ゆるふわ芦毛のクソかわウマ娘になってトレーナーを勘違いさせたい 作:へぶん99
午前の部が終わり、学生が主となって開いている出店のほとんどが畳まれていく中、私はグリ子と一緒にお昼ご飯を食べていた。カフェテリアは爆混みなので、適当な出店で軽食を買って食べ歩きである。
「あ、アポロレインボウさんっ! いつも応援してますっ! よ、よろしければ、お写真1枚よろしいですか!?」
「1枚と言わずにどんどん撮っていいよ〜」
「グリ子ちゃん、ツーショットお願いしてもいいですか!」
「もちろん!」
せっかく執事服を用意してくれたんだから……ということで2人ともコスプレしたままトレセン学園内を練り歩いていたら、ファンの人達に頻繁に呼び止められ写真を要求されて落ち着く暇もない。断る気はないけど、写真を撮っているファンを見て更に人が集まってくるので収拾がつかない。
「1年に2回しかないファン感謝祭だし、仕方ないとはいえ……人が多すぎない?」
「キリがないね……」
ファン達に囲まれて身動きが取れなくなる中、小さな歓声と共に人垣が割れ始める。何事かと思ってそちらを見ると、人集りを
「あ、ルモスさんだ! お久しぶりです! 案外暇なんですねぇ」
「暇とは何だ! これは日本のトレセン学園が誇る“オマツリ”のれっきとした視察だよ? ヨーロッパでもファン感謝祭を開催してみたいからねぇ!」
そこにいたのは、すっかり日本に馴染んできたルモスさんであった。ここ最近は日本観光に一区切り付けて、オーストラリアの視察に行っていたらしいのだが……また日本に戻ってきてしまったようだ。
ゴルシちゃんが売り捌いている焼きそばを買っていたり、フランクフルトや綿あめを両手に抱えている当たり、視察という名の旅行なんじゃ……。
「アポロちゃん、この方は?」
「ルモスさんっていうヨーロッパの凄いウマ娘だよ」
「へ〜」
グリ子の質問に答えてあげたけど、多分この返事の仕方は全然分かってないな。マジで凄い人なんだからね、ルモスさん。世界で唯一2年連続で三冠を勝ち取ったウマ娘って言えば分かってくれるだろうけど。
「誰だろうあの綺麗なウマ娘」
「外国から来たウマ娘みたいだね」
「凛々しいけど可愛い……」
「アポロちゃん英語も喋れるの? かっこいい……」
周囲のファンは突然現れたルモスさんに注目している。ルドルフ会長に引けを取らない威圧感とオーラを纏うルモスさんは、そんなファンの声を聞いてウマ耳をぐりぐりと動かした。
「これ、全員アポロのファン? 凄いねぇ」
「いえ、グリ子のファンもいますし、もちろん他の推しも居ると思いますよ」
「“オシ”……? はよく分からないけど、さすがにこんな大勢に囲まれたら困ってるんじゃない?」
「ええ、まぁ。嬉しいですけど、少し」
「みんなワタシのオーラで都合良くどいてくれるから、脱出したかったらついておいで」
「あ、助かります! グリ子、脱出するよ!」
「え? あ、分かった! すみません、私達は用事があるので写真はまたの機会にということで!」
「ごめんね〜!」
ルモスさんが堂々と歩き出すと、モーセの海割りの如くファンが道を開ける。私達はルモスさんについて行き、ファンの人達に手を合わせながらその場から退散した。
校舎裏は人影もなく、やっと落ち着けるくらいには静かな空間だった。遠くから歓声や喧騒が聞こえてくるけど、校舎の中やグラウンド周りよりは遥かにマシである。
私達はルモスさんに感謝の言葉を述べた後、午後の部の準備のためにグラウンドに向かおうとしたのだが――「ちょっと待った、アポロに会わせたい子がいるんだ!」という彼女の言葉に立ち止まった。足を止めた私に対して不思議そうな顔をして、グリ子も追随してくる。英語が聞き取れないらしい。
「私に会わせたい人って誰ですか?」
「ちょっと待ってね、さっきメッセージを飛ばしたからすぐ来ると思うんだけど――」
待つこと数十秒、校舎裏に1つの人影が現れる。ぴょこんと飛び出した特徴的な耳は、その子がウマ娘ということを表していて――黒めの鹿毛を揺らしながら近づいてきたそのウマ娘は、私の目の前まで小走りで駆けてきて目を輝かせる。
