脇役系主人公は見届ける   作:祐。

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【1章】6節:Disaster strikes
第34話 ギルドタウン稲富


 燦々と輝く太陽の下、見渡す限りの砂浜と海がこちらを出迎えてくれた。

 

 龍明からの長距離をバスで移動して、乗り物から降りていく自分。すぐにも強烈な日差しによって手をかざしていくと、目の前に広がったのは、白色の砂浜と青い海という南国チックなその光景。

 

 生えている木々は明るい緑色で、海水浴場なのだろうここ一帯は多くの人々で賑わっている。同時に、道路が熱を帯びて靴の裏を焼き尽くしていくと、自分はじっとしていられないと思いながらこの町を歩き進めていったものだった。

 

 ビーチが目に付く第一印象は、背後にあった高層ビルの街並みでがらりと変わっていく。それもまた非常に発達した文明を思わせると、視線はビーチに戻ってその海上に築かれた、巨大な海の家のような六階建ての建物が、ひと際と存在感を醸し出していく。

 

 ——ギルドタウン稲富。同じギルドタウンである龍明とは全く異なる文化で成り立つこの街は、熱帯性気候で年中と暖かい地域なことに加えて、南国をイメージした町おこしで世間的に多大な人気を誇っている。その認知度は非常に高いものであり、周辺で遊んでいるちびっ子に『ギルドタウンで有名な場所と言えばどこ?』と訊ね掛ければ、まず真っ先と飛び出してくる名前がこの稲富。

 

 ……売りとしているだけあって、とても暑い地域だ。額の汗を拭って自分は景色を眺めていると、そんな棒立ちのこちらへと、菜子がドカッとぶつかってくる。

 菜子に続くよう歩いてきたのは、今回の作戦に同行するメンバーである、ラミアとレイランの二人。今この場に居合わせているメンバー全員が初の稲富ということで、それぞれがライバル企業の壮大なお出迎えに感嘆を零していたものだった。

 

 ——尤も、圧倒的な光景に目もくれなかった“その少年”。彼はいつの間にか買ってきたソフトクリームを片手にこちらへ駆け寄ってくると、光の無い黄色と青色のオッドアイを向けながら、飛び込むようにして自分の肩へと腕を掛けてくる……。

 

「カンキー!!! なぁなぁこれスゲェよ見てくれよ!! 稲富のソフトクリームがメッチャ美味いッ!! 形も綺麗で見栄えもサイコーだしよ!!! ほら! ……あ、オレ口つけちゃったから崩れてたわ!! アッハハハ!!! ザンネンだったなー! 一口食べる???」

 

「お、オキクルミ! 分かった分かった! 確かに色々とすごい場所だから落ち着いて!!」

 

 戯れ。もはやじゃれるようにわちゃわちゃする自分とオキクルミの様子に、眺めるラミアとレイランが会話を交わしていく。

 

「つい先日にも龍明に戻ってきたと思ったら、早速とウチらの合同作戦に立候補するんですもんねー。ホント、オキクルミさんの活力って無尽蔵と言いますか、まさに永久機関とも呼べるくらいには、とてもパワフルなおヒトですよ」

 

「ただアレだね。タイミング的にちょうどグレンとカナタが、前の合同作戦とギルドファイトの振り替えでお仕事お休みになっちゃったもんだから、おかげでクルミの面倒を任される形になっちゃったのがね……」

 

「はぁー……。オキクルミさんとの会話はキライではありませんけれど、さすがにお守りはしんどいですねー……。ま、カレが加わってくださると、作戦中も勝手に動き回っては活躍してくれるものですから、作戦がラクになると言えばラクになるのですが……」

 

「こういう時、アレウスが居てくれると心強いよね」

 

「そーですよ。それなのになんですか、最近のアレウスさん。別の用事があるからと言って、ウチらの昼食にも顔を出しませんよね。まったく、アレウスさんがおりませんと、カレの良心につけこんで奢らせることもできなくなっちゃうじゃないですか」

 

「多分、来なくなった原因それも関係しているんじゃないかな……」

 

 汗を流しながらツッコむレイラン。そんな彼女らの脇を通るようにひとり歩き出したユノの姿に、ラミアがちょっと苦手そうにする傍らでレイランが声を掛けていく。

 

「あ、ユノさーん! 稲富のギルドマスター、あの海の上にあるおっきな建物の中にいるってタイチさんが仰っていましたけど!」

 

「心配はないわ、レイランさん。電子タバコのコイルを買い足してくるだけよ。だから、貴女達は先に向かっていてくれるかしら」

 

