もしも、アズールレーン学園に入学したら   作:白だし茶漬け

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眠気から縮まる距離

「さぁ、ご主人様……遠慮なくどうぞ 」

 

「だ……ダメですよ!俺達まだ学生で…… 」

 

そんな俺の主張を強引に止めさせるように、ベルファストさんは俺を床に押し倒し、馬乗りで俺の両肩を掴んだ。

KAN-SENだからなのか、妙に力が強く、俺はもがいてもその場で固定されたかのように動けなかった。

 

俺を見下すベルファストさんは目を妖艶に細め、顔を俺の耳元まで近づけた。それと同時に胸も俺の体に当たり、しっとりとした弾力が俺の思考を更に熱くさせ、停止させようとする。

 

「ご主人様、私はメイドなのです。ご主人様のしたいことは何でも、な・ん・で・も……受け入れますよ……? 」

 

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!! 」

 

陽気で暖たかな春のあけぼのの中、俺はベットから転げ落ち、その衝撃の痛みで意識が覚醒した。頭を必死にさすって痛みを無くさせ、ようやく痛みが引いたと同時に体をゆっくりと起こす。見慣れた机、見慣れた天井、見慣れたベット、そして見慣れた本棚……間違いないここは俺の部屋だ。

 

重桜特有の和風の部屋からは想像もつかないような現代的で普通の部屋に戻ってきたと安心し、ほっと息を吐いた。

 

(……凄い夢を見たような気がする )

 

というより事実凄い夢だった。いきなり教室らしき場所でベルファストさんと2人きりになって、ベルファストさんがそのまま俺を襲うように押し倒したのだ。

というか会ってから1日ぐらいしか経ってないのになんであんな夢を見るんだよ……意識とかしちゃってるのかなぁ……。

 

多分昨日の入学式に起きたあのアクシデントが原因で俺はあの夢を見てしまったのだろう。良かったような、何だが惜しいことをしたような感じが入り交じる思いの中、とりあえず俺は制服に着替え、下の階に降りる。

 

1階におり、いつもは洗面台で顔を洗って眠気を覚まそうとするけど、今回はベットから落ちて起きたせいなのか眠気は吹き飛んだ。洗面台を通り過ぎ、いつもの居間まで近づくと、何か小麦の良い香りがしてきた。

 

なるほど、今日はパンかな?そう思って今の扉を開けると思った通り、既にトースターで表面をカリッと焼いていたトーストとハムエッグが机の上に置かれていた。

 

「おはようございます優海。何だが凄い物音がしたけど大丈夫? 」

 

「だ、大丈夫だよ母さん!今日も美味しそうなご飯だね!いただきまーす! 」

 

煩悩丸出しの夢を見て転げ落ちたなんて言える訳も無く、俺は下手に誤魔化しながら椅子に座った。母さんが心配そうにこちらに見ており、俺は大丈夫だと言わんばかりに笑ってパンを頬張った。

 

「……それなら良いけど、パンにジャムとか付けなくて大丈夫? 」

 

「あ、付ける付ける〜苺のはある? 」

 

母さんは机の上にある苺ジャムの瓶を俺に渡し、スプーン一杯すくって食べかけのトーストの上に満遍なく塗った。地味に端っこにジャムがかかってないと勿体なく感じてしまい、ギリギリまで伸ばそうとしたが僅かに届かず、もうちょっとだけジャムを塗ろうとした途端、母さんにジャムの瓶を取られてしまった。

 

「かけすぎです 」

 

「ええ〜!いいじゃんちょっとぐらい!あと端っこのここだけ!ここだから! 」

 

「ダメです。さっきのジャムの量を見ましたが一杯を超えています。これ以上はダメです 」

 

「うっ…… 」

 

わざと多めに取っていたことバレてた……そこまで見透かされているなら言い訳も弁論も無駄と悟り、俺はそのままトーストをかじり、牛乳で喉の乾きを潤した。

 

「……あれ、そう言えば姉さん達は? 」

 

「赤城達は部活の朝練でもう行きましたよ。そう言えば、優海はもう部活は何をするか決まったのですか? 」

 

