じゃあ、俺がこのロイヤルに来た理由を説明してください」

 

「……は?」

 

 初めてウォースパイト……いや、怪盗が焦った様な顔を浮かべ、勝利を確信しつつも、顎を引いて怪盗に目を向ける。

 

「俺がロイヤルに来たのはある理由があるからです。学園でエリザベスさんにそれを聞いた時、理事長には貴方がいました。だったら……その時俺が言われた事……分かりますよね?」

 

「それは……ごめんなさい、怪盗騒ぎで忘れてしまったわ」

 

「昨日の話ですよ。それに、貴方は自分の姉妹艦……友人の言った大切な事を忘れるんですか?」

 

「ウォースパイト……」

 

 エリザベスさんの反応からして、本物のウォースパイトさんなら決して忘れないと、物語っていた。

 

 口を閉ざした怪盗は体をよろめかせ、負けを認めるように顔を見あげると、シャンデリアの輝きで目を潰させないように目を手で覆い隠した後、大きな高笑いをあげた。

 

「何がおかしいんだ」

 

「いや……素晴らしいと思っただけよ。そして、勝った気でいる貴方を哀れんでいると同時にね!」

 

 ついに化けの皮が外れた怪盗は目を隠しながら地面に小さなボールを勢いよく叩きつけるように投げると、嫌な予感を感じた俺は直ぐに目を閉じたその刹那、地面が急に眩く光り輝き、あまりの光量に目が潰れてしまう。

 

 閃光玉で目を潰され、目を閉じながらも王冠を守ろうと王冠を抱き抱えたが、目が見えない状態で怪盗の攻撃を受け切るのは難しく、背後から殴打を喰らって力が抜け、その隙に怪盗が王冠を盗んでこの部屋から出たのか、足音が遠くなっていく。

 

「くっ! 王冠が……!」

 

 先に目を閉じたおかげで閃光玉の影響を少なく済んだ俺はゆっくりと目を開き、視界を確保する。しかし既に怪盗の姿は無く、脱ぎ捨てられたウォースパイトさんの衣装と金色のウィッグかあるだけだった。

 

「くそっ! どこに……」

 

 廊下を見渡すと、窓ガラスからプロペラのような音が聞こえ始めた。

 

 まさかと思い、窓を開けて夜空を見上げると、黒いヘリコプターが白の屋上へと近づいており、どうやらあのヘリコプターを使って逃げるようだ。

 

 というかやっぱり仲間がいたのか……! このまま追いかけても間に合わないと諦めかけると、屋上の方から一発の銃声が夜空に鳴り響いた。

 

「銃声!? 誰が打ったんだ?」

 

 仲間割れ……か? とにかく確かめる為に近くの階段を使って屋上に行くしかない。丸腰だと流石に無防備な為、廊下に飾られていた誰も居ない甲冑が持っている剣を拝借した。

 

「ん……やっぱり刀よりちょっと重いかな」

 

 けど想像よりも軽く、片手で振り回す程度なら問題ない。自衛手段も確保し、階段を息を切らしながら駆け抜ける。

 

 赤い絨毯が敷かれた階段を駆け上がり、ようやく屋上への扉が目に移り、扉を蹴破る様にして開けた瞬間、ヘリコプターの風圧に髪が激しくなびき、視界が霞む中1人の男の姿が移った。

 

 白い服に、俺と似ている顔……あれは、マーレさんだった。

 

「ま、マーレさん!?」

 

「ん、優海くん? なんでこんな所に……」

 

「それはこっちのセリフです! 姿が見ないと思ったらこんな所で何を……」

 

 マーレさんがなぜここにいる理由を尋ねる中、プロペラの音に混じる様に1発の銃声が鳴り響いた。

 

 銃声が聞こえたのはマーレさんからではなく、ヘリコプター側から鳴り、頭で考えるよりも早く階段に隠れると同島に、撃ち出された弾丸が地面はと当たり、階段に隠れたおかげで事なきを得た。

 

「大丈夫か優海くん」

 

「はい、なんとか。撃ったのはアールセヌですか?」

 

 風圧で中々目が開けられず、姿ははっきりと見えないが、3人居ることは確かだ。そして銃を撃ったのはまだヘリに乗っていない人物であり……左手には王冠が持っていた。

 

