脇役系主人公は見届ける   作:祐。

26 / 39
第27話 アフターストーリー -Just fight to love編-

 先日の合同任務から、早くも数日という時間が経過した。

 

 龍明の昼間。菜子と足並みを揃えて訪れた、観光客が出入りする宿泊用のホテルの前。そこに二人で入っていき、フロントのお姉さんに事情を説明して客室の廊下へと歩みを進めていく。

 

 そして、ある部屋の番号を確認してから、自分はノックを行った。

 ……返事はなし。既に承知してある沈黙に、自分は扉を開けてその個室へと入っていく。

 

「おじゃましまーす……」

 

 小声。“中にいる人物”に気を遣った自分の挨拶も、すぐにも目についた“睡眠中の彼女”の耳に届いていない。

 

 これを直々に確認した自分と菜子だったが、共に眺めたその光景は、ピンク色のスライムをクッションにして、それに沈むようにして仰向けの大の字で眠るビオラという、隣にあるベッドを使わない彼女の様子がうかがえたものだった。

 

 艶やかに振る舞うビオラの、よだれを垂らしながら眠る素の状態。ギリギリのワンピースで無防備に足を開いていることから、自分は一瞬だけ目に入ったセンシティブに視線を逸らしつつ、お届け物である報告書の書類をテーブルに置いていく。

 

 ……と、目を逸らした自分へと、菜子はジト目で呟いてきた。

 

「……カッシーの変態」

 

「不可抗力では!?」

 

 そんな気なんて無かったのに!! 慌てる自分が菜子へと振り向いていくこの動作。だが、直後にも背中に伝った柔らかな感触と共にして、“彼女”は背後から抱き付きながら耳元でそれを囁いてきた——

 

「照れ屋さんなのね、カンキ君」

 

「どわっ——!?」

 

 胸を押し当てるように抱き付いてきたビオラ。菜子もこれにビックリしながらも、途端にむすっとして敵対心を丸出しに彼女を見遣っていく。

 

 その視線を嘲笑うかのようなビオラの目。余裕のある表情を見せながらこちらに沈みかかってくると、自分は彼女を支えるために押し上げるしかなく、ビオラにくっ付くように体勢を立て直した。そんなこちらの背にビオラは、弾力のあるバストをよりくっ付けるようにしていきながらも、そのセリフを口にし始める。

 

「んぅ、お使いご苦労様。どうもありがとう、カンキ君。これは、あたしからのささやかなお・れ・い」

 

「ビオラさん、近いですって!!」

 

「当たり前じゃない~。だって近付いているんですもの~?」

 

 こちらの下腹部に両手を回してきたビオラ。

 いやいや菜子ちゃんの前で何してるのこの人!? 内心で焦るこちらを心行くままに堪能するビオラは、続けてそんなことを耳元に囁いてくる。

 

「無防備な女性に覗きを働くなんて、あなたも中々に大胆なオトコじゃない~?」

 

「いやいやいや!? あれは事故でしょ!? というか起きていたんですか!?」

 

「扉が開く音で目が覚めたのよ。——ねぇ? 何色だったかな? カンキ君」

 

「えぇ……何を聞いてんですか……。まぁ、黒、でしたけど……?」

 

「あらぁ、随分と正直に答えるのね? 弄り甲斐が無いオトコねぇ。でも、そこがまた気に入ったわ。——その口は正直だったけれども、“こっち”の方はどうかしら?」

 

 さわっ。下半身に触れた感触。自分が反射的にビクッと跳ねるよう反応したところで、ビオラを引き剥がすように赤面の菜子が割り込んできた。

 

「こ、こらぁっ!!! こらぁっ!!! 真っ昼間からなにやってんのぉーっ!!! こらぁ!! うぉぉおいっ!!!」

 

 されている自分以上に取り乱している菜子。目をぐるぐるにしながら真っ赤にした顔で突っ込んできた少女に、ビオラは「あらぁ、ごめんなさぁい」とわざとっぽく言いながらも、その顔は実に恍惚としていたものだった。

 

 

 

 

 

 ホテルの外。出てきた建物を後にして、次のお届け物を渡しに龍明の町を歩き出す。

 

 ……何故だか、入る前と比べてメンバーが一人増えた状態で——

 

「……で、ビオラさんは昼寝の続きをなさらなくてもよろしいんですか?」

 

 自分を挟むようにして存在する、菜子とビオラ。この布陣に、ビオラはこちらの腕に手を回しながらそう答えてくる。

 

