もしも、アズールレーン学園に入学したら   作:白だし茶漬け

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デート大作戦

何気ない一言で突然関係に亀裂が走ることがある。

 

自分にとっては悪意がなくとも、それが誰かにとっての悪意であり、それで関係が壊れる事や、喧嘩する事もある。

 

本当に何気ない一言だった。母さんや姉さんたちに心配させまいと、今日は用事がある事だけ伝えようとしたその休みの朝だった。

 

「ねぇねぇ母さん。今日は帰り遅くなるかもしれないんだ 」

 

「あら?それはどうして? 」

 

「うん、デートするんだ 」

 

この言葉を口にした瞬間、天城母さんは箸の動きを止め、赤城姉さんは持っていた箸を片手でへし折り、加賀姉さんは持っていた湯呑みを片手で粉々にさせ、土佐姉さんは飲んでいた味噌汁を吹き出した。

 

「「「「で、デート!?!? 」」」」

 

4人とも見た事無いほどおどろき驚き、一斉に俺に詰め寄ってきた。特に赤城姉さんに至ってはとんでもないほどの血相をして迫り、その姿はまさに鬼のようだった。

 

「で、でで……デートですって!?一体どこのあばずれなの!?騙されてない!?まさか……愛宕だったら承知しないわよ! 」

 

いつも通り激しい形相で迫る赤城姉さんである。

 

「ゆ、優海。お前にまだ色恋を知るのは早いと思う……いや、もう優海も16......むしろ遅いぐらいなのか。いやしかし…… 」

 

なにかブツブツ言っている加賀姉さん。何だからしくない。

 

「お、おおお前……!私に話もせずにそんな……そんな…… 」

 

そして何故か半泣きになっている土佐姉さんであった。3人は休みの朝から慌てふためいており、それを見兼ねた天城母さんは静かに箸を置いた。

 

「3人共落ち着きなさい 」

 

天城母さんが手を叩くと、姉さん達は母さんの圧に屈するように静かになり、俺もその圧に巻き込まれてしんと静まった。そんな怖くて圧が凄い笑顔のまま母さんは俺に訪ねた。

 

「優海、そのデートする人って誰ですか? 」

 

「え、えーと……ブレマートン先輩って人。ユニオンの重巡の人で2年生。この人だよ 」

 

俺は携帯にあるブレマートンさんの写真を母さん達に見せた。ブレマートンさんは桃色のツインテールに少し青色のメッシュをしているのが特徴なKAN-SENだ。それを見せると、母さん達は更に戸惑いながらも俺に迫った。

 

「な、なんて淫らな服装をしているのこのメス猫は……!こんな肌色の多い服を着ている女とデートするのは認めないわよ! 」

 

「いやいや赤城姉さん、その人テニス少しやってるらしいからそれはテニスウェアだよ……」

 

「優海、やはり考え直せ。こいつからは嫌な臭いが気がしてならない 」

 

「私も姉上と同意見だ。いますぐこの女との縁を切れ 」

 

「うーん、でも約束したから…… 」

 

「だったら私がその女を燃やしてあげるわ!重巡如き私の航空攻撃で直ぐに焼け野原に…… 」

 

「止めなさい赤城 」

 

暴走寸前の赤城姉さんを天城母さんは頭に拳を叩きつけ、赤城姉さんは頭に煙を登らせながら白目で机に顔を突っ伏せ、そのまま気絶した。

 

「ねぇ優海?その人とはいつどこで知り合ったのですか? 」

 

「ひぇ……!ぶ、ブレマートン先輩とは今日で初めて会うよ。ただちょっと、ボルチモア先輩っていう人から頼まれたんだよ 」

 

「頼まれたと言いますと? 」

 

「実は…… 」

 

 

 

 

 

昨日の放課後にて……

 

「デートの……ふり、ですか? 」

 

「あぁ。私と同じクラスで親友のブレマートンっていう奴がいるんだが。どうやらその子がストーカーされているようでね。困っているらしい 」

 

「ストーカーって……この学園、俺やKAN-SEN、関係者しか入れませんよね? 」

 

