さて、私自身はまだ専門学生なのですが、皆さんは学生時代はどうだったでしょうか、私は私立で、何とiPadを支給されてびっくりしました。
時代はここまで来たかと、おっさんくさい事を思いながら授業に望み、ある物はそのiPadを使ってネットサーフィンしていた者もいましたw
さて、そんな私ですが、優海君は今正に入学式の最中!どうなるか!?
俺は今、人生最大級に驚いている。高校生活でいきなり初めに言われた言葉が【ご主人様】だからだ。
現に俺の目の前にはそれはそれは綺麗な顔立ちの持ったメイド服を着た女性が初対面である俺の事をご主人様と呼んだ。
あまりの第一声に時が止まったかのように俺の体は動かず、思考すらも止まっていた。そんな俺に彼女は表情一つ変えずにただ妖しげに微笑んでいた。まるで俺の反応を少し楽しんでいるようでもあった。
「え、ええと……俺とは初対面……ですよね? 」
「左様です。ですが、貴方様の事は存じております。天城優海様でいらっしゃいますね? 」
間違いなく彼女は俺の名前を言った。という事は……この人は学園の関係者という事で間違い無いだろう。
「えーと、貴方は一体…… 」
「申し遅れました。私の名前はベルファスト。ロイヤル出身、ロイヤルメイド隊所属のメイド長でございます 」
「ん?んん?ろ、ロイヤルメイド隊?メイド長……? 」
何だが初めて聞く単語が耳に入ったせいか少し混乱してしまったけど、彼女がロイヤル出身というのは理解した。しかし、未だに彼女がメイド服でいるのかはまだ知らずにいた。
というよりなんでメイド服何だろう……制服……って訳では無いし……
「詳しくは歩きながらご説明させていただきます。どうぞこちらへご案内します 」
そう言ってベルファストさんはそのまま通学路を歩き、俺も後について行った。
「あの……俺の事をご主人様って言ってたけど……どういう事ですか? 」
「敬語は必要ありません 」
「そうは言っても、俺はここの新入生ですから、流石に先輩に敬語はダメだとは思いますけど 」
「ですが私はメイドでございます。どうぞ自然体で接してください 」
とは言っているけど、見た感じ間違いなく先輩だ。メイドとか初めて見たし、もう情報量が多すぎてパンクしそうだ。自然体と言われても出来る気がしない。
「ええと……というか、さっきから【ロイヤルメイド隊】って言ってますけど……それって何ですか? 」
「それについては、まず学園の【部隊】という物を説明しなければなりません 」
「【部隊】……? 」
「はい、普通の学園で言えば、サークルや部活の様なものです。出身陣営関係なく同じ目的を持ったKAN-SEN達がグループを組み、学園に認めて正式に活動する事を【部隊】と言います。例えば私が所属する【ロイヤルメイド隊】は、誠心誠意人々に最高の御奉仕を与えるという事を目的にして活動しております 」
なるほど、つまりベルファストさんがメイド服を来ているのは、部隊のユニフォームみたいな物だろうか?
「その部隊って俺でも入れるのですか? 」
「可能でございます。よろしければご主人様もロイヤルメイド隊に入られますか? 」
「いや……遠慮しときます…… 」
「あら、もし入ってくだされば可愛らしいメイド服を着させてじっくりと指導したのに 」
「いやそこは執事服でしょ!?なんか黒いフォーマルスーツみたいな感じの! 」
いきなり変な事を言うベルファストに戸惑い、俺の焦った反応をみたベルファストは小さく笑っていた。
なんだか手のひらで踊らされているような感じがして妙に悔しい。
「ふふ、どうですか?少し緊張がほぐれましたか? 」
「え? 」
「ご主人様を見た瞬間、少し体の強ばりが見えたので、少しばかり緊張をほぐすために少々談笑に力を入れました。いかがでしょうか? 」
確かに、固まっていた体がほぐれたかのように動くし、先程こびりついていた不安感もなくなっていた。
まさか……俺の事をあんじて?
