ゆるふわ芦毛のクソかわウマ娘になってトレーナーを勘違いさせたい 作:へぶん99
――6月4週、ゴールドカップ。
私が憧れてきたレースのひとつであり、世界最長の
イギリス王室が開催する5日間の重賞集中開催期間・
現在はイギリス・フランス・アイルランド・ドイツなどヨーロッパのスタミナ自慢が集うレースとなっており、ゴールドカップ→グッドウッドカップ→ドンカスターカップで英国長距離三冠を形成している。この三冠は6回達成され、特にルモスさんが2年連続で達成したことは語り草になっている。最も近年の達成はダブルトリガーさんだ。
いよいよイギリスのアスコットレース場にやってきた私は、あちこちで行われる華やかなパレードを眺めていた。
「ロイヤルアスコット開催……噂には聞いてたけど、凄い人の数だな」
「ね〜。王室主催だもんね〜」
「高貴だなぁ」
小学生並の感想を囁き合っている私達だが、顔は全く笑っていなかった。トレーナー室で見せるような和やかな雰囲気もない。とみおは私の威圧感に引っ張られて緊張しているようだった。
無理もない。あの夜が明けてから、私は常にレース時同様の威圧感を纏っているのだ。そのお陰で1週間前のインタビューはピリついた雰囲気で行われてしまったし、私に近づいてくる多くのウマ娘が縮み上がるくらいには強烈な圧力が渦巻いている。それはエンゼリーちゃんやカイフタラさんも同じで、インタビューの受け答えの内容がやや攻撃的な内容となっていた。お互いに
……さて。このロイヤルアスコットミーティングは、イギリス王室主催かつ重賞レースが18つ――G1レースが8つ――行われるとあって、気合いの入り方が段違いである。
付近にあるウィンザー城からアスコットレース場に向けてパレード隊が30分以上かけて行進して来ているし、ミーティング3日目だというのに小規模イベントがあちこちで行われているのだから、その盛り上がりは言うまでもない。しかも、レースに勝ったら王室のお偉いさんから直接トロフィーが授与されるときた。レース関係者にとってそれ以上の栄誉はない。特にイギリス出身のウマ娘は喉から手が出るくらい欲しい名誉だろう。
王室関係者の方々は全てのレースを観戦するらしい。パレードでアスコットに訪れた後は、多分スタンドの中で私達を見守ってれているはずだ。緊張するなぁ。
レース慣れしている私でも雰囲気に当てられているのは、ロイヤルアスコットが社交界の一大イベントとしての側面を持っているからかもしれない。どれくらい大規模かと言うと、テニスのウィンブルドン選手権や、伝統のボートレース・ヘンリーロイヤルレガッタ、ゴルフの全英オープンに並ぶくらいだとか。スポーツと社交界を融合させた大イベントがあるのは、何となくイギリスらしいなと思ってしまう。
そういうわけで、私達の周りには着飾った紳士淑女の方々が集まっている。とはいえラフめな格好をした家族連れ――ロイヤルアスコット開催なので彼らもスーツを着用しているが、もっと格式の高い正装をしている人が多いからそう見える――も沢山いるので、辺り一面は割とカオスなことになっている。
フォーマルに決めている人達はレース関係者か良い席で観戦するのだろう。保守派の人達からすれば所謂ライト層の観戦は嫌かもしれないけど、ルモスさん的にはまず若者の人気が出てほしいらしいので、そこら辺の軋轢には細心の注意を払っているとか。
「そろそろ控え室に行こうか」
「……ん」
華やかなパレードと盛り上がりに反して、空は曇り空。ミーティング1日目と2日目は晴れたのだが、昨日の夜中に大雨が降って昼前の時点で馬場が荒れ気味だ。
ゴールドカップは
既に足元はグズついているし、雨の匂いが止まらない。それどころか濃くなっている。大きな勝ち筋を引き寄せる天の恵みではあるが、勇気を振り絞らなければならない三女神の悪戯でもあった。
私はとみおに手を引かれて控え室まで帰ってきて、軽い昼食を食べ始めた。犬歯を突き立てるようにしてサンドイッチを貪る。苛立ちを咀嚼するかのような様子にトレーナーは苦笑いしているけれど、このもどかしさは彼によってもたらされたものだ。笑い事じゃない。
