ゆるふわ芦毛のクソかわウマ娘になってトレーナーを勘違いさせたい   作:へぶん99

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36話:春の息吹、目覚めるライバル達

 ――遂に4月がやってきた。4月と言えば、とにかく『始まり』の季節だ。学校への入学だったり、クラス替えだったり、はたまた会社に入社したり……関わる人々の変容という意味では、新しい風が吹き込んでくる季節だ。

 

 トレセン学園にも新しい顔ぶれが入ってきた。新入生はもちろん、新しく加わる教職員・トレーナーの面々。かつて男子学生だった頃は、怠くて長い行事だなぁと密かに睡眠を決め込んでいたものだが、今は引き締まった思いで入学式をこなすことができた。精神的に成熟したからなのか、それとも来年から敵になるであろう有力ウマ娘を見定めておこうという気持ちからなのか……いや、両方から来る集中力なのかもしれないな。

 

 今年の桜の開花は非常に遅い時期にずれ込み、丁度入学式と被る頃に開花が始まった。確か、とみおが言っていたエルコンドルパサー現象というやつだ。……合ってるよね? まあいいか。

 

 桜並木の下で記念撮影する新入生を見ながら、私は河原を歩いていた。寒さはすっかりどこかに行ったので、気分転換がてらの散歩である。こういうぽかぽか陽気の日にトレーニングするのもいいけど、河原の芝で寝転んでぼ〜っとするのも乙なものだ。

 

 今日がオフで良かった。一応汚れてもいいようにジャージを着てきたので、背中から思いっ切り芝に寝転んで両腕を後頭部でクロスさせる。はい、お昼寝準備完了っと。あ、ちょうちょだ。かわい〜。

 

「んぁ」

 

 目でモンシロチョウを追っていると、鼻先にぴったりとくっついて羽を休め始めた。そんなバカなことがあるのか……と思ったが、私はウマ娘だ。案外こういうことは頻繁に起こるのかもしれない。

 

 虫が苦手な子は卒倒するだろうな〜、と考えながら、私は目を閉じた。アリとかハエとかに(たか)られない限り、しばしの睡眠を決め込んじゃお。私は深く息を吸い込んで、その意識を闇に落として行った。

 

 夢心地のまま、閉じた瞼の上に太陽光の熱を感じる。冷たくもなく、暑くもない、丁度いい温度の風が肌を撫でている。ウマ耳が、清流の流れるさらさらという音を捉えている。その鼻が、桜や雑草の青くも淡い匂いを嗅ぎ取っている。あぁ、これだから春は堪らないのだ。五感全てが暖かくなって、自然に還る感じがさ。夢か現か判断がつかぬまま、私はずっと瞳を閉じて自然を感じていた。

 

 どれくらい経ったのだろうか。遥か遠くに誰かの笑い合う声がする中、明らかに私に接近してくる足音があった。薄目を開いてその足音の主を見ると、そこにいたのはトレセン学園の制服に身を包んだウマ娘――グラスワンダーだった。

 

 彼女はスカートの裾を押さえ、僅かな風に靡く栗色の髪を手で制している。上品で清楚な動作に見惚れてしまうが、彼女もまた私の顔をじっと見つめていた。

 

「……ん。グラスちゃん、どうしたの?」

「あら、起こしてしまいましたか?」

「ううん、別に寝てたわけじゃないし。……隣、座る?」

「はい。失礼しますね」

 

 大あくびを決めた私の隣に腰を落とすグラスちゃん。彼女の細い右脚には包帯が巻かれており、見ていて痛々しい。未だに癒え切らない怪我だ。しかし、聞いた話では近いうちに復帰戦が予定されているというではないか。

 

 ……ただ、いきなりそういう突っ込んだ話題に切り込むのは躊躇われたので、私は何を話すでもなく、太陽の光を反射して光る川を見つめていた。隣に座るグラスちゃんは包帯を撫でながら、私の耳元でぽつりと囁いた。

 

「……アポロちゃん、この脚のことが気になりますか?」

「うひ〜……視線、バレてたか」

「うふふ」

 

