もしも、アズールレーン学園に入学したら   作:白だし茶漬け

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鬼神の隣に

 

時はお昼。学生の皆は待ちに待った昼休みの時間だ。

ここアズールレーン学園には食堂が備わっており、その食堂の広さはかなり大きい。その辺のショッピングモールのフードコーナーぐらいの大きさぐらいはあり、提供する料理も各陣営から取り揃えているから多種多様だ。

 

そんな中、俺は天城母さんに作ってもらった弁当を放心状態で姉さん達と一緒に食べていた。

 

「ゆ、優海?大丈夫?何だか心ここに在らずって顔してるわよ? 」

 

隣にいる赤城姉さんから声をかけらて初めて俺は意識を取り戻し、固まっていた時が動き出した。

 

「はっ!いや〜ちょっと初日から色々あって…… 」

 

「ほう、どんな事があったんだ? 」

 

食い気味な加賀姉さんに続いて赤城姉さんも土佐姉さんも気になり初め、有耶無耶に出来る状況じゃ無くなってしまった。

俺は観念して最初の授業で知り合った綾波の事について話し、放課後彼女の家に行くと伝えると、姉さん達は呆気に取られた様な顔をして固まった。

 

特に赤城姉さんの顔が笑顔なのにむちゃくちゃ怖い雰囲気出してるのが恐ろしい。正直これを話したのを後悔している。

 

「……お、お、お……女の部屋に遊びに行くですって!?しかも初日!?わ、私はあなたをそんなふしだらに育てた覚えは無いわよ!?!? 」

 

予想通り赤城姉さんは九尾の尻尾を逆立てながら思い切り机を叩き、叩いた所にクレーターが出来ると背後に怒りの炎が見えるぐらいに赤城姉さんは怒っていた。

 

「いや俺の大半を育てたの母さんだと思うけど…… 」

 

「お黙り!!綾波って言ったわね?今すぐその子にあってキツく言っておこうかしら……! 」

 

やばいこの人本気だ……本気で綾波の事をどうこうしようとしている。もしこの状態で綾波と出会えば綾波に何されるか分からない、暑い訳でも無いのに身体中から汗が止めどなく溢れ、何か良い言い訳がないか模索したけど、今の赤城姉さんにはどんな言い訳も通用しないどころか、下手して変な事を言えば逆にこっちがやられる可能性だってある。

 

助けてと訴える目で加賀姉さんと土佐姉さんを見つめると、その目に気づいた2人はやれやれと言っているような顔をしながら赤城姉さんを宥めた。

 

「姉様、優海も同世代の友達が出来てはしゃいでいるのですよ。優海の境遇も考えて下さい 」

 

「加賀の言う通りだ。それに、こいつが一線を超えるような事はしないだろう 」

 

「そもそも私は優海が他の女狐の部屋に行くこと自体が納得行かないのよ!こうなったら放課後優海と一緒にその女の部屋に行くわ。そして実力行使で分からせてあげるわ……優海が私たち家族の物だって……うふふふふ 」

 

ダメだ、2人がどう言っても赤城姉さんは主張を崩さず、話は平行線のままだ。このままじゃ放課後本気で俺についていくことになる。それは……なんかヤダなぁ……ううん、どうしよう……

 

「優海、もうアレを使うしか無いんじゃないか? 」

 

土佐姉さんがお手上げの状態でアレを使えと行ってきた。

 

「アレねぇ……でも、俺もアレ使うの嫌なんだけど…… 」

 

「赤城の暴走はもう私達の手には負えない。諦めろ

 

確かに……今の赤城姉さんは俺に近づく人達を全て手にかけようとするぐらい暴走している。乗り気はしないけど仕方なく最終手段を使う事にした。

 

まず赤城姉さんと話をしないといけないので赤城姉さんの肩をトンと叩くと、赤城姉さんは嬉しそうに直ぐにこっちに顔を向けてくれた。

 

「どうしたの優海?ひょっとして他の雌の所に行くのを止めるとか?それなら良いのy 」

 

「赤城姉さん、いい加減そんな態度取ってると俺赤城姉さんの事嫌いになるよ 」

 

これが最終手段。赤城姉さん大嫌い作戦だ。勿論これは本気で思っている訳では無く、赤城姉さんの暴走を止める為の手段だ。

 

事の発端は土佐姉さんであり、土佐姉さんが昔さっきみたいに赤城姉さんの暴走を止める為に俺に言わせたのが発端であり、こういうと赤城姉さんは頭の上にツァーリ・ボンバでも落ちたかのような衝撃で体が固まり、一旦暴走は止まる。

 

だけどこれをやるのは正直気が引ける。嘘をつくのは嫌だし、それに赤城姉さんを悲しませてしまうのが何より嫌だった。現に、今目の前にいる赤城姉さんの体が白黒になっており、さっきまでの態度が嘘のように静かになった。

 

「う……嘘よね優海?嫌いだなんて嘘よね? 」

 

信じられないと顔で訴えるように赤城姉さんは涙目で俺の肩を掴んできた。掴まれた肩が心做しかミシミシと鈍い音してるしなんだか肩が凄く痛くなり、俺の心の痛みを表しているようでもあった。

 

涙目で向けてくる視線はとてつもなく悲痛でもう耐えられ無い物であり、今すぐにでも嘘と言いたい程だ。ここはもう早い事済ませようか……

 

「じ、じゃあさ、今日綾波の家に行っても……良いかな?その代わり!家に帰った時赤城姉さんの言うこと一つ聞くから! 」

 

「おい、それは自分自身の首を絞めている事になるぞ!?大丈夫なのか? 」

 

「仕方ないよ土佐姉さん……こうしないと赤城姉さん立ち直れないし…… 」

 

「はぁ……姉様は厄介な性格だが、お前もお前でお人好しがすぎるぞ 」

 

加賀姉さんと土佐姉さんからどうなっても知らないぞと言ってるかのようにため息をはき、俺の言葉を聞いた赤城姉さんは九尾の尻尾をぶんぶん振り回し、顔を見なくても分かるほど上機嫌になった。

 

「何でも……?何でもって言ったわね?言ったわね!なら今回は特別に許可するわ!何でも……何でも……!優海に何でも……うふふふ……うふふふふ!! 」

 

何故か赤城姉さんは口から涎を少し垂らし、捕食者の目で俺を見ているような……気の所為だよね?