「確かにそうだ。だが、ブレマートンはこの外によく遊びに行くし、モデルの掲載もちょくちょくされている。それに目をつけた人間の男1人にストーキングさら、ネットでも迷惑メッセージが後を絶えないらしい 」

 

「やっぱり、そういう人っているんですね…… 」

 

俺が住んでいた島はKAN-SENが多かったから、俺自身そこまで同じ人類とは交流が無い。テレビとかでそういうニュースは聞いているけど、実際改めて直接聞くと少し残念な気持ちになる。

 

今はセイレーンの危機に瀕してるっていうのに、どうしてそのKAN-SENに迷惑をかけるような事をするんだろう……

 

「まぁとにかく、暇な時間があればブレマートンに連絡して欲しい。今そっちの携帯にブレマートンのIDと写真を送る……おっと、その前に私との連絡先の交換だね。携帯を見せてくれ 」

 

俺はボルチモアさんに携帯を渡し、画面にボルチモアさんの連絡先が追加されたと同時に別の連絡先とブレマートンさんの写真が送られてきた。

 

桃色の髪に少し暗い青色のメッシュが特徴的で、着ているのはテニスウェアだろうか?だけどブレマートンさんの大きな胸がそのテニスウェアを押し上げるようにしてしまい、腹部の方が顕になっている。

 

「なんか……凄い人ですね。色々 」

 

「だろ?まぁそのせいでストーキングされてるから、よろしく頼むよ。指揮官君 」

 

 

 

 

 

そして現在に至り……

 

「なるほど、そういう事でしたか 」

 

「そうかそうかフリか……良かった…… 」

 

「ん?土佐姉さん、どうしてホッとしてるの? 」

 

「な、なんでも無い!で、どこまで行くんだ? 」

 

「ユニオンだよ。もうそろそろ行こうかなって思ってるよ。……ご馳走様。じゃあ着替えて行ってくるね 」

 

食器を片付けて直ぐに部屋に戻り、昔愛宕さんに買ってもらった少しオシャレな服装を着てデートに望む。ブレマートンさんから思いっきりおめかししてねと言われたので、ちょっと気合いを入れる。

 

それにしても、身内以外とのお出かけでしかも陣営の中で大きい部類のユニオン……!少し楽しみで今からでもワクワクが止まらない。早く行きたいなぁ……

 

「……赤城、加賀、土佐。私達も支度しますよ 」

 

「え、何故ですか? 」

 

「決まっています。優海の後を着いていきます。少し心配ですからね 」

 

「しかし天城さん。デートと言っても振り何ですよ?しかも相手は初対面……それほど気にするような事では 」

 

「ふふ、勘違いしないで下さい土佐。私はただ、優海が見知らぬ人と見知らぬ場所で危険に晒されないか見るだけです。決して優海がデートする方と万が一にでも一線を超えないか心配で見る訳ではありません 」

 

「……天城さんが1番気にしているのでは 」

 

「お黙りなさい 」

 

 

 

 

そうして時は流れ、いよいよデートの時間となった。

船に乗ってユニオンに到着し、船着乗り場でブレマートンさんが待ち合わせしている筈だけど……

 

「お、いたいた!おーい、指揮官〜! 」

 

大きく手を振った桃色の髪の人を見つけ、写真を見比べると確かにブレマートン先輩だった。

 

服装は黒い上着を気崩し、その中にあるノースリーブの黒セーターを見せつけるように着ていた。そのせいか、胸の上部分が際どく顕になっていた。

 

「いや〜ごめんね?今日は彼氏役お願いね! 」

 

「は、はい。と言っても……どうすれば? 」

 

「私と一緒に居れば良いからさ!それにしても、指揮官ってオシャレだね〜。白の和風カーディガンタイプ……意外とファッションには詳しいとか?」

 

「あぁ、これは愛宕さんから入学祝いに貰った物で…… 」

 

「あ!デート中に他の女の子の名前出したらダメだぞ〜? 」

 

ブレマートン先輩は俺の唇に人差し指を押し付け、優しく叱るように片目を閉じて笑った。

 

「す、すみません 」

 

「えへへ、じゃあ、行こっか! 」

 

ブレマートンさんから手を掴まれ、いよいよユニオンのお出かけが始まった。新たな新天地……ワクワクする!

