脇役系主人公は見届ける   作:祐。

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【1章】3節:縄張り争い (アレウスvsオキクルミ)
第16話 龍明の仲間


 黒服の警護が厳重である喫茶店。ついてきた菜子と共に、一目で誰が来ているのかが分かる光景へと足を運んでいくと、そこではラミア、レイラン、ニュアージュというメンツが優雅にお茶を嗜んでいたものだった。

 

 この空間を司る、お嬢様本家のニュアージュ。雅な慎ましさでティーカップを持っていた彼女は、こちらに気が付くと無垢な瞳で迎え入れてくる。

 彼女の視線で向いてきた、ラミアとレイラン。先ほどまでのすまし顔を解いて通常モードに切り替えていくと、次にもラミアは気に掛けるようにこちらへ問いかけてきたのだ。

 

「どうでした?? “あちら”の様子は」

 

「予定通り、ギルドファイトが行われることになったよ。というか、既にもう始まってる」

 

「あちゃー、ホントにあのお二方がぶつかり合うとは、ナニが起こるか分からないモノですねー」

 

 他人事の軽い調子ではありつつも、さすがのラミアもどこか気にしている様子だった。

 

 つい先ほどにも、自分は町長室で立会人をしてきた。それは、先日にも遭遇した二人の衝突の続き。喫茶店での場面に出くわした自分と菜子は、当事者として町長室に呼び出されることになっていた————

 

 

 

 

 

 町長室に訪れた時には既に、“次のギルドファイト”を開始するためのミーティングが進められていた。

 

 行動を共にする菜子と共に、「失礼します」と入室する。これに、居合わせたアレウスとオキクルミから険しい視線を送られた。

 

 尤も、二人の反応は当然だった。それも、お互いに龍明の中で上位を競う実力者。そんな彼らがいがみ合うこの空間は重圧的であり、繊細に扱わなければ、自分の身も危ういとさえ思えた。これには菜子も不安な眼差しで自分を見遣ってくると、こちらの服の裾を掴むようにしてくっ付いてくる。

 

 すぐにも、ギルドマスターとして立ち会っていたネィロが声を掛けてきた。

 

「よぅ、お疲れさん。わざわざ来てもらってすまねぇな、カンキちゃんと、菜子ちゃん」

 

「いえ、俺らも当時は現場に居合わせていたものですから、今回のギルドファイトも立会人として参加させていただきます」

 

「カンキちゃんも、ギルドタウンっつぅモンにこなれてきたねぇ。その調子で、菜子ちゃんのコトもよろしくな」

 

「お任せください」

 

 菜子が見遣ってくる。ちょっと不服そうだったものの、服の裾は掴んだままだった。

 

 こちらはさておいて、ネィロは改めてといった具合に、アレウスとオキクルミへそのセリフを掛けていく。

 

「じゃあ、本人達の同意が確認できたため、これより、アレウス対オキクルミ・トリックマスターのギルドファイトを許可する! ——と言いたいところなんだが、如何せん今回の件は中々にデリケートでな。今回の私闘は、お互いにそれ相応の信念をぶつけ合う戦いになるだろうからよ、間違いがねぇよう、最後にもう一度だけ確認しておくぞ」

 

 二人の顔を見遣るネィロ。そんなネィロを凝視する二人。

 

「まず、このギルドファイトを実施する目的だ。事の発端は、昨今にも増加傾向にある魔物の出現を受けてのこと。過去数年分のデータから見るに、この魔物が決まって“特定の種”であることが判明していて、かつ、“その種が出現し始めた時期”と、“アレウスが龍明にやってきた時期”が被っていることから、オキクルミは、この魔物はアレウスが呼び込んでいると踏んで、それを白状させるための手段としてギルドファイト制度を利用した。というのが、今回の目的。という認識でいいな?」

 

 ざっくりとしたネィロの確認に、オキクルミは見開いた瞳で口角を吊り上げていく。

 

「そー!! オレもさー、わざわざこんな手間掛けないでさっさと喋ってくれればいいのにな、って思ってたんだけどさ。でも、アレウス、なーんか隠してるっぽいから、頑なに喋ろうとしないんだもん。だから、こうなったらギルドファイトで無理やり吐かせよーって思ったワケ」

 

 ぐりん、と首を曲げてアレウスを見遣っていくオキクルミ。これに、アレウスは視線を合わせることなく真正面を向き続けていく。

 

 と、ここでオキクルミはネィロへと向いていくと、次にもそのセリフを繰り出してきたのだ。

 

「でもさー、ギルドマスターも大概だよね??? だってさ——アレウスがホントのコトを喋ろうとしない理由、ギルドマスターも知ってるんでしょ」

 

 寒気が走る低音。オキクルミは、頭が落っこちるような挙動で首を下げながら、ネィロの顔を覗き込んでいく。

 