「部活か…… 」

 

今の所、入りたい部活は無い。入学式の時、部員の人達が入学生を熱烈に歓迎し、そこに俺は例外無く声をかけられたけど……

 

女性しかいない部活の中で男の俺が入っても何だが肩身が狭い。

 

別に部活に入らないと行けないと言う事は無く、なんなら帰宅部も結構いると言う。だけどかと言ってすぐ家に帰ってもなんだかなとは思ったりもしてるから、どっちもどっちの立ち位置だ。

 

それに、ベルファストさんが入っているロイヤルメイド隊のように、『部隊』というのもある。

まぁ、まだまだ入学して2日目だし、様子を見てから決めるつもりだ。

 

「もぐっ……ふぅ、ご馳走様!じゃあ行ってくるね! 」

 

「待ちなさい優海、お弁当忘れてますよ 」

 

 

そう言って、母さんは鞄に履いきらないような大きな弁当を俺に差し出した。

「……いつも思うんだけど、母さんっていつも弁当の量多いよね……」

 

俺に差し出してきた弁当……というより、お節並の大きさをしている。しかもこれが中学の時からなので慣れてはいるが、年に重ねるに連れて大きくなってるから流石に限界だ。中学のときも結構苦労して食べた思い出が今になって蘇ってきた……

 

「母さん……俺こんなに食べられないよ 」

 

「ダメです。特に優海は男の子で育ち盛りなのですから、一杯食べないとダメですよ 」

 

「いやだからといってこの量は流石に多すぎるよ!これじゃあお節じゃん! 」

 

しかも食べきれない以前に一段一段がかなり大きく鞄に入りきれない。母さん本人からすれば俺の体を考えての事だろうけど、過保護にも程がありすぎる。

 

小さい頃俺が怪我した時には母さんと赤城姉さんは目を血走らせて俺の事を治療したなぁ……ちょっと転んだだけのかすり傷だったのに……

更には病院にまで行かせようとしてたし、やっぱり姉妹なんだなと感じた一面でもあった。その時は加賀姉さんと土佐姉さんとで何とか包帯をまく程度にはなった。

……まぁ、それだけでも大袈裟だったけど。

「とにかく!もう少し量を減らしてよ!このままじゃカバンにも入らないよ 」

 

「……では、一段目を渡します。これなら大丈夫でしょう 」

 

なんか不服そうな表情を浮かべながら母さんは弁当箱の1段目を別の勉強箱に移し、俺に再度手渡した。

普通より多いけど、これなら大丈夫だろう。

 

「うん、じゃあそろそろ時間だし……行ってくるよ 」

 

「はい、行ってらっしゃい優海。怪我をしないようにね 」

 

「分かってるよ 」

 

残りのトーストと牛乳を全て平らげ、渡された弁当を鞄に入れたら準備は完了。

一応忘れ物が無いかのチェックをしてと……よし、大丈夫。初日の授業から忘れ物があって恥をかくなんて事は無い!ホッと一安心しながら玄関を歩き、ピカピカな靴の紐を結んだら後は扉を開く。

 

朝日の太陽が眩しく輝き、一瞬夏のような日差しにも思えてきた。 いつも通り変わらない道を歩き、変わらない景色を通り過ぎ、最後にはいつもとは違う道に進んで、学園に行く船へと足を運ぶ。時間通りに船は停泊しており、俺は定期券を饅頭に見せ、急ぐこと無く船へと乗り飲む。

 

「……今日は結構混んでるかな 」

 

この船は学園がある島に行くと行っても、そこが1つの通行港であってあくまでもこの船は公共の物だ。勿論KAN-SEN以外の人もいるし、なんなら重桜の観光客だっている。……まぁ、俺が住んでる島には観光名所なんて無いんだけどね。

 

船に空いている席がない以上、今日は立って学園に着くまで待つしかない。そう言えばここには小さいながらも売店があるし、そこで何か買うのもありかもしれない。

早速売店に行こうとしたその時、誰かから声をかけられた。

 

「あら?もしかして優海君じゃない? 」

 

