脇役系主人公は見届ける   作:祐。

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第35話 ナチュラル・セレクション

 一帯に生い茂る、深い緑色の鬱蒼とした森林地帯。この大自然に紛れ込むよう姿を隠していたのが、太古の神殿を模した巨大な研究所。

 

 横に広いそれは、見た目こそはロマン漂わせる古の風格を醸し出す。だが、建物の印象を損なうとされるスライド式のドアが壁面に現れると、そこから白衣の男性が出てきて森林へと歩き去っていったものだ。

 

 近年、この森林地帯で行方不明の報告が相次いでいたという。その被害は主に、未だ謎が多く隠されたこの一帯を調査する探検隊がほとんどらしい。これを受けて稲富が調査を行った結果、神殿にカモフラージュした研究所の存在が発覚。

 

 この建物の見た目が見た目なだけあって、それを研究所と思わずに未知の発見として喜んだ探検隊が、胸を躍らせながら研究所に突入したところを捕縛されてしまっているのだろう……というのがタイチの見解。

 

 今回、稲富はその事件を解決するべく、この研究所に乗り込む算段を立てていた。それでいて、調査が進むにつれてこの研究所の名前が『ナチュラル・セレクション』というものであることも判明し、その名前にビビビッと来たタイチが、龍明のギルドマスターであるネィロへとわざわざ伝えに来てくれた。というのが、あの日にも龍明で彼と再会した時の流れだった。

 

 

 

 ————というわけで、ユノの蹴りによって外壁が瞬く間に粉砕された。

 

 破滅的な轟音。同時にして響き渡った警報と、赤く染まり出す研究所の廊下。しかしユノ、これをスルーしてひとり内部へと突入していくと、彼女は相変わらずといった具合に奥へと突っ走ってしまったのだ。

 

 これはもう、作戦というよりは強襲なのでは……?

 どちらが悪者か分からないな。そんなことを思いながらキャリングケースを提げた自分が見遣っていく視界の中で、ユノに続くよう、タイチ、ビオラ、レイジ、チシカの稲富組が駆け出して、その後に続くようラミア、レイラン、オキクルミ、そして菜子と自分という龍明組が一斉に廊下へと飛び出して先を目指していく。

 

 廊下を駆け抜けていくと、すぐにも広がったのは研究所の大広間。中央にある巨大な観葉植物の様子が博物館のようであり、周辺の神殿っぽい質感の建物の雰囲気と、外から射す日中の光も相まって、とても神秘的な空間を演出していたものだ。

 

 が、すぐにもそれらは崩壊し始める。突然の侵入者に研究所内の人間が立ちはだかると、常備しているのだろう銃を主にした、遠方からの攻撃でこちらを迎え撃ってくる。

 

 遠距離攻撃。凡人である自分や菜子、あとはラミアなんかがこの光景に尻込みをして足を止めていく最中、結晶のような塊の刃を生やして相手を切り刻むタイチが、目先のレイジへとセリフを投げ掛けた。

 

「レイジ!! ド派手で強力な一撃をぶちかますぞ!! そこでじっとしてろ!」

 

「あァ……!? まだ時期尚早だろ! 切り札を早速と見せびらかす奴がいるか! ——てめェそれ、ただ俺の“異能力”を間近で観察してェだけだろうな!?」

 

「レイジの異能力のメカニズムには、興味が尽きないものだ! いいから食らっておけ!!」

 

 跳躍したタイチ。空中で自身の身体から刃を生やしていくと、突き出した両手に力を蓄えるよう一時(いっとき)もの滞空を行った後、あろうことかレイジに向かって、刃の輝きが反射する煌びやかな弾を発射していったのだ。

 

 高速の軌跡。瞬く間にレイジへと着弾したそれは、衝撃と同時にして破裂するよう周囲に刃の結晶が広がっていく。それも、爆発した煙のような形を象るそれは、瞬間的に凍り付くよう広まって、周辺の敵をも巻き込んでレイジを切り刻む。

 

 いや、切り刻むというよりも、もはや彼は千切りになっていただろう。原型の姿かたちも残さない残酷なる仕打ちと、飛び散った彼の血肉と鮮血。なによりも、この攻撃を味方に放ったタイチの行為には、稲富に入ったばかりというチシカが仰天して見遣っていく。

 

