ゆるふわ芦毛のクソかわウマ娘になってトレーナーを勘違いさせたい   作:へぶん99

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57話:キキセマル

 夏合宿を始めとしたトレーニング漬けだった8月が終わり、9月になった。学校の授業が再開し、合宿から帰ってきた多くのクラスメイト達の肌は黒々と焼け上がっていた。夏の間会えなかった友達と交わす会話といったら、やれ肘を曲げるとめっちゃ肌が黒く見えるだとか、夏の間にどんなトレーニングをしていただとか、実家に帰って家族と久々に会ってきたとか、そんな感じだ。

 

 そのような近況報告が終わって話題に上がってくるのは、タイキシャトルやシーキングザパールの海外レースだ。凄かったよね、かっこよかったよね、私達もいつか海外で戦いたいなぁ――なんて語らいながら夢うつつになって。長期休暇の気分が抜けきらないまま、絶妙に集中できない授業が始まるのだった。

 

 先生達も生徒が集中できない精神状態にあると分かっているのか、授業を早々と切り上げたりガイダンス的な内容にしたりして、9月最初の1週間は比較的楽な授業となった。

 

 その暇な期間と夏休み後半を利用して、私は空いた時間に英語やフランス語などの外国語の勉強を始めていた。超長距離レース――特に4000メートルG1であるゴールドカップとカドラン賞――の開催される国がイギリスとフランスだからである。今からやっておいて損はないだろうしね。

 

 英語は一応大学レベルまで修めていたので、問題となったのはフランス語である。ある程度なら聞き取りはできるようになったが、果たして現地の生きた言語を聞き取れるかどうかが些か不安だった。当然、海外遠征ができるくらいの実績を積むのが先決なのだけど。

 

 こうしてぬるりと始まった秋のクラシック戦線。ティアラ路線はG3紫苑ステークスから、クラシック路線はG2朝日杯セントライト記念からの始動である。

 

 私は「菊花賞→ステイヤーズステークス→有記念」というローテーションを、グリ子は「セントウルステークス→スプリンターズステークス→マイルチャンピオンシップ」のローテーションを予定している。

 

 菊花賞に出るであろうウマ娘――スペシャルウィークは「神戸新聞杯→菊花賞」、キングヘイローは「セントライト記念→菊花賞」、セイウンスカイは何とシニア級との混合レース「京都大賞典」を経て菊花賞にやってくるローテーションを選んだ。それぞれが別のステップレースを選択したため、本格的に激闘するのは菊花賞本番にずれ込んだ形になる。

 

 菊花賞は「俺」が混じる前のアポロレインボウが目標にしていたレースだ。今なお心の底に疼く最強ステイヤーの夢を叶えるため、絶対に負けられない戦いになる。

 

 そうして菊花賞に向けてトレーニングをしていた時のこと。絶好調をキープしていた私に、トレーナーが3000メートルのタイムを計測してみようという話を持ちかけてきた。

 

「――というわけだ。どうかなアポロ」

「うん、いいよ。もう菊花賞まで時間がないもんね」

 

 辺りには誰もいない、真っ暗闇の門限1時間前。ナイター照明だけがトラックコースを照らしており、冷たい風が吹いている。しかして、室内トレーニング場で温められた身体はその冷たさを心地よく感じていた。

 

 コース上に足を踏み入れると、しっとりと湿った芝の具合が確かめられた。場状態は稍重と言ったところか。トレーニングシューズの感覚をチェックしつつ、爪先でターフを弾く。小さな衝撃に呼応するようにふくらはぎの筋肉が揺れ、柔らかで靱やかな筋肉が育っているのだと実感できた。

 

 夏合宿が終わってもトレーニングによる身体の成長は止まらなかった。ただ、成長のしやすさに関係があるのか、大きく伸びたのはスタミナに限られていたが――集中的なスタミナトレーニングの結果、スタミナ量は同世代の平均を圧倒的に凌駕した。度重なるプールトレーニングによって肺活量も爆増し、もはやマラソン選手になった方がいいんじゃないかと思えるまでになっている。

 