 やっぱりグラスちゃんはこういうところで鋭いなぁ。その勘の鋭さは人にはない長所だ。諦めたように笑うと、彼女もまた柔らかく微笑んでくれた。

 

「復帰戦、いつになるの?」

「さぁ……いつでしょうか。少なくとも皐月賞には出られませんが、実はもう走れる状態なんですよ」

「えっ、じゃあその包帯は……」

「念の為にしているだけです♪」

 

 グラスちゃんは口を隠しながら笑った。本来であれば春は全休し、秋の毎日王冠がクラシックの初戦だったはず。やはり、元の歴史とは色々な矛盾やズレが生じてきている。しかし、この世界の歴史が『偽』というわけではないだろう。ここに在る存在や熱い想いは全て本物で、疑いようがなくきらきらと輝いていて。きっと本物にも劣らないから。

 

 私の妄想になるが、グラスちゃんがもう走れる状態だと言うなら……彼女の復帰戦は5月になるのだろうか? 鉄砲になるが、エルコンドルパサーやグリーンティターンの出るG1・NHKマイルカップに出走するか。または、目標をダービーに定めた上でG2・青葉賞またはオープンクラス・プリンシパルステークスに出るか。

 

 ローテーション的に言えば、G2の始動になる『青葉賞→日本ダービー』ローテーションが最も好ましいだろう。青葉賞は2400メートルだが、プリンシパルステークスは2000メートルと、ダービーに向かうにあたって距離のギャップが生まれてしまうからね。

 

 ただし、実績で言えば彼女はジュニア級G1・朝日杯フューチュリティステークスを勝ったジュニア級マイルチャンピオン。NHKマイルカップという短めの距離に狙いを定めても全く違和感はない。両方とも調整次第にはなるけれど。

 

 私がグラスちゃんの瑠璃色の双眸を覗き込むと、彼女は薄く微笑んで私の顔を真正面から捉えた。

 

「私――青葉賞に出ます」

「!」

「そして青葉賞で勝って――ダービーで貴女やスペちゃん、セイちゃんに挑みます」

 

 春の陽気に似つかわしくない刺々しい闘気が、グラスワンダーの背中から溢れ出す。そうか……ダービーに出てくるのか。またライバルが増えちゃったなぁ、対策を考えないと。

 

「……その時はよろしくね、グラスちゃん」

 

 私はにかっと歯を見せた。グラスちゃんはうふふと含みのある笑いを見せてから、ふうと息を吐いた。

 

「私が貴女のことを意識してる理由、他にもあるんですよ。最近よくアポロちゃんの話題を耳にするからでしょうか」

「な、何で私の話題を? 怖いなぁ……」

「どうということはありませんよ? マルゼンさんが貴女のことを頻繁に口にするんです。『アポロちゃんの走りはチョベリグよ〜』って」

 

 グラスちゃんがマルゼンスキーの声と仕草を真似するものだから、私は笑いを堪えきれなくなった。グラスちゃんはこういうところで案外ノリがいい。しかも、存外似てるのが妙にツボだ。

 

 そうか、私だけじゃなくグラスちゃんもマルゼンスキーさんのお気に入りなのか。どことなくシンパシーを感じるなぁ。

 

 私も負けじとマルゼンスキーの真似をする。『バッチグー』と言う時の動作と声を真似すると、グラスちゃんは思いっ切り噴き出した。結構失礼なことをしているのだが……結構危ういところにも彼女のツボはあるらしい。

 

 しばらくの間、私達の会話に花が咲く。マルゼンスキーのこと、春のこと、新入生のこと、お互いのトレーナーのこと。そしてやはり――ウマ娘とは切っても離せないレースのこと。

 

 話題が弥生賞や若葉ステークスについてのことに変移していき、いよいよスペシャルウィークや私にグラスワンダーの矢印が向く。彼女はイレ込んだように力を込めて話し始めた。

 

「私、弥生賞や若葉ステークスで、みなさんと一緒に走れなくてとても悔しかったんです」

「…………」

「スペちゃんが勝った弥生賞、そしてアポロちゃんが勝った若葉ステークス……本当に、本当に――胸を打たれるような思いでした」

 

