脇役系主人公は見届ける   作:祐。

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第23話 集い始めた役者達

 もはや、ライバル企業というよりも身内のノリで盛り上がっていた。

 

 龍明の喫茶店。ギルドタウン稲富からやってきた、桃空タイチとビオラの二人。明日にも控えた指定暴力団の拠点制圧作戦の会議として、彼らは遥々と足を運んできてくれたものなのだが……。

 

 女性陣に囲まれるようにして、ハキハキとした喋りで会話を行うタイチの様子と、未だにアレウスを誘惑し続けていくビオラという光景。これに自分は、ミーティングしなくていいのか……? なんという疑問を抱きつつも、今の内にユノを探して連れてこようという目的で立ち上がっていく。

 

「菜子ちゃん。俺、ユノさん探してくるから」

 

「あ、うん。はいはい」

 

 軽い調子で相槌を打つ菜子。自分は音も無く抜け出すように椅子から腰を上げ、くるっと振り返って喫茶店の出口へ歩き出した、その時だった——

 

 ——ドカッ。誰かにぶつかる腹の衝撃。自分だけがよろけたこれを受けて、謝罪の言葉を口にしていく。

 

「うぉ、す、すみませ——」

 

 見下ろした視線。ぶつかったのであろう“その対象”は、小柄でありながらも威圧的な眼光を持つ“一人の少年”……。

 

 百六十六くらいのその背丈で、黒髪の無造作なショートヘアー。無難な印象の髪型とは裏腹に、細く鋭い目の下に、真っ黒なくまができている。その服装は、ボロボロになった膝丈までの薄いオレンジ色のコートを、何も身に付けない上半身に直接着込んでいるワイルドなものであり、濃い緑色のミリタリーパンツに黒色のブーツという格好が荒々しい印象を与えてくる。

 

 コートから覗く上半身は、アレウス以上もの仕上がりを見せるバキバキの筋肉が存在していた。その背丈からは想像できないほどの、あらゆる攻撃をも受け止めそうな肉厚なそれに加えて、くまのある鋭い眼光がこちらを睨みつけていくその状況から、自分は堪らず言葉を失ってしまう。

 

 ……とんだヤバい奴にぶつかってしまった。

 彼の両手が、拳をつくる。そしてこちらへと向き直っていき、獲物を食い殺すかのような眼で真っ直ぐと捉えてくると、次にも彼はこちらへと、深々と頭を下げてきたのだ——

 

「すまない、よそ見をしながら歩いていた。おれが悪かった、どうか許してくれ」

 

 ……え? 殴られ、ない?

 斜め上すぎる相手の反応。眼前のそれにキョトンとする自分へと、彼は頭を上げて見遣ってくる。

 

 怖い顔つきで、真っ直ぐとこちらに向き合っていく少年。まるで石膏像のような筋肉質の身体で実直に視線を投げ掛けてくると、自分と向き合うその様子を見たラミアが、こちらへとセリフを掛けてきたのだ。

 

「あー、“グレン”さんじゃないですかー。稲富から帰ってきたんですねー。おかえりなさーい」

 

「あぁ、ただいま戻ったところだ。タイチさんとビオラさんには、一足先に龍明へと出発してもらったものなのだが、どうやらお二方がこちらに馴染めているようで安心した」

 

「“カナタ”さんは一緒じゃないんですか??」

 

「“カナタ”も来る。……といいんだが」

 

 やれやれといった調子で頭を掻いていく少年。そのまま背後の足音に振り返っていくと、そこからは“一人の少女”が歩いてくる。

 

 百七十一ほどの身長である彼女。黒髪のロングストレートは撫子のようでありながら、その表情は無感情をよく表しており、ただ瞳に宿る妖しいピンク色が、残像として空間に残るほどの色濃い光を放っている。その格好は学生服を模しておりながら、ブレザーやスカート、靴が濃い紺色で統一されていて、ネクタイのようなリボンが赤色、スパッツやハイソックスは黒色という、おとなしめな印象を受けるその配色で成り立っていた。

 

 彼女の表情からは、あらゆる感情が読み取れなかった。自然体でポーカーフェイスを行っているようにも感じてしまえたその少女は、途方を眺め遣る視線で人と向き合わない。

 

 合流した少女に、少年はそうセリフを口にする。

 

「……まだご機嫌斜めか?」

 

「うるさい」

 

 感情を感じさせない、端的な一言。喋ると共にして、彼女はアレウスへと視線を投げ遣っていく——

 