「ふふ、……話している間に到着しましたよ。改めましてご主人様、ようこそ、アズールレーン学園へ 」
そうこう話しているうちに通学路の道が終わりに近づき、俺の目の前にはそびえ立つ校門と校舎が建ち並んでいた。
校門は既に開かれており、まず出迎えるのは金の錨の形をしたモニュメントが置かれた噴水だった。ここからでも透き通って見える水の透明さが新鮮な気持ちになり、清々しい朝を迎えてくれるようでもあった。
「わぁ……広いな…… 」
パンフレットでも十分に見た広さだけど、やはり実物を見ると圧巻される。想像の2、3倍は広く、ここがどれだけの時間と労力が使われたのか伺える。
「ではご主人様、入学式までお時間がありますので、早速ですが学校長と理事長にご挨拶しましょう。御二方は本校舎で待っております 」
「い、いきなり挨拶か……ふぅ、緊張するな…… 」
いつかは挨拶しなきゃとはおもったけど、まだ少し心の準備が出来ていない。冷や汗が垂れ、心臓の鼓動が少し早まった。急ぎ足の鼓動を落ち着かせるように深く息を吸い、深く息を吐いた。
2回、3回と頭の考えをまとめながら深呼吸し、ようやく決心がついた。
「よし!行こう! 」
意気込みと共に本校舎へと行くと、その意気込みが崩れ去るような驚く光景が次々と出てきた。
本校舎の扉をくぐるとまず出迎えたのはあまりの広さの廊下だった。在校生がかなりいるのか、靴を置かれた下駄箱が非常に多く、しかも下駄箱というよりロッカーと言った方が正しいぐらいの大きさだった。
「ここは主に、戦艦クラスと空母クラスが使う校舎でございます。因みにご主人様が使う場所はこちらとなっています 」
「え?どこどこ? 」
俺のロッカーの場所は結構真ん中の位置に置かれていた。ロッカーを開けると勿論そこには何も無く、あるのはロッカーの扉の裏の鏡とハンガーとかかけるための棒があるだけだ。その他には特にめぼしい物は無かった。
(……隣のロッカーは誰かな? )
興味本位で隣のロッカーにある名前欄をちらりと見ると、そこには【エンタープライズ】と書かれた名札が飾られていた。
俺の隣だから、俺と同じ新入生だろうか?しかし、俺の考えとは裏腹のことを、ベルファストは口にした。
「そちらのロッカーはエンタープライズ様のですね。確か……ユニオン出身で2学年の方ですね 」
「えぇ!?じゃあ先輩!? 」
「私がどうかしたのか? 」
突然廊下の扉の方から声が聞こえ、俺たちは振り返った。太陽の逆光で輝く銀色の長髪をなびかせ、凛々しい深海のような紫の瞳はこちらをじっと見つめていた。
何か他の人とは違う存在感が感じられ、俺は無意識に姿勢を伸ばした。
「……?見ない顔だな。新入生か?いや、見た感じ人間だから……まさか、貴方が指揮官か? 」
「え、あぁ、はい!今日ここに入学する事になった天城優海です!よろしくお願いします! 」
「そんなにかしこまらないでくれ。私が言うのも何だが、ようこそ、アズールレーン学園へ。私はユニオンのエンタープライズだ。よろしく頼む 」
エンタープライズさんは右手を差し出して握手を求め、俺は緊張しながらも右手を伸ばしてエンタープライズさんの手を握った。
「おはようございます。エンタープライズ様 」
「ベルファストか、相変わらずその格好なんだな 」
エンタープライズさんは俺の隣にいたベルファストと目を合わせると、驚く事もせず見慣れた様に小さく笑った。
反応を見るにどうやらベルファストさんのこの衣装は学園でも見慣れたものらしい。
……その割にはなんか胸の上半分がさらけ出してるのはどうかと思うけど……目のやり場に困るし……
「しかし、入学式にはまだ時間があるはずだ。少し早すぎるんじゃないか? 」
「その前にご主人様は学園長との挨拶をする手筈でございます 」
「ちょっと待て。ご主人様……?指揮官では無いのか? 」
「ご主人様はご主人様でございます。以後、指揮官様の事を私達はご主人様と呼ぶので悪しからず 」
「待って、私達ってどういう事ですか!? 」