名前を呼ばれて振り返ると、これまた随分と顔なじみの人がいた。黒髪ロングに白のセーラ服に黒いスカート、足にストッキングを履いていた彼女の頭には犬のような耳があった。

 

「あ!愛宕さん!お久しぶりです 」

 

「覚えていてくれたのね!お姉さん嬉しいわぁ! 」

 

再開の喜びなのか愛宕さんは朝から大胆に俺に抱きついてきた。迫り来る二つの胸部が俺の顔に近づいた時には遅く、俺はそれに挟まれてしまった。

 

「優海君がアズレン学園に来てくれてお姉さんとっても嬉しい!入学式の時もカッコよかったし、お姉さん感動しちゃった!」

 

むー!むむむ!!(愛宕さん!苦しい!)

 

愛宕さんの背中を強く叩いても愛宕さんは抱く力を弱めず、寧ろ強さを増していた。

まずい、これはまずすぎる。早くしないと柔らかさで窒息するという前代未聞のあの世行きになってしまう。

男の夢とかどうのこうのとか言われそうだけど、本気でやばい。

 

「あ……愛宕姉様、そろそろ離さないと優海君が…… 」

 

「へ?あ……ゆ、優海君!?大丈夫!?優海君ーー!? 」

 

「な……何とか大丈夫…… 」

 

一瞬生死の境をさ迷って、綺麗なお花畑と三途の川が見えたような気がした。ゆっくりと息を整え、何とか意識を取り戻す。

 

愛宕さん変わってないなぁ、昔から俺の事こんな風に扱う……というか甘やかすって表現が正しいと思う。

出会い頭に何かお菓子とかくれたり、何回か愛宕さんの所に泊まった時なんていつも夜には俺を抱いて寝るんだこの人……

 

「とりあえず、席が1つ空いてるから座って。摩耶、良いわよね? 」

 

「……別に 」

 

「もう、相変わらずツンツンしてるわね。優海君は気にしなくて良いからね 」

 

昔から一匹狼的な性格な摩耶の隣に座り、摩耶は隣に座った後そっぽを向くように窓の外の景色に顔を向けた。

 

『まもなく、船が発進致します。揺れが大きくなる恐れがありますので、立っている方は手すりを持って下さい 』

 

アナウンスが鳴った後直ぐに汽笛がなり、船は大きな揺れを起こして出発していく。ゆらりゆらりと船に揺らされながら、俺と摩耶の間には未だに沈黙が続いた。

 

せっかく久しぶりに会ったんだ、摩耶には無くても俺の方は積もる話もある。俺は少しの勇気を持って摩耶に話しかけた。

 

「ひ、久しぶり摩耶。俺が中学を卒業して以来かな 」

 

「……そうだな 」

 

窓の方に顔を向けながら、摩耶はこちらに顔を顔を向けようとしなかった。

やっぱり俺嫌われているのかな……初対面でも怖い顔付きで睨んでいたし、家に遊びに来た時だって俺とも関わりあおうともしなかった。

 

話しかけようにも聞く耳は持たないだろうし、俺と摩耶の間には気まずい空気しかながれなかった。

 

「もう、摩耶は相変わらずね。本当は会えて嬉しい癖に 」

 

「な……僕は別に……! 」

 

「あら?じゃあどうして愛宕姉さんが優海君の名前を言った時からそわそわしているのですか? 」

 

「それは……」

 

摩耶の妹である鳥海がその質問をした時、摩耶は言葉を詰まらせた。言葉の歯切れも悪く、最早何を言っているか分からない状態が続き、バツが悪いと思ったのか摩耶はそのまま立ち上がって席を離れた。

 

「あ、ちょっと摩耶どこに行くの? 」

 

「少し外の空気に当たる! 」

 

大きな足音を立てながら摩耶は行ってしまい、追いかけようにも多分ついてくるなと怒鳴られるから俺はその場に動けなかった。

 

「もう、素直じゃないんだから 」

 

「俺……もしかして変な事したかな 」

 

「ううん、摩耶が勝手に照れてるだけよ。ところで優海君、ちょっと聞きたいことがあるんだけど良い? 」

 