「……この子ですか?」
「そうだよ。ごめんね、落ち着きがなくて……まだ小さいから、なにぶん目を
私の周りをぐるぐる走る鹿毛のウマ娘。身長は私の胸の高さくらいで、小学生くらいのサイズ感である。額にぽつんと現れた白の流星が何ともキュートであり、爛々と輝く双眸が何とも眩しい。
私は膝に手をついて腰を
「こんにちは! 私はアポロレインボウです……って、知ってるか。あなたのお名前はなんて言うのかな?」
「こ、こんにちは! 初めましてアポロさん! わたし、イェーツって言います!!」
「イェーツちゃんかぁ。いい名前だね。…………ん? イェーツ……?」
「どうかしましたか?」
「……いや、何でもない!」
そのウマ娘はイェーツと名乗ってくれたのだが、どこかで聞いたことのある名前だなと思った。今は午後の部のイベントやドバイのことで頭がいっぱいで、思い出すことはできなかったけれど。
ルモスさんによると、イェーツちゃんはダブルトリガーさんが期待をかけるステイヤーの卵らしい。アイルランドで出会ってからというもの、ドバイワールドカップミーティングを現地観戦させるついでに日本のファン感謝祭に連れてきたとか。
「あ、じゃあダブルトリガーさんも日本に来てるんですね」
「うん。何やかんやめちゃくちゃ楽しんでるよ〜」
「ダブルトリガーさんの写真とかあります?」
「あるよ。めっちゃ笑顔」
「うわヤバ。後で送ってくださいね。あ、ルモスさんの写ってる写真も追加で」
「いいよ」
「……ところでイェーツちゃん、少し質問していい?」
「いいですよ!」
私はイェーツちゃんの頭を撫でつつ、何故私のことを知っているのか質問する。イェーツちゃんはアイルランド出身のウマ娘なのだから、極東の島国のレース事情に詳しいのは気になるところだ。
彼女のようなヨーロッパのウマ娘は、知識があるといっても
「イェーツちゃんは、どうして私のことを知ってるの?」
「ダブルトリガーさんが日本遠征した時に知りました! それからレースの映像をいっぱい見て、ほんとに凄いなって思ってて――えと、ずっとファンですっ! 握手してください!」
なるほど、ダブルトリガーさんが参戦したG2・ステイヤーズステークスで知ったわけね。あの時の私、白目剥いてたと思うんだけど……それでファンになってくれたんだ。ちょっと恥ずかしいような、複雑な気分。もちろん嬉しいけど。
私はイェーツちゃんと握手しながら、艶やかな鹿毛をくすぐる。照れたように、しかし嬉しそうに頬を指先で掻くイェーツちゃん。
「写真も撮っとく?」
「良いんですか!? ありがとうございます!!」
すっかり手慣れた写真撮影を行い、午後の部まで時間もないということで会話も程々に解散の流れになる。ダブルトリガーさんに会えなかったのは惜しいが、ドバイでまた会えるだろう。
私、ルモスさん、グリ子、イェーツちゃんの4人で写真を撮った後、ルモスさんはグラウンドで場所取りをしているというダブルトリガーさんの元に向かうらしかった。私達も午後の催し物のために準備をしなければならないから、ルモスさんイェーツちゃんに手を振ってお別れを済ませる。
「ドバイ、応援してますから!! それじゃアポロさん、また会いましょうね!!」
「アポロ、またね〜!」
「イェーツちゃん、ルモスさん、またどこかで!」
騒がしい2人組が消えて、グリ子と私の間にしばしの静寂が訪れる。グリ子は「羨ましいなぁ」と呟きながら、先程撮った写真を見つめた。
「羨ましいって、何が?」
「いやさ、アポロちゃんに憧れるようなウマ娘ちゃんが早くも出てきたわけじゃん? 私もそうなりたいな〜って」
「何言ってんの、香港勝った時からグリ子もタイキさんパールさんと並んで大人気じゃん。今の短距離界じゃ1番の憧れの的でしょ」
「そうなのかなぁ」
「そういうもんだって」
私達はボヤきながらグラウンドに向かって歩き出す。イェーツという小さなウマ娘のきらきらした瞳を思い出して、私はふふんと誇らしげに鼻を鳴らすのだった。
