ゆるふわ芦毛のクソかわウマ娘になってトレーナーを勘違いさせたい 作:へぶん99
超越的な感覚に身を委ねながら、光の中のゴール板を駆け抜ける。本能的にレースの終わりを認識すると、全身の力が抜けていった。減速して気が抜けるではなく、全ての力を出し切ったために起こる減速。全てのスタミナを2800メートルの全力疾走に注ぎ込み、もはや減速のためのランニングすら苦しかった。
しかし、急に運動を止めると怪我の危険がある。基本に忠実に、そして怪我には細心の注意を。とみおに口酸っぱく言われてきたことだ。長い減速期間を経てスタンド前で停止すると、私は最前列で満面の笑みを浮かべるトレーナーの姿を見つけた。
――アポロ、最高だったぞ。
地響きのような歓声と拍手の中、私は確かに彼の声を聞いた。本来であれば聞こえるはずのない声。しかし、私がどこに居ようとも、あの人の声はちゃんと届いてしまう。そういう風になっている。目が合い、軽く頷き合う。私は
私が勝鬨を上げると、満員の観客席から絶え間ない拍手と地鳴りのような大歓声が巻き起こる。胸の奥から湧き上がる熱。疲労はどこへやら、自然と溢れる笑顔。ふと視線を下に向けると、胸の辺りで張ったゼッケンが深く上下していることに気付いた。
私は今、生きている。そして今ここに居る。
夢を追って欧州にやって来て、しかも重賞レースで勝利することができたのだ。これ以上のことはない。まるで夢みたいだ。……でも、夢じゃない。あの人と一緒に、現実をここまで
――ありがとう。大好きだよ。
私は
まぁ、かくいう私も柵が無かったら多分とみおに抱き着いていただろう。それくらい私も感極まっていて、数回の瞬きの後、私は笑顔のまま涙を流してしまった。と言っても、しゃくり上げるような嗚咽ではなく、一筋の涙が頬を伝った程度だったけれど。
『おっと、アポロレインボウの頬にきらりと光るものが流れました! 感極まって泣いているのでしょうか、何とも美しい涙です! 大差でゴールしてきたウマ娘達も、これは参ったとばかりに惜しみない拍手を送っています!』
『いや〜、彼女は何をしても絵になりますねぇ……しかし鬼気迫るレースぶりとは違って、こういうところはまさしく歳相応の女の子の表情ですよね。……何と言いますか、レース中は何かが憑いてるんじゃないかと思ってしまいますよ……』
額や頬に張り付いた芦毛を指先で払いながら、私はスタンド前のパドックに向かった。ヨークレース場にウィナーズサークルは存在せず、四角形のパドックがそのままウィナーズサークルとして使われるのである。
私の息が整ったのを見計らって、1分程度の勝利ウマ娘インタビューが始まる。アナウンサーらしき女性は目を爛々と光らせており、私の走りで誰かを魅了できたのだと嬉しく思った。
「アポロレインボウさん、おめでとうございます! 素晴らしい走りでしたね! 応援してくれたファンの皆さんに何か一言お願いします!」
「え〜……たくさんの応援ありがとうございます! 色々と不安はあったんですけど、最高のパフォーマンスを発揮できて良かったです!」
そんなインタビューの中、視界の端でルモスさんが例のアグネスさんのように絶叫し、ダブルトリガーさんは拳を握り締めていた。特にルモスさんの喜びように関しては憧れの人にレースを見てもらったこと以上に嬉しく思える。運命的レベルの何かを感じながら、私は偉大な先輩方に向かって軽く手を振った。
「うおぉぉおおおおん!! やったねアポロぉぉおおお!!」
「アポロのヤツ――
「やっぱり弱点克服しちゃったのかぁ! どうやって勝てばいいんだろうねぇ!?」
「怪物の誕生ですね」
インタビューに受け答えしていたため細かいところは聞き取れなかったが、ルモスさん達からしてもこのレースは強烈な印象を与えたようだ。こうしてインタビューが終わると、私はウイニングライブのために控え室に向かう。関係者用の通路に立ち入ると、先程の様子とは打って変わり、静かでひんやりと冷えた空気が私を包む。
戦いの場から日常に戻ってきたのだ。ゆっくりと控え室に向かう途中で、腕時計を眺めて居心地悪そうに佇むとみおを見つけた。彼は私の姿を確認すると、ほっとひと息ついて表情を柔らかくした。
「ただいま!」
「おかえりアポロ、頑張ったね。怪我はない?」
「全然!」
「違和感のある箇所とかない?」
「心配しすぎだって」
たくさん褒めて欲しくて彼の元に駆け寄ると、彼は私の足元をじろじろと眺め始めた。脚じゃなくて顔を見てほしいのに……と思いながら、無事を伝えるために爪先で地面をトントンと叩いてみる。その行動を見て彼も納得したのか、それ以上追及してくることはなかった。