突然愛宕さんから質問をされた。勿論断る理由もなく、俺は無言で首を縦に振った。

 

「摩耶の事、どう思ってる?摩耶は感情表現があまり得意じゃないから、周りに遠ざけられてるから…… 」

 

確かに、摩耶は友好的な性格ではなく、少し棘のある性格だ。まるで刀のように近寄り難く、触れられない様な女の子だけど……

 

「摩耶は良い人ですよ?俺が小さい頃迷子になった時、最後まで俺の手を繋いで家まで送って貰ったし、寒い時にはマフラーを俺にくれたり、あと虐めに会った時は俺を守ってくれたり…… 」

 

「虐め?……それって誰かしら?覚えてる?気づかなかったわ、やっぱり私が傍にいた方が良かったのかしら…… 」

 

「あ……愛宕さん? 」

 

急にブツブツ言って凄く怖い目をしており、愛宕さんからどす黒い怖いオーラが見えたような気がした。

 

「愛宕姉さん落ち着いてください!多分優海君は気にして無いですから! 」

 

「そ、そうそう!結構昔だし俺が『かごなし』だった話だから! 」

 

「……それならいいけど。あまり気にしないでね?『かごなし』なんて昔からある言葉でただの伝承なんだから 」

 

「分かってますよ 」

 

重桜には古い言い伝えで、『かごなし』はいつしか呪いが降りかかる。あるいは呪いを纏ったから神の加護が受けないと言われている。その為、昔『かごなし』は相当酷い扱いをされていたらしい。俺も本でしか聞いた事は無いけど、小さな子供であろうと虐殺したこともあったらしい。この時代に生まれたことは奇跡と言うべきだろう。もし俺が本で見た時代に生まれたら……考えただけでも寒気がする。

 

『まもなく、アズールレーン学園島に到着します。お降りの際はご注意下さい 』

 

アナウンスが鳴り、窓の外を見ると学園がある島が近づいてきた。

 

「あら、優海君と話していたらあっという間ね。じゃあ降りましょうか 」

 

愛宕さんと鳥海さんは荷物を持って立ち上がり、俺もそれについて行くように立ち上がった。

 

「あれ、摩耶はどこだろう…… 」

 

結構摩耶は最後まで戻ってこず、荷物が座席に残したままだった。戻ってくるかも知れないが、俺は摩耶の重い荷物を持ち、摩耶の帰りを待った。

 

「大丈夫なのかな…… 」

 

「大丈夫ですよ優海君、多分……向こうの壁の奥にいるはずですよ 」

 

鳥海が船の出口近くの壁に指を指すと、見てきてくださいと言わんばかりに小さく笑った鳥海はまるでこの後の展開を予想しているようだった。とにかくそこに行くと、曲がり角の所で摩耶が座り込んでいた。

 

「摩耶!座り込んでどうしたの? 」

 

「べ、別に何でも無い……! 」

 

「いやでももし体調が悪かったりでもしたら…… 」

 

「僕に近寄るな!あと荷物を返せ! 」

 

様子を見ようとするも、摩耶は近づくなと言って俺を跳ね除け、そのまま俺が持っていた摩耶の荷物を強く取り、そのまま一人で学園に行ってしまった。

摩耶の顔を見たけど、顔全体が赤かったし、もしかしたら風邪の可能性もあるかもしれないから心配だ……

 

「……本当に大丈夫かな 」

 

「あれは大丈夫よ。ふふふ 」

 

愛宕さんは妙に不敵に笑い、それも気になりながらも通学路を歩いていく。島の中央まで歩くと学園の正門が見え、その正門を通って自分のロッカーに向かう。

 

「じゃあ優海君、私たちは向こうだから……勉強頑張ってね! 」

 

愛宕さんと鳥海は向こうに行ってしまい、俺は本館にある自分のロッカーに向かう。

ええと、今日の一限は駆逐艦クラスだったかな。週ごとに授業が違うから随一チェックしないと大変だけど、いつかは慣れるだろうと未来の自分に託して教室まで移動した。

 

