ゆるふわ芦毛のクソかわウマ娘になってトレーナーを勘違いさせたい   作:へぶん99

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86話:ドバイ遠征組、集合!!

 URA賞の授賞式が終わり、時は1月後半。日本の寒さがまさにピークを迎えようかという頃、私はとある事情からトレセン学園の会議室に呼び出されていた。まだ暖房が効いておらず、歯をカチカチと鳴らしながら同じく呼び出されたエルちゃんと身を寄せ合っていると、彼女のトレーナーである東条ハナが現れた。

 近くで雑談をしていたミークちゃんとグリ子が口を閉じ、ぼーっとしていた栗毛のウマ娘も姿勢を正し始める。栗毛のウマ娘の名はサイレンススズカで――アメリカの芝に慣れるために昨秋から米国遠征を行っていたが、つい最近日本に帰ってきたのである。彼女達3人もまた同じ事情によって会議室に招集された。

 

 東条トレーナーがバインダー片手に咳払いすると、私達の間に緊張が走った。厨パこと最強チーム『リギル』を率いているだけあって、その佇まいには威圧感に似た風格が漂っている。

 

「今日からあなた達の仮チームを担当する東条ハナよ。私の目標は、ドバイワールドカップミーティングで全員が勝利を収めること。戦うレース自体は違うけれど、これからは日本代表というひとつのチームメイトとして共に切磋琢磨してもらうつもりよ。目標に向けて一緒に頑張りましょう」

 

 東条トレーナーがそう言うと、スズカさんのトレーナーである沖野さん、桃沢とみお、桐生院さん、グリ子のトレーナーである芹沢さんがそれぞれ自己紹介とドバイ遠征に向けた目標を語り始めた。

 ――なぜライバル同士の私達がチームを組むことになったのか。その発端は3日前に遡る。

 

 ――3日前。ドバイに向けてのトレーニングを行う中で、エルコンドルパサーが私達の筋トレに割って入ってきた。「アポロちゃん、聞きましたか!? エルとチームになれるらしいデスよ!」テンション高めなエルちゃんの言葉に理解が追いつかなかったが、とみおが「今日のミーティングで言おうと思ってたんだ」と呟いたのを聞いて、私はやっと事態を呑み込めた。

 3月末に行われる『ドバイワールドカップミーティング』に出走予定のウマ娘とトレーナーが結託し、海外遠征をより有利に進めようという意思のもと、仮チーム『ドバイ遠征組』が結成されることになったのだ。

 

 その構成メンバーは、まず私ことアポロレインボウ。目標レースはG2・ドバイゴールドカップ。3200メートルの長距離重賞を走って海外レース制覇を目指すと共に、ステイヤーズミリオン及びヨーロッパ遠征の足がかりとする。

 次に元祖・万能ウマ娘のエルコンドルパサー。目標レースはG1・ドバイシーマクラシック。2400メートルのクラシック・ディスタンスに挑み、レベルの高いドバイG1を勝つことで凱旋門賞への自信にしたいようだ。

 そして、短距離では日本最高レベルにあるグリーンティターンことグリ子。ドバイターフの1800メートルは長いと判断し、目標レースを1200メートルG1・アルクォーツスプリントに据えた。グリ子もエルちゃんや私と同じく、世界中を飛び回って短距離重賞路線を邁進するという。

 更に、超絶万能ウマ娘のハッピーミーク。目標レースはダート2000メートル・ドバイワールドカップ。優勝賞金が8億円と破格で、それ故に一流ウマ娘が列挙するG1である。……と、ドバイに参戦するミークちゃんではあるが、今年の彼女はどの路線を進むか明らかにされていない。本当にどこでも走れる体質なだけに、どこを選んでも良いというのは贅沢な悩みである。

 最後のメンバーはサイレンススズカ。1800〜2000メートルのミドルディスタンスにおいて間違いなく日本一の実力があり、そんな彼女の目標レースは1800メートルG1・ドバイターフ。スズカさんのベストな距離は1800メートルだという声がある中で、まさに御誂向(おあつらえむき)の重賞があったものである。

 

