どんなことをしても朝は来る。姉に一日中抱きしめられたり頭の匂いを嗅がれたり頬を少し舐められたとしても、眠って目が覚めれば太陽が登って朝になる。
だが俺の気分は曇りの様に疲れた様だった。心情は食欲にまでも影響し、食卓に並べられている朝ご飯に手をつけられずにいた。そんな俺をみた天城母さんは声をかけてくれた。
「あら、どうしたの? 優海」
「いや、ちょっと昨日赤城姉さんが俺から離れなくて……なんか俺の首元で匂いとか嗅いでくるし、しかも少しだけほっぺた舐めてきたんだよ?だからちょっと眠れなくて…… 」
それにちょっとだけ赤城姉さんの柔らかい所とか色んな所が当たってドキドキしたのもある。いくら血が繋がって無いからって家族をそんな風に意識するのはダメだろ……そんな自分に嫌気がさすのもあってなのか、今日は朝から少し落ち込んでいる。
「全く赤城ったら……どこで育て方を間違えたのかしら。でも貴方も貴方よ?そんな簡単に何でも言う事を聞くなんて言ってはいけません 」
「だってそうでもしなきゃ赤城姉さんを説得出来なかったんだもん 」
愚痴を言うかのようにそう言葉を吐き出し、俺は暖かい味噌汁をズズっと音を立てて飲んだ。
「いいですか優海。貴方は指揮官なんです。軽々しく自分の身を差し出してはいけないのですよ?言葉で身を守り、相手に対して優位に立つ能力も指揮官には必要なのです 」
「言葉って言われてもちょっと分からないよ…… 」
「良いですか?その場の空気に呑まれては行けません。指揮官たるもの、断固とした態度で…… 」
「ごホッ!えぐほっ!味噌汁のネギが喉に突っかかった……! 」
喉に突っかかったネギを吐き出すように咳をしまくり、天城母さんが何か話したようだけど残念ながら聞こえなかった。母さんはそんな俺を見て心配するように頬杖をしながらひとつのため息をはいた。
「……心配ですね。悪い人に言い寄られなければ良いんですが 」
「ん?何か言った? 」
「いいえ、なんでもありません。とにかく早く済ませて学校に行かないと遅刻しますよ? 」
「はーい 」
母さんの言う通りパパッと準備を済ませ、いつものように荷物を持って学校へと行く。まだまだ桜は満開で、春風の爽やかさもあって晴れ晴れとした気持ちで船へと乗った。
船に乗っているとまたあの人に、マーレさんに会えないかとすこし期待してしまう。だけどマーレさんと出会う事は無かった。
まぁ、マーレさんはあの後鉄血の方に行くと行って別れたからこの重桜で会うことは無い。もしまた会うことになったら、鉄血か他の陣営に行った時にまた会える事だろう。波に揺れる船の中で今日の授業がどこのクラスでやるのか確認すると、次に行うのは軽巡クラスだ。
軽巡は巡洋艦という括りの1つであり、駆逐艦を拡張して更に高い火力と耐久を持ち、それぞれの特徴の差が大きい艦種らしい。
例えば重巡波に防御が強いタイプや、対空が強いタイプ等いる。このように傾向の差が激しいので適材適所の編成が必要だと母さんは言っていた。
「軽巡か……どんな人がいるんだろう 」
俺の中で知っている軽巡と言えば……川内さんと神通さんがいる。どちらも小さい頃からお世話になっているKAN-SENで、指揮官適正テストの対策に協力してくれた人達だ。どっちも学園のOBらしく、今はアズールレーンの任務で頑張っているらしい。今は元気にしているのかなぁ……
『まもなく〜アズールレーン学園島〜お降りの方はドアまでお待ちください〜 』
「ん、もう着いたんだ 」
タブレットを鞄にしまって船から降り、桜が落ちる道で今日もKAN-SEN達は元気に登校していた。
「あ、指揮官〜!おはようございます! 」
後ろから指揮官と呼ばれて振り返ると、そこにはジャベリンと綾波、そして眠そうなラフィーが3人仲良く登校していた。
「おはようジャベリン。それに綾波とラフィーもおはよう 」
「おはようなのです指揮官 」
「すぴー……すぴー…… 」
「ラフィーは相変わらず眠そうだね…… 」
