ゆるふわ芦毛のクソかわウマ娘になってトレーナーを勘違いさせたい   作:へぶん99

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貯め回(?)
獲得賞金などの設定に間違いや矛盾があればご一報ください。正直、完璧に理解しているわけではないので。
【追記】
優しい方が教えてくださいました。以下コピペ
『収得賞金は新馬戦勝ちでも未勝利戦勝ちでも同じ400万円になります。2着以下は加算されません。
次にオープンを勝つか、1勝クラスを勝つか、あるいはG3で2着以上を取るか等で収得賞金に加算される額が変わりますが、その合計額が高い順に優先してレースに出られるようになります。』
とのことです。修正しておきました。


11話:この気持ちって、もしかして……?

 未勝利戦が終わり、わた……俺は晴れてオープンウマ娘になった。まぁ、9月後半になれば賞金の関係で1勝クラスになる運命だが……とにかく俺は勝ち切った。

 

 トラウマを乗り越えての完全勝利。たかが未勝利戦の勝利だが、俺達にとっては非常に大きな一勝だ。競走馬的なことで言っても、オープン馬になれる馬ってのはエリートらしいし、ウマ娘世界でオープンクラスになったら喜んでもいいでしょ。

 

 次なる舞台は、10月3週の1勝クラス・紫菊賞。芝2000メートルの右回りである。京都レース場への遠征が必要にはなるが、これもまた経験だ。いつか重賞を戦うにあたって、遠征に慣れておく必要もあるだろうからな。今は出られるレースにどんどん出るべきなのだ。

 

 ……ここで「芙蓉ステークスに出ろよ! 10月1週、2000メートルのオープン戦じゃん! 勝った時に貰える賞金も多いぞ!」とツッコミが入るかもしれない。しかしそれは絶対にダメだ。未勝利戦で良い気になって格上のクラスに挑戦すれば、あっさりと叩き潰されるのがオチだからな。

 

 と言うか、賞金の高さはレベルの高さ・敵の強さとイコールの関係だ。ゲームじゃあるまいしポンポン勝てるようなところじゃない。感覚が麻痺しているけど、重賞ひとつ勝てるだけで名馬・名ウマ娘なのだ。それに、どれだけ実力があろうと運や事故ひとつで勝てなくなってしまうことさえある。夢のG1を勝った途端燃え尽きてしまう子もいる。とにかく、勝負の世界は恐ろしいことこの上ないのだ。

 

 それに、わた……俺は賞金をあまり積み上げていないから、除外を食らう恐れだってある。メイクデビューの1着賞金は700万円で、未勝利戦の1着は510万円。まぁ、実際に収得賞金として加算されるのは共に400万円だけど。

 

 この時点で、もし芙蓉ステークスに俺の獲得賞金を上回る子がフルゲートの16人分集まれば、軽く除外を食らって調整も予定もパーになるわけだ。

 

 ……仮に1レースに出走申込するウマ娘がフルゲートを超えた場合、「出走できるウマ娘」、「非当選ウマ娘」、「非抽選ウマ娘」が決定される。「出走できるウマ娘」の選定方法はレースによって異なるが、その多くはレース出走届出の締切前日までの「獲得賞金」、「競走成績」、「出走間隔」等の選定基準によって決定される。

 

 なお、選定基準を満たさず、「出走できるウマ娘」とならなかったために除外されたウマ娘を「非抽選ウマ娘」といい、選定基準を満たしたが、同一順位が多数のため抽選によって除外されたウマ娘を「非当選ウマ娘」という。

 

 大体の場合、レースから弾かれた場合まとめて一言に「除外」なんて言うが、非当選ウマ娘になって除外されていたら悔やんでも悔やみきれない。ダービーで非当選になった子もきっといるだろうし、確実に出られるレースで着実に堅実に賞金を増やすことは物凄く大事なのである。

 

 だからこそ、じっくりとした育成を兼ねての10月3週・紫菊賞。それに向けて俺達はこれまでのようにトレーニングをしようという話になった。

 

 なった……はずなんだが……。

 

 未勝利戦から、わた……俺はおかしくなっちまった。何故かは分からないが、トレーナーの顔が直視できないのだ。

 

 詳しく言うと、ライブが終わってから俺の身体が変になった。とみおの特別になりたかった――と自覚した瞬間からだ。

 