「私達【ロイヤルメイド隊】は勿論複数人います。今後はご主人様と統一させますので、どうか慣れてください 」
いやいや……入学早々それは無茶があるといいますかなんと言うか……。指揮官って呼ばれるのもまだ慣れてないし、ましてやご主人様って呼ばれるのも少し抵抗というか慣れなさがある。
「エンタープライズ様はどうしてこの時間に? 」
「自主練だ。何事も積み重ねが重要だからな。では指揮官、また会おう 」
エンタープライズ先輩は銀色の髪をなびかせて一旦別れた。
「ではご主人様、理事長室へご案内致します。こちらへ 」
大理石で作られた廊下を歩き、理事長室は最上階の5階にありと言われてエレベーターに乗った。
エレベーターは直ぐに開かれ、俺たち3人はエレベーターの中へと入っていった。
「わぁ……学校にエレベーターがあるなんて凄い……。わ!後ろがガラス越しで学園の背景が見える! 」
エレベーター側から上に昇るにつれて徐々に学園全体が見渡せるようになっていき、俺はガラスに手を着いてまじまじと見た。
やはりかなりの広さであり、パッと見でかなりの施設がある。
「ベルファスト先輩、あそこにある建物は…… 」
「ベルファスト、でございますよ。ご主人様 」
「……ベルファスト……さんで許してください 」
「ふふ、及第点でございますね。あちらの施設は…… 」
年上に対してタメ口が言いづらく、結局俺はさん付けで許して貰った。ベルファストさんに目に映った施設の説明を受けていると、あっという間に最上階に辿り着き、エレベーターの扉には廊下が繋がっ……てはおらず、赤い絨毯が敷かれた1つの部屋が広がっていた。
部屋の奥には、高級そうな長机に、学園長が座っているの黒い革作りの椅子の背もたれの向こうに誰か座っていた。
「こちらが理事長室でございます。陛下、ご主人様を連れてまいりました 」
陛下という言葉に反応して椅子が回転され、理事長の姿が表れた。厳格な顔つきかと想像したけど、それは大いに打ち砕かれた。
長い金髪に翠色の目に、肩が露出しているドレスと二の腕まで届いている長手袋に、極めつけは頭の上には小さな王冠がつけていた女性だった。
「良く来たわね指揮官。この狭き門をくぐった事を、まずは褒めてあげるわ! 」
「え?あ、ありがとうございます 」
この人が理事長……?何だが背丈とか俺より小さいし、本当に理事長かどうかさえ怪しいけど……
それでも俺は深々と頭を下げて挨拶をした。
「……何だが随分と弱々しい態度ね。そんなんでこの先やって行けるのかしら 」
理事長の何気ない一言が俺の胸に突き刺さり、その重い一撃に膝を曲げるぐらいのショックをうけそうだった。
「ですが陛下、ご主人様の成績は他の方の一線を超えています。点数はほぼ満点であり、更に戦術学も完璧でございます。これ以上ない逸材だと上層部も評価しておりました 」
「へぇ……?戦術学が……ね、誰から教えて貰ったのかしら? 」
「は、はい!戦術は母さんから教えてもらいました 」
「母?じゃあ、母は軍事関係の人かしら? 」
「あ、いえ、母さんもKAN-SENでして……それで 」
「……ん、ちょっと待って。KAN-SENの……母親?ちょっと待って、私の聞き間違いかしら? 」
あれ、知ってるかなって思ったけど、理事長は何だが理解が追いつけないようで、俺の事を初めて話した人と同じような反応をしていた。それを見たベルファストさんは1つの資料を取り出して、理事長の元に行って手渡した。
「陛下、こちらの資料は目を通しましたか?ご主人様の母方は……天城様でございます」
「天城!?ちょっと見せなさい! 」
母さんの名前を聞いた瞬間に理事長は顔色を変え、急いで資料に目を通した。
「そう、あの天城の子ね……血は繋がってないとなると、保護されたのかしら? 」
「俺の産み親はセイレーンの襲撃で……その後、運良く赤城姉さんに保護されたんです。それでその後、天城母さんが俺を育ててくれたんです。あの、母さんの事知ってるんですか? 」
