ゆるふわ芦毛のクソかわウマ娘になってトレーナーを勘違いさせたい   作:へぶん99

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109話:今こそ目を覚ませ

 

 ――走る意味が分からなくなって、怖くなっちゃってるのかな。

 目の前には遥か過去の私がいて、キラキラと輝く目でテレビを見ている。そんな私の隣には「俺」がいて、2人で過去のアポロレインボウを眺めていた。

 

 ここは私の心の最深層。混ざり、溶け合った2人の人格が対話できる唯一の場所だ。

 「俺」は顎を撫でると、軽い調子でこう切り出した。

 

「俺のせいかもしれん」

 

 その言葉の意味するところは言うまでもない。私の夢の根幹が揺らいでいることだ。しかし、突然「俺」がやってきたことには驚いたものの、問題の原因は自分自身にあると私は何となく予感している。

 

「ううん……あなたのお陰で助かったこともあるし、これは私の問題だよ」

「いや〜、俺とお前の記憶がごちゃ混ぜになっちゃってるし、責任がないわけじゃないでしょ。俺の功績はとみおを見つけてきたことくらいだし、何ならジュニア級初っ端の戦績に泥を塗ったのは俺だし……」

 

 ……ジュニア級の4月、私は絶望の中にあった。トレセン学園に入ったはいいものの、入学当初から周囲のレベルの高さに打ちのめされ、早くも自信を喪失していた。授業はともかく、一緒に身体を動かす合同トレーニングの時間は最悪だ。周囲のウマ娘と嫌でも比較され、己の無力さを叩きつけられる。筆記試験の良さとスタミナの豊富さだけで入学してきた私にとって、レベルの高すぎるトレセンは地獄でしかなかった。

 3月末、お父さんお母さんに送り出されてトレセンの寮に来た。本格的に授業や合同トレーニングが始まった4月初旬、こうして私は己の勘違いを知ることになる。

 

 まず、同世代の子に優秀な子が多すぎた。スペシャルウィークに、キングヘイローに、エルコンドルパサーに、グラスワンダーに、セイウンスカイに――以下略。彼女達が比較対象でなくても、私の実力が平均的なウマ娘の能力にさえ及んでいないのは明らかだった。

 寮で同室になった子もそう言って嘆いていたが、彼女(グリ子)は私よりも才能があった。この世代で比較的手薄なスプリント路線の有力ウマ娘と呼ばれていたため、凡ウマ娘の私に対する当てつけか、気を使っていたのか、それとも本当にそう思っていたのかは定かじゃないが――とにかく彼女は気に入らなかった。

 

 入学してしばらくの間は個別のトレーナーがいないため、教官の下で合同トレーニングが行われている。トレセン学園のトレーニングに慣れさせつつ、ある程度の下地を作るためだとか。

 しかし、教官の指導を受けられる期間は長くない。そもそも教官のトレーニング方法は個人個人の長所を伸ばすのに不向きだった。そして、選抜レースはあっという間にやって来る。合同トレーニングでこれと言った成長が見られるウマ娘なんてほぼ皆無なため、選抜レースでは入学時そのままの実力差が反映されるだろう。有力なウマ娘と当たればもちろん勝ち目はないし、注目株のいないレースでも掲示板内に入るのがやっと……そんな分析の下、入学早々夜も眠れない日々が続いた。

 

 選抜レースの準備期間に入る前、教官の監視の下で模擬レースが行われることになった。結果は11人中11着。言い訳のできない完璧な惨敗に、私は苦しさと悔しさで顔を上げることができなくなった。

 最強ステイヤーになりたいという淡い夢を抱いてやってきたトレセンで、あわよくば、という希望さえ打ち砕かれてしまって――頭の片隅にトレセン学園を去っていくウマ娘の話を思い出す。そんな話、今までは遠い他人事だった。だって、自分の人生の主人公は自分だから。であれば、自分が物語の主人公にもなれるのではないかと期待してしまうのは当然だろう。

 

