もしも、アズールレーン学園に入学したら   作:白だし茶漬け

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Congratulation

 ユニオンの夜は眠らない。誰かがそう言った様な気がする。

 実際、ユニオンの夜はとても明るく、昼と違った姿を見せていた。ビルの明かりやネオンライトで街を彩り、人も活発的になっていた。

 

 そして、それは今俺がいるパーティー会場も例外では無かった。

 

「イエーイ! 指揮官、楽しんでるー!?」

「い、イエーイ? うん、楽しんでるよ。……にしても凄いなぁ……ユニオンのパーティーって」

 

 俺がユニオンに来た歓迎パーティーをKAN-SEN達主催を開いてくれて、予想以上に賑わいに逆に戸惑ってしまう。

 同学年のKAN-SENにあっちこっち案内され、物凄く振り回されているのが今の現状だった。

 

「指揮官ー! こっちにピザあるよ! 食べてみて!」

 

 向こうにいた同学年のデンバーが大きく手を振っているのを見え、人混みを掻き分けながもデンバーの元へ辿り着いた。するとそこには、コロンビアとモントピリアも一緒にいて、クリーブランド先輩もいた。

 

「あ、指揮官。久しぶり」

「お久しぶりですクリーブランド先輩」

「遅れたけどユニオンへようこそ。なぁなぁ、指揮官ってユニオンでどこかに行く予定とかあるの?」

「ん〜特にこれと言った所は無いですね」

「だったらさ、明日の朝、少し付き合って欲しいんだけど良いか?」

「つ、付き合う!?」

 

 一瞬交際を申し込まれと誤解しつつも、クリーブランド先輩の言葉が用事に付き合うという意味を理解するのにはそうそう時間はかからなかった。

 

 まぁ、明日は何か別に用事がある訳では無いから、別に朝からの用事は問題無い。

 

「全然大丈夫ですよ。どれぐらいかかりますか?」

「そんなにはかからないかな。あ、迎えは明日私が行くから。待ってて」

「はい。じゃあ、待ってますね」

「よし、決まり! あ、指揮官腹減ってないか? ほら、このピザ美味しいぞ〜」

 

 クリーブランド先輩は机の上にあったピザを切り分けて皿に盛り、俺に渡してくれた。

 

「へぇ……これがピザか〜」

 

 皿の上でアツアツなピザをじっと見た。チーズの良い匂いが食欲を刺激し、上に乗せられた具材も美味しそうでお腹が鳴った。

 

「指揮官、もしかしてピザ初めて見るの?」

 

 近くにいたデンバーがまじまじとピザを見る俺を見て不思議に思ったのか、そう言うと、俺はコクリと頷いた。

 

「ピザとかこういうのって、あんまり重桜では見ないから。あ、写真では見た事あるんだけど」

 

 パンの上にチーズと具材を載せて焼いた料理って言うのは知っていたけど、実物を見るのは初めてだった。

 ユニオンではそうでは無いかもしれないけど、重桜ではパン自体が珍しい物だから、パン料理という物はほぼ無い。最近では、まぁまぁ増えては来ているけど、身近という程でも無い。

 だからこそ、珍しく思えるかもしれない。

 

 早速ピザを持って1口食べると、びよーんとチーズが伸び、伸びたチーズを入れようとチーズも一緒に食べると、チーズの旨味が口いっぱいに広がった。

 

「お、美味しい!」

「えへへ、ユニオンの料理も中々だろ? ほら、他にも色々あるから食べてみてよ。ほら、これとか!」

 

 クリーブランドさんはフォークにビーフを突き刺して俺に差し出すように向けた。

 食べさせてくれるのかなと思い、特に何も考えずビーフを食べた俺を見たクリーブランドさんは、一瞬時間が止まったかのように体を凍らせ、少しづつ顔を赤くさせた。

 

「あっ……あ、えと……指揮官、ごめん。私、無意識に食べさせちゃった……」

「え? はい。それが何か?」

「へ? あー……いや、指揮官が気にしてないなら大丈夫! うん、気にしないで!」

(なんかクリーブランド先輩顔赤いな……風邪かな?)

