ゆるふわ芦毛のクソかわウマ娘になってトレーナーを勘違いさせたい 作:へぶん99
激動の4月が去り、5月になった。周囲の自然には緑黄が生い茂り、夏に先んじて早くもエネルギッシュな季節の訪れを私達に予感させるほどだった。気温も冗談みたいにどんどん上がり、そのうち30度を超えるんじゃないか……という声すら囁かれている今年度の5月である。
さて、5月末と言えばクラシックの一大レース『日本ダービー』が行われる時期でもあるが(場合によっては6月初旬に行われたりする)、5月の初旬には日本ダービーのトライアルレースが行われることになっている。
日本ダービーのトライアルレースの1つは、5月1週、G2・テレビ東京杯青葉賞。2着までにダービーの優先出走権が与えられ、日本ダービーと同じ2400メートル、場所も東京レース場と同舞台である。皐月賞に出られなかった・仕上がり切らなかったウマ娘や、2000メートルが短いというウマ娘が出場することの多い重賞だ。なお、『青葉賞の上がりウマ娘はダービーで勝てない』というジンクスがあるため、如何せんファンにとっては絶妙な立ち位置にあるレースかもしれない。
ゼンノロブロイ、レオダーバン(ウマ娘ではリオナタール)、シンボリクリスエスなど……青葉賞を制した数々の名馬がダービーで敗れてしまったのだから無理もないところもあるけど、それは置いといて。
日本ダービーの2つ目のトライアルレースは、オープンクラス・プリンシパルステークス。東京レース場の2000メートルで、1着にのみダービーの優先出走権が与えられる。
他にも京都新聞杯やNHKマイルカップからダービーにやってくるウマ娘もいるし、もちろん皐月賞から直行してくるウマ娘もいる。日本ダービーに関しては皐月賞からそのまま出走するケースが多いので、個人的にはトライアルレースの影が薄いような気がしないでもないが……それはさておき、青葉賞に話を戻そうか。
青葉賞には、右脚の骨折から復活したグラスワンダーが出る。3月の終わりから密かにトレーニングを続け、ずっと青葉賞に備えていたそう。グラスちゃんは『骨折しなければNHKマイルカップが本来の春の目標でしたが、日本ダービーを目指すのも悪くないと思いまして♪』と言っていた。ニコニコしながらも私に対する闘志が剥き出しでちょっと怖かったのは秘密。
そんな彼女について気がかりなことは――青葉賞もダービーも左回りなことだろうか。左回りである以上、どうしても右脚に負担がかかりやすいという事実がある。高速で走る私達ウマ娘がコーナーをカーブする時、遠心力を殺すために外側の脚で思いっ切り踏ん張らないといけないからだ。この場合は左回りする際の外側、右脚に負担がかかることになる。
怪我明けの右脚を庇って全力で走れるかと問われれば甚だ疑問だ。彼女の骨折した右脚が全く元に戻っているなら良いが……怪我前と感覚がズレて無意識に脚を庇ってしまう結果、
ウマ娘は高速で走る以上、怪我とは切っても切り離せない。特にその脚はガラスの器官と揶揄されるほどには脆い。一度怪我をしてしまえば――ウマ娘によっては生来骨の形が歪んでおり全力で走れない者もいるが――最盛期の走りを取り戻せなくなる者も少なくない。例を挙げればキリのない、呪いのような運命。
だからこそ、トウカイテイオーの復活が歴史と記憶に残る
……私はグラスちゃんの復活を願っている。だって、彼女はマルゼンスキーの再来と謳われたウマ娘で、ここで終わるような
5月1週目の土曜日。私はトレーナー室に押しかけて、とみおと一緒にグラスちゃんの青葉賞を観戦することにした。既につけてあったモニターの画面には、大賑わいの東京レース場のスタンドとターフが映されている。
「コーヒーいれて来たよ〜」
「おう、サンキュ〜」
最近のトレーナーの生活習慣はかなり乱れている気がする。部屋の隅には色んな本――に隠れて栄養ドリンクが積み重なっているし、とみお自身もちょっと痩せて見えるくらいだ。年末付近の超絶ブラックじみた生活リズムがやっと直ってきたと思ったのに、ダービーが近づくにつれてその生活習慣に戻っている気がする。私が手料理を食べさせて寝かしつけてあげないとダメだなこれは?