すると、何故か視線が感じる。チラリと後ろを見ると、春のあけぼので暖かいのに、少し厚いコートを着ている人が4人並んでいた。……寒がりなのかな。

 

 

 

「ふむふむ、あれがブレマートンさんですか…… 」

 

「見るからに尻軽そうな女ね。あんな女に優海は渡せないわ! 」

 

「姉様、一応振りなので本気で付き合うとは言ってません 」

 

「わ、私もあんな風な衣装を着たら優海の事…… 」

 

「土佐、お前は何を言っているんだ…… 」

 

「とにかく、早く優海の後を追いますよ。気づかれないようにね 」

 

 

 

 

「わぁ……!高いビルや人がいっぱいだ! 」

 

重桜とは違い絵に書いたような都会の街並みに興奮した俺は、その場をぐるりと回ってユニオンの街並みを見渡した。

 

そびえ立つ高層ビル、車の駆動音、そして溢れんばかりの人混みで新鮮な気持ちが溢れ出し、初めて見る物には飛びつくように見てしまった。

 

「ちょっと指揮官ー?女の子を放っておくのはどうなのー!? 」

 

「ご、ごめんなさい。初めて見るものばかりだから少し舞い上がっちゃって 」

 

「ん?指揮官ってユニオン来るのは初めてなの? 」

 

「はい。俺、重桜から出たこと一度も無いんです 」

 

「そっか。じゃあ私がユニオンの良いところたくさん連れて行くから楽しみにしててね! 」

 

「本当ですか!?楽しみです! 」

 

「じゃあまずはこっちにレッツゴー! 」

 

ブレマートン先輩に腕を抱かれ、まるで本物のカップル見たいに俺達はユニオンの街へと歩いた。

 

 

 

「絶対燃やす必ず燃やす灰も残さず燃やす燃やす燃やす……! 」

 

「ね、姉様落ち着いて下さい!あれはフリ!フリですから 」

 

「あれのどこかフリなのよ!あんなに胸が潰れるぐらいに優海に密着して……きぃぃ!もう我慢出来ないわ!今すぐあの桃色淫乱娘を焼いてやるわぁ! 」

 

「赤城〜?いい加減にしないと怒りますよ? 」

 

「は、はい……すみませんでした…… 」

 

「ですが……こういった所であのような事をするのは……んん〜、どうなのでしょうか?最近の方々はあれが普通なのでしょうか? 」

 

「まぁとにかく、私達も追いかけましょう 」

 

 

 

 

ガタガタとベルトコンベアの上の乗り物に乗せられ、早くも俺は帰りたい気持ちが溢れて泣きそうでもあった。

 

高度何メートルだろうか?上へ上へと登るにつれて心臓の鼓動が早くなって吐き気もする。そんな俺に対してブレマートン先輩は今から早く下りないかとワクワクしている。

 

「あ、あの〜ブレマートン先輩。これ本当に大丈夫何ですか? 」

 

「大丈夫だって!安全ベルトもあるし、これよりも安全な乗り物なんて無いよ? 」

 

「いやいやいやいやだって凄く登っているんですよ!? こんなジェットコースター怖くてもう乗れないです! 」

 

1番危険そうに見えて実は1番安全な乗り物、ジェットコースター。緻密な計算や技術で作られたコースや乗り物、そしてスピードが慎重に行われているから、事故等は滅多に起こらないらしいが、その話は今の状況では嘘なんじゃないかって疑ってしまう。

 

拝啓天城母さん、赤城姉さん、加賀姉さん、土佐姉さん。俺はもしかしたら今日死んでしまうかもしれません。今までありがとうございました。何て文字も頭の中で流れてきていよいよ大変な事になってしまった。ついにジェットコースターはレールの頂上まで行き……天辺を過ぎると猛スピードでレールの上を走っていった。