駆逐艦クラスの教室は2階だ。すれ違うKAN-SEN達の視線を少し気になるものの階段を上がり、廊下の隅にあった駆逐艦クラスのドアの前に立つ。

 

「……入っていいん……だよねこれ? 」

 

クラスは間違えて無いかとか、緊張でそんな事が頭の中で1杯になり、ついにはドアの前にうろうろと動いてしまう。

 

しかしそんな事している間に授業の時間は刻一刻と迫っており、あと10分程度で始まってしまう。ええいままよ!吹っ切れてドアの手すりに触れ、思い切りドアを左にスライドし、ドアを開けて教師に入る。

 

ドアが開かれたことによって教室にいたKAN-SEN達は俺の方に視線向け、あまりの視線の多さに俺はたじろぐ。やはり俺以外全員女子だから少しこの視線は緊張する。

 

「え……えーと……おはようございます……? 」

 

「あ!貴方もしかして指揮官さんですか? 」

 

元気よく机から立ち上がり、紫色の髪のポニテールをしている活発そうなKAN-SENが俺の前にぐいぐいと迫ってきた。エメラルドグリーンの瞳で俺の目をじっと見ており、思わず目を逸らそうにも、ジャベリンは体を動かしてる俺の目を見ようとする。

 

「な……何かな?それに君は……? 」

 

「あ!私、駆逐艦の【ジャベリン】と言います!まさか授業初日から指揮官と一緒に授業が受けられるなんて感激です! 」

 

「そ、そう? 」

 

そう言われると何だか悪い気はしない。寧ろそんな事言われた事ないからついつい嬉しくなって顔がにやけてしまう。

 

「あ!指揮官の席はあそこですよ。私の隣です 」

 

6列の内、真ん中で1番後ろの席にジャベリンは指を指すと、ジャベリンに俺の机の案内をされた。

机には確かに指揮官席と書かれており、それ以外はほかの机と差程変わらない。

 

両隣が空席であり、ひとつはジャベリンの席だとさっき知ったが、もう1つは誰のだろうか?鞄とか置かれていないから、まだ来ては居ないのだろう。しかしもうすぐで1限目の授業が開始されるのに……

 

その後、結局右隣の席は空いたまま1限目の授業が始まるチャイムがなってしまい、それと同時に扉は開かれた。

 

「はーい、皆席に座ってください 」

 

恐らくここの教師であろうKAN-SENが教室に入ってきた。

短髪のブロンドで紫色の瞳に眼鏡をかけており、服は飾緒付きの白衣は大きく、何とミニスカートとストッキングを履いており教師にしては随分と攻めた衣装だ。

それに極めつけは……体型だ。身長が差程大きくはなく寧ろ小さいけど、胸部が平均の人間よりかなり大きい。

 

KAN-SENは発育が人間と全然違うって言うけど、あれを見た感じ嘘では無いだろう。

 

「ほらそこ!ちゃんと座りなさい!私は駆逐艦クラス担当の【Z23】です。これから貴方達をしっかりと指導するので、よろしくお願いします 」

 

随分ときっちりとした姿勢と言葉使いでここにいる生徒は座り、俺も意識が背筋を伸ばしたような気持ちになった。

 

「ではまずは出欠を取ります。えーと……【綾波】さん 」

 

先生が【綾波】という名前を呼ぶが、返事が帰ってこなかった。もう一度先生が綾波と呼ぶがやはり返事は無く、しーんとした空気だけが帰ってくる。

 

多分、俺の左隣の席に綾波と言う子が来るのだろうが、まさかの授業初日で遅刻とは……

 

何かあったのだろうかと心配していると、遅れて扉が開かれた。

白髪のポニーテールは少しぼさついており、何だか眠そうな感じに目を細めている。

 

「あ、綾波さん!授業初日から遅刻ですか!? 」

「すみませんです。ちょっと昨日徹夜してたら遅れたのです……ふぁ…… 」

 

「全く……貴方の席は指揮官の隣ですから、座ってください 」

 

