ゆるふわ芦毛のクソかわウマ娘になってトレーナーを勘違いさせたい   作:へぶん99

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114話:更なる栄光へ!

 5月4週、G2・ヨークシャーカップを制してから1週間が経った5月5週目。すっかり疲れが癒えて元気を取り戻した私は、とみおによる厳しいトレーニングに励んでいた。

 ヨークシャーカップを制した影響は大きかった。障害レースでも条件戦でもないのに大差勝ちしたおかげか、ヨークからシャンティイのトレセンに帰るまでに沢山の人に声をかけられ、SNS上でも私に話しかけてくれる外国人のフォロワーさんが増えた。いよいよ私の知名度が爆発的に上がり、ゴールドカップの盛り上げに向けた順調な()()()がされつつあるように感じる。

 1ヶ月後のゴールドカップまで多少時間があったので、軽めのインタビューや撮影の仕事を入れるなどして節々の予定を埋めることになっているのだが――

 

 そうしてスケジュールを確認しつつ自室で横になっていた時、携帯デバイスに一通のメッセージが飛んできた。その主はジャラジャラちゃん。どうやら私のヨークシャーカップを生で観ていてくれたらしく、わざわざお祝いのメッセージを送ってくれたようだ。それと、祝福の言葉に添えられた宣誓も。

 

『1週間後のレースで、私がカイフタラさんを倒すよ』

 

 ――ジャラジャラちゃんの次走は、1週間後に迫ったG3・ヘンリー2世ステークス。6月1週の当レースに出走後、6月4週のゴールドカップに出走し、そこから日本に帰って休養を取って秋のローテーションを組み直す――というのが今のところのプランらしい。

 しかし、ヘンリー2世ステークスにはカイフタラさんが出走してくる。既にカイフタラさんはヘンリー2世ステークスの舞台であるイギリス・サンダウンパークレース場に飛び立っており、1週間前に現地入りしたジャラジャラちゃんと顔合わせをしている頃だろう。

 

 どちらが勝つかは分からない。ただ、ジャラジャラちゃんはカイフタラさんよりも不安要素を多く持っているという点で――どちらかと言えばカイフタラさんが優位に立っているのは間違いないだろう。

 そもそも私達日本勢は、挑戦者の立場なのだ。慣れない芝、レース風土、雰囲気、気候、料理……全てが敵。どうしても不利な立場になりやすいのは仕方の無いことだ。

 

 それでもジャラジャラちゃんがヨーロッパに挑んだのは、私のような譲れない夢があるから。彼女もまた最強ステイヤーになることが夢で、誰よりも先にヨーロッパの超長距離G1を勝ち取ることが目標だという。……このまま行けばゴールドカップで直接対決になるだろうか。

 

 ……どちらにしても、欧州最強ステイヤーになるのは私だ。正直なところ、現最強ステイヤーのカイフタラさんとジャラジャラちゃんが()()戦ってしまうのは納得いかない。春先のドバイゴールドカップの結果にはもちろん納得していないし、今思い出しても敗北の悔しさに悶える時があるくらいなのに――何と言うか、とっておきの楽しみを奪われたような気分である。

 ジャラジャラちゃんに負けてほしいと思っているわけではないが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思ってしまっているのは事実であった。

 

「……嫌な奴だなぁ、私」

 

 全盛期を迎え、無敵の要塞と化したカイフタラさんに初めて泥をつけるのは私でありたい。でも、日本から来た友達が海外で活躍する姿もまた見たい。どちらも本当の私だ。選べるものではない。

 複雑な心境を抱えながら、私は部屋の明かりを消して布団に潜り込む。そして色々なことを考えるうちに眠りについてしまい、気づいた時には一夜が明けていた。

 

 こうして夜が明けて早朝になり、私ととみおはシャンティイの森に繰り出した。日課の朝のトレーニングである。シャンティイの森の地面は朝露や霧のせいで大抵()()()なっている。そのため、スタミナやパワーを鍛えるのはもちろん、レースの極限状態における()()()()()()()()()を強くしてくれるだろう。

 朝なので軽めのランニングが中心だが、それでも10キロ単位で森を走らされる。やっぱりとみおは鬼畜だ。でも、そういう抜かりの無さに私は助けられている。

 