特にウマ娘に関しては身体が資本だ。こういった場面で嘘をついても不利益を被るだけだとお互い知ってるからね。
改めて控え室に向かって歩き出す私ととみお。私の疲れを知ってか、普段よりも歩くペースはゆっくりとしていた。
「これで海外レース初勝利だね!」
「あぁ。ここから更に調子を上げられるような調整をして、G1のゴールドカップに挑もう。このパフォーマンスが出来るなら、エンゼリーやカイフタラが相手でも十分勝ち目はある」
「……うん、そうだね。私、1ヶ月後のゴールドカップも絶対に勝ちたい。これまで以上にトレーニングを頑張らなくちゃいけないね」
「ある意味いつも通りだな」
「んへへ」
私の切り口は「海外重賞を初勝利しておめでたい!」という感じだったのだけど、とみおは早くも次なるレース・G1ゴールドカップを見据えているようだった。もっと喜んでも良いのに〜と思わないでもないが、エンゼリーちゃんとカイフタラさんの名前が出てきたためか、私の気が急に引き締まった。
そうだ。浮かれすぎるな。油断するな。この勝利で勝ち取ったのは、ステイヤーズミリオン完全制覇への
クラシック級という縛りこそないが、ステイヤーズミリオンを達成するのは容易ではない。特に要求される距離適性で言えば、ある意味クラシック三冠やトリプルティアラに準ずるレベルで厳しいものになっているのは間違いない。
世界中どこを見ても、ここまで過酷な距離適性を必要とする偉業は他にないだろう。割と広めな距離適性を要求される日本クラシック三冠路線だって、2000〜3000メートルという1000メートルの範囲内に収まっているのだから。
それが、ステイヤーズミリオンでは最大で2700〜4000メートル、つまり1300メートルもの広い
3200メートルなら何とかスタミナは持つけど、4000メートルにもなるとスタミナ切れを起こしてしまう……というウマ娘は少なくないだろう。そういった心肺機能の極限に迫ろうとするものが、ステイヤーズミリオンなのである。
そういうわけで、今日の勝利を喜ぶにしても必要以上に喜びすぎるのはちょっと危険だ。例えば、1週間くらい自慢し続ける的なのはもうね……まぁ、それは周りからしてもウザすぎるし論外か。何事にも切り替えというものは必要である。
控え室に到着してスポーツドリンクを
「このレースに勝ったら、君のトレーナーとデートする予定なんだ」
「積極性が足りないからトレーナーに振り向いて貰えないんだ。このレースが終われば……君は全てを思い知ることになるだろうね」
――今思い出しても腸が煮えくり返りそうになるような言葉だ。十中八九、レース前の私を動揺させるための嘘なのだが……ほんの0.01パーセントの
「……ひとつ、聞きたいことがあるんだけど」
「何?」
「この後チーフさんとデートする予定とか……あったりしたの?」
「……え? 何のこと?」
「あ〜……いや、何でもない。ゲート入り前、チーフさんに変なこと言われちゃってさ」
ですよね〜。そりゃ、とみおとチーフズグライダーさんの接点なんてほとんどないし。あったとしても、ドバイワールドカップでちょっと話すかどうかというレベルだ。とみおはそもそも、アポロちゃん以外に興味なんてないだろうしね。なんちゃって。
「道理で変に動揺してたのか。あの時はてっきり、足元に違和感が出たのかと思って心配したんだが……」
「ま、大したことじゃないよ。そういう作戦に引っかかりかけたってだけ」
「はは、他のウマ娘のことは考えられないな。俺には君しかいないから」
「んにゃっ」
…………は〜〜〜〜、出た出た出た出た。こういうところ、ほんとさぁ。何なのこの人? 私が言って欲しいこと全部言ってくれちゃうじゃん。バカ。ほんとバカ。大好き。あほ。ちょろ過ぎて自分が嫌になる。
「そっ……そ、そ、そういうこと言えば私が喜ぶとでも思った?」
なんて言いながら、尻尾も耳も激しく跳ねている。尻尾はぶんぶん、耳はぴこぴこ。抑えられない。トレーナーとは長い付き合いなので、間違いなくバレている。逆にここまでバレバレなんだから、ワザとこういうことを言って私の反応を楽しんでいるのでは? と思わないでもない。
とみおは何も言わずにニコニコと笑っていた。つまり、そういうことを言えば私が喜ぶと思ったらしい。尻尾や耳の動きだけじゃなく、内心もバレバレらしい。私は彼の気持ちの移ろいが分からないのに……一方的で不公平だ。ずるい。私もあなたの気持ちを知りたいよ。