イギリスに来てからの10日間、トレーナーは私のゴールドカップに対する憧れを煽り続けていた。肉体を虐め抜くスパルタではなく、全力で走れない最終調整中に精神を追い詰めるような締め付けを行ってきたのだ。関係性が構築されていなければ嫌がらせ同然の言葉責めを耐え抜き、私の闘争心は爆発寸前である。
彼によって私は幼少期から抱いてきた憧憬を嫌というほど思い出させられた。これまでに過ごしてきた努力の日々、憧れを募らせて身を焦がした夜、胸の内に押し込んでいた夢の輝き、日本代表としての重責、ゴールドカップに出走できないウマ娘達の想い、その全てを想起させるような煽りで私の闘争心を高めてくれたのだ。
レース直前の今となっては最高のコンディションを生み出すための行為だと納得できるが、とみおの煽りは死ぬほど心に
……実際にランニングしている隣で飛んできた言葉は生易しいものじゃなかった。とみおと私の関係じゃなかったら逆効果になるような過剰な煽りだったのは間違いない。結果、割と精神的に追い込まれたし、色んな意味でドキドキさせられた。もちろんワクワクもしたし、追い込まれるストレスによって逆に「なにくそ」という闘争心が湧いてきたりもした。
緊張と期待。これらの絶妙なバランス配分によって、今の私はレースするのに絶好のコンディションになっている。
早く走りたい。目の前に
「アポロ、大丈夫か?」
「とみおがこんな身体にしたんじゃん」
「ご、ごめん……」
「ウマ娘の闘争心、マジでシャレにならないんだからね。今の状況、すっごいストレスだよ」
「……次からここまでの仕上げは辞めておこうか――と言いたいところだけど、相手が悪すぎるな。9割の仕上げに抑えておいて負けました、なんて最悪だろ? 俺達は今後も10割の全力でぶつかるだけだ」
「…………」
とみおの言うことはもっともだけど、彼はぜんっぜん分かってない。走ることが本能に結びついたウマ娘は、走りに関するストレスを与えられると精神的に過敏になってしまうのだ。空腹の獣が目の前に横たわる肉を前にして「待て」を出来るはずがないのと同じように、とにかく不安定な状況が続く。それ故に精神を解放した時の爆発力は高まるのだが――
焦燥感やもどかしさが止まらない私は、レース後の精神的解放とご褒美を求めてトレーナーに声をかけた。
「とみお」
「どうした?」
「ここまで仕上げてくれたことは嬉しいけどさ、レースが終わったらいっぱいご褒美を頂戴ね」
「分かった。レースが終わったら聞こうか」
「…………」
……
「アポロ、その苛立ちを解放するのはレースが始まった瞬間だ。
「っ……うん、分かった」
ドライに宥められながら、私はお茶で喉を潤しつつ手元の出走表に目を落とした。このゴールドカップ、一堂に会したのは15人。私、エンゼリーちゃん、カイフタラさんの3人にはラビット役がいないこともあり、単騎で走るウマ娘がほとんどだ。唯一チームを組んでいるのは15人中2人だけなので、ラビットは1人ということになる。そうでなくても逃げの脚質は少ないけれど。
出走表は以下の通り。
| 番 | 人気 | 名 | 脚質 | 近走戦績 | 主な勝ち鞍 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 2 | 追込 | 3-0-0-1 | G1アイルランドセントレジャー G1ゴールドカップ G2ドバイゴールドカップ 他 | |
| 2 | 15 | 先行 | 1-1-0-2 | OP条件戦 | |
| 3 | 14 | 逃げ | 0-0-0-4 | OP条件戦 | |
| 4 | 10 | 差し | 0-1-1-2 | G1クリテリウムドサンクルー G3クラシックトライアル | |
| 5 | 12 | 追込 | 1-0-3-0 | G2モーリスドニュイユ賞 G3オーモンドステークス | |
| 6 | 6 | 自在 | 2-1-0-1 | G1サウスアフリカンダービー G1ケープタウンメット G3ヴィンテージクロップステークス 他 | |