 

「いえーーーーい!! 」

 

「うわぁぁぁぁぁぁあ!! 」

 

「きゃぁぁぁぁ!! 」

 

「うぉぉぉぉ!?!? 」

 

隣ではブレマートンさんが楽しく叫び、後ろの方から何故か赤城姉さんと土佐姉さんの声と似ていた叫びが聞こえたような気がするが、時速100kmを超えたスピードを全身で感じ、螺旋状に回ったり一回転したりと周りの事なんて気にしている余裕が無い。

 

右え左へと力が加えられ、怒涛のスピードの世界はわずか数分で終わり、ジェットコースターも元の位置に戻るにつれて減速していき、分かってはいた事なんだけど無事に戻れた。

 

「いや〜やっぱりジェットコースターって面白いね!って……指揮官大丈夫? 」

 

「な、何とか〜…… 」

 

産まれたての子鹿みたいな足取りでフラフラしながら何とかアトラクションの出口に戻り、戻った瞬間足がもつれてしまい、何も無い所で躓いてしまった。

 

しかも体が倒れた先にはブレマートンさんが居た為、俺はブレマートンさんに持たれかけるようにぶつかってしまい、頭が胸に当たってしまった。

 

ムニッと頭の両側から柔らかくも弾力のある感触に包まれ、体の震えも忘れて俺は直ぐにブレマートンさんの胸から離れた。

 

「あ……ご、ごめんなさい! 」

 

「良いの良いの。気にしないで!そ れ で〜どうだった?私の胸 」

 

「へ?ど、どうって言われても…… 」

 

どう答えれば良いんだろうか……?感想としてはお餅のように柔らかくてふわふわしていた。としか言えない。だけどそれを口にするのはどうかと思うし、あわあわとしながら口をごもらせてしまい、それを見たブレマートン先輩は楽しむように笑った。

 

「あはは!冗談だよ!さっ、次はちょっとだけゆっくりしたアトラクションに行くよ! 」

 

またも腕を引っ張られ、次は船の上に乗ってクルーの人が船を漕ぎ、決められたルートを渡っていくゆったりとしたアトラクション……何て物は無かった。

 

船を漕いでる途中でサメに出くわしてそのままサメに追いかけられ、サメから逃げるアトラクションになったりとこれまた大きく叫んでしまった。

 

サメの次は恐竜に襲われたり、やれ上下左右に高く激しく動く乗り物になったり、やれ次は一回転し続けるアトラクションに乗ったり、やれトロッコで激しいジグザグ道を通ったりと……叫びに叫んでそんなに動いてないのにお腹が空いてしまった。ついでに喉が……喉が砂漠のように渇いて思わずその場にあるベンチに体を溶かすように座った。

 

も、もう無理……!

 

「あはは……指揮官があまりにも可愛い反応するからついついやりすぎちゃった……ほら、あそこにレストランあるから、一緒に食べよ! 」

 

ふらつく足取りの俺を気遣ってブレマートンさんはゆっくりと俺の隣を歩き、昼頃で少し混雑している園内のレストランに入った。

 

 

 

「はぁ……はぁ……何なんだあのジェットコースター……乗る奴を殺す気か……? 」

 

「私と赤城姉様は艦載機を操作する都合上慣れてはいるが……戦艦の土佐には刺激が強すぎたな 」

 

「その赤城も何やら叫んでいたようだが? 」

 

「貴方よりはマシよ。それよりも、天城姉様の様子が……ちょっと 」

 

「わ、私は……大丈夫……です……うぷっ 」

 

「きゃぁぁあ!もう無理して乗るから!! 」

 

 

 

 

 

 

驚きだらけ……と言うよりかは絶叫だらけの遊園地だが、レストランの中でも絶句していた。ユニオンの料理は他と比べてかなり大きく作られていると聞いた事がある。

 

重桜の料理もそこそこ量が大きい方だから大差ないと思っていたが……目の前にある俺の顔ぐらい大きいハンバーガーと山盛りの見て自分のちっぽけな考えを悔いた。

 

