ゆるふわ芦毛のクソかわウマ娘になってトレーナーを勘違いさせたい 作:へぶん99
――ジュニア級10月下旬。スペシャルウィークは驚愕した。
「トレーナーさん、これって……」
「あぁ。一風変わった大逃げのウマ娘が出てきたな……」
スペシャルウィークのトレーナー……沖野トレーナーは棒付きキャンディーを噛み砕きながら、刈り上げた頭皮を人差し指で掻いている。困ったような声を出しながらも、彼の視線はテレビ画面に釘付けだった。
――京都レース場で行われた条件戦・紫菊賞。2人が見ていたのはそのレースを勝利したアポロレインボウというウマ娘である。
紫菊賞を勝利する前の段階でも彼女はある意味有名だった。その実力ゆえではなく、悲劇性が話題になっていたのである。
メイクデビュー戦で鼻血を出したアポロレインボウは、あわや競走中止というところまで追い込まれて大敗を喫した。その後の未勝利戦では、最終コーナーで不可解な失速をして敗走。明らかにデビュー戦の記憶がフラッシュバックしての敗北に、彼女を応援しようというファンがSNS上で多く見受けられたのだ。
そして8月の未勝利戦にて、一瞬だけ躊躇う素振りを見せたものの、彼女は最終コーナーの幻影を振り払って見事に勝利した。たかが未勝利戦、されど未勝利戦の一勝に、少なくないアポロのファンが沸き立ったと言う。
――ここまではいい。だが、それからのアポロレインボウの
その成長が最も見られたのは、眼前のテレビに映る紫菊賞である。沖野トレーナーとて、かなり筋のいい大逃げを打つアポロレインボウの存在は認識していた。しかし、彼は紫菊賞を目の当たりにしてその意識を180度転換させられることになる。
まず、そのスタートの巧さ。ゲートが開くと同時に飛び出す驚異的な反応速度。スタートダッシュの思い切りが非常に良い。内枠は言うまでもなく、大外枠からのスタートでも掴まえるのは難しそうだ。
次に、容赦の無い加速。
そして、第1コーナーでトップスピードに乗ってなお最短距離を走ることの出来るコーナリング……沖野トレーナーが最も驚いたのはこれだ。アポロレインボウは内柵ギリギリに身体を寄せ、めいいっぱい上体を傾けさせ、足裏の蹄鉄の角をターフに食い込ませて遠心力を全力で殺している。その技巧も然ることながら、その勇気と勝利への熱量に沖野は舌を巻く。
アポロレインボウはレース中の事故で、一度はトラウマがフラッシュバックするレベルになっていたはずだ。それが、内ラチいっぱいを攻められるまでの強靭なメンタルを持ち合わせるまでになった。
肉体的な成長はもちろんのこと、この精神的成長が何より恐ろしい。肉体の怪我はすぐに治るが、精神的なものは治癒に時間がかかることが多い。この短期間でメンタル的な問題を完璧に治してきたとなると、それはアポロレインボウのメンタルが相当に優れていることの証左に他ならない。
沖野トレーナーが思考を巡らせる中――度重なる視聴のせいで、沖野はタイミングさえ覚えてしまっていたのだが――アポロレインボウが向正面に入った。
アポロレインボウは第2コーナーまで加速し続けていた。そしてそれは向正面に入っても変わらない。コーナーの角度を利用して僅かに後ろを確認した後、彼女は更に加速していく。
他の誰もがアポロレインボウの影を踏むことすら出来ず――最高速度に到達した彼女だけが第3コーナーに入っていく。彼女の表情が歪む。淀の坂を上っているのだ。しかしその表情の辛さとは裏腹に、全くもって許容範囲内の僅かな減速のみを受けてアポロレインボウが坂を上り切る。
天晴れな根性と心肺機能の強さ。並びに、ここぞという場面で恐れずに
映像の中のアポロレインボウがゴール板を駆け抜ける。ぶっちぎり大差での決着。そうしてレコードを叩き出した彼女だが、納得のいかなそうな顔がまた沖野トレーナーの興味を引いた。向上心の塊である。油断も隙もない厄介なウマ娘だ。
