脇役系主人公は見届ける   作:祐。

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第21話 アフターストーリー -縄張り争い編-

 朝方の龍明。花屋や八百屋、雑貨屋などが並ぶ中央の町並み。ユノに頼まれたことで自分は今、依頼主への配り物をそこで行っていた。

 

 黒色のショルダーバッグが、だいぶ軽くなる。中に入れていた依頼の物が数を減らし、自分は凝りをほぐすようにしながら肩を動かしてふぅっと一息。

 

 その最中、前方のパン屋から菜子が出てきた。自分は配り物を行うから、代わりに軽食を買ってきてほしいというお願いの下、少女はパンが入った紙袋を抱えて、駆け寄りながらその声を上げていく。

 

「カッシー! 渡されたお金のお釣り、全部アタシ貰っちゃっていいー?」

 

「ええ! ラミアじゃないんだから、さすがにそれは勘弁してくれー!」

 

「いいじゃんか少しくらいー! お駄賃ちょうだ——ひぁっ」

 

 コツッ、と地面に躓いた菜子。

 まだ距離がある。自分は慌てて駆け寄ろうとしたものだったが、コケる菜子と放り出された紙袋の両方が間に合わない……!

 

 ……と思ったその矢先だった。確信と共にして、転んだ本人は、突如と浮き上がった自身の身体にたいへん驚くサマを見せていく。

 

 少女の視界にも、見えていたことだろう。目の前で飛んでいく紙袋もまた、どこからか伸びてきた一本の針金に巻き付けられる形で、そのまま宙に留まっていたその光景が。

 

 自身の身体に巻き付いた針金。それがゆっくりと自身の体勢を直していって、ゆっくりと地面に下ろしていく。同時にして、紙袋も手渡してきた意思を持つそれが引っ込んでいくと、菜子がそれを目で追い掛けた先にも、歩いてくる“彼”が視界に入ったものだった。

 

「あ、オキクルミ君……」

 

「そんな急いだら転ぶよ??? でもナコ、アシ速かったな!! なな! 今度オレと、かけっこで勝負しよーぜ!! どっちが速いか競うんだ! 負けた方は~……勝った方のメシ奢るコトにしよ! な!」

 

 無邪気に微笑むその顔も、見開いたオッドアイによって迫力が増している。

 パーカーの袖で蠢く針金と共に、オキクルミがやってきたものだった。彼はニコニコしながら菜子へと近付いていくと、少女の背中を軽く叩いてセリフを口にする。これに菜子は「そ、そうだね……」と押され気味に頷いていく中で、オキクルミはこちらにもそう声を掛けてきた。

 

「あ、カンキじゃん!!! いつから居たの!?」

 

「いや、ずっとここにいたけど……」

 

「マジか!! オマエもしかして影薄い? ニンジャになれるんじゃね!?」

 

「しれっとすごいこと言うね」

 

 ユノさんとは違う方向性で、自分のペースを持っている人だ……。

 感想はともかくとして、彼は今日、龍明を去る手筈になっている。結局、彼はまた龍明に戻ってくるのかどうかは定かとなっていないものの、本人はとても気楽な笑みを浮かべながらそんなことを話し始めた。

 

「今さ、町のみんなに挨拶して回ってたんだ!!! オレ、ずっと町のみんなに支えられて生きてきたから、その感謝をみんなに伝えたくって! アッハハハ、龍明ってホントに面白い人達が集まる場所でさ! 『どこにも行かないでくれ~』とか、『他に誰が龍明を守るってんだい』とか、オレがいなくなること、ホンキで悲しんでやんの!」

 

 身振り手振り、純粋に笑いながら話すオキクルミ。だが、ふと意識が途切れるようにパッと無表情に変えていくと、次にも彼は別人のように穏やかに喋り出す——

 

「…………オレ、誰かに愛されるなんてこと、此処に来るまで一度もなかったんだよね。オレを産んだ親はすぐ死んで、オレは周りのガキ共にボコられる毎日だった。ビンボーだったからな。悪ガキに散々と殴られてさ、悪いヤツにもとっ捕まって売り飛ばされて、言い様に利用されたモンだからさ、オレもやり返すようにボコボコにして、ボコして、ボコられて、そんな毎日を送りながら、何となく流れ着くようにして此処に来て、そこで初めてオレは知ったんだよ。——ヒトって、同じ種族の生き物に、こんなにも優しくなれる生物だったんだなって」

 

 顧みるような意識と、その光無き瞳。穏やかに喋るオキクルミに共鳴するよう吹く風に、彼はセリフを続けていく。

 