私はソファでゆっくりしているとみおの隣に座り、お尻をきゅっと彼の方向に寄せた。第10レースの青葉賞が始まるまではまだまだ時間がある。パドックまで1時間くらいあるなぁ。さっきまで第9レースの3勝クラス条件戦・春光ステークスが行われていたものの……もうウイニングライブも終わってしまって、テレビ画面はずっと寂しいままだ。
お昼ご飯を食べてきたのは失敗だったかなぁと思いながら、私はどんどん隣の彼の肩に寄りかかり始めた。一応レース研究のための本を開きつつ、彼の横顔をちらちらと窺う。
「……どうしたアポロ? さっきから耳と尻尾が当たってるけど」
「別にいいでしょ」
「え? まぁ……別にいいけど」
私は露骨に彼の太ももの辺りを尻尾で叩きながら存在をアピールする。耳は興奮して勝手に暴れているだけで、特に意識はしていないのだけど。
こうして彼にベッタリ甘えるのはいつぶりだろうか。4月……いや、正月ぶりくらいか。だったらいいじゃんね、ちょっと甘えるくらい。
ダービーが迫っていなければ、本を投げ出して彼の膝枕でも堪能してしまいそうなくらいの気持ちだ。まあ、そこまで大胆になってトレーナーに迫れるほど計算高い女じゃありませんけどね。
――なんて思っていたのだが、私はいつの間にか片手で本を読み出していて、無理矢理空けた方の手で彼の腕を絡め取っていたのが分かった。
……ウマ娘になってから、人に対する好意や熱い闘志を抑えるのが苦手になってしまった。特に最近は、トレーナーに対する好意やライバルに対する闘志がダダ漏れだ。丁度、自分にも力がついてきたな〜と思い始めてからだろうか。精神が極限状態に至って初めて届く『
内心そうやって言い訳していたら、遂に私の右手が彼の左手を探り当てた。私の手は容赦なく彼を絡め取って、ぎゅっと握り締める。さすがにびっくりしたのか、トレーナーの身体が動く。
――何だかじれったいな、と思った。ぼそりと呟く。
「トレーナー、私が日本ダービーを勝ったらさ――」
「……勝ったら?」
「…………」
しかし、それ以上の言葉は続かなかった。「どうしたの?」と彼の顔が私を覗き込んでくる。そのリアクションのせいか、彼の存在に急接近していたことに今更ながら気づいて、紡ぎかけていた言葉は完全に吹き飛んだ。
日本ダービーを勝ったら――何だ? 私は彼に何か見返りを求めているのだろうか。いや、見返りとか対価じゃなく、単純にご褒美が欲しかったからこそ溢れてきた言葉なのかもしれない。
振り返ってみれば、今までおかしなくらい頑張り続けてきた。具体的な夢こそあったが、結果がついてくるかどうかも分からないまま突っ走ってきた。ジュニア級は鬼のようなスパルタで、平均以下だった身体をある程度の水準まで鍛え抜いた。その結果、溜まった疲れが1月にちょっとした怪我として呈出してしまったが……そのクラシック級だって、だいぶ落ち着いたとはいえ狂人の如くトレーニングに打ち込んできている。知識面に精神面に、暇さえあれば磨いて磨いて研ぎ澄ませてきた。まともに休んだ日なんて数えるくらいしかない。
そりゃあこんな生活を続けていたら、知らず知らずのうちに心身共に疲れてしまっていてもおかしくない。さっきの言葉は私の身体から出てきた悲鳴でもあるのだろう。自分自身が気づかないうちに、心さえも疲れているのかもしれない。
「……日本ダービーが終わったらさ、2人でちょっと休もっか」
「アポロがそんなことを言うなんてな」
「失礼な。私だって休みたい時はあるよ」
「はは。まぁ……そうだね。俺達、頑張りすぎてるよな。ちょっとくらい休んでもバチは当たらないだろうし、ダービーが終わったら大きなオフを作ろうか」
「うん……」
「そうか……君と出会って、もう1年になるのか。変な感じだなあ。1年しか経ってない気もするし、1年も経ったっていう気持ちになる時もある」
