戦況は、何でも屋陣営が圧倒的に優勢だった。敵に数多の異能力者が存在していながらも、実力で上回る何でも屋メンツの活躍によって、こちらが勝利を収めるのも時間の問題だと言えただろう。
それでも現在と続いている、殺伐とした戦争の様子。異能力や銃弾が飛び交う空間の中、自分はラミア、レイラン、菜子、グレンに守られながら、超高性能が故に超脆弱な機械スーパーホログラフィーを操作して、周辺一帯の情報を根こそぎと漁っていた。
左腕で抱えるようにして、キャリングケースから変形したパソコンを操作する自分。浮かび上がる水色の映像という近未来的な光景と、今も地形を伝ってデータを読み込んでいく電波に、そのデータを参照して映し出されたホログラム状のマップという眼前の情報量と向かい合っていく。
状況をリアルタイムで受信するその機械。名前にスーパーと付いているだけあって性能は中々に凄まじく、これは、今も活躍する何でも屋一同の現在位置から、周辺の敵の数や、それらが所持する武器や道具、さらには、対象が異能力者であるかどうかまでもがこの機械で筒抜けとなる。
地形や建物も完璧に読み込むことから、地上の起伏や瓦礫の詳細な位置、建物の高さからその内部の構造までも一目で発覚する。それが故に、この敷地の奥にある、竜宮城のような大きな建物が十一階建てであることから、その間取り、どこに何が配置されているのか、どれほどの人数が存在しているのか、そして……今も建物内を超高速で駆け巡るユノの現在位置なども、この機械ひとつで把握できたものだった。
群れるように存在する敵のマークが、ユノのマークと接触すると一瞬で弾かれていく。異能力者であると判別する強敵のマークさえもホログラム上から消失したりして、彼女の規格外な戦闘力が機械越しでもうかがえたものだった。
そんなユノに負けじと敵を制圧していたのが、タイチやビオラという稲富陣営の何でも屋。続いて、龍明陣営のアレウスが斬撃を実体化する異能力で彼らに肩を並べていき、風を発生させる異能力を持つカナタが、
自分のすぐ傍では、菜子が金属バットで相手をしばいていた。鉄製の硬いもので殴られる鈍くて甲高い音が耳に入ってくる状況の、その真横。自分もまた自分の仕事をこなすために、竜宮城のようなそれの内部をくまなくと捜索していっては、イヤホンのような無線で全員に逐一報告を行っていたものだった。
「カンキです。発見がありましたので、報告します。現在ユノさんが突入している大型建築物の内部に、地下と思われる階層があるのを確認しました。その地下二階の階層には、二十名ほどの規模で一箇所に集まる人々の存在が確認でき、地上の騒ぎに対して動きを見せないことから、敵の仲間ではない可能性がございます」
こちらの報告に、無線越しからタイチが返答する。
『おそらく、連中に捕まった周辺地域の捕虜の可能性がある! よく見つけてくれた! ——今すぐにも駆け付けたいところなのだが、如何せん、地下という閉鎖的な空間で、敵とかち合った場合などの最悪の場面を想定すると、おれやビオラのような殺傷力の制御が利かない異能力はかえって被害者を増やしかねないことから、迂闊にそちらへ向かうことはできないんだ!』
無線から響き渡ってくる、敵組織の連中の悲鳴。共にして、瞬間的に結晶が出現したような幻想的な音が聞こえてくると、次にもタイチはレイランへと指示を出していった。
『レイラン! 今すぐ地下二階へ向かえるか?』
『あ、私!? ちょっと待ってね——オッケー、行ける! あの建物に向かえばいいんだよね?』
『そうだ! カンキ、彼女の道案内を頼んだ!』
「了解です」
こちらに視線を投げ掛けたレイラン。そして二人で頷いていくと、建物へ向かい出した少女をスーパーホログラフィーで追いかける形で、自分はレイランのサポートを行っていった。
殺伐とした戦場も、敵が数を減らしたことによってだいぶ穏やかな景色になってきた。