「知ってるも何も、天城は名の知れた軍師よ。体こそ弱くて前線にはあまり出られなかったけど、その余りある戦術でセイレーンとの戦いに何度も勝利を導いたとんでもない奴よ 」
そ、そんな凄い人に育てられたのか俺は……凄すぎて嘘かと思うくらい驚いたけど、確かに納得できる所はあった。やけに戦術に詳しい所とか、軍事関係の所とかかなり深い所まで教えて貰ったから、理事長が言っている事は本当だろう。
「自分の事を言い出さない天城もそうだけど、それに気づかない貴方も相当鈍感ね 」
「ご、ごめんなさい…… 」
「別に謝る事じゃないわよ。ん……もうそろそろ入学式の時間ね。ベルファスト、準備の方は大丈夫かしら? 」
「はい、あとは手筈通りに 」
「流石ベルファストね、仕事が早いわ。貴方も来なさい。入学生代表なんだから、きっちりとやりなさいよ! 」
「が、頑張ります! 」
理事長は椅子から離れると、俺の腰ぐらいしか無い身長でも、威厳ある態度でエレベーターの前に立った。
「ほら、ボーッとしてないで来なさい。この女王陛下を待たせるつもりかしら? 」
「は、はい。今すぐに! 」
開かれたエレベーターに急いで乗り込み、最上階から地上の一階のボタンをベルファストが押すと扉が閉められ、エレベーターはゆっくりと下に降りていった。
上から地上を眺めてみると、制服を着たKAN-SEN達が次々と登校していた。1目見ただけでも女性しかおらず、その中で紅一点の男の俺は、何だが窮屈は感覚に見舞われた。
話題についていけるか、仲良く出来るか、不安だらけの気持ちの沈みようは、まるでこの降りていくエレベーターのようだった。
「……俺なんかで本当に良いのかな 」
ふと逃げ出すようにこんな事を言ってしまった。俺よりももっと出来る人がいるのでは無いかとか、今更ながらそんな風に考えてしまった。
冷や汗の冷たさが全身に走り、気のせいか少し息苦しい。頭が締め付けられるような鈍い痛みで吐き気も少しする。そんな時だった。
「大丈夫ですよご主人様 」
「え……? 」
突然ベルファストから声をかけられ、俺を安心させるようにか深く微笑んでくれた。
「貴方は狭き門をくぐり抜けた指揮官でございます。その努力、熱意、そして意思の結果が今でございます 」
「ベルファストさん…… 」
「そして、貴方はやり遂げ無ければなりません。門をくぐり抜けられなかった人の為にも…… 」
くぐり抜けられなかった人……指揮官になれなかった人達の事だ。指揮官になれるのは一人だけ。
俺がここにいる時点で、もう他の人達が指揮官になれるチャンスなんて無い。言い様によっては、俺はその人達を蹴り落としてここにいるという事になる。
……言葉にしてみれば酷い。勿論勝負事ではこういうことが付き物だって分かってる。だけど、その人達の事を考えると、どうしてもやるせない気持ちになってしまう。
「だから顔を上げ、そして胸を張って堂々としなさい。私たちを指揮する人が、そんな下を向いてどうなるって言うのよ 」
下を向いていた俺を睨むように、理事長が俺の顔を下から覗いていた。こうして見ると、理事長は本当に小さい、だけど、俺よりも立派だった。堂々と顔を上げ、胸を張り、その高らかな態度を決して崩さない態度は正に女王だった。
「……今私の事ちんちくりんだなって思ったでしょ 」
「え!?いやいやいや滅相もない! 」
「ふん!どうだか! 」
そうこうしているうちにエレベーターは止まり、1階にたどり着いた。扉が開くと理事長は真っ先にエレベーターが降り、続いてベルファストも降りていった。
「さぁ、早く来なさい指揮官。大きく1歩を踏み出したら堂々と歩きなさい!これは理事長命令よ! 」
「大きく1歩を踏み出す…… 」
その言葉はどこかで聞いた事ある言葉……いや、忘れられない言葉だった。
_優海、小さくても良いのです。1歩ずつ歩くのですよ。止まっては行けません。1歩ずつ前に歩けば、必ず貴方が行きたい場所に行けますよ。
「……母さん 」
送られた言葉を胸と共に顔を上げ、姿勢を但し、俺は右足を大きく出し、次に左足と大きく歩いた。
「やっと指揮官らしくなったわね 」
