ゆるふわ芦毛のクソかわウマ娘になってトレーナーを勘違いさせたい   作:へぶん99

87 / 151
75話:有マの出走メンバー豪華すぎでしょ

 有記念に出走するウマ娘が出揃った。

 

 1枠1番、マチカネフクキタル。

 1枠2番、グラスワンダー。

 2枠3番、セイウンスカイ。

 2枠4番、エアグルーヴ。

 3枠5番、ジュエルジルコン。

 3枠6番、ハッピーミーク。

 4枠7番、リボンフィナーレ。

 4枠8番、メジロブライト。

 5枠9番、ブリーズエアシップ。

 5枠10番、リバイバルリリック。

 6枠11番、ラピッドビルダー。

 6枠12番、リトルフラワー。

 7枠13番、アポロレインボウ。

 7枠14番、メジロドーベル。

 8枠15番、ジョイナス。

 8枠16番、ディスティネイト。

 

 ここにいないエルコンドルパサーは来年のヨーロッパ遠征のために休養、サイレンススズカはアメリカ遠征のために休養。スペシャルウィークは神戸新聞杯→菊花賞→ジャパンカップと秋に3戦しているため彼女も休養。キングヘイローは短距離レースの身体作りをするために一旦休息を取り、トレーニングメニューの見直しをするとか。

 ハッピーミークはダート路線とティアラ路線を転々とした後、有に参戦である。東京大賞典との選択肢があったが、彼女はこちらを選んだらしい。

 グリ子はマイルチャンピオンシップの後グランプリに出ようとしたが、距離適性の問題で泣く泣く出走を取り止めた。ファン投票では上位に来ていたけど、まあ仕方ない。ベストな距離が短距離だから、マイラーのダイタクヘリオス先輩のようにはいかないだろうし。2500の中山はペースが緩みやすいため、マイラーや中距離のウマ娘でも持ったりするが、さすがにスプリンターが有出走は事故というか事件である。

 

 出走表が出揃ったところで、今日も今日とてトレーニング。併走相手にグリ子が名乗りを上げてくれたので、有難みを実感しつつ回復スキルを研究しながら走り込みを続ける。

 彼女を斜め後ろにつけて、気が済むまでスパートによる追い込みをかけてもらうのだ。その間グリ子はプレッシャーをかけてくれというトレーナーの指示があるので、常時デバフを受けた状態での併走である。

 

 成長したグリ子の威圧感を深呼吸で受け流しているのだが、やはり深呼吸中に速度が下がるのはどうなんだろうという想いが強い。グリ子がスプリンターなせいもあるが、深呼吸した途端彼女に前を行かれそうになるのはしょっちゅうだった。

 

 大体数日程度で私は深呼吸のコツを理解し、今は意図したタイミングで『減速→深呼吸』という行程をスムーズに行えるようになった。その瞬間は速度こそ緩むものの、後々に使うスタミナを温存できるため、実質全力疾走できる距離が伸びるのと同義である。ただ、有記念の2500メートルという距離で使用するかは正直微妙なところ。

 むしろスタミナは余るだろうから、この深呼吸のスキルは来年の海外遠征に向けた布石と言ったところか。

 

 2500メートルという微妙な距離のG1は、恐らく日本にしか存在しないだろう。気持ち的には日本ダービーと変わらないから、返しウマで全力疾走する必要があると思う。

 日本の区分で言えば「中長距離」もしくは「長距離」とされる年末のグランプリだが、私の得意距離は3000メートル以上の超長距離。2500メートルでも本来の実力を発揮して走れなくもないが、どちらかと言えばこの距離は無尽蔵のスタミナよりも後半の爆発力によって決着がつきやすいため不安も多い。

 

 それに、2500メートルの中山レース場というのはスタート直後にコーナーがあるために内枠有利だ。運悪く13番という外枠を引いたため苦戦が強いられるだろう。

 こればっかりは運なので仕方ないが、内枠にセイウンスカイやエアグルーヴがいるのはかなり嫌だ。特にエアグルーヴさん。彼女は“女帝”という異名の通り安定して成績を残し続けているウマ娘で、周囲にプレッシャーを撒き散らしてペースを操るタイプのレース作りをするのである。

 