 

「……はぁ、今回は助けないぞ 」

 

「自分の言葉は自分で責任を持て 」

 

「はは……はぁ 」

 

とにかくこれで今日の綾波との約束は果たせそうだ。……家に帰った時、かなりヤバいけど。

 

「しかし綾波か……意外な奴と接点がついたな 」

 

「え、土佐姉さん綾波の事を知ってるの? 」

 

「あぁ、中等部では少々有名らしいぞ。何とも、【鬼神】と呼ばれたKAN-SENで、剣を持てば敵無しと言った所だ。そうだな、私よりも高雄辺りが詳しいかもしれないな 」

 

鬼神ねぇ……そんな感じには見えない感じだったけどな。人は見かけによらないと言った感じか。

後で高雄さんに会って話してみようかな。

 

その後、赤城姉さんから伝わる痛い視線を受けながら、母さんが作ったボリューム満点の昼食を何とか食べ終えた。

 

 

 

 

_そして放課後にて……

 

キーンコーンカーンコーン……

 

今日の授業の終わりと同時に放課後を知らせるチャイムが鳴り、これで今日の授業は全て終わった。

伸びをするKAN-SENも入れば、せっせと黒板に残っている板書をノートに写しているKAN-SENもおり、それぞれ放課後の予定を立てていた。

 

「指揮官さん!良かったら一緒に帰りませんか!? 」

 

「あ、ずるいよジャベリン!私も一緒にどうですか!? 」

 

指揮官という珍しい人見たさなのか放課後一緒に帰ろうと誘ってくるKAN-SENも多く、もし今日予定が無ければこの場でアワアワと慌てふためいた所だろう。

 

「あぁ、ごめん。今日は予定があるんだ 」

チラリと隣の席の綾波に目線を配ると、それを見た綾波は肩を少し上げた後せっせと教科書をカバンに詰め込み、目にも止まらぬ速さで椅子から立ち上がり、教室から出て行ってしまった。

 

あ、あれ?今日綾波と一緒に遊ぶ約束だよ……ね?忘れちゃったのかな。と思っていたら、携帯の着信音が鳴り、綾波からのメッセージが画面に表示されていた。

 

「先に寮で待っているのです。」

 

先に帰って準備でもしてるのかな?とにかく忘れていないようでホッとした俺はすぐ様席を立ち、皆に一つ断りながら教室から出ていこうとした。

 

「あ、待ってください!良ければ連絡先の交換と私達のクラスのグループに入りませんか? 」

 

「え?でも……俺明日はここじゃなくて別のクラスだよ?大丈夫? 」

 

指揮官である俺は、その日によって受ける授業も違ければクラスも違う。

学園長のエリザベスさん曰く、指揮官たるものより多くのKAN-SEN達に触れ、様々な知識を吸収する為と言っていたけど、1日したら皆と離れ離れに授業受けるなんてちょっと寂しい気持ちにもなる。

 

「良いですよ!それに、またこのクラスに来ますよね? 」

 

「まぁ……じゃあ、よろしく 」

 

だけど、こんな風に連絡先をくれるならそんな気持ちも和らいでくれる。ここは素直に連絡先を交換し、このクラスの殆どのKAN-SENの連絡先を手に入れた。

 

(……これ赤城姉さんが見たら怒るだろうな )

 

と、俺はこの時思った。

 

さて、連絡先も交換し終わったから教室から出ていき、廊下を歩いて靴を履き替え、いざ綾波がいる寮へ出発だ。と言いたい所だけど、実は寮と言っても陣営事に種類があり、更に艦種事に別れている。

 

例えば今行く綾波の場合なら、重桜寮の駆逐艦寮にある部屋という事になる。因みに寮はそれぞれに自室があり、全てのKAN-SEN達が入れる程の大きさを持っている。

 

そんな寮に行くんだけど、まだ時間はあるから高雄さんに会って綾波のことについてか少し聞いてみようと思い、高雄さんが所属している部隊の剣道部にお邪魔してみる事になった。

 

だけどこの学園……滅茶苦茶広い。野球をするドームや武道館等数十個はくだらない島丸々一つ使ってるから本当に移動が大変だ。そこで活躍するのが饅頭と呼ばれるひよこ見たいな生物が乗っている車だ。

 

アズールレーン学園アプリから車はタクシー感覚で呼ぶことが可能であり、予め利用する時間も決めておく事も出来る優れものだ。他にもアプリには使える機能があるからもはや学園がやる域を超えているような気がするけど便利だから良しとしよう。

 

「さて、そろそろ来るはずだけど…… 」

 

車を待つこと数秒。意外と早く到着した。車は結構小型で運転席が1つに3人ほど座れる席があるだけだ。運転席にいる饅頭が車の扉を開け、俺はそのまま車に座った。

 

「どこまで行くピョ? 」

 

「えっ、喋れるの!? 」

 

あまりの驚きに車の天井に頭をぶつけるほど体が動き、思い切り頭をぶつけてしまった。結構痛い……頭にたんこぶ出来なきゃ良いけど……

 

「意思疎通をする為には当然ピョ。さて、どこに行くピョか? 」

 

「ってて……えーと、じゃあ……剣道部の部室まで行ける? 」

 

「了解ピョ 」

 