 でも、そうはならなかった。模擬レースでさえボロボロなのに、本番で大どんでん返しを起こせるはずがない。現実はあまりにも厳しく儚かった。

 私は物語の主人公にはなれないんだ、そこら辺にいる記憶にも残らない子で終わりなんだ。激しい後悔と屈辱と情けなさに襲われ、トレセンに馴染めないまま入学式から一週間が経過した。

 

 日本のトップウマ娘が集うトレセン学園で現実を思い知った私は、逆に吹っ切れてやろうと思った。凡ウマ娘が特別になるためには、普通の生活を送っていたらダメだ、と。

 少なくとも選抜レースまでは本気で頑張るんだ。足掻いて足掻いて、どうにかトレーナーとの契約まで漕ぎつけよう。ダメだったら――お父さんお母さんには謝ろう。

 そんな思いの中、私は門限ギリギリまで河原沿いを走る生活を続けた。そしてある日、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ……そこからは知っての通りだ。異世界(?)から、能天気なバカ()が来た。私の迷いとか、苦しみとか、明らかに足りてない肉体スペックとか、そういうのを全然気にしない変な人格が宿ってしまった。

 私の容姿を可愛いとか言って無限のモチベーションにするし、最初の頃は走り方すら知らなかったくせに何やかんやで選抜レースに勝っちゃうし、グリ子とかスペちゃん達と積極的にコミュニケーションを取り始めるし……ジュニア級の初めの頃、私に良い風を吹き込んでくれたのは「俺」のお陰だ。

 しかも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。曰く、競馬とゲームの知識があるから――記憶を共有しているけど未だによく分からない――何とかなったらしい。彼の前世は一般人だと知っているけど、モチベーションでこうも違いが出るのかと驚きの日々だった。

 

 昔の私は、どちらかと言えば内向的で暗い子だった。ただ、「俺」は明るくて後先考えるタイプではなかった。2人が完全に混ざり溶け合い、互いの良いところが出た新たな私が生まれたお陰で今の成功がある。

 ちなみに、2人の人格が混ざる前のジュニア級の最初の方は、私の肉体の主導権を「俺」が比較的強く握っていた。所謂“メス落ち”をしてからは――「俺」と混ざり合った結果、変な語彙と知識を共有してすっかり覚えてしまった――私と彼で6:4くらいの比率で身体を動かしている。精神が完全に溶け合ったため、上手く言えないけど大体そんな感じ。

 

 そして、2人の人格が合わさった結果生まれた歪みが、夢の根幹に対する揺らぎ。記憶と精神の歪な合体が生み出した欠落だ。

 もちろん「俺」を責める気は毛頭ない。とみおを見つけてきたのは彼の功績だし、私に常識破りの走り方を教えてくれたのも彼のおかげだし、今の私がいるのは「俺」のおかげだから。

 

 「俺」は後頭部で腕を組むと、小さなアポロレインボウの頭を撫でた。小さな私は目を細めて、気持ち良さそうに口元を綻ばせている。

 

「う〜ん、何がいけないのかねぇ。兆候自体はステイヤーズステークスの頃からあったわけだし……解決策が見つけられてないのが悔しいよ。何とかできねぇかな?」

「……こればっかりは、『私』の問題。あなたには悪いけど、力になれることはない……かもしれない」

「とみおに相談するのはダメなのか?」

「う〜ん……とみおを困らせちゃうだけで、解決策が出てくるとは思えないなぁ」

「マジか〜。俺達のトレーナーなんだから、頼るべきだと思うんだけどな〜」

「……人に話して解決するような単純な問題じゃなくて……とにかく難しいの」

 

 この問題は、私も()()()()()()()()()()()()()()()()()()ため、相談しても彼を困らせるだけだというのは分かり切っていた。そもそもテレビの中のレースがどんなレースだったか覚えていないし、勝ったウマ娘の顔も分からないし、そもそもあれが現実だったかどうかも定かではないのだ。

 そんな記憶の断片をとみおに話したところで、絶賛デスマーチ中の彼の心労を増やすだけだろう。「俺」は、「とみおは俺達のトレーナーなんだから、子供のお前はどんどん迷惑をかけるべき」という思考のようだが……。

 

