脇役系主人公は見届ける   作:祐。

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第33話 アフターストーリー -ジェラシー編-

 龍明に到着したバスから降りる自分と菜子。空になったショルダーバッグを提げる自分が町に足を着けながら、予定よりもだいぶ早まった龍明の帰還に、時刻が昼前であることを確認していく。

 

 後ろの菜子もバスを降りてきた。そんな少女に背中をどつかれるようにして突撃されながらも、走り去るバスを傍らに自分は菜子へと昼ごはんの提案をしたものだった。

 

「今日は、ラミアもレイランもアレウスも、みんな予定が入っていて忙しいみたいだから、また二人で何か食べることになると思うけど……」

 

「ん、じゃあまたパン屋? アタシひとっ走りしてこよっか??」

 

 お駄賃。そう言わんばかりに差し出してきた両手。もはや目的が違うことに自分は汗を流したものだったが、まぁいいかと思ってお財布を取り出す動作をし始めた、その時のこと。

 

 ふと、大量の紙袋を提げて歩いてくる少年を見つけた。自分は、それがグレンであることを認識していくと、荷物で埋もれる彼を不思議に思ってこちらから声を掛けていく。

 

「グレン!」

 

 手を振るこちらに気が付いた彼。そのまま真っ直ぐと自分らに合流してくると、八百屋や魚市場、雑貨屋といった様々な店の紙袋を提げたグレンは奇遇だなと喋り出す。

 

「カンキと菜子だな。お疲れさん。助手の仕事は順調か?」

 

「今の所は順調かな。順調すぎて、だいぶ時間を余らせたくらいだから」

 

「そうなのか。じゃあ、ちょいと手伝いを頼まれてくれねェか。如何せん、こんなもんだからよ」

 

 と言って、手提げの紙袋を持ち上げていくグレン。それを自分は承諾して、一部を彼から受け取っていきながら訊ね掛けていく。

 

「まるで、ユノさんの晩ご飯並の量だ……。こんなに買い込んで、一体なにをするつもりなんだ?」

 

「クルミの野郎が、龍明に戻ってくるもんだからよ。その歓迎会をしようって計画してんだ」

 

 荷物の一部を菜子にも手渡しながら、グレンは呆れたようにため息をついていく。

 

「あの野郎もよく食べるからな。っつっても、ユノさんに負けてらんねェっていう意地で、クルミの野郎も食べるようになっちまったもんだ。——あいつにとっちゃァ、ユノさんという人物が越えるべき存在なもんでよ。いつかユノさんに勝ってやると、あの野郎はそう意気込んで日々の鍛錬に臨んでいるもんだ」

 

「レイランも、ユノさんに憧れているみたいだからね。あの人自身は自覚もしていないし興味も無いだろうけれど、実はけっこう周りに影響を与えている、カリスマ性ある人だよね」

 

「あぁ、かく言うオレも、ユノさんという存在には敬意を払っている。……異能力を持たずして、あの“剛腕”。お世辞にもギルドマスターにお褒めいただけたとはいえ、あれと比べてしまえば、オレもまだまだ未熟なもんだ」

 

 剛腕?

 蹴りを主体とする彼女の戦闘スタイルと照らし合わせて、疑問に思った自分の首傾げ。そんなこちらに構わずと菜子がグレンと会話を交わしていき、彼もまた菜子と会話しながら次のお店へと歩き出していく。

 

 流れでグレンのお手伝いをすることになった自分ら。二人に置いていかれないよう自分も後ろからついていきながら、暫くと買い出しの荷物係として働いたものだった。

 

 

 

 

 

 お昼時に訪れた定食屋。ラミアと二人で来てから随分と久しいこのお店も、以前と全く同じシチュエーションを再現するかのように、自分の脇には買い出しの紙袋が置かれている。

 

 だが、今回はお座敷のテーブルで向かい合う。しかも、グレンの奢りという大盤振る舞いに、ラミアの時とは真逆の立場におかれていたものだ。

 

「カンキ、菜子。手伝ってもらってすまないな。先日のギルドファイトに巻き込んじまった分に加え、クルミの野郎のギルドファイトにも立ち会ってもらったそのお礼をさせてもらいたい。今日は奢ってやるから、自分が食える範囲で好きなもんを選んでくれ」

 

 届けられた、人数分の定食。特に菜子は容赦の無い大盛りを頼んだものだったが、しかしお腹いっぱいという理由で残してしまうその光景。

 

「ぐぬぬ……奢りだから張り切って頼んだのに……勿体無いぃ……」

 

 不覚。悔やまれる涙目の菜子に、自分は助けに入っていく。

 

「その量は多すぎるぞって、グレンも言ってたもんね。ほら、あとは俺が手伝うから、菜子ちゃんはゆっくり休んで」

 