ハンバーガーのバンス(パン)の間には大喜利の座布団のように多く積まれた肉に、野菜はトマトとレタスをちょこんと挟んだ程度だ。個人的にもう少し野菜が欲しい所だけど、それを補うようにフライドポテトがある。

 

「え?こ、これ食べるんですか?1人で? 」

 

「私の奢りだから気にしなくて良いよ 」

 

いやそういう事じゃないんですけどね。これ、食べれるのかなぁ……ブレマートンさんも同じくらいのハンバーガーを惜しみなく食べ始め、それにつられて俺もハンバーガーを頬張る。

 

噛んだ瞬間肉汁が溢れ、間に挟んでいる少し濃いめのソースが口についたような気がするが、それが気にならないぐらいの旨みが口の中に広がり、噛めば噛むほどその旨みが滝のように流れ出た。

 

「美味しい! 」

 

フライドポテトも外はカリッと中はホクホクであり、塩加減も良い感じだ。どんどん食べられてしまう。

 

「でしょ?あ、指揮官口元にソース付いてるじゃん 」

 

ブレマートン先輩は俺の口元についたソースを親指でなぞる様に取り、そのまま小さく舌を出して舐めた。

 

「あぁ、ありがとうございます 」

 

「指揮官って何だか子供ぽいよね〜。なんて言うか、まだ小さな子供って言うかなんというか 」

 

「うん。こっちに来て周りにあるもの全部にキラキラ反応したりはしゃいだりして、そんなに珍しい? 」

 

「そう……ですね。俺にとっては、重桜以外で見るもの全部が珍しいですよ。いや、もしかしたら重桜でもこんな反応するかもしれません 」

 

ブレマートン先輩が疑問に思っている顔を見た俺は一旦ハンバーガーを皿に置き、その事を話した。

 

「俺が住んでる所って、重桜の中でも結構田舎見たいな所なんです。ここみたいに大きな建物がある訳じゃ無いし、ゲームも無い。あるのは緑豊か自然と、蒼く透き通る海だけです。俺はそこで、もう6年ぐらい母さん達と住んでます 」

 

「へ〜良いところそうじゃん 」

 

「はい。良かったら案内しますよ 」

 

「じゃあしてもらおうかなー? 」

 

そんな談笑を交わし、そろそろお昼も終わるその時だった。あまりの量にお腹が膨れ、腹痛を起こした俺はブレマートン先輩を残してそのまま御手洗に行った。

 

食べ物を残すのはダメな事だと母さんにはいつも言われてるから、お腹が膨れても何とか食べるようにはしている。だが、今回のは流石に強敵だった。

 

トイレで出すものを出し、ちゃんと手を洗って元の場所に戻ると、ブレマートンさんの傍にフードを被った少し肥満型の人が立っていた。

 

風貌からしてKAN-SENでは無く、人間だ。少し小刻みで歩きを早め、会話が聞こえる距離まで近づくと、男はブレマートンさんに突っかかり、強引に腕を触れた。

 

「はぁ……はぁ、ぶ、ブレマートンちゃん。僕と一緒に…… 」

 

「あぁ〜ちょっとごめん。私、今日人と来てるか、一緒には無理……あ、指揮官! 」

 

ブレマートンさんは俺を見つけると直ぐに席から離れ、俺の背中に隠れるように後ろについた。

 

「指揮官、アイツだよ。ストーカー 」

 

「あの人が? 」

 

ストーカーの男のもう一度見ると、男の呼吸は荒くなっており、眼鏡をかけていた。服は少しボロボロで髪も乱れており、清潔感とはちょっと離れた印象を持った。

 

「お、お前は誰だっ!ブレマートンちゃんから離れろ! 」

 

「え、いやブレマートンさんから来たから離れる訳には……」

 

「指揮官!話合わせて合わせて 」

 

後ろからブレマートン先輩に耳打ちされ、ブレマートン先輩は後ろから見せつけるように抱きついた。

 

「この人、私の彼氏なの。今デート中だから邪魔はしないで貰えるかな? 」

 

「で、デデデデで……デート……だとっ!? 」

 