小さく欠伸をした綾波は瞼を擦りながら自分の席に座り、鞄を横にかけたら直ぐに机に突っ伏せてしまった。

「ねぇ……君、大丈夫?もしも具合とか悪かったら保険室に…… 」

 

「大丈夫なのです。ちょっと遅くまでゲームしてたので……ふぁぁ…… 」

 

「げ、ゲーム? 」

 

まさかの遅刻した理由が徹夜でのゲームとは……これは言い訳が出来ない。半ば呆れた俺は大丈夫かなと綾波を心配し、俺の名前が呼ばれるまで名前を呼ばれたKAN-SENの顔を覚えるようにした。

 

流石にこの出欠で全員の名前を覚えることは出来ないけど、クラスのKAN-SENは全員個性的な容姿をしているので覚えるのにはそこまで苦では無いはずだ。

 

「では最後に……指揮官、天城優海さん 」

 

「はい 」

 

30余人の出欠が終わり、遅刻は入れど全員揃っていた。

先生は出席簿を閉じ、小さく咳払いした。

 

「よし、全員揃ってますね。では授業を始めようと思いますが、この時間はHRですが、まずは自己紹介をしましょう。まずは綾波さんから……って、寝てます? 」

 

隣の綾波を見ると突っ伏せていて分からないけど、耳を澄ますと微かに寝息が聞こえる。

 

……ちょっと待って。よく見ると1番窓際の席、つまり綾波の隣の席の子も寝ているのではないか?

 

少し腰を浮かせて奥の席を覗くと、綾波よりも白い髪のツインテールで、頭に兎の耳のカチューシャをしており、制服の上に少し大きいピンクの上着を着ていた。

 

「あの先生……向こうのKAN-SENも寝てるのですが…… 」

 

「えぇ!?ちょっとラフィーさん!綾波さん!起きてください! 」

 

まさかの2人も初っ端から寝るというとんでもない事が起こり、俺やって行けるのか不安になってきた……

とにかく俺は隣の綾波の体を揺すって綾波を起こすと、綾波は眠そうにしながらも体を起こし、向こうのラフィーというKAN-SENも眠そうながらも顔を上げた。

 

「むにゃ……ラフィー……寝てない……んむぅ 」

 

「ああ言ってる側から!……もう、仕方ないのでこのまま自己紹介に行きましょう 」

 

言った途端に直ぐに寝る体勢のラフィーだけど、このままじゃ埒が明かないと先生は思ったのか、おおきなため息を吐いて半ば強引に自己紹介の時間を設けた。

 

……俺、本当にやって行けるのかな。

 

 

_数分後

 

「では、最後に指揮官、天城優海さん。自己紹介をお願いします 」

 

数分の時間が流れ、全てのKAN-SEN達の自己紹介は終え、残りは俺だけとなった。椅子から立ち、こちらに注目したKAN-SENたちの目を見渡し、俺は自己紹介を始めた。

 

「初めまして。俺は【天城優海】です。優しい海って書いて優海だから、そこは間違えないように。趣味は……将棋……かな、これから指揮官として頑張っていきたいと思うから、これからよろしくお願いします! 」

 

ふぅ……緊張した。心の中にいる俺は肩の力を抜いて椅子に座ったが、直ぐにはそうは行かない。先生から質問タイムを設けられ、KAN-SEN達は次々と手を挙げた。

 

「ええと……じゃあ、1番早かった君から 」

 

「はい!ありがとうございます! 」

 

俺が1番に指名したのは1番手があげるのが早かったジャベリンだ。ジャベリンは嬉しそうに椅子から立ち上がると、早々に質問してきた。

 

「えーと、指揮官はお姉さんがいると始業式言っていましたが、どんな方なんですか? 」

 

「姉さんは3人いて、赤城姉さん、加賀姉さん、土佐姉さんって言うんだ。確か2年だったはず 」

 

「まぁ!赤城と加賀と土佐だったのね 」

 

この回答に1番驚いたのは意外にもZ23先生だった。反応を見る限り、どうやら姉さん達は学校では有名人らしい。

 

「姉さん達がどうかしたんですか? 」

 