 ……もしかしたら。あくまで仮の話だが――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、さすがの私と言えどスタミナ不足に陥って着外に沈むだろう。エアグルーヴさんの『幻惑の撹乱(かくらん)』、セイちゃんの『トリック』、フクキタルさんの『奇術師』、メジロドーベルさんの『八方睨み』、メジロブライトさんの『スタミナグリード』、ミークちゃんの『鋼の意思』(?)、グラスちゃんの『独占力』……に似た恐ろしい何か――これら全てが私に向かって飛んできたら、無事で済まないのは火を見るより明らかだ。

 

 もしもそうなれば、2500メートルという微妙な距離の上、発展途上ではあるけれど“深呼吸”に頼らないといけないかもしれないな。……後でとみおに相談してみよう。そうなった時どうすれば良いのかを。

 私はぶるると震えながらグリ子との併走トレーニングに励むのだった。

 

 

 

「はい、そこまで! 2人ともお疲れ様」

 

 とみおの声が飛ぶと、私は地面に身体を投げ出した。大きく口を開けて胸を上下させ、必死に酸素を取り込む。茜色に染まる空をぼーっと見上げて、地面の冷たさに項垂れる。仰臥するのに楽な姿勢を見つけたら、ただただ呼吸することしかできない。とんでもなく疲れている。そりゃそうだ、とみおのトレーニングだもん。

 横目でグリ子を見ると、スタミナのない彼女は滝のような汗をかいて私より酷く呻いていた。私の全力疾走に長いこと併走していたわけだから、本質がスプリンターのグリ子には地獄のような苦しみを伴うトレーニングだったはずだ。他のトレーナーのウマ娘が参加してもとみおは変わらず鬼である。

 

 グリ子のトレーナーには怒られないのかなぁ……と思いつつ、私は深呼吸してスタミナをちょっと回復しながら立ち上がった。スタミナ回復の概念がないグリ子はしばらく立てないだろうなぁ。

 

「どうだった?」

「既に深呼吸は完成したと言っても差し支えないな。良くやった」

「当然!」

「さて、有記念でマークするウマ娘だが……正直有力所が多すぎてお手上げだ。どうしようか?」

「う〜ん……やっぱり私は皐月賞が強烈に印象に残ってて。どうしてもセイちゃんを気にしちゃうかなぁ……」

「ふむ、そうだな。俺はエアグルーヴかハッピーミーク、メジロブライト辺りが怖いと思っていたんだが……内枠に入ったセイウンスカイには嫌な思い出があるからな」

 

 とみおは数回頷くと、ノートパソコンのキーボードに指を滑らせる。最後のトレーニングは対セイウンスカイについてのミーティングや想定練習が行われることになるだろう。

 セイウンスカイは頭が良い。思考を全て読み切られて負けた皐月賞は未だに夢に見るくらい嫌な記憶だ。とみおに彼女の対策を頼めば安心だが、メンバーがメンバーなだけに彼女以外のマークをしないのも怖いけれど……賭けに出ないで勝てる相手じゃない。ここは素直にセイウンスカイマークで行く。

 

「あ、そうだ。マークされた時はどうすればいい?」

「気にしなければいい」

「限度があるでしょ。私が言いたいのは、他のウマ娘全員にマークされた時の話だよ」

「……他のウマ娘全員に?」

「うん。私って一応、ダービー菊花賞の二冠ウマ娘だよ? ステイヤーズステークスもダブルトリガーさんに何とか勝って、警戒されないわけないと思うんだけど」

「…………()()()()()()()()()()()()()()()()を見落としてた。そうだよな、アポロが一番の敵なんだから、そうなるよな。……しかし、グランプリに出るようなウマ娘のマークを沢山受けてしまったら、相当厳しい戦いになるよ」

 

 とみおはこっちに来いと手招きすると、ノーパソの画面でとあるレースの映像を見せてくれる。それは私が警戒していたウマ娘達のレース映像だった。

 

「例えばメジロ家の2人が君をマークしたとしよう」

 

 そう言ってメジロブライトとメジロドーベルのレース映像が大画面表示される。まずはドーベル先輩のエリザベス女王杯。レース後半、彼女の周囲にいるウマ娘が突然姿勢を持ち上げて周囲を見渡している様子が窺える。焦ったような顔、急に乱れていく呼吸。その後彼女達は下位に沈み、ゴール直後にスタミナ切れを起こしていた。

 

「これはメジロドーベルが得意とする“動揺”の技術。彼女の視線に曝されればウマ娘は(たちま)ち動揺し、スタミナを余分に消費してしまう。彼女の()()はちょっと特殊で、射程距離がとてつもなく長いんだ。俺も彼女に会ったことがあるんだけど、彼女の怖いくらいの視線は日常生活で養われているんだなと思ったよ」