「クルミ、追い出された。あいつのせい」

 

「おい待てカナタ、なにもアレウスが悪いわけじゃねぇ。元はと言えば、おれらに相談せず勝手にギルドファイトを吹っ掛けやがったクルミの野郎に非があるんだ。——あいつ、おれらが稲富に派遣されたことを良いことに、独断で行動しやがって。いいかカナタ、この件はクルミの野郎に問題がある。本人がおれらにそう説明していただろ。町の外の人里で、気楽に笑いながらよ」

 

「でもクルミは追い出された。あいつが勝ったりなんかしたから」

 

「ギルドファイトはそういうもんだろうが」

 

「許さない。次は私がやる」

 

「おい待てカナタ、ギルドファイトはそんな仇討ちのような理由でやるもんじゃねぇ」

 

 少女の恨みが突き刺さる。この視線を薄々と感じ取っていたアレウスはと言うと、とても居辛そうな顔をして途方を見遣っていたものだ。……ビオラに抱き着かれ、煽るように胸を押し当てられながら。

 

 何となくの関係性がうかがえた、目の前の男女。その会話を聞いている間にも、自分は以前にもオキクルミと交わしたある会話を思い出す————

 

 

 

『あーあ、町のみんなに挨拶するのはいいんだけどさー、オレ、ひとつ、すっごい憂鬱なコトあるんだよねー……』

 

『何か心配事? 俺に手伝えることある?』

 

『いーや、コレも、オレがケジメつけねぇといけないモンだからさー。あーあ……でもやっぱ、言い出す勇気が出ねぇぇ~……。ギルドファイト、”アイツら”に相談しないで勝手にやって負けちまったからなぁー……』

 

 見せたことのない、どん底に打ちひしがれるような顔。それで真上を見上げるように項垂れて歩いていきながら、オキクルミはその状態のまま、真横にいるこちらへと首を曲げてくるなりセリフを続けてきた。

 

『オレの馴染みもさ、此処の何でも屋してんだよー……。“グレン”っていうコワーイ顔の野郎とさ、“カナタ”っていうクールな女の子。オレらいつも三人で仕事してる仲でさー、どんな時でも大体、グレンとカナタの二人がオレの手伝いをしてくれてたんだ————』

 

 

 

「ああ、グレンとカナタ……」

 

 思い出した。呟いたこちらの言葉に、二人が向いてくる。

 

 そして、少年の方は暫しと思考を巡らせていくと、この場の空気に馴染むこちらの存在へと問い掛けてきた。

 

「なんだお前さん、観光客じゃないのか?」

 

「いや、これでも自分、ユノさんの助手として働かせてもらっていて」

 

「ユノさんの……初めて見る顔だな。いや、おれが記憶していなかっただけか……? 本当にすまない。身内の顔と名前は記憶しているつもりだったんだが、どうやらど忘れしてしまっているらしい」

 

 すかさず、彼は実直に頭を下げてきた。これには自分も思わず、手を振りながら慌てていく。

 

「そんな、謝らなくてもいいって! オキクルミが言うには、俺が来たのは二人が稲富に派遣された後だったらしいから」

 

「だが、身内の顔ぶれを把握できていないのは、おれの落ち度だ。すまないが、名前を聞かせてもらいたい。——そちらにいるお嬢さんにも、名をうかがっていいだろうか」

 

 怖い顔で、すごく誠実な会話をしてくる……。

 そんな彼は菜子へと手を伸ばし、訊ね掛けるようにしていった。菜子も彼に呼ばれたことでこちらの会話に混ざりつつ、自分から紹介を始めていく。

 

「俺は柏島歓喜。龍明探偵事務所で、ユノさんの助手をやらせてもらっているんだ。よろしく」

 

「アタシ、蓼丸菜子。コッチと同じくユノさんの助手してる」

 

「柏島歓喜に、蓼丸菜子か。…………ん?」

 

 顔を覚えるために、じっとこちらを眺めていた彼。ふと思い出したようにピンと瞳を大きくしていくと、彼はそんなことを口にしたものだった。

 

「——あぁ、クルミの野郎がお前さんらの話をしていたな。……先日はどうも、世話になったみたいだな。おれ達の代わりにあいつを支えてくれたようで、お前さんらには本当に助けられた。クルミのやつ、お前さんらにとても感謝をしていてな、だから、おれからも直々にお礼を言いたいと思っていたところなんだ。本当にありがとう」

 