しかもラフィーは立ったまま寝ていた。器用と言うべきなのか、このまま倒れてしまう事は無さそうだ。
「聞きましたよ指揮官。昨日は綾波ちゃんと一緒に遊んだそうですね!私も指揮官と遊びたかったのに〜 」
「え〜じゃあ今度の休みとか何処か行く? 」
「え!?良いんですか?え〜どこにしようかな〜!私の陣営のロイヤルを案内するのも良いし、指揮官の重桜も捨て難い〜! 」
腕を組みながらむむむと悩むジャベリンは結局思いつかないのか、頭を振り子のように振ったり綾波に相談したりしていた。
「ジャベリン、悩むのもいいですが早くしないと遅刻するです 」
「あっ!そうだね。じゃあ指揮官、また後でお話しましょうね! ほらラフィーちゃんも目を開けて行こ! 」
「むにゃ〜まだ寝たい…… 」
3人は一足先に学校に行ってしまい、俺も今日のクラスに行くことにした。軽巡クラスは駆逐艦クラスの隣の校舎らしく、割と直ぐに目的の教室まで辿り着いた。
ゆっくりと教室の扉を開けて中の様子を見ると、机の上に座って喋ったり飴を舐めたり風船ガムを膨らませながら喋っているKAN-SEN達がいた。あまりの光景に思わずクラスを間違えたかと一旦外に出てクラスが書かれている表札を見ると、やっぱり今日授業するクラスで間違い無かった。
(な、ななな何なんだ今の光景は!? )
机の上に乗ったりもうすぐ授業なのにお菓子とか食べてるKAN-SENを見て動揺し、何かの見間違いと思ってもう一度ドアを開けて教室を見ると、さっきと同じような光景が目に映った。
流石の2回目で中にいるKAN-SEN達は俺の存在に気づき、興味津々でこっちに来た。
「おぉ?もしかして噂の指揮官じゃん〜!なんでそんな所にいるの? 」
「ほらほら〜早く来てきて! 」
いきなりベージュの髪色をしたKAN-SENに腕を掴まれ、教室の真ん中の席に連れていかれた。その机にはお菓子が積まれ、ほとんど食べている途中の状態だった。
昨日入った駆逐艦クラスと空気やら何もかも違っており、俺の頭はもうパンク寸前だった。
「そういえば今日指揮官が来るって言ってたね〜 」
「うんうん、昨日は確か駆逐艦クラスだったよね?駆逐艦の子達ってどうだった?可愛かった? 」
「そういえば昨日重桜寮に入ったって噂を耳にしたけどどうなの? 」
「あ……あの……えと…… 」
いきなり質問攻めされてどこから答えれば良いか分からず、呂律が回らず答える事が出来ずにチャイムが鳴り、ガラリとドアが開いて軽巡担当であろう灰色の髪にメガネをかけた先生が来た。
「皆さん、予鈴がなったので早く準備を……ってまた貴方達はそうやって節度の無い態度を取って……早く準備しなさい! 」
「は〜い、ケルン 」
「ケルン先生です! 」
周りの子達は机の上に置いた自分のお菓子を自分の机まで持ち帰り、そのまま素早く食べ終えたりカバンに残したりしていた。嵐の様な出来事に呆然としてしまい、そのまま立ち尽くしている所をケルンと呼ばれた先生の目に留まり、声をかけられた。
「おや?貴方は指揮官ですね。貴方の席はちょうどそこなので座ってください 」
「いやここさっき大量のお菓子があった所じゃないか!! 」
「いや〜空席だったからついつい 」
金髪のツインテールで猫耳のヘッドホンを被っているKAN-SENが悪びれなく笑いながら謝っていた。どうやら大半の物は彼女の物だったらしい。
「もう!酷いよ! 」
「え〜良いじゃん別に 」
「良くない! 」
ここで本鈴のチャイムが鳴り、先生が手を大きく叩いて場の空気を変えさせた。
「はい、そこまでです。そろそろ本鈴のチャイムがなったので授業を始めます。今回のお題は対空防御による兵装とその運用方法についてです。では教科書の27Pを開けてください 」
クラスの子達とは対象的にケルン先生は真面目そうな人だった。
(それよりもこのクラスのKAN-SENは何なんだろう……結構派手だし、制服のスカートがちょっと短いような気がする…… )