「龍明に住むようになった最初の頃はさ、オレ、すげぇヤンチャしてたんだ。目についた町の建物を壊し回ってさ、いろんなヤツを殴り飛ばして、観光客にも散々と迷惑をかけたりした。そんで、オレがヤンチャするとさ、町のみんながギルドマスターやユノを呼んできて、それでオレは二人にボコボコにされて一件落着ってなるワケ。特にさ、ユノのヤツは容赦ねぇんだよ! 一回、全身の骨を隅々まで粉々にされて、町のみんなからも同情されるくらいの療養生活を送ったこともあるんだよな!」

 

 すごく楽しそうに話すオキクルミ。殴るモーションを交えながらニコニコと語り、しかし、思い出したように浮かない表情へと変えていくと、呟くようにそんなことを口にする。

 

「……酷いことを続けてきたオレに対して、この町のみんなはすごく優しくしてくれた。何なら、オレを頼ってくれたりもしてさ、そんな優しさに触れている内に、オレ、いつの間にか龍明のコトが好きになってた。——初めてだった。誰かに認められるコトが。そんで、自分を愛してくれる人達がいるって気付いた時からさ、オレ、町のみんなのために命を懸けたいと思って、今までずっと、龍明のためと思って、頑張ってきた」

 

 振り向いてくるオキクルミ。雲に隠れた、控えめな朝の日差しが彼を照らしてくる。

 

「……カンキ! ナコ! オレの挨拶回りに付き合ってくれよ! 誰かと一緒の方がタノシーだろ!!! ヘヘッ」

 

 

 

 

 

 ついていく形で、自分と菜子はオキクルミの挨拶回りに同行した。

 

 道行く人々と、無邪気に会話を交わすオキクルミ。暴れ回っていたという話がウソのように周囲は彼を受け入れており、龍明を出ていく彼を本気で心配しながらも、時には笑顔を見せてオキクルミと話していく。

 

「んまぁクルミちゃん、本当に此処を出ていくの!? ギルドファイトとかそんなの形式上の上っ面だけの約束事でしょ! そんなの本気にしちゃダメよ!! 真に受けて、此処から出ていかなくてもいいんだからね!!」

 

「クルミ君、あの噂は本当かいな。そりゃあねぇ、此処に来た時から無邪気にはしゃぎ回ってたのも、今となっては若気の至り。今じゃ、周りに迷惑を掛けた分以上に、町のために働いてくれているというのに、どうしてそんなクルミ君が出ていかないといけないんだろうねぇ……」

 

「クルミお兄ちゃん! また遊んで! 能力で今度はブランコ作ってよ! それから、次はゾウさんみたいに大きな滑り台を作ってもらって、えっと、それからそれから、みんなを集めて、前にやった大縄跳びと集団鬼ごっこもしたい!」

 

 様々な町の声。心配、不安、残念、掛けられる言葉のほとんどが、彼という存在を惜しむ意味を持っている。

 

 オキクルミという人物は、本当に町の人間から愛されていた。

 愛を知らずに生まれ育った経歴。しかし、彼は今、愛を与える側になっている。龍明という環境が、彼という存在の未来を大きく変えていった。これも全ては、周りの人々による支えのおかげだったことだろう。

 

 オキクルミを遠くから見守る自分ら。特に、菜子においては、彼の背を羨ましそうに眺めていた。

 

「……アタシもさ、お姉ちゃんが居なくなるまでは、ああいう感じにお姉ちゃんから愛されながら育ったんだよね」

 

「……ご家族は?」

 

「お姉ちゃんだけ。——駆け落ちした日から、アタシの身内はいなくなった」

 

 淡々と喋る菜子。そこには、何の感情もこもっていない。

 

「……アタシ、ユノさんのことは許してないから。——愛し合っている人の陰には、愛されずに孤独のまま育った人もいる。アタシはその、孤独で育った側の人間。これの何が腹立たしいかって、愛し合っている本人達は、アタシのような人間の苦労を知らないまま、幸せな日々を当然のように過ごしていることなんだよね」

 

「……蛇足かもしれないけれど、ユノさんも今は独りの状態だと思う」

 

「蛇足じゃなかったら、本気でカッシーのことぶん殴ってた」

 

「ごめん」

 

「いいって、別に」

 

 会話の終わり際に、オキクルミが合流してくる。そして三人で歩き出し、次の住人の下へと向かっていくのだ。

 

