ゆるふわ芦毛のクソかわウマ娘になってトレーナーを勘違いさせたい   作:へぶん99

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83話:牡丹雪

 実家に帰ってきてからしばらく経って、いよいよ新年を迎える。とみおとビデオ通話しながらハッピーニューイヤーの瞬間を迎えた私は、両親にことわって彼と一緒に初詣に向かうことにした。

 一旦睡眠を取って、早朝。とみおと待ち合わせて、近所にある大きめの神社を目指すことにした。初日の出は去年見たので特に固執する理由はない。それよりも、今年の初めも一緒に初詣に行けるということが嬉しくてしょうがなかった。

 

「とみお、あけおめ!」

「あけましておめでとう。それじゃ早速歩こうか」

「ん」

 

 年明けにかけてかなりの雪が降り積もったらしく、ふかふかの雪が地面に20センチほども敷き詰められている。ただ、凍結するよりは遥かに歩きやすいので、片目の見えない私としては大助かりだ。しかも、新年早々誰かが近所の雪かきをしてくれたようで、幅員2メートルほどの道が完成している。

 嫌気が差してくるくらい鋭い寒さの中、私達は神社に向かって歩き出した。すっかり手を繋ぐのに慣れてしまって、自然と手を取り合う。そんな中、雪国出身ではないらしいトレーナーが危うい動きで小躍りを始めた。

 

「やばい!」

「え?」

「ちょちょちょ、滑る滑る!」

 

 雪国の早朝における地面は非常に滑りやすい。水が凍結した部分が最も滑ることは間違いないが、ある程度踏み固められた雪の上も油断すれば足を取られる。とみおは雪国出身が身につけている()()()()()()ができないらしい。

 

「ちゃんと雪国仕様の靴履いてこないからじゃん!」

「いやっ、ここまで雪が積もるとは思わなくてっ! 助けてアポロ!!」

「え〜?」

 

 どんどん姿勢を崩していくとみお。しばらく様子を見ていると、とみおは面白動画よろしく奇妙なダンスを踊り始めた。動画を撮れば爆笑ものなのだが、新年早々滑って転ぶのは幸先が悪すぎる。

 いい加減片目の生活にも慣れていたので、私はグッと足裏に力を込めて彼の腰を抱き寄せた。ウマ娘のパワーなら成人男性くらい片手で持ち上げられる。まるで社交ダンスのワンシーンの如く静止する私達。体格差は結構なものになるが、ウマ娘パワーを持つ私が姿勢を乱した彼を抱き留めるのは難しいことではなかった。

 

「よっと」

「うおお!?」

 

 案外とみおって軽いんだなぁと思いながら、「大丈夫?」と問いかける。彼は魂が抜けたかのように何度も首を縦に振るが、まだ動揺しているらしく全然力が入っていなかった。

 

「…………」

「…………」

 

 ウマ娘の脚力で踏ん張りつつ、ヒトを軽く凌駕する膂力で彼の身体を引き寄せて、しばし睨めっこの形になる。ふと彼が目を逸らしたかと思うと、折角転ばないようにしてあげたというのに、とみおは自ら降り積もった雪の上にダイブしてしまった。

 

「ちょ、何してんの!?」

「……いや、頭を冷やそうと思ってな」

「?」

「これからは気をつけるよ。さ、行こうか」

「あ、うん」

 

 とみおは頭に雪を被りながら道を歩く。私は彼の手に引っ張られるまま、神社への道をひたすらに突き進んだ。

 

 田舎町にひっそりと佇む神社にはそこそこの人集(ひとだか)りがあった。すれ違う際に身体を捻れば接触しない程度の人口密度。ただ、それでも油断すれば迷子になってしまう可能性があったので、私達は変わらず手を握り合っていた。

 本坪鈴(ほんつぼすず)へと続く大行列に並び、雑談をしながら暇を潰す。寒さで鼻をすする彼が可愛かった。

 

 好きな人と適当に話しているだけで時間はあっという間に過ぎていき、いよいよ紅白色の鈴緒(すずのお)が手に届く範囲にやってきた。

 雑談をしていたため何を願うか決めていなかったのだが、ここは順当に『最強ステイヤーになれますように』『健康であれますように』『とみおが身体を壊しませんように』『とみおが私のことを大好きになってくれますように』と願っておいた。ちょっと多いかなと思わないでもないけど、まあいいでしょ。

 