| 7 | 9 | 先行 | 2-1-0-1 | G1ナシオナル大賞 G1オノール大賞 G2オレアンダーレネン賞 | |
| 8 | 4 | 差し | 3-1-0-0 | G1イギリスセントレジャー G3ゴードンステークス G3サガロステークス 他 | |
| 9 | 13 | 追込 | 1-0-2-1 | OP条件戦 | |
| 10 | 7 | 先行 | 2-1-0-1 | G1ロイヤルオーク賞 G2ドーヴィル大賞典 G2ヴィコムテスヴィジェール賞 他 | |
| 11 | 5 | 逃げ | 2-1-0-1 | G2阪神大賞典 G3ダイヤモンドステークス 他 | |
| 12 | 3 | 先行 | 4-0-0-0 | G1シドニーカップ G2ジッピングクラシック G2ヴィコンテスヴィジエ賞 他 | |
| 13 | 11 | 差し | 1-0-0-3 | G3レッドシーターフハンデ | |
| 14 | 8 | 先行 | 0-3-0-1 | G3オーモンドステークス | |
| 15 | 1 | 大逃げ | 3-1-0-0 | G1日本ダービー G1菊花賞 G1有馬記念 G1天皇賞(春) 他 |
ハニーハートビートさんはイギリスセントレジャー(G1・3000メートル)を制したシーユーレイターちゃんのラビット役で逃げの脚質。ジャラジャラちゃんは変わらず逃げの構え。エンゼリーちゃんは出走表的には“先行”の表示だが、彼女のレース戦法は自由自在。逃げか先行で来ることは濃厚だが、差し脚質で来ないとも限らない。とにかく序盤の敵はこの3人になるだろう。
世間では『欧州長距離三強』ムードが高まっているものの、今回のゴールドカップは非常にレベルの高いものとなっている。重賞ウマ娘が15人中12人、G1ウマ娘が8人と……欧州URAが意図した通り歴代最高のゴールドカップのひとつと成り得るメンツだ。
特にアフリカからやって来た謎のウマ娘・ジェイジェイザジェットバイシクルさんや、アルゼンチンのダートG1巧者・ブストアルシーツォさん、イギリスセントレジャーを制したステイヤー・シーユーレイターちゃん辺りが強敵か。そもそもステイヤーズミリオン完全制覇の挑戦権を得たウマ娘が多数いるため、カイフタラさんやエンゼリーちゃん以外に注目してしまうと、マークが分散する恐れがある。予定通りエンゼリーちゃんとカイフタラさんに着目すると決めたのは悪い選択ではないはずだ。
ステイヤーズミリオン完全制覇の挑戦権を得たウマ娘は以下の通り。ステイヤーズミリオン対象レースの順番ごとに追っていく。
3月5週、G2・ドバイゴールドカップはカイフタラさんが勝利した。
4月4週、G3・ヴィンテージクロップステークスはジェイジェイザジェットバイシクルさんが。
4月4週、G3・サガロステークスはシーユーレイターちゃんが。
5月2週、G3・オーモンドステークスはサイレントジョーカーさんが勝った。ゴールデンネダウィさんがこのレースを勝ったのは去年のことなので、今年の完全制覇挑戦権はない。
5月3週、G2・オレアンダーレネン賞はブストアルシーツォさんが。
5月4週、G2・ヨークシャーカップは私が。
5月4週、G2・ヴィコムテスヴィジェール賞はスイッチオンさんが。
6月1週、G3・ヘンリー2世ステークスはカイフタラさんが。
6月1週、G2・ヴィコンテスヴィジエ賞はエンゼリーちゃんが。
――というわけで、ここに集まったステイヤーズミリオン完全制覇の挑戦者は8人。……重賞を制した難敵がここまで勢揃いするのは、有馬記念以来だろうか。しかも長距離レースに秀でたウマ娘が多いというのは、厄介極まりない事実である。
出走表の数字と経歴を見ていると精神がある態度落ち着きを取り戻してきたので、私は軽くジャンプしたりアキレス腱を伸ばしたりして準備運動を始めた。レース開始まであと4時間はある。まだ早いかもしれないが、身体を温めておいて損はない。足首もしっかり回しておこう。
