第22話 合同作戦
——数時間前。
ギルドマスターからの呼び出しに応じたユノが、自分と菜子を連れて町長室へと訪れた。既にその場面から始まるよう思い返したこの記憶では、次にもネィロが、ユノに対して数枚もの書類を手渡しながら喋るセリフが再生されていく。
「明日にも遂行する、制圧作戦の詳細が記されている。ユノ、これはおまえにとっても重要な任務になるだろうからな、面倒くさがらずに必ず目を通しておけよ。いいな」
真剣な声音で言い聞かせるネィロのそれに、ユノは「えぇ」と端的に答えて受け取っていく。そのやり取りを交わす横から、菜子はネィロへと尋ね掛けるように声を掛けたものだった。
「その任務ってさ、アタシを狙っているっていう、“例の指定暴力団”が関わっているんだよね……?」
少女が訴え掛けたいことを汲み取ったネィロ。少女の意図に応えるよう、そう返していく。
「そうだな。……カンキちゃんが言うにはよ、“ヤツら”は蓼丸ヒイロという人物の行方を探っている。オレちゃんもその報告を受けたからよ、優先度を上げて色々と調べてみた結果、ヤツらが拠点とするアジトの所在地を、”
「だからこの前、ここに
「そうだ。——彼らもな、巷を賑わすその連中を締め上げるための作戦を立てていたモンだからよ、じゃあそいつに一枚噛ませてくれと、オレちゃんがライバル企業に頭を下げてきて、今に至るってことよ。……じゃないと、“情報を持っている人間”が
顎に手を当てながら、途方を見るようにネィロは言う。それを耳にした菜子も、視線を逸らしつつそう言葉を口にした。
「……お姉ちゃんと、どんな関係なのか。お姉ちゃんが、その組織に狙われている理由とか、ここで聞き出さないと手掛かりが無くなっちゃうもんね……」
「だいじょーぶだ、菜子ちゃん。そう悲しい顔しなくても、オレちゃん
菜子の肩に手を置いて、ネィロはニッと笑んでみせたものだ。菜子も彼の励ましに安心するよう頷いて、「うん」と答えて強気な表情を浮かべていく。
と、ここでユノが、手に持つ書類を軽く叩きながらネィロへと尋ね掛けた。
「内容は把握したわ。それで、私も制圧作戦のメンバーに入っているんでしょうね」
「絶対、流し読みしただろおまえ……。んまぁ、それはいいとしてだな……ユノ、おまえに待機を命じたところで、どうせ勝手に単独行動で現地に向かうだろ」
「当たり前でしょう?」
「当たり前じゃねえから困るんだよなぁ……。だが、ヒイロの行方に関する重要な任務だ、ちゃんとユノもメンバーに加えてある。オレちゃん自ら推薦して、おまえを入れてやったんだぜ。——
「生憎だけど、見世物じゃないの。私は、私の好きなようにやらせてもらうわ」
「せめて、この制圧作戦を指揮する“
「……私、彼は苦手なのよ」
「タイチちゃんは、おまえのことをえらく気に入っているみたいだな。なんでも、おまえの“本気の姿”に興味を示している。ここに来た時から、おまえとの手合わせをずっと所望していたぞ」
「しつこいから嫌いなのよ、彼。無駄に実力が備わっているから、ギルドタウン合同演習でずっと粘り続けてくるのが面倒だわ」
「なぁユノ、なんとか! そこだけはなんとか頼む!
必死なサマで手を合わせ、頭を下げて頼み込むネィロ。一方として、露骨に嫌な顔を見せていくユノ。そんな光景を繰り広げながらも、ユノは憂鬱そうに頭を抱えながら出口へ歩き出し、逃げるようにこの場からさっさと退散しようとする。
彼女の背は置いといて、自分はちょっと疑問を感じたことからネィロへと尋ね掛けたものだった。
「あの、制圧作戦ということは、現場では激しい戦闘も予想されますよね?」
「そうなるだろうな。穏便に済ませたいもんだがよ、やっぱり、あちらさんはあちらさんで、死に物狂いで抵抗してくるだろうな。……向こうには異能力者もいるだろうし、なおさら現場での戦闘は免れないだろう」
「では、俺と菜子ちゃんは、龍明で待機という形になるんでしょうか……?」
菜子が、訴え掛けるような強い視線をネィロへと投げ掛けた。これには彼、パチンッと指を鳴らしながらニッと笑んでいく。
「安心しな二人共! なにせ、推薦したユノの助手っつぅことで、なんか自動的にメンバーに入っちまった! だから、カンキちゃんと菜子ちゃんにも今回の作戦、同行してもらうからな! お二人さんの活躍を期待しているぞ!」
「ま、まじですか……。俺、戦えないんですけど……」
「だいじょーぶだっての!