 おさい銭を木箱に向かって放り投げ、2人で鈴を鳴らす。そのまま姿勢を正して礼をする。両手を合わせて瞳を閉じ、都合のいい神様に向かって言霊を飛ばしてみた。薄目を開いて隣を見ると、とみおも同じように両手を合わせている。

 

「…………」

 

 さすがに両手を合わせている間は話しかけづらい。とみおが何をお願いしたのか気にかけながら、私は鈴緒から離れていくのだった。

 

「とみおは何をお願いしたの?」

「俺? アポロの健康と飛躍だよ」

「真面目〜」

「普通こんなもんだろ?」

「自分のことはお願いしないんだね」

「そういうアポロは何をお願いしたんだ?」

「最強ステイヤーになることと、怪我しませんようにってお願いしたよ。それと、あなたが身体を壊しませんようにってお願いもしておいたから」

「あぁ……助かるよ」

「助かるよ、じゃないんですけど。とみおが倒れたら心配すぎてレースどころじゃ無くなっちゃうから、本当に気をつけてよね?」

「……善処します」

「善処じゃダメ。約束ね」

「頑張ります……」

 

 おみくじを引いていこうと思ったのだが、販売所にとてつもない行列ができていたので、私達はあえなく撤退することになった。参拝の列に加わるように人がやって来ていたため、賽銭箱に続く行列の長さは2倍近くに伸びていた。

 早めに来て良かったね〜なんて言いながら神社から離れていく。ふと、とみおがかまくらや雪だるまを作ったことがないという発言を思い出した。

 

「ね、雪だるま作ろうよ」

「え? どうした急に」

「いいじゃん、家帰ってもやることないんだし。一緒に作ろ!」

「まぁいいけど」

「私、雪だるまの下の方作るね」

「じゃ、俺が上か」

 

 家の近くにある公園には誰も足を踏み入れておらず、丁度いいので雪遊びはそこで行うことにした。トレセン学園でも降雪に見舞われることは度々あったものの、かまくらなんて到底作れそうもないくらいのしょぼい積雪量だったから、久々の雪遊びに腕が鳴る。

 昨晩は20センチ積もったとのことだが、まずは雪の質を確かめる必要がある。湿度が低く乾燥した雪だと、握り固めることすら苦労してしまうからだ。雪の上に人差し指を滑らせる。傘のマークを描いて、その下に『アポロ』『とみお』と溝を掘ってみた。うん、中々良い質の雪じゃん。これならかまくらも雪だるまも作れちゃうね。

 

「…………」

 

 私は何を書いてるんだ? 冷静になって己の行動を振り返ったら、バカ丸出しの乙女そのものじゃんか。そういう趣味はないはずなんだけど――

 

「アポロ、何してるの?」

「わ――わわっ! 何でもないから見ないで!」

 

 彼の方に振り向きながら、薙ぎ払うように己の尻尾で証拠を隠滅する。深く雪を抉る音がして、相合傘と名前が消し飛ぶ感触がした。作り笑いをしつつ、誤魔化すように雪を盛り固めていく。とみおは不思議そうな顔をして、黙々と雪玉作りを再開した。

 

 寒空の下、地味な作業に取りかかる。たかが『雪玉を作る』『かまくらを建設する』という子供遊びだ。しかし、これが中々どうしてやめられない。冷たくて手が痛くなってくるのに、柔らかで不思議な雪の感触が私の心を掴んで離さない。

 こうして雪遊びに没頭していると、過去を思い出してくる。トレセン学園に入る前、雪原の中を走った朧気な記憶だ。ふかふかの雪を踏み抜いて、足跡を刻んで。雪の上なら永遠に走れる気がしたあの感覚。

 

 されど、生き物である以上()()()()()()()()()。雪が降り積もった日は日夜ぶっ通しで走り続けたものだが、それでもいつかは力尽きてしまう。一旦燃料(スタミナ)が尽きると、一面に広がる雪原へとダイブする決断を下すのは容易かった。

 汗だくになりながら、背中から雪に向かって飛び込む。火照った身体を受け止め、冷やしてくれる自然のクッション。曇天を見上げて息を落ち着かせながら、その日の走りの反省会をする。それが冬のルーティーンだった。

 

 私にとって雪は非常に特別なものだ。反省会の中で、私は夢を育んで憧れを募らせることができた。暖かな雪に包み込まれ、何か超越的な存在を感じて夢を目指すことができた。ある意味、私の人生は雪の中から生まれたものなのだ。

 『領域』内の心象風景としても私の背中を押してくれるのだから、本気で足を向けて眠れない。偉大な自然の恵みに感謝である。

 