「いや、アールセヌでは無いが、王冠を奪った犯人ではあるな」

 

「……どういう事ですか?」

 

「アールセヌを語った模倣犯って事さ。語る割には、随分と現実的な逃走で笑えるけどな」

 

「ほざけ! そもそも盗みに美学は邪魔なんだよ!」

 

 鼻で笑うマーレさんに対し、高圧的な女性の声が耳に入る。

 

 犯人は女性と意外に思いつつも、相手は銃を持っているのなら迂闊に顔を出せない。よく見るとマーレさんも拳銃を手に持ち、マーレさんは相手に向けて銃を構えて牽制しているが、それは相手も同じだった。

 

 仲間はヘリの操縦に集中しているのか、銃を打つ様子が無い。

 

「……ん? あと一人はどこだ?」

 

「それなら俺が先に肩を撃って制圧した。利き腕じゃなければ銃は扱えないさ」

 

 なら実質2対2の状態か……けど、このままじゃヘリに乗られるのは時間の問題だ。そうなってしまえばもう追いかけられない。

 

 だけどこの風圧ではまともに動く事も出来ないし、相手が銃を持っても迂闊には動けない。

 

 ヘリコプターのプロペラの回転が遅くなり、風圧が弱まった事で犯人とヘリの距離が近づきつつある。悠長に考えたら、間違い無くヘリに移動されて逃げられる。

 

 どうすれば良い、考えろ……自分は指揮官なんだと己に言い聞かせる中、稲妻の様に閃きつつも馬鹿げた作戦だと自傷する様な作戦が浮かび上がった。

 

「どうやら、何か浮かんだようだな指揮官」

 

「と言っても……あまりいい物じゃないですよ」

 

「この状況自体いい物じゃ無いし、なんとか出来るなら良いも悪いも無いだろ」

 

「……じゃあ、作戦を伝えます」

 

 考えついた作戦をマーレさんに伝えると、マーレさんは鼻で笑い、なるほどなと呟いた。

 

「うーん、それなら行けそうだが……君は大丈夫なのか?」

 

「高雄さん達から結構鍛えられてますから、反射神経なら自信あります」

 

「……分かった。けど無理はするな」

 

 俺は首を縦に振って頷き、大きく深呼吸をすると同時に剣を強く握りしめ、タイミングを待った。

 

 そして、プロペラの回転が少しづつ弱まり……女がヘリコプターの足に掴んだ。

 

「……今っ!」

 

 俺が最善だと思ったタイミングで飛び出し、弱まったプロペラの風圧の中を走り抜ける。

 

「なっ!? 馬鹿なのあの指揮官!!」

 

 驚きながらも、真正面に向かっていく俺に向けて哀れみの笑みを浮かべながら拳銃向け、躊躇いなく俺を撃った。

 

 それと同時に剣を振り、刀身が硬い何かにぶつかり、金属同士がぶつかり合う鈍い音が鳴ると同時に、無事に斬った感触が手から伝わった。

 

「嘘……銃弾を斬った!?」

 

「バケモンかよあいつ!!」

 

 続いてヘリコプターの中にいる男も銃を撃ち、後から撃ち出された弾丸も何とか斬ったが、流石に2発同時に撃たれたら足を止めてしまう。

 

 だが、それが狙いだ。一瞬でも俺に気を取られたその僅かな隙を、マーレさんは逃さなかった。

 

「ナイスだ、優海くん」

 

 まず一発の銃声が鳴り、撃ち出された弾丸はヘリの中の男の肩へと直撃し、肩から吹き出る血がヘリの中を赤く汚した。

 

 そして最後の1発か撃ち出されようとしたその時、女は王冠を盾にするように前に出すと、マーレさんは銃の引き金を引くのを止めた。

 

 女は王冠を盾にして自分の身を守っているのだ。迂闊に攻撃が出来ず、女は価値を確信した笑みを浮かべてヘリコプターの中へと優雅に入った。

 

「あっははは……馬鹿な男達ね、兵器如きがこんな王冠を持つなんて有り得ないわ。やっぱり人間様が持ってないとね」

 

「兵器? ……エリザベスさんの事か」

 

「そうよ。そもそもあんな我儘な暴君が女王だなんて笑わせるわ」

 