「赤城と加賀はこの学校の弓道部に入っていて、一航戦って呼ばれているエースよ。土佐は剣道部のエースでありながら、美術部にも入っているから、もう有名よ 」

 

「へぇ〜!指揮官のお姉さん達って、凄い人なんですね! 」

 

「お、俺も今知ったよ…… 」

 

そうか、そんなに凄いのか姉さん達……そういえば、俺が中学の頃姉さん達の試合を見に行った時があったような気がする。あの時は規模とか対して気に止めて無かったけど、今考えれば観客とか多かったし、会場も大きかった。

 

それに母さんも凄い人そうだし、俺って凄い人達の所にいるんだなぁ……

 

「さて、他に質問したい人はいますか? 」

 

「はい!指揮官の好物はなんですか!? 」

 

「指揮官は休日はいつも何してますか? 」

 

「指揮官は……」

 

「あああ!手を挙げてから質問して!! 」

 

俺の番だけ妙に質問の量が多く、結局朝のHRは俺の質問攻めが殆どで終わってしまった。

 

「はい皆さん!HRが終わりましたのでこれから通常授業ですよ。1限目は数学で、担当は引き続き私が担当します。早く準備しなさい 」

 

カバンから数学の教科書と数学用のノートを取って机の上に置き、これで準備は完了だ。

……なんだけど、隣の席の綾波の様子がおかしい。カバンをゴソゴソと手を入れたり、何かを探すようにしてカバンの中を覗き込んでいた。そして、諦めるようにノートだけを取り出し、教科書は机の上にはなかった。

 

「……ねぇ、もしかして教科書忘れちゃった? 」

 

綾波は喋らず小さく頷いた。

 

「だったら一緒に見よう。机をそっちに近づけるね 」

 

俺は自分の机と綾波の机を引っつけ、教科書を机の上でまたぐように置いた。

 

「ありがとうなのです…… 」

 

「全然良いよ。さぁ、授業始まるよ 」

 

1限目が始まるチャイムが鳴り響き、いよいよ本格的な授業が始まった。先生の号令と共に起立、礼をして着席した。

 

「では、教科書7ページを開けてください。今日はこの数式を習いますので、しっかりと聞いててください 」

 

教科書の7ページを開き、先生が教科書の内容を噛み砕きながら喋って行く所を板書し、板書された内容を俺はノートに書き写し、ノートも後の自分が見やすいように綺麗にまとめる。

 

赤ペンで重要な所に線で引いたり、先生のちょっとした話も重要そうだなと感じたなら直ぐに書き留める。こうしておくと、授業で分からなかった所とか考え方とかも後から見直せるから注意しておくようにと母さんから教えられた。

 

ふと隣の綾波を気にかけてチラッと見ると、綾波はうつらうつらと瞼を閉じて寝てしまっていた。

 

「ちょ、ちょっと綾波!起きないと二ーミ先生に怒られるよ? 」

 

肩を少し優しく叩いて綾波を起こしたのは起こしたけど、まだ綾波は眠そうで瞼の重りは消えていないようにまた目が閉じてしまいそうだった。大きな声を出して起こしたら皆がびっくりするし、かと言ってこのまま寝かして二ーミ先生に怒られたりしたらこっちも何だか悪い事をしたような気がするし……

 

悩みに悩み、ふと俺は綾波が遅刻した理由を思い出した。確か、夜更かしでゲームをした事が遅刻した理由だったっけ。それを上手く使えば……!

 

「ねぇ綾波、さっきゲームで遅刻したって言ってたけど、どんなゲームしてたの? 」

 

「んあ……?ええと、綾波がやっているゲームは『クリーチャーハンター』というゲームで、クリーチャーを狩るゲームなのです…… 」

 

よし、話に食い付いてきた。夜更かしするまでゲームをするんだからよっぽどのゲームの事が好きだと予想していたけど、それは大当たりのようだ。

誰しも好きな物の話題を聞かれた時はついつい話したくなるものだ。この調子で眠気から遠ざければ、目が覚めてくれるはずだ。

 

「へ〜、面白いの? 」

 