沖野トレーナーは目頭を押さえて映像を止めた。隣のスペシャルウィークが表情を固くしていた。
「……アポロちゃん、凄く強いです……」
「あぁ、嫌になるくらいな」
紫菊賞が終わってから何度も見返した映像だが、ジュニア級にしては完成度の高すぎる走りに沖野は対策を考えかねていた。
「スペはアポロレインボウについてどう思う?」
「う〜ん……スズカさんの目指している大逃げとはちょっと違うかもしれませんけど、似た雰囲気を感じます」
――大逃げ。一般的には、見る者を魅了するものの賭けに近い作戦だ。だが、沖野トレーナーはサイレンススズカの担当をしているからこそ分かることがある。それは、完成された大逃げは最強の作戦だということ。
サイレンススズカは完全覚醒に至っていないが、このままトレーニングを積めば近しい時に覚醒し、来年のシニア級から爆発的な活躍を見せてくれるはずだ。その時の彼女は大逃げの境地に至っていると言ってもいい。時間こそかかったが、完成されたスズカの走りを止められるものはいないだろう。
……今鍛えているサイレンススズカの大逃げは、彼女の才能の上に積み重ねられた努力によって開花しようとしている。その肉体・精神の成熟によってやっと花開こうとしているその大逃げの極致に――アポロレインボウはジュニア級で至ろうとしているのだ。
沖野がサイレンススズカと共に作り出そうとしている
不可避なスタミナ勝負を強いてくる、恐怖の大逃げウマ娘。突然現れた厄介な壁。話によれば、ホープフルステークスに出走してくると言うではないか。敵がキングヘイローだけだと思っていた沖野とスペシャルウィークにとっては寝耳に水も同然であった。
「トレーナーは……マックんとこの天海さん……の弟子の桃沢トレーナーか。はぁ……嫌になっちゃうなぁ。テイオーの時だけじゃなく、今も天海さんの教え子が立ち塞がってくるとは……」
恐らくアポロレインボウはとんでもなく丈夫な身体をしている。それを理解した上で、桃沢トレーナーは彼女をスパルタトレーニング漬けにして鍛え抜いているのだろう。新人トレーナーにして、何とも合理的で隙のない方針を考えるではないか。
(……天海さんは『人バ一体』をスローガンにしてたんだよな。桃沢トレーナーはその人の下で育ったんだし……アポロレインボウとの連携もバッチリなんだろうなぁ)
天海ひかり。桃沢とみおの教育係にして、メジロマックイーンを育て上げた敏腕トレーナー。彼女はメジロマックイーンに誰よりも近く寄り添い、まさに人バ一体で成長してきた。その結果が菊花賞宝塚記念制覇・春天連覇の偉業である。
トウカイテイオーのライバルとして立ち塞がったメジロマックイーンのサブトレーナーが、マックイーンに似たような子を連れてきやがったか――沖野トレーナーは思わぬウマ娘の登場に胸の高鳴りを抑えられなかった。テレビの映像を巻き戻しながら、沖野トレーナーはスペシャルウィークにこう言った。
「……スペ、予定変更だ。ホープフルステークスはアポロレインボウをマークしよう」
元々の予定では、同じくホープフルステークスを目指してくるであろうキングヘイローに狙いを定めていた。だが、レコードを引っさげてホープフルステークスに挑んでくるウマ娘がいるなら話は別だ。
キングヘイローのマークを出来ないというのは苦しいが、アポロレインボウをノーマークで自由に走らせる方がよっぽど怖い。スペシャルウィークは沖野トレーナーの考えに同調するが、あまりにも早い決定に首を傾げている。
「ホープフルステークスまで1ヶ月以上ありますよ? もうそんなことまで決めちゃって良いんですか?」
「
半年前、スペシャルウィークが勝利した選抜レースにアポロレインボウが出走していた。確か、才能の片鱗すら見えないような惨敗をしていたはずだ。それがたった半年で世代を代表するウマ娘になりつつある。スペシャルウィークが産まれ持った才能を、