饅頭は直ぐに車を走らせ、剣道部の方まで車を走らせた。本当は自分の足で学園の周りを探検してみたかったけど、こうして車で流れるように学園の光景を見るのも良いかもしれない。そびえ立つ学園に、KAN-SEN達の声がそこら中に聞こえる。今は部活の勧誘でもしているのだろうか、様々なユニフォームを来たKAN-SEN達が、新入生のKAN-SENに声をかけていた。

 

漫画で見るような光景に感動を覚え、車が見せる光景をじっと見つめた。

 

「着いたピョ。剣道部には直接入れないから、ここからは歩いて中に入るピヨ 」

 

「中って……言われても…… 」

 

車が着いた先にあったのは……重桜で見かけるような屋敷だった。え?俺が言ったのは剣道部だっけど……

 

「あの……ここって何ですか? 」

 

「ここは剣道部の部室兼修練場ピヨ。剣道部はここで活動したり、ここで練習試合をするピヨ 」

 

「えぇ……これが部室……? 」

 

どう見ても生活出来る程のスペースがある屋敷だ。流石アズールレーン学園。スケールが違いすぎる。

 

「とにかく、ここまでありがとうございます 」

 

「何かあれば僕達饅頭がサポートするピョ。それじゃあまたピヨ〜 」

 

饅頭の車はそのままUターンして来た道を戻って行った。さて、部室の前に来た訳だけど……スケールの大きい部室のせいで凄く緊張する。

 

これ、入って良いの?部活に入るわけでも無ければ体験入部する訳でも無い。ただ顔馴染みの人に会うという気軽な理由で入って良いのかと俺の中の俺が疑問を投げつけ、部活の扉に手を触れず、そのまま部室の前でぐるぐると回る不審者見たいな行動をしてしまう。

 

こんなの人に見られたら絶対に変に思われるのに、恥ずかしさを無くすためにやらざる負えなかった。

 

「うわぁぁ……どうしよう…… 」

 

「何をしてるんだお前は…… 」

 

「うぉぉおおおお!? まままま摩耶!? 」

 

後ろから急に出てきた摩耶に驚き、いきなり後ろにきゅうりを置かれた猫の様に摩耶から直ぐに離れ、剣道部の部室の壁に背中を貼り付けた。

 

「どど、どうして摩耶がここに!? 」

 

「何だって……僕はこの剣道部に入部するつもりで着たんだ。お前は違うのか?」

 

「いや……俺は他に行く所があって、その前に高雄さん達を一目で見ておこうかなーって 」

 

「だったら何でそんな挙動不審になってるんだ 」

 

「は、入っても良いのかなって思って…… 」

 

「……はぁ、昔からお前は小心者の所があるな 」

 

「な、何も言えない……! 」

 

せっかく指揮官になるんだからこういう所を直そうとしてはいるんだけど中々上手くいかない自分が恨めしい。

 

そんな俺を摩耶はため息をつき、摩耶は剣道部の扉を開けた。

 

「とにかく僕は入るぞ。お前も入るなら早く入れ 」

 

「あ、行く!行きます! 」

 

何でか敬語になった俺はそのまま摩耶の後ろについて行くように剣道部に入った。

入った瞬間、木造の臭いが入り、竹刀のぶつかり合う音と力強い踏み込みの音と大きな掛け声が耳に入った。

 

「どうやら奥の方が修練場の様だな。行くぞ 」

 

「う、うん 」

 

玄関で靴を脱いで廊下に立ち、綺麗に靴を並び終えて廊下を歩き、奥にある大扉を摩耶は開けた。開けた瞬間、綺麗な木の床の上で剣道着を来たKAN-SEN達が竹刀を素振りしたり、中には試合をしているKAN-SENもいた。

 

大扉を開けたのにも関わらず練習を中断せず、皆が皆この活動に集中しているかつ熱中していた。そして、奥にはそれを見守り、時には後輩を教え導いている高雄さんの姿があった。

 

「む?優海と摩耶じゃないか。どうしたんだ? 」

 

「えっ!?優海君!? 」

 

最初に気づいたのは高雄さんだったけど、俺の名前に反応した愛宕さんは剣道部の面を脱ぎ、竹刀を置いてはそのまま飛び込む勢いでこっちに近づいてそのまま俺の頭を抱えるように抱きしめた。

 

「優海君〜!どうしたの?あ、もしかして入部しに来たの!?だったら私が昔見たいに優しくじっくり教えてあげるからね!?もうずーーっと2人きりで教えてあげるから〜! 」

 

「むー!むむむむむ!!(愛宕さん離して! )」

 

むせ返るような汗の匂いと、愛宕さんの柔らかい胸が顔を覆って息が苦しい。愛宕さんと身長差があるから離そうにも思わず力が入らず、ここにいる他のKAN-SEN達に愛宕さんになすがままにされる現状だ。

 

「ゆ、優海から離れろ!愛宕 」

 

近くにいた摩耶が間に入り込むようにして愛宕さんから俺を離し、密閉された空間から解放されて苦しかった息を思い切り吸った。

 

「ぶはぁ!もう何するんだよ愛宕さん! 」

 

「ごめんね〜優海君がここに来たのが嬉しくってつい 」

 

「何がついだこの馬鹿! 」

 

ここに来た高雄さんは愛宕さんの頭に思い切りチョップし、かなりの力で叩いたのか愛宕さんは頭を抑えてその場でうずくまった。

 

「全く……ところで、愛宕の言う通り優海と摩耶は剣道部に入部しに来たのか?愛宕の言う通り、昔見たいにまたしごいてやるぞ? 」

 

「む、昔って結構キツかった様な気がするけど…… 」

 

「お前をこの学園に入学する為にやった事だ 」

 

高雄さんが言っているのは、この学園の入学条件の1つ、体力テストの事だ。

 

指揮官というのはKAN-SEN達の状況を瞬時に判断し、数々の戦法を用いて勝利を導く存在だ。だけど、だからと言って頭が良いだけじゃ指揮官にはなれない。

 

指揮官を決めるテストには、ペーパーテストの他に体力テストもある。体力テストの内容は【トライアスロン】の他に、【総合格闘技】があった。

 

入学テストの時は体力テストがあると言うことは知っていたから、高雄さんや愛宕さん、他にも色んな人に協力してもらったけど、その中で高雄さんにはみっちりとしごかれた記憶がまだ新しい。

 

 

_ではまずは準備運動からだ。軽く10kmランニングするぞ

 

_それって軽くって言えるの?

