荒廃した市街地を、広範囲で覆っていく布天井。上空からの目を遮断するその地域は、見張り小屋や大きなバリケード、鉄製の門から、竜宮城のような現代的な建物が存在していたりと、組織の拠点であることがうかがえる。
布天井から射し込む光。それが地上に明かりをもたらすその空間。門の付近を歩いていた槍を持つ男が、近くの男性へと近付いていく。世間話でもしようと考えたのかもしれない。男は声を掛けながら相手を振り向かせていき、自分から歩み寄って門の前まで来た、その瞬間だった——
——破滅。それは、突発的に発生した嵐の如く。
弾け飛ぶように散っていった門と、付近のあらゆる物体すべて。巻き込まれた男が消失する現象を目の前にして、男性に留まらず組織の人間達が一斉に動き出したものだった。
ユノの蹴りによって、暴力団組織の拠点は瞬く間に損壊を被った。
いや力業すぎる……。間近で眺めていた自分が冷や汗を流していく中、指揮を執るタイチの掛け声を合図にして、その場に集っていた何でも屋の一同が一斉に殴り込みをかけていく——
「さぁユノに続け!! どんどん行け行け!! 組織の人間を片っ端から無力化して、騎士団があっと驚くほどの大量の手土産を持ち帰るとしよう!! ——あっははは! ライバル企業と手を組んだ合同作戦なんて、実に面白いな! おれも気分が盛り上がってきたぞ!! さぁ張り切っていこう!」
竜宮城のような建物へと真っ先に突っ走っていったユノ。彼女がリベロとして先陣を切っていくと、後ろから続くように、タイチ、ビオラ、アレウス、グレン、カナタ、レイラン、ラミアと続々なだれ込んでいく。
そして、ついていくように走り出した自分と菜子。特に自分は、事前になって任された“キャリングケース”を提げていたことから、誰よりも遅く飛び出していったものだった。
破滅したアジトの入り口を通っていくと、そこに広がっていたのは廃墟の町並み。現代的な雰囲気のそこは、ほとんどの建物が瓦礫という変わり果てた姿であり、かつ、崩落した状況そのままに、見張り台や屋台、屋根付きの小屋などといった形で利用しているというその光景。
布天井に囲われた敵陣は、小さな町に匹敵する広大さ。故に、瞬く間に四方八方から囲まれた自分らは、それぞれの方角から迫る連中を力でねじ伏せていく。
先に行ったユノの姿は、もう見えない。彼女は、愛人である蓼丸ヒイロについての情報を持つ人物にしか興味が無いため、この集団を束ねる組織のトップにしか目がなかったものだ。
そんな、突っ切っていったユノの後処理を行うように、タイチが敵の集団へ飛び込んでいった。彼は羽織っている着物のような上着をはためかせいくと、空中にいる自身を狙撃しようとしてきた銃使いへと、“鋭い何か”を腕から飛ばしていく。
それがあっという間に連中を貫いて処理していくと、着地したその衝撃と共に、彼の周囲には“結晶のような鋭利な物質”が、瞬く間に水が凍り付いた光景の如く発生し始める。
それは、クリスタルのような“刃”だった。刃物が結晶のように地面から生え出して、洞窟に形成される自然体のような光景を生み出していく。これは神秘的でありながらも、真白な刃に飛び散った鮮血が太陽光でキラキラと輝くその様子は、美しき顔の裏に秘めた彼の獰猛さをより際立たせたものだった。
「おっと! うっかり致命傷を与えてしまった! せっかくの手土産が台無しだな! 何ならいっそ、このまま騎士団の下へ持ち帰るか? 奴ら、どんな顔をしておれらを出迎えてくれるかな? そう考えると、とても面白そうだ! あっははは!」
清々しく笑うタイチの背後から迫る影。身体の一部を狼へと変貌させた大男が、彼を丸ごと呑み込もうと襲い掛かる。
だが、振り向きもしない彼の代わりとして、横槍を入れるようにして拳で迎え撃ったビオラ——
「あんた、なに呑気に突っ立ってるの!」
殴りつけた彼女の拳から、“鮮やかなピンク色の液体”が滲み出す。これが狼の異能力者に付着していくと、付与された粘液に警戒した男は飛び退いて距離を空けていった。
その間にもビオラは、自身の身体からじわじわと溢れ出した液体を右腕に集中させていく。そして彼女は、右腕に付随するパーツのようにして粘液の右腕を形成していくと、次は自身から飛び出すようにして男へと殴り掛かって、その一撃を叩き込んでいったのだ。
威力自体は平凡だ。男は両腕で受け止めていく。しかし、防御した腕を含め、隙間をすり抜けて男の身体へとじわじわ侵食した粘液。ビオラはこのまま形成した右腕を男へ付着させていき、それの粘着性から防御した腕を固定させられた男が慌てるそのサマを前にして、彼女はタイチへと話し掛けながら左手に炎を宿していく——