地面に転がる大量の負傷者。また一人と仰向けに倒れていく中で、張り手を突き出していたラミアが息を切らしながらボヤいていく。
「ハァ……ハァ……まったく、どうしてこんな……。そうそうたるメンバーだったんですから、もっとラクして大量の報酬金をゲットできる算段でしたのに……!! まさか、ウチにもこんな重労働を強いてくるとは……さ、詐欺ですよ、実力詐欺……! ハァ、ハァ」
口元を拭っていく少女に、息を切らした菜子と血だらけのグレンが合流する。
「ァ、アタシもうむり……。手が痛いよ……足も疲れたぁ……」
「異能力もねェ凡人にァ、かなり過酷な任務だった……。おれ達はむしろ、誇るべきだ……。化物じみた周囲の連中に遅れを取ることなく食らいついていった。それだけでも、今日の戦果としては上出来だろうよ……」
「いやいやグレン君……そんなことより早く治療した方がいいって……!」
ここに、キャリングケースを提げた自分も合流。そこでは、菜子が心配そうにする視線の先で、腕を組んで満足そうに佇む血塗れのグレンという図があった。
すぐにも入ってきた、タイチからの無線。これに一同が指を添えて連絡を受けていくと、集合場所として伝えられた大型建築物の十一階を皆で見遣っていき、足並みを揃えながら歩き出していく。
自分ら以外のメンバーである、ユノ、タイチ、ビオラ、アレウス、カナタ、レイランというメンツは既に集合しているとのこと。これに凡人組が、今からあんなとこ上るの……? という愚痴を零しつつも、とても和気藹々とした空気で向かっていったものだった。
……列の端っこで歩いていた自分。内心でホッと一息をつきながら、戦闘はひとまず落ち着いたかと安堵のままに、皆の話に耳を傾けていく、その最中——
足を止めて、振り返った。
どうしてこの時にも、自分は背後を振り向いたのだろう。それはきっと、討ち漏らしの残党による奇襲を心配したからなのかもしれないし、無意識の内に感じ取った気配が自分を振り向かせたのかもしれない……。
組織の連中が倒れている光景。特にこれといった変化が無いそれを目にしていって、足並みから外れた三人の列に追い付くべく前方へ向き直った、その時だった——
——幻想的な銀髪。佇む少女が、ふと視界に現れる。
「しー」
……自身の口元に立てた人差し指。こちらへとけん制してきた少女は、無機質に見開いた目でこちらをじっと見遣っていた——
百五十五ほどの背丈。見かけから少女であるその存在は、銀髪のショートヘアーに、胸元まで伸びたもみあげ、そして湖のような水色の瞳という容貌で佇んでいる。服装は、肩の部分に穴が空いた白色のパーカーに、青色のホットパンツ、黒色のハイソックスに白色の靴という、とても無難にまとまったその外見。
だが、少女が纏う空気感は、常人の域を脱したこの世ならざる冷気を帯びていた。途端にして肌寒くなってきた自分の視界には、こちらに気付かない三人が背を向けて建物へと向かっていく光景……。
「き、君は——」
「順調?」
首を傾げる少女に訊ねられた。これに自分は、暫しと思考停止してしまう。
「え、え……? な、何が……?」
「お仕事」
「お仕事……? それって、探偵の助手の……?」
こくり。頷いた少女は可憐でありながらも、その表情にはまるで変化が無い。
これは、カナタのような冷静な無表情とは次元が違っていた。
今も少女が見せてくるその表情は、そもそもとして感情というものが存在していないようにうかがえる。
この、どこか生気を感じさせない人形のような雰囲気に加えて、精神的にこちらに迫りくるかのようなその深くて大きな眼差しが、いたいけな容貌でありながらも生理的な不安を掻き立ててくるのだ。
「……まぁ、順調だと思うけど……」
「ふぅん」
視界の中央にポツンと佇むこの姿。見開いた無機質な目が、こちらをじっと捉え続けてくる。