 無論、これからの主戦場は長距離や超長距離。走る距離が伸びるのだから、未知の事柄も増えるだろう。そこに対する恐れはもちろんあったけど、どちらかと言えばワクワクの方が多くを占めていた。中距離を走る際に感じていた、どことない閉塞感というか窮屈感――恐らく距離適性の低さによるもの――これを気にせず走れると思うだけで嬉しくなってくる。

 

 軽い準備運動が終わると、早速スタート位置に立って頷いた。門限まで時間がないし、もし誰かに3000メートルを走っているのがバレると厄介だ。さっさと走ってさっさと終わらせるべきなのである。とみおはその合図を確認すると、大きく息を吸い込んだ。

 

「それじゃあ行くぞ。位置について、用意――」

 

 ドン、と叫ばれると同時、ストップウォッチの電子音が小さく響く。露を含んだ芝を蹴りつけてスタートした私は、ライバル達の幻影とレースを始めた。ナイターでのレースなんて地方やドバイでしか有り得ないし、ライバル達に予想だにしないレベルで実力差をつけられているかもしれないから、無駄な予行練習かもしれないけど。

 

 夜風を切り裂いて、私と3人の幻影がレースを始める。芦毛のトリックスター・セイウンスカイ、世代屈指の末脚を持つ不屈の王・キングヘイロー、圧倒的なスケールを持つダービーウマ娘・スペシャルウィークが確かな圧力を持って私を追随してくる。

 

 セイウンスカイの幻影が私に競りかけてくるが、やがて諦めたように2番手につく。3000メートルの道のりは長いのだ。彼女のスタミナが持つのは精々3200〜3400メートルなものだろう。4000メートル分のスタミナをフルに使って狂走し続ける私と争うのは得策ではない。

 

 たとえ幻影だろうとスタミナは無限でないから、その辺は分かっているのだろう。黒い霧に覆われたセイウンスカイは彼女自身のペースを刻み始めた。

 

 3000メートル――3キロメートルって言った方が長く感じるかもしれないけど――とにかくこの距離は半端じゃない。短距離が過酷じゃないと言いたいわけじゃないが、距離が長ければ長いほど全力疾走の時間も増える。競り合う時間も精神を磨り減らす時間も増える。かつてロング・ディスタンスのレースが重んじられ、長距離レースを制することが最強ウマ娘の証とされたのはそのような理由がある。

 

 私が――アポロレインボウが憧れた理由もそこにある。激しくて、厳しくて、孤独で、生物の限界に迫るような長距離の消耗戦。それを制するウマ娘のカッコ良さと言ったらない。極限の戦いの中に見出せる生命のエネルギー、躍動感、そして感動。私もレースを観戦するファンのみんなに、そんな感情を与えられるようなウマ娘になりたいのだ。

 

 第1コーナーを回って、セイウンスカイとの差は3身。しかしタイム計測レースはまだまだ序盤も序盤。未だに400メートルすら走っていない。残り2600メートル、日本ダービーの距離プラス200メートルも走らなければいけない。――あぁ、やっぱり長距離って最高だ。頭がおかしくなりそうなくらい。

 

 全力疾走し、限界の速度まで身体を躍動させる。スペシャルウィーク、キングヘイロー、セイウンスカイと差をどんどん広げていく。成長した肉体が破滅的なタイムを刻む。幻影ですら追いつかない、照明に照らされて伸びる影さえ踏ませない。

 

 1000メートルを通過して、経過は順調。タイムは早め。心臓が早鐘のように肋骨を打ち叩いている。ぴりぴりするように喉が痛んできて、酸素が少しずつ足りなくなってきた。心地よい疲れが纏わりついてきて、さながら持久走の序盤を走っているかのよう。

 

 1600メートルを通過したところで、後方にいたセイウンスカイの幻影が仕掛けてきた。彼女にありがちなペース乱し。ハイペースになって私の横に並びかけたかと思えば、急激にスローダウンして2番手に控える動きで私を錯乱してくる。幻影にしては中々の再現度ではないか。

 