 それからのトレーニングは微妙に身が入らず、とみおに心配されてしまう始末。「どうしたんだアポロ」と毎日のように心配されるのが非常に申し訳なくて、グリ子に相談を持ちかけることにした。

 

「それって恋だよアポロちゃん」

「……はぁ?」

 

 事情を話すと、グリ子は速攻で断言してきた。

 

「あはは、ないない! トレーナーのために頑張りたいとは思うけど、恋とかちょっと無いわ〜」

「いやいや、恋だって。トレーナーさんの顔を見ようとすると恥ずかしくなっちゃうんでしょ? 特別な気持ちに気付いて顔真っ赤になったんでしょ?」

「……まぁ……はい」

 

 ……自覚が無いわけではなかった。

 

 未勝利戦のゴールの瞬間、明らかに俺は()()()になっていた。何て言うんだろうか……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 あの時から、たまに自分の女の子の部分が顔を出すようになっている。きっと、わた……俺の気持ちがおかしくなったのはそのせいだ。とみおの好感度は高かったが、シラフで恋するほど俺は女の子じゃなかったはずなのに。

 

 ……でも正直、最近は「俺」だと思うことが難しくなっていたのは事実。だから今グリ子に相談して気付いた。もう()()()になっていたんだって。未勝利戦の日から私はちょっとずつ侵食されて、女の子になっていたのだ。

 

 実際、あの日から胡座をかいて座ることはなくなったし、スカート丈を物凄く気にするようになった。鏡の中の自分を可愛いと思えることは変わっていないが、()()()()()()()()()()()()()を考えるようになった。

 

 他にも沢山女の子らしい行動が日常生活に露呈している。実のところ、私が男だった頃の名残なんて、荒っぽい考え方が残滓として僅かに存在しているだけだ。

 

 認めたくない……本気で認めたくないが。

 ()はもう女の子になっている。なってしまったのだ。

 

「……うぅ」

 

 ほら、こうやって悲しむ姿だって滅茶苦茶女の子になっちゃってる。ちょっと前まではワイルドな感じだったのにさ。

 

「……グリ子、私……どうしたらいいと思う?」

「何が?」

「いや、ほら……トレーナーとの関係をさ、……ね?」

「そんなのアポロがどうしたいかじゃない?」

「うぐぐ」

 

 私がトレーナーとどうしたいかなんて分からない。だから聞いているというのに……グリ子は意地悪だ。そんな彼女は、頭を悩ませる私の姿を見てにやにやと笑っていた。

 

「なんかアポロちゃん、未勝利戦を勝ってから変わったよね」

「変わった? どんな風に?」

「何て言うのかな。こう――女の子っぽくなったって言うかさ。ガサツさはまだ残ってるけど」

「…………」

 

 ……やっぱり、グリ子でさえメス落ちしたのが分かっていたようだ。あんまり嬉しくねぇ。げんなりして溜め息を吐くと、グリ子がベッドから飛び跳ねるようにして起き上がった。

 

「あ、そうだ。アポロちゃんのトレーナーさんって桃沢って名前の人だよね?」

「そうだけど……」

 

 うちのトレーナーの名前を他の子に呼ばれると、なんか胸がむかむかするな。

 

「その人、なんか桐生院って女の人と凄く仲良さそうにしてたよ」

「!」

 

 私はその言葉にはっとした。

 そうだ、とみおの周りには可愛い女の子がいっぱいいるではないか。併走トレーニングをする時に出会ったハッピーミークのトレーナー、桐生院葵。彼女とはよく飲み会に行ったり情報交換をする仲らしい。その他にも、何やかんや2人で話しているところを頻繁に目撃する駿川たづなさんや、生徒である私達ウマ娘も山ほど存在する。

 

 私がうかうかしている間にとみおが取られてしまうかもしれない――そんな不安が脳裏を過ぎった。そんなの嫌だ、と反射的に身体が反応する。

 

「素直になれないのはしょうがないけどさ、桃沢トレーナーって結構人気ある方だし……迷ってるうちに掠め取られちゃうかもよ?」

「そ、それは――」

「当たって砕けろ、の精神でアピールしてみたら? やらないで後悔するよりやって後悔しようよ」

 

 グリ子の言葉に私は歯噛みする。もはや、元男としての気持ちがどうとかは無い。単純に、女の子としての自分に自信がなかったのだ。

 