_その次はスクワット1000回だ

 

_だからそれ軽くないって

 

_つべこべ言うな!そんな事では指揮官にはなれないぞ!ほら、行くぞ!

 

_ひぇぇ…!

 

懐かしいな〜めちゃくちゃキツかったな〜。あれ?何か心做しか涙出てきた。高雄さんとの特訓を思い出す度に何か泣きそうになるからこれを思い出すのはもうよそう。回想の中の俺もめちゃくちゃ泣いてるし。

 

「え……遠慮しときます。それに俺、この後用がありますし 」

 

「そうか……それは残念だ。ところで用というのは何だ?誰かと会うのか? 」

 

「はい、綾波っていう子と少し約束で…… 」

 

「綾波だと? 」

 

隣にいた摩耶が最初に反応したけど、愛宕さんと高雄さんも綾波の名前を聞いて知っているかのように反応した。

 

「知っているの? 」

 

「あぁ、重桜では結構有名な奴だ。重桜の駆逐艦の中で一二を争う実力を持ち、圧倒的な力の前に誰も彼女の前に立つ事は出来ない事から、綾波は鬼神と呼ばれている 」

 

「私もその話は聞いている。そう言えば綾波も来るとは思っていたんだが今日は来ないんだな……良ければこの部に入って貰いたんだが…… 」

 

「そ、そんなに凄い奴なのか綾波は…… 」

 

教室で会った時はそんな感じはしなかったのに……どちらかと言えばゲームが好きな女子って感じだったけど。

 

「とにかく僕は行くよ。……って、そう言えば鳥海さんはどうしたの?ここには居ないの? 」

 

「あの子は料理部よ。優海君に美味しい物食べさせたいからって張り切ってるわよ 」

 

「へぇ〜料理部ってどこにあるの? 」

 

「ここから反対方向の所だから行くのは時間がかかるぞ 」

 

「え、そうなのか……じゃあまた後日顔を合わせようかな。重桜寮に行くし 」

 

その時、愛宕さんが笑顔で石のように固まった様な気がした。

 

「……優海君?今なんて言ったのかしら? 」

 

「え?重桜寮に行くって言ったけど……綾波に会いに行くから 」

 

瞬間、愛宕さんは血相を変えながら俺の両肩を掴んだ。掴んだ手から物凄い力が加えられて肩から何か嫌な音がする。ちょっと痛い。

 

「ダメよお姉さん以外の女の子のお部屋に入っちゃ!寮とは言え女の子の部屋に!?しかもまだ入学して2日目なのに……お姉さんはそんな子に育てた覚えは無いわよー!? 」

 

悲しみながら俺を前後に揺すっては離さないように肩を掴む力は緩めず、ここから出さない勢いだった。まるで赤城姉さんの様だ……

 

「そこまでだ愛宕 」

 

「そうだ愛宕。それに、愛宕が思ってる様な事はこいつはしないだろう 」

 

「え?なんの事? 」

 

「ほらな? 」

 

「うぅ……優海君!絶ッ対に変な事はしちゃダメよ? 」

 

「いやだからなんの事? 」

 

ともかく愛宕さんは俺から離れてくれた。

 

「と、とにかく俺はもう行くよ? 」

 

「あぁ。気をつけて行くんだぞ。それと、何時でも入部を待っているぞ 」

 

「か、考えておくよ。それじゃあまた! 」

 

顔合わせの目的を終えた俺は剣道部から外へ出ていき、ようやく重桜寮に向かった。

 

剣道は重桜由来の競技だからかたまたまこの近くに重桜寮があった。重桜寮は外装がまさに重桜と思わせる様な屋敷になっており、まるでホテルのような大きさだ。それ故に窓からして部屋数もとんでもなくあり、入学者全員入ってもまだ余りそうな大きさだ。

 

この部屋のどこかに綾波がいるはずだけど、綾波の部屋番号は知らない。どこかに書いてないかと辺りを回すと、寮の管理人なのか寮のフロントの受付場に饅頭がいた。丁度いいからあそこに綾波の部屋の場所を聞きに行こう。

 

「すみません、綾波の部屋ってどこにあるんですか? 」

 

「ん?あんさん指揮官かい?悪いけど指揮官であってもどの寮でも男子は立ち入り禁止なんだ。悪いね 」

 

「えぇぇ!? 」

 

可愛らしい見た目の饅頭から考えつかない渋い声と寮に入れない驚きが合わさって思わず声を上げながら驚いてしまった。

 

「い、いやでも俺綾波と会う約束していて……ええと、ほら!綾波から寮に来てくれって連絡もあるんですけど……だ、ダメですか? 」

 

「どんな理由があっても男子は立ち入り禁止だよ。寮に入ってあーんなことやこーんなことされて、ゆうべはお楽しみでしたねされても困るからね〜色々と 」

 

「そ、そんな〜 」

 

なら仕方ないか……とにかく綾波に寮には入れないと連絡して反応を見ようとしたけど、綾波からの連絡は一向に帰って来なかった。既読もついてないし、寝てるのかなと思ったけたど相手から待っているって言ったのに寝てるのはちょっと考えられないし……トイレでも行ってるのかな?