「でもやっぱり、俺にも原因があるような気がするんだわ」

「……それはどうして?」

「昔、俺がスポーツ選手とかゲーム制作者になりたかったってのは知ってるかもだけど……普通に学校を卒業して、普通に一般企業に入社して、普通に仕事してるうちに、夢を追いかける自分と現実の自分で人格が分離してた気がするんだよな。それがお前に変な影響を与えるんじゃないかなぁ。上手く言えないけど」

 

 「俺」は夢を諦めて、現実を生きていた。しかし、心のどこかで「俺はこんな会社で燻っているような人間じゃない」「()()()()が本気を出せば、サッカー選手だってゲームクリエイターにだってなれるんだ」「俺には誰も知らない秘められた才能がある」と考えていた。

 そう考えることで辛い現実に耐えている、という側面もあるが……「俺」はその思い込みが少し強かったのかもしれない。()()()()()()()()()()、何もかもを夢へと飛躍させる。上手くいきそうもないことから目を逸らすために。

 

 そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その結果、アポロレインボウの夢の根幹が欠落した。それが今の問題の全貌であると彼は考察する。

 

「モヤモヤが生まれちまったのは、確か菊花賞を勝ってヨーロッパに目を向け始めてからだ。そこで俺達はヨーロッパ平地長距離路線の現実を見て……夢と現実の乖離に気づいちまったんじゃないか」

「あ〜……なるほど」

「お前は()()()()()()()()()()()()()()()があると思ってた。でも、日本の白熱がちょっとおかしすぎただけで……向こうの人気は普通もしくは多少及ばない程度。日本が当たり前だと思ってたお前はびっくりして、そして俺の良くないところが出まくって……こうなっちまった。納得いくだろ?」

 

 私が日本を代表するウマ娘になれたのは、私達の個性と長所が上手いことマッチしたからだ。特にTS願望の叶った彼のモチベーションは凄まじく、持ち前のど根性は「俺」から貰ったものと言っても過言ではない。

 「俺」の爆発力は凄まじかった。ウマ娘プリティダービーというゲームを経験していたらしい彼は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――異常とも言える努力と根性で私を支えてくれた。辛いトレーニングで下がるはずのモチベーションは私の容姿で補い、ついでにトレーナーとの触れ合いで燃え盛る私の恋心を燃料にして、友人達とのコミュニケーションを普通に楽しみつつ、ヒトだった頃には味わえなかった()()()()()()()()()()()()()()()()トゥインクル・シリーズを貪欲に味わうという――控えめに言って異常者のような積極性が彼を動かしていた。

 

 しかし、「俺」は現実の欧州競馬を知ってしまっていた。菊花賞を勝ち、私がヨーロッパに目を向けた時、「あぁ、やっぱり人気が低迷してるんだな」と思って精神状態に翳りが生まれたのは、あまりにも不運だと言えよう。

 心の問題に対する結論が出て、「俺」は本当に申し訳なさそうにしていたが、私はこれっぽっちも彼を責める気にはならなかった。むしろ、これは()()()()()()()()()()()()だと思った。

 

「競走馬の魂の代わりに一般人の魂受け継ぐとか、割と罰ゲームだと思うんだけど。許してくれるのか?」

「よく分かんないけど、いいよ。今まであなたに頼りっきりだったから、これはきっと三女神様がくれた試練なんだ。この障壁を取り払えば、私はもっと成長できると思う」

「……お前も十分強えよ。結論も出たことだし、俺は引っ込むとするぜ」

 

 そう言って消えていく「俺」。私はそんな彼の肩を掴んで引き止めると、前々から聞きたかったことを尋ねてみることにした。

 