 どこまでも実直。軽く頭を下げてきた彼に、自分らもペコッと軽くお辞儀していく。そして彼は、こちらを視界に入れるようにしていくと、次にも後ろの少女も含めた紹介を行い始めた。

 

「今更になってしまうが、クルミの友人として紹介をさせてくれ。おれは、“グレン・バスター”だ。クルミの野郎とはそれなりに縁があってな、この龍明に来る前から、おれはあいつと行動を共にしていた。で、おれの後ろにいる女が、“友仁(トモニ)彼方(カナタ)”だ。こいつは基本クルミの言う事しか聞かないが、クルミの話題であるならば、返事くらいはしてくれるだろう。扱いが少し難しいかもしれないが、本人なりに色々と努力しているもんでな。どうかその辺を理解してくれると助かる」

 

 オキクルミの友人、グレン・バスターと友仁(トモニ)彼方(カナタ)。それぞれグレンとカナタの名前で呼ばれていた彼らは、グレンがよろしく頼むのお辞儀を行っていき、カナタは無感情で途方を見遣っていく。

 

 オキクルミは、この二人といつも行動していたんだなぁ。という感想を内心で呟いていくその中で、ちょうど自己紹介が終わったこのタイミングでタイチが呼び掛けてきた。

 

「よし! これで龍明の何でも屋諸君とも、親睦を深め合ったことだろう! まぁおれとしては、もっとみんなとこうして楽しく過ごしていたいものだし、何なら龍明の案内もしてもらいたいくらいの最高に爽やかな気分にある!! ——が、しかし! 誠に遺憾ながら、おれとビオラは生憎と仕事で此処に来てしまっている……!! だからおれは、否が応でも今日は、仕事のミーティングを此処で行わなければならない運命にあるのだ……ッ!!!」

 

 ガチで歯を食いしばる迫真のタイチ。そのツラでさえも何故だかカッコよく見えてしまえるそんな彼へと、ビオラは口元に手をやりながら声を掛けていく。

 

「ハイハイ分かったから、さっさとミーティング終わらせて解散しましょー。——ね、アレウス君。この後はあたしとのアフタヌーン・ティーが控えているもんねー?」

 

 まだくっ付いていた。ビオラの熱烈なアプローチにアレウスが困惑する脇で、タイチはタイチで「そうだな! 早く済ませれば、その分この龍明を観光できるしな!」とセリフを口にするなりテーブルに図面を広げていったものだった。

 

「さて、今回こうして龍明の諸君に集まってもらったのは他でもない、明日にも実行する制圧作戦を会議するためだ! 稲富の陣営からは、おれとビオラが参加し、主な戦力となるだろう龍明のメンツからは、ラミア、レイラン、アレウス、グレン、カナタ、そして……ユノ。その彼女の補佐として、カンキと菜子というこのメンバーが主要となって、明日の作戦に臨んでもらうこととなる!」

 

 図面に手を着いて、堂々と真剣な顔つきで説明を始めたタイチ。彼が中心となるその進行は自然な流れでミーティングへと移行して、この時にも明日の会議が開始されたものであった。

 

 

 

 

 

 ミーティングが終了し、解散となって喫茶店から出てきた一同。レイランが背伸びをしていくその真横で、自分は店の付近を見渡していく。

 

 と、町中の看板の前。ちょうど店内からは姿が隠れるその位置に、凛々しい雰囲気を醸し出したユノが佇んでいた。

 

 そちらへ駆け出していく自分。この動きをレイランは目にしていくと、流れに従うように何となくついてきた。尤も、少女が後ろからついてきているなど知らなくて、こちらは真っ直ぐとユノへ言葉を投げ掛けていったものだったが。

 

「ちょっとユノさん! どこ行ってたんですか! 既にミーティング終わっちゃいましたよ」

 

 掛けられた声に、ユノは興味無さそうな顔を向けてくる。

 

「そう、なら事務所に撤収しましょう。柏島くん、菜子ちゃんを連れてきなさい。道中で二人から内容を聞かせてもらうから」

 

「……何と言いますか、ユノさんらしいですね」

 

 皮肉。そんな呆れ気味の視線を向けても、ユノは全く気にしない。そこにレイランが寄ってくると、佇むユノの憧れの姿に目を輝かせながらその言葉を掛けていったものだった。

 

「こんにちはユノさん! 明日の任務、ユノさんとご一緒できるのが嬉しいです! 私、足を引っ張らないように頑張りますから、明日はよろしくお願いします!」

 