「どうして合同作戦でも、まともに働こうとしないのよ!」
「お? おれのことか? おいおい! おれだってちゃんと働いているぞ! ほら!」
バッ、と突き出した手を合図にして、彼の足元からツラツラと地上を這い出した結晶の導火線。それが敵の集団に到達すると、次にも巨大なクリスタルの結晶となって、敵を斬り刻んでいく。
「な?」
「あっそ! 余計なお喋りをしていたから、気が付かなかった!」
冗談めかしたビオラのセリフ。共にして炎を宿した左手を振るっていくと、火の玉となったそれは飛んでいき、先ほどにもピンク色の粘液を付けた男に着弾する——
——瞬間、ダイナマイトをも凌駕する爆発が、轟音を伴って発生した。
周囲がブラックアウトするほどの破壊力。直撃した男の存命は期待できない。この二人の圧倒的な異能力によって敵陣がうろたえる中で、タイチとビオラは至って通常通りの会話を交わしていった。
「相変わらずすごいなビオラ! やっぱ派手さじゃ、おまえに敵わないな!」
「なに言ってるのよ。タイチの、“物体に刃を生やす能力”の方が無力化しやすいじゃない。そっちの方が万能よ」
「いや、おれの能力は殺傷力が高すぎる。言うほど万能じゃないぞ。それに比べたら、ビオラの“爆発性のスライムを生み出す能力”の方が、様々な用途がありそうで羨ましいな」
「手間がかかって面倒なだけよ。それじゃあ聞くけれど、様々な用途って例えば何?」
「なにって、そうだな……そのスライムを点火して、ストーブの代わりにして温まったりとかか?」
「爆発するから危ないわよ!! 粘着性は操作できるけれど、スライムの爆発は能力者のあたしだってダメージ受けるんだから!」
「それでも、いつもスライムをクッションにして昼寝しているだろう? 日常生活でも使用できるだけ、その能力は恵まれているとおれは思うな!」
「一手間もいらないシンプルな効果の方が、扱いやすくて良いに決まってるじゃない! ——あぁダメ、タイチと一緒だとあたしまで仕事に集中できなくなる」
「なら、サボった分を今から取り返せばいいだけだろう!」
息の合った動作で、二人で飛び込んでいくタイチとビオラ。稲富の何でも屋が連携を見せていくその最中にも、他の場所では龍明の何でも屋が活躍していく。
著しい猛威を振るっていたのは、カナタだった。妖しく光らせた色濃いピンクを瞳に宿し、それの残像を空間に漂わせながら走らせる斬撃——
刹那の通り魔。音速で駆け抜ける彼女を捉え切ることができない連中は、ことごとくと斬り捨てられて宙を舞っていく。その光景を繰り広げながら上空へ飛び出していくと、カナタはようやくと見せた全身と共に、両手に持った二刀の
見開かれた瞳と共鳴するよう、波動となって伝った大気の違和感。直後として猛烈な突風が“地面から発生”すると、周囲の輩は巻き上げられるように上空へ吹き飛ばされて、カナタの射程距離に入ってしまう。
そして、次に“彼女の後ろから吹いた突風”にカナタは乗り出して、空中を蹴るようにしながら刹那の斬撃を繰り出した。
ピンクの残像に混じる、飛び散る血飛沫。それを弄ぶよう空中に漂わせる突風が不規則に吹き始めると、カナタという人物に緩やかな浮遊感を与えていく。
——まるで、空を泳いでいるようだった。“風を発生させる異能力”を持つ彼女は、刹那の余韻と思しき冷酷な無表情を見せながら、戯れるイルカのように身体をしならせて滞空し続けていたものだ。
圧倒的な力を持つ猛者達の集い。アレウスも斬撃を実体化する能力で空間を引き裂いていくこの戦場は、ほぼ一方的な戦況を展開していた。加えて、竜宮城のような建物からは時折と破壊的な衝撃が見受けられ、ユノも超人じみた素の力で存分に暴れていたらしい。
黒色のポンチョを身に纏うレイランが、それを蠢かせてマフラーのような形状を象っていく。そして影のように伸び、触手のような挙動を以てして得体の知れない不可解な動きを見せていくと、首元に巻いたままのそれで薙ぎ払うような舞でレイランは回転した。
鮮やかで洒落た動作。だが、一瞬にして伸び縮みする不可解な“黒色”に触れられたら最後、連中はその箇所の肉をバッサリと引き裂かれ、傷と口、目や耳から黒色の泡を大量に噴き出しながら、白目を剥いて次々と倒れていく。
何がモチーフになっている異能力なのか、まるでうかがえない。ただ、その舞を終えて、弓を引き絞るような構えをとっていくレイラン。少女の予備動作に合わせるよう黒色のそれがスルスルと手元に移っていくと、それは弓を模し、やじりが鴉の頭部を象って、残った連中へと射られていった。