 

だけどこのまま帰るのもちょっと綾波に悪いし……どうしようかと悩んでいた。

 

その時だった、コツコツとブーツと石畳の音がぶつかる音が近づき、誰か来たのかと後ろに振り返ると、懐かしい人がそこにいた。茶髪で角が生えているKAN-SEN、三笠さんだった。

 

「あ、三笠おばぁちゃん!……あっ 」

 

「誰がおばぁちゃんか!全く、我はまだピチピチだぞ。それにここでは三笠さんと呼べ! 」

 

「ご、ごめんなさい 」

 

目の前にいるのは三笠というKAN-SENで、戦場で凄い戦果を上げ続けている人だ。重桜では皆から尊敬され、その意を込めて皆は三笠先輩とか、大先輩とか言われている。俺も小さい頃から三笠さんに良くして貰った。

 

小さい頃からそうしたせいなのか、俺はその時から三笠さんの事をおばぁちゃんと言ってしまい、今もその呼び方が中々抜けず、こうしてよく怒られる。

 

「入学式のお前の姿を見たぞ。思わず感動で涙が止まらなかったぞ。うんうん、大きくなって我は嬉しいぞ 」

 

「ありがとう。と言うより……何で三笠おば……三笠さんがここに? 」

 

「私はここの古株だからな。数々の顧問を受け持ちつつ、この重桜寮の管理人だ。あの饅頭は我がここに居ない時に代わりに管理人をしてもらっている。所で、優海はここに何の用だ?指揮官であっても、男性は寮に出入り禁止だぞ? 」

 

「それなんだけど……実は綾波って子に会う約束をしていたんだよ。まさか男性が入れないってのが知らなくて…… 」

 

「なるほど……しかし規則は規則だから優海にだけ特別扱いする訳にも行かないしな……ううむ 」

心の中でそわそわしながら三笠おばぁちゃんの答えを待ち、入ってももいいと言われる事を期待している自分がいた。だけど知り合いと言ってもそんなに甘いものではなかった。

 

「残念だがやはり規則は規則だ。すまないが寮には…… 」

 

「そ、そうだよね……うん、規則だから仕方ないよね 」

 

くせ毛の獣耳を模した髪も俺の気分を移すかのようにヘタレてしまい、諦めて綾波に来れないという連絡をしようとした。

 

「うぐっ……し、仕方ないな!今日だけ特別だぞ? 」

 

「え、良いの!? 」

 

「二言は無い!あ、だけど節度は持つんだぞ?その……み、淫らな行為とから絶対にダメだぞ!? 」

 

三笠おばぁちゃんが顔を赤くしてそう言ったけど……みだらな行為って何だろか?

 

「……あ、わかった!大丈夫だって、だらしない所は見せないよ! 」

 

みだらって、乱れた行為はダメという事か。例えば、ものを散らかしたり、人前で欠伸をしたりとかすると指揮官なのにだらしないって思われるからダメだって母さん言ってたし、きっと三笠おばぁちゃんもそう思って言ってくれたのだろう。

 

「そ、そうか……?なら良いんだが 」

 

「うん、それじゃあ寮に入るね。ありがとう三笠おばぁちゃん!すみません、綾波の部屋ってどこにありますか? 」

 

饅頭に綾波の部屋を聞くと、饅頭はさっきの話を聞いたのか綾波の部屋の所を教えてくれた。早速寮へと入り、急いで綾波の部屋へと俺は移動した。

 

「だから三笠さんと……って、もう行ってしまったか 」

 

「随分な元気なお孫さんですな 」

 

「まぁな……自慢の孫だよ 」

 

寮の玄関は広く、本当にホテルの様な内装だった。1階の奥には食堂があるし、近くにあった内装の地図を見る限り大浴場や露天風呂も付いている。

 

2階からはKAN-SEN達の個室になっていて、綾波の部屋は2階の端の方の部屋だ。近くにあった階段を登り、建物の隅の部屋を辿り、1番角の所に綾波という名前の標識があった。

 

「ここか、綾波ー来たよー 」

 

インターホンを鳴らして綾波が出でくるのを待ったけど……一向に綾波が出てくる気配が無かった。どうしたものかともう一度インターホンを鳴らすと、携帯から着信音がなり、携帯を開くと綾波からのメッセージが届いた。

 

「鍵は開けているので入ってくださいです」

 

(何で直接出ないんだろう )

 

そんな疑問を浮かべてながらとにかくドアノブに押し、そっとドアを開いた。開いた先には積み上げられたダンボールの箱があちこちにあり、肩が丸出しの白い薄着の服を来た綾波がテレビに向かって座りながら何かをしていた。

 

「あ、綾波〜?遊びに来たけど…… 」

 

「ちょっと待ってくださいです。このボスを倒したら終わりますので……部屋に入ってくださいです 」

 

どうやらお取り込み中のようだ。とにかく言われた通り靴を脱ぎ、綾波の革靴だろうが雑に置かれたのでそれも並べて部屋に入ると、部屋にはベッドと机、そして大きなテレビと冷蔵庫等最低限の家具しか無く、良くも悪くも女の子ぽくない部屋だった。

 

机は横に広くてL字型になっており、何かの機械やモニターが2画面あって、教科書やノートはそのまま積まれている形になっていた。

 

「おぉ……なんかすごいな 」

 

綾波の先にあるテレビの画面には、巨大な化け物のが空を飛んだり炎を吐いたりしており、それを大きな武器を持っていた小さな人が身軽な動きで攻撃を交わし、化け物の足を大剣で足を攻撃した。

 

すると化け物は足を攻撃されたことによって転倒し、綾波はその隙を逃さなように頭を攻撃し、化け物は倒れ、討伐完了という文字が出できた。

 

「……よし、ボスを倒したのです 」

 

「おー、何したか分からないけど凄いね 」

 

「普通にクリーチャーを転倒させて頭を攻撃しただけです。じゃあ指揮官、一緒にやるのです 」

 

「え、でも俺やった事無いんだけど…… 」

 

「綾波が1から教えるから大丈夫です。ほら、早くやるです。このクッションに座るといいです」

 

