脇役系主人公は見届ける   作:祐。

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第19話 龍明のみんなを守るため

 先日の嵐による一件から、一難去ってまた一難とも言える状況に置かれていた。

 

 昼休憩と思って立ち寄った、いつもと違うカフェの外。自分が菜子と共にそこへ訪れた時にも、入り口付近には緊張感を募らせた町の住人達が集まっていた。

 

 皆が店内へと意識を向けている。それに自分らも立ち会っていくと、その瞬間にもカフェからは破裂するような銃声が響き渡ったのだ。

 急ぎで、菜子を守るように抱えていく。そして、引き下がろうと動き出したこちらに反応するかのように、店内のレジカウンターにいた男性が右手の“指”を向けてきたのだ。

 

「そこの野次馬!! 一ミリたりとも動くんじゃねぇぞッ!! 少しでも怪しい動きを見せたら、店員のお嬢ちゃんの頭を撃ち抜いてやるからなッ!!」

 

 覆面の男。彼は店員の女性を人質にとって、店主からお金を巻き上げている最中だった。

 すぐにも男は、男性の店主へと指を向けていく。左腕に抱え込んだ女性の怯えるサマと、ピストルを模した男の指の、その先端。彼の指先にある空洞は正に銃口とも例えることができて、どうやら強盗は何かしらの異能力者であることがうかがえた。

 

 ……下手な動きは見せられない。自分は、菜子をかばうようにして現場に滞在した。その間にも強盗は店主へと指を突き付けて、頑なに金を渡そうとしない店主を脅し続けていく。

 

 ——誰か、頼れる人に助けに来てほしい。目だけを動かして周囲を見遣る自分。そこへ、視界の隅から“少年”が歩いてきたのだ。

 

「……オキクルミ!」

 

「お??? おー!! 柏島歓喜じゃん!! それと、あー、女の子!! えーっ、名前なんだっけ? たで……? たで……? まいいか——」

 

 明るい調子で喋りながら歩み寄ってくるオキクルミ。しかし、異変を感じ取った彼は次第と笑みを薄めていくと、次にも周囲から、自身へと助けを乞う視線を投げ掛けられていることに気が付いていく。

 

 傍にいた、少年連れの奥様とおじいさん。近付いてきたオキクルミへと、小声でそれを伝え出す——

 

「……クルミちゃん、お店の方」

 

「クルミくん、あれを何とかできないかぇ……」

 

「クルミお兄ちゃん……」

 

 皆が、彼に託すよう視線で訴え掛ける。

 これを請け負い、オキクルミは店内を覗き込む。そして、強盗に襲われているという眼前の光景を目の当たりにした彼は、瞬間にも血相を変えながら飛び出していったのだ。

 

「ま、待てオキクルミ!」

 

 慌てて止めようとした。だが、大地を蹴り出した彼の瞬発力に追い付けない。

 タイルの床を踏みつけたオキクルミ。その音で、強盗がすかさず指を構えていく。

 

「動くなっつったろッ!! いいか! そこから一歩でも動くような素振りを見せたら、このお嬢ちゃんの頭には二発の弾丸が撃ち込まれることになる!! こいつぁ異能力で作り上げたお手製の弾丸でなぁ、撃ち込まれた人間の体内に侵入すると、その熱を感知して、独自の信号を体内に送り出すんだ!! ——全身に伝った信号が脳に達したその時、嬢ちゃんの脳波は弾丸の信号によって書き換えられ、洗脳状態となる。そうなったらよぉ、言いなりになった嬢ちゃんは、一体なにをしでかしちゃうかなぁ?? よぉ。試しに、町の人間でも虐殺させてみるか? えぇ?」

 

「——テメェ」

 

 猛獣よりも獰猛な、オキクルミの眼光。彼は本能を剥き出しにした怒りを目でぶつけながらも、しかし頭は冷静となり、男の威嚇に従うようその場に留まる選択肢を選んでいった。