 しばらくのトレーニングが終わって、その休憩中。とみおと軽い雑談になった。しかも、雑談の内容は我がウマ耳を疑ってしまうような内容だった。

 

「……そう言えば、アポロは聞いたことがあるか?」

「何が?」

「いやね、ルモスが『爆逃げステイヤーズ☆』なるウマドルユニットを作ろうとしているらしいんだ」

「……え?」

 

 ――爆逃げステイヤーズ。ウマドルユニット。そこから導き出される答えはひとつ。ルモスさんは激務のせいで疲れているのだろう。

 というのも、ルモスさんやダブルトリガーさんは、ヨーロッパのトゥインクル・シリーズ(特に長距離界)を盛り上げるため、様々な組織にURAを通した手回しをしているからだ。大衆に対して絶対的な影響力を持つメディアはもちろん、グッズ販売を司る工場や大手ショッピングセンター、更にはタイアップの企業を探すために各所に出向いたり……とにかく大変なのだ。もちろんURA職員にも役割分担がされているものの、この一大ムーブメントを巻き起こしているのは彼女達なわけで。私のレースを甲斐甲斐しく見に来てくれるのは嬉しいのだけど、どこにそんな時間があるのだろうと疑問に思う時もある。

 

 ……そんなルモスさんが新たに立ち上げたウマドルユニット『爆逃げステイヤーズ☆』とは一体何なのか。妙に聞き覚えがあるような気がするのは、日本で逃げ切りシスターズなるウマドルユニットの存在を小耳に挟んでいたからであろう。

 

「ゆ、ユニットを作ろうとしてるのは分かったけど……メンバーは誰になるのさ。爆逃げステイヤーズって言うくらいだから、私は構想に入ってそうだけど」

「メンバーの内訳は今のところ不明だけど、彼女の話しっぷりからすると……アポロレインボウ、エンゼリー、カイフタラ辺りがメンバーになるんだと思うよ」

「爆逃げステイヤー私しかいないじゃん……」

「まだ構想段階らしいからね。何をやるかも決まってないらしいし。まぁ、本気で考えることもないだろ」

「それはそうだけど……」

 

 逃げ切りシスターズのメンバーは、リーダー格のファル子さん、スズカさん、ブルボンさん、アイネスさん、マルゼンさんの逃げウマ娘5人。そう、ちゃんとした逃げ脚質のウマ娘が集まっているのだ。

 それに対して、爆逃げステイヤーズ(仮)には追込脚質(カイフタラさん)がいる。どういうことだ。エンゼリーちゃんは逃げ・先行で要件を満たしているが、カイフタラさんに関してはステイヤーの部分しか合っていないぞ。

 

「そろそろ休憩時間が終わるな。10キロを軽く走ったら朝のトレーニングはお終いにしようか」

「は〜い」

 

 酒の席で考えた冗談交じりのアイデアをとみおに話しただけなのだろう。そう思うことにしよう。私はウマドルユニットのことを一旦忘れて、トレーニングに集中することにした。

 

 

 外国語での授業はとにかく大変だ。脳内で日本語に翻訳した後、更に外国語に翻訳したものを出力しないといけないからだ。数学は記号の違いさえ気をつけていれば何とかなるが、純粋に国語(私にとっては外国語)がキツい。あと、専門用語の多い理科もキツい。社会とか歴史も難しすぎる。エルちゃんは日本と変わらず余裕ぶっこいて居眠りしているのだが……私はそうもいかない。

 日本よりも勉強に割く時間比重が大きくなってしまい、日頃の疲れが蓄積しやすくなっているのが現状であった。とみおが察してくれて、その分オフが多くなっているから悪影響は出ていないけれど。

 

 ……こうして実感すると、エルちゃんやタイキさん達のような外国出身のウマ娘がどれだけの苦労を重ねているのかが分かる。現地のウマ娘にとっては当たり前のことを(こな)して戦わなければならないのだから。

 そういえばグラスちゃんもアメリカ出身だっけ。日本出身のウマ娘よりも日本に馴染んでるものだから、本当に驚くべきことだ。

 

「う゛う゛〜……疲゛れ゛た゛〜……」

 