ストーカーの人は驚きで挙動不審になっており、嘘だと言ってくれと思うような目をしていた。

 

まぁ、確かに彼氏じゃないし嘘ではあるんだが、ブレマートン先輩の言う通り、ここは話を合わせよう。

 

「そ、そうだ。俺の彼女に何か用ですか? 」

 

するとすぐ近くのテーブルからガラスのコップが粉々に砕け散った音が聞こえたが、ストーカーの男はそれを気にせず問い詰めて来た。

 

「う、嘘だ!ブレマートンちゃんは僕と一緒にいるべき人なんだ!あの時僕だけに笑顔を振りまいてくれたり、親切にしてくれたりしたんだ! 」

 

「あの時……? 」

 

「覚えて無いの!?モデルの仕事をしていた時、僕の方を見て笑って、更には僕が落とした物を拾ったり…… 」

 

「あぁ!あの時……って、あの時はスタッフから目線をこっちに向けてって言われただけだし、落し物を拾うのは当然の事だからっ! 」

 

という事は……この人の勘違いという訳か。真実を知ったストーカーは体を震えさせ、何かブツブツと言っていた。

 

「う、嘘だ。そんな訳無い!こ、この男に何か弱味を握られてそう言わされているだけなんだよね! 」

 

「だーかーらただの誤解だから!もういい加減にしてよ!ほら、ダーリンからもなにか言って! 」

 

「えぇ!?そ、そんな事急に言われても…… 」

 

「こ、この……クソビッチがぁぁ!」

 

「ブレマートン先輩危ないっ! 」

 

男は近くのテーブルからナイフを取り出し、逆上してブレマートン先輩にナイフを突き刺そうとしていた。

それに気づいた俺はブレマートン先輩を後ろに下がらせ、迫り来るナイフを右手の親指から中指を使ってナイフを挟むようにして掴み、ナイフの進行を止めた。

 

ナイフの白刃取りに戸惑った男はナイフを押したり引いたりしようとしたが、ナイフはビクともしなかった。

 

「流石に……それはダメなんじゃないですか?1歩間違えればブレマートン先輩が危ない目に遭った所なんですよ 」

 

「黙れ!僕がブレマートンちゃんの事を1番よく知っているんだ!それなのに……お前のような男にホイホイつられて……! 」

 

「じゃあブレマートン先輩の気持ちを理解出来る筈だ。いつも貴方に見られ、メッセージを延々と送られ、挙句の果てにはナイフで刺そうとした。貴方のブレマートン先輩に対する気持ちは、一方的で自分勝手なエゴに過ぎない 」

 

「う、うるさい!じゃあお前はブレマートンちゃんの何を知っているって言うんだ! 」

 

「まだ全然分かりませんよ 」

 

「だ、だったらお前も同じじゃないか!偉そうに言いやがって! 」

 

「だけどこれから少しづつ分かっていくつもりです。互いの事を少しづつ理解していく事で、初めて関係は生まれる物ですから 」

 

後ろのブレマートン先輩に目を向け、男からナイフを取り上げた俺は、すかさずナイフを捨てて男の服の裾を掴み、背負い投げをした。

 

受身を取れなかった男は地面との衝突の衝撃で気絶し、しばらくして誰かが通報したのか、警察の人がこのレストランに足を踏み入れた。

 

「ここに暴れている男がいるとの事だが!誰だ! 」

 

「あ、この人です! 」

 

俺は警察の人に伸びている男を指差し、他の客の証言もあってか誤解なく男は無事警察に捕まった。

 

ストーカーに殺人未遂。結構重い罪に問われるかも知れないが、自業自得というやつだ。罪を償って、今度は正しく人の気持ちを理解出来れば良いんだけど、それは本人次第だろう。

 

「大丈夫ですか?ブレマートン先輩 」

 

「う、うん。こっちは大丈夫。それにしても指揮官、無茶するね。本来指揮官を守るのは私達KAN-SENの役目だよ? 」

 