これから始まる午後の部は、クラス単位の出し物ではなく、チームや世代ごとの催し物がグラウンド・トラックコースで行われることになっている。私達はそこに向かっていた。
トレセン学園はその性質上、トレーナーやウマ娘がグラウンド及びトラックコースを見張ったり囲んだりすることが多い。そのため、運動場の周辺には観客席やスタンドが用意されていることは周知の事実である。
しかし、午後の部ことメインイベントを見に来た観客によって、その巨大なスタンドが全て埋まっているとしたら――それはもう異常事態と言って差し支えないだろう。そして、ある意味予想通り――トレセン内のスタンド席や芝生の上の自由席は全て人によって埋め尽くされていた。
「わ、客席パンパンじゃん」
「うっそ〜……こんな人が……」
どこを見渡しても、トラックコースやグラウンド周りには人・人・ウマ娘がごった返している。パッと見でも5万人は下らない人数が押し寄せているのが分かった。
スタッフさんに導かれて関係者用のエリアに通されると、私達は一息ついて着替えを始める。既にスペちゃん達は準備を済ませており、開始時刻まで待つのみとなっていた。
――さて、ここに集められた『アポロレインボウ世代』が行う催し物とは、まさかまさかの『野球対決』である。秋川理事長が『最も盛り上がるスポーツとは何か』と考えた結果、日本でメジャーかつ大衆に浸透している野球が選ばれることになったのだ。
時はファン感謝祭の3日前、私達は秋川理事長に呼び出されて唐突にこう言われた。『野球ッ! ファン感謝祭でベースボールをすることに決定したぞ!』――と。何かの悪ふざけかと思ったが、理事長的には大真面目だったらしい。
丁度体育の授業で野球をやっていたこともあって、ルールやポジション毎の動きについては問題なかった。ただ、問題があるとすれば――その人数だった。当然、3日前の私達もその問題に思い至る。
私の同世代で有名なウマ娘は、特にG1を勝った中央所属の8人。アポロレインボウ、グリーンティターン、エルコンドルパサー、スペシャルウィーク、グラスワンダー、キングヘイロー、セイウンスカイ、ハッピーミーク。でも、野球の1チームは最低でも9人必要なのだ。部屋に呼ばれていたのは上記の8人で、残り1人が足りない状況であった。
『……ベースボール対決……?』
『何これぇ……』
『野球するの? 私達が?』
『上手く動けるかしら……』
『うふふ、勝負事ですか。燃えますね』
『あれ、でもベースボールは9人で行うスポーツですよね。1人足りないデス』
『……ほんとだ』
『あとひとり、誰だろう?』
疑問を口々に挙げる私達を差し置いて、秋川理事長は扇子を掲げながら最後のメンバーを呼び出す。その最後の1名とは、シニア級に入ってから長距離レースを連勝し、人気が急上昇中のウマ娘――ジャラジャラであった。
『ど……どうも。ジャラジャラです』
――と、ここまでが過去話。ジャラジャラちゃんとはメイクデビューからの付き合いがあったから、私としては嬉しい限りだったのだけど……そんな私達に対して、メイクデビューの事故で不仲になってるんじゃないかと心配してくる子もいた。主にエルちゃんとか。
まぁ、アポロレインボウ・ジャラジャラ不仲説なんてのは杞憂でしかない。普通にウマスタでやり取りするし、たまに遊びにお出かけすることもあるくらいだ。
「ジャラちゃん、今日はよろしくね!」
「よろしくアポロさん、ファーストはどんと任せてよ」
専用ユニフォームに着替えた私達は、雑談して時間を潰す。ポジションはどこをやっても大差がないので適当だ。正直、3日前にノリで決めた。
ファーストはジャラジャラちゃん、セカンドはグリ子、ショートはエルちゃん、サードはミークちゃん、ピッチャーはキングちゃん、キャッチャーはグラスちゃん、外野が私とセイちゃんとスペちゃんといった風になっている。
ちなみに、相手チームはスズカさん世代プラス生徒会という超豪華メンツ。トレセン学園に通うウマ娘がレース以外のスポーツをする場面なんてそうそうお目にかかれないから、そりゃ注目されるよねって感じだ。