 しかし、常に全力疾走をしていればペースが乱れることはない。私の逃げは決して息を入れず、一切ペースを緩めない爆逃げなのだ。長距離では決して己のペースを見誤らない。彼女のトリックが発動するのは私が苦手とする中距離まで。解像度高めなセイウンスカイの幻は、私の無反応を見て諦めたように体力温存に努め始めた。

 

 そして、()()()()()()()が私の爆逃げの狙いだったりする。長距離を走る(劣化版)サイレンススズカがいたらどうするか。ずっとソイツのペースで好き勝手にレースを作られて、あまつさえ逃げ切ってしまうウマ娘がいたらどうなるか。答えは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、である。

 

 競走馬サイレンススズカが特別視されていたのは、その高速逃げが難攻不落だったからだ。常にスパート同然の速度でぶっちぎって、終盤に追い込んでくる後続と同等のスピードで()()――机上の空論じみた走りを熟されたら、後ろのウマ娘はどうしようもない。バ群をコントロールする逃げではなく、ただ己を貫き通す逃げ――賢さの低い私が目指すべきはそういう逃げなのだ。

 

 2400メートルを通過して、残り600メートル。もうじき最後のコーナーが見えてくる。そろそろスペシャルウィーク達がロングスパートをかけ始める頃合だ。夜の引き締まった空気がざわめいて、私の背後から3つの威圧感が迫ってくる。

 

 だが、これまでの2400メートルで開いた差は限りなく遠い。逃げのセイウンスカイはともかく、差しの2人には大差がついている。()()()()()()()()()()()()()勝敗は決したと言っていい。残ったスタミナも600メートルを走り切るには十分すぎる。

 

 最終コーナーを走り抜けて、トレーナーの待つ最終直線を走る。タイムは2分後半といったところ。幻影達がギアを上げてラストスパートの速度に達するが、私の身体も最高速で躍動し始める。

 

 位置取りを押し上げてくる3人に対し、末脚を発揮することによってその距離を縮めさせない。開いた9身以上の差はビタリとも変わらない。これまでの鬱憤を晴らすような走りで3つの幻影に大差をつけ、私はゴール地点を駆け抜けた。

 

 ゆっくりと速度を落とし、ほとんど早歩きのようになりながらトレーナーが待つ場所へとUターンする。息は上がっていたが、プラスで1000メートルくらいなら全力疾走しても問題にならない程度だった。フィジカル面の成長を実感しながらトレーナーに向かって叫ぶ。

 

「タイムは!?」

 

 間違いなく渾身のタイムが出た。私は嬉々としてトレーナーの元に駆け寄る。しかし、彼の反応は想像と違ったものだった。

 

「アポロ、すぐに靴下を脱いで足を見せてくれないか」

「え……え? 何で?」

「いいから」

 

 とみおの顔面は蒼白だった。足の臭いが気になるとかそんな躊躇いが生まれないくらいには真剣な表情である。何が起きたんだろうか。特に怪我はしてないと思うんだけど。疑問に思いながら、私はお尻を地面に付けて靴を脱ぎ始めた。そんな最中、とみおが口をほとんど開かずに呟く。

 

「……タイムが3()()()()()()だった」

「えっ」

「非公式だが世界レコードだ。完璧じゃない今この状態でこのタイム……だからこそ――」

 

 靴下を脱ぎ終わると、ガラスでも扱うかのような優しい手つきでトレーナーが私の足に触れてきた。ふくらはぎの辺りを持ち、足裏をゆっくりと動かして痛みがないかを逐一確認してくる。痛みも違和感も全然なかったので、私だけが置いてきぼりを食らっているような感覚だった。

 

「ね、ほんとにどうしたの? 良いタイムが出たんだから、褒めて欲しかったところなんだけど」

「…………」

 

 とみおは溜め息を吐くと、どうしたものかとボヤいて顔色を曇らせていく。……あまりにも変な反応だ。担当ウマ娘が超絶レコードを叩き出して喜ばないトレーナーがいるなんて。何か隠し事があるに違いない。でなければ、彼が私の成長に喜ばないはずがないのだ。隠し事はやめてほしいなと私が念押ししてみると、とみおは観念したように理由を話し始めてくれた。

 