 こうして総勢5名、超長距離、クラシック・ディスタンス、中距離、短距離、ダート――各方面のスペシャリストが仮チームとして集まった。実績も実力も日本代表として申し分なく、仮チーム結成が発表された時はメディアも大盛り上がりで囃し立てていた。

 日本国内のレース――つまり高松宮記念と大阪杯の出走ウマ娘――が手薄になってしまうのではないか、という声もあったが、あまり問題にならないだろう。何故なら大阪杯にはスペシャルウィークやセイウンスカイ、グラスワンダーにマチカネフクキタルにメジロドーベルらが控えていて、高松宮記念はシーキングザパールやキングヘイローが出走するからだ。これでレベルが低いと言われたらちょっとおかしいメンツが揃っている。

 

 今や、トゥインクル・シリーズは戦国時代だ。長距離からクラシックディスタンスにはスペシャルウィーク世代やサイレンススズカ世代が(ひし)めいているし、絶対王者のタイキシャトルが去った短距離路線は、シーキングザパールとグリーンティターンを倒そうと下剋上の空気に揺れている。ダート路線ではハッピーミーク、メイセイオペラ、アブクマポーロらの3強が形成されており、中央地方に関わらず水面下で激しい勢力争いが行われているようだ。

 

 オープンクラス以下から連勝してきたウマ娘や、重賞で力をつけてきたウマ娘が続々と増えている。遅れてきた大物のツルマルツヨシ、コアな人気を誇る玉砕型大逃げウマ娘のサイレントハンター、ここに来て長距離レースを連戦連勝している()()ジャラジャラが良い例で、トレセン学園は史上稀に見る好循環に見舞われていると言ってもいい。

 実力上位に位置するウマ娘は下からの突き上げに刺激を受け、下位のウマ娘はスターダムを駆け上がる子を見て「私もやってやる」と奮起する。そしてファン達は刻一刻と変化していく各路線の勢力図から目を離せず、来たるG1に向けて嫌でも期待が積もっていく。まさに正のループ。

 

 そこにトップウマ娘達の海外挑戦が発表されれば、世間の注目度は嫌でも上がる。と言うか、日本のトゥインクル・シリーズは余程のポカをしない限り何をしても盛り上がる段階まで来てしまっている。

 巷ではウマ娘系統の新聞や雑誌が飛ぶように売れ、ネット上でも1スクロールするごとにウマ娘の文字が目に入るくらいだ。街中で見られる広告もウマ娘一色で、まさにウマ娘バブルと言ってもいいだろう。

 

 日本を観光中のルモスさんも、日本のレースの人気ぶりを見てAwesome!!(すごい!!)」「Amazing!!(やばいよ!!)」「ここで暮らそうかしら♡♡♡」としか喋れなくなってしまったようで、彼女のウマスタには写真と共に「(ビックリマーク)」多めの英語が飛び交っている。

 

 さて、これまではしのぎを削ってきたライバル達だが、こと海外遠征において日本勢は皆味方として扱われやすい。個人間での争いと言うよりは国の代表選手同士の争いとしてクローズアップされるからだろうか。既にメディアでは『日本vs海外』という構図でドバイワールドカップミーティングの予想を行っているし……。まぁ実際のところ、ファンの心情的にもそれが正しいんだろうけど――

 メディアや心情云々(うんぬん)に関わらず、ライバル達とチームメイトになることで得られる恩恵は多い。最も良いのは、同じチームメンバーとして密接にトレーニングをするのだから、これまでに見えてこなかったライバルの一面を見られることだ。それが更なる刺激になって好循環が生まれ、加えて普段とは一風違ったトレーナーの指導が受けられて、トレーニング効果がアップすること請け合いである。

 

 今日のトレーニングは東条ハナことおハナさんの指導を受けることになっている。タイキシャトルを海外レースで勝利させた手腕はトレーナー間でも高く評価されており、私達は彼女の経験則を交えての座学トレーニングから開始することになった。

 私、エルちゃん、ミークちゃん、グリ子、スズカさんが前列、後列にはそれぞれのトレーナーが控える形だ。海外経験のあるトレーナーは東条トレーナーくらいしかいないから、この講義はトレーナーにとっても意味のあるものになるだろう。

 

「――挨拶も済んだところで。まず日本のレースと海外のレースにおける決定的な違いを話していきましょうか」

 