「あ、アホなんとちゃうんかぁっ!!? なにが悲しくて味方を攻撃するヤツがいんねんっ!! しかも、原型も残らへんマジの攻撃をなんで味方にぶちかましとるんやっ!? 自分アタマおかしいでっ!! 稲富が誇る超絶イケメン王子の桃空タイチ様は、実は非道な暗黒騎士やったってオチなんかっ!? そないなことがあるかアホっ!! ウチのピュアで純情な生粋の乙女心が今、えんえん涙を流しながら悲鳴をあげとるでっ!!」

 

 焦っているのか、余裕があるのか……。

 そんな調子で銃弾を掻い潜っては、研究員を蹴り飛ばしていくチシカのセリフ。そうして落下するタイチを彼女は見遣っていくものだったが、そっぽむくチシカを狙う、死角からの銃撃が襲い掛かる。

 

 が、それを感覚で避けつつ、横へとアクロバティックに回転した勢いのまま飛び込んで蹴りをかましていく彼女。

 そんなチシカが未だに見遣る、レイジを細切れにした刃の結晶。それもまた直にして自然とヒビが入り始めていくと、これにタイチが清々しい笑みを見せながらチシカへと説明し始めたのだ。

 

「安心しな! これこそが、レイジの本領を発揮するための必須条件なんだ!」

 

「必須条件っ?? 本領を発揮するためのっ?? それはどういうことやっ!?」

 

「見てな! あの攻撃地点から、レイジの異能力が“姿を現す”!!」

 

 そないなこと言うて……。チシカが向けたその視線。

 と、次の瞬間にも、刃の結晶が内からの力によって粉砕されたその光景。同時にしてそこから現れたのは、黒色のローブとフードに、ドクロのような顔を持つ、紫色の両腕と気化した身体の禍々しい“死神”の姿——

 

 ドクロの顔面に入っている傷跡は、まるで切り刻まれたかのようなもの。共にして赤色の目を光らせていくと、死神は突如と巨大化するなり、両腕による力ずくの叩き付けを周辺へと繰り出して暴れ始めたのだ。

 

 すかさず、研究員は死神へと銃を向けていく。そして恐怖する顔を見せながら銃弾の雨をそれへと浴びせていくものであったのだが、気化した身体は弾をすり抜け、両腕に当たった銃弾が全て跳ね返されていく。

 

 終いには、死神は大きく口を開いて右手を中へ突っ込んでいくと、そこからするすると禍々しい鎌を取り出して、敵方に向かって力ずくと薙ぎ払ってきたのだ。

 

 一刀両断。付近にいたオキクルミが「うおぉ!!!」と言いながらそれを跳躍で回避したものだが、彼の真下にあたる真横の壁がずれ始めていくと、ワンテンポ遅れるようにして、薙ぎ払われた物体すべてが綺麗に真っ二つとなって上の部分がずれ落ちていく。

 

 斬られた研究員は、意識を保ったまま身体を二つに分けられてしまった。

 痛みも感じなかったのだろうか。彼らが、不思議な顔を見せながら床へと倒れ込んでいくその様子。これだけでも中々にショッキングなサマを見せられたものであったのだが、それを背景にして更なる衝撃を自分は目撃することとなる。

 

 先ほどの、タイチの攻撃。刃の結晶で千切りにされたレイジの血肉が散らばる、地面の様子。しかし、飛び散っていた血肉が突如と意思を持って蠢き始めると、それは一斉に集うようにして一点へと集中していき、集まるだけでなくみるみると人の形を形成していっては、レイジという一人の見慣れた男を象っていく。

 

 惨殺されたレイジが、まるで何事も無かったかのように生き返ったのだ。それも、身に付けていた服も修復されているオマケ付き。これに、彼は舞っている埃を払うよう手を振りながら、なぜか得意げな顔を向けていたタイチへとセリフを口にする。

 

「それでだ、俺の異能力のメカニズムは解ったか?」

 

「あぁ! もっともっと興味深く思えてきたことだけは分かったぞ!! レイジの異能力は、“死ぬことによって発動する”!! それも、“死亡した時のダメージが深刻”であればあるほど、“呼び出した死神が強力になる”ような気がしている!! ——実に興味深い! 試しにもう一回見せてくれないか!?」

 

「断る。……”周りと違って俺の身体は死なない”とは言え、痛覚は他と共通している。あとどれほど俺は、てめぇのお遊びで痛い目に遭わないといけねぇんだ」

 

「そうか……。ま、本人の意思が一番だからな……。ここは名残惜しいが仕方ない……。また次の任務にでも観察するとしよう……」

 

「結局やるんだな。てめぇは悪