 だいぶ、多くの人と挨拶を交わしてきた。けれど、人数的にはようやく折り返し地点だと彼は答えていく。

 町の住人の、全員の顔と名前をオキクルミは覚えているのだ。その記憶力も、彼の本気度がうかがえる要因とも言えたかもしれない。

 

 傾斜にできた、車が走れるよう平坦に整えられた町の道。肩を並べて三人で歩く中、ふとオキクルミはそんな話をしてきたものだった。

 

「あーあ、町のみんなに挨拶するのはいいんだけどさー、オレ、ひとつ、すっごい憂鬱なコトあるんだよねー……」

 

「何か心配事? 俺に手伝えることある?」

 

「いーや、コレも、オレがケジメつけねぇといけないモンだからさー。あーあ……でもやっぱ、言い出す勇気が出ねぇぇ~……。ギルドファイト、”アイツら”に相談しないで勝手にやって負けちまったからなぁー……」

 

 見せたことのない、どん底に打ちひしがれるような顔。それで真上を見上げるように項垂れて歩いていきながら、オキクルミはその状態のまま、真横にいるこちらへと首を曲げてくるなりセリフを続けてきた。

 

「オレの馴染みもさ、此処の何でも屋してんだよー……。“グレン”っていうコワーイ顔の野郎とさ、“カナタ”っていうクールな女の子。オレらいつも三人で仕事してる仲でさー、どんな時でも大体、グレンとカナタの二人がオレの手伝いをしてくれてたんだ」

 

「グレンとカナタ。……どっちも聞いたことのない名前だな」

 

「だと思ったー。カンキが来たのって、ホント急だったじゃん??? だから、紹介する前にその二人、“稲富(いなとみ)”っていう、“別のギルドタウン”に派遣されたんだよねー……」

 

稲富(いなとみ)?」

 

 初耳。そんな疑問形で聞き返していった時にも、オキクルミは目が合った町の住人へと駆け付けていき、挨拶を交わしていく。

 

 そして、昼過ぎという時刻になったくらいか。割と早いペースで全員と挨拶できたというオキクルミが満足そうにしていくと、最後にと、こちらへそのセリフを掛けてきた。

 

「よっし! じゃオレ、これで龍明出てくからさ! あでも、ギルドマスターから、『此処を出ていく時、一声かけに来てくれ』って言われてっからー……じゃあこのままギルドマスターの部屋に直行だな!!! さ、行くぞー!」

 

 ニッシッシと笑うオキクルミは、こちらの後ろへと回って、自分と菜子の肩へと腕を回してきた。

 ドカッと乗せられた体重に、菜子と一緒に驚いて声を上げていく。その反応に彼は満足な様子を見せながら歩き出していくと、このまま連れていかれるようにして、自分らは町長室へと向かうことになった。

 

 到着した町長室の前。愉快げに話すオキクルミと廊下を歩いているその最中にも、彼はピタッと会話を止めて沈黙し始める。

 いつも急だな……。という内心はともかくとして、町長室の扉の前でオキクルミはふと呟いた——

 

「……知らん人の声。二人いる?? ……で、ギルドマスターの声。なんか、話してる」

 

「お取込み中かな。オキクルミ、ここは出直そう——」

 

「いいな! オレ達も混ぜてもらおうぜ!!!」

 

「え」

 

 いやいやいや、どうして!?

 自分と菜子に腕を回した状態のまま、オキクルミは体当たりでバーンッと扉を開けていった。というよりも、扉を破壊して入っていった。

 

 なんとも豪快な入室だった。これには思わず、町長室にいたネィロに加え、見知らぬ男女が振り返ってくる。

 ニッコニコなオキクルミの、「なんの話してんのー!?」という清々しいセリフ。それをネィロはあちゃーという様子で頭を掻いていく中、見知らぬ男である“美青年”は興味深そうにそう喋り出した。

 

「お、なんだなんだ!? あいつ、ギルドマスターの部屋に、扉ぶち破って入ってきたぞ! ——すごいな! 面白いな! どこのギルドタウンに行っても、こんな豪快なお出迎えなんて普通はされないぞ! これは期待できるな!」

 

 ものすごくワクワクした様子で、目を輝かせてくる美青年。その背丈は百八十三というものであり、白鳥の羽毛のように柔らかい白色のショートヘアーが、快活さを演出している。服装は、胸元ががっつり開いたノースリーブの白色のシャツに、同じく白色でスーツのような生地のカジュアルパンツ。だが、羽織っていたその白色の上着が、和風の着物が如く豪勢で厚みがあったりと、どこか遊び心がうかがえる。

 