「誇らしいですよ、ご主人様 」
「あはは……そうなるように努力するよ 」
少なくとも、今は顔を上げている。
「それじゃ、そろそろ入学式の時間よ。体育館に案内するから、貴方も来なさい 」
もうそんな時間なのか、廊下の下駄箱にも沢山のKAN-SEN達がおり、皆各自の教室に荷物を置いてから体育館に移動するのだろう。俺を見るやいなやあの人が指揮官なのかなとひそひそと話ており、興味津々な様子だった。
(うぅ……なんか緊張する )
これまでこんなに注目を浴びた事なんて無いから余計に緊張する。そのせいか妙に暑くなって汗をかいてしまい、逃げるように理事長とベルファストさん達の後についていこうとしたその時、急に足がなにかに引っかかったように動かなくなり、俺はバランスを崩した。
崩れた目線でふと靴の方を見ると、靴紐が解けていた。どうやら解けた靴紐を踏んでしまい、そのままバランスを崩したようだった。
このまま大理石の廊下にぶつかろうと思い、反射的に目をつぶったが、頭に伝わるのはポヨンとした擬音が聞こえてきそうな柔らかで弾力のあるものだった。しかも、頭の左右に感じるからそのなにかに挟まられているようだ。
まさかとは思い、恐る恐るその何かから顔を離れると、目の前には白い布に綺麗な色白の肌、そして少し目線を上げると、少し顔を赤くさせたベルファストがいた。
「な……なななななな! 」
さっきの柔らかな物って……べ、ベルファストさんの……!!む……!いや、これ以上言うのはダメだ……なんか言ったら言ったで意識してしまう……!
「……ご、ご主人様、今回は不可抗力ですが、今後はこのような行いはしないように…… 」
「こ、これは違うんですベルファストさん!ホントにホント! 」
「あ、貴方……入学早々何してるのよぉぉ!! 」
理事長が突然どこからかハリセンを出し、そのまま俺の頭に思い切り振りかざした。
_数時間後 入学式 体育館
「……本っ当にごめんなさい……いや、本当に…… 」
「いえ、不可抗力なのですがお気になさらず 」
あの時の事がまだ鮮明に思い出してしまい、柔らかかったとか、花のようないい匂いがしてたとかそんな事まで思い返してしまい、消し去るように頭を振り、手でその煩悩を振り払うように頭をかいた。
「うぅ……しかもKAN-SEN達に見られたから第一印象が最悪に違いない……! 」
「それは私共から説明致しますので、ご心配なく 」
「すみません、迷惑かけっぱなしで…… 」
「良いのですよ。私はメイド、ご主人様の為に御奉仕する事が生きがいなのですから 」
「生きがい……か 」
「……で、あるからKAN-SEN達は日々の鍛錬と学習を怠らず…… 」
理事長もとい、【クイーン・エリザベス】さんの言葉が終わったら、次はいよいよ俺の出番という事だ。指揮官という事で入学生代表として何か一言、いわば送辞みたいな事を言うんだけど……
「……なんか長くない?もうかれこれ30分ぐらいは経ってるよ? 」
いくらなんでも理事長の言葉が長すぎる。小学校とか中学校とかの校長先生の言葉も長かったけど、今回かなり長くない?多分だけど寝てる人は1人は絶対いるに違いない。
「恐らく、ご主人様の心の準備の時間を取っているのでしょう 」
「え?俺の? 」
「陛下はああは言いましたが、とても心優しい方なのですよ。ご主人様の心が整ったら、終わることでしょう 」
「……そう言えば、陛下って言っていけるけど、どういう事ですか? 」
ベルファストさんは理事長の事を陛下と言っている。そこが少し引っかかってしまい、ついこのタイミングで言ってしまった。それでもベルファストさんは俺の質問に応えてくれた。
「あの方はロイヤルの女王陛下、【クイーン・エリザベス】様でございます。この学園の理事長の他にロイヤルの統辞も行っており、今日もこの時の為にお時間を作ったのでございます 」
「え、じゃあ……いつもはロイヤルの方に? 」
「左様です 」
じゃああの人……とんでもない人じゃないか。一体あの小柄な体で、どんな大きな責務を果たしてるんだ?