 

 風邪かなと思いつつも、クリーブランドさんのおでこに手を当てる。

 

「し、指揮官!?」

「うーん、少し熱いですね。あの、大丈夫ですか?」

「えっと……だ、大丈夫……じゃ……ある」

「そうですか? でも……」

「姉貴に触れるなぁ!」

 

 クリーブランド先輩と会話を交わしていると、近くにいたモントピリアから横から飛び蹴りを食らわされた。

 完全に無防備な所を全力で攻撃され、俺はそのまま吹っ飛ばれた。

 

「ほぐぅ!?」

「し、指揮官ー!?」

「も、モントピリア……な、なんでいきなり飛び蹴りを……?」

 

 ムスッとした顔をしたモントピリアは俺を見下ろし、本気で嫌悪している目を向けていた。

 

「姉貴に気安く触れるな」

「だ、たからって飛び蹴りは酷くない……?」

「当然の帰結だ。さっ、こっちに行こう姉貴」

 

 そう言い残して、モントピリアはクリーブランド先輩に引っ付いた。

 やばい、泣きそう。体の痛みからじゃなくてモントピリアに物凄く嫌われている事実を目の当たりにした心の痛みで泣きそうだった。

 

 昼にホーネットに何かしてしまって避けられたし、自信が無くなって来そうになった所を、コロンビアが風船ガムを膨らませながら俺の背中をポンと叩いて慰めてくれた。

 

「大丈夫、大丈夫。モントピリアのアレは『ボクだって指揮官と仲良くしたいのに姉貴だけズルい! けど、姉貴の方が大事だから指揮官に当たる』って感じだから」

「そんな事無いし勝手に人の心捏造するな! 姉貴、もう行こう!」

「ちょ、ちょっと! じゃあ、指揮官! また明日ー!!」

 

 モントピリアは更に怒りだしてしまい、呆れてクリーブランド先輩と一緒にどこかへと行ってしまった。

 モントピリアに蹴られた所の痛みが引いていくのと同時に、デンバーとコロンビアが手を貸してくれて俺を立ち上がらせた。

 

「ごめんね指揮官、モントピリアが」

「いや大丈夫。似てる人が近くにいるから」

 

 雰囲気とか性格がどことなく摩耶と似てるんだよなぁ、モントピリア。

 短めの髪に、モントピリアはくせっ毛だけど耳のような髪、少し近寄り難い雰囲気とかそっくりだ。意外と会わせたら息が合うのかも知れないと思ったけど、こっちの当たりの強さが2倍になりそうで少し合わせるの事に頭をなま

 

「何やら騒がしいと思って来たけど、指揮官絡みか?」

 

 どこか聞いた事ある声に振り返ると、そこにいたのはボルチモア先輩とブレマートン先輩に……あと一人、知らないKAN-SENがいた。

 

 少し暗い青髪に……すこし怪しい雰囲気を帯びた彼女は、俺を見ると微笑んだ。

 

「あの、ボルチモア先輩。そこにいる人は?」

「あぁ、紹介する。私と同じ2年で姉妹艦のピッツバーグだ」

「ハーイ指揮官ちゃん。よろしくね〜」

 

 ピッツバーグ先輩は顔を近づけると、じっとこっちの目を見つめていた。綺麗な人で、しかも初対面の人に見つめられて恥ずかしくなり、おもわず目を逸らす。

 

「ふふ、可愛い♪」

 

 突然ピッツバーグ先輩に顔を掴まれ、逸らした目線を向けられてしまう。

 吸い込まれそうな瞳をじっと見続けていると、心臓がドキドキと飛び出してしまいそうになる。

 視線を動かそうにも、ピッツバーグ先輩のお腹や太ももを出した際どいラインに目が行ってしまい、目を瞑ることしかこのドキドキは抑えられなかった。

 

「おいピッツバーグ! そこまでにしろ!」

 

 それを見かねたボルチモア先輩が顔を真っ赤にしながら彼女の腕を掴み、俺から距離を離した。

 

「もう~ボルチモア~。折角いい雰囲気だったのに……」

「どこかだ! い、イケナイ雰囲気だろ今のは……ん? お前、まさか酔ってるな?」

「そんな事~ないわよ~??」

 

 よく見ると確かにピッツバーグ先輩の顔が少し赤く、目もぐるぐるしているような気がする。というかしていた。

 

「すまない指揮官。少しピッツバーグの頭を冷やすから失礼するぞ」

「じゃね~~指揮官~♡今度はも~っと一緒に過ごそうね~♡」

 

 酔いが回ったピッツバーグ先輩は唇を尖らせ、投げキッスをしながらボルチモア先輩に連れ去られていき、あまりの距離感に心臓がまだドキドキしている。

 

「酔ったってことはお酒飲んだのかなぁ……」

「ううん、ピッツバーグはジュースで酔うんだよ」

 

 いきなり後ろから声を掛けられ、振り返るとそこにはブレマートン先輩がいた。

 