「むぅ……とみおってさ、ポーカーフェイスが得意だよね」
「そうかな?」
「そうだよ」
「意識したことなかったな」
「え〜、うそ! こういう時、ずっと笑ってるだけじゃん!」
「アポロと話してると本当に楽しいからじゃない?」
「ふぇっ」
「その気持ちを偽ったことはないし、何なら今も楽しいよ」
「ちょ、ちょっ――」
――まずい。この男、私に対する火力が高すぎる。全部ぜんぶ、私の剥き出しの弱点を攻撃してくる。いや、攻撃というよりは、幸福感と心地良さで柔らかく包み込んでくれる感じ。もどかしくて、くすぐったくて、トレーニングで感じるような苦痛とは全く違う感覚が身体中を支配するのだ。
こういう
……とにかくヤバい。これ以上口撃による立場逆転を狙っても押し負ける。こんな経験は初めてだ。……惚れた弱み、というやつなのだろうか。本人からすれば軽口に過ぎないのかもしれないが、乙女心というものを考えて欲しいものである。
「……あ、あにょ、そろそろライブのために着替えるので……」
「あ、そうか。ライブもあるんだった。出ていくよ」
「う、うん……」
「歌やダンスもちゃんと練習してきたからな。アポロなら大丈夫だよ」
そう言い残してとみおは控え室から出て行った。私は深い深い溜め息を吐いて、鏡の前に座り込む。
そこに写っているのは、薄桜色の芦毛を真っ赤に染め上げた自分の姿。耳はふにゃふにゃと倒れ込み、茹で上がったような赤色に変わっていた。尻尾は扇風機みたいに回っていて、顔は風邪を引いた時よりも燃え上がっている。
精神を削ったレースの後に
……こら、うっとりするんじゃない! 平常心、平常心。良い感じの笑顔を取り繕え。この後ライブで私の姿が全世界に中継されるんだから、こんな情けないニヤけ顔を晒すわけにはいかないよ。私がトレーナーのことを好きだって、あんまりバレたくないし……。
「すぅ……ふぅ……」
何とか呼吸を整えた後、私はゼッケンと体操服を脱いでライブ専用の汎用衣装に身を包んだ。このレースはG2だったので、G1のみ着用を許されている勝負服でライブを行うことは許されていない。しかしファンの中には、「汎用衣装だからこそライブで統一感が出るし、脳内でユニットを組めるから汎用衣装の方が好き」という声もある。
そんなライブ汎用衣装は国ごとに多少デザインが異なっており、ヨーロッパ内でもほんの僅かにお国柄の違いが出ている。例えばこの地イギリスでは、汎用衣装のデザインが若干お上品な感じで作られている。裾が長かったり、ショートパンツではなくワイドレッグの折り重ね式ショートパンツになっていたり、節々により清楚さが見受けられるのが特徴である。
汎用衣装を着用し終わると同時、扉の向こうからルモスさんの声がした。
「アポロ、入っていい? ダブルトリガーとイェーツもいるけど」
「いいですよ〜!」
「それじゃ、失礼して……」
扉が開かれると、ルモスさん、ダブルトリガーさん、イェーツちゃんが続々と控え室に入ってくる。着替えが終わったのを察したのか、とみおも部屋の中に入ってきて後ろ手に扉を閉めていた。
汎用衣装に身を包んだ私を見ると、ルモスさんは目をハート型にしながら両手を重ね合せてきた。「本物の姫君と見間違えたよ」とナチュラルに口説いてくる始末である。
しかしすぐに神妙な顔つきになると、ルモスさんとダブルトリガーさんは怪我の心配をしてくれた。ヨーロッパでは珍しい高速の決着になったからであろうか。私は全然大丈夫だと思っているのだが、一応レース後の精密検査の結果を報告することにしよう。
その後しばしの雑談をした後、ライブの時間が迫ってきているということで3人は控え室から出て行くことになった。「もっとお話したかったよ〜」「仕方ないでしょう。むしろ彼女が我々にここまで好意的なことに感謝するべきですよ」などと会話しながら控え室から出ていくルモスさんとダブルトリガーさん。
最後に控え室から出ていこうとしたイェーツちゃんが、やけに潤んだ目でこちらを見ているのが気になって、ふと呼び止めてみる。
「どうしたの、イェーツちゃん」
「あ、いえっ……そのっ」
「慌てないでいいよ。ゆっくり言ってみてごらん?」
私は彼女の前に跪いて、柔らかい笑みを浮かべてみせる。すると、イェーツちゃんは意を決したように両目を開いた。
「あ、あの。レース本当に凄かったです! 本当にかっこよくて、
「――――……」
「レースを見て分かりました!! わたし、アポロさんみたいな強くてかっこいいウマ娘になりたかったんです!! だから、だから――」
「――うん」
「そのっ、これからも応援してます!!