そんな事を考えたって、想像なんて出来ないし、想像したってもっと大きな事かもしれない。
「……辛くないのかな 」
「それは本人しか分かりません。ですが、それが自分の役割だと、果たすべき責務だと陛下は仰っていました。私は女王として振る舞い、優雅に振る舞うと 」
「すごいな……やっぱり 」
俺も、指揮官なればあんな風になるのだろうか、指揮官になれば、人類の為にセイレーンと戦う事になる。
直接的に戦うのはKAN-SEN達だけど、俺はそのKAN-SEN達を勝利に導く義務があり、それは同時に命を借りるという事になる。
KAN-SEN達の命や、人類の未来を俺は背負わなければならない未来が時間が経つにつれて近づき、俺はその責任を背負えるのが自信が無かった。
でも、それでも俺はこうしてここにいるんだ。
「……よし! 」
自分に大丈夫と言い聞かせるように手を握って震えを止めさせ、俺は立ち上がった。それを横目で見た理事長は話を終わらせ、俺に順を回した。
「これで、私からの話は終わりよ。次は入学生の代表として、指揮官からの挨拶に移るわ。一同、拍手! 」
理事長の挨拶が終わると同時に体育館には拍手の嵐が鳴り、理事長はステージ裏まで歩いた。
「お疲れ様でした、陛下 」
「ありがとう、ベル。さぁ、次は貴方よ!頑張りなさい! 」
「はい!じゃあ、行ってきます 」
ライトに照らされた体育館のステージに歩くと、横目には目に見える程のKAN-SEN達がずらりと座っていた。
「あれが指揮官? 」
「どんな人なんだろ…… 」
「耳とかあるから……重桜の人?あ、でもあれは髪かな……? 」
小さいが俺の第一印象を隣同士でコソコソ話すKAN-SEN達が多いが、俺は気にせずに壇上まで歩く。
用意された壇上まで歩き、マイクの調子が悪くない無いかと触れると、触れた音がマイクからスピーカーに通り、体育館に少し響いた。
(よし、大丈夫そうだな…… )
一呼吸を置き、俺はいよいよこの学園での初仕事を務める。
「この度、アズールレーンの指揮官になりました。重桜出身の天城優海です。本当はこのような立派な入学式を行っていただき、ありがとうございました 」
ここまでは順調だ。感謝の意を込めて一礼し、次の話をしようとしたその時、不意に俺は姉さん達が座っていた席を見つけた。 姉さん達は真剣にこちらを見ており、この挨拶を見守っていた。赤城姉さんはちょっと心配しているのか、少し浮かない顔をしていた。
その顔を見た俺は、姉さんを安心させる為に、これから言う事を書いていた紙を壇上に置き、ここにいるKAN-SEN達全員の顔が見えるようにした。
「……僕には姉がいます。それもKAN-SENのです 」
この事を言った瞬間、姉さん達以外のKAN-SEN達はざわつき初めた。当然だ、なんせ人間にKAN-SENの兄妹なんて出来るわけが無いからだ。
「勿論血の繋がりなんて無い。けれども、僕にとっては家族当然なんです。僕を救って、僕を育ててくれた事に感謝してもしきれない。だからこそ、僕は指揮官になると決めたんです。
……KAN-SENは、将来セイレーンと戦うって知った時、僕はショックを受けました。もしかしたら帰って来ないかもしれいない。その意味を知った時には、泣きだしました。だけど……そんなのは嫌だ。だから、周りの力を借りて、必死に勉強しました。
分からない軍事関係の学習や、戦術予報……本当に分かんなくて、何度か挫折しかけたこともあります。