「ハロー指揮官。ピッツバーグに絡まれてるの見てたよ」

「見てたのなら助けてくださいよ~」

「でも、指揮官ピッツバーグの事見てドキドキしてたでしょ? 胸とか見てたの知ってるんだからね~??」

「み、見てません!! ……ちょっとしか」

 

 隠しても隠し切れないと悟り、恥ずかしさや情けない所を見られて穴が合ったら入りたい。

 

「あはは。ごめんね指揮官。でも、指揮官って赤城とか加賀とかのKAN-SENと今まで過ごしてきたのに、女の子の免疫は無いよね?」

 

 ユニオンの人たちとの距離感が掴めないのもあるけど……もう一つもしかしたらと思うところはあった。けど、いい話でも無ければ俺自身、あまり思い出したくない話でもある。

 それは重桜の伝承にまつわる差別だ。その差別は無くなったけど、受けた心の傷やトラウマは今でも心の奥に残っていた。

 

「あー……そうですかね?」

 

 やっぱり誰かに話すことでもないと思い、話を濁そうとすると、ブレマートン先輩を目の色が少しだけ変わった。

 

「なんか訳ありそうだね」

「……!」

 

 顔に出ていたのか、それともブレマートン先輩が鋭いのか俺の中に抱えている物を見抜いていた。

 ブレマートン先輩は俺の手を押さえつけるように握り、話さないまで手を握り続けると言われてるような気がした。

 熱気がこもった空気を吸い込み、俺はブレマートン先輩に過去に話した。

 

「実は、俺学校に行ってないんです。今まで」

「え? どうして……?」

「差別にあったり、昔の大災害で家族とバラバラになったり……」

 

 解けた紐が緩まるように、氷柱から水滴が流れ落ちるかのように、ブレマートン先輩に昔の事を話し続けた。

 災害で海に飲み込まれて家族を失い、海に恐怖している今の事や、獣の耳や尻尾が無いからって苛めに合ってそこから引きこもった事。

 あの時の海の冷たさの中で体中が海の塩辛さで一杯になり、息が出来なくなったあの災害のトラウマで、未だに海に対して恐怖はある事。

 

 差別で無意味に殴られ、全身にあざが出来る日も少なく無く、心がゆっくりと壊されていく痛みは今でも鮮明に覚えていて、胸が痛くなる。

 

 痛みはいつしか目から流れる涙となってあふれ出し、頬を伝って地面に落ちる。

 

「指揮官……?」

「あれ……ごめんなさい、急に涙が」

 

 泣きたい訳じゃ無いのに涙が止まらない。拭っても拭っても涙は溢れていく。

 この部屋の大きな音楽や皆の声で俺の涙声はかき消され、指揮官としての情けない顔は、幸いにもブレマートン先輩にしか見る事が出来なかった。

 

 泣いてちゃダメだと言い聞かせ、鼻水をすすりながら頬を伝う涙を全て拭ったその時、ブレマートン先輩が両手を広げ、抱きしめた。

 

 目の前の景色が変わり、先輩の香水の甘い匂いが包まれながら、彼女は俺の頭を撫でてくれた。

 昔、赤城姉さんがしてくれた様な抱擁は心地よくて安心感に包まれ、さっきまで傷んだ心の傷が少しづつ塞いでいくようだった。

 

「ありがとう。あと……ごめん。アタシが想像出来ない程、苦しくて辛い事思い出させて。辛いなら、アタシの胸の中でうーんと泣いていいから」

 

 泣いていいと言われて、彼女の言葉が心の奥で響き、まるで固く閉ざされていた扉が開かれるかのようだった。先輩の温かい抱擁に包まれながら、無意識に抑えていた感情が徐々に溢れ出してくる。

 

 この優しさに包まれながら甘えたい気持ちはあるけど、俺は先輩の抱擁を抜け出し、笑顔で感謝を伝えた。

 

「ありがとうございます。……話聞いてくれてありがとうございます」

「ホントに大丈夫?」

「はい。それに、悪い事ばかりじゃ無かったから」

 

 辛い事もあったけど、そのおかげで新しい家族に出会えた。尊敬する人にも出逢えた。

 本当に、奇跡の連続とも思える日々は俺にとっては宝物であり軌跡だ。

 心が温かくなっていくのを感じると、先輩は何か思い出したかのように外を見た。

 

「そうだ、ねぇ指揮官。外の方見てみ?」

「外?」

 