じきにも少女は、表情を一切と変えないままそれを口にしていった。
「頑張ってね」
「え? いや、君は——」
——瞬間、視界に迸るノイズ。鼓膜をつんざく不愉快な音と共にして、視界には液晶のバグのような挙動のテクスチャが、少女を塗り潰すように現れた。
少女の頭が歪み、視界が暗色で包まれる。この一瞬ながらも見せられた幻覚に自分は言葉を失っていくと、次にもラミアから掛けられた声によって、自分は意識を取り戻すように元の世界を認識した——
「カンキさん、どーかしましたー??」
ハッ——。目が覚めたように顔を上げていく。
こちらへと振り返っている、ラミア、菜子、グレンの三人。視界にはあの少女の姿がなく、自分は一瞬だけでも眠ってしまって、悪夢でも見たのかと錯覚させられた。
「……ご、ごめん。俺も疲れちゃったみたいで……」
「カンキさんがですか?? 戦ってもいないのに疲れるなんて、カンキさんはホントに軟弱なおヒトですねー」
やれやれといった調子で喋るラミアに、グレンが「無理もない。体力の消耗具合にも個人差はあるだろう」とフォローに入ってくれる。そんな彼らの会話に混ざるよう合流した自分は、三人と共に集合場所の十一階へと向かったものだった——
中世の洋風さを、手元にあったコンクリートで無理やり真似てみたようなその内部。大広間や、上の階に続く階段には赤色のカーペットが敷かれているものの、その材質はお世辞にも高級とは言い難い。
地道に階段を上ること、最上階の十一階。石造りであるために神殿の最深部という雰囲気が出ているが、奥へと続く左右の柱に、王様の玉座を模した石造りのイスが存在していたことから、王宮の間を意識した部屋なのかなという印象を感じていく。
とはいえ、その部屋は儚くもズタボロに破壊し尽くされていた。至る箇所に豪快な穴が開いており、天井からも日中の光が柔らかく射し込んでいる。そんな容赦の無い破滅をもたらしたであろう張本人は、分厚く束ねた白髪ポニーテールを揺らしていきながらも、縛り上げて床に転がした敵組織の男性の、その顔を踏みつけながらそれを訊ね掛けていた。
「蓼丸ヒイロという名前に、聞き覚えはあるかしら?」
「た、たで……ッ? だ、誰だ、そいつは——」
「そう。じゃあ用は無いわ」
——骨が破裂する音。その破壊力で顎を蹴り上げられた男性は、顔中から血を噴き出しながら白目を剥いて失神していく。
この男のような残骸が、あちこちに転がっていた。皆がギリギリのラインで生かされていたからこそ、今も走る激痛に表情を歪めていたものだ。
……下手すれば、死んだ方がマシだったのかもしれない。犯してきた罪も罪だろうけれど、現在は生き地獄を彷徨う彼らに思わず同情もしてしまえる。彼らを見送るようにして自分は歩いていくと、端的な尋問を行うユノの近くには、タイチ、ビオラ、アレウス、カナタ、レイランの皆が集まっていた。
合流したラミア、菜子、グレン。全員で顔を揃えて互いを確認し合っていくその最中にも、ユノの尋問によって口を開いたとある男性が、そんなセリフを喋り出したのだ——
「蓼丸ヒイロという名前に、聞き覚えはあるかしら?」
「蓼丸、ヒイロ……ッ。あの、小娘のこと、か……ッ?」
王様を真似したような赤いマントを羽織る男性。縛り付けられて座っているその姿勢から、ユノを見上げるようにしてそれを答えていく。
一同が振り返る。これにはユノも、脅すように脚を向けながら男へと尋問を続けていった。
「本当に、彼女のことを知っているんでしょうね? 証明してみせなさい。嘘だと分かれば殺すわ」
「し、知っている……ッ! あの小娘は……特別だった……! 『物体や事象に潜り込む異能力』を持ちながらも……その異能力とは別として、あの小娘は“幻獣を召喚できる特殊な体質”を……兼ね備えていた……ッ!!」
……異能力の他に、特殊な体質を兼ね備えている?