――どうしてカイフタラさんではなく私を選んだのか。それは彼女にしか分からないが、このレースの派手な勝ち方を見て私の虜になってくれたのだろう。聞くのは野暮だ。
だから、私は深く頷いて――額の辺りにある流星を優しく撫でた。
「ありがとう、イェーツちゃん。私、勝つよ。最強ステイヤーになるために」
「――はいっ!!」
彼女はくすぐったそうに身を竦めた後、飛び跳ねながらルモスさん達の元へと帰っていった。
私はイェーツちゃんに手を振った後、扉が閉まったのを確認して少し考え込む。
「……なんか、不思議な感じ」
「?」
「私、今まで憧れる側だったんだよね。でもイェーツちゃんにあんなことを言われて、急にこう……上手く言えないんだけど、すっごい嬉しくなっちゃってさ」
「…………」
そう……私は今まで憧れられる側のウマ娘ではなかった。ルモスさんのような偉大なウマ娘に憧れる存在でしかなかったのだ。夢の根幹を見失って彷徨い続け、喉に引っかかる小骨のような違和感を残し続けていたのも、多分そこら辺に起因するものだ。憧れを追いかけるあまり自分を見失うという悪循環に陥っていたのかもしれない。
それが、イェーツちゃんにはっきりと言われた。あなたは私の夢です、と。嬉しい意味で複雑な心境であった。今まで一心不乱に走り続けていただけなのに、私のようなウマ娘でも、誰かの夢を背負って走れるような存在になれたのだ――と。
実感こそ湧かなかったが、とにかく嬉しかった。本当の自分が見つかった気がした。イェーツちゃんの言葉が心に染み渡っていき、胸が暖かくなったような感覚がした。
「……アポロ。君が初めて夢を抱いた時、誰に憧れたか。今の君はもう思い出せたのかい?」
「うん。もう夢に迷いはないよ」
「そうか。……良かった」
「……そろそろライブだから、私行くね! 観客席でしっかり見ててよね!」
「おう。ちゃんと見てるからな」
私はスタッフさんの背中について行くように、ヨークレース場の屋外ステージに向かった。ステージの裏には汎用衣装を着たウマ娘が複数人おり、私はその中に混ざるようにして飛び込んだ。
曲は日本のウイニングライブと変わっているし、歌詞はもちろん英語である。英語を話すのと歌うのでは勝手が全然違ったけど、多分大丈夫だ。ダンスも歌も頑張ってきたんだから。
私達の出番がやってくると、日の落ちたヨークレース場に再び熱が宿る。白のサイリウムが振られ、レーザービームが空の彼方まで飛んでいく。すかさずステージ上に照明が注がれ、私達の姿が明らかになった。ワッと声が上がると同時にロックな音楽が流れ、いよいよライブが始まった。
舞台の中央に立った私はリズムに合わせてステップを踏み、歌詞と曲調に沿って歌声をマイクに乗せる。『視線ちょうだい!』と書かれた団扇を持ったファンに向けてウインクをしたり、振り付けの途中で手を振ってみたりして、日本代表のウマ娘として恥じないファンサービスを披露する。
ライブ会場は割れんばかりに揺れ、サビに向けて段々とボルテージが上がっていく。
そんなライブの大歓声の中、私はレース前に至った無我の境地の記憶を探っていた。イェーツちゃんに言われたことが、過去の自分と重なったような気がしたからだ。
記憶の奥深く、テレビの中のウマ娘の言葉がノイズ混じりに再生される。
『この最高の舞台で最高のライバル達と戦えて、私は――』
――途切れ途切れの言葉。しかし、私の心をレースの世界に向かわせた決定的な言葉だ。最高の舞台で最高のライバル達と戦いたいという純粋な願いを抱いたのは、この言葉のせいなのだ。レース直前にそれを思い出した瞬間、これまで感じたことのないレベルの大きな衝撃を受けた。精神力が爆発し、力が四肢に流れていき――夢の中で彷徨う己の心に熱が宿った。