 女の人には穏やかな調子で話すユノ。彼女の凛々しい返答にレイランは「は、はい! 分かりました!」と目を輝かせていき、そんな純粋な少女をラミアはジト目で見遣っていたものだった。

 

 で、こちらはこちらで、菜子とオキクルミにもみくちゃとされていた。

 そろそろ解放してほしい。既に満身創痍であるこちらの願いを、背後のバスから降りてきた稲富陣営が叶えてくれることとなる。

 

 清々しい表情で降りてきたタイチと、すぐにも彼に続くよう降りてきたビオラ。そんな彼女は観光気分のこちらを見遣ってくると、気を取り直してといった具合に手を叩いてそれを口にしていったのだ。

 

「はいはい、お遊びはギルドマスターとの挨拶の後にしてちょうだーい。あなた達にはまず、あたしらのギルドマスターと面会してもらう予定にあるの。だからせめて、もうちょっと緊張感を持ってくれないかしら?」

 

 厳しめにかかるビオラ。だが、龍明陣営の何でも屋はと言うと、皆で手を上げながら「はーい」と答えてくるというその様子。

 

 ……大丈夫なのかしら。心配そうな表情を見せていくビオラの前では、オキクルミなんかがはしゃいでいる。挙句には、タイチでさえ浮かれたように、こちらへとそんなセリフを掛けてきたものだ。

 

「暑い! 暑いな!! あぁ、おれは稲富に帰ってきた! それを身体の芯から、じりじりと実感していくぞ!! ——どうだみんな!! ここが、おれ達が拠点としているギルドタウンの稲富だ! 実にフレッシュな光景だろう!! しかも! 後ろを向けば近代的な街並みというその景観!! これが稲富さ!! 尤も、こんなのはまだまだ序の口だぞ!! あっちにはおれイチオシの観光スポットがあって、こっちにはおれイチオシのお好み焼き屋さんがある! さぁどっちから回ろうか!?」

 

「タイチ、あんた本当にバカね……」

 

 ビオラに同情さえしてしまえる状況。もう、まともにやっている彼女が可哀相に見えてくるレベルのそれだったものだから、自分も軌道を修正するためにビオラへと加担して、場の流れをさり気無く本来の目的へと戻していったものだった。

 

 

 

 

 

 到着した稲富のビーチを進み、海上の建物へと向かった一同。

 浜辺から続いていく木製の足場は橋のようでありながら、それは幾何学的な模様を描いてあちこちへ移動できるようになっている。その足場を辿ることで別の小さな島へ行くことも可能ではあるのだが、自分らが今回と目指す場所は、この幾何学的な模様の中央にある、六階建ての海の家。

 

 稲富のギルドマスターが拠点にしているという場所を目指すこと数分。到着したログハウスの扉をタイチは開けていくと、そこに広がった、海に向かって開放的なエントランスと受付カウンターという光景。タイチとビオラはここを顔パスで通って自分らをエレベーターへ連れていくと、そのまま六階へと向かって、廊下を歩いて部屋の前まで案内する。

 

 町長室。扉のプレートに記された文字のそれをノックするタイチ。そして奥から聞こえてくる、厳つい男性の「どうぞ」という声と共にして、先導するタイチが「失礼する!」というセリフと共に扉を開けて中へ促してきたことで、自分らは町長室へと招かれた。

 

 部屋の構造は、龍明の町長室とまるで変わらない。ただ、装飾などがより南国チックなものへと変化しているくらいか。

 既に部屋で待機していた、腕を組んで佇む零寺レイジの姿。彼が攻撃的な目でこちらを見遣ってくるその脇では、奥の事務机から一人の男性がこちらへと歩いてきた。

 

 百八十くらいの背丈である三十代前後の男性は、黒髪の無難なショートヘアーでこちらを出迎える。気難しいような細い目と、彼から見た右目が潰れるように閉じており、そこに刻まれた荒々しい古傷が目立っている。だが、特筆するべきは彼の鼻から下の様子だったことだろう。その、鼻の下の部分から鎖骨辺りにまで渡る鉄製のマスクは首の後ろにまで届いており、まるで部分的にサイボーグのような見た目となっているのだ。

 

 その服装は、鎖骨を始めとする胸元が開いた黒色の鎧に、袴のような黒色のパンツと同色のブーツという格好。しかし、彼の右腕にあたる部分の袖が布切れのようにひらひらと漂っており、その右腕もまた、どこにも見受けられない。