 座学ということもあって、私達は自然にノートとペンを取り出しながら東条トレーナーの話に聞き入る。エルちゃんだけは既に眠そうだが、もし船を漕ぎ始めたら脇を(くすぐ)ってやろう。私はペンを回しながら東条トレーナーの声に耳を傾けた。

 

「最初に言っておくと、同じウマ娘のレースという括りではあるけれど、世界各国の『トゥインクル・シリーズ』には地域毎の特色があるわ」

 

 東条トレーナーはそう前置いて、会議室のホワイトボードに水性マーカーを滑らせ始めた。まずは基本的なこと――ターフについての説明だ。

 

 日本のレース場は()()()()ものであり、何も無い所にイチから人工で芝を生やして作ったコースがほとんどである。アメリカなんて特に画一的な設計によってコース作りが成されている。ドバイのレース場もこの部類で、良く言えば単調、悪く言えば没個性的なコース作りである。だからこそ単純な実力勝負になりやすいと言うべきなのかもしれないが……。

 逆に、ヨーロッパのレース場は個性的な形に仕上がっている。元からあった広大な草原を切り抜くようにしてレース場が作られているからこその形状なのだが、ヨーロッパのレース場は「どうしてそうなったの?」というくらい理解不能で気持ち悪い姿をしているものが多い。

 

 ヨーロッパのレース場は自然から生まれ、アメリカ日本ドバイのレース場は人工的に作り出された。このような背景や気候の違いがあるからこそ、ターフに違いが生まれる。各地で敷き詰められている芝の長さや密度は全く違っており、特にトゥインクル・シリーズの中心地であるイギリスやフランスの場合は、日本の短く密度の低い芝と違って、長く密度の高い芝状態である。

 だから、簡単に言えば日本の場は硬くて、走るのにあまり力が要らない。対するヨーロッパの場は、芝が深くて足に纏わりつくように感じるという。ヨーロッパが多雨地帯ということもあって、ターフがぬかるんだ状態でレースが行われることもしばしば。

 その結果、日本の芝コースではスピードやキレが求められ、ヨーロッパの芝コースではスタミナやパワーが最重要視されるのだ。

 

 求められることが違う。それだけでトゥインクル・シリーズやレースの形は違ってくるのである。

 

「――前フリが長くなったけれど、ドバイの芝は日本とヨーロッパの中間くらいの()()と言われているわ。今後ヨーロッパ遠征を控えているウマ娘なら、ドバイの場で好成績を残しておきたいわね。そうじゃなきゃ、もっと重いヨーロッパのターフに適応できないから」

 

 言いながら、東条トレーナーはホワイトボードに呪文を書き始める。

 

「今回のドバイワールドカップミーティングの舞台であるメイダンレース場の芝コースは、バミューダグラスに洋芝のペレニアルライグラスをオーバーシードした地面になっているわ」

「?」

「?」

「??????????」

「早く走りたいわ……」

「グラス……??」

 

 頭の上に「(はてなマーク)」を出現させた私達5人は、溜め息をついた東条トレーナーに説明を受ける。

 バミューダグラスは日本で広く使われている芝、洋芝のペレニアルライグラスはヨーロッパで主流の芝らしい。そして、ドバイのメイダンレース場は基本がバミューダグラスなので、特性はヨーロッパよりも日本に近くて軽めの場になっているとのことだ。

 

 日本のウマ娘がドバイや香港に行きたがるのは、やはり芝が日本に近い傾向にあるからだと言える。それでも今回のような大掛かりなチーム結成は史上初と言っていいが……メイダンの芝は日本のウマ娘から人気のあるレース場のようだ。

 しかし、ヨーロッパより軽い芝状態とはいえ、賞金の高さ故に世界各国から有力ウマ娘が集まるメイダンレース場……そこには芝状態だけでは測れないものがあるだろう。全く結果の出ていなかった人気薄が大駆けしたり、有力ウマ娘が沈んだり。結局のところ、レースに巣食う魔物は健在ということだ。

 

「ここにいるグリーンティターンは知っていると思うけれど、香港の沙田(シャティン)レース場もメイダンと同じ形式を採用しているわ。香港が日本のウマ娘に人気なのは、日本との近さと芝の近似による要因もあるということよ」