「ま、まじですか……」
……憂鬱だ。ユノとは異なる憂いの気持ちに苛まれ、自分は微妙な顔で答えてしまったものだった。
それが、数時間前の記憶。そして現在では、今回の制圧作戦を遂行するためのミーティングを行うという名目で、いつもの喫茶店にメンバーの召集が掛けられていた。
……尤も、大きな丸テーブルを囲むそのメンツは、代わり映えの無い、とてもよく見慣れた“いつメン”であることが一目瞭然だったが——
「ちょっとレイランさん!! なにウチのシュークリーム食べようとしてるんですか!! 手に取った時点で代金をいただきますから!! ホラ!!」
「ラ、ラミアのと間違えちゃっただけじゃんか! 二人で同じやつ頼んだから、どっちか分かんなくなっちゃっただけなんだって! ……それにさ、女同士なんだから気にしなくてもよくない? ね、菜子ちゃんもそう思うでしょ?」
「ア、アタシに振る!? ちょっとそう言われても、どう返答したらいいのか困るんだけど……た、助けてアレウス君」
「…………っ」
いつもの昼休憩かな? 集まる場所、間違えたかな?
ちょっと不安に思えてきた自分。いつもの平和なやり取りを前にして、変な汗がだらだらと流れていく。
とは言え、このメンツにはユノという珍しい人物も混ざっていたために、そこまでの心配は必要なかったかもしれない。その本人は交流を好まず、ひとり喫茶店の外で電子タバコを吸っていたものだったが。
と、次にも店内からは、甘くて甲高い黄色い悲鳴が上がっていった。これに自分らが振り返っていくと、そこから歩いてきたのは、周囲の女性客から熱烈な視線を浴びながら近付いてくる桃空タイチの姿が——
「悪いな、待たせてしまった! 龍明というギルドタウンはたいへん興味深いもので、ここに来る最中、いろんな場所を寄り道してしまったんだ! これじゃあもはや、観光みたいだな! ハハハ」
清々しいほどの笑顔。これにはラミア、レイラン、菜子の女性陣は凝視して彼を注目し始める。
その一方で、アレウスの下には褐色の“女性”が接近していたものだった。……獲物を定めたその眼光で、舌なめずりを行いながら——
「あらぁ、あらあらあら……すごくイイオトコ、いるじゃない……」
次の時にも、女性は振り向いてきたアレウスへと手を伸ばしていった。
何の躊躇いもなし。アレウスの上半身を抱え込むようにして、挨拶の軽い抱擁を行っていく。そのまま彼のはだけた胸筋をまさぐるように触れながら、女性はアレウスの頬に手を添えて、うっとりとした目でセリフを続けていった。
「すべてにおいて、どストライクだわ……っ。ねぇ、あなたの名前を聞かせてちょうだい? それと、今夜……予定は空いているかしら? よかったら、二人きりでディナーでも楽しみましょう? ——大丈夫。絶対に後悔させないから。今夜、忘れることのない情熱的な一夜を共に明かしましょう……?」
「…………っ?!」
たじたじになって困るアレウス。抱き着かれたことに困惑する彼の様子も、彼女からすれば戯れの一部であったことに違いない。
と、ふと女性がこちらを見遣ってくる。
「あなたは~……まぁアリね。少し心許無い印象は受けるけれど、それだけ教育のし甲斐があるというものだわ。この子にフラれちゃったら、代わりにあなたを持ち帰って、あたし好みに教育してあげる。——なんて言っちゃったけれど、あなたを誘惑なんてしちゃったら、きっと、お隣のちっちゃな子犬ちゃんは黙っていないわね??」
チラッ。弄ぶような女性の目が、こちらの隣で睨みを利かせる菜子へと向いていく。
目が合った。菜子は気に食わないと言わんばかりに口を曲げながら、強がりつつそんなセリフで対抗してきたものだ。
「は? なに、アタシのこと?? 別にアタシとはそういう仲じゃないし?? だから、カッシーのことは好きに教育すればいいじゃん??」