「か、カッシーありがとー……。あでも、間接キスとか考えないでよ」

 

「言われるまで気にしなかったけど……」

 

 悪戯を口にできる程度の余裕はあるようだった。

 そんな菜子の定食もなんとか平らげる……つもりだったのだが、思った以上に量が多かったことから、既に自分の定食を胃袋に詰めてあったこちらも敢え無くギブアップ——

 

「菜子ちゃ……これよく、ここまで食べられたね……。俺もう、お腹が——」

 

「ぇぇ……カッシーかっこ悪い……」

 

「誰の手伝いをしてると思ってんの……うっ」

 

 だめだめコンビ。助手二人組の様子を、物静かに眺めていたグレン。

 そう言えば、今日は彼の気遣いが全く無かった。カナタにお節介と言われていたほどのそれを感じられなかったことに、自分はグレンの顔色をうかがっていく。

 

 そうして目が合った彼との視線。とは言いつつも、終始ずっとこちらを気に掛けてはくれていたグレンが自身の食器を退けていくと、こちらにあった定食へと手を伸ばしながら彼はそうセリフを口にしていった。

 

「あとはオレに任せておけ。食器も全部ひとつにまとめておいてやるし、支払いも勝手に済ませておく。何なら、オレがお前さんらを探偵事務所まで担いでやってもいい。だから今は休んでろ。満腹な状態で動き回ったら、むしろ身体に悪いからな」

 

「わ、悪い、グレン……っ」

 

 ここに来て、彼の気遣いが発揮した。様子をうかがうようにしていたのも、ギルドファイトの結果を受けて何かしらの変化があったからなのかもしれない。

 

 なんて考える余裕もなく、自分と菜子は重なるようにしてお座敷に倒れ込んだ。主に、自分の上に菜子が圧し掛かるその光景。互いに目をぐるぐるにして倒れ込む情けない姿を前にしても、グレンはただ黙々と定食を平らげてくれたものであった。

 

 

 

 食後の運動として龍明の坂を上り終え、町の上に位置する何でも屋の宿舎に辿り着く。そこでグレンの部屋まで移動すると、提げていた荷物を彼の部屋へと全ておいて、グレンのお手伝いは一件落着となる。

 

 これに、グレンはお礼を伝えてきた。同時にして、また町の中央に用事があるということから、今度は手ぶらの状態で自分らと宿舎を後にすることとなる。

 

 自分らも自分らで、午後には別の仕事が入っていた。しかし時間にはまだ余裕があるため、どうせだから少し町中をぶらつこうという自分の提案の下、菜子とグレンという三人で龍明を歩いていた時のことだった。

 

 町の中央にある、観光案内所。この三階に町長室がある関係で、自分らにとってよく見慣れた建物であることは確かだろう。それはギルドマスターのネィロに用がある時に留まらず、先日にも見届けたギルドファイトの結果発表なども、この建物の内部で行われている。

 

 尤も、グレンにとっては少々と憂いを感じる場所だったかもしれない。もうしばらくはこの場所から離れていたいそんな気持ちとは裏腹として、グレンはふと見遣った建物の前の様子に、うかがうようセリフを口にしていった。

 

「あ? なんだ? 入り口に人が集まっているな」

 

「なんだろう、騒ぎかな?」

 

「見た感じだと、事件って感じじゃねェな。数人で何か話し込んでいやがる。——あれは、タイチさんとビオラさんだな」

 

「稲富の?」

 

 以前にも、制圧作戦として行動を共にした、桃空タイチとビオラの二人。稲富という此処とは異なるギルドタウンに所属する何でも屋の二人が、またこちらに姿を見せていたようだった。

 

 挨拶がてら、三人で覗きに行こうとする。そうして坂道を下りながら建物の前まで移動していくと、その途中にも明らかとなった見慣れたメンツの集合に、自分は思わずと声を出してしまった。

 

「こんにちは、タイチさんビオラさん。……それと、ラミアとレイラン? あれ、ユノさんまで……ネィロさんも、一体どうしたんですか?」

 

 建物の前に集まっていた、タイチとビオラ、ラミアとレイランに、ユノとネィロの姿。——と、もう一人、見慣れない長身の男性が、彼らから距離を空けるように佇んでいる。

 

 その背丈は百八十八という高身長であり、青年と言うよりも成人という雰囲気のその男性。男らしい顔つきで鋭い目を持つ彼は、目を隠すか隠さないかの丈まである暗い青色のバンダナによって、首元まであるオレンジ色の髪を無造作にまとめていた。

 