いくら軽巡の特色の振れ幅が大きいからってここまで変わる物なのか?今日1日馴染めるのが不安で仕方ない。板書を取る手も少しおぼつかずに何だか少し授業に集中できそうにない。
気持ちを切り替えるように両手で頬を叩き、授業に集中した。
「であり、対空砲と空母との位置関係により…… 」
『キーンコーンカーンコーン…… 』
「おや時間ですね。では1限目の授業は終わります。次は体力測定なので早めに着替えるように。……あ、因みに指揮官はちゃんと男子更衣室を使ってください。わかりましたね? 」
「は、はい 」
言われなくてもそうするつもりだけどなぁ……
「じゃあ指揮官、体育館で待ってるね〜 」
女性であるKAN-SEN達とは一旦別れ、体操服とジャージを持って男子更衣室へと足を運んだ。男子更衣室は体育館の近くにあり、中に入ると結構広々な空間だった。
というか男子って今の所俺1人なのにこんなに広い必要あるのか?と疑問に思いつつ、中に何かあるのかと少しばかり探索しても特に目立った物は無く、至って普通の更衣室だ。
「んー、こんな広いところで1人で着替えるのはちょっと寂しいな…… 」
いつかここに男子が来る事あるんだろうか……
そう思いながら制服から白い体操服の上に白いジャージという何とも汚れが目立ちそうな服に着替え、体育館シューズに履き替えていよいよ体育館へと入る。
体育館もこれまた広い空間であり、バスケコートとバレーコートが分かれている程だ。しかも、今ここを使うのは軽巡クラスのみだから尚更広く感じる。
その軽巡クラスのKAN-SENはとっくに着替え終えて全員集合していた。
白い体操服に青い短いズボンに、青色のジャージをちゃんと着替えずにチャックを開けたまま羽織る様に来ている子もいれば、中途半端に来ている子もいた。
「あ、指揮官だ!こっちこっち〜 」
教室で会ったKAN-SENに声をかけられてそこに足を運び、授業前なのに風船ガム膨らませていた。ええと……このKAN-SENは確か……そうそう、コロンビアだっけ?
「ねぇコロンビア……だっけ?授業前なのにガム噛んでいいの? 」
「んー?今は休み時間だからいいんじゃない〜? 」
コロンビアは呑気に風船ガムを膨らませては破裂させて萎ませ、それを休み時間ギリギリまで繰り返していた。
「あはは、でもコロンビアは授業中は真面目だから大丈夫だよ指揮官 」
今度は銀髪のKAN-SEN、確かこの子はデンバーだっけ?デンバーは宥めるように両肩を後ろから抱き、笑顔で話してきた。
「挨拶が遅れたけど今日はよろしくね!今日は海上の騎士を目指す私の実力を見せてあげるから見ててね! 」
「海上の騎士?何それ 」
「あぁ、指揮官はまだ知らないんだっけ。私とコロンビア、そして奥にいるモントピリア。後2人いるんだけどまだ学園には入学してないけど、私達は姉妹なんだ!そして、私たちの1番上の姉貴のクリープランド姉貴は、数々の活躍を残しており、この学園で海上の騎士って呼ばれてるんだ! 」
「へぇ……そういえば、赤城姉さんと加賀姉さんも一航戦なんて呼ばれていた様な…… 」
この学園では活躍に応じて2つ名というか別名みたいな物が付くのだろうか?もし俺がこの学園で功績を残したらカッコイイ2つ名が付けられるのだろうか。
でも、俺はもう指揮官って呼ばれてるしなぁ……だとすれば○○の指揮官みたいな感じになるのかな。うーん、ちょっと楽しみかも。
「海上の騎士ね……会ってみたいなぁ 」
「じゃあお昼休み会いに行く?きっと歓迎してくれるよ! 」
「おーいいね、じゃあこれ終わったら姉貴に連絡を…… 」
「ダメだ 」
和気あいあいと話をする中で強い言葉が走り、横から足音を大きく鳴らしながら近づいてきた。その子はデンバーと同じような髪色のライトグレーに、俺と同じ様な癖毛をしており、デンバーが言っていたモントピリアだった。
モントピリアはがんを飛ばす鋭い目で俺とデンバーを引き離し、デンバーの前に立って威嚇するように睨んできた。
「お前が姉貴に会うなんて百年早い。お前の様なやつに合わせる訳には行かない 」
「え?えーと、そうなの……? 」