綾波から白色のコントローラーを渡され、綾波の言っていた空いているクッションに座った。ふわふわで体を包むほどあるクッションは俺の体を包み、思わずここに住みたいと思ってしまった。だけどその誘惑から逃れ、クッションに包まれながらゲームを始めた。

 

「まずは操作方法からマスターするのです。右のスティックで移動出来るから前に倒してキャラを進ませるです 」

 

「えーと……これか 」

 

右のスティックを前に倒すと画面の中のキャラクターが前に走った。自分で思い通りに動く感覚に驚き、試しに右や左、更には後ろに倒すと、キャラクターはまるで現実と全く同じような動きで体の向きを変えて倒した方向に走り、まるで本物の人間が動いているようだった。

 

それによく見るとキャラクターが装備している物もかなり精巧に作られており、鉄の質感や何かの皮のだろうか?その質感もよりリアルに作られている。まるで映画でも見ているようだ。

 

「じゃあこのままクエストに言ってみるです。あの受付の人に話してクエストを受けるです。受けるクエストは綾波が決めるです。まずは受け付けの場所までいって……近づいたら〇ボタンです」

 

「受付まで行って……〇ボタン! 」

 

受付の人に近づくと画面に【話す】という文字が浮かび、〇ボタンを押すと会話の文字が流れ、更にボタンが押すとレベルと書かれた文字がズラリと並べれた。

レベル1〜8の所には全て【CLEAR】という文字がある事から、この辺りのクエストはクリアしたという事なのだろうか?

 

「じゃあ指揮官、レベル3のどれでも良いのでクエストを受けて見てください 」

 

「えっ、レベル3!?こういうのは1とかじゃなくて……? 」

 

「1と2は地味なクエストしかないのでつまらないです。だから指揮官を楽しむ為に、3が丁度いいです。大丈夫です、やられても大丈夫です 」

 

「じゃ、じゃあ……やるよ? 」

 

とにかくレベル3の適当なクエストを受けると、鈴のような音がなり、画面が変わり、右上に出発準備という文字が出て中央には最初に操作していたキャラが出ていた。

 

「ここは好きな武器や防具を選ぶ画面です。武器は大剣や二刀流、レイピアや銃などあるです。指揮官はどんな武器がいいです? 」

 

「うーん、刀は無いの?」

 

「あるです。じゃあマイセットの8番を選んで下さいです。そこに刀の武器があるです 」

 

綾波の言う通りの装備に変え、いよいよゲームスタートだ。開幕から本物と変わらない木々や空が広がり、現実と変わらない風景に驚きつつもスティックを倒し、フィールドを移動した。

 

フィールドには川もあり、これもまたリアルだ。水面の反射や川の流れ、せせらぎも心地よく近くにいた不思議な動物も毛並みがフサフサで細部まで作り込まれていた。最近のゲームって凄いんだなぁ……

 

「指揮官、次のエリアに目標のクリーチャーがいるです。ボコボコにするです 」

 

「よーし、やるぞ…… 」

 

ドキドキさながら目標の敵がいるエリアに行くと、さっきまで小動物系のクリーチャーだけだったのに、いきなりクマのような化け物が表れた。

 

どうやらこれが目的の敵なようだ。音楽も緊張感が走るものに変わり、いよいよ本番といったところだ。

 

「指揮官、あの敵は背後のおしりが弱点です。まずは相手の攻撃を避けてバランスを崩し、一気に勝負を決めるです。あ、でも指揮官の武器は刀なのでカウンターをとることも出来るのでそれも狙ってみるのも…… 」

 

「ちょちょっと待って!一変に話したら分かんなくなるから! 」

 

洪水のようなアドバイスに戸惑っていると大熊は飛びかかって攻撃し、反応が遅れてしまって最初から手痛いダメージを受けてしまった。体力ゲージの2割ぐらい減ったからまだ回復は大丈夫かな?

とにかく攻撃を避けて、攻撃すればチャンスは生まれる。

 

大熊は左右の腕を振り回しながら近づき、横に回避して1度攻撃をする。攻撃を当てるとダメージ数値なのか数字が飛び出し、更に攻撃を当てようとするとひるまない大熊に反撃を貰った。

 

「あぁ〜! 」

 

「落ち着くのです。……そこなのです!そこで攻撃です!おぉ、カウンターなのです。指揮官、センスあるです 」

 

叫び、驚き、アドバイスをし、綾波の色とりどりの反応を横目で見ながら目的の大熊を見事倒した。ファンファーレのような明るい音楽がなり、CLEARという文字が画面いっぱいに表示された。

 

「やっっっっったぁぁぁ!ありがとう綾波! 」

 

「グッジョブなのです。指揮官、センスあるです。ゲームの才能あるです 」

 

「え〜そうかな? 」

 

「指揮官は反応速度が良いです。初めてなのにカウンターを多く決めれたし、教えた事を守ってくれたです。指揮官なら対戦ゲームも得意そうなのです 」

 

すると綾波は四つん這いで山積みされているゲームソフトを探そうとすると、綾波の下半身がチラリと見えてしまった。

 

ダボダボで白くて大きなシャツの下には何も着ておらず、綺麗な肌色の太ももと下に履いてるものが目に映ってしまった。白く程よくついた太ももにダボダボなシャツは太もも所が綾波の少し膨らんだ胸部さえも遮る気が無いかのように目を通せられた。というか下着着けてないのかよ綾波は……!