「ギルドマスターはさ、ホンキで龍明を守る気、あるの? ただでさえ周辺地域で獰猛な魔物が猛威を振るっているこの現状でさ、犯人と思しき存在が自分の町の中に紛れ込んで、さも当然なカオして生活しているんだよ? ——元凶を放っておいて、何がギルドマスターなの? オマエさ、この町のコト、ホンキで考えてなんかいないんだろ?」

 

 ……容赦のない言葉だった。これに自分がハラハラして見守る中で、ネィロはサングラスの位置を直す仕草を交えながらそう答えていく。

 

「まず、アレウスちゃんの正体を知っているか知らないかで言ったら……知っている」

 

「でしょ???」

 

「だが、飽くまで『ある程度』だ。そんなカンペキに、オレちゃんはアレウスちゃんのことを知り尽くしているワケではない」

 

「でも、それじゃあナンデ、分かっていてアレウスを野放しにしているの?? このまま放っておいてさ、いずれアレウスが龍明を滅ぼしたなんて言ったらさ、オマエどう責任とるつもりでいんの???」

 

「アレウスちゃんには、アレウスちゃんなりの事情ってもんがあるのさ。だろ?」

 

 ネィロが、アレウスへと視線を投げ掛ける。これに、彼は少しばかりと申し訳なさそうな顔を見せていくと、そのまま小さくコクリと頷いて、俯いてしまった。

 

 だが、これにはオキクルミが黙っていない。

 

「ギルドマスターもさ、元凶との仲良しごっこも大概にしろよな。——ギルドマスターがどんな権限を振り回そうが、オレはこのギルドファイトに勝って、アレウスにホントのコトを喋らせるから」

 

「まぁよ、アレウスちゃんにどんな事情があろうとも、ギルドファイトとなっちゃぁ、オレちゃんは口出しも手助けもできやしねぇ。——加えて、オレちゃんは、オキクルミちゃんが龍明のことを大好きでいてくれて、オレちゃん以上に龍明のことを考えてくれているってことくらい分かってんだ。こいつぁ、アレウスちゃんとオキクルミちゃんの私闘。どちらが勝って、どちらが負けたとしても、オレちゃんに異論は無い」

 

 まだまだ言い足りない様子のオキクルミ。だが、ここは口を噤んで視線だけで勘弁したところで、ネィロは彼へとそれを投げ掛けたのだ。

 

「っつぅことだからよ、このギルドファイト、オキクルミちゃんが勝てば、アレウスちゃんは自分の正体を素直に自白する、という条件で運んでいくんだが。——逆にだ、このギルドファイトで、オキクルミちゃんが負けた場合の条件も考えねぇと、公平ではないな」

 

 それを耳にしたオキクルミ。そこからボーッと天井を眺めて思考を巡らせていくと、次にも彼はそんな条件を口にしていく——

 

「じゃ、オレが負けたら——“此処”を出ていく」

 

 アレウスが振り返る。これに自分も衝撃を受けていく中で、ネィロは尋ねるように確認をとっていった。

 

「……オキクルミちゃんは、自分が負けたらこの龍明を出ていく、と。……その認識でいいのか?」

 

「うん。だって、アレウスは仮にも龍明の住人だから、つまり仲間じゃん??? その仲間を疑うだけ疑っておいてさ、ギルドファイトで負けたから、じゃあ今まで通り仲良く暮らしていこー、なんて都合良すぎない??? ——みんながそれでもイイって言ったとしても、オレは、一度でも仲間を疑った自分自身を許せない。それに、ギルドファイトをけしかけてまでして仲間を疑った人間を、龍明の中に置いておきたくなんかない。だから……仲間を追い詰めたケジメとして、負けたら、オレはこの町を出ていく」

 

 ——それは、龍明を愛するが故の覚悟だった。

 

 本気で、龍明という町を守りたい。彼の想いにネィロは何か喋ろうとしたものだったが、出掛けた言葉を呑み込むようにして他所へ視線を逸らし、すぐにも向き直ってはオキクルミへその返答を行っていく。

 

「……分かった。それじゃあ、その条件で行こう。——オキクルミちゃんが勝利すれば、アレウスちゃんは自分の正体を自白。アレウスちゃんが勝利すれば、オキクルミちゃんは龍明を脱退。お互い、その条件でいいな?」

 

 ネィロの問い掛けに、オキクルミとアレウスは頷いていった。

 

「——分かった。では、これより、アレウスとオキクルミ・トリックマスターによる、ギルドファイト制度に則った私闘を許可する!! ライバルに勝利するためにも、各々、この龍明に多大な貢献を捧げてみせろ!!」

 

 

 

 

 

 一連の流れを、喫茶店にいる面々にも説明した。これを聞いた一同は呆気にとられたようなサマを見せていく中で、レイランは心配する声音でそれを喋り出していく。

 

「……なんか、とんでもないギルドファイトになっちゃったね。アレウスの正体とか、そういうの、私は気にしたことなかったし。かと思えば“クルミ君”が自分からそんな条件を提案してくるなんて……」

 