半ば困惑しながらコロンビアに質問すると、コロンビアは手を横に振って否定してくれた。
「いやいや大丈夫大丈夫。モントピリアが勝手に言ってるだけだから。この子ちょーっと気難しいだけだから 」
「そうそう。モントピリアもほら! 」
「嫌だ。大体こんな気弱そうな奴、指揮官と認めてなんかいない。将来こいつの下で偉そうに命令されるのは癪だ 」
「き、気弱…… 」
「それになよなよしているのも気に入らない 」
「ぐふっ! 」
結構自分も気にしている所をズケズケと言われ、心に槍が刺さったかのようなショックを受け、漫画で言うと目を丸くさせてしくしくと涙を流してしまい、そのまま地面に膝と手をつけて悲しい気持ちに押しつぶされた。
「うぅ……確かにちょっと気弱な所があるけど。結構頑張ってここに入ったこと自体は自信あるよ! 」
「そう思って貰わないと困る 」
「うぐっ! 」
追い打ちをかけられて地面に溶けるように落ち込み、モントピリアはそのまま俺から離れていった。
「あ〜……ま、まぁ気にしないで良いよ!ちょっと照れてるだけだから! 」
「そうそう、指揮官って確かキツい体力テストも合格しないとためだから体力には自信あるでしょ? 」
「まぁ一応 」
高雄さんや他多数の地獄の訓練で嫌でもそれは身についたしね……
「はーい皆ー!そろそろ授業始まるから整列整列〜! 」
やけにテンション高めの声が体育館の壇上から聞こえると、ケルン先生と似た顔の教師KAN-SENがジャージ姿で胸をどんと張って立っていた。
張りすぎて胸がはち切れないばかりになっていて少し目のやり場に困るけど……
「初めまして〜!体育は私カールスルーエが務めるよ!早速だけど今日は体力テストだよ〜!シャトルランに立ち幅跳び。キツいのが多いから覚悟しといてね? 」
皆がえぇ〜っとブーイングしており、確かにキツいと言われれば少し気が滅入るばかりだ。でも……キツい事なら昔から慣れている。
「……よし!頑張るか! 」
気合いを入れたと同時にチャイムが鳴り、いよいよ体力テストが始まった。まず最初にやったのは立ち幅跳びだ。
尻もちを着いたり後ろに手を置いたらその付いた位置の記録が取られるから好成績にはならない。
先にやっているKAN-SEN達も尻餅を付いてちょっとだけ記録を下げられたり、運動は嫌いと文句を垂れながらも取り組んだ。
それにしてもKAN-SEN達全員の体型は全体的に見ても綺麗にまとまっていた。
抜群なプロポーションと言うのか、引き締まった体や足、そして驚異的な身体能力には目を見張る物がある。自分の番が来るまでじっとKAN-SENの方を見つめていると、先程ヘッドホンをしていたKAN-SEN、コンコードがチラリと見ている俺を見て笑った。
「指揮官〜?あんまりじろじろ女の子の体見ちゃダメだからね〜? 」
「え!?あ、ごめん!嫌だった? 」
「ううん、指揮官も男の人だなって 」
「??? 」
「次、指揮官の優海! 」
「は、はい! 」
名前を呼ばれて直ぐに立ち上がり、所定の位置にてスタンバイを行った。指揮官だからなのか、それとも普通の人間なのか分からないけどKAN-SENの皆はじっと俺の事を見つめていた。見られている意識からプレッシャーが凄まじく、下手に変な所は見せられなくなった。
緊張でまた体が固くなり、屈伸で何とか足を柔らかくして立ち幅跳びの準備をする。
「指揮官〜頑張ってー! 」
「期待してるよ〜! 」
(うぅ……なんかプレッシャー感じる )
特にモントピリアの視線が痛い。どうせ大したことないと思っているのか、俺と視線を合わせるとそっぽを向いてしまい、逆にコロンビアやデンバーからは手を振って応援してくれてりしている。そんな混雑している感情の中で深呼吸で心を落ち着かせ、ふと俺は高雄さんとの訓練を思い出した。
_良いか優海、体は特に足腰が大事だ。刀を振る時や体術の時にも使うし、更には体勢を崩しにくくするにも役立つ。そういう事でしばらくは足腰を鍛える為に走り込みと立ち幅跳びをする!