異常だ。何がアポロレインボウをそこまで突き動かしているのか、沖野トレーナーには分からない。だが、分からなくても戦わなければならない。
同じレースに出れば不可避なスタミナ勝負を仕掛けてくる、厄介極まりない爆逃げウマ娘。スペシャルウィークと沖野トレーナーは、大きな障害に立ち向かおうとしていた。
こうして密かに始まった『対アポロレインボウ』トレーニングだが、スペシャルウィーク陣営は早速障害にぶち当たった。
「……練習相手がいねぇ」
スペシャルウィークと併走してくれるウマ娘自体はありがたいことに存在するのだが、その中に大逃げ脚質のウマ娘がいないのである。サイレンススズカの大逃げはまだ発展途上なため無理はさせられないし、メジロパーマーやダイタクヘリオスやツインターボを頼ろうにも彼女達は超がつく程の人気ウマ娘。多忙の彼女達をいちトレーニングのために引っ張り出すのは不可能に近いのである。
沖野はなるべく逃げウマ娘との併走や模擬レースを行うことにしたのだが、逃げと大逃げは別物なのだ。思うような成果が得られないまま時間だけが過ぎていく。
「スペ、今日は上がろう。雨が降ってきそうだ」
「分かりました!」
ウッドコースを走っていたスペシャルウィークに言って、沖野はトレーナー室に引っ込んだ。アポロレインボウ対策は全く進んでいない。しかし、アポロ陣営はきっと対スペシャルウィークや対キングヘイローを着々と積み重ねているだろう。
レースまで残り3週間。沖野は焦り始めていた。大逃げというのはとにかくずるいのだ。対策を講じなければ絶対に潰される。その癖、向こうは自由に走りやがる。あまりにも圧倒的で一方的ではないか。
サイレンススズカの完成まであと少しだ。彼女の逃げが大逃げになった時、やっとアポロレインボウの背中が見える。サイレンススズカを使ったアポロレインボウ対策ができる。今はまだ耐える時だ。沖野トレーナーは紫菊賞の映像を見つめたまま、しばらく腕を組んでいた。
――12月。サイレンススズカの大逃げが
スペシャルウィークはとにかく喜んだ。憧れの先輩の覚醒だ、嬉しくないはずが無かった。食い意地はあったが、田舎の母から贈られてきたにんじんをプレゼントしたりして、嬉しさをめいいっぱい伝えた。
それを受けたサイレンススズカが頬を染めて控えめに「スペちゃんありがとう」なんて言うものだから、スペシャルウィークは天にも昇る心地だった。喜びはそれだけではない。やっと『大逃げ』の対策が出来るようになったのだ。
スペシャルウィークに頼まれるまでもなく、沖野トレーナーは2人の併走トレーニングを用意していた。ホープフルステークスまで時間がない。早速3人はスペシャルウィークの大逃げ対策に打って出ることにした。
ある日、本番を見据えた2000メートルで2人の一騎打ちが行われることになった。沖野トレーナーは「思いっきり走って、まずは気持ちよく負けてこい」とスペシャルウィークの背中を押す。
彼が言うように、強い大逃げを初見で攻略することはほとんど不可能に近い。それ故の発言だ。スペシャルウィークはその意図を理解した上で大きく頷いて、颯爽とスタートラインに立った。
「スズカさん、よろしくお願いしますっ!」
「よろしくねスペちゃん」
柔らかく微笑むサイレンススズカ。しかし、その挨拶が終わると――彼女の表情は冷たく引き締まった。スペシャルウィークの背筋にぞくりとしたものが走る。もうスズカのレースは始まっているのだ。スペシャルウィークも頬を叩いて集中した。
トレーナーがすぐ側にやって来て、ストップウォッチを携える。彼が息を吸い込むのを確認して、2人は足元に力を入れた。
「それじゃ行くぞ。用意――スタート!」
レース開始の合図と共に飛び出したのはサイレンススズカだった。スペシャルウィークのスタートダッシュが下手という訳ではないのだが、如何せんスズカは上手すぎる。すぐに差をつけられて第1コーナーを曲がり始める。
(こ、これが『大逃げ』……!? 逃げとは全然違う……!)