「…………」

 

 突然名指しされたグリ子が耳をピンと立て、不安げに左右に動かし始めた。会議室にいた全員が「あ、コイツ知らなかったんだな」と察する中、芝だけではなくダートにも言及が入る。

 

 メイダンレース場のダートについては、日本の大井レース場に似ているという声があるそうだ。私はダート適正が皆無だから分からないけれど、ミークちゃんはピンと来たらしく、うんうんと(しき)りに頷いてメモを取っていた。

 

「ドバイは亜熱帯気候か砂漠気候に相当しているから、ほとんど雨は降らないそうよ。3月4月の平均気温も20度程度で、走るにはうってつけの場所ね」

 

 ドバイは雨が少ない地域で、メイダンレース場のターフは排水性を重視していない。そのため、ほとんどのレースが良馬場での施行となっている。

 またダートコースにおいては、細かく砂が飛び散る現象があまり見られないようで、視界による不利益はほとんど起こらないようである。

 

「……さて、そんなわけで芝状態について解説したわけだけど。ここからは()()()()()()()の説明と予想をしようと思うわ。……しようと思うんだけど、その前にちょっとしたお話をするわね。凱旋門賞を勝ったドイツのウマ娘の話なんだけど――」

 

 芝状態についての説明を終えた東条トレーナーは、とあるドイツのウマ娘についての物語を語り始めた。

 

 ――芝が長く深いためタフなレースになりやすく、日本より遅いタイムでの決着が多いヨーロッパのレース。しかし、とある年の凱旋門賞は別だった。珍しく快晴の日々が続き、陽炎が立ち上るような炎天下に曝された結果、その年のロンシャンレース場のターフはすっかり乾いてしまったそうだ。

 芝コースの地面はヨーロッパのものとは思えぬほど()()干上がり、まさに日本のターフと同じようなスピードの出る場になったロンシャン。そのまま凱旋門賞本番を迎えた結果、ドイツのウマ娘が凱旋門賞史上最も早いタイムで勝利を収めた。

 

 そのドイツのウマ娘は、凱旋門賞の勝利を受けて直後のジャパンカップに参戦。理由は明らかで、スピードの出やすかった場の凱旋門賞でぶっちぎりの勝利を収めたのだから、当然日本の硬いターフにも対応できると確信したからである。

 そういう理由でドイツ代表としてジャパンカップに参戦した彼女だったが、結果は6着と奮わず。その結果に祖国ドイツやヨーロッパのファンは首を捻るばかりだったが、彼女にはその理由が分かったと言う。

 

「――敗因はターフの違いだけではなかった、彼女はそう語ったそうよ」

 

 ――敗因は2つ。ひとつはターフの軽さと硬さの違い。そしてもうひとつは――()()()()()()()()()()()()()である。

 

 ヨーロッパのレースは、ゆっくりしたスタートから始まる。レース前半は緩めに走って体力を温存し、中盤から終盤にかけて徐々に加速するのがヨーロッパのセオリー。芝が長くて重く、無理な加速は体力の無駄な消耗を招くからである。

 対する日本のレースは、パワーもスタミナも比較的消耗しない場のため、スタート直後からレースのペースが早い。よく『ノロノロ走って最終直線でよーいドン』と揶揄される日本のレースだが、ヨーロッパを基準にするとかなり速めのスピードで最後までやり切ろうというスタイルが確立しているのである。

 

 この違いがドイツのウマ娘を惑わせた。

 彼女はヨーロッパのトゥインクル・シリーズでは、スタートから前方好位置につけて最終直線で抜け出す『好位追走型』の先行ウマ娘だった。しかしジャパンカップでは、日本のウマ娘が普段よりもずっと速いペースで走っていたため遅れを取って後方に控えてしまい、不慣れな後方策に追い込まれてしまったのだ。そのまま自分の得意な形に持ち込めないままレースを終えてしまい、彼女は世界の広さと文化の違いを思い知ったとか。

 

「ちなみに、その年の凱旋門賞とジャパンカップのタイムはほとんど同じだった。つまり、ペース配分の違いによって彼女は負けてしまったということね」

 