「――永遠、かぁ」

「……何か言った?」

「や、この世界に永遠なんてあるのかなって」

「おぉ、急に哲学的なことを……」

「無限とか永遠とか言うけど、やっぱりそんなものって存在しないのかな。私達が作った雪だるまだって、きっとすぐに溶けちゃうし」

 

 直径2メートルくらいの雪玉を押しながら、とみおの元に戻ってくる。とみおは息を荒げつつ、1メートルくらいの雪玉をこちらに持ってきた。

 

 とみおが軽く掛け声を発しながら、上に乗せる用の雪玉を持ち上げる。私も手を貸してあげながら、気合いで雪玉を押し上げた。……かなり見栄っ張りの雪だるまになってしまったが、公園にあるジャングルジムよりもデカいので存在感が半端じゃない。下半身の雪玉がデカすぎて、私の身長じゃ上半身がほとんど見えないくらいだ。

 この雪玉のように。こんなに大きくて存在感があっても、永遠にはなれない。それに一抹の寂しさを感じていると、とみおは私のマフラーを巻き直してくれた。

 

「……確かに、無限とか永遠なんて存在しないかもしれないなぁ。でもさ、()()じゃなかったとしても、きっと無駄じゃないよ。雪だるま作りにしろ、何にしろ――いつか無くなってしまうとしても、誰かの中に生き続けることができれば……多分それは、永遠に不滅と言えるんじゃないかな」

「誰かの中で――?」

「うん。例えば……偉人が遺した功績とか、芸術品とか――ウマ娘で言ったらエクリプス伝説かな。そういうのは何百年何千年っていう時代を超えて現代人に伝わってる。これってある意味無限とか永遠に近いと思わない?」

 

 息苦しいくらいにマフラーを巻かれてしまったけど、その()()()が心地良かった。私達は白い息を吐きながら、巨大雪だるまの前で佇んでいた。

 

「誰かの憧れになったり、影響を与えたり。そうやって永遠になった人がいるんだ。永遠は確実に存在するし、何なら俺達だって永遠になれるさ」

「私達が永遠の存在に? ……ちょっと想像つかないかも」

「偉人達に肩を並べるってことだから、厳しい道のりになるだろうな〜……ま、()()()()()()()ってのはそれくらい大層な目標だからな。最強ステイヤーになれたら、実質永久不滅の存在になれたも同然さ」

「……簡単に言いすぎでしょ」

「俺はできると思ってるけど、アポロは違うの?」

「……ううん。あなたとなら、きっとやれるって思ってる」

 

 灰色の空から牡丹雪が降ってくる。街の音も彼の呼吸音も、全部雪に吸い込まれてしまって無音だった。この小さな空間が時間からも場所からも切り取られて、宙に浮いているような気がした。

 チリチリというほんの微かな音がしたかと思うと、頬に触れた雪が肌に灼かれて透明な雫になっていく。すぐにぬるま湯のようになって、顎を伝った雫はどこかに消えていった。その冷たさが私の頭に冷静さを取り戻してくれる。

 

 ……率直に言って、先程の会話を思い出して死にたくなった。照れ臭かった。何を小っ恥ずかしいことを言っているんだと高速で自問自答し、自らを殴り出してしまいたくなる。永遠とか何とか、よくも素面で語れたものだ。

 気のせいか、とみおの顔も赤い。どちらかというと、まともに答えてしまった彼の方が恥ずかしそうな表情だった。

 

 ……どうせなら、この勢いのまま言ってしまおうか。私の気持ち。いや、学生とトレーナーという立場の今じゃ普通に無理か。本心がどうであれ、彼は間違いなく拒絶する。オーケーを貰えたとしても卒業後まで待たされるのがオチだ。そんなお預けを食らう――もしくは撃沈する――くらいなら、告白なんてしない方がマシだ。

 しかし、言わないまま気持ちを握り潰すのもまた苦痛である。気持ちを伝えようと考えるだけで、心臓が早鐘のように鳴り響いてしまう。まさに()()地獄。

 

 手持ち無沙汰だった私は、そこら辺にあったバケツを放り投げて、雪だるまの頭部分に被せてやった。上手いことテンプレじみた容姿になった雪だるまを写真に収めると、私達はかまくらを作らないまま帰路に着いた。

 彼も無言で集中していたところを見るに、恐らく雪遊び自体には満足してくれたようだ。それよりも、体力的問題と永遠うんぬんの会話の方が割とキツかったと思う。

 