「クルミ君?」

 

 すごい素朴な疑問。これにレイランが答えてくれる。

 

「あー、そうそう。オキクルミ君だから、クルミ君。けっこういろんな人からクルミ君って呼ばれてて、彼、すごい愛されてるんだよ」

 

「そうなんだ……」

 

 そんなことを聞かされてしまったら尚更、彼が龍明を脱退するという条件が重々しく感じられてしまう。

 

 気が重くなった自分は、テーブルの上を見遣っていく。そこで、ニュアージュが自分でカップへと紅茶を注ぎ、それを、同席する自分と菜子へと渡してきた。

 

 これに、自分は「ありがとう」とお礼を言いながら受け取って、一口飲んでいく。それでいて、菜子もまた、慣れない面々に警戒しながらも紅茶を一口。おそるおそると近付けた口でそれを啜っていくと、次にも菜子は目を光らせて、思わず呟いていった。

 

「っ——美味しい」

 

 隠しきれない喜び。これにはニュアージュも、手を合わせてご機嫌に。

 

「まぁ! お気に召したようで、何よりです! こうして再び龍明に身を移したものですから、皆さんに振る舞うべく、わたくし張り切ってお高めな紅茶を取り寄せたんですよ」

 

 お高めな紅茶。そのワードに、ラミアが即座に反応した。

 

「お、お高めな——!? い、言われてみましたら確かに、普段よりも上質なお味と言いますか……??」

 

 即座にレイランが突っ込んでいく。

 

「いや絶対わかってなかったでしょ」

 

「よ、余計なコト言わないでくださいよ!! ウ、ウチだってですね、これくらいの味の変化、お教えいただけましたら分かるんですから!!」

 

「けっきょく、教えてもらわないと分からないんじゃん」

 

「しょ、庶民には馴染みの無いアジなんですから、そんなの当然じゃないですかー!! そーいうレイランさんこそ、アジの違いなんて分かっていなかったんじゃないですか!?」

 

「私は分かってたよ? 昨日の紅茶と違って今日の紅茶は、厚みのある葉っぱの、どっしりとした甘いコクが口の中にのしかかるような感じがしていて、昨日の紅茶の、レモンが利いた爽やかな風味とは全然違うなって思ってた。こう、今日の紅茶は、アンティークなお部屋の中で飲みたいな。それこそ、ユノさんの探偵事務所とかで!」

 

「え…………なんですかソレ、すっごい具体的じゃないですか……この一杯でソコまで分かったんですか。怖……」

 

「ちょっと、なんで怖がるの」

 

 急に微笑ましい。これにニュアージュが、お上品に口元を押さえていく。

 

「まぁ、うふふ。なんて楽しい場所なんでしょう。この町はどんなに長居をしていても、全く飽きが来ませんね。——ラミア様、レイラン様。こちらの紅茶でありましたら、これから毎日でも振る舞いいたしますよ」

 

「ホントですか!? さすがはニュアージュさんー!! やっぱりこう、本場のお嬢様は違いますねー!! ではでは、ご厚意に預かってマイニチご馳走になります!! あ、もう一杯いただきますねー」

 

 目を輝かせながらポットを持つラミアに、レイランは「みっともないな~……」と呆れながら呟いていった。

 

 喫茶店で展開される日常。これを自分が眺めている横で、菜子はその光景をじっと見つめていく。

 

「どうしたの、菜子ちゃん」

 

 声を掛けてみた。すると、少女は「あっ、いや」と言葉を置いていき、その間にも言葉を探すように少しだけ視線を漂わせていくと、次にも菜子はそのセリフを口にしてきたのだ。

 

「……その、アタシ……誰かとこうして、何かをしながらゆっくり過ごすってこと、今までしたことなかったから……」

 

「こうして、誰かとお茶をするってこと?」

 

「ち、違う違う。いや違くはないけど。えっと……」

 

 自分の感情を、上手く言い表せない様子だった。それでも菜子は頑張って言葉を探していくと、ちょっと恥ずかしがる素振りとして、持ち上げたティーカップで口元を隠すようにしながら、そんなセリフで返答してくる——

 

「……すごい長い間、ずっと独りだったから。だから、こうして誰かと一緒に過ごすのが……し、新鮮に感じられて……た、楽しいな……? とか言って……」

 

 …………。

 

 次にも、菜子を見ていた一同がニヤァっとした。

 これには、少女が赤面で立ち上がる。

 

「ばッ——な、なにその顔っ。からかってんのっ!? ふざけないでよっ!! やっぱみんなキライっっ!!!」

 

 喫茶店に響かせた、照れ隠しの必死な声。ゆでだこのような顔の赤さで、自身の全身に響き渡る声で菜子は言い放つと、次にも少女は衝動のままに外へと駆け出してしまった。

 

 これには、謝りながら追いかける自分。同時にこの後ろでは、微笑ましくもやりすぎたという冷や汗の微笑を、一同が見せていたものだった。

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