 その格好は、バンダナと同じく暗い青色の丈が短いジャケットに、黒色のシャツと、ジャケットと同色のパンツという身なり。腰に巻いているベルトや靴がこげ茶色でありながらも、そのベルトのようなアクセサリーが、ジャケットやパンツなどに巻かれているそのファッションが特徴的だった。

 

 誰だろうと思って見遣る自分。と、そんな視線を感じるや否や攻撃的な目を向けられたことで、自分はさり気無く視線を逸らしながらタイチ達へと向いていく。

 

「……それで、皆さんで集まって、どうかされたんですか?」

 

 菜子とグレンも、言葉にしないながらも不思議そうにしていく。これを受けてタイチは軽い挨拶を交わしてくると、次にもそれを説明し始めた。

 

「おう! ちょうどいい! ナイスタイミングだ! カンキと菜子も、ユノの助手としてこの話に加わってくれないか? そう遠くない内にも作戦の一環として、ユノは“稲富”へと遠征する運びとなったものだからな!」

 

「ユノさんが、稲富へ遠征にですか?」

 

 彼女へと訊ね掛ける。これに対してユノは「えぇ」と短く答えてきたものだ。

 

 その端的な返答を受け継ぐように、タイチがセリフを続けてくる。

 

「ちょうどグレンもいるものだから、先日の挨拶も兼ねるとでもしよう! ——まず、先日の合同作戦ご苦労だった! 稲富側としても、龍明の何でも屋は実に頼もしく感じられて、おれとしてもあの作戦は非常に楽しめたというものだ! そんな、龍明の陣営と共に駆け巡ったあの高揚感をおれは今でも忘れられなくてな、また龍明のメンツと仕事がしたいなと考えていたおれは、稲富のギルドマスターに直々と掛け合うことで、稲富で計画されていた次の作戦でも、龍明の何でも屋を起用する運びとなったんだ!」

 

 身振り手振りと語るように喋るタイチ。呆れたサマを見せていくビオラの傍で、彼はふんす! といった具合の調子で続けてきた。

 

「ただ、おれも考え無しに龍明を指名したわけじゃないぞ。——菜子からざっと話を聞いただけではあるのだが、如何せん今回の作戦における標的が、ユノや菜子が抱える複雑な事情と深く関係がありそうだったものでな。そこで、おれはビビビッと閃いた! そいつを口実にすれば、また龍明と手が組めるんじゃないかとな!」

 

 パチンッ! と指を鳴らしてくるタイチ。

 

「結果、おれの熱い推薦はギルドマスターの心を動かし、そして今、龍明のギルドマスターであるネィロさんからも同意をいただいた! つい先ほどにも、龍明と稲富の連合軍は再び結成されたんだ! それに伴って、カンキと菜子も、参加メンバーであるユノの補佐として参加してもらうつもりでいるぞ!」

 

 稲富で展開される作戦が、ユノや菜子の事情と関わっている可能性がある。

 タイチが熱く説明するその隣から、ネィロが歩み寄りつつこちらへとセリフを掛けてきた。

 

「稲富が言うにぁどうやらよ、四年前にもヒイロを攫ったと思われる連中のアジトが、今回の作戦の標的らしいんだとよ」

 

「ですが、その攫った連中というものは結局、わからないままでしたよね……?」

 

「その点についちゃあ、安心しな。どうやら稲富がよ、以前にも聞きそびれたっつーそれらしい組織を見つけ出したとのことらしい。……組織の名前は、『ナチュラル・セレクション』。聞き出せた名前はごく一部分だったらしいもんだが、そんなわずかながらのヒントから名前を突き止めるとは、さすがは稲富と言ったところかね」

 

 ユノが男から名前を聞き出そうとしたその瞬間、その男は超越者ビアルドによって始末された。

 

 彼から問いただすヒントが頼みの綱であったために、それを口封じされた今、ヒイロという人物の行方がまたしても不明となった絶望的なこの状況。

 

 だが、それも現在、またしても唯一の希望へと成り上がる。

 ナチュラル・セレクション。稲富によって発覚した組織の名前と、ヒイロを攫ったという連中のアジトが判明したというのであるならば、それほどの条件が揃った今になって、ユノも菜子も黙って見過ごすわけがないことだろう。

 

 直ぐにも、タイチとネィロへと菜子が詰め寄っていく。

 

「その話ホントなの!? だったら今すぐにでも行こうよ! じゃないと、もし今もお姉ちゃんが捕まっているんだとしたら、すぐに助けないと……!」

 

 はやる気持ちもよく分かる。だが、それに待ったを掛けるようにタイチがセリフを口にした。

 