「…………」
私は本を閉じて、彼の肩にもたれかかった。私の右手と彼の左手は絡み合ったまま。とみおは嫌がる素振りは見せない。彼にしてみれば、子供の背伸びに見えているのだろうか。大人という立場を維持したまま、私のじゃれあいに付き合ってくれているだけなのだろうか。
私はエスパーじゃないから、人の内心なんて読み取れない。もちろんトレーナーだって私の本心は分からないだろう。だからこそ、この気持ちを確かな言葉として人に伝えるのには、とてつもない勇気が必要だなと思った。
……日本ダービーも恋のダービーも、難しすぎるよ。
私は目を閉じて、須臾の記憶に想いを巡らせる。
「いざ振り返ってみると、時間が過ぎるのなんてあっという間だね」
「時間の感じ方の不思議は永遠に解けない謎だな」
「こういうのって何て言うのかな? ……光陰矢の如し?」
「はは、難しい言葉はシンボリルドルフが詳しいだろうな」
「…………」
「いてっ、何で尻尾で叩くんだよ」
「……別に。何でそこで会長さんの名前が出るのかな〜って思っただけだし」
「え〜」
「え〜じゃないよ、もう」
そこで会話は途切れた。どちらかが話すことを嫌がったとか、そういうわけじゃない。ただ単純に、何となく終わっただけ。お互いの手にそれぞれの温もりを感じたまま、時が過ぎていく。部屋の中には、2人の吐息と微かに混じったコーヒーの匂いだけが立ち昇っていた。
私達が無言でしばらくの間を過ごしていると――トレーナー室のモニターが切り替わり、元気な実況の声が聞こえてきた。
いよいよダービーのトライアル、青葉賞が始まるのだ。気持ちをしゃんと立ち上げて、私は彼の手を離した。少し手汗が出ていたのでぎょっとしたが、彼が気にしているような素振りはなかったので一安心。レース研究の本を隅に置いて、私は自分とトレーナーの分のコーヒーのおかわりを注ぎに向かった。
キッチンからソファに戻ってくると、モニターの中には撮影スタジオに呼ばれたウマ娘好きの芸能人や元トレーナーの予想が流れていた。
青葉賞の出走表は以下の通り。
1枠1番、11番人気ジュエルガーネット。
1枠2番、15番人気サマーボンファイア。
2枠3番、16番人気メイデンチャーム。
2枠4番、14番人気イレジスティブル。
3枠5番、17番人気ホリデーハイク。
3枠6番、12番人気マッキラ。
4枠7番、13番人気プカプカ。
4枠8番、3番人気プリスティンソング。
5枠9番、9番人気ソワソワ。
5枠10番、4番人気ジャラジャラ。
6枠11番、10番人気ミュシャレディ。
6枠12番、2番人気ミニジニア。
7枠13番、1番人気グラスワンダー。
7枠14番、5番人気コンフュージョン。
7枠15番、6番人気ハートリーレター。
8枠16番、7番人気モアザンエニシング。
8枠17番、8番人気カイコウイチバン。
8枠18番、18番人気ミニオーキッド。
当然の如く、フルゲートでの開催だ。それもそのはず、トゥインクル・シリーズに携わる者なら一度は夢見る舞台『日本ダービー』への切符を賭けた戦いなのだから。青葉賞に勝ったウマ娘が負けるとかいうジンクスなんて関係なく、私達は日本ダービーに出場したいのである。
さぁ、青葉賞は前年度ジュニア級短距離王者のグラスワンダーが1番人気。丁度テレビ画面の中で、彼女の距離適性に対する疑問や、怪我明け鉄砲となった出走への懸念が語られているため、ぶっちぎりの1番人気というわけではないが。
2番人気は中距離の安定性に定評のあるミニジニア。これまでの重賞で好走を続けており、2400メートルへの距離延長はプラス要素とのことだった。
そして私が気になったのは――4番人気、ジャラジャラ。私のメイクデビューで不運の衝突事故を起こしてしまったウマ娘だ。まさか、彼女もオープンクラスに上がってきているとは思わなかった。