 背中をボキボキと鳴らしながら唸っていると、ポケットの中で携帯デバイスが震える。お昼休みの真っ只中なのに、一体誰からのメッセージなのだろうか。十中八九とみおからの業務連絡だろうけど。

 

「あれ、ヘリオスさんとパーマーさん達からだ」

 

 しかし、未読アイコンが点灯していたのは、とみおとのメッセージ欄ではなく『ギャル組』のグループであった。『ギャル組』はグループ名のことで、そこにいるメンバーはお察しの通り――パーマーさん、ヘリオスさん、シチーさん、ジョーダンさんの4名+私。パーマーさんとヘリオスさんに引き連れられる形で半ば無理矢理参加させられたグループである。

 特にパーマーさんとヘリオスさんは、定期的に遊びに連れていってもらえるくらいの仲だ。最後に遊んだのは春天の後か。シチーさんには化粧品を譲ってもらったり、ジョーダンさんには稀に国語を教えたりネイルを譲ってもらったり――今考えると何かしら貰ってばっかりだな――割と公私での付き合いがある。この5人で遊びに出かけることもあるくらいだ。

 

 しかし、この4名みたいなガチのパリピギャルには気後れしてしまうのが現状である。私の私服やオシャレだけを見れば、割とガーリーでギャルっぽい感じがするけど……ギャルと言えそうなのは見た目だけだし。

 というか、この4人みたいな『自分色を理解したガチで美の暴力みたいなオシャレ』には手を出せていない。そういう意味でも性質が異なっている。いや、私も可愛いけどね? めっちゃ可愛いけど、かっこいい・美しいって雰囲気じゃないってだけで。

 

 そういう訳で先輩方に可愛がられている私だが、突然何の用だろう。私がいなくても高速で会話が進行していくこのグループではあるが、わざわざ私にメンションする辺り何かあるな。

 

 

 

ギャル組

 

今日

 

ヘリオス先輩(4/10)

@アポロレインボウ 今通話おけ?

 

既読4 
お昼休憩になったので全然いけます!

 

ヘリオス先輩(4/10)

え! まだ学校だったん!?

夜まで大変だね!?

 

パーマー先輩(3/21)

ヘリオス。今フランスはお昼だよ

 

ヘリオス先輩(4/10)

あ!

 

 

+ │                   

 

 

 

 そうか。フランスは今12:00だけど、7時間の時差があるから日本は19:00くらいなのか。丁度寮に帰った頃なのだろう。私はサンドイッチを持って廊下に繰り出し、声を出してもいいようにそのまま屋上を目指した。

 

 

 

ギャル組

 

 

既読4 
何かお話ししたいことでも?

 

ヘリオス先輩(4/10)

ちょっとね!

 

パーマー先輩(3/21)

理由は聞かずに通話に入って欲しいな!

 

既読4 
は〜い

 

シチー先輩(4/16)

       ☎︎        

グループ音声通話が開始されました

      参加する      

 

 

 

+ │                   

 

 

 

 屋上に到着すると同時に通話開始ボタンをタップし、スピーカーをオンにする。すると、ガサゴソという音が屋上に響き渡った。ベッドに寝転がりながら通話しているとこういう音を拾いがちになるが、そういうことなのだろうか。私はスピーカーの音量を上げ、「こんばんは〜」と声を吹き込んだ。

 すると、被さり気味に『やっほ〜!』『元気してた?』『ウェーイ!』『久しぶり〜』と4つの声が返ってきた。どうやら4人は同じ場所に集まっているらしく、シチー先輩のアイコンだけが点滅している。私は噴き出しそうになりながら、何故唐突に通話に誘ったのかを単刀直入に聞いてみる。

 

「先輩方、私に何か御用でもありました?」

『ありよりのありって感じ』

『ヘリオスが喋ると訳わかんなくなっちゃうから一旦口閉じて』

『ぴえん……』

 

 パーマーさんとヘリオスさんがいつもの調子で喋った後、和やかな笑いが起きる。そしてパーマーさんが早速本題に切り込んだ。

 