大逃げに定まらなかった頃のスズカと併走したことはあるが、覚醒してからのスズカと走るのは初めてだ。だから、スペシャルウィークは完成された大逃げの容赦の無さを肌で感じていた。
(全然ペースが緩まない! こんなの、どうやって追いつけばいいの!?)
序盤ということを意に介せず飛ばしに飛ばしていくサイレンススズカ。向正面に入るまでに早くも5バ身の差がついており、焦りが生まれてくる。
スペシャルウィークがスズカを見たところ――彼女は涼しい顔をしていた。後ろで懸命に追走するスペシャルウィークを気にかける様子もない。ただ己の道を行き、
(最終コーナーから捲れば追いつけるはず! アポロちゃんにもスズカさんにも負けたくないっ!)
サイレンススズカが作り出すハイペースに釣られているのに気づかないまま、1秒ほど遅れて最終コーナーに入っていくスペシャルウィーク。眼前まで迫ってくる憧れの人の背中。
(よしっ、捕まえた!!)
サイレンススズカに並びかける。さすがの大逃げと言えど、やはり最後は
「え――」
一度捉えたはずのサイレンススズカが、再度加速した。スペシャルウィークの末脚と同じ速度――いや、それ以上の加速でスズカが最終直線を走り出した。
スペシャルウィークが必死に追い縋るも、その差は縮まらない。結局4バ身の差をつけられてスペシャルウィークは敗北した。
「スペ、どうだ? 性質は多少異なるかもしれないが……これがお前が戦わなければならない大逃げってやつだ」
「っ……」
膝に手をついて息を切らすスペシャルウィークに沖野トレーナーが語りかける。スペシャルウィークは歯噛みして何も答えない。敗北の悔しさの中で、彼女はどうやって大逃げの牙城を崩すか思考をフル回転させていた。
だが、一度走った程度ではその答えは見つからない。汗を拭った後、スペシャルウィークはトレーナーとスズカに頭を下げた。
「……トレーナーさん、スズカさん、もう一回お願いします! この大逃げを攻略してみたいです!!」
「……だそうだ。スズカ、行けるか?」
「はい。私は大丈夫ですよ」
微笑するサイレンススズカ。彼女は汗ひとつかいておらず、その事実がスペシャルウィークを敗北感に浸らせる。
(スズカさん……絶対に負けないから!)
スペシャルウィークの回復を待って、すぐさま2本目のマッチレースが行われた。今度は作戦を変え、逃げ気味の先行で早めにスズカを捕まえる作戦に出る。
だが、スペシャルウィークの得意脚質の性質上、どうしても終盤に向けて末脚を残さなければ勝つことは出来ない。向正面で無理をして先頭に立ったが、そこで限界。レース後半につれて見事にバテて、最終コーナーで再び先頭を譲り渡すと――大差で敗北した。
「はぁ――っ、はぁ――っ……! もう一回、お願いしますっ!!」
「……いいわよ。もう一回走りましょう、スペちゃん♪」
3度目のレース。今度は追込気味の差しに打って出る。
だが――サイレンススズカの逃げて差す末脚に追いつけない。スペシャルウィークはまたも敗北を喫した。
「――っ」
――理不尽。サイレンススズカの大逃げはその一言で形容された。
大逃げするスズカに鈴をつけにいかねば、あっさりと逃げ切られる。それを嫌って道中で捕まえに行っても、自分が潰される。これはチームレースでもない限り自殺行為。ただ、直線一気を狙っても、それまでに付いていた差が埋まらずに逃げ切られる。
(こんなの、どうすれば……!)