先程からとみおが微妙な表情をして、モニター中に映るジャラジャラと私を見比べている。別に私は気にしていないのだけど、彼は私がまだ根に持っていると思っているのかもしれない。そうでなくても、因縁の相手だから当然の反応なのかもしれないけどね。
パドックが始まると、次々にお披露目が行われていく。私はとみおと「この子が来そう」「調子が良さそうだね」などと話し合いながら、18人のウマ娘達の様子を見守った。そして10人目にやってきたのは――4番人気のジャラジャラちゃん。
『続いては5枠10番、ジャラジャラ。4番人気です』
『クラシック級になって実力を伸ばしてきたウマ娘のひとりです。初の重賞挑戦になりますが、この高い人気は実力の裏付けですよ。緊張せず頑張って欲しいですね』
一時は彼女の幻影に悩まされた。しかし、それはもう過去のことだ。むしろ一度深く関わったからか、彼女を応援する気持ちが強い。
私は画面越しに彼女のトモや毛艶を確認する。私は何度か深く頷いて、隣のとみおの顔を見上げた。
「とみお。ジャラジャラちゃん、もしかしたら
「うん。ジャラジャラは絶好調そのものだ。順調に行けば、上の順位に突っ込んでくるだろうな」
あの事故以来、ジャラジャラちゃんは最終コーナーで大きく速度を落としてしまうイップスのような症状に陥ったと聞く。それがG2で4番人気を張るまでになったのだから、そのトラウマも克服されたのだろう。私は胸が熱くなるような想いに駆られた。
続いて私が注目するウマ娘は、無論この人――グラスワンダー。故障期間中、己の中に練り上げた闘志のみで『
彼女は体操着姿で、観客に向かって控え目に手を振っている。パッと見でも調子は『普通』寄りの『好調』と言ったところか。本番までの期間で調子を上げ、ダービーにピークを持ってくる作戦なのだろう。そこら辺はトレーナー間で戦略の異なるところだ。
「ジャラジャラちゃん達に比べたら元気はないけど、
「あぁ。怪我明けとはいえ、やはりジュニア級短距離王者は格が違う。何せG1ウマ娘だからな……他のウマ娘は捻られるかもしれんぞ」
グラスちゃんは栗毛の髪を靡かせながら身を翻すと、画面の端を通って消えていった。画面を通してでも伝わってきそうな、双眸に秘めた抜き身の刃のような威圧感。相変わらず闘志が強すぎるなぁ……東京レース場にいたら、私もブルってたかもしれない。何となく寒気を感じて、私はコーヒーのおかわりを取りにキッチンに向かった。
パドックのお披露目が終わると、遂に本馬場入場である。18人のウマ娘達が一斉にターフを走り始め、馬場状態を足の裏で確かめている。
今日の東京レース場は25度、曇の稍重の発表である。若干走りにくいターフの状態だが、『東京レース場の2400メートルを経験できる』というだけでも、皐月賞からダービーに向かうウマ娘達に対して相当のアドバンテージを付けることができる。そういう意味でも『東京レース場巧者』が明らかになるかもしれないため、特に見逃せないレースだ。
返しウマが終わると、ファンファーレが鳴り始めた。画面を隔てていても緊張感と高揚感に襲われる。私はぶるると震えてから、一度深く深呼吸して、モニターに向き直った。
『曇の東京レース場。日本ダービーのトライアルレース、G2・青葉賞がいよいよ幕を開けます! 誰もが憧れるダービーへと希望を繋ぐのは一体誰になるのか!? ウマ娘のゲートインが完了し、いよいよ発走準備が整いました! いよいよスタートです!』
現地にいないと、レースというのはあまりにも早々と展開される。青葉賞に出ている子……というよりは、観戦する私の心の準備ができないまま、私の耳にガシャコンという音が響いてきた。