 そう言って、グラスワンダーは私の両手を絡め取った。蛇のような指先が私の手首と指先を上ってくる。思い詰めたかの如く、いや……追い詰められていることすら楽しむかの如く、覚悟を決めた彼女の表情が印象的だった。

 

 彼女が独白する中、私はその雰囲気に気圧されていた。グラスちゃんの圧が強すぎるのだ。だんだん近付いてくる彼女に押し倒されるようにして、私は芝に倒れ込んだ。すかさず、私の上にのしかかってくるグラスワンダー。マウントを取られ、暴れようにも暴れられない。

 

「あぁ、早く戦いたい」

「っ、グラスちゃん、ちょっと――」

「貴女と――本気で――」

 

 吸い込まれそうな青い双眸が、私の目と至近距離で突き合わされる。両手の拘束を解こうとしても、物凄い膂力によって引き離せない。

 

 まさに『怪物』だった。レース前のウマ娘の如く、グラスワンダーが闘志を剥き出しにして私を威嚇している。いや、本人には威嚇しているという意識なんて無いのだろう。戦いたいという気持ちが前に出すぎてかかっているのだ。

 

 何せ、グラスちゃんの得意戦法は『マーク屋』。気持ちを前に出すことに関しては、意識的にしろ無意識的にしろ得意なはずだから。

 

「グラスちゃんっ! マジでストォップ!!」

 

 私が彼女の耳元で思いっ切り叫ぶと、グラスちゃんは身を起こして大きく怯んだ。両手の拘束が無くなり、グラスちゃんは夢から覚めたように私のお腹の上から飛び退く。

 

「――ご、ごめんなさいっ! 私、わたし――なんということを」

 

 彼女の瞳や表情は、いつものような『穏やかなグラスワンダー』に戻っていた。自分がしてしまったことに怯えているのか、両手を口に当ててわなわなと震えている。

 

 全然いいよ、というジェスチャーをしてみたが、グラスワンダーの顔色はずっと真っ青のままだ。遂には頭を大きく垂れて、土下座の準備さえし始めてしまった。

 

「……申し訳が立ちません。腹を切って詫びます」

「いやいやいや! ほんとに大丈夫だからさ!」

「しかし……」

「私もそうやって()()()()()()()()があるからさ。お互い様ってことで」

 

 ……とみおを桐生院さんに取られるって勘違いした時とか、めちゃくちゃかかっちゃったしね。あ、あはは……思い出すだけで恥ずかしい……。

 

 あの時の私は、思考がどす黒い何かに塗り潰されて、まともではなくなってしまって……桐生院ちゃんに危うく酷いことをするところだった。今のグラスちゃんと同じだ。容易に我を失う程度には、ウマ娘の執着心――勝ちにこだわる闘争心というのは恐ろしい。少なくとも男だった頃には味わったことの無い、理性を塗り潰すほどの狂気である。小さい頃からウマ娘だった子さえ、時々暴走することはあるらしい。

 

 あれやこれやと言葉巧みにグラスちゃんを励まして、再び私は河原に寝転んだ。グラスちゃんはまだ申し訳なさそうにしつつ、お買い物のために商店街に向かうようだった。

 

「それじゃグラスちゃん、またね! おしゃべり楽しかったよ!」

「はい。アポロちゃん、先程は本当に――」

「もういいって! それ以上言ったら怒っちゃうからね! ほら、気にせず行った行った!」

「……ありがとうございます、アポロちゃん。それではまたの機会に」

 

 ゆったりとした動作で立ち上がってお尻の辺りを手で払うと、グラスちゃんは商店街に向かって歩き出した。何度か私の方に振り返って視線を向けてきたので、私は寝転びながら大きく手を振っていた。

 

 久々にグラスちゃんと話し込んじゃったなぁ。ちょっと引いちゃうくらい元気だったから、何だか嬉しいなぁ。

 

 私は小さくなったグラスちゃんの背中を見送った後、まだ高い太陽の光を浴びて背伸びをした。頭の中がグラスちゃんでいっぱいだ。彼女は言葉を並べ立てる方ではないのだけど、その洗練された動作で多くの印象を残してくる。何と言うか、動作の女性らしさというのだろうか。あの清楚さが染み付いた動きは、私にはできっこない。外国生まれらしいけど、私より大和撫子だもんなぁ。憧れちゃう。