 何よりもの特徴が、彼は絶世の美青年だったこと。整った顔立ちは男さえも魅了し、長いまつ毛に、鼻から顎までかけて、男らしくありながらも中性的なそのライン。肌も色白に近く、容姿の雰囲気で言えば、ユノの男バージョンとも例えられるかもしれない。

 

 これには、菜子が乙女の顔を見せていく。尤も、顔に両手を当てて青年に見惚れていくその視線も、彼は既に慣れていたものだろう。

 

 かつ、その彼の横に存在していた褐色の“女性”は、腕を組みつつ隣の彼に呆れたようセリフを口にしていった。

 

「あのね~、確かに大胆なオトコはゾクゾクしてそそられるけれどさ、さすがにあれは非常識。若いながらもワイルドなイケイケボーイってのもあたし的にポイント高いけれど、それも常識を弁えていてこその、不意に見せる非常識さのギャップで興奮するんだから、さすがにそこはしっかりしていてほしかったよね」

 

 その女性は百六十九ほどの背丈であり、先にも記したように褐色肌の女性だった。見た目は、本紫の鮮やかな紫色のショートヘアーで、胸元辺りまで伸ばしたもみあげが特徴的であり、かつ、彼女から見た右目が水色、左目がピンク色というオッドアイの持ち主でもある。

 

 その服装はかなり際どいものであり、黒色の薄手なアウターに、一瞬ぶかぶかなTシャツと見間違えたほどに丈が短い、暗く赤味がかった紫色のワンピース。加えて、レースの黒いサイハイソックスに、焦げ茶色の短めなブーツという彼女のコーディネート。ワンピースに至っては、たわわなバストによって持ち上げられ、その分の丈も計算した上での絶対領域を作り出しているほどのこだわり。

 

 女性はとても残念そうに、オキクルミを見遣っていた。だが、本人はそんなことも気にしない。何なら、彼女の服装さえも気にしていなかったことだろう。

 

 自分らを腕から離したオキクルミ。見慣れない人物らに彼は不思議そうな視線を向けていくと、首を傾げながらネィロへとそれを訊ねていったものだ。

 

「ダレ???」

 

「オキクルミちゃん、直球! ——ちょっと待ってくれや。カンキちゃんに菜子ちゃんも、せっかくオキクルミちゃんの見送りに来てくれたのにすまねぇな。今はちょいとタイミング悪く、込み入った話をしていたもんでな……」

 

 と、ネィロが喋るその隣。彼へと見遣った美青年はすぐにこちらへ振り返ると、次にもネィロからセリフを受け継ぐようにしながら、こちらへと挨拶してくる。

 

「これからしばらく、“こちら”でも世話になるからな。せっかくだから、挨拶でもしておこう! ——やぁ、初めまして! おれの名前は、“桃空(ももぞら)タイチ”! こちらの龍明と良きライバル関係にある、ギルドタウン“稲富(いなとみ)”を拠点としている何でも屋だ! 稲富(いなとみ)はいいぞ! あちらは熱帯性気候で年中と暖かい地域でな、此処よりもドでかい海洋と隣接しているその環境から、南国をイメージした町おこしで、様々な業績でこちらの龍明と競り合っているものだ!」

 

 ギルドタウン龍明の競合他社、ギルドタウン稲富(いなとみ)。そこからやってきたという何でも屋、桃空(ももぞら)タイチという美青年。

 

 彼の紹介に、隣の女性は肘で突きながら「ちょっと、そんな対抗心を煽るような紹介やめてよ。此処のオトコ達を漁りにくくなるから」と、しれっととんでもないクレームを入れていく。

 

 だが、タイチという男は両手を腰にやって、ふんす! とした自信満々なその顔で、隣を全く気にしていないようだった。すぐにも彼は堂々としながらこちらへと右手を差し伸べていき、次にもタイチは、そうセリフを口にしてきたものだ——

 

「おれは、自分が心から面白いと思えるものが大好きだ! たとえば、先ほどのダイナミック入室のようなものだな! ああいった、『あっ面白い!』と感じたその瞬間の直感を、おれは常に大切にしながら生きている! ……そうだな。今度おれも真似して、稲富(いなとみ)であれをやってみよう! 向こうのギルドマスター、どんな顔をしてみせるかな! 今から楽しみだな! ——ま、そういうわけだ! ちょっとした所用で、しばらくは“こちら”に邪魔する機会が増えるから、みんな! 今後ともよろしく頼む!」

 

 

 

 【1章3節:縄張り争い ~END~】

 

 【1章4節:Just fight to love】に続く…………。

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