私の足踏みによって控え室が騒がしくなる中、軽快なノックの音が室内に響いた。こんな時間にやって来る来客といえば、スタッフさんかルモスさん達くらいなものだ。勝負服の着付けを手伝ってもらうには些か早い時間だし、恐らく来客したのはルモスさんだろう。
入っていいですよ、と扉の向こうへと声をかける。すぐさま開かれた扉の反対側には、予想通り栗毛の可憐なウマ娘――英国長距離三冠ウマ娘・ルモスさんが手を上げて立っていた。頭がすっぽり隠れる高貴な帽子――ただしウマ耳は隠れない――を被り、格式高いドレスまで着飾っているルモスさん。自分の可愛さにほぼ毎日クラクラしている私でさえ、思わずどきりとしてしまうような美貌だった。
「やっほ〜! アポロ、元気してる?」
「ルモスさん、来てくれたんですか!」
「もちろんさ!」
耳がぴょいんと跳ねてルモスさんの方を向く。丁度会ってお話したいと思っていた頃合なのだ。ルモスさんも同じように思っていたのか、私の手を取って胸の前で重ね合わせてきた。
「時間を作ってもらったことに感謝するよ桃沢トレーナー。……アポロ、ゴールドカップの前に会えてよかった」
「ダブルトリガーさんとイェーツちゃんは?」
「2人とも客席にいるよ。着飾っている上に人が多くてあまり動きたくないそうだ」
「なるほど……」
「――ところでアポロ! カイフタラに
「……は、話せるわけないじゃないですか! その連絡を貰った時にはもう私達3人ともバチバチの状態でしたから」
「かぁ〜! まあ仕方ないよね……レース後にでも無理くり納得させるしかないなぁ」
……ゴールドカップ7日前、ルモスさんから連絡があった。「ゴールドカップまでにカイフタラを何とか説得して、“爆逃げステイヤーズ☆”に加入させるよう約束を結んでおいてくれないか」――と。
爆逃げステイヤーズとは、ざっくり言えば日本のウマドルユニット“逃げ切りシスターズ”の欧州ステイヤー版である。ルモスさんの予定では、私、カイフタラさん、エンゼリーちゃんが初期メンバーという扱いになっており、ゴールドカップ後のウイニングライブは(恐らく)実質的な“逃げステ”のファーストライブになるとかならないとか。
いくらその3人の実力が秀でているとはいえ、三強がそのまま1〜3着を独占する保証はない。あと、カイフタラさんは全然爆逃げするような脚質じゃない。色々とガバガバかつぶっつけ本番的な粗の目立つプロジェクトだが、極めつけは私以外のウマ娘に“逃げステ”のことを伝えてすらいなかったことである。
ゴールドカップ7日前に連絡を寄越されても、他2人に話すのは当然無理だった。何せ連絡を貰った前日――つまりゴールドカップ8日前、レースに出走する15人のウマ娘が一斉インタビューの生放送を行い――そこでプロレス並の煽り合いを繰り広げてしまったのだから。
カイフタラさんは元より、ソフトな性格のエンゼリーちゃんでさえ口汚くなりかけるほどの応酬があった。無論、全員が本気の罵り合いをしたわけではなく、
そんな感じでバチバチにやり合っているので、爆逃げステイヤーズの存在意義は怪しい。G1ウマ娘が8人も揃うようなレースで、色々と運頼みが過ぎるのではないか……とルモスさんを訝しんでしまうのだが、彼女の激務を考えれば多少のガバは許すしかないのである。
「まぁ、爆逃げステイヤーズに関しては何とかなるさ。気にしないで」
「はぁ……」
そんなノリでいいのかな? ルモスさん主導で動いているヨーロッパのURAは大丈夫なのだろうか。一抹の不安が過ぎったところで、私の手を握るルモスさんの瞳が少しだけ潤んだ。
「それよりも……アポロ。ゴールドカップは大丈夫かい? 恐らく今から雨が降る。日本出身のアポロにとってはかなり苦しいレースになると思うんだけど――」
「――
私は彼女の手を強く握り返す。私より小さな彼女の手が、少しだけ強ばるのを感じた。それは驚きか、それとも心配か、はたまた武者震いか。その感情の名前を知っているのは彼女だけだ。
「――わお」
でも、ルモスさんの牙を剥き出しにするかのような獰猛な笑顔を見て、私は酷く安心した。しゅるりと彼女の手から抜け出して、私は頬を緩ませる。