「あはは……でも、フリでも今は彼氏ですから。彼氏は彼女を守らないとって、漫画とか書いていましたし。あ、でもストーカーの人は捕まったからもうフリは終わりなのかな 」

 

「ううん、あともう少しだけ付き合って欲しいな 」

 

「それは良いですけど、次はどこに行くんですか? 」

 

「それはね……観覧車! 」

 

どうやら、最後に行く所は観覧車らしいけど、当初は行くつもりは無かったらしい。それにしても観覧車か……初めて乗るから楽しみだ。

 

歩いて数分、時間も遅くなって空が少し暗くなりつつあるが、人気の場所なのかかなり混んでいた。最後尾から観覧車に乗る時間は40分と書かれており、仮に乗るとしたら相当な時間を食ってしまう。

 

「うわぁ〜混んでますね。どうします? 」

 

「ここまで来たから乗るべきだね。それに、指揮官と雑談したらすぐだって! 」

 

「40分喋り続けられるかなぁ 」

 

そんなこんなで観覧車の列に並び、俺とブレマートン先輩は互いの事を知るように会話を弾ませた。互いの趣味や特技、今ハマっている物とか、休みの日は普段何をしているのか、互いの事を知り尽くし、その中で気になる物を深掘りした。

 

「へぇ、KAN-SEN達の悩みを聞いたりするんですね 」

 

「そそ、指揮官ももし悩みがあったら書き込んでね。あ、書き込むのが面倒だったら今直接言っても良いよ 」

 

「悩みか〜。うーん、今の所はないですね。普段どんな風な悩みを聞いたりするんですか? 」

 

「最近だと……恋の相談とか? 」

 

ブレマートンさんは何故か俺の方を見て笑い、俺はキョトンと首を傾げた。

 

「まぁ気にしなくて良いってこと。あ、もうすぐで観覧車乗れそう! 」

 

ブレマートン先輩の言う通り、あと数人が乗れば俺達の番が来そうだ。40分経った今、時間も遅くなってしまったがようやく観覧車に乗り、俺とブレマートン先輩は互いを見合うように座り、観覧車はゆっくりと高度をあげた。

 

「ここから1番上に行くとユニオンの街並みが見れるから気に入ってるの。指揮官もきっと気に入ると思うよ 」

 

「それは楽しみです 」

 

徐々に上へと登る観覧車の中、外の景色を見ている俺にブレマートン先輩は会話を続けた。

 

「私ね、指揮官の事正直頼りにならなさそ〜って思ってたんだよね〜 」

 

「い、いきなりなんて事言うんですか…… 」

 

「だってなんかほわほわしてるし、ボルチモアからの話を聞いた限りなーんかなよなよしてそうだし、本当に指揮官で大丈夫なのかなって思っちゃったよ 」

 

うーん、否定出来ないのが辛い。穴があったら入りたいぐらいだが、ブレマートン先輩はただ悪口を言うためにこんな事を言った訳じゃなかった。

 

「でもレストランの時の指揮官みてそんな考えは間違ってたって思い知ったよ。あの時の指揮官、すっごくかっこよかったよ。本当にありがとうね 」

 

「い、いや〜俺の方もブレマートン先輩を守れて良かったですよ。えへへ…… 」

 

身内以外からかっこいいって言われた事無いからついつい頬が緩み、また情けない顔をしているかも知れない。

 

だけどブレマートン先輩はそれを見て情けないと言わず、むしろ笑っていた。

 

「ねぇ指揮官、もし良かったらさ……私と」

 

「あ!見て下さいブレマートン先輩!ユニオンの夜景が見えてきましたよ!」

 

朝に見たユニオンの街並みが街頭や電気でライトアップされ、朝とは違った風景でついつい魅入ってしまう。

 

「ところで、ブレマートン先輩。何か言いましたか? 」

 

「べっつに〜?何でもないですよーだ 」

 

何故かブレマートン先輩はふくれっ面で目をそむから、明らか不機嫌になった。俺、何かしたのかな。だけど全く心当たりが無く、気まずいながらもユニオンの夜景をもう一度見た。

 

「ねぇ指揮官、指揮官って好きな人とかいるの? 」

 