 東条トレーナーは続ける。何度か()()()()のレースを経験すれば、芝状態やペース配分に()()が出て結果が出ることもあるだろうが、一発勝負となるとこのペース配分の雰囲気が大きな影響を与えるのだ――と。

 

 余談だが、日本のウマ娘がヨーロッパのレースに参戦した時は、逆の現象が起きることが多いらしい。タイキシャトルやシーキングザパールは初の海外遠征でも上手く(こな)していたが、凱旋門賞含むヨーロッパで上手くいかないのはこういう理由があるんだそうだ。

 

「アポロやスズカにはあまり問題にならないかもしれないけど、他の3人は注意すること。ドバイワールドカップミーティングに参加するウマ娘のほとんどがヨーロッパ・アメリカからの参戦よ。それぞれのレース文化を知り、対応していくことも私達の課題と言えるわ」

 

 そう言って、東条トレーナーは『アメリカ』『ヨーロッパ』と大きな文字をホワイトボードに書き、それぞれのスタイルを簡単に説明していく。

 

 アメリカのトゥインクル・シリーズは、イケイケのゴリゴリ戦法が好まれる。スタート直後から爆速で加速し、いち早くトップスピードに乗る中で位置取り争いを繰り広げるウマ娘が多い。日本よりも『審議』の規則が緩いため、国民性もあってかレース展開はパワフルなものになりがちである。細かく言えば、身体をぶつけ合っての位置取り争いやゴール前での競り合いなんてのは、割と良くあることらしい。

 

 ヨーロッパのトゥインクル・シリーズは、先述したように前半のペースが緩い。そのため、前半の位置取り争いはギッチリ詰まった集団の中で行われやすい。こちらも身体を寄せ合っての熾烈な位置取り争いは日常茶飯事ということだ。

 

「レース当日が近づいたら、各自で出走ウマ娘の出身国と割合を調べておくこと。ミークはダート戦だから、周りはアメリカのウマ娘まみれでしょうけど……他の4人は注意して。ヨーロッパ出身ウマ娘とアメリカ出身ウマ娘の比率、そして彼女達がどんな脚質を取るか。過去のデータや走りっぷりを評価した上で、どんなレースが予想されるか。そこまでしっかり考えた上でやっと勝利が見えてくるわ」

 

 東条トレーナーは私達の後ろのトレーナーに視線をやる。多分、それを調べるのはトレーナーの役目だから頑張りなさい……と視線で言っているのだろう。海外遠征ともなれば、トレーナー業務が大変になるのは目に見えている。ぶっちぎりで若手の桐生院さんととみおは大丈夫なのだろうか……身体壊さないかな?

 

「ま、ドバイ遠征に当たってのイントロはこんな所かしらね。今一度説明すると、これから仕上げるべき私達の課題は2つ。メイダンレース場の芝への適応と、ライバルのレーススタイルの予想と対応よ」

 

 東条トレーナーが時計を気にしながら、ホワイトボードに書いた文字を消し始めた。私達もペンやノートをしまい、トラックコースに移動する準備を整えていく。

 ホワイトボードをまっさらな状態にした東条トレーナーは、最後に一言――と人差し指を立てて、困ったような表情になった。何か言いにくいことでもあるのだろうか。私は首を捻りながら彼女の言葉を待っていたが――東条トレーナーの口から飛び出した言葉は、チーム『リギル』を受け持つトレーナーから語られたものとは信じがたいものであった。

 

「……ドバイに挑戦する前にこんなことを言うのはトレーナー失格かもしれないけれど、あえて言わせてもらうわね。()()()()()()()()()()()。トゥインクル・シリーズが盛んな国の中で、どこのレベルが1番高いのだろうなんて議論されることがあるけれど、答えは()()()()()()()()()()()()()()()()としか言えないわ。どんなウマ娘も自国(ホーム)では強くて外国(アウェー)では結果が出にくくなるのは当たり前のことなのよ。たとえ負けたとしても、それは弱かったからではなくて()()()()()()()()()()()。……だから、恐れずに挑戦しましょう。以上よ」

 

 その言葉を最後に、背後のトレーナー陣が立ち上がる。きびきびとした動きで会議室から出ていくトレーナー達。私達は呆気に取られながら、それぞれのトレーナーの後を追ってトレーニングに向かうのだった。

 

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