 

 ——オキクルミのプレッシャーが、大気を伝ってこちらにまでヒリヒリと降りかかってくる。彼が放つ静かなる怒りは強盗にも訴え掛け始めると、男は少しと焦るようなサマで指を店主のこめかみへと突き付けた。

 

 それと同時にして、オキクルミの“異能力”が動き出す。

 彼の足元。七分丈のパンツから、音も無く顔を出してきた“蠢く針金”。それは両脚から二本ずつと脚を伝っていくと、タイルに降り立ち、その隙間の色に同化するように沿ってレジカウンターへと這い出した。

 

 彼の異能力に目もくれず、強盗は店主に急ぐようそそのかす。だが、一方で店主も頑固であり、自身のこめかみに銃口を突き付けられてもなお、店の金を一切と渡そうとしなかった。

 

 ……ほんの一瞬。店主は、オキクルミを見遣る。これに、彼は小さく頷いた。その直後にも、店主がそれを喋り出すのだ——

 

「……悪いが、そいつがどんなに凶悪な異能力であろうとも、見ず知らずの蛮族に町の金を渡すことはできない」

 

「ほほう? どうやら、自分の立場を理解するための知能が足りていないようだな? だが安心しろ。それがたとえ、どんなに頑固で石頭なじじいの脳みそであろうともなぁ、この弾丸を撃ち込みさえすれば、学習もできねぇ単細胞レベルの知能だろうとも容易く洗脳することができるのさ」

 

「……それがどうしたというのかな」

 

「減らず口を叩くんじゃねぇッ!!! おまえがどんなにカッコつけようがな、おまえをこの弾丸で洗脳しちまえば、すぐに金を渡しちまうような操り人形へと成り果てるってことなんだよッ!!」

 

 暫しの沈黙。店主はタイルを見遣り、言葉に間隔を空けつつ、ゆっくりと喋っていく。

 

「なるほど……では尚更、そいつをわたしに撃ち込むといい。その人質の娘を洗脳したところで、きさまにとっては何の意味もなさないだろう。だったら、金の在処に最も近いわたしに弾丸を撃ち込み、洗脳するなりして金を奪い取ってみせるがいいさ」

 

「はッ……知能云々じゃなく、まじで元から頭がおかしいな。——だったらお望み通り、強盗の操り人形へと変えてやるよッ!!」

 

 店主の頭に、強盗の指が食い込む。そして、引き金を引くように親指を曲げた、その瞬間だった——

 

 ——タイルの隙間。迫っていた四本の針金が高速で飛び出して、強盗の手首に絡みついていく。

 これに、驚きの声を上げた強盗。だが、次にも男が目にした光景は、絡みついた針金が意思を持つように蠢き始め、その右手を捻じ切る勢いで、自身の眉間へと指先が向けられていくというものだった。

 

「な、ッんだコレ——」

 

 響く銃声。町の人間が悲鳴をあげていく。

 

 額に空いた、二つの穴。折れた手首が項垂れて、自身を撃ち抜いた強盗は衝撃で仰け反っていく。

 ——踏み込まれた左足。振りかぶった右腕でオキクルミは力を込めていくと、その動作の途中にも、彼の腕から現れた針金が束となって人間の腕を形成する。

 

 神聖なる地を穢された怒り。愛する土地を脅かした対象。

 許さない。憎悪へと変貌した彼の瞳は対象を捉えていき、次にも右腕を振り抜くことで、形成した針金の拳を躊躇いもなく強盗へと繰り出した。

 

 蠢くそれは、伸縮自在だ。彼に付随するパーツとして放たれた攻撃は、金属の右腕を発射する光景となって強盗に直撃する。

 それも、顔面に無数の針金が突き刺さっていた。あえて尖らせた針金を拳に仕込んだこの腕は、攻撃が当たってもなお食らいつくように強盗に押し当てられ、そして完全に強盗の顔面に針金を突き刺していくと、オキクルミは右腕を引いて男を引き寄せていったのだ。