「超絶面白いのです。クリーチャーは小さいものから大きい奴がいて、巨大な敵を倒す爽快感は勿論、アクションも軽快な物から重厚な物から幅広いのです 」

 

「ふむふむ、どんなクリーチャー?が居るの? 」

 

「恐竜見たいな物とか、ドラゴンとかいるのです 」

 

「へー!後で休み時間とかどんなのか見せてよ 」

 

「勿論なのです! 」

 

よし、綾波の目から眠気が消えこれで授業に集中出来る事だろう。だけど声が少し多かったのか二ーミ先生にも聞こえてしまい、二ーミ先生は静かに注意するように咳払いをした。

 

「コホン、綾波さん、指揮官?授業中なのですから静かにして下さい! 」

 

「ご……ごめんなさい…… 」

 

「なのです…… 」

 

「そんなに喋っているのならこの問題はわかっているという事ですよね?では綾波さん、この公式を答えて下さい 」

 

「わ、分かりました……なのです 」

 

不味いな……綾波はついさっきまで眠気と戦っていた(ほぼ負けていたけど)からさっきの授業の話は少しも聞いてはいないだろう。綾波は席に立ち、頭の中で答えを考えていたがいつまで経っても多分答えは出てこない。

こうなったのは俺の責任でもある。俺は先生にバレないように急いで数式を計算し、答えをノートの端に描き、綾波の腕をちょんとつついて答えが書いているノートを見せた。

 

「え、えーと、3x+5yです 」

 

「はい、正解です。座って下さい 」

 

正解した綾波と合っていた答えを渡すのに成功した俺はホット息をはいた。

 

「指揮官、ありがとうなのです。助かったのです 」

 

「いや、俺もごめんね。ついつい話し込んじゃって 」

 

「いえ……そもそも綾波が寝かけたのが悪いのです…… 」

 

「でも、夜更かしする程面白いゲームなんだよね?その……なんだって、モンスターハンt 」

 

「クリーチャーハンターなのです。何故かその言葉は言っては行けないような気がするのです 」

 

「ほ、そう……? 」

 

綾波が焦って間違ったタイトルを言い直し、また先生に怒られないように今度は2人ともちゃんと授業を聞いた。黙々と先生の授業を聞いたり、問題を解いたりして50分。授業の終わりのチャイムがなった。

 

「はい、今日はここまでです。ちゃんと復習をするように! 」

 

二ーミ先生は次の授業の為に他のクラスに行き、50分という長い時間の授業を終えた皆は思い切り羽を伸ばしていた。

 

「ん〜!50分って長いね、綾波 」

 

「はいなのです。でも、指揮官のおかげで乗り越えられたのです 」

 

「そう?あ、そうだ。ねぇねぇ綾波がやってたゲーム見せてよ 」

 

「ここには無いのです。でもそのゲームのPVは携帯で見れるからそれを見せるのです 」

 

綾波はカバンから携帯を取り出し、綾波がやっているゲームの映像を俺に見せてくれた。

携帯の映像は数々のクリーチャーがハンターであるプレイヤーに襲いかかり、プレイヤーがそれに立ち向かっていた。クリーチャーを切った時、血しぶきが結構出ていてリアリティがあり、それとは別に幻想的な地形が広がっており、それ程血は気にはしなかった。

 

ハンターも人間離れした動きでクリーチャーに立ち向かい、見ているこっちがハラハラする気持ちになった。

 

「凄いねこれ、面白そう! 」

 

「本当ですか?なら是非一緒にやるのです。このゲームは協力プレイもあるから、家に帰ったら連絡して一緒にやるです! 」

 

「え、いや……俺このゲーム持ってないんだけど…… 」

 

「あ……そういえば指揮官、このゲーム名前を知らなかったのです。うーん、じゃあ綾波の家に来ます? 」

 

「……………………え"?」

 

その言葉を聞いた瞬間、俺の時は少しだけ止まり休み時間を終えるチャイムが鳴った。

そしてこの日、俺は2限目の授業の大半を放心状態で聞いてしまい、授業の内容を殆ど忘れてしまった。

 

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