_えーと、因みにそれってどのくらいやるの?
_走り込は2……いや、3kmにしておこう。あと立ち幅跳びは200回!
_帰る!!
大変だっなぁ……でもそのおかげで結構体力とか身体能力は鍛えられてここにいる。小刻みで飛んで飛ぶタイミングと体の余分な力を抜き、先生がホイッスルを鳴らした瞬間足を思い切り曲げ、目線を遠くし、腕も大きく振って……
「飛ぶっ!」
手応えはある。数秒間飛んだ後見事体勢を崩さずに着地し、自分からは記録が見えないので近くのKAN-SENがメーターを持って測り、俺の靴のところまで測ってくれた。、
「えっと……3m10cmです! 」
「おぉ〜!結構良い記録じゃん!指揮官やるね〜 」
カールスルーエ先生がぱちぱちと拍手をしてくれて少し嬉しい気持ちになり、照れながらも次の測定場所に向かった。
「やっぱり指揮官って凄いね!私なんて2m60cmだったのに 」
ちょうど終わったデンバーが声をかけ、俺を労ってくれた。
「ありがとう。でも、確かKAN-SENって艤装を付けてないと普通の人と身体能力ってあんまり変わらないんでしょ?艤装つければ俺の記録なんて屁でもないんじゃないの? 」
「ん〜確かに艤装を付ければそうかもね。でも無くても運動できる人よりちょっと良いぐらいだよ。まぁそれでも運動のプロの人とかには負けるかな? 」
聞いた限りKAN-SENの身体能力には個体差があるようだ。その辺は普通の人間と変わらないのだと少し安心した。
「ねぇ、次から私達と一緒に測定しない?」
「私達? 」
「そう、コロンビアとモントピリアと一緒にね 」
「モントピリアか……あの子、俺の事嫌っているから迷惑だと思うけど…… 」
「大丈夫大丈夫。何かあったら私から言うから!ね? 」
「うーん、じゃあお願いするね 」
「そう来なくちゃ!ほら、こっちこっち! 」
テンバーに手を引かれてコロンビアがいる方に連れていかれ、コロンビアと目が合うと手を振って場所を教えてくれたが、モントピリアに至っては目を逸らした。
「何でアイツを連れていくんだ…… 」
「えぇ〜良いじゃん。モントピリアも指揮官の力量を見れるし 」
「……邪魔だけはするなよ 」
モントピリアはさっさと次の測定に行ってしまった。
「あはは、相変わらずだね〜気にしないで行こ? 」
コロンビアはそう言うがやはりああいう風に言われると心に来るものがある。
結局この後もモントピリアと目を合わせる度にそっぽを向かれ、ついには最後の測定のシャトルランまで一言も話さずに迎えた。
このシャトルランはこの授業にいる全員の同時参加であり、聞いたところによると最も嫌な種目らしい。
音楽がなる終わるまでに向こうにあるテープの所とこっちにいるテープの位置大体20mを往復していき、向こう側まで到着したら音楽の速度は早まっていき、音楽がなり終わるまでにこのテープについていけなかった人から脱落していく種目だ。
ちなみにこのシャトルランは最大が決まっており、確か247回。つまり247回テープを越えれば最高記録達成という訳だ。因みになんでこれなのかは知らない。
「よーし、海上の騎士になる為にこれを乗り越えるぞ! 」
「私はぼちぼちで良いかな〜 」
「よーし、頑張るぞ…… 」
少しの準備運動を終え、先生がホイッスルを鳴らすと同時に音楽が鳴り、みんな一斉にスタートした。最初の音楽のテンポはそれ程早くないので余裕を持って往復して行った。
だがだいたい100越えた辺りから少しずつ脱落者が増えていき、最初の頃と比べ物にならない程テンポも早くなってきた。ほぼ全速力で走らないとテープまでたどり着きそうに無く、休憩も無しで往復するのがとんでもなくキツイ。息が血の味がしてきた所で150回目。テンバーやコロンビアが脱落していき、残るはモントピリアと俺だけになった。
「ぜぇぜぇ……!コレ結構きついな! 」
「はぁ……はぁ……これしきの事…… 」