けど、僕は姉さん達を……いや、海の上で君達KAN-SEN達を守りたい!そんな思いで俺は指揮官になると決めました!俺の考えで、俺の知恵で、俺の戦術で助けになりたい。だから……俺は最高の指揮官になります!先生方や、先輩方には、何卒ご指導の程、よろしくお願いします! 」
頭の中で考えた即興の式辞を終え、あたりはしんと静まり返った。失敗したかと恐る恐る顔をあげると、KAN-SEN達はこっちを見てるだけだった。
無反応の静けさに俺は重りのような不安がのしかかり、やっぱり即興は不味かったと後悔したその時、前から小さな拍手が聞こえ始めた。
前を向き直し、拍手をしていたのは姉さん達だった。その拍手を聞いたKAN-SEN達はまた1人、また1人と拍手をし、やがてここにいる全員が大きな拍手を上げた。
皆は期待や信頼の目を向けながら手を叩き、この瞬間、俺はこの信頼に満ちた目に応えようと誓った。
壇上から1歩離れ、一礼してから俺はステージ裏へと戻っていく。
ステージ裏に着き、席に着いているKAN-SEN達には見えない所までたどり着くと、俺は溜めていた息を思い切り吐き出し、心臓の鼓動がクラウンチングスタートしたかのようにバクバクと加速した。
「あぁ〜!良かったぁ〜!無事に出来て良かったぁ〜!」
「お疲れ様ですご主人様。とても感服致しました 」
「ま、良いんじゃない?私には及ばないけどね! 」
2人にお礼をし、俺は鼓動が早いままその場にあった余り物の小さい階段に座り込み、未だに緊張感や興奮が収まらなかった。
一番の大仕事を終えた今、後は教科書とかなにやらを担当の先生から貰えば良いはずだ。
「じゃ、私はこれで失礼するわね。この後の財務とかまだまだ残ってるしね 」
「え、じゃあわざわざこの時のために……? 」
「当たり前よ。私の学園……という訳では無いけど、私は理事長よ。こんな大事な日に来ないなんて理事長失格よ 」
「理事長…… 」
「じゃ、迎えが来たらしいからこれで失礼するわ。指揮官、ヘマしたら極刑だから覚悟しなさい! 」
「が……頑張ります! 」
「ふふ、それじゃあね 」
理事長は優雅に手を振ってそのまま振り返る事無くこの場から去った。体は小さくても、心は偉大。そんな感じの人だった。
「ではご主人様、この後のご予定ですが…… 」
「よし!ばっちこい! 」
_数時間後
「ん〜終わった〜!ふぅ、何だが長い1日だったなぁ 」
「お疲れ様ですご主人様、こちらをどうぞ 」
長い一日を感じた俺を労うようにベルファストさんは飲み物を差し出した。容器のデザインがやけに豪華で高そうな感じだっけど、疲れに支配された俺はそんな事を気にせずに快くその飲み物を受け取り、キャップを開いてはそのまま勢いよく飲み干した。
口に入れた瞬間オレンジジュースだと分かったが、それは今まで飲んだ事が無いほど美味だった。
酸味と甘味のとてつもないバランスのおかげなのか、オレンジジュースなのに濃厚かつ飲みやすく、スッキリとした甘さだ。
「わっ……美味しい! 」
「それは良かったです。ご主人様の為に用意したかいがありました 」
「これ……飲んだことないほど美味しいけど、どこで売ってるんですか? 」
「それは最高級のオレンジを果汁の中でも、上質なものだけを抽出したものとなっています。一本で10000はなるでしょう 」
「ここここれが1万!? 」
飲み物で1万……しかもジュースでそれってとんでもない。流石ロイヤル……貴族の陣営と呼ばれるだけある。
1万の物をがぶがぶと飲んだ無知な自分を恐ろしく感じ、残り半分のジュースは大事に飲もうと誓った。