自然に働く運動を無視して、それは真っ直ぐ飛んでいく。その最中にも巨大な鴉へと変貌して翼を広げるものだから、横への当たり判定が一気に伸びて連中が一掃されたものだった。
どこからともなくスルスルと、レイランの上半身に戻ってくる黒色のそれ。共にして少女がこちらへ向いてくると、キャリングケースを持つ自分へとその言葉を掛けていく。
「カンキ君、今の内! 早く“それ”を起動しちゃって!」
「わ、わかった!」
言われるまま、自分はケースを地面に置いていく。
すると、その衝撃で勝手に起動したのだろうキャリングケースは動き出し、それはガチャコンガチャコン音を立てながら、瞬く間に近未来的なホログラムを映し出すパソコンへと姿を変えたのだ。
起動を確認して、それを見遣っていく。浮かび上がる機械的な水色は直にして、この周辺地域をインプットしたのだろう地形や障害物を、マス目の入った信号走るホログラムとして映してきた。
自分の耳に装着された無線装置。指をあてがってスイッチを入れながら、自分はそれを報告していく。
「“スーパーホログラフィー”、起動完了しました! これより無線越しで、周辺状況を逐一報告いたします!」
——無線の音声がオンになった瞬間に、暴力団連中の悲鳴が聞こえてくる。この音に紛れるよう清々しく答えてきたのがタイチだった。
『おう! 頼んだ! ——カンキ、くれぐれも扱いには気を付けてくれよ!』
「えぇ、承知しています。——“範囲内に存在する全ての物質を検知する”小型のスーパーコンピュータ。ですが、超高性能の代償として、“わずかな衝撃でも故障してしまう脆弱性”が特徴……なんですよね」
『上出来だ! 探知する範囲自体も、お世辞にも優れているとは言えないからな。どうしても戦闘区域に踏み入らないと、アジト全体を探知できないのが難点だ。だから、スーパーホログラフィーを扱うカンキを守ってもらうために、そちらにも人員を割いた。——どうにか皆に守ってもらいつつ、カンキはおれ達のサポートに徹してくれ。最優先事項は、人質や奴隷が存在しているかどうかだな。地下があるようだったら、そちらを優先的に探るように!』
「分かりました!」
戦闘できない自分なりに、皆の役に立ってみせる。
パソコンになったスーパーホログラフィーを、左腕で抱えるようにして持ち上げる。その間にもレイランが周囲の連中を片付けてくれていたものだったが、やはり組織の人数が多く、溢れた連中がスーパーホログラフィーを持つこちらに狙いを定めて突撃してくるのだ。
すべての情報を暴くコンピュータ。この性能を知る奴らは、何かの発覚を恐れて襲い掛かる。だが、自分へと飛び掛かってきたそれぞれは、金属バットと突き出した拳によって敢え無く返り討ちに遭っていった。
すぐさま、菜子とラミアが立ち塞がる。片方は怪力を有しておりながらも、異能力を持たない二人は肩を並べて堂々と壁になった。
「アタシ達だって負けてらんないから!」
「そーですよ。何でも屋の底力を見せるとしますか!! ——まー、可憐でか弱ーい乙女であるウチらに守られるカンキさんもカンキさんですけどね」
「ホントそれ。カッシーさ、せめて戦えるようにはなろうよ。そんなんじゃ女の子にモテないよ?」
余裕の佇まい。金属バットを肩に掛ける菜子が振り返って、からかうような目でセリフを口にしていく。
と、その菜子の身体が陰りに染まった——
「な、菜子ちゃん! 前ッ!!」
「え?」
瓦礫の塊。投げ飛ばされてきたのだろうそれが、こちら陣営に直撃した。
……尤も、当たったのは、そのごく一部分である手のひらの面積。自分と菜子の前に踏み出したラミアが、左腕一本でそれを容易く受け止めていったのだ。
そして、打ち付けるように地面へ投げ捨てた。一連の危機に菜子が悲鳴を上げながら頭を抱えていくその手前、ラミアはしれっとした顔で手を払いながら呟いていく。
「人命救助。これで報酬金アップですねー」
「……すごいなラミア」
思わず感嘆が零れる。だが、こちらの一難は続々となだれ込んでくる。
——二刀のサーベル。二メートルの刃渡りはあるだろう巨大な獲物で迫ってきた筋肉質の男が、こちらをぶった切りに真正面から切り込んできた。
さすがに、刃物は受け止められない。これにはラミアも「あ、さすがにそれは反則ですよ!!」と声を上げながら回避していく。
って、ラミアに避けられたら、攻撃が俺に直撃するんだけど——!!