 ガラス窓の外の景色は夜空を照らすビルの明かりが煌びやかに光る光景だった。

 ビルの光は赤や青、緑にもライトアップされていて、光のアートが目に移り、心に刻まれた。

 

 そしてもう1つ、夜を照らす一筋の光が夜空に向かって飛んでいったその時、その光は弾けて周りを照らした。

 

 そう、花火だった。虹色に輝く花火達が夜空をライトアップさせていく。

 

 重桜と違って円型に広がるのではなく、滝のように広がって落ちていくのは新鮮だった。そしてよく見ると花火は文字になっていて、ユニオンの文字でこう記されていた。

 

 Congratulation。

 

「これは?」

「今日の為に用意したの! とっっても厳しい試験とか競走で、このアズレン学園入学おめでとー! って。ちょっと遅いお祝いって事で」

「まだよく知らない俺のために……?」

「これから知れば良いでしょ? ほら、皆も知りたがってるし」

 

 先輩が横を向き、つられて横に顔を向けると、他のKAN-SENの皆が俺に向けて拍手や口笛のファンファーレを送ってくれた。

 誕生日以外でこんな風に祝われたり、大人数で祝福されるのは初めての体験で、嬉しさが溢れてまた泣いてしまいそうになる。

 

「というか、これから知りたいって言ったの指揮官の方じゃん」

「あっ、そういえば……」

「もう〜!忘れないでよ!!ほらほら、指揮官からもなんか言ってあげなって!」

 

 グッと涙を堪えていると、ブレマートン先輩に背中を押されながら立ち上がり、皆が俺の言葉を待っていた。

 まるで入学式で全生徒の前で話した事を思い出し、目線が刺さって緊張してしまう。

 

 けれども、精一杯の感謝を伝える為、拙くてもこう言った。

 

「皆、ありがとう。……頑張って立派な指揮官になるなら。その……よろしく、皆」

 

 感謝と宣誓にKAN-SEN達はまた大きな拍手を上げた。

 

「期待してるよー!」

「絶対になれるって!」

 

 様々な激励を受ける中、俺はふと部屋の隅にいる銀髪で軍帽を被ったKAN-SENを見た。

 

「……エンタープライズ先輩?」

 

 皆楽しそうにパーティを過ごしているのに、1人だけ反対側にあった夜の海をじっと眺めていた。

 海が好きなのかと思ったけど、そんな目はしてなかった。

 

 あの目は……海を怖がっている目だった。

 

 俺達に襲いかかる海の恐ろしさを見逃さまいと、覚悟を決めては怯えて、奥底では震えている目。

 歓声は、まるでその目に吸い込まれていくかのように耳に届かなくなり、パーティーが終わるまでの間、あのエンタープライズ先輩の目が心の奥底で引っかかり続けた。

 

 

 

 

 パーティが終わり、用意された部屋に辿り着くと着替えを終え、そのままベッドの上で泥のように倒れ込む。

 ま、まさか日を跨いでパーティが続くとは思わなかった。

 

 おかげでお腹いっぱいで疲れたし、このまま寝たいけど、母さん達への連絡をしていない。

 確かユニオンと重桜の時差は10時間ちょっとだから……今はもうお昼程度だろうか。

 

 ならば連絡しても問題無いと思い、携帯を開いて家族グループにメッセージを送った。

 

「ユニオンに着いて、いっぱいもてなしてくれましたっと……」

 

 パーティーの様子を撮った写真を送ってメッセージを送信すると、直ぐに赤城姉さんからの返信が来た。

 

『優海!? そんなはだけた服装を来た女とあまり仲良くしたり、2人きりになったら駄目よ。ゼッタイに襲われるから!!』

 

 襲われるって何? そんな事しないし、皆良い人なのに。

 まぁ、いつもの赤城姉さんだと軽く流し、他の3人は美味しそうや、俺の旅を労ってくれた。

 

『まぁ、美味しいそうなパンですね』

『天城さん、これはピザです』

『確か近くにユニオンの料理を提供する店があったはずだ』

「へぇ、やっぱり重桜も色んな所の文化を取り入れてるんだ」

 

 何だか世界が繋がっているようでちょっとだけ嬉しい。

 どの陣営も昔は大きな戦争があったらしいけど、今はこうして皆で協力してセイレーンを倒す為に力を合わせている。

 

 その際たる象徴が指揮官だ。その何恥じぬように、明日はきちんとユニオンの事を学ぼうと意気込み、ベッドの上で瞼を閉じた。

 

「明日も良い一日になりますように……」

 

 そう願いながら、眠りに落ちる。

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