「そういえば、ルモスさんはどうして私をここまで気にかけてくれるんですか? 私としては偉大な先輩と関わることができて嬉しいですけど」
「え、今聞くの?」
「ダメでしたか?」
「いや、全然」
「…………」
「理由なんて大したことないよ。レース中継に映るアポロを偶然見つけて、がむしゃらな走り方に惚れ込んだってだけ……つまり運命さ。多分、ワタシは自分が思っている以上にアポロレインボウというウマ娘に夢中なんだ」
「う、運命ですか……」
「ワタシは運命以上の強いモノを感じているけどね」
それだけ言うと、ルモスさんは私の顔に頬を寄せて軽くハグしてくれた。心臓が高鳴った。どくんどくんと胸の中が震えて、彼女の柔らかな頬の感触が妙な残滓となって肌をくすぐる。
軽いハグが終わると、名残惜しそうな表情のルモスさんが私から離れていった。
「例のユニットのことを確かめるだけのつもりだったけど……時間を取らせてごめんね」
「いえ、緊張が少し紛れましたから」
「うんうん、それなら良かった。……じゃ、ワタシはこれで。ゴールドカップ制覇、期待してるからね」
「――はい!」
ひらひらと手を振って扉を閉めるルモスさん。視界から消えた憧れの先輩の声を脳内で反芻して、私は更に気持ちを高めていく。
「……アポロ。少し早いけれど、勝負服に着替えようか」
「うんっ」
「スタッフさんを呼んでくる」
私の気持ちが最高潮になったのを見計らって、とみおが勝負服の着付けのためにスタッフさんを呼びに行った。勝負服を着るとウマ娘の精神は昂りを見せるというが……私の好調を冷めさせたくないというトレーナーの狙いが見えるようだ。
小走りでとみおが退室して静寂が訪れた控え室。他の誰もいなくなった寂しい部屋で、私はふと鏡の中に映る自分を見つめた。
鏡の横に手を付き、ぐっと顔を近づける。壁の向こう側にいる自分は惚けたような顔をして私を見つめ返してきた。アメジスト色の瞳。ピンクがかった芦毛を揺らして、これ以上なく上気した表情だ。
自分の昂りが他人事のように思える。この世界に産まれて十数年、その間ずっと夢見ていた4000メートルG1が目の前にある――……そんな事実が身を震わせていた。とてつもない熱量の感情が湧いてきて、世界中に
ふと、鏡の中でキラキラと雪の結晶を放つモノが目に入った。鞄からはみ出した布。見覚えがあった。優しく引っ張り出してみると、それは丁寧に畳まれた応援幕だった。
『いざ最強ステイヤーへ! 必勝アポロレインボウ!』
『爆逃げ最高☆ゼッタイ×2勝てる!! ダイタクヘリオス』
『アポロちゃんの爆逃げで世界を魅了しちゃおう! メジロパーマーより』
『どんな時も楽しんだ者勝ちってコトで! トーセンジョーダン』
『長距離戦はキツいと思うけど期待してるよ ゴールドシチー』
『アポロちゃんらしさ全開のレースを見せてちょうだい! マルゼンスキー』
『日本代表として威風堂々としたレースを期待している シンボリルドルフより』
『アドバイス通りに シリウス』
『アポロちゃんが長距離三冠ウマ娘になるのを見たい! トウカイテイオー』
『シビれるレースやっちゃってください!!!!! ウオッカより!!!!!』
『先輩のことを陰ながら応援してます! 頑張ってください! ダイワスカーレット』
『ヨーロッパにもツチノコはいそうだよな? Gold Ship』
『異国の地にも美しい虹がかかりますように メジロマックイーン』
『バクシンしましょう! サクラバクシンオー』
『ケガにはくれぐれも気をつけたまえ アグネスタキオン』
――あぁ。私の大切な人達の心が流れ込んでくる。練り上げられた激情が火を噴いている。私の憧憬、恋心、感謝、全ての感情を糧にして燃えていく闘争心。もし私の感情が底をついたなら、みんなが足りない想いを補ってくれる。背負った想いをそのまま自分の力にする――これが私の強さだ。
みんなの顔を思い浮かべながら、私の精神はこころの内面に入り込んでいく。
心象風景に吹き荒ぶ吹雪はいっそう強くなり、憧れが深まっていく。
最強ステイヤーが決まるまで、あと4時間――