 

思わず綾波から体ごと反対方向に振り向き、綾波の事を見ないようにしていた。

 

「指揮官、これとかやってみて欲しいです……ん?指揮官、何で後ろ向いているのです? 」

 

「え!?い、いや〜あ、そういえば綾波って鬼神って呼ばれてたらしいから何なのかな〜って思って 」

 

俺は一体何言ってるんだ……。いくら言い訳でももうちょっと上手い言い方とかあるだろうに。内心自分を責めながら泣きそうになり、綾波に変に思われると覚悟していると、綾波の様子が変わり、少し暗い感じになった。

 

「……誰から聞いたのです? 」

 

「え。えーと、高雄さんって知ってる?俺が小さい頃にお世話になった……じゃないや、えーと……剣道部のKAN-SEN。わかる? 」

 

「高雄……知ってるです。私も少し剣道をやっていたから分かるです 」

 

「え、じゃあ……今、剣道ってやってるの? 」

 

「もうやめたのです。指揮官が話して欲しいなら話しますけど…… 」

 

綾波の顔が一瞬だけ寂しそうな顔を浮かべ、無意識に顔を下に向けていた。

 

「いや、良いよ 」

 

俺はあっさりとその話を捨てると、綾波は意外と思っているかのようにぽかんとしていた。

 

「知りたくないのですか? 」

 

「んー確かにちょっとは知りたいよ?鬼神ってカッコイイ呼ばれた方してるんだし。だけど綾波の顔を見たら多分そんなに良い話じゃないでしょ?だったら良い 」

 

誰しも嫌な思い出は話したくない物だ。それを無理やりほじくるようにして話してもこっちも良い気分にはならない。

 

「あ、でも話したくなったらいつでも言っていいよ?綾波の事もっと知りたいし 」

 

「……ふふ、やっぱり指揮官って変な人なのです 」

 

綾波はこの時初めて俺に笑顔を見せてくれた。小さくクスリとだけど、学校であった無表情な顔とは見違える程いい笑顔だった。

 

まるで小さいながらも可憐な一輪の花のようで、ちょっと得した気分になった。

 

「なんだ、そんな風に笑えるじゃん 」

 

「むっ、綾波も笑う時は笑うです 」

 

「え〜?だって教室の時こんな風にムスッてしてるんだけどなぁ 」

 

「そんな事ないです。綾波はそんな仏頂面じゃないです 」

 

今度は頬を膨らませて怒った顔を見せてくれた。教室では表情が変わらず、有り体に言えばクールな子だと思っていたけど、こうしてゲームをしたり話をしてみると少しわかりやすい性格だ。

 

「もう怒ったです。この対戦ゲームで指揮官をボコボコにするです 」

 

「えぇ!?やった事無いんだから手加減してよー! 」

 

「指揮官の癖に情けないのです。ほら、覚悟するです。鬼神の力を嫌という程見せてやるです 」

 

こうして、俺は綾波の腕にボコボコにされた。何か知らないけど攻撃は全部避けられるわ当てられないわ何も出来ないわでほぼ半泣き状態になった。

 

流石の綾波もやりすぎと感じたのか、温情で後々細かな操作方法とか教えてくれた。

 

叫んだり、笑ったり、ゲームで色んな感情が飛び交っているともう外は夕日の茜色から夜の黒に染まりつつあり、最終下校を知らせるチャイムが島を覆うように鳴った。

 

このチャイムが鳴ったら学園から出ないといけなく、寮に住んでいるKAN-SENはこの時間を境に寮に戻らなくてはいけない。

 

「もうこんな時間か。じゃあ俺は帰るよ 」

 

「分かったのです。今日は付き合ってくれてありがとうございますです 」

 

「ううん、俺も綾波と一緒に遊べて良かったよ。また一緒にゲームしようね 」

 

荷物を持ち、綾波に見送られながら玄関まで行き、靴を履いて扉に手をかけ、もう一度綾波と顔を合わせる。

 

「指揮官、次はいつ遊べるです?今度はもっと面白いゲームをするです 」

 

「うーん……どうかな。実は俺、三笠おば……三笠さんに特別に許可を貰ってここにいるから。流石に何度もこの部屋に入るのは無理かな 」

 

そう言うと綾波は分かりやすくしょんぼりしてしまった。それはそうだ、指揮官である俺は次の授業は綾波のいる駆逐艦クラスでは無く別のクラスの授業になっており、しばらくの間恐らく会えなくなる。

 

このまま帰ってしまっては後々気まずくなる。どうしようかなと思った矢先、ポケットにある携帯が目に入るとある考えを口に出した。

 

「で、でも連絡は取れるし、もし良かったら明日の昼一緒に食べる? 」

 

「本当ですか?約束です! 」

 

「うん、じゃあもう行くね 」

 

「はい、また明日です 」

 

また明日と手を振り、寮のドアを開けて廊下へと出る。ここから見る空が少し暗くなりつつあり、事前に連絡はしているけどそろそろ帰らないと母さんも心配してしまう。

 

ここから近い船着場を検索し、丁度この辺りにあった船着場があり、そこまで走っていく。息を少し切らしながらその船着場にたどり着くと、丁度出発寸前だった船に乗り、結構空いていた。

空いている所は無いかと席を探すと、俺は覚えのある人に出会った。男の人は俺の存在に気づくと顔を上げると、これまた奇遇と言っているような表情を浮かべた。

 

「あ、君は確か昨日会った子かな? 」

 

「は、はい。まさかまた会えるなんて思いませんでした 」

 

「ははは。良かったら前に座っていいよ」

 

お言葉に甘えて男の人の前の席に座り、座ったと同時に船の汽笛がなって出航を始めた。

 

「学校帰りかな?お疲れ様 」

 

「ありがとうございます。えーと……貴方は重桜の観光ですか? 」

 

「そう。竜宮島に行ったけど凄いなあそこ。四方八方滝の中央に大きな屋敷があって、それが水の上に浮いてるんだから。俺の所ではまず見れないね 」

 

竜宮城……重桜の観光地の1つの場所だ。そこは比較的海がとにかく綺麗な場所であり、竜宮城という水族館兼テーマパークが何より有名なところだ。

 

テーマパークとしても、観光場としても非常に人気な所であり、他の陣営の人も一目見たいに言う人は多い。

 