 青臭い、照れ臭い雰囲気が漂う中、それでも私達は手を握って家に向かう。素手で雪を弄っていたため、生者とは思えぬほどの冷たさが肌に触れている。(かじか)んで凍傷を起こしそうになっている指先は感覚がなく、触覚を取り戻すため、私達はより強く指を絡ませ合った。

 揉みほぐすようにして手を繋いでいると、次第に熱が戻ってくる。表面はまだ冷えているが、芯から熱が下りてきている。安心したように息を吐くと、とみおと目が合った。

 

「…………」

「…………」

 

 何なんだこれは、と思いながら目を逸らす。ほとんど同時のことだった。まるで、意識し合っているのに気持ちを伝えられない――両片想いの男女のようではないか。

 誰だ、永遠とか言い出して気安い雰囲気を壊したのは。

 

 ……私だけど。

 

「……雪、強くなってきたな」

「……うん」

「急いで帰ろう。ご両親が家で待ってるだろうし、無駄な心配をかけさせてしまうかもしれない」

「そうだね……」

 

 ぎくしゃくした会話を重ねながら、私達は何とか家に辿り着いた。お母さんからメッセージが入っており、とみおの分の昼食と夕食(おせち)は用意してあるとのこと。私はそれを事務的に伝えつつ、玄関扉のノブに手をかけた。

 そこで私の動きは止まる。どうしても抑えられない衝動があった。ジュニア級とクラシック級で積み重ねてきた思いが、『永遠』という言葉を発端にして溢れだそうとしていたのだ。

 

 ……永遠。甘美な響きだ。もし、()()()()()()()()()()()()――()()()()()()()()()()()。それは、どれだけ幸せなことなのだろうか。想像もつかない。

 でも、()()()()()()。もし永遠になれるとしたら、みんなの永遠だけではなく、彼の永遠さえ欲してしまうだろう。だって、私は強欲なウマ娘だから。最強ステイヤーという夢も、最高のパートナーを手に入れるという夢も諦めたくない。

 

 両親の言葉が脳裏を()ぎる。『あんな良い男、ほっといたらすぐに取られちゃうわよ』――お節介な言葉だ。しかし、深く関われば関わるほど否定できない私がいる。

 だからこそ、()。永遠を手に入れるため、2つの夢を追いかけるため、()()()()踏み出すべきなのではないか。強烈な感情の波に襲われ、私達はドアノブにかけた手を動かすことができなかった。

 

「……アポロ? 鍵忘れちゃったの?」

 

 ……いや、こういう場面だからこそ言うべきなのだろう。これに関しては「俺」も「私」も同意見だった。私は意を決して彼と正対し、真正面からとみおの双眸を見つめた。

 

「あ、あのね」

「うん?」

「わ、私、とみおの……」

 

 咥内が急激に乾燥してきて、喉が干上がる。舌根から唾液を無理矢理分泌させ、嚥下し、唇を舐める。ふーっ、と息を吸い込んで、覚悟を決める。意識した途端、どくんどくんと音を奏でる心臓の鼓動が喧しい。

 とみおはすっとぼけた表情で私を見ている。妙に恨めしさを感じてしまう。誰のせいでこうなってると――という愚痴を何とか引っ込めて、私はなるべくはっきりと言葉を紡いだ。

 

「……私、あなたの永遠になりたい」

「――――」

「最強ステイヤーになって。みんなの永遠になった上で――そう、なりたい、……です…………」

 

 ――言えた。

 言えた……が、伝わっているだろうか。いかにも私らしくない言葉だ。ストレートにはっきりと――「好き」と言えるウマ娘だったら、どれほど良かったことか。

 

 しかも、永遠の話は先程微妙な感じで打ち切られてしまっている。それを掘り返すようなことをして、私の気持ちは伝わっているのだろうか。ぎゅっと拳を握り締めて、彼の反応を待つ。

 数秒開けて、彼がふっと笑う。「な、何で笑うの!」私が顔全体を真っ赤にしながら頬を膨らませると、とみおは当然のようにこう言った。

 

 

 ――もう、なってるよ

 

 ――と。

 

 

 それを聞いた私は意識が吹っ飛び――いつの間にか12時間が経過しており、風呂場の湯船に浸かっていた。

 その日は眠れなかった。

 

 


 

apollorainbow1234

3メートルの雪だるま!

#正月 #雪だるま #ウマスタ映え

ウマいね!136000件

        

        

        

 

heliosbakunige0410 3メートルはデカすぎ!!

 

 

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