「大丈夫だ菜子。おまえのお姉ちゃんは、絶対に助けたいとおれも思っている。さすがにおれも、ここまで遊び心を持ち込んでくるほどの人間じゃないさ。しっかりと真面目に、お姉ちゃんに関連する任務に勤めていく。だからこそ、今回の任務は非常に慎重となって作戦を進めているものだ。——なにせ、人命がかかっているんだ。それも、身近な人間の、その大切な人の命がな」

 

 タイチの説得に、渋ったような顔を見せる菜子。彼の後ろでも、腕を組んで凛々しく佇むユノが、表情を変えずともタイチに同意するよう静かに見守っていたものだ。

 

 と、ここで高身長の彼が動き出した。——低く荒々しい声音で、とても興味無さそうに背を向けて歩き出しながら。

 

「一通りの話は済んだろ。合同作戦のメンバーも、あらかたと決定した。じゃあ、もう此処に用は無ぇな。俺は先に戻らせてもらうぞ」

 

 ポケットに手を入れて歩く彼。そうして我が道を往く雰囲気を醸し出す男性へと、タイチが呼び止めに入る。

 

「“レイジ”! 三人への紹介は済んでいないぞ!」

 

「知るか、んなもん」

 

「いや、知るぞ!」

 

「なんだその返答……」

 

 困惑。思わず振り返った男性に、タイチは清々しい笑みを見せながらこちらへと手を促していく。

 

「ユノの助手として龍明で働く、カンキと菜子だ! あと、今回の作戦に加わるかは分からないが、グレンという心強い何でも屋もいる! 皆がそれぞれ、自分の持ち味を活かして戦場で立ち回ってくれる、とても優秀な人材達だぞ!」

 

「てめぇの口ぶりじゃ、てめぇがどちらに所属する何でも屋なのか分かんねぇな……」

 

「お? レイジもそう思うか? 実はおれもなんだよな」

 

 ハハハッ。そう笑い飛ばしたタイチの様子に、その男性はただただ頭を抱えていった。ついでにビオラも。

 

 そして、男性はため息を一つ。ポケットに手を入れた状態はそのままに、彼は面倒くさそうにこちらを見遣っていくと、次にも攻撃的な目を向けながら自己紹介を行っていったのだ。

 

「“零寺(ぜろでら)レイジ”だ。別に覚えなくてもいい。好きにしろ」

 

 言い捨てるような口調だった。これでいいだろうという素振りを見せて踵を返していった男性“零寺レイジ”は、自己紹介を強要されたことに不機嫌そうな表情を浮かべながら、やれやれといった具合に頭を掻きつつその場から去っていった。

 

 と、すぐにもタイチがこちらへと説明してくれる。

 

「レイジはな、あれでも稲富を代表する凄腕の何でも屋だ。ま、おれが勝手に代表させてるだけなんだけどな! でも、稲富の実力者は誰かと問われれば、おれは真っ先にレイジの名前を挙げるだろう。……それと、ビオラか」

 

「なによ、その付け足したようなフォロー」

 

 ジト目のビオラに睨まれて、タイチは清々しくスルーする。

 

「レイジはな、性格こそは困難を極める非常に気難しい人間ではあるものだが、おれが保証するだけあって実力は折り紙付きだ。特筆すべきはその戦闘力だな! あいつの異能力が中々にユニークで面白くてよ。その見ていて飽きないレイジのサマに、おれはもうぞっこんさ! あいつ今日も面白いな! って感じにな!」

 

 レイジという彼の態度とは相反して、タイチはものすごく楽しそうに話をしていく。

 

 と、彼の紹介を担う形でセリフを口にしていたタイチは、その会話の最後にそう言葉を付け加えたものだ。

 

「ま、そんなレイジだが、次の作戦の主要メンバーとしてあいつも加えてある。つまり! カンキや菜子のチームメンバーになるな! だからよ、本人はあんな調子でいるもんだが、レイジのこともどうか、よろしく頼むぜ」

 

 仲間を託し、自分と菜子の肩をトントンとしたタイチ。そして、去りつつあるレイジの背を彼は見遣っていった。

 

 一連の会話によって、タイチの視線を追うように話を聞いていた自分。そんなタイチの会話も、次のセリフによって一区切りを迎えていくのであった。

 

「そんなこんなで、次の作戦は稲富を拠点として展開していく予定だ。つまり、カンキと菜子には、“稲富まで来てもらう”ことになるな。——その都合上、しばらくは龍明を離れることになるだろう。だから、龍明でできる仕事なんかは今の内に片付けておいてくれると助かる! ……カンキと菜子が稲富に来た時には、おれがいろんな場所を案内してやるからな! それも楽しみにしておいてくれると、おれとしてはたいへん嬉しいもんだ! ハッハッハ!!」

 

 

 

 【1章5節:ジェラシー ~END~】

 

 【1章6節:Disaster strikes】に続く…………。

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