「それに関しては俺も同じ意見だな」

 

「マーレさん!?」

 

「あっはは、優海くん。ナイスリアクションだ」

 

 こんな状況でマーレさんは陽気に笑い、泥棒達と意見を合わせる様子だ。

 

 ……けど、マーレさんのエリザベスさんに対する態度はかなり悪い。エリザベスさんの事を認めて無い……と言うより、王族の事を嫌っている印象を持った。

 

 分からなくは無い。俺も最初エリザベスさんを見た時はロイヤルの代表者なのかと疑った。

 

 性格は……子供っぽいという印象が持った。我儘で、傲慢で、人を振り回す事が目立っている。

 

 俺も探偵まがいな事をさせたのもエリザベスさんだ。今思えば本当に良くやったと自分でも思う。

 

「……まぁ、今はお前らの問題だ。時間稼ぎは済んだしな」

 

「時間稼ぎ?」

 

「こういう事です。ご主人様」

 

 突如聞こえるベルファストさんの声がヘリコプターから聞こえると、ヘリコプターのプロペラは完全に止まり、男2人がロープで縛られていた。

 

「なっ!? あんたいつの間に……」

 

「取ったわよ」

 

 ベルファストさんに振り向いた女は背後に迫り来るKAN-SENに気づかずにいた。

 

 そのKAN-SENは自分の背丈よりも大きな大剣を手に取り、その大剣の切っ先を喉元に向け、ほんの数センチ前に突き出せば、その喉を貫きそうか程だった。

 

「あれって……ウォースパイトさん!」

 

「久しぶりね指揮官。私が、本物のウォースパイトよ」

 

「アンタ……どうやって!? 物置部屋に鍵をかけたて見つからないようにしたのに!」

 

「KAN-SENの身体能力を甘くみたわね。あんなの、目を覚まさばこっちのものよ」

 

「くっ…… 」

 

「返して貰うわよ、陛下の王冠を」

 

 切っ先を喉に向けられた女はもう抵抗すら出来ず、悔しながらも王冠から手を離した。

 

「アンタ達KAN-SENでしょ!? 人間に手を出すなんて……」

 

「勘違いしないで。私達は、平和の為に戦っているの。たとえ人間でも、悪に手を染めれば手を下すわ」

 

「くっっ……!」

 

 観念したのを待っていたかのように、城の外からパトカーのサイレンがこっちに近づいてきた。ちょっと遅いと文句を一つ言いたくなるけど、いいタイミングだからよしとしよう。

 

「……終わったな、お疲れ探偵さん」

 

「いえ……実はまだ1つ分からない事があるんです」

 

「分からない事?」

 

 俺はマーレさんの真っ直ぐな目を向け、心の中に持っていた疑問を吐き出した。

 

「マーレさん、貴方は最初から犯人が分かってたんですよね」

 

「…………理由は?」

 

「誰もが犯人は外に出て王冠を持ち出したって思っていたのに、貴方だけは中に犯人がいる前提でこう言いました」

 

 _怪盗アールセヌは変装の名人だ。前もってこの中にいる誰かに変装していてもおかしくないだろ

 

「貴方は……『この中』って言いました。まるで最初から犯人があの中にいるのを確信したような感じでした」

 

「なるほど。で? そうなると俺はどうなんだ?」

 

 不敵な笑みが不気味さを増し続ける中、生唾を飲み込み、最後の霧を晴らす為に言葉を発した。

 

「貴方が……本当の怪盗アールセヌだから、偽物を見破られた……とか」

 

 夜風が強く俺とマーレさんの体を貫き、マーレさんは髪をかきあげた後、小さく笑った。

 

「はは、面白いね。残念ながら俺はアールセヌじゃない。けど、俺がアールセヌだという証拠も無いし、そうじゃない証拠も無いだろ?」

「それはぁ……まぁ、そうですけど」

「だったらこの話は終わりだ。まぁ、王冠周りの事件は解決したから良いじゃないか」

「……です……よね」

 

 少しばかりモヤモヤする気持ちが残ってはいるけど、それでも事件は解決した。

主防犯たちはベルファスト先輩の手によって拘束され、遠くからサイレンの音が聴こえる。

恐らく、警察が来たんだろう。

 

「おい指揮官」

 