 

 ……後半の情報はどうでもいいが、()()の距離が関係ないのはかなりまずいと思う。今までの私は大逃げすることによってプレッシャーから逃れていたから、ドーベル先輩の視線を貰ってしまうだけで動揺してしまうのは相当きつい。

 

「そして、どういう技術かは分からないが……メジロブライトも射程距離の長い“スタミナ削り”の技術を使ってくる。俺にその技術の詳細は分からないが、彼女は前のウマ娘の体力を奪って自分のスタミナにしているみたいなんだ」

 

 次にブライト先輩のレースを見る。彼女の得意とする距離はロングディスタンスで、ブライト先輩が出走したレースのほとんどで逃げウマが垂れているのが分かった。それは彼女がレース中盤で行うスタミナ吸収技術によるもので、前のウマ娘にとって存在感を発揮することは間違いないだろう。

 

「で、仮にメジロ家の2人が君をマークしたら……言いたいことは分かるな?」

「……うん。この2人だけでも相当厄介だね」

「そう。2()()()()()()

 

 メジロドーベルの八方睨みに加え、メジロブライトのスタミナグリードが私に向かって襲いかかってきたら。……あまり考えたいものではない。

 ここでやっと気付く。有記念の事前予想で1番人気を取ることの恐ろしさを。ライバル達が持つ()()の凶悪さを。

 

 返しウマを全力で走るわけにはいかない。彼女達のデバフは、彼女達を優駿たらしめている要因のひとつでもあるのだ。もっと彼女達のレース映像をよく見て、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を深く捉えなければならない。

 

「……そっか」

 

 ……ウマ娘には例えば「1600メートル〜2400メートル」という距離適性が存在するが、この距離適性を持つウマ娘だとしても、少なくとも2800メートルくらいまでは走れるものなのだ。勝ち負けが可能かは別として、「限界距離プラス400メートル」くらいのスタミナがないと()()()()()()に対応できないからである。

 

 しかし、メジロ家2人のプレッシャーを受けた途端、多くのウマ娘がゴール板を前にしてスタミナ切れを起こしてしまっている。これが意味するのは、彼女達ひとりひとりの威圧感によって()()()()()()()()4()0()0()()()()()()()()()()()()()ということ。

 ……であれば、私がメジロブライトとメジロドーベル両名にマークされた場合、私は2500+800……つまり実質3300メートルの距離を走る気で挑まないといけないのである。マイナス距離を500と見積もれば、3500メートル。ほぼステイヤーズステークスと同距離と考えなければならない。

 

 さすがにひとりひとりがダブルトリガーさん並のプレッシャーを持つわけではないが、最悪を想定した時、その恐ろしさはステイヤーズステークスを上回る。

 

 仮に15人のデバフを受けると仮定すれば、最悪中の最悪を想像して――2500+(500×15)=10000。つまり1万メートルを走る気概でやらなきゃいけない……って、いや無理でしょ。トライアスロンかな?

 とみおが「中国に8000メートルの平地レースがあるらしいぞ! メジロアルダンの親戚が勝ったんだって! アポロもいつか出たいよな!」って(無理矢理)スタミナを鍛えてくれたけど、それでも1500メートルほど距離が足らない。深呼吸しても間違いなく持たないだろう。

 

 ……まあ、全員が全員デバフ技術を持ち合わせているわけではないから、そこら辺は安心だ。先に挙げた6人――セイウンスカイ、エアグルーヴ、メジロブライト、メジロドーベル、グラスワンダー、マチカネフクキタル――の威圧感に曝されるのが現実的な線か。さすがに15人からマークされた上にデバフを受けるのは……ないと思う。

 

 それでも2500+(6×500)=5500、つまり5500メートルを走るつもりで有記念を走らなきゃいけないって、ふざけんなって叫びたい気分。当日が重場にならなければいいんだけど……。

 

「長距離ってヤバいんだねぇ」

 

 と、スタミナ切れから復活したグリ子が会話に入ってくる。その顔は興味津々と言った風で、しかし内心「そんなやばいレースは走りたくねぇな」と思っていそうな雰囲気が滲み出ていた。概ね同意である。

 

