ゆるふわ芦毛のクソかわウマ娘になってトレーナーを勘違いさせたい   作:へぶん99

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98話:バクシンバクシンバクシンバクシン!バクシンバクシンバクシンバクシン!

 

 サクラバクシンオー。模範的な学級委員長で、「バクシン」が口癖の猪突猛進なウマ娘。短距離レースに圧倒的な適性があり、まさに無敵のスピードでターフを駆け抜ける実力を持っている。

 また、品行方正ではあるが色々と押しが強く、言動はちょっとうるさめ。しかして、学級委員長らしく困っている人を見たら放っておけない性格である。

 

 そう。サクラバクシンオーさんは、困っている人がいれば間違いなく手を差し伸べるような優しいウマ娘なのだ。成功するかはともかくとして。

 ……困っていたとみおのお願いを安請け合いしてしまっただけなんじゃないのか。もしくは、とみおがおかしくなって講師の人選ミスを犯してしまったか。

 

 入室早々大きく胸を張って腰に手を当てるバクシンオーさん。疑いの目を向けざるを得ない。が、怪訝な顔を向けられてもバクシンオーさんの堂々とした微笑みは崩れない。その笑顔を見ていると、「私はここにいて当然ですよ! 学級委員長ですから!」という幻聴まで聞こえてしまいそうだ。あんまりにも悠然としているものだから、私はとみおに話を窺うことにした。

 

「……何でバクシンオーさんなの? ヘリオスさんとか、マルゼンさんとか、スズカさんとか、長距離なんだからそれこそパーマーさんとか……何ならダブルトリガーさんとか……もっと適材適所というか、こう……その……うぅん……他にいたんじゃないの?」

「いや、短距離のスペシャリストたる彼女が適任だ」

「なるほど〜…………何でぇ?」

 

 短距離のスペシャリストが適任……? 聞き間違いじゃないだろうな。いや、そうであってほしい。どうしてステイヤーに対して短距離のスペシャリストを講師として呼ぶ必要があるのか理解が及ばない。

 もしかしてアレか? サクラバクシンオーという競走馬が、どちらかといえば長距離血統だったことを暗喩しているのか? いや、ウマ娘に血統もクソもない。あるのは絆の繋がりだけだ。

 

「俺も最初はアイネスフウジンやミホノブルボン、サイレンススズカ達に頼もうとした。でも、サイレンススズカはアメリカに居て忙しいし、アイネスフウジンはバイト。ミホノブルボンやマルゼンスキー、ダブルトリガー達も用事があるということで、見事サクラバクシンオーが標的になったわけだ」

「だからなんでバクシンオーさんなの!?」

「今から分かるよ」

 

 用事があって来られなかったのは仕方ないけど、それでもこう……さぁ! 訳わかんないよぉ!

 硬直して頭を悩ませる私を置いて、バクシンオーさんを迎え入れる桃沢とみお。彼は私にソファへ戻るよう指示し、満面のバクシンスマイルでホワイトボードにペンを走らせ始める。

 『超高速爆逃げ』という頭の悪い文字の下に書き入れられていく文章。講師として呼ばれたサクラバクシンオーさんと、理想的な逃げの融合。もう嫌な予感しかしない。

 

「ここにサクラバクシンオーを呼んだのは他でもない、彼女の優れた走法を伝授してもらうためだ。結論から言うと、アポロは無尽蔵のスタミナを活かして()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 こうして明らかになった『超高速爆逃げ』――略して超逃げの原理は、短距離用のフォームで長距離を走るという超絶的な脳筋理論であった。

 ……とみおは疲れている。今すぐにたづなさんを呼んで、この惨状を知らせてあげるべきだ。

 

「とみお……疲れてない? 膝枕しながらヨシヨシしてあげようか?」

「いや、俺は疲れてない!! 長距離でバクシン理論を実践すれば勝利は間違いないんだ!!」

「…………」

 

 多分アレだ。元々バクシンオーさんに狙いがあったのは間違いないんだろうけど、彼女を知る過程でバクシンに染まりすぎたんだろう。

 まあ、私が信頼する彼がこう言うのだ。やるだけやってみようじゃありませんか。とみおのバクシン理論というやつを。

 

「さて。これから講師のサクラバクシンオーと一緒に『超高速爆逃げ』の概要を説明していくぞ。まずはバクシンオーに自由に喋ってもらって、そこから俺が付け加えていく形になる。気になることがあったら、適宜質問してくれて結構だ」

「りょーかい。バクシンオーさん、今日はよろしくお願いします!」

「はい! よろしくお願いします!」

 

 バクシンオーさんの走りは間違いなく『ガチ』の部類だけど、講師としての実力は全く分からない。普段の積極的すぎる言動を見ていると……どちらかと言うと不安の方が勝ってしまう。