 突然ウォースパイトさんに捕まった女性が俺に対して怒号の質問をしてきた。

 

「アンタがこのロイヤルに来た理由って……何?」

「え? あ、あ〜……あれ、実は……俺も分からないんですよね」

「はァァ?」

「いやぁ〜俺も、いきなりロイヤルに来いって言われたから……なんか、ごめんなさい」

 

 何も言えない雰囲気になりつつあり、犯人が目を丸くさせてながらも、ウォースパイトさんは犯人を連れて警察に連行した。

 

「締まらないなー。優海くん」

「で、でも王冠も取り戻したし、犯人も捕まり、これにて一件落着。これでエリザベスさんに俺を指揮官と認めて貰うサインを貰ったら課題クリ……」

 

 

 

 

 

 

「え? サイン? まだに決まってるじゃない」

「ほぇ?」

 

 あれから翌日、事件が落ち着いた時間でエリザベスさんと話し合いをした。

 

 主に、俺の課題をついての事だったが王冠を取り戻すだけじゃエリザベスさんの納得は貰えなかった。

 

 一体これ以上何をどうしろって言うんだ……? ロイヤルの大事な王冠を守ってダメだったら……政治をしろ? 改革しろ? どれも一個人じゃ絶対に変えられない物ばかりだ。

 

 一体どんな無理強いをさせられるか今でも不安に思いながらも背筋を伸ばし、エリザベスさんからの指令を待った。

 

「まずは、王冠の件……ありがとうね。下僕が居なかったら、王冠もウォースパイトも無事じゃ無かったわ」

(あ、まだ下僕呼びなんだ)

「でも、私がロイヤルに貴方を呼び出した理由は、このロイヤルの素晴らしさを伝える為よ。ちょっと滞在したぐらいじゃ、ロイヤルがどんな所か分からないでしょ」

「まぁ……そうですね」

「だから、今日から2日間ロイヤルを見て周りなさい。1人だとどう行くか分からないだろうから付き人を連れていくわ」

「付き人?」

「入りなさい」

 

 エリザベスさんの指示を待っていたかのように扉が開くと、白いドレスに白い唾が大きい帽子、そして長い白髪と全て白を貴重で統一された貴婦人が、ゆっくりとこの部屋に入ってきた。

 

「あれ、あの人ってパーティー会場にもいた……」

 

「そうよ。イラストリアス。今後は彼女と一緒に行動しなさい」

 

「よろしくお願いしますね、指揮官さま」

 

 イラストリアスさんは天使のような暖かな笑みを浮かばせると、不意に胸がドキッとなってしまった。

 

 重桜では見られない美貌に心做しかドキドキしているのだろうか……エリザベスさんの前とは違う緊張感が体を走りつつも、まずは会話の基本である挨拶を交わした。

 

「よろしくお願いします。イラストリアス……さんでいいですよね?」

 

「確かに私は2学年ですが、私の事は呼び捨てでも構いませんわ」

 

「いやそれは……」

 

「ふふ、ではその時が来るのを楽しみにしてますわ」

 

 俺の両手を包むような握手を交わしたイラストリアスさんは微笑み、何だかイラストリアスさんのマイペースにのまれてしまう。ただ、こっちはロイヤルの事については分かってないから、ペースに付いていけるのは有難い事だった。

 

「2日間、ロイヤルを観光したらレポートに纏めて私に提出しなさい。それで私が満足したら、課題は完了よ」

「レポート用紙の制限とかは?」

「無しよ。私が満足させられるかどうかが問題よ」

 

 無制限……自由と言えば聞こえはいいけど、枚数制限が無い分、レポート用紙が少なくて課題がクリア出来ないのは避けたい。少なくとも10……いや15ぐらいは書く事を覚悟した俺は、これからの大変さに軽い溜息をついてしまう。

 

「それじゃあ早速行ってきなさい! 私のロイヤルの凄さを存分に堪能するがいいわ!」

「では行きましょう指揮官さま。イラストリアスがなーんでも教えてあげますわ」

 

 イラストリアスさんに手を引っ張られ、俺とイラストリアスさんのロイヤル観光がこうして始まった。

 

 ……そして、あんな風な出来事が起こるなんて、この時は夢にも思わなかった。

 

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