男の証言を耳にして、ユノは向けていた脚を下ろしていく。
「彼女は此処にいるの? いるのだとしたら、居場所を教えなさい」
「小娘は……いない……。本来なら……あの小娘が持つ、“特殊な体質の細胞を採取する”べく、仲間の研究所へと身柄を届けるハズだった……ッ」
「ハズだった? どういうことなのか説明しなさい」
再び脚を持ち上げて脅していくユノ。これに男が焦っていく。
「ま、待ってくれよッ!! 確かにあの時までは無事だったッ!! だが、四年前……あの小娘を輸送する乗り物が……“何者かの襲撃”に遭ったんだ……ッ!」
「四年前に、襲撃? それでヒイロはどうなったの?」
「や、やつらに攫われた……! きっと、やつらも知っていたんだ……! あの小娘が持つ体質のことを……!!」
「…………」
尋問を行うユノの後ろで、タイチが興味本位で詳細を菜子から聞いていく。それにビオラやアレウスといった周囲の面々が耳を傾けていく光景を繰り広げるものだったが、次にもユノが男性へと、それを問い掛けた時のことだった。
「貴方の言う、やつら、って何者? 貴方はそれの正体を知っているの?」
「く、詳しくは分からない……! だが、ある意味で確信した……! あの小娘は、特殊な体質が故の細胞を持っている……。そして、そんな細胞を欲しがる連中なんて、その道に詳しい人間でしかない……! 当時の、我々の競合他社……! 身体の自然治癒を速める機能であったり、クローンの製造や複製といった、細胞を取り扱う上での商売で競り合う関係にあった、ライバル企業……!」
「名前を教えてちょうだい」
「教えたら……命を助けてくれますか……?」
「えぇ、傷一つ負わせないと約束するわ」
「う……うぅ……お教えします……っ。我々の競合他社であった、そのライバル企業の名前は……ナチュラ——」
——突発的な陰り。男を覆うそれにユノが咄嗟に引き下がると、直後にも男は“透明感のある四角い物体”によって押し潰されたのだ。
致命的な音。床を揺るがす衝撃。震動で天井から破片が落ちてくる中で、ユノは目の前の物体へと破壊的な一撃の蹴りを加えていく。……しかし、想定の結果とはまるで真逆の景色が現れた。
彼女の蹴りを以てしても、眼前の物体はビクともしない。それどころかヒビ一つも入らず、突き抜けることなく表面で止まった自身の足に、ユノは一瞬ばかりと予想外な表情を見せていく。
ほぼ同時にして、その物体の周囲にも陰りが現れ始めた。彼女をも巻き込むその範囲に、ユノは蹴り付けたその姿勢で眼前のそれを押し込んでいくと、脚に加わったその反動を利用して真後ろへ飛んでいき、床に足が着くなり蹴り出すように再度と跳躍を行って、後方へ飛び退いたものだった。
大量に降り注いだ、四角い物体の群れ。これの衝撃によって自分や菜子が体勢を崩していく中、縦回転の華麗なる回避を行いながら着地したユノはゆっくりと腰を上げていき、埃の煙で包まれたこの空間において、タイチやビオラなどの一同も身構えて透明な物体を捉えていく。
……しばらくして、煙は晴れてきた。目の前の状況からして、あの男を囲うようにして追加で降り注いだ透明感のある物体は、意図的なものであるのだろう。
あからさまに敵意のある攻撃に、皆が緊張を帯びながら見遣っていく。すると次にも、男を潰した最初の物体の上に、“それ”が座っているのをうかがえたのだ。
……見覚えが、ある。それも、つい先ほどにも奇怪な体験をもたらした、その張本人——
「……さっきの、女の子……!」
思わず呟いた自分。周囲が一瞬ばかりと振り向いて、すかさず“対象”へと戻していくその視線。
……垂れ下がる銀髪のもみあげを揺らしながら、“その少女”は無機質な瞳で一同を捉えていた。
右脚の膝を曲げて、それを抱えるように両腕を回したその姿勢。この膝にちょこんと顎を乗せながら、目の前の少女はただ無機的に、透明感のある物体の上に座り込んでいた————