「あら、もうよろしいのですか? 」
「だ……大丈夫です…… 」
「では、これにて本日のお務めは終了です。私ともここでお別れですね 」
「あ、ありがとうございました。最後まで付き合ってくれて 」
「とんでもありません。私はメイド、これくらいの事は当然でございます 」
しかし今日は本当にベルファストさんにお世話になりっぱなしだった。学園の事とか、生徒の事とか、分かりやすく丁寧に教えてくれたり、正に完璧の言葉が相応しい人だ。
「じゃ、俺はもう帰りますね 」
「では正門まで案内を…… 」
「いえいえ大丈夫ですよ!流石にそこまでは付き合わせられませんし、それに覚えたので大丈夫です 」
実際、この本館の構造は大体覚えたから、あとはその内慣れるだろうと未来の自分に託した。
教科書とかで重くなった鞄を背負い、ベルファストさんに挨拶をしてから扉のドアノブに触れる。
「じゃあベルファストさん、また会いましょう。さよなら! 」
「はい、行ってらっしゃいませ、ご主人様 」
「……? 」
行ってらっしゃいませ……?あぁ、なんかメイドさんとか別れの挨拶をする時そう言うんだっけ?
あまりよく分からないけど、ベルファストさんは笑顔でお辞儀をして俺を見送ってくれた。夕焼けを背にし、夕日の逆光を窓ガラス越しで照らされたベルファストさんは、とても綺麗に感じた。
自分のロッカーがある所まで歩き、靴はそのままで良かったのでロッカーは開かずそのまま正門まで歩くと、まるで出迎えるように3人のKAN-SENがいた。
制服を着こなし、俺の姿を見えると手を大きく振った人もいれば、やっと来たかと呆れている人もいた。
長い黒髪に、短い白髪と銀髪の姿は間違いない、姉さん達だった。
「優海〜!こっちよ〜! 」
赤城姉さんは大きく手を振りながら声を上げ、その姿を見た俺はそのまま正門まで走った。
「赤城姉さん!それに加賀姉さんと土佐姉さんも!わざわざ待っててくれたの? 」
「当然よ。それよりも入学式頑張ったわね!もう姉さんは感動で涙が出たわ〜 」
そう言いながら赤城姉さんは俺を抱き、そのまま離さないように結構力強く握った。まるでマーキングするかのように頬を擦り寄らせてきたり、耳と尻尾が物凄い勢いでブンブン振っていた。
「…………? 」
すると赤城姉さんの動きが止まり、何だが怪しい雰囲気になった。目を細め、俺の首元に鼻を近づけて何かを確認すると、更に腕の力を強めた。
「ねぇ……優海、貴方から知らないオンナの匂いがするけど……何かしらこれ 」
「え?あ〜ベルファストさんかな?あれ、でもベルファストさんとそんなに密着してなか…………あ 」
俺とベルファストさんが密着した瞬間は……あるにはあった。しかも、俺のドジで招いた事で、しかも俺の頭にベルファストさんのアレが挟まれて……
「ああああああ!!! 」
ようやく意識から離れてたのにまた思い出してしまい、俺は大きな声をあげて赤城姉さんを押しのけ、そのまま鞄の重さが忘れるぐらい必死に学園から逃げるようにそのまま走り去った。
「あ!こら待ちなさい優海!どういうことか説明して貰うわよっ!! 」
赤城姉さんも物凄い形相で俺を追いかけ、それを見た加賀姉さんと土佐姉さんは呆れてため息をついた。
「はぁ……姉様の溺愛にも困ったものだな 」
「どうしますか、姉上…… 」
「無論、追いかけて落ち着かせるぞ 」
加賀姉さんと土佐姉さんもこっちを追いかけるように走り、兄妹での初めての下校は、夕日を背負って鬼ごっこのようなはちゃめちゃな下校となった……