 自分で言うのも何だが、アポロレインボウは可愛い。ウマ娘の中でも結構上の顔面偏差値を誇る……と思う。それでも、他の女の子達に決定的に敵わない部分がある。

 

 それは、ふとした時に滲み出す()()()()()()だ。色々と女の子らしいことを考えるようになったはいいが、男だった頃の余韻が完全に消えたわけではない。普段の振る舞い自体は9割女の子になったものの、びっくりした時に出る声が男らしい悲鳴だったりする。そういうところでトレーナーに幻滅されているのではないか。

 

 これは早急な対策が必要だ。

 私は立ち上がって、グリ子の両頬を挟み込んだ。

 

「グリ子。前々からさ、私って結構男っぽいところがあるって話はしたよね?」

「してたけど、いきなりどしたん?」

「私、心の底からクソかわのウマ娘になるわ」

「……はぁ?」

 

 ――オペレーション【クソかわウマ娘に大変身作戦】、開始します。

 

 

 

 後日。とみおにオフの日を作ってもらった私は、身体の芯から女の子になるため、マルゼンちゃんと一緒にお出かけすることになった。以下一部始終。

 

『マルゼンスキー様

 いつもお世話になっております。

 チョベリグでナウい女性になる方法を伝授していただきたく、ご予定の空いている日に私をデートに連れて行ってくれませんか?

 ご一考、よろしくお願い致します。

 日本ウマ娘トレーニングセンター学園中等部

 アポロレインボウ

 ご連絡先:[email protected]

 tell:〇〇〇-☆☆☆-####』

 

『モチのロンよ!

 可愛い後輩の頼み事、このマルゼンスキーパイセンにお任せだっちゅ〜の♥

 8月中なら大体OK牧場だから、また連絡ちょうだいね?

 じゃ、ばいなら〜♥』

 

 親世代でも分からないような死語がポンポン飛ぶメールのやり取りだったが、こうして連絡を取った私はマルゼンスキーとのデートを取り付けた。それをグリ子やとみおに言ったところ、「マルゼンスキーに直接連絡を取るとは、怖いもの知らずだな」「あのマルゼンさんとお出かけって……アポロちゃんって結構ヤバいよね」と中々いい反応を貰った。

 

 さすがにシンボリルドルフとかナリタブライアンには物怖じするだろうけど、マルゼンちゃんは普通に接しやすいと思うんだけどな。実績はエグいけど、可愛いし、優しいし。

 

 当日、マルゼンちゃんのスーパーカーがトレセン学園前に迎えに来てくれた。開く窓の中から手を振ってくれたので、私は頭を下げて先輩に挨拶した。

 

「おそようございます! マルゼン先輩!」

「あら、おそよう♪ うふふ、アポロちゃんはイマドキの流行語が分かってるわね〜♪ さ、乗って乗って♪」

「失礼します!」

 

 上機嫌のマルゼンスキーに迎えられて、私は助手席に乗り込む。社会人だった頃、一度試乗したっきり二度と乗ることのなかった真っ赤なスーパーカーに乗っている。いつになってもスーパーカーというのは良いものだ。ふかふかの座席の感覚に軽く感動すら覚えてしまう。

 

「シートベルト締めました! 今日はよろしくお願いします!!」

「準備はいい? それじゃ、でっぱ〜つ!」

「でっぱつ……?」

 

 そう言ったマルゼンちゃんは、分かりやすいくらいアクセルを踏み込んだ。噂通りやべ〜なと思った瞬間、ぐいん、と身体が後ろに持っていかれ、座席に身体が押し付けられる。スーパーカーはあっという間にトレセン学園を飛び出し、道路を走り出していた。

 

 

 私達がやってきたのは、バブリーランドだった。

 お立ち台に扇子にボディコン。マルゼンスキーによると、女の魅力がバッチグーになる夢の舞台らしいが……。

 

「……????」

 

 さすがの私も理解不能だった。あちこちがビカビカ光り、重低音の利いた音楽がやかましく鳴り響いている。連れてきてくれたマルゼンスキー含めた入場者は、水着になって踊り狂っている。

 

「ほら、アポロちゃんも踊るわよ〜!」

「えっ……あ、はい!」

 

 学校指定のスクール水着を着て、私はマルゼンさんに倣ってくねくねと奇怪な踊りを始めた。このまま踊り狂えば、私もチョベリグでナウい女の子になれるのだろうか? 本気で言ってるのかマルゼンちゃん?