結局、サイレンススズカは十度のレースの中で一度も先頭の景色を譲らなかった。スペシャルウィークは完成された大逃げの理不尽な強さをこれでもかと味わう羽目になってしまった。
だが――スペシャルウィークの心は折れていない。どうすれば大逃げを崩せるか。スズカに似たレースを作るアポロレインボウにどうやって勝つか。様々な作戦を試しては敗北し、試行錯誤を重ねていく。
そもそもジュニア級とクラシック級のウマ娘では完成度が違う上、レース勘や技巧も比較にならないのだ。それを考慮すれば、サイレンススズカに敗北しようとスペシャルウィークの価値が下がることは無い。むしろ、スズカに食らいついて行けたことが素晴らしいのである。
沖野トレーナーはにやりと笑い、まだ立ち上がろうとするスペシャルウィークを見た。やはりスペシャルウィークはとてつもない才能の持ち主だ。折れない心、諦めない姿勢は尊敬に値する。棒付きキャンディーを舐め終わった彼は、2人にトレーニングの終わりを告げる。
「今日はこの辺で終了だな。2人ともお疲れさん。スペにはこの後話したいことがあるから、トレーナー室に来ること。いいな?」
「……はいっ! 今日もお疲れ様でした!」
「お疲れ様でした。スペちゃん、また後で」
「はい! スズカさん、ありがとうございました!」
小走りで帰っていくサイレンススズカを見届けた後、2人はトレーナー室に赴いた。スペシャルウィークはトレーナー室に行く道中も「どうやって大逃げを攻略しようか」と頭を捻っている。そんな彼女に感心しつつ、トレーナーは紫菊賞の映像をつけた。
「スペ。今のお前なら分かるんじゃないか? スズカとアポロの大逃げの決定的な違いが」
スペシャルウィークの視線がアポロレインボウに吸い寄せられる。瞬間、彼女の脳内でアポロレインボウとサイレンススズカが走り始めた。2人の大逃げ。全く異なる性質を持った異質な2人。それぞれの長所や癖、一致しない部分がスペシャルウィークの脳裏に導き出される。
アポロレインボウとサイレンススズカの大きな違い。それは――
「アポロちゃんはスズカさんと違って
「……そう。今のところ、
サイレンススズカの場合、ゴール板を駆け抜けるまで背後を気にかける素振りさえ見せなかった。しかし、映像の中のアポロレインボウは背後の様子を随時確認しているではないか。
いや、逃げウマが後ろを確認するのは普通のことか――と考えて、スペシャルウィークは先のトレーナーの発言を思い出す。後ろを気にすることが隙ってどういうことだろう?
「…………」
よく見てみると、アポロレインボウは後方確認の頻度がやや多いように見受けられる。その姿は、潜在的に誰かの追い上げを恐れているように見えなくもない。あぁそうか――マークされる経験に乏しいから、未知の展開を本能的に避けようとして確認の回数が増えているのだ。
「トレーナーさん、アポロちゃんの攻略法……もしかしたら分かったかもしれません」
「おう。奇遇だな……俺もその可能性に賭けてみるつもりだ」
「……でも、どうやってアポロちゃんをマークしましょう?」
「アポロの最高速度はかなりのものだが、スズカ程じゃない。彼女には第2コーナー付近で一瞬息を入れつつ後ろを確認する癖があるから、そこを一点読みして食らいつく! そこでアポロがプレッシャーを感じてかかれば勝機が見えるってわけよ」
その言葉に頷くスペシャルウィーク。こうして2人はサイレンススズカの力を借りながら、先行気味のマーク作戦を身につけた。
そして迎えたホープフルステークス本番――スペシャルウィークに予想外の出来事が起こった。
まず1つ目は、マーク作戦自体は成功したものの、アポロレインボウのスタミナが
2つ目は、スペシャルウィーク自身もアポロレインボウに釣られてかかってしまったこと。
最後の3つ目は――レース終盤、恐ろしいほどの末脚でキングヘイローが飛んできたこと。
栄光を手にしたのはアポロレインボウでもスペシャルウィークでもなくキングヘイローだった。
全員がハイペースに釣られる中、最後方で粘り強く我慢して耐え続け。
スペシャルウィークの作戦は8割成功していた。しかし、レースには運が大きく関わってくるものだ。誰が勝ってもおかしくなかったが、今回勝利を収めたのはキングヘイローだった。ただ、それだけのこと。
意識外からの一閃に驚き、スペシャルウィークはレース後ひとりになってから悔しさで泣いた。切り株の中に向かって思いっきり泣き叫んだ後、スペシャルウィークはその敗戦を真正面から受け止め――二度と負けないために立ち上がること決意した。
これにてジュニア級編完結。
死闘のクラシック級編が始まります。