「――ということなんだ。隠しててごめん」

「……そう、だったんだ」

 

 ――向上していくフィジカル、長距離に適応した肉体。膨大な出力でもって爆逃げを行えば、脚や心肺機能が未知の領域に耐え切れず……その結果として生命に関わるレベルの致命的な怪我をしてしまうかもしれない……と。

 

 私は愕然とした。距離適性が合致することによって出てくる影響もあるのか。確かに思いっ切り走れることで怪我のリスクは高まってしまうかもしれないけど、まさか命の危険があるレベルの怪我だなんて……にわかにも信じ難い。

 

 しかし、私はレース中に事故が起きないわけではないことを思い出して、口を噤んだ。……そうか。レース中の事故は体調不良や脚部不安のみが原因となって起きるわけではないのだ。肉体の限界を超えるような走りをすることで起きる事故だって、きっと無いわけじゃない。

 

 ……とみおが危惧しているのが後者というわけか。唯一無二とも言える超長距離適性と、始めから終わりまで肉体を酷使する爆逃げが仇となって、私は危険に曝されているわけだ。

 

「夏合宿の間、沖野さんや天海さんと沢山話し合ったんだ。これまでの怪我の事例、ウマ娘のケア方法、色んな知識を教えてもらった。どうやらサイレンススズカも同じ状況にあるらしくて、沖野さんも悩んでいたよ」

「スズカさんも……」

 

 アグネスタキオンがとみおに言ったらしい「ウマ娘の未知」は、速度の果てにあるのだろうか。詳しくはよく分からないけど、どんな危険があろうと私には菊花賞を譲れない理由がある。最強ステイヤーの夢だ。恐らくサイレンススズカにも譲れない景色があるだろう。私を含めたウマ娘が怪我のリスクを知らないわけがない。ターフの上で生きる以上、そこら辺の危険は織り込み済みなのだ。

 

 そして、とみおが私にこの事を言い出せなかった理由も分かる。私や彼自身のステイヤーに対する憧れがあまりにも大きくて、今更引くに引けなかったというのもあるからだ。アグネスタキオンが示した脅威など、私達が認知している怪我のリスクの一種に過ぎない。 そんなリスクを示されたからといって、今まで膨らませてきた夢を諦めるわけにもいかないし。

 

 ただ、気持ちも身体も本番とは比べ物にならないくらい未熟な今の私が3000メートルの世界レコードを記録したことで、とみおの考えは変わった。このまま菊花賞本番に向けて身体を仕上げていったら、肉体の限界を超えた走りが私の身体を壊してしまうかもしれない――その畏怖が現実味を帯びてしまったのだ。

 

 触診が終わって一息ついたとみおは、改めて私の顔を見てくる。

 

「……アポロの走りを見て、アグネスタキオンが言っていた言葉の意味が再確認できた。君のトレーナーとして、このまま突き進んでいいのか止まるべきかの判断がつかなくなってきてる」

「…………」

「普通、レース前ほどの準備をしてないタイム計測でこんなタイムは出ないんだ。最近はレースの高速化が進んでると専らの声があるけど――それにしたって異常だよ。アポロがレースの時みたいに鬼気迫る全力疾走しているようには見えなかったし……」

 

 3000メートルのタイム計測は、「ならちょっと計測してみますか」という軽いノリで行われた。もちろん本気で走ったけど、3:00.0などという世界レコードを出すつもりで走ったわけではない。夏合宿を含めたトレーニングによる成長が、まさか大きな足枷となって襲ってくるとは。

 

「もちろんアポロが菊花賞でぶっちぎる姿は見たいよ。でもそれ以上に、アポロが怪我をするところなんて死んでも見たくないんだ。勝利はかけがえのないものだけど、君の無事はもっと大切なんだよ」

「……でも、今の走りで怪我をしたわけじゃないし。心配なのは分かるけど、案外本番も無事に走り切っちゃうかもしれないよ?」

「……あぁ。そういう期待もあるんだ。……でも……いや……くそ。本当にどうしたらいいか分からないんだ……」

 