 

 私は音楽に合わせて扇子を振り回していたが、強烈に周囲の視線が気になった。うぅ、絶対に注目されてるよ……とてもじゃないけどやってられないって……!

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 踊りを止めようとすると、マルゼンスキーの声がすかさず飛んでくる。私が彼女に頼み込んだ手前、断ることは出来ない。

 

(……うぅっ、もうどうにでもなれ!)

 

 結局、私は羞恥に晒されながら踊りまくった。後半はノリに乗って、訳の分からないブレイクダンスを決めたりした。今考えたらマジで意味が分からないのだが、バブリーランドにはそうさせる魔力があった。

 

「どう? ()()()()()()()()()踊って、気持ちよかった?」

「は、はい……結構楽しかったです」

「うふふ、それは良かった」

 

 バブリーランドの帰り道、夕暮れ時の海岸に止まったスーパーカーから降りた私達は軽く散歩することにした。黄昏時に映えるスーパーカーを置いて、ふんわりとした砂浜に繰り出す。

 

 しばらく無言で歩いていると、マルゼンスキーが唐突にしゃがみ込む。何をしているんだろう、と背中に近づいてみると、彼女は貝殻を拾い上げていた。

 

「何ですか、それ」

「さぁね? 多分、普通の貝殻よ」

 

 マルゼンスキーが拾い上げたのは、お世辞にも綺麗とは言えない――むしろ歪な形と色をした灰色の貝殻だった。何故それを拾ったのだろうか。私はそう考えて、綺麗な貝殻を探すことにした。

 

「マルゼンさん、こっちにならもっと綺麗な貝殻があると思いますよ!」

「あら、そう? でも、私はこの貝がいいかしら」

「……?」

 

 貝殻を探しに行こうとした身体を止め、私はマルゼンスキーに向き直る。彼女はうっとりとした顔で貝殻を夕陽に翳し、目を細めていた。

 

 不可解だった。だって、探せばあるではないか。もっと綺麗な貝殻が。

 何故その歪な貝殻に拘るのか、それが分からない。

 

 疑問を感じた私は、思い切ってその質問をぶつけることにした。

 

「……マルゼンさん。その貝殻が気に入ったんですか? もっと形のいいものがあるのに」

「……()()()()()()()()()()()()()。ただそれだけよ♪ ちょっと形は汚いし、風化してあちこちに穴が空いてるけど、何となく気に入っちゃったの!」

 

 夕陽を背に、マルゼンスキーは微笑んだ。「この貝殻は今日の思い出の品ね!」と呟き、彼女はその貝殻をポーチにしまい込む。

 

 ぽかんとした。よく分からなかった。言ってしまえば、かなり不細工で汚らしい貝殻だ。どこに気に入る要素があったのだろう。

 

 私の顔があまりにも唖然としていたのか、それとも私がそういう不躾な視線を投げかけてしまったのかは分からないが――マルゼンスキーは私に向けてこう言った。

 

「完璧な存在なんていないのよ、アポロちゃん。人を好きになるって、その人の欠点とか悪いところも全部受け止めるってことだと私は思うわ」

「……!」

「私がこの貝殻を拾ったのは、()()()()()()()も可愛いって思ったからよ♪」

 

 飄々と、楽しそうに言い放つ『スーパーカー』。

 私は彼女の言葉に胸を打たれた気分だった。

 

 私は女の子らしさが足りないことを危惧していた。でも、案外考えすぎだったのかもしれない。実際、私とトレーナーは今のところ上手くやれているし……もしかして、独りよがりの悩みだったのかな?

 

「欠点さえ個性にしていきなさい? ほら、くよくよ悩まずドーンと生きる! お姉さんとの約束よ?」

「……マルゼンさんっ!」

 

 ――魅力的な女の子とは何だろう。それを考えた時、私は完璧な女の子になることばかりを求めていた。しかし、マルゼンスキーの言葉を聞いて、一字一句が胸にすっと溶け込むような感覚がした。

 

 

 でも、バブリーランドに行って踊る必要はあったのかな? と思った。雰囲気が壊れるので、それは言わないでおいた。

 

 ……あぁ。私は、周りの人に恵まれているなぁ。

 マルゼンさん、ありがとうございました。

 

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