 

 飛び散る大量の血飛沫。タイルを赤く染め上げながら、オキクルミはその場で跳躍して蹴りの体勢となる——

 強盗が、自身を通過するタイミング。蹴りが重なる頃合いを見計らって空中で繰り出した、オキクルミの左脚。そして、通過した針金の右腕の先に突き刺さる強盗の、その後頭部に彼の蹴りが炸裂した。

 

 この光景に思わず、自分は菜子の両目を塞いでいった。

 あまりにも過激すぎる。鋭い針金に押し込むように加えられた蹴りの一撃は、あれはもう失明とかのレベルじゃない。飛び散る血に混じって、顔のパーツも一部分ともっていかれたその様子も相まって、これはもはや、“復讐”並の仕打ちだ。

 

 勢いよく蹴り出された強盗。店の外へと吹っ飛ばされ、宙を舞う。

 そんな男へ、最後の追撃がかまされた。今も絡みつく針金が強盗に巻き付いていくと、それはぐるぐると全身を覆い始め、瞬く間に針金のミイラへと化していく。

 

 終いに、そのミイラは、店の向かい側の看板に張り付けられていった。

 看板にぐるぐると絡みついていく針金。それらはずっと本体から独立せず、今も操り人形の糸のように、オキクルミと繋がった状態にある。

 

 その本体の彼が、ゆっくりと店から歩いてきた。

 ……ガンガンに見開いたオッドアイで、終始その表情に滾らせた、龍明を穢した罪人に対する憎悪の怒りを込めながら——

 

「龍明に手ェ出したコト、死んでも死にきれねェほどに後悔させてやる。——よくも町の人に怖い思いをさせたな、このボケが。テメェはいつ頃から銃口突き付けて脅し始めやがった? ……まぁ別に、いつからだろうと許しはしねェ。カフェのお姉ちゃんと店主のおじちゃんと、周りのみんなを怖がらせたその時間の分だけ、テメェにはその中でじっとしていてもらうからな」

 

 ——滲む流血。針金の隙間から、全身から流れ出ているであろう大量の血が垂れ始めていく。

 おそらく、内部の構造はアイアンメイデンのようになっている。中ではきっと、想像を絶する状況が展開されていたことだろう。それでいて、頭が下になっているその膨らみへと、オキクルミは右足で踏んづけるようにしていく。

 

「このままテメェが死んでいったとしてもさ、オレは別に何とも思わねぇよ。そん時にぁ、腹の底から『ザマァみろ』と叫んで、テメェを冥土へと見送ってやる。だけど……ここで人が死んじゃうとさ、龍明のみんなが困っちゃうんだ。テメェの死で、龍明のみんなに余計な迷惑が掛かっちゃうんだよ。だからさ……思い留まった上での、せめてもの慈悲なんだよ、コレは。——あえて死なない程度に、急所をギリギリまで外してある。死なねぇだけありがたく思いながら痛みを味わえよ、このクソ野郎」

 

 右手に巻き付く針金を引っ張るオキクルミ。これがミイラを引っ張ることによって、中の強盗は声にならない悲鳴を上げていく。

 

 ……アレウスとは異なる方向性の正義感。確かに町のためであり、オキクルミ自身も、龍明を守りたいが故の行動によって、この結果がもたらされたものであったのだが……。

 

 ——様々な姿を見せる、意思と意思のぶつかり合い。前回のギルドファイトに留まらない様々な場面との遭遇に立ち会うことで、自分は、それぞれが持つ生き様を今も見届けているのだと認識する。

 

 直にも、通報を受けて駆け付けた騎士団が合流を果たす。この間にも自分は菜子を連れて現場から離れたものだったが、この目にしっかりと焼き付けたオキクルミの姿を、自分は暫しと忘れることができずにいた。

 

 ……町の人から、少なからずもの安堵と感謝の声を掛けられていた、その姿のことを————

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