 自然と背筋を伸ばしながらソファに控えていると、とみおがモニターを引っ張ってきて画面を操作し始める。バクシンオーさんは何処から持ってきたのか不明だが、博学帽子とレーザーポインターを手に持ってやる気満々である。

 ともあれ、バクシンオーさんの技術を伝授してくれる機会なんてそうそう無い。私は気合を入れてメモの準備を済ませた。

 

 とみおがモニターに映したのは、バクシンオーさんが圧勝したスプリンターズステークスの映像である。圧倒的な加速力で他のウマ娘達を置き去りにし、1200メートルのレースとしては大差に匹敵する4身のもの着差でぶっちぎったレースだ。史上初のスプリンターズステークス連覇というのもあって、最強スプリンターと言われる所以となった戦いでもある。

 

 競走馬の方のサクラバクシンオーは先行策だったが、この世界のサクラバクシンオーさんはハナを奪っての逃げで圧勝。2着に突っ込んできたビコーペガサスさんに影すら踏ませないレコード勝ちであった。

 リモコンを渡されたバクシンオーさんは、どこか懐かしむような柔らかい目付きになった。彼女にとっても思い出深いレースだったに違いない。いつも騒がしいバクシンオーさんが僅かに無口になったかと思えば、彼女は照れ隠しをするように咳払いをした。

 

「……おっほん! トレーナーさんには『スプリンターとしての走り方について』『逃げをする際に気をつけていること』の2つを中心に話してほしいと言われているので、早速説明していきますよ!」

 

 バクシンオーさんが人差し指を立てると同時、モニター中のスプリンターズステークスが開幕する。すぐさま彼女はレーザーポインターを当て、説明を付け加えていく。メモを取ろうとペンを握り締めたが、その肝心の説明がどうも掴みにくく――

 

「まずレース序盤ですが、思いっきり走りましょう! バクシン的加速でハナを死守します! 短距離のレースはあっという間に終わりますからね!」

 

 バクシン的加速?

 …………なるほどね?

 

「おや、レース中盤になりましたね! 展開が落ち着いて少し油断が生まれそうですが、バクシン的気合で加速し続けましょう!」

「…………」

 

 ……というように、語彙がフィーリングに偏りすぎていたため私の理解が及ばなかった。わざわざ来てもらったのに、何も得ないまま終わる訳にはいかないぞ――耳をピンと立ててバクシンオーさんの話を聞いていると、レース映像が最終局面を迎えると同時、彼女の口から良い感じのキーワードが飛び出してきた。

 

「最終直線もバクシンです! 後ろは決して見ずに、初速を保ち続ける感じで走り抜けましょう!! 無理に速度を上げ下げしようとすると疲れてしまいますからね!! 最初から最後までトップスピードです!! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

「!」

 

 バクシン的加速、バクシン的気合はよく分からなかったが――具体的な言葉が出てこれば理解は容易い。つまりこういうことを言っているのだ。『レース序盤でつけた後続との距離を保って逃げて、ラストスパートを()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、その差が覆ることはない』――と。

 バクシンオーさんがスプリンターズステークスで実践していたのは、こういう逃げなのだ。逃げて差す――に似た前目のレース運び。ただ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()といったところか……。

 

 少し思案する。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その理由を私自身が導き出す必要があると思った。

 逃げて差すスタイルならスズカさんの方が余程(うま)い。そんなことはとみおも知っているはずだ。でも、彼は大逃げのスズカさんではなく、逃げ先行かつ短距離に強いバクシンオーさんを選んだ。それは何故か。

 ――もっとだ。もっと考えろ。とみおが用意した答えはそこにある。

 

「……バクシンオーさん、レース序盤からもう一度説明をお願いできますか?」

「もちろんです! 私は学級委員長ですから! 何度でも聞いてくださいね!」

 

 最初は少しバカにしていたけれど、中々どうして奥が深いではないか。私は乾燥した唇を舌先で舐めて、再度食い入るようにモニターを眺めた。

 映像を巻き戻してもらって、レース最序盤のゲートオープンの瞬間まで帰ってくる。スローモーションでの再生をお願いすると、バクシンオーさんはリモコン操作に手間取りながら、0.25倍速でレース映像を流し始めた。

 

「それじゃもう一度スタートから説明――」

「あ、はい! バクシンオーさん、スタートについて質問です! 映像ちょっと止めてもらっていいですか!」

「ちょわっ!? わ、分かりました!」

 

 ゲートオープン前後の映像。バクシンオーさんが停止に戸惑っている間にレースがスタートし、コマ送りのようにカクカクと進んでいく。スタートから0.5秒程が経過した時点で、バクシンオーさんとそれ以外の子達に差はない。むしろ大外のウマ娘がスタートダッシュに成功し、バクシンオーさんよりも前に出ているように見えた。