『私達、アポロちゃんを応援したくてさ』

「……というと?」

『G1・ゴールドカップ。ずっと前からアポロちゃんが目指してきたレースだよね』

「あ、はい」

『私達、夢に挑戦しようとするアポロちゃんにマジで頑張ってほしいな〜って思ってさ。どうやったら伝わるかなって考えたら……余計なお世話かもしれないけど、やっぱり口頭でメッセージとか色んな言葉を伝えたくなって。……色々大変な中、迷惑だったらゴメンね?』

「いえっ、そんなことは! めちゃくちゃ嬉しいです!」

『勉強教えて貰ってる恩もあるしね〜』

『それはジョーダンだけでしょ……』

『ちょ、それは言うなし!』

 

 ギャル組4人に限らないが、マルゼンさんやグリ子を含めた知り合いはレース前に毎回「頑張ってね!」という旨のメッセージをくれる。しかも大体、校内で鉢合わせた際にも口頭で「頑張れ!」と言ってくれるので、その気持ちは十分すぎるほど伝わっていると思うんだけど……。

 まぁ、こういうのは逆の立場になると分かりやすい。グリ子のレースが近くなったら、私だって口頭と文面で応援しているし。大一番の前には応援にも力が入ってしまうものだ。

 

 とにかく、先輩方からの厚意はありがたく受け取らせていただこう。先輩方の助力――特にパーマーさんとヘリオスさんの爆逃げコンビにアドバイスを貰わなければ、私は今ここにいなかったのだから。

 

『まず私から言うね。アポロちゃん、先週は海外重賞制覇おめでとう! 生で見てたけど圧巻だったよ! ゴールドカップも爆逃げで勝とうね!』

『海外でも爆逃げしてくれてマジ最高だった! 爆逃げ最高!』

「パーマーさん、ヘリオスさん……」

 

 私が爆逃げに覚醒できたのはこの2人のおかげだ。そして、この爆逃げコンビに出会ったのは些細な偶然からだった。トレセン学園内でたまたますれ違った際、ヘリオスさんがハンカチを落とさなければこの関係は成立しなかっただろうし――パーマーさんがマックイーンさん繋がりで私のことを知っていて、なおかつ私のことを気に入ってくれたからこそ、私は爆逃げをする決意ができた。

 アドバイスの内容も非常に良かった。「アポロっちの走りには足りないところがある」「走り方を変えたらいいと思う」「自分自身で気づくべき」「トレーナーとよく話し合うこと」――など、私ととみおに改善の切っ掛けを与えてくれたのだから。加えて、私達にちゃんと考えさせるように敢えて()()()()くれたのも良かった。感謝してもし足りない。特に日本ダービー。あのダービーは、本当に私ひとりでは勝ち取れなかった栄光なのだ。

 

「パーマーさんとヘリオスさんには感謝し切れないくらい大きな恩があります。今日はもちろん、これまでのことも――本当に本当にありがとうございます」

『えぇ〜大袈裟じゃない?』

『んね! ウチらそこまで大したことしたっけ?』

「……いえ。私は分かってますから、それで良いんです。また今度、お礼させてくださいね」

『それはとっても嬉しいけれど、アポロちゃんはレースが落ち着いてからでいいからね?』

『ウェイ! 楽しみにしてるからね〜!!』

 

 パーマーさんとヘリオスさんのコンビと話していると、後ろの方でガタゴトと喧しい音がした。教室にある椅子や机を引き摺るような音に私は首を捻る。今日本が夜だというなら、4人は一体どこに集まっているのだろう。それに、シチーさんとジョーダンさんの声が遠い。

 様々な疑問が思考を穿つ中、ヘリオスさんが唐突に言った。

 

『アポロっち、ビデオ通話に切り替えれる!?』

「え? で、できますけど――」

『ヘリオス、準備オッケーだよ!』

『あ! 切り替わった!』

 

 ジョーダンさんとヘリオスさんの叫びが聞こえる中、音声通話を慌ててビデオ通話に変更すると――そこに映ったのは薄暗いトレセンの教室であった。窓の外はすっかり日が落ちて暗くなっており、カメラ中央には不気味な黒の布が用意されていた。

 向こうの時間は夜。もしかして、門限を破っているんじゃ……という考えが過ぎったが、パーマーさんがそういうことをするとは思えない。流石に許可は取っているだろう。……取ってるよね?