 

 事務机の傍に立てかけられた、六本の刀。一本が白色であり、残る五本が黒色というそれらを通り過ぎながら男性は歩いてくると、次にも気難しい目を向けて、口を動かすサマも見せずに、こもったような声で彼は喋り出してきたものだ。

 

「その瞳の奥に秘めし、静かなる闘志の揺らめきを見受けられる。どうやら龍明の若人はきわめて血気盛んであるらしい。その、衝動に身を委ねた闘争の経験や良し。——合格だ。あの男が送り出した龍明の使いが、愚かしいほどにふてぶてしい上っ面を引っ提げて現われでもした際には、わたしの愛刀の餌食にでもしてやろうと企てていたものではあったが、どうやらそれも杞憂で済んだらしい」

 

 一同の顔を眺め、品定めするようそれを口にした男性。特に彼は、ラミア、レイラン、オキクルミの三人をえらく気に入った様子だった。

 

 目の前の男性がまとう、歴戦を思わせる風格。これに自分を含めた菜子、ラミア、レイランが圧倒されて尻込みする中で、オキクルミは通常通りと言わんばかりに男性へと言葉を返していく。

 

「なぁ! オジサンが稲富のギルドマスター??? なんか、ソレっぽいな! オレはオキクルミ・トリックマスター!! で、コッチが柏島歓喜で、コッチが蓼丸菜子、コッチがラミア・エンプーサで、コッチがレイラン・シェフナーね!!! あとあと、ユノ・エクレールってスゲー奴も来てるんだけど、なんかどっか行っちゃったからまた後で紹介するわ!!!」

 

 さすがオキクルミ。すかさず右手を差し出して握手を求め出した少年に、自分は見習わなければと思わされていく。

 

 彼にはタイチも「面白いな……」と小声で呟いていく他、ビオラがギルドマスターの顔色をうかがうような微妙な表情をしていたものだ。そんな男性はと言うと、オキクルミに「ほう、あの男の躾は行き届いているみたいだな」と一言。だが、差し出されたオキクルミの手を取らずに佇んでいると、少年の握手とは反対方向となる、左手、を男性が出してきた。

 

 少しして、オキクルミは気が付いていく。

 ——この人、“右腕が無い”。すぐさまオキクルミは左手を出して男性と握手を交わしていくと、その間ずっと光の無い瞳でニコニコしている少年を気に入ったようにしながら、目の前の男性もまたこちらへと名乗ってきたものだ。

 

「遥々からご足労いただいたことに感謝しよう。このわたしこそが、ギルドタウン稲富でギルドマスターを務める責任ある者、名は“ジンダイ=アザミ”と言う。呼び名は各々に任せるとでもしよう」

 

 ジンダイ=アザミ。ギルドタウン稲富のギルドマスターである男性がそう名乗って、セリフを続けてくる。

 

「諸君らに遠方からご足労いただいたように、先日はわたしの部下もそちらで世話になった。あの男が運営するギルドタウンなのだ。故に、龍明を過小評価するつもりは毛頭なく、戦闘力や運営も加味して、その実力は常に均等なものであると、わたしは本心から諸君らを評価しているものだ。——先日の合同作戦も、決して悪くはない成果だった。事実、諸君らの活躍は稲富の人間から見ても著しく目覚ましいものがあり、あの男が育て上げた同業のライバルとして、稲富に属する人間の良き指標となることだろう」

 

 なんだか、やけに評価されているようだった。ジンダイの語るサマに自分らは呆然としながら耳を傾けていたものだが、次にも傍らのタイチが響かせるよう口に手を当てながら、ジンダイへとそれを呼び掛けていったのだ。

 

「ギルドマスター、本題本題!」

 

「ぬぉ、わたしとしたことが、本題を疎かにして長話をしてしまったな。失敬」

 

 と言って、ジンダイは鉄製のマスクのような首の部位から咳払い。その音をこもらせながらも改めてといった具合にこちらへ向いてくると、彼は本題となる今回の作戦についての詳細を説明しようとした、その時のこと——

 

「既に桃空タイチ本人からも聞き及んでいるだろうが、今回こうして諸君らを稲富へ招くに至ったのも、奴の計らいがあったからこそのもの。言うには、次にも展開する制圧作戦の拠点となるものが、あのユノ・エクレールの込み入った事情と深い関わりがあるとのことだな。彼女もまた龍明の人材であるため疎遠な存在であることは否めないが、わたしに限らず、ギルドタウンという組織に属する多くの人間が彼女を知る以上、巷で知れ渡るような彼女の手助けを含め、あの男に貸しをつくってやるのも悪くはない話だとわたしは思い——」

 

 バタァンッ!!