 

 ……さて。

 

「グラスちゃん、やっぱり……『領域(ゾーン)』に目覚めてるよね?」

 

 私は恐怖に跳ね回っていた心臓を、服の上から押さえ込んだ。グラスちゃんが私に対してマウントを取った時、()()()()()()()()()()あの光を見た……ような気がするのだ。どちらにせよ、この言いようのない恐怖――もちろん単純な怖さとは違う――を感じている以上、あの時のグラスワンダーが『領域(ゾーン)』の片鱗を見せていたのは間違いない。……多分本人は気付いていないけど。

 

 ……朝日杯フューチュリティステークスは、そのスペックによるただの完封劇だった。しかし、今の彼女には確実に『領域(ゾーン)』と思しき何かが確かに根付いている。

 

 怪我でレースを走れない絶望と悔しさ、休養の間に結果を出していくライバル達に焦燥感を抱いていたのだろう。どれだけ苦しかったのかは予想すらできないが――とにかく、彼女の精神状態が極限を迎えた結果、私の知らない方法で『領域(ゾーン)』を練り上げようとしている。

 

「日本ダービー、とんでもないことになりそうだなぁ……」

 

 私は制服の乱れを直しながら立ち上がる。何となく、グラスワンダーに見られている気がして――もっと言うなら、喉元に抜き身の刃を突きつけられている気がして――足早にトレセン学園に戻るのだった。

 

 

 

 トレセン学園に戻ると、正門付近でばったりセイウンスカイに出会った。

 

「あっ」

「ん?」

 

 セイちゃんはコソコソと後ろ手に釣り道具を隠すと、何事も無かったかのように歩き始める。私はそんな彼女の肩を掴み、ぐいっと引き寄せた。

 

「セ〜イ〜ちゃ〜ん? またサボり?」

 

 セイウンスカイの身長は私と全く同じだ。体型もほとんど変わらない。彼女の身体をくるりと回転させて、釣り道具を取り上げる。

 私達の間で違うのは、耳の大きさと、尻尾の毛並みと、あと単純な毛色くらいか。いや、こうやって並べてみるとかなり違うな。

 

 とは言いつつも、私は彼女にひどく親近感を抱いているのだ。芦毛で逃げウマというだけで、正直なところシンパシーを感じまくりである。後は、本人との会話の中で度々耳にする「才能がない」という風に取れる言葉。やや引っかかる部分はあるけど、私は特にその部分に共感している。

 

 セイウンスカイはその頭脳とレース作りで勝ちを拾ってきた。私は鬼のようなスパルタトレーニングで、みんなに大きく劣る肉体を鍛え上げてきた。できることを振り絞ってみんなに対抗しようとするところに、勝手に肩入れしつつ内心応援しているのだ。

 

「セイちゃんのトレーナーさんが探してたよ? まぁ、半分諦めた様子だったけど……」

 

 そんな彼女と遂に激突する時が来る。再来週に迫ったクラシック戦線の序章、G1・皐月賞。私はこの時を密かに楽しみにしていたのだ。ジュニア級は言うまでもなく、クラシック級でも戦ったことは無いからね。もちろん彼女のペースメイキング力は怖いけれど、それよりもワクワクが勝っている。

 

「あれれ〜? 今日はトレーナーさんに、ちゃんとサボるからって言っておいたはずなんだけどなぁ……」

「ちゃんとサボるって……もうっ」

 

 嘘か本当か分からないことを言いながら、私の袖を引いてくるセイちゃん。釣り道具を返して欲しいらしい。でもダメだ。彼女のトレーナーさんが困っているからね。そうやって上目遣いで目をうるうるさせてもダメだぞ――クソッ、可愛いなてめぇこの野郎。

 

「そ、そんな可愛い顔してもダメだからね。この釣り道具はセイちゃんのトレーナーさんに預かってもらいますから。……って言っても、セイちゃんのトレーナーさんは甘いからなぁ……どうせすぐに返しちゃうんだろうなぁ……」