「いいじゃない~、あたしが居ちゃだめなの~? ——あ~、そっかぁ。あたしがこうしてカンキ君を独占しちゃっていると、お隣の子犬ちゃんが仲間外れになっちゃうものね~」

 

 ちらっ。菜子を見遣るビオラ。これに少女は歯ぎしりをしながら、さり気無くこちらの腕に手を回してくる。

 いやどういう状況なの……。誰かにあまり見られたくない状況に追い込まれた自分の脇で、ビオラは菜子をからかうように喋り続けたものだ。

 

「せっかくのカレシ君とのデートだったのに、大好きなカレがこうしてあたしに横取りされちゃうものだから、きっと寂しい思いでもしちゃったのかなぁ? あらやだ図星かしら。ごめんなさぁい? うふふふ……」

 

「か、カッシーは彼氏とかじゃないもん……っ! か、カッシーはただ……あ、アタシなんかにも平等に接してくれて、な、なんかすれば絶対に反応してくれる、料理だけが取り柄の至って普通な助手仲間なだけなんだから……っ!!」

 

 間違っていないのに、それはそれでちょっと傷付いた。自分のハートに、サクッと切れ込みが入る音。

 そんな自分を挟んだ状態で、菜子をからかい続けるビオラとそれに噛みついていく菜子。二人の言い争いに仏頂面で歩み進める自分は前方を見遣っていると、ふと、道端で佇む三人の様子が目に入ってきた。

 

 あの日以来、彼らの姿をよく知っている。二人はグレンとカナタであり、彼が彼女に何かを言い聞かせるかのよう口を動かし続けている。——そして、二人の傍で頭を抱えるように存在していたのが、ギルドマスターのネィロというこの布陣。

 

 ……嫌な予感がする。自分の直感を信じたくない気持ちで踏み入った、彼らの空間。会話が聞こえてくるその範囲に進入した時にも、グレンの怒鳴るような大声が耳に入ってきたものだった——

 

「おいカナタ!! お前さんは本当に融通が利かないヤツだなッ!! そうやって何でもかんでもクルミの野郎に繋げるんじゃなくて、もう少し自分で物事を考えて判断したらどうなんだッ!! おい聞いているのか!?」

 

 指を差して強く言葉をぶつけるグレン。だが彼に対してカナタは目を合わせることなく、途方を眺め遣る視線で一向に見向きもしない。

 

「クルミの傍に居てェからって理由でなにも、何でも屋を引退する必要なんかねェだろッ!! いま急いで龍明を出ていってクルミと合流しようが、あの野郎はいずれ龍明に戻ってくる!! 今お前さんが辞めたところで、またすぐ戻ることになンだから、わざわざそんな手間を増やす必要なんか無ぇだろうがッ!!!」

 

「これは私の問題。だから、私が決めること。貴方なんかに決められる筋合はない」

 

 妖しく光るピンク色の瞳。それをグレンへと向けて、静かに反論するカナタ。

 ここで、自分らが合流した。足音と気配にネィロが振り返ってくると、こりゃ参った、といった具合に手を広げて無言のジェスチャーを見せてくる彼。

 

 空気を読んで、菜子とビオラも休戦する空間。そして目の前では、グレンが頭を掻いてどうしたものかと思考を巡らせつつ、彼女を説得するようにセリフを続けていった。

 

「なぁカナタ。クルミは戻ってくる。本人にだってその意思があることを、お前さんも聞いただろうが。お前さんにとって、クルミという存在は本当に特別なものであることぐれェは、おれも分かってんだ。だがよ、そのわずかながらのひと時のために、これまで積み上げてきたキャリアを全て捨てちまうのは、さすがにどうかと思うぞ!!」

 

「それも私の自由。貴方の余計なお節介に付き合っている暇はないの」

 

 一蹴。グレンを無視してネィロへと向いてきたカナタ。そしてギルドマスター直々に少女はそれを伝えていく。

 

「そういうことで引退するから。ギルドマスターは手続きを進めて。私はクルミの所に行ってる」

 

「おいカナタッ!!」

 

 ギルドマスターへ伝えた後、皆から背を向けるようにして歩き出したカナタ。それにグレンが止めようと手を伸ばし、肩を掴もうとした時のことだった。

 

 ——パチンッ。振り向きざまに、彼の手を払うカナタ。

 肉が打つ音の、不気味なほどにまで静寂な沈黙。その間、向かい合うグレンとカナタという図が展開されていき、互いにぶつけ合うよう視線を向けていくその中で、グレンは言い聞かせるようにセリフを投げ掛けていく。