一瞬と瞑った目。すぐにも自分は前方を確認していくと、そこには両腕を広げて攻撃をかばったグレンの姿が——
彼の筋肉質な上半身に、二刀のサーベルが食い込んでいる。あれだけの鋭い刃を筋肉だけで受け止める彼も異質だったものだが、それでも食い込む刃物にグレンの身体から大量の血が噴き出し始めた。——のを良いことに彼が喋り出す。
「——これがイイ。この威力が……おれをより高みへと導く……ッ!!!」
サーベルの刃を掴むグレン。直後、握力で二メートルの刃渡りを粉々に粉砕する——
全身の筋肉が躍動する音。外部にも響き渡るそれに相手が尻込みする手前にて、踏み込む動作は受けたダメージを原動力に、次にもグレンは引き絞った右腕から破壊的な拳の一撃を繰り出した。
——ユノ、さん……!?
一瞬ばかりとよぎった、身に覚えのある衝撃波。脆いと悪評のスーパーホログラフィーをかばうようにした自分が持ち堪える中で、この背後では、グレンの一撃によって周囲の瓦礫が塵へと化したものだった。
襲ってきた男を探さない方が良さそうだ。たぶん、在ったとしても見つけない方がいい。圧倒的な破壊力に、ラミアや菜子が尻もちをついている光景。だが、直後にも傷口から血を噴射したグレンが声を上げていくと、彼もまた傷口を手で押さえるようにしながらその場でよろけていく。
何という捨て身……! 自分は心配するように、彼へと言葉を投げ遣った。
「グレン!! 大丈夫か!? 今すぐに撤退した方がいい!」
その言葉に、すかさず彼は反応していく。
「いや、気にすんな! ……おれは、こういう戦い方をする人間なんだよ……ッ」
仁王立ち。開けっ払っていたそのファッションには、筋肉を伝う大量の流血。
「おれもよ、お前さんらと同類なんだからな……ッ。これぐれェの無茶をしねェ限り、あいつらと並び立てやしねェ……!」
「同類、って……。もしかしてグレンも、異能力を持っていない……?」
共にして、鼻で笑うグレン。それは、自分自身に呆れるようなサマにもうかがえた。
「悔しいことによ、生身の身体じゃあどう足掻いても異能力者の野郎共に追い付くことができねェ……。ましてや、おれにはラミアのような怪力もねェし、おれ自身、菜子のような戦闘のセンスもねェ人間だ。だからよ——がむしゃらに身体を鍛え上げて、“攻撃を受けても怯まねェ耐久力”を。攻撃を仕掛けるセンスがねェから、“攻撃を受けることで反撃する”受け身の戦闘術を身に付けて、ここまでやってきたもんだ」
血塗れになりながら喋るその姿。今もダラダラと流れ出る赤黒いそれを、グレンは気にも留めずに歩き出す。
「異能力を持たない者同士、共に協力し合いながら存在感を出していくぞ。——ラミア! 菜子! このまま気張っていけ! カンキ! お前さんの出来得る限りのサポートを期待している!」
そして駆け出したグレン。彼のセリフと共にラミアと菜子も身構えて、前方から迫る組織の連中へと立ち向かっていった。
異能力が飛び交う殺伐とした戦況。生きていれば安いという致命傷が多発するこの状況も、圧倒的な実力差で押し切る何でも屋陣営の手によって、そう経たない内にも静けさを取り戻し始めることとなる————