「あら、そんな挑発をしちゃっていいのかしら? あたし好みに教育されちゃったら、彼、あなたのような田舎娘に見向きもしなくなっちゃうわよ? ——いいわ。彼を、あたしでしか満足できない身体に教育してあげる。彼が開発されている間、あなたはせいぜい指でも咥えて、子犬ちゃんらしく『待て』でもしていなさい??」
豊かなバストを見せ付けるようにして屈む女性。彼女の露骨な挑発に、菜子は額に血管を浮き出しながらそれを言い放つ。
「はっ! バカみたい! アンタみたいな、オバサン、に教育されちゃう男共がホントにかわいそーう!!」
「オバっ——あ、あなたとそんな変わらない年齢よっ!!」
「えぇぇー??? ホントにー?? 現在進行形で乙女を謳歌しているアタシからすれば? アンタは必死になって老けを誤魔化しているようにしか見えないんですけどー?? ……田舎娘相手に、なにムキになってんの。ダッッッサ」
「っ……生意気な小娘ね……今度あなたにも別で、教育、が必要かしらぁ……っ??」
……怖い。助けて。
バチバチの火花に挟まれた自分……とアレウス。いがみ合う二人の間で、自分らは肩身が狭い思いをして縮こまるしかない。
そんな自分らへの助け船……というわけでもなく、ただ純粋に横から突っ込んできたタイチが、二人へとそのセリフを掛けてきた。
「お、なんだなんだ? なにでそんな喧嘩をしているんだ二人共? 田舎娘とかオバサンとか聞こえてきたが、二人とも可愛い女の子じゃないか。そんな女子二人で、一体なにを言い争っているというんだ? ——お、もしかして、腹でも減って気が立っているのか? なら、ミーティングを始める前になにか食べるとしよう! おーい店員さん! オーダー、こっち頼むー!」
彼の脳内には、嫌味という言葉が存在しないのかもしれない。タイチが店員を呼びつけるその間にも、菜子と女性は言葉を失ったように彼を見遣っていたものだった。
……そして女性は、アレウスから離れつつコホンッと咳払い。ンンッと喉でも咳する音で場の空気をリセットしていきながら、次にも改めてといった具合に初対面であるこちらへと紹介を行ってきた。
「イイオトコの前で取り乱すなんて、あたしらしくもなかったわね。——見苦しいところを見せたけれども、これでもあたし、
ビオラと名乗ったその女性。艶やかな雰囲気を醸しながら、キリッとした顔でそのセリフを口にしていく。
そのビオラに続くよう、タイチは店員へのオーダーを済ませて振り返りながら喋り出した。
「ビオラは、おれの幼馴染でもあるからな。だから、こいつが頼れる何でも屋であることは、このおれが保証する! 何だったら、おれの命を賭けてでも保証しよう! それくらい、ビオラは頼れる何でも屋だ!」
「ちょっと、勝手に自分の命を賭けないで。あんたは死なせたくないから、そんな責任あたし持ちたくないんだけど」
「ハッハハハ! おい聞いたかみんな!? こういうところがビオラの良い所だぞ!! だからみんな、おれとビオラのことをよろしく頼むな!」
「タ、タイチ、あんたねぇ……っ!!」
顔を赤らめながら、ジト目でタイチを睨むビオラ。
何だかんだで、良い関係を築けていそうな雰囲気が垣間見えた。そんなこんなで自分らは自己紹介も兼ねて、タイチとビオラの二人と共に、ミーティング前の昼食をとっていく。
尤も、外で電子タバコを吸っていたユノは、交流の場に顔を出す事なく、いつの間にかその姿を消していた。相も変わらずな自分のペースを持つその人物に、自分はどうしたものかと頭を掻いてしまう。
と、その彼女とはまた別にして、“もう二人”、この場に来ていない作戦メンバーが存在していた。どちらも龍明の何でも屋であるその二人は、自分らが交流会の昼食を済ませた頃にでも、顔を出すことになる——