 

「おいカナタ、少しぐらい自分で考えて行動しやがれ。この先、こういったクルミがいねェ状況なんか、いくらでも出てくるんだぞ。その時になってお前さん、クルミがいねェから何もできねェなんて言ったら、何でも屋以前に人として、お前さんは何も判断できない人間になっちまう——」

 

「本当に余計なお節介。……自分の思い通りにならないことが、そんなに気に食わないの?」

 

「……なに?」

 

 反撃するように口を開き出したカナタ。共にして足の位置を変えていき、それは完全にグレンと向かい合ってから少女は続けてくる。

 

「クルミが負けて嬉しかったんでしょ? 龍明を追い出されたことも、貴方はいい気味だと思っている」

 

「あ?? 何を言ってんだカナタ——」

 

「私のためを思って言っている? それは違う。貴方はそうやって誰かにお節介をかけることで、あたかも”自分は相手よりも優位な立場にある”と必死に思い込んで、そんな自分によがり続けたいだけなことを私は知ってるから」

 

 妖しいピンクの眼差しが、グレンという人物を中心に捉えながら続けてくる。

 

「古い付き合いという関係を私に自慢している割りには、貴方はクルミのことをひどく”妬んでる”。……戦闘力、人望、努力、将来性、体力、身長。——異能力。すべてにおいてクルミに劣っていることを貴方は自覚していて、そんなクルミに対して多くの劣等感を抱きながらも本人にお節介をかけていって、でもその度に深く傷付いてはまたお節介を……というサイクルを貴方が繰り返していることくらい、この私にも見え透いていることなの」

 

「……カナタ、お前さん急に何を——」

 

「そんな貴方だけど、元気で活発なクルミを制御することだけに関しては他の人よりも優れてる。こんな都合の良い長所を貴方自身が見過ごすハズもなくて、貴方はクルミという、世間的にこよなく愛される人物を制御できる人間として、自分の存在意義を……自分の需要を、自分の中で無理やり成立させながら生きている。——自分は世話焼きに優れた人間だと思っているんでしょうけれど、貴方はそうやって自分自身を納得させることによって、ただ自己満足しているだけに過ぎないの」

 

 躊躇の無い言葉の数々。今まで思ってきたものを全てぶつけるようにカナタは連ねていくと、最後に後ろへと振り返りながらそのセリフを放っていったのだ。

 

「——その延長線として、貴方は周りにお節介をかけるようになった。これで分かった? 私には、貴方に止められるような筋合いは無い。だって、貴方の言葉には、私を本気で心配する気持ちなんて微塵にも存在しないのだから。……貴方の自己満足に付き合っている暇は無いの。私はもう行くから。さようなら」

 

 ……そう言って、靴音を鳴らしながら歩き出したカナタ。

 

 ばっさりと言い切られ、伸ばしていた手をゆっくり下ろしていくグレン。もはや少女を静止する者などこの場にいないだろう。

 

 だが、そんな仲間の別れとしてはあまりにも容赦の無い冷め切った空気の中、カウンターをかますかのようにグレンはその言葉をカナタへとぶつけ出したのだ——

 

「——お前さんがどれほどあの野郎にこだわろうが、そいつはお前さんの勝手だ。だがな、カナタ。お前さん、クルミに依存するだけ無駄だと思うぞ。……あの野郎はな、誰に対しても、みな平等に愛を分け与えていく八方美人だ。そいつがクルミの長所でもあるんだが、一方として……カナタ。お前さんという人間もな、クルミにとっては所詮、周りに存在する有象無象の一人に過ぎねェんだよ」

 

 足を止めたカナタ。音も無くヒタッと動きを止めた少女の背へと、グレンは続けていく。

 

「——大雨の中、盗賊としておれらに奇襲を仕掛けてきたお前さんのことを、クルミはボロボロになりながらも快く迎え入れてくれたことがあったな。他人を信用することができないお前さんに対しても、クルミはその懐の深さと人情でお前さんを受け入れた。そんなヤツにお前さんは心を許したんだろうが……あの程度、クルミの野郎にとっちゃあ別に、対して特別なもんでもねぇんだよ。だから、あの笑顔は誰に対しても見せているもんだし、あの温もりはお前さん以外の連中にも平等に分け与えている」

 

「…………」

 