目の前の人もその1人であり、膝の上に広げられている本……いや、日記だろうが?今日撮ったであろう写真やメモ書きが書かれていた。

 

「旅行好きなんですか? 」

 

「ん?まぁそうだな。俺は世界を見るのが好きなんだ。どんな場所があって、どんな人がいるのか。それを目で見るのが好きなだけさ。良かったら見るかい? 」

 

すると日記を俺に渡し、まずは1ページ目を広げ、ロイヤルの観光地の写真が目に映った。そうして俺は、日記を通して世界を渡っているかのようにも思うようにのめり込んだ。この人のメモ書きや感じた事は事細かく書かれており、まるで今その場所にいるかのようにも思えた。

 

「へぇ、こんな所もあるんですね。わ!何だこれ?パイに……魚? 」

 

なんかパイに魚の頭が丸々刺された料理があって思わず目を疑ってしまい、それを見た男の人は苦笑いをした。

 

「あぁ……うん、驚くよなそれ。俺の陣営の伝統料理だけどなんでこれがあるのか分からない 」

 

「味はどうなんですか? 」

 

「いやそれが当たり外れが多くて判断出来ないんだよ。美味しいのは魚の下処理がよく出来ていて、不味いのは出来ていない感じだから……まぁ、パーティー用に面白おかしく食べる場合もあるな 」

 

苦笑いしながら面白おかしく話している様子がらしてどうやらあまり美味しくない食べ物らしい。まぁ重桜も似たような物があるからあまり強くは言えないんだけど。

 

それはともかく旅日記のページを読み進め、男の人の解説も相まって大分充実な帰宅時間になった。

 

『次は、重桜諸島〜 』

 

いつの間にかもう俺の家があるところにたどり着き、ほぼ読み終えた俺は日記を男の人に返した。

 

「読ませて貰ってありがとうございます 」

 

「どういたしまして。って重桜では言うのかな?また会えたら新しいのを読ませるよ 」

 

「また会えますかね? 」

 

「どうだろう。だけど君とはまた会えそうな気がするよ 」

 

この人の直感は謎か不思議にも俺もそう思えた。顔がほぼ似ているのもそうだけど、この人とは何か深い繋がりがあるような気がする。いや流石に生き別れの兄弟とかそんなんじゃなくて、何かもっと……遠い昔、それも俺が触れる事も見る事も無いような遠い遠い所で俺とこの人は深い縁がある。そんな気がした。

 

「じゃあ僕は船をおりますね。えーと……すみません、名前言ってましたっけ?俺は天城優海って言います 」

 

「ゆう? 」

 

「優しい海って書いて優海って呼ぶんです 」

 

「へぇ、良い名前だな 」

 

「珍しい当て字で一々説明するのがめんどくさいですけどね 」

 

少し冗談交じりの笑いで談笑し、今度は男の人が名前を言ってきた。

 

「しかし優しい海……ね、まさか名前まで同じ何てな 」

 

「え?もしかして貴方も優海って名前なんですか? 」

 

「いや違う。だけど俺も名前の意味は優しい海って言うんだ。俺の名前は……」

 

船が止まり、この一瞬だけ海の波打ちが強くなって外の波音が大きくなった。まるで、この事実に驚くかのように。

 

「俺はマーレ・テネリタスだ。また会おう。優海君 」

 

 

 

 

 

船から降りた俺は真っ直ぐ家へと帰り、もう空は暗い雲のカーテンがかけられて真っ暗だ。そんな中でも月は空に浮かんで夜を照らし、街灯も光って道を見せてくれる。

 

何だかちょっとだけ悪い事してるみたいで背徳感が生まれ、不思議とその背徳感で少し大人になれたような気がした。まぁ夜遅いと言ってもまだ20時ぐらいだ。連絡もしたし母さんもそこまで怒っていないだろう。

 

家の庭に辿り着いて鍵を開け、ただいまと返事を上げて帰ろうとして家の扉を開けると……玄関には待っていたと言わんばかりの赤き姉さんが白い部屋着を来て待っていた。

 

そしてとんでもなく裏がある笑顔で赤城姉さんはいつものようにニコリと笑った。

 

「おかえりなさい優海。少し遅かったわね? 」

 

「う、うん。綾波とちょっとゲームで遊んでてすっかり遅くなって…… 」

 

「まぁそんな事どうでもいいわ。それよりも優海、お昼の言ったこと忘れてないわよね? 」

 

「お昼のこと? 」

 

昼に何か言ったかなと思いながら昼頃の記憶を思い出す。頭の上には今日の昼に姉さん達と一緒に食堂でご飯を食べていた光景が浮かび、そこでの会話を思い出した。

 

「…………あ 」

 

俺はこの時、とんでもない爆弾発言をした事をすっかり抜け落ちていた事を思い出した。過去の浅ましい自分を叱りたい気持ちは消え、これから起こる事に恐怖と焦りが混ざった冷や汗をかき、そろりと逃げようと家の扉に触れようとしたが、赤城姉さんの式神が俺の手に触れ、逃がさないようにしていた。

 

「優海〜?貴方言ったわよね?家に帰ったら私の言うことなんでも1つ聞くって。だから私は他の女の所に行くことを許したの。それじゃ、早速言う事を聞いてもらうわよ〜優海♡ 」

 

「……〜〜〜!!!!! 」

 

声に出せない叫びを出した俺に対してゆっくりと着実に俺に近づく赤城姉さんの姿は、映画に出てくる巨大怪獣のような圧があった。その圧に腰を抜かしてその場でへたりこみ、何故か分からないけど口から少し涎を垂らして舌なめずりしている姉さんはゆっくりと俺の顔に触れ、そのまま尻尾も使って俺を抱きしめた。

 

「今日はずっと私から離れないでね。優海。勿論、夜も一緒に……ね? 」

 

こうして俺は、この夜赤城姉さんから離れられない夜を過ごした。

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