 可憐な少女の快活な挨拶。これを耳にしたユノは途端に凛々しいサマを繕い始めると、男であるこちらへの対応とはまるで異なる、凛とした大人の女性の風格を醸し出しながらレイランへと向き合っていく。

 

「えぇ、よろしくね。レイランさん」

 

「はい! ——けっこう大掛かりな制圧作戦になるみたいですけど、今回は各ポイントで分担って感じじゃなくて、みんなで固まって、みんなの力を集結させた一点突破の速攻型で制圧するみたいですよ!」

 

「へぇ、そうなのね。教えてくれてありがとう。おかげで助かったわ」

 

「わ、そんな、ぁありがとうございます……! えへへ、ユノさんに褒められた……」

 

 ちらっ。こちらを見てくるレイラン。よほど嬉しかったらしく、昂った感情のままに自分へと喜びを訴え掛けてきたものだ。

 

 という少女だったのだが、ふとそんなことをユノに問い掛け始めていく——

 

「あの! けっこう大掛かりな作戦みたいなので、ユノさん、“あの姿”を解禁したりしますか……!? 私、ユノさんの”本気”を一度でもいいから間近で見てみたくって……! ——その……わ、私の……あ、憧れ、なんです……!」

 

 顔を赤らめて、もじもじとしながら上目遣いで明かしていくレイラン。勢いで口にしてしまったことに少女はなおさらと恥じていく一方で、レイランと向かい合っていたユノの目は、一瞬ばかりと他所に逸れていく。

 

 ……そして、言葉を探すように暫しと口を噤んだユノ。だが、大した言い訳が見つからないといった具合に鼻でため息をつくようにしていくと、彼女はなんとも曖昧な調子でそう答えたものだった。

 

「……使うかどうかは、その時の状況によるわね。場合によっては、その力によって周囲の被害が余計に増えてしまったりするものだから、迂闊に使用することは世間的に許されないの。だから、ごめんなさい。たとえ、貴女のような素敵な女の子からのお願いであったのだとしても、現時点ではそれを披露してあげられる約束はできないわ」

 

「ぁ、そうなんですか……」

 

 目に見えてすごく残念そうなレイラン。そんな少女の様子に、ユノはとても申し訳なさそうな顔を見せていく。

 

 内容は分からないけれど、ユノさんはあまり喋りたくなさそうだな……。そう感じた自分がレイランに慰めの言葉を掛けようとした、その時の事だった——

 

 視界の隅から、高貴なドレスを身に纏うニュアージュが歩いてくる。彼女がこちらを発見してくると、「まぁ、皆さまごきげんよう」と優雅に挨拶をしながら歩み取ってきた。

 

 そんな彼女のすぐ傍には、先日にも召使いとして紹介された忠誠なる執事キャシャラトが、百九十という高身長で彼女に同行していた。彼もまたニュアージュと共にこちらへ来るその最中にて、ユノと目が合うなりキャシャラトは少しばかりと立ち止まる——

 

「——随分とお久しうございますね」

 

 ニュアージュが、キャシャラトへと向いていく。自分らもその言葉の先にいたユノへと向いていくと、ユノは見開いた目で彼を確認して、穏やかに微笑みながらそれを口にしていった。

 

「変わらないのね、キャシャラトさん」

 

「いつ如何なる時でも、不変なる忠誠な執事であること。陰ながら主人に仕える者としてのモットーでございます。——かつての主人として、私めの変わらぬお姿に納得いただけましたかな、ユノお嬢様」

 

「私のあれは、主人と呼べたのかしら」

 

 軽く笑ってみせたユノ。彼女の反応に、キャシャラトは得意げにニッと笑んで軽い礼を行っていく。

 

 同時にして、彼はユノの顔色をうかがうようにそれを問い掛けた。

 

「ヒイロお嬢様の行方は、今も探られておられるのですか?」

 

「ようやく手掛かりが手に入ったの。まだ先は見えないけれども、必ず彼女を見つけ出してみせるわ」

 

「ゆかりある者として、私めにもお手伝いできることがございましたら、何なりとお申し付けくださいませ」

 

「ありがとう、キャシャラトさん」

 

 と、ここで、その言葉は聞き捨てならないと急ぎ足で駆け寄ってきた菜子の姿。姉の名前に反応した少女が、「ヒイロ!? ヒイロがなに!?」と慌てながらやってきたものであったから、菜子の登場によってこの会話は、自然と切り上げられる運びとなっていった——

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