「ひとつ聞いていい?」

「何だ?」

「そもそも、何でとみおを選んだの?」

「一目惚れだよ。めっちゃ良い奴っぽかったから即決……って、お前も知ってるだろ?」

「…………」

「いやいやいや、良いじゃん。ステイヤーを育てる気満々で、俺達と契約してくれそうなトレーナー。条件ピッタリだったじゃねえか」

「それもそうか……」

「しかしお前、とみおのこと信じられないくらい大好きになっちゃったよな〜。いや俺もとみおは好きだよ? でもお前の愛、俺から言わせりゃちょっと重すぎかも」

「は、はぁ!? あなただって彼にベタ惚れじゃない!」

「黙れ! 俺は相棒としてアイツが好きなの。ラブじゃなくてライク。ラブなアポロさん、お分かりかな?」

「うるさいうるさい! さっさと消えて!」

「その慌てようウケるわ。とみおとキスしたら死んじゃうんじゃない?」

「と、とみおとキキキ……!!??」

「…………」

 

 顔を真っ赤にしてとみおとキスする場面を思い浮かべると、身体が沸騰するように熱くなる。頬に手を当ててうっとりして、でもいざそうなったら目を開けられないくらい恥ずかしくなっちゃうと思って、首を振ったり頭を抱えたりして滅茶苦茶な行動をしてしまう。

 「俺」は肩を竦めた後、気持ちの悪い笑みを浮かべながら小さなアポロレインボウを撫で始めた。彼女は無垢な瞳で「俺」と私を交互に見て、少しだけ首を傾げた。

 

「お前、おっきくなったらあんな恋愛クソザコウマ娘になっちゃうんだぞ。よく見とけよ〜」

「そうなの〜?」

「そうだぞ〜」

「わ〜い! わたしも、れんあいくそざこウマ娘になる!」

「ほ、ほんとにうるさいから! 私忘れてないよ!? あなたがとみおに対して割とガチな照れ方してたこと! あなたも大概恋愛に奥手じゃない!」

「黙れ」

「黙れって何よ!」

「都合の悪いことは聞きたくない」

「堂々と自分勝手なこと言わないでよ……」

 

 「俺」が頭を撫で続けていると、小さな私はすっかり眠りに落ちてしまった。傍に寄って彼女に膝枕をして、2人一緒に彼女の背中を優しく叩く。

 私と彼の間には、肉体や精神を共有したことにより奇妙な友情が生まれていた。お互いの強みと弱みを隠すことなく曝け出し、同じ目標に向かって切磋琢磨する仲だ。生まれた世界も年齢も何もかもが違うが、2人の心は驚くほどの親和性を持っていた。

 

 小さな私が眠ったのを確認すると、私はとみおのことを考えて溜め息を吐く。

 

「……はぁ。とみお、私のこと好きなのかなぁ」

「アレは好きだろ。つーか、この外見で『あなたのこと好きです』オーラ全開の女の子がいたら、世界中の男は間違いなくお前に惚れてる」

「そうなのかな……」

「そうだ。アポロレインボウは俺の永遠とか言ってたし、流石にな」

「じゃ、告白したらオッケーしてくれるかな」

「あ〜、それは無理だな」

「どうして?」

「とみおが大人だからさ。お前のことを()()()()()()()()だときっちり認識してるし、若干怪しいところもあるけどラインは超えてこない。お前は子供で、とみおは保護者。卒業するまではこの距離感をキープだろうな」

「……卒業したら、一緒になれる?」

「分かんねえ。絶対俺達のこと好きだと思うけど、とみおはマジでその辺しっかりしてるからな〜。大人になるまで我慢だ我慢」

「……大人になるまで……か」

「おいおい! お前なんだその寂しそうな顔! お前、マジでとみおのこと好きすぎだろ!!」

「……うざ。……あ」

「おっ?」

 

 私達に頭を撫でられていた小さなアポロレインボウが、大きなウマ耳を立てて突然目を覚ます。そしてテレビをほっぽり出したまま「ママパパ、待って!」と言いながらどこかに消えていった。彼女の髪を撫でていた「俺」は名残惜しそうに手を下ろすと、寂しそうな表情をしながら立ち上がった。

 

「何かこう、あれくらいの子供を見ると色々と考えさせられるな」

「……子供の頃に戻りたいとか思っちゃう?」

「いや? それとこれとは別だな」

「子供の頃の失敗とか後悔とか、やり直したいと思わないの?」

「ふふ、成功も失敗も全部いい思い出さ」

「…………」

 