「スズカさん、ちゃんと野球のルール分かってるのかな……」
「パールさんとか、マウンド上で踊り出しちゃいそうだよね」
「それはボークではなくって?」
「ブライアン先輩とかブライト先輩とか、スポーツできるのかな……」
スペちゃん達が口々に先輩達を心配する中、いよいよ野球の時間がやってきた。聞き慣れた実況解説の声がスピーカーから飛んできて、ファンを盛り上げるために大袈裟に煽りまくる。
『――皆様、お待たせしました!! 春のファン大感謝祭・午後の部がいよいよ開幕です!! 第1プログラムから早くも本日のメインイベント――世代対抗の野球対決です!!』
観客の大歓声がスタンドを揺らす中、私達は指示通りグラウンドに足を踏み入れる。観客席のボルテージが最高潮に達し、腹の底まで響くような轟音が大地を揺らした。
私達が野球を行う仮設グラウンドは、野外ステージを利用して簡易スタジアムを急ピッチで作ったらしい。その割にはちゃんとマウンドがあったり、土と芝のエリアが作られていたりと抜かりない。
昨日の時点では完成してなかったような気がする――というか昨日はウマ娘が普通にトレーニングで利用してたはず――んだけど、トレセン学園は色々とどうなっているのだろう。
妙に野球のユニフォームが似合うグラスちゃんとエルちゃんを尻目に、ホームベース前に整列して敵チームと挨拶。敵のメンバーは――シンボリルドルフ、ナリタブライアン、エアグルーヴ、サイレンススズカ、マチカネフクキタル、メジロブライト、メジロドーベル、タイキシャトル、シーキングザパール。こちらのチームに負けず劣らずの濃ゆい面子が揃っている。
ちなみに、球審はメジロマックイーンさん。野球をすると聞いて立候補してきたらしい。何で?
「プレイボールですわ〜!」
『いよいよ始まりました!! 新旧シニア世代の対決です!!』
普段のマックイーンさんなら絶対言わなそうな言葉を叫んで、大歓声の中で試合が開始された。1番バッター、俊足のグリ子がセーフティバントの構えで打席に入って、早くもファンや実況解説の笑いを誘う。ウマ娘の脚力でセーフティを狙うのはあまりにもセコい。
私もベンチに控えていたジャラちゃんと腹を抱えて笑い合った。グリ子め、笑いのツボというのを分かってやがる。
「は〜あ、おっかし……」
「でも、本気で勝ちに行くならあれはアリだよね」
「まあね〜?」
とてつもない素人フォームから繰り出されるパールさんの200キロの豪速球にスタンドが湧く中、ジャラちゃんの声色がふと真剣味を帯びる。
「……こんな時に悪いけど。アポロさん、少し話しておきたいことがあるの」
「……何?」
「私、阪神大賞典を走った後、春の天皇賞に出る。……その後、私もヨーロッパに挑戦しようと思うんだ」
「……! それってもしかして、私と同じ
「……うん。
グリ子がセーフティバントの構えから豪快な空振り三振に倒れ、会場が笑いと拍手に包まれる。そんな
「アポロさんの言いたいことは大体分かるよ。『海外遠征はまず日本のG1に勝ってから考えろ』とか、『今は連戦連勝できていてるけど、それは上手く行き過ぎてるだけで、いつか調子が落ちて負ける時が来る』……とか、そんなところでしょ」
「私は、そんな……」
「アポロさんが思ってなくても、きっとそういう声が私にぶつけられるだろうね。実際それは正しいよ。本当の私の実力じゃ、ヨーロッパのG1で渡り合えるはずがないもの。分不相応だって、URAの人やトレーナーも海外遠征に反対してくると思う。でも、それでも。
「――――」
ジャラジャラの視線がこちらに投げかけられる。鋭い目つき。メイクデビューで張り合ったあの時からずっと変わっていない、勝利への貪欲な姿勢。メイクデビューの事故があったにも関わらず、今なおインコースを果敢に攻めるジャラジャラの
彼女は大きな夢を持っている。少し気後れしてしまった。私は何か勘違いしていたのかもしれない。ジャラちゃんは、同世代で言えば私に最も近しい存在なのだ。スペちゃんやセイちゃんのようにクラシック・ディスタンスでもベストを尽くせるわけではなく、