 

 そんな心配はさておき――謎の布に向かって歩き出した4人は、ジョーダンさんの『せーの!』という声に合わせて、何かを覆い隠す布を放り投げた。

 その布の下に存在したのは――『必勝』の文字がデカデカと刻まれた応援幕であった。私が声を上げられずにビックリしていると、画面の向こう側で和やかな拍手と笑いが起こる。笑顔のシチーさんが携帯デバイスを持ち上げ、応援幕に近づいてくれる。

 

『これ、ヘリオスさんが発案してくれたんだよ。アポロの知り合いに頼んで寄せ書きを書いてもらったんだ』

『本当はシチーが作ろうって言っ――もごっ!』

 

 ヘリオスさんとシチーさんが裏で何かしていたが、応援幕に見入っているためあまり耳に入ってこない。

 『いざ最強ステイヤーへ! 必勝アポロレインボウ!』と太文字で書かれた応援幕。あちこちに見知った名前の寄せ書きが集まっていて――パッと見ではルドルフ会長やマルゼンさん、ギャル組4人に加えてバクシンオーさん、マックイーンさんや天海トレーナーなどの名前もある――所狭しと並んだ名前にゾクゾクと鳥肌が立つのを感じた。トゥインクル・シリーズに所属する現役のウマ娘を除いて、全ての知り合いの名前があったのではなかろうか。

 

「――す、凄い。凄いですっ、とっても嬉しいですっ!! で、でもこんなに沢山……大変だったんじゃないですか?」

『楽勝だったよ! あたし達交友関係広いし? ちょっと頼み込んだら、みんな喜んで書いてくれたし! みんなアポロちゃんのこと応援してるってさ!』

 

 ジョーダンさんがフフンと鼻を鳴らして自慢げに言う。黒板よりも大きな布に敷き詰められた言葉の全てが――私を応援してくれる人達の想いなのか。こんなに嬉しいことはない。

 

『あ、この応援幕はゴールドカップに間に合うようにそっちに送っとくから安心してね!』

『ついでにダンボール5個分? くらいのにんじんも送っとくからよろぴく!』

「5個ぶ……ありがとうございます! 多分食べきれないので、それはこっちの友達と分けさせてもらいますね!」

『おけまる! そうしてくれると嬉しいかも!』

 

 あぁ……言葉が出ない。声が震えている。パーマーさん、ヘリオスさん、シチーさん、ジョーダンさん……この4人だけじゃない。みんなだ。トレセンにいるみんなには、感謝してもし足りない。あの横断幕を見てからというもの、胸の奥底から熱い思いが湧いて止まらない。

 どうやって厚意に報いればいいのかは分かっている。その答えは当然――勝利すること。結果を示し続けること。全力の私で走り続けること。これらを遂行することでみんなに恩返しができるはずだ。

 

「先輩方、本当にありがとうございますっ!! 私、絶対に勝ちます!! ゴールドカップ!!」

『期待してるぜ〜! ウェイ!』

『頼もしいね!』

 

 使命は自覚している。背中を押してくれる人が増えたのだ。誇りと勇気をもって戦おう。この背に背負った夢と想いの分だけ、私は強くなれる。

 

『あ、やば! 見回りの警備員が来た!』

『撤収しなきゃ!』

『急いで片付けて!』

『アポロちゃん、そういうわけで締まらないけど切るね! おやすみっ!』

「あ、おやすみなさい! ありがとうございました!」

『辛くなったら私達のことを思い出して! 背中、押したげるからっ! それじゃね!』

 

 パーマーさんの言葉を最後に、こうして唐突に通話は終わりを告げた。慌ただしい終焉のせいで感謝の気持ちを伝えきることはできなかったが、得られたものは多かった。私は心の中で何度もありがとうと呟いて、眼下に広がるシャンティイの森を見下ろした。涼しい風が私の髪を撫でて、白筋の立つ空に向かって流れていく。

 

「……ありがとう、みんな」

 

 私の小さな呟きは、シャンティイの空に消えた。

 でも、みんなに貰った熱い想いと強い決意は、いつまでも胸の内を焦がし続けていた。

 

 

 

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