「……最近、アポロちゃんってばグラスちゃんに似てきたよね」

「ちょ、それってどういうこと?」

「別に〜?」

 

 私達は冗談を言い合いながら、トレーナー棟に向かった。セイウンスカイを専属のウマ娘に据えるトレーナーこと如月天翔(かける)トレーナーは、ぬぼーっとした感じの男の人だ。何を考えているかよく分からないけど、実はかなりの頭脳派だ。トレーナーと担当ウマ娘は似るものなんだなぁ。ど根性が取り柄のウマ娘と、スパルタトレーニングが取り柄のトレーナーとかね。

 

 そして、如月トレーナーのトレーナー室も、とみおの部屋と同じく辺境にあった。2人で雑談する分には丁度いい距離だが、普段使いするとなるとかなり遠い。如月トレーナーの場合は、実績も充分だと思うのだけれど……幾分扱いにくい性格だからだろうか? もしくは「セイウンスカイは静かな所が好きだから」とか言ってトレーナー室の移動を固辞していそうでもある。

 

 移動している間は暇なので、この前セイちゃんと一緒に行った釣りのトークに花を咲かせる。私は下手くそすぎて一匹も釣れなかったけれど、その隣でセイちゃんがバンバン大物を引き当てていくのだ。私は彼女が大物を釣り上げた時に弾ける笑顔を忘れられない。

 

「大人になったらさ、船を貸し切ってみんなで沖釣りしたいんだよね! もしもの話だけどさ、いつか行ってみたくない?」

「お、セイちゃんその意見に賛成かも。陸では釣れないような、でっかい大物が釣れそうだよね〜」

「クジラとか釣れるのかなぁ?」

「……アポロちゃん、それは天然ボケと言うやつですか? いやはや、敵いませんなぁ……」

「?」

 

 苦笑いするセイウンスカイ。窓越しに沈み始めた太陽を見つめたかと思うと、彼女はノスタルジックな雰囲気で呟いた。

 

「大物。大物ねぇ……」

 

 ――大物。その言葉がどこか違う意味を孕んでいる気がして、私はセイちゃんの顔を見つめた。彼女の表情はどこか凄味と自信に溢れていた。くるりと振り返ったセイウンスカイが、私に向けてこう言い放った。

 

「セイちゃんも、みんながビックリするような大物を釣り上げてみたいかも! キャハッ☆」

 

 果たして、これは宣言だったのだろうか。それとも、さっきの会話の流れを組んだ適当な言葉だったのだろうか。その真意は彼女にしか分からないけれど――セイウンスカイがぎらりと光る眼差しになったのを、私は見逃さなかった。

 

 いつものように、からからと笑うセイちゃん。しかし、溢れる闘志を隠せていないではないか。それを見た私は、雑談で溢れるような笑みとは質の違う笑顔を見せつけた。

 

「……セイちゃんに負けないようなでっかい大物、私も釣り上げてみせるから」

 

 ぎょっとしたように、或いは「はは〜ん」とでも言いたげに口元を緩めるセイウンスカイ。彼女の演技がかった仕草と言葉に熱意が宿る。

 

「アポロちゃんもやるねぇ」

「……そっちこそ。お互いに宣戦布告だね」

「あんまりそういう性格じゃないけど、熱くなってきたかも」

「私も今、めちゃくちゃ燃えてるよ」

 

 ――皐月賞、お前には負けないぞという互いに向けたメッセージだ。

 

 セイウンスカイ――私に立ち塞がる最大の敵のひとり。彼女は大切な友達でライバルだ。だからこそ、絶対に負けたくない。似たもの同士だから譲れないこともある。

 

 スペシャルウィークにも、キングヘイローにも、セイウンスカイにも――私は絶対に勝つ。どんな策を講じてこようが、一目散の爆逃げで磨り潰すだけだ。セイウンスカイがどれだけ調べ抜き、考え抜き、準備して用意して策を講じてありとあらゆる仕掛けを施そうと――勝利という大物は、私が手にするのだ。

 

 夕焼けで茜色に染まるトレセン学園の中、私達は密かに激闘を誓い合った。

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