「……急にごめんね。でも私も宣言しておかないと不公平だって思ったからさ」
「ううん、全然。かなりびっくりしたけど、めっちゃ燃えてきた」
「ゴールドカップで直接対決になるかもね」
「うわ、それはヤバいなぁ。……あ、そろそろ順番回ってくるから行くね」
「うん、ホームラン期待してるよ」
こうしてジャラジャラに見送られて、私はネクストバッターズサークルに立った。
今のところ、2番のハッピーミークがツーベースヒットを放ち、3番のエルコンドルパサーが内野安打、4番のスペシャルウィークが見逃し三振という状態。たった今5番のキングヘイローがサイレンススズカのエラー(フライを見失った)で出塁し、1点が追加された。そして2死13塁のチャンスで、6番バッターである私の出番がやってくる。
『6番バッター、アポロレインボウが打席に入ります! どんな打撃を見せてくれるんでしょうか』
私はホームランバッターの如くバットを振り回して打席に入る。ピッチャーのパールさんと目が合って何故か笑いそうになったが、何とか堪えてバッティングの構えを取る。所謂女の子の貧弱な構え方ではあるが、パワーが桁違いなのでこれで良いのだ。
と、構えながらピッチングを待っていると、キャッチャーをしていたルドルフ会長がささやき戦術のようなことをし始める。
「アポロ、フォームが崩れているぞ」
「……会長、ささやき戦術ですか。残念ながら私には効きませんよ」
「はは、つれないな」
「これ以上は会長でも無視しますよ」
「まぁまぁ聞いてくれ。私はね……ファン感謝祭をこのような大盛況の中で迎えられて本当に嬉しいんだ。私の夢は、全てのウマ娘が幸福な世界を生み出すことだからね」
「…………」
シーキングザパールが脚を高く振り上げ、投げる。バッターに当てるまいとコントロール重視の投げ方だが、それでも200キロの豪速球。外角低めのボールゾーンに投げ込まれた球を見逃しつつ、私は鋭く息を吐く。
「……君も知っているだろうが、私は海外遠征で出走したレースで敗北した。それと同時に繋靭帯炎を発症してしまったのは君も知るところだろう」
ルドルフ会長の言葉を聞いて、ぎくりとする。ウマ娘にとって繋靭帯炎は致命的だ。ウマ娘における不治の病と呼ばれ、シンボリルドルフだけではなくメジロマックイーンなど多くのウマ娘が苦しんだのは有名な話。
オグリキャップだけは何故か繋靭帯炎を治してしまったが……その名前を聞くだけでも若干の拒否反応が出てしまうほどだ。私は鳥肌を立てながらルドルフ会長を軽く睨む。彼女はボールを返球しながら、声のトーンを変えずに話を続けた。
「しかし、私は諦めなかった。懸命なリハビリと、
ささやき戦術にしては重すぎる話によってか、投球への反応が遅れた。豪快な空振りをかまし、歓声と共に1ボール1ストライクになる。
「アポロ……私は海外レースで結果を残すことはできなかったが、それでも得られたものはあると思っているよ。もちろん、結果を出すことが最も喜ばしいのだがね?」
今度は200キロのよく切れるスライダーに空振り。ささやき戦術が無くても普通に無理だろ。1ボール2ストライク。
「アポロ。君の夢は最強ステイヤーだと聞いているが――
結局、パールさんの快速球に粘り込んだものの――最後はボールを高く打ち上げてキャッチャーフライ。3アウトで攻守交替となった。
「……ルドルフ会長、そういうのは今言うことじゃないでしょ〜」
「ふふ、生憎私は負けず嫌いなものでね」
「ひっどいなぁ、恨みますよ?」
「…………」
「……会長?」
「……いや、何でもない。先程は厳しいことを言ってしまったが、アポロレインボウというウマ娘ならきっと世界を変えられる。私はそう信じているよ」
キャッチャーマスクを外した会長はそう言うと、ベンチに戻ってスポーツドリンクを呷るのだった。
結局ファン感謝祭の野球対決は、3-3の同点で試合終了を迎えることになる。時間の関係上、延長戦なしで3回裏までの開催となっていたため、互いのチームは「あと1回やってたら私達が勝ってた!」と言って譲らなかった。