モントピリアも息荒らげており、151回目のテープを越えるとモントピリアは一瞬だけバランスを崩して体をふらつかせた。大丈夫と声をかけようにも直ぐに音楽が鳴り、モントピリアは走って俺も後を追った。
「姉貴のように……強く、なるんだ……! 」
152回目の途中でモントピリアの口からそう聞こえた。汗だくのモントピリアの目は目標に向かって真っ直ぐ見つめている目だが、その目は疲れのせいで虚ろになっており、モントピリアは足をくじらせて体のバランスを崩してしまった。
「危ない! 」
咄嗟にモントピリアの腕を掴み、こっちに腕を引いて迫り来るモントピリアの体をしっかりと受け止めた。
体の重みと引いた時の力が合わさって俺は尻もちをつきながらもモントピリアが地面が地面にぶつけないように守り、同時に音楽が終わった。
慌てて先生やコロンビア達が倒れた俺達に向かっていき、焦った顔が周りに溢れた。
「大丈夫指揮官、モントピリア!? 」
「怪我とかしてない!? 」
「うん、俺は大丈夫だけどモントピリアが…… 」
「い、いつまで僕に触れているんだ!離れろ……っ 」
モントピリアは痛んだ足を抑えて苦い顔を浮かべた。やはりさっき無理をして足を挫いてしまったようだ。モントピリアは俺を突き放そうにもさっきのシャトルランで体力は無く、痛みでそれどころじゃ無いだろう。
「カールスルーエ先生、とりあえずモントピリアを保健室に連れていきますね。何階でしたっけ? 」
「保健室はね、本館の1階だよ。でもひとりじゃ不安だから、姉妹艦のコロンビアちゃんとデンバーちゃんもついて行こっか! 」
「その二人がいるなら指揮官はいらない……! 」
「駄目だ、足に触れたら悪化するかも知れないよ。俺と一緒にいるのは嫌かもしれないけど、ちょっとだけ我慢して欲しいな 」
モントピリアを横抱き、所謂お姫様抱っこの状態でモントピリアを抱き上げると、周りのKAN-SEN達が小さく声を上げてヒューヒューと言っていた。何かの合図なのだろうか?俺はキョトンとしていた。
「とにかく行こっか 」
「くっ……屈辱だ 」
「え?な、なんで!? 」
「ほらほら指揮官、そんな事より早く保健室行こ 」
「一応案内するね!こっちだよ 」
デンバーの道案内を後について行って体育館を後にし、体育館を出ていって本館の扉を潜り、本館へと辿り着いた。ここに保健室があるって言うけど……
「保健室は向こうの方かな? 」
「結構端の方だなぁ〜 」
遠目でよく見ると保健室と建てられている表札があり、俺達はそこに向かった。
「それにしても指揮官ナイス反応だったね。モントピリアを助けてくれてありがとう 」
「別に僕は頼んでない 」
「そんな事言って、本当はありがとうって思ってる癖に〜 」
「だからそんな事思ってないし迷惑だ!僕は姉貴みたいに強くなって、誰よりも負けないKAN-SENになる。誰かに守ってもらう必要なんて無い 」
「守って貰う必要の無い人なんていない 」
少しだけ強く、退く態度を取らない声を無意識に放つと、コロンビアやテンバー、そしてモントピリアは一瞬俺が誰だが分からない様な驚いた顔を見せた。お姫様抱っこで歩きながらモントピリアの目を真っ直ぐと見ながら、テンバー達にも聞かせるように言葉を続けた。
「自分の背中は自分じゃ守れない。母さんが言っていたんだ。盾は使う人と1人しか守れないけど、二人入ればそれより多く守れる。3つ、4つとどんどん協力すればそれは大きな砦にもなるって 」
「……何が言いたいんだ 」
「自分の為にも、姉妹や他の仲間達の為にも守って貰う必要は無いなんてもう言わないで欲しいんだ 」
ガラス張りの窓から昼時の太陽の光が俺達を包むと、モントピリアはハッとしながら目の光が増えたような気がした。
「そうそう、指揮官いい事言うじゃーん 」
「うんうん、指揮官の言う通りだよモントピリア。私達は姉貴と一緒に、最高の海上の騎士になるんだから! 」
「ん……覚えては置く 」
「ありがとう 」
照れくさそうにモントピリアは目を逸らし、授業が終わったチャイムが鳴りつつも、俺たちは保健室へと向かった。