 勢いよく開かれた扉。同時にして、駆け込むようにスライドしながら町長室に入室してきた、見慣れない“その女性”。

 

 百六十七ほどの身長である彼女。黒色のキャップを被った頭部は、白茶の薄くて明るい茶色の長髪を太もも辺りまで伸ばしておりながらも、その横腹までは綺麗なストレートで、それよりも下になった途端に、変貌するよう二手に結われたツインテールが特徴的。服装も、横に膨らんだダボダボな黒色のパーカーをずり下げていて、胸元の開いた黒色のへそ出しタンクトップに、青色のホットパンツ。そして、ブーツをスカスカにさせたような白茶色のサンダルという格好で突如と現れる。

 

 そんな、てんやわんやと汗を飛ばす彼女が、とても慌てながら部屋へと入ってきた。そして、慌てるあまりに周りも見えていないというサマを晒していきながら、彼女はジンダイの話を遮るようにして、かつ独自の調子でそのセリフを口にしてきたものだ。

 

「だぁーっ!! ほんま、すんませーんっ!!! ウチも集合時間は気にしとったんやけれど、居酒屋のおっちゃんがどーしても言うもんやから、しゃーなしにおっちゃんの失恋話に付き合っとって、こないなことになりよったんやっ!! ななっ、これも稲富の悩み事解決の一環っつーわけで、どーか、今日の遅刻は許してぇっ!!!」

 

 必死な懇願。両手を合わせて頭を下げる彼女の様子に、龍明の一同がポカーンと見遣っていく。

 稲富陣営であるレイジこそは、全くもって見向きもしない。一方でタイチやビオラは、仕方ないな~という雰囲気で佇んでいたものだ。……が、ギルドマスターであるジンダイはそれほど寛容な視線を送ることもなく、ひたすら謝る彼女へと呆れつつそう促していく。

 

「……合同作戦を共にする龍明の戦友を前にして、稲富の面子を潰してもらっては困るものなんだがな。——まぁ、それも過ぎたことだ。今は気持ちを切り替え、目の前にいる龍明からの使いに挨拶の一言でも掛けたらどうなんだ」

 

「ほんまに許してくれるんやなっ!? なんか今日はえらく優しいなぁマスターっ!! やっぱ客人の前やとマスターも丸くなるもんなんやろうか? とにかくありがとぉっ! ウチ、親身になって人助けしたっちゅうのに怒られたなんて言うたら、もうモチベがガタ落ちで何でも屋やってられへんわぁっ!!」

 

「…………」

 

 許された途端にケロッと態度を変えた女性。そして、ギルドマスターに言われたようこちらに向いてくると、次にも彼女は愉快げな調子で自己紹介を行ってきた。

 

「そないなことで、皆よろしゅうなっ! あぁね、ウチは“チシカ・ブーケプルズ”言うもんやねん。ウチ、つい最近と他のギルドタウンから稲富に移籍してきたばかりの新米なんやけど、何でも屋の経歴自体はそれなりなもんやから、コイツ、遅刻女のチシカやぁっ!! とか言うてなめてもうたら困るねんっ!! ——異能力が無くともなぁ、ウチも伊達に修羅場をくぐってきてぇへん。数多の戦場の経験からウチが独自で編み出した、チシカ流戦闘術の腕っぷし、存分に期待してもうてかまへんからなっ!!」

 

 チシカ・ブーケプルズと名乗ったその女性は、おてんばな微笑みでそのセリフを口にしたものだった。

 

 稲富への移動を終えて、このギルドタウンのギルドマスターと何でも屋のメンツと顔合わせを行っていった。特に、レイジとチシカは次回の合同作戦で一緒に行動するとのため、タイチの提案の下、海が近い稲富のホテルで親睦会が開かれたものだ。

 

 あとで合流したユノも居合わせた、ディナーの場。夜の海を眺めながら行われた親睦会は、オキクルミ並の活発さを見せる怒涛のチシカの勢いと、対照的にずっと距離を空けて佇んでいるレイジという図が際立っていく。

 

 群れる子犬と、群れない狼。そんな印象を感じさせる新たなメンバーを加えて迎えた作戦当日。タイチが指揮する何でも屋連合軍は、蓼丸ヒイロの行方を知る手掛かりとなり得る組織『ナチュラル・セレクション』のアジトへと赴いた。

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