 苦悩に満ち、歪むトレーナーの顔。夢の成就へ背中を押したいファンとしての憧れと期待、保護者として対象の身を案ずる感情――これらがごちゃ混ぜになって彼を板挟みにしている。

 

 彼からの答えは期待できないな、と思った。若駒ステークスによるトラウマがあるのかもしれない。あの時はスパルタトレーニングの疲労によって発生したものだったから対策も立てられたけど、今は状況がちょっと特殊だ。

 

 言わばオーバースペックによる自滅、成長すればするほど高まっていくリスクと私は戦わなけばならない。相手に勝つためには成長し続けなければならないというのに、トレーニングすればするほど破滅が濃厚になると来る。憎らしいほど、どうしようもない問題ではないか。

 

 私は唇をぎゅっと噛み締めた。とみおは私が「それでも挑戦したい」と言えば首を縦に振るだろう。「怖いからやめたい」と言っても納得するだろう。私の運命は私が決めるしかない。私が選択するのだ。リスクを承知で全力疾走するか、それとも菊花賞を諦めるか。

 

 破滅か、夢を諦めるか。

 

 焼き切れそうな思考の中、瞼の裏に映った憧憬は消えない。カッコよくて、眩しくて、逞しいステイヤー達。リスクなど知るか――そう一蹴して、夢への憧れに身を任せたい。しかし、若駒ステークスの後で涙していたトレーナーの顔と声が忘れられなかった。大切な人が流す涙。それを見る無力な私。はらわたが冷え切るような、心臓が氷漬けにされるようなあの感覚は二度と味わいたいものではない。

 

 そんな私の脳裏に、一筋の閃光が迸る。それは他愛のないトレーナーとの会話で。――確か3月に話したような、「桜の開花」についての話だった。

 

 ――アポロ。桜と言うのはね、寒くならないと芽吹くのが遅くなるんだよ。

 

 ――不思議だよね。厳しい寒さに曝されないと、目覚めが遅くなっちゃうだなんてさ。

 

 本当に何でもない、日常の会話だ。なぜ今このタイミングで思い出したのだろう。無意識が指し示した言葉の意図は分からないけど、多分魂が大事なことだと導いてくれた言葉なのだ。

 

 日本ダービーでは同着だった。菊花賞という長距離の舞台はきっと、派手に勝つか派手に負けるかの2択になる。失敗しなければ間違いなく1着を取れる自信があるのだ。つまり、ド派手に咲き誇るか、芯まで枯れるかのふたつにひとつ。

 

 ――今だ。私という桜が今度こそ咲き誇れるのは、この長距離の舞台しかありえない。これまでの私が、どれだけ苦しんできたと思っているのだ。逆にここで咲かないとおかしいくらい苦しんできた。この恐怖に似た寒さを前にしてあえて突き進むという選択肢を取ることで――私は満開に咲き誇れるはずなのだ。

 

 私は迷いに暮れるとみおの顔を覗き込んで、強く宣言する。

 

「トレーナー。私、それでも前に進むよ」

「……!」

「一緒に菊花賞に向けて戦おう、とみお。私は夢を絶対に諦めないし、どれだけ厳しい壁が立ち塞がってもぶっ壊すウマ娘だから」

「アポロ……」

「距離適性の壁も一緒にぶち壊してきたじゃん。タキオンさんが言う未知の領域もさ、一緒に乗り越えようよ。……二人で一緒なら、きっと出来るって」

「……そう、だな。アポロはそういうウマ娘だったな」

 

 とみおはゆっくりと立ち上がると、私の手を取って引き上げる。

 双眸を突き合わせて確認するように、鼓舞するように私達は言葉を交わす。

 

「一緒に行こう、アポロ。俺は君を信じる。菊花賞、絶対に勝つぞ」

「……うんっ!」

 

 こうして菊花賞に向けて改めて決意を固めた私達は、爽やかな夜風が吹く中で解散した。

 

 時は9月中旬。菊花賞トライアルレースがいよいよ始まる。





【挿絵表示】

Tiruoka0088 様に素晴らしい絵を頂きました。56話の水着アポロレインボウの絵です。該当話にも掲載させていただきました。

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