「お前さんがそれでいいんなら、別に何も言わねェよ。だが、お前さんも気付いてはいるんだろう? クルミが、”自分に振り向いてくれない”ことをよ。——正確に言えば、仕事仲間としてすぐ隣にいる自分を優先してほしいのに、クルミはいつまで経っても自分を、周囲と平等に扱ってくることに不満を感じてるんだろう。……そいつにもどかしい気持ちがあるんだろうし、クルミに、自分という一つの個を認めてもらいたいんだろうがよ。だからと言って、その気持ちに急かされるように龍明から出ていくっつぅのは、決して得策とは言えねェな」

 

 一歩、踏み出したグレン。そして彼は自身を指差すように親指を立てていくと、次にもグレンは、カナタを煽るようにそれを繰り出していったのだ。

 

「その点、おれだけはあの野郎に認められている。古い付き合いというよしみで、数々の困難を潜り抜けてきた、相棒、のようなもんだろう。だから、クルミから名前を呼ばれるのも、おれの方がカナタよりも先だ。あいつとの付き合いもおれの方が長い。おれがどんなにあいつの劣化であろうがよ、その事実は決して揺るぎはしねェ。——だからよ、カナタ。お前さんがどんなにクルミを追い掛けようが無駄だ。何故なら、お前さんが目指しているそのポジションは、お前さんが言う出来損ない野郎が既に占領しているからだ!」

 

 ……自身が劣っていることを自覚しているが故に、劣等である自分を誤魔化すために見せる周囲への気遣い。自分がどれほど彼のことを想おうとも、その想いは何時になっても尊重されず、ただ受け流される日々。

 

 ……繊細な感情同士がぶつかり合う。そんな、一見すると互いに衝突する理由が無さそうないがみ合いでカナタは振り返ってくると、そこには初めて見せるであろう怒りの感情を宿した、静かなる殺意の顔を少女は見せてきたものだった。

 

 決して譲れないこの想いは、よりにもよって“彼”という存在が独占している。

 対する感情も、妬みで染まり切っていた。どう足掻いても越えることができない存在に、間近で現実を見せられ続けたものだから——

 

 カナタがこちらへ歩き出してくる。ギルドマスターのネィロへと、そのセリフを投げ掛けながら。

 

「引退は撤回する。私は、此処に残り続ける」

 

 ようやく聞き入れてくれた。そんな具合に明るい表情を見せたグレン。だが次にも、少女はそれを突き付けていく——

 

「だって、此処に残らないと——彼にギルドファイトを申し込めないから」

 

 グレンが、「何だって?」と驚きの声を上げていった。その傍らで、ネィロは腕を組んだ冷静なサマを見せつつも、こちらへ戻ってきたカナタへとそれを訊ね掛けていく。

 

「ギルドファイトをするにしてもよ、カナタちゃんは一体どんな理由でグレンちゃんと戦うつもりでいるんだ?」

 

 訊ね掛けるネィロ。それの対象となったカナタはさも当然と言わんばかりの即答で、それを口にしたものだった。

 

「どちらがクルミに相応しいか。……クルミの右腕として相応しい相方はどちらなのかを、ここでハッキリとさせるため」

 

 威圧的に言い切ったカナタ。共にしてグレンの前に佇んでいくと、対峙した彼もまた背丈が高い少女を見上げるようにして、複雑な表情を見せながらも実直に向かい合ってはそのセリフを口にする。

 

「……まずは、お前さんが此処に残る判断を下せたことに、おれは安心している」

 

「でも、クルミが此処に戻ってきたら、貴方はまたクルミの劣化としての毎日を過ごすことになる」

 

「おれ自身わかってはいんだよ、それくれぇはよ。——だがな、プライドを捨てた覚えは微塵たりともねェ」

 

 カナタへと一歩踏み出したグレン。そして至近距離で睨み合う双方が火花を散らすこの光景と、カナタへと立ち向かうグレンのセリフによって、突発的でありながらも龍明における新たな戦いの火蓋が、この瞬間にも切られることとなったのだ。

 

「お前さんからの宣戦布告に、おれは逃げも隠れもしねェ。カナタ、お前さんとのギルドファイト、正々堂々と受けて立ってやる。——たとえ、おれがどんなにクルミの野郎に勝てなくともな。カナタ、こちとらお前さんにだけは、このプライドにかけて絶対に負けるわけにはいかねェんだよ!」

 

 

 

 【1章4節:Just fight to love ~END~】

 

 【1章5節:ジェラシー】に続く…………。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。