 しかし、次の瞬間――加速したサクラバクシンオーがハナを奪っていた。桃色の勝負服がハナを奪うと同時にレース映像が止まり、バクシンオーさんの双眸がこちらに向けられる。

 

 ――ここだ。

 ここに大逃げの私達とバクシンオーさんとの違いがある。

 

 まず、スズカさんや私はスタートが得意だ。ゲートオープンと一緒に先頭に踊り出し、レースをめちゃくちゃに荒らして逃げ切ってしまう。

 しかし、バクシンオーさんはどうだ。スタートは得意でも不得意でもない――まさに普通の部類に入る。それなのに、彼女は絶対にハナを奪うのだ。

 

 私は他の逃げウマ娘にハナを奪われたことがある。先頭を奪われなくても、先頭争いで起きたイザコザに巻き込まれて激しく消耗させられることが何度もあった。

 サクラバクシンオーさんには()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。意図的に先行策を取る時以外は、間違いなくハナを奪ってそのまま逃げ切り勝ちしてしまう。スタミナを温存せず、最初から全力全開で戦うスプリンターに囲まれているにも関わらず、だ。

 

 何が違う?

 ――加速力か? それとも絶対的なスピード? パワーや瞬発力? 足のバネ? 走法? 分からない。何もかも違うのかもしれないし、何も違わないのかも。聞いてみなければ分からないので、私は恐る恐るバクシンオーさんに質問を投げかける。

 

「――バクシンオーさんは、スタートが得意ですか?」

「普通だと思います!」

「では――どうして毎回ハナを奪えているんですか?」

「う〜ん! 難しい質問ですね!」

 

 バクシンオーさんはこめかみの辺りを捏ねくり回すような動作で考え込む。すると何を思ったのか、彼女は話の脱線を要求してきた。

 

「すぐに答えるのは厳しいので、少し変な話をしてもいいですか!?」

「え? あ、はい」

「トレーナーさんもよろしいですね!?」

「うん、いいよ」

「バクシンオーさん……変な話って何ですか?」

「つまらない身の上話なのですが、それが答えになると思いまして!」

「……?」

 

 意図は掴めないが……そこに答えがあるというのなら、私はその話を聞くまでだ。レーザーポインターの電源を忙しなく切り替えながら、バクシンオーさんはぽつりぽつりと己の過去を語り始めた。

 

「優秀な学級委員長たるもの、全ての生徒の模範にならなくてはいけないだろうということで……昔、長距離レースに挑戦しようと思ったことがあるんですよ!」

 

 バクシンオーさんが長距離レースに出たがって、ほんの数日だけだが長距離用のトレーニングメニューを組んでいたというのはそこそこ有名な話だ。同時に、バクシンオーさんのトレーナーさんが彼女を言いくるめたという話も。

 

「結局長距離レースに出ることはありませんでしたが、トレーニング中にトレーナーさんに言われたことがあるんですよ! 『君は長距離適性はないけれど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』――と!」

「……?」

「ということは、私の走りは()()()()()()()()()()()()()()()()()()、爆発的な加速力を強引に得ているということなんですね!! 実際、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!! スタミナとスピードは表裏一体なんですよ!! 多少の寄り道も無駄ではなかったということです!!」

「――!」

 

 ――盲点だった。スプリンターにもスタミナの概念があったんだ。てっきりステイヤーの専売特許だと思っていたが、良く考えればその通りじゃないか。

 そんな驚きを隠せない私に対して、バクシンオーさんは更なる追撃を行ってきた。

 

「纏めるとこういうことです!! 私達スプリンターが燃費の悪いスポーツカーだとすると、ステイヤーのみなさんは燃費の良いハイブリッドカー!! つまりアポロさんのトレーナーさんは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 ――その言葉を理解した瞬間、脳天を直接ぶん殴られたような衝撃があった。とみおの方に首を振ると、彼は何度も頷いて満面の笑みを見せていた。

 スプリンターの走りで長距離を駆け抜ける。確かにそれが実現できたなら無敵に違いない。

 

 でも、それってつまり、これまで以上にスタミナ消費量が増えてしまうということで――もっとスタミナトレーニングをしろってことかな?