「え?いや、いませんけど 」

 

「じゃあ好みのタイプとかは? 」

 

「好み?好みって言われてもなぁ…… 」

 

正直あまりピンと来ないし、外見至上って訳じゃ無い。少し悩んだ結果、頭の中で真っ先に思い浮かんだ事を話した。

 

「うーん、強いて言えば一緒にいて楽しい人……ですかね 」

 

「お、結構ありきたりだね 」

 

「でも大切な事でしょう? 」

 

「確かにね。私も一緒にいて楽しい人が好きかな。指揮官みたいな人とね 」

 

するとブレマートン先輩は俺の隣に座り、グイッと顔を近づけさせた。

 

「だからさ指揮官、またデートしようね! 」

 

「はい。彼氏役なら何時でも 」

 

「そういう訳じゃないんだけどなぁ…… 」

 

ブレマートン先輩は少し離れ、観覧車は1周して観覧車から降り、あたりはすっかり暗くなってしまった。だけどこれなら急げば寮の門限ギリギリ間に合うはず。

 

「じゃあ指揮官、今日はありがとう!今度テニス部にも来てよ!その時は教えてあげるから 」

 

「はい、必ず 」

 

ブレマートン先輩はそのまま駆け足で帰り、俺も帰ろうとしたが……少しばかり気になった事がある。確証は少しばかりあるだけだが、思い切って後ろに振り返り、近くにあるベンチに座っている4人に向かっていき、声をかけた。

 

「……母さん、姉さん。そんな所でなにをしてるの? 」

 

声をかけられた4人は肩を上がらせてビクッと反応し、ゆっくりと顔をこちらに向けた。

 

「ゆ、優海……気づいていたのね 」

 

「まぁ、ジェットコースター辺りから薄々はね 」

 

やっぱり母さん達4人であり、赤城姉さんはバツが悪そうな笑顔で返事をしてくれた。

 

「それにしても、どうしてみんなここにいるの? 」

 

「いや、これはだな 」

 

「……さしずめ、俺の事を心配して来たって事?でも心配しなくても俺はもう16歳だよ。心配しないでよ 」

 

「では大の16歳がだらしなく食べカスを落としたり口元にソースがついている物なのですか? 」

 

「うぐっ……あ、あれはあんなハンバーガー食べるのは初めてなだけで…… 」

 

「優海、確かに貴方は成長しました。ですが私から見れば貴方はまだ大人になろうと背伸びしている子供なのです。自分はもう大人だから何でも1人で出来る。という人が1番危ない事が分からない物なのですよ? 」

 

ごもっともな意見に縮こまって聞くしか無く、母さんの言うことにコクリと頷いた。

 

「だが優海、天城さんはお前とあの桃髪女が一線を超えないか心配でここに」

 

「お黙りなさい 」

 

何故だろうか、突然天城母さんが土佐姉さんの首筋を目にも止まらない手刀で打ち、土佐姉さんは白目を剥いて気絶してしまった。

 

恐ろしく早い手刀……高雄さん達との訓練が無ければ見逃していた。

 

「お、おい土佐!しっかりしろ! 」

 

「がっ……さ、さすが天城……さんだ 」

 

そう言って土佐姉さんが意識を無くし、加賀姉さんは仕方なく土佐姉さんをおぶった。

 

「さぁ、とにかく帰りましょう。お昼を結構食べたので夜は少し軽めにしましょうか 」

 

「は、はーい…… 」

 

母さんにはいつまで経っても敵わない様な気がするのは気のせいでは無いはずだ。

 

そうした帰り道、天城母さんと赤城姉さんが今日の出来事を話して欲しいと笑顔で言ったが、この帰り道の2人の笑顔は今まで過ごしてした中で1番怖かった……

 




アズレン学園校則

KAN-SENは学園外のどこでも外出が可能。
しかし門限の時間が過ぎると安全性の為、いかなる理由があろうと寮には入れない。

またその際、外泊許可書を端末から申請する事で一定の金額内の宿泊費用の一部を学園側が負担する。

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