記憶の着火剤は
そして、ここにもうひとつの偶然があった。それは――ルモスさん達が仕組んだ
日本のトゥインクル・シリーズの歴史に残る三強対決と言えば――今では伝説扱いされている『TTG』がある。
――私の夢は、彼女達から貰ったものだったのである。
トウショウボーイ。天のウマ娘と呼ばれ、最強のライバル達と激闘を繰り広げてきたあなたに私は憧れたのだ。
テンポイント。あなたの勝利した有馬記念が与えてくれたあの感動と興奮こそが、私の根幹で燃えていたのだ。
グリーングラス。2人が去った後、一線で戦い続けたあなたの背中を私は見ていた。歴代屈指のステイヤーとして走り続けたあなたに感銘を受けたのだ。
トウショウボーイに憧れ、テンポイントに涙し、グリーングラスに思いを馳せた。私がトゥインクル・シリーズに憧れたきっかけは、彼女達が与えてくれたのだ。
お母さん、トウショウボーイ!
すごいわね。
うん、かっこいい! 私もなれるかな?
ええ、きっとなれるわよ。
私もトウショウボーイみたいに、キラキラしたウマ娘になる!
お母さんと交わした他愛のない会話を思い出して、私の頬は少し緩んだ。今の私は、トウショウボーイさんとは似ても似つかぬステイヤーになってしまったなぁ。彼女のような偉大なウマ娘になりたかったのは本当だけど、TTGから貰った夢を育んでいるうちに、自分の得意分野と噛み合った『最強ステイヤーになりたい』という
だから、私に夢を見てくれているイェーツちゃんだが、彼女自身の夢は何であってもいい。最強ステイヤーであっても、最強スプリンターでも、最強マイラーでも、何でも良いのだ。
誰かに夢を見て、憧れて、努力して。
そして夢の舞台に立った時、そんな自分を見て誰かが夢を感じてくれたら良い。ただ、それだけなのだ。
……もしかして、マルゼンさんが妙に気にかけてくれたのは、TTGの人達と同世代だったからなのかな?
細かいことは分からないけれど、今日の私が色んな人の夢の上に成り立っているのは確か。誰かから受け継いだ夢を自分の夢に昇華させ、今を全力で走り続けている。
――ウイニングライブは、ファンやウマ娘を支えてくれる人々に感謝を伝える場でもある。
視界の端にとみおやルモスさん、ダブルトリガーさんやイェーツちゃんを見つけて、私は大きく手を振った。
私をずっと支えてくれたトレーナー。
ヨーロッパの長距離路線で鮮烈な輝きを放った2年連続の三冠ウマ娘。
公私共に私を支えてくれる偉大な先輩。
そして――私に夢を見てくれている、小さなウマ娘。
全てのひとに感謝を。ありがとうって言葉じゃ足りないけれど、それでも言わないと伝わらないから。
「みんな、ありがとう――!」
ライブ曲が終わると同時に、私はみんなに向かって感謝の言葉を口にした。鼓膜をびりびりと揺らす大歓声が返ってきて、思わず白い歯が零れた。
過酷な距離適性を必要とする偉業……え? イギリスクラシック三冠? 知らない子ですね……
イギリスクラシック三冠
イギリス2000ギニー(約1609m、直線)
イギリスダービー(約2423m)
イギリスセントレジャー(約2932m)
マイルから長距離まで、およそ1400メートルのギャップあり
達成した馬はゲインズボロー、ニジンスキーなど15頭。なお戦後の達成はニジンスキーのみ
【?報】マルゼンスキーのパパ、やっぱり強すぎる……
TTGって何だよという人は、とっても強い3人のウマ娘がいたんだよ〜っていう理解で全く問題ありません