 そう言って「俺」は消え、私の心の中に溶けていった。

 夢の根幹への解決策は分からなかったが、現状の整理はできた。私には頼れるトレーナーや友達がいる。先輩にも知人にも恵まれている。我武者羅に走っていれば、全て分かる日が来るのだろうか。

 

 ゆっくりと瞳を閉じ、意識を現実に浮上させていく――

 

 

 

「……アポロ。アポロ」

 

 自分の名前を呼ぶ優しい声に、私は顔を上げた。すっぽりと身体を覆う温もりとほのかな香りは、他の誰でもないカイフタラさんのものだった。もう少し寝ていたいと思って再び彼女の胸に顔を埋めるが、(さざなみ)のように揺れる森の音で現実に戻ってくる。

 あれからどうなった? 何か大切な夢を見ていた気がする。カイフタラさんの心象風景に包まれて、自分自身の心の奥深くまで入り込んで――

 

 もしかして私、カイフタラさんの胸の中で寝てしまっていたのだろうか。申し訳なく思うと当時、とてつもない恥ずかしさが込み上げてくる。

 

「ここは……」

「シャンティイの森だ」

「もしかしなくても、あのまま寝ちゃってましたよね」

「その通りだ」

「ご、ごめんなさいカイフタラさん……」

「気にするな」

 

 目を伏せて恥に耐え忍んでいると、カイフタラさんが目の縁に溜まった涙を拭ってくれた。「お前は涙よりも汗とか涎の方が似合う」という褒め言葉か貶し言葉なのか分からないセリフを掛けてくれつつ、彼女はターフに下ろした腰を持ち上げる。

 

「余程思い詰めていたようだな」

「お恥ずかしいことで……」

「……いや。少し前まで、オレ以外の能天気な奴らには悩みなんて無いものかと思っていた。だが、どうやらそんなことは無いらしい。誰もが皆大なり小なり悩みを抱えているんだな」

「…………」

「しかも、お前はとびきり大きな悩みを持っていると見た。きっと誰にも言えない悩みだったんだろ?」

 

 カイフタラさんに引っ張り上げられると、彼女の黄金の瞳と肉薄する。どうやら寮の門限を超えて私が目覚めるまで寄り添ってくれていたらしく、彼女に引き上げられたままの姿勢でデバイスの画面を点灯させると、鈍い光の中に『23:41』という数字が表示された。

 目が飛び出しそうになる。とてつもない門限違反だ。メッセージアプリの通知欄がとんでもないことになっていたので思わずタップすると、エルちゃんやエンゼリーちゃんが「コワイ! アレフランスさんがブチ切れてます!!」「アポロちゃん、カイフタラさんがどこに行ったか知ってる!!???」と阿鼻叫喚の様子であった。私のメッセージアプリを覗き見していたカイフタラさんと目が合い、お互いにぷっと吹き出すと、夜闇の森に2つの笑い声が響いた。

 カイフタラさんが居てくれれば、どれだけこっぴどく怒られようとも怖くないと思った。

 

「アポロ。寝ている間に表情が晴れやかになったな」

「カイフタラさんのおかげですよ」

「……それは素直に嬉しいんだが、ヨークシャーカップは大丈夫そうか? もし難しいようなら――」

「いえ、大丈夫です。私、ウマ娘ですから……()()()()()()()()!」

「……そうか。なら、ヨークシャーカップには自力で勝て。次に戦う時、オレが直々に()()()()()()姿()を思い知らせてやる。ヨーロッパのステイヤーの意地と誇りは未だに死んでいないと――その身をもって知るがいい」

 

 ――なんてカイフタラさんはカッコつけていたが、アレフランスさんにガチ説教されて泣きべそをかいていた。「夜中の森に立ち入るとは何事ですか〜?」「しかも門限を大幅に超えて……言い訳を聞いてもいいですかぁ?」と責められた結果、普段の凛々しい顔がしょんぼりとした泣き顔になっていて、不覚にも可愛いところがあるんだなと思わされた。

 もちろん私もしゃくり上げるくらい泣かされた。夜の森は危険だから、これだけブチ切れられても仕方ないね。

 

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