 渋い顔をして耳を倒すと、私の内心を察したとみおからフォローが入る。

 

「ドバイが終わってからスタミナトレーニング漬けにしてきただろ。これ以上スタミナを鍛えても過剰なだけだって思ってたかもしれないけど、10000メートルを走れるまで君を鍛えてきたのはこれが理由だったんだよ」

「ええ!? 1万メートルも走れちゃうんですか!!?」

「でも、アポロは燃費の悪い走り方を知らない。そこはサクラバクシンオーに直接教えて貰う必要があるわけだな」

「……なるほど」

 

 私に短距離適性はない。だが、スプリンター特有の走り方は真似できるだろうということか。

 スタミナを過剰なレベルで燃焼し、圧倒的な速度のまま後続を突き放す。そしてレース終盤に入れば、上がり最速を披露して大差を保ったままゴールイン。今のスタミナバカな私なら確かにできるかもしれない。本当にスタミナが持てばの話だが……。

 

「サクラバクシンオー、ありがとう。ここからはトラックコースに出て、実践トレーニングと行こうか」

「は〜い」

「はい! 分かりました!」

 

 こうして私達はトレーナー室から出て、すっかり暖かくなったトラックコースに向かって歩き出した。

 

 ターフに出て準備運動を行うと、早速実践トレーニングが始まる。スプリンターもステイヤーも基本的なフォームは変わらないため、私が狙うのは『燃費の悪い走り方』の会得だ。

 しかし一概に『燃費の悪い走り方』と言っても、ステイヤー特有の『燃費の良い走り方』が染み付いた私がそれを実践するのは難しかったようで。

 

「違います!! まだ躊躇いがありますよアポロさん!! 無意識にブレーキをかけていませんか!?」

「そ、そんなことを言われましても……はぁ、はぁ、っ……全力のつもりなんですぅ……」

 

 ――何回やっても、()()()()()()()()()に落ち着いてしまっていた。これでも十分速いのだが、()()止まりならカイフタラさんや成長したスペシャルウィーク達に敗北してしまうだろうというライン。私のようなウマ娘が歴史的名馬に勝つためには、殻を破って無茶を通さねばならないのだ。

 

 原因を分析した結果……どうやら長距離を走ることに慣れすぎたせいで、全力疾走を謳っていたにも関わらず無意識のうちに速度をセーブしてしまうらしい。と言っても、長距離レースにおけるトップスピードは出ていたので――逆に言えばスプリンターのトップスピードが速すぎるというのもあるが。

 膝に手をついて呼吸を整えていると、タイム計測を行うとみおがこちらを見ているのが目に入る。

 

 ……今のままじゃダメなら、考え方を変えよう。火事場のバカ(ぢから)理論で限界を超えた力を引き出すのだ。

 ――例えば、ゴール地点のとみおが倒れた場面を想像してみる。そんなの、後先考えずに全速力でぶっ飛ばして、とみおを助けに行くに違いない。

 

 ……「俺」が主となって表にいた頃から、私は闘争心を恋心の燃焼によって埋める癖があった。「私」が主となった今でも、この理論は通用するのではないだろうか。

 本気で思い込んでやってみよう。彼を想う気持ちを利用して、()()()()()()()()()()()()()()()、無意識の壁をぶち壊すんだ。

 

「バクシンオーさん、もう一回お願いします」

「分かりました!」

 

 バクシンオーさんが手に持っていた旗を上げてとみおに合図を送る。瞬間、私は地面を蹴りつけて――最愛の人が地面に倒れていく光景を幻視した。

 妄想だと分かっていても、入れ込んだ幻覚は強烈な不快感と焦りを誘う。とみおがもし倒れて病院にでも運ばれたら、私はどんな気持ちで生活すればいいのだろう。それはきっと空虚で、苦痛なものになるはずだ。考えたくもない可能性の話をすればキリなどないが――今の私に爆発力を与えるキッカケとしては十分すぎるほどだった。

 

「――ぅ、お――」

 

 ――恋心を燃焼させる。どす黒いまでの炎が宿り、胸の中に燃えるような激情が爆発した。

 刹那、これまでの加速よりも一段階上の超加速が生まれる。顔を叩く暴風。暴れ狂うジャージの裾。遥か後方で何かを叫ぶサクラバクシンオーの声が遠い。逆に、500メートルは離れていたはずの彼が一瞬で近づいてくる。

 沸き立つ血肉。体感したことの無い超高速に躍る脳細胞。鍛え抜いた脹脛(ふくらはぎ)が獣のような凹凸を露わにして、未知の感覚に咆哮する。

 

 ――これが、スプリンターの世界なのか。

 

 快感に浸っていたかったが、あっという間にトレーナーの真横を走り抜け、絶頂は終わりを告げる。初めて草原を駆け抜けたような、えもいえぬ爽快感が胸に疼いていた。

 電撃のスプリント戦。何と心地よいことか。ゆっくりと減速しながら、満面の笑みでこちらに走ってくるバクシンオーさんとトレーナーを迎える。

 

「アポロ、タイム更新だ!! やったじゃないか!!」

「素晴らしい走りでしたよ!! これであなたはバクシン的ステイヤーです!!」

「バクシンオーさん、とみお……本当にありがとう! 私、何か掴めたかも!」

 

 たった数百メートルの疾走にも関わらず、心臓の高鳴りは止まることを知らない。燃費の悪い走り方のせいもあるが、この激しい心臓の鼓動は――未知の領域への期待と希望の現れでもあった。

 

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