『――スタートしました! 各ウマ娘バラついたスタート。上手いスタートを切ったジャラジャラが前に行きそうです! 1番人気のグラスワンダーは中段前の方につけました。今回は先行気味のレースになるのでしょうか? 注目しましょう』
先陣を切ったのは、5枠10番のジャラジャラ。彼女は逃げウマだ。どんどん後続を引き離して、第1コーナーに差し掛かる頃には完全にハナを奪ってペースメーカーとなった。
そんな彼女の2バ身後ろを行くのは――4番手に控えたグラスワンダー。第2コーナー曲がって、少し走りにくそうに足元を見ているが……やはり右脚の骨折が尾を引いているのか? 手に汗握りながら、私ととみおはモニターに食いついた。
『第2コーナー曲がって、ペースは標準的です。おっと、ここで先頭のジャラジャラが少しペースダウンしました。ここからスローペースに持ち込んで、前有利の展開を作るつもりでしょうね』
『そうなると、今の詰まった集団を抜け出すのは難しくなる差し・追込勢はちょっと厳しそうです。しかし、これ以上ジャラジャラを放っておく彼女達でもないでしょう。ここからレースが大きく動きますよ』
第3コーナーの曲がり始め、実況解説の予想通りレースが動き始めた。先行集団5番手につけていた2番人気のミニジニアが、ここに来て仕掛け始めたのだ。スタミナ勝負に自信アリという前評判通り、大外を回って2番手まで躍り出る。そのまま3、4コーナー中間でジャラジャラと競り合い始めた。グラスワンダーはまだ動かない。
『第3コーナー曲がって、ミニジニアがジャラジャラと潰し合っています! ジャラジャラ苦しそうだ! ジャラジャラの先頭はここで終わるのか!?』
『後続が続々追い上げてきていますね。これはロングスパートの決着になりそうです』
『第4コーナー曲がって直線に入る! ここでジャラジャラと入れ替わるように先頭に上がってきたのはミニジニア! 1番人気のグラスワンダーは3番手! 東京レース場の直線は長いぞ! ここからどうなるか!?』
最終コーナーから最終直線に入って、グラスワンダーがようやっと上体を前傾させて末脚を爆発させた。しかし、残り400メートルを切っても、思うような加速が来ない。朝日杯で見せたような圧巻のパフォーマンスが飛び出す気配がない。グラスワンダーの表情が苦しげに歪んでいる。
「と、とみお――これって……」
「…………」
私は思わず彼の袖を引くが、彼からの返事は返ってこなかった。モニターから聞こえる実況だけが大きな声を張り上げている。
『残り200メートルを切って、先頭ミニジニア!! 1番人気のグラスワンダー2番手に上がってきた!! これは届くのか、届かないのか!?』
残り200メートルを切って、ジャラジャラと入れ替わるように2番手まで躍り出たグラスワンダー。大歓声で聞こえないが、彼女の口は大きく開いて何かを叫んでいるようだった。
そのままグラスワンダーが、アタマ差でミニジニアを躱したところで――ゴールイン。グラスワンダーの見事な復活勝利であった。
『ゴールッ!! グラスワンダーお見事!! 右脚の骨折をものともせず見事な復活勝利を上げ、ダービーに名乗りを上げました!!』
ゴール板を駆け抜けたグラスワンダーが、観客席に向かって小さく手を振っている。私ととみおはそんな彼女のレースを観戦し終わって、顔を見合わせた。
「……思ったより、怪我の影響は大きそうだな」
「……うん」
こうしてG2・青葉賞はグラスワンダーの勝利で幕を下ろした。
――そして、青葉賞から一週間後のG1・NHKマイルカップにて。
私ととみおは衝撃的な宣言を耳にすることとなった。
『――私は、日本ダービーに参戦します!!』
それは、グリーンティターンを破ってNHKマイルカップを優勝したエルコンドルパサーの口から飛び出した発言だった。
こうして、日本ダービーは『6強』が揃い踏みすることになったのだった。