「でも、長距離ってめっちゃ楽しいんだよ。マーク受けた時は地獄の苦しみだけど」

「こっわ……短距離マイル路線は、プレッシャーかける暇があるなら自分に集中して加速しよう! って考えだから、色々と違うんだねぇ」

「私的にはむしろそっち(短い距離)の方がきつそうに思えるんだけど」

「私もそう思ってる。隣の芝さえ青く見えないって感じだわ」

 

 からからと笑い合っていると、とみおがうほんと咳払いしてきた。

 

「勝ち続ければ周りのウマ娘全てが敵になる。しかし、アポロが大逃げなおかげである程度は対抗が可能だ。明日の最終ミーティングでそれを説明するよ。今日のトレーニングはここまでにして、2人ともしっかりと身体を休めるように」

「は〜い」

「お疲れ様でした! アポロちゃん、一緒に帰ろ!」

「うん!」

 

 こうして私とグリ子は一緒に自室へと帰るのだった。

 

 トラックコースの外で、栗毛の怪物グラスワンダーが私を見ているのも知らないで。

 

 

 宿題を終え、グリ子と駄弁(だべ)って、ウマスタを確認して。そのまま横になってベッドの中で微睡んでいると、チャットアプリに通知が入った。

 バナーを反射的にタップしてそのアプリに飛ぶと、私の家族のグループチャットに未読文章が追加されていた。

 

『アポロ、有記念は私とお父さんも現地で観に行くからね』

 

 ――そんな母の言葉に、私はちょっと息が詰まるような感覚になった。実は以前から『ダービーだけは現地に観に行きたい』『せめて菊花賞は』と言っていたのだが、仕事のせいでそれは叶わなかったのである。寂しいなと思いつつ、本当に見に来られると恥ずかしいので微妙な気持ちになっていたのだけれど……。

 私はいきなり恥ずかしくなってきて、突き放すような言葉で返信をした。すぐに『既読2』がつく。

 

『テレビとか配信の方が綺麗に見えると思うよ』

『それはそうかもしれないけど、アポロが頑張ってるところをどうしてもこの目で見たいのよ』

『お父さん達、もう飛行機のチケット取ったから。楽しみだ(^^)』

『私のトレーナーに変なこと言わないでよ!!』

『分かってるわよ』

『(o´・ω-)b』

『顔文字きも』

『(´;ω;`)ぴえん』

『いちいち古い!』

 

 私はウマホをぶん投げて、枕に顔を押し付けた。通知が鳴り止まなかったので、電源ボタンを長押しして黙らせる。

 ……本当は嬉しかった。何せ、トレセンに来てから1度も実家に帰らずトレーニング三昧だったのだから。友達やトレーナーがいて退屈することは無かったが、ふと物思いに(ふけ)ることはあった。

 

 両親に甘えたい欲望がトレーナーにぶつけられていたのもあってホームシックにはなっていないが、いざ両親と再会できるとなると寂しさと期待が膨れ上がっていく。

 グループチャットで事ある毎に『寂しい』『家が静かだ』と伝えてくるのもあって、正直心に来ていたのだ。面と向かって言うのは照れくさいけど、お父さんもお母さんも大好きだから、その文言を見る度に辛かった。

 

 お母さんは変わっていないだろうか。お父さんは太っていないだろうか。色々と思いを巡らせるだけで、自然と笑みが零れてくる。

 ……お母さんはウマ娘だから大丈夫だろうけど、お父さんは私の勝負服を生で見ても大丈夫なんだろうか。俺の娘にへそ出しウェディングドレスとかいう勝負服を用意したのは誰だ、とか言って暴れないだろうか。

 

 ……あ、そう言えば。ホープフルステークスの前に勝負服を着た写真を家族チャットに送ったら、物凄く動揺していたんだった。地方トレーナーだからそういうのは大丈夫だと思ったんだけど、実の娘が攻めた服を着るのは嬉しくもあったが複雑だったらしい。

 

 くすくすと笑って、私は尻尾を揺らす。

 そうだ、とみおに頼んで中山レース場の特等席を用意してもらおう。有記念は日本で一番観客が集まるらしいレースだ、一般の席じゃレースはあまり見えないだろうから。

 

 そうして考えているうちに私は眠りについてしまい、意識が深い闇の中に溶けていった。

 

 いよいよ有記念の開幕だ。

 




メジロブライトはアプリ版ではスタミナイーター(ノーマルスキル)所持ですが、彼女だけ金デバフがないのは寂しいのでスタミナグリード(金スキル)に強化しました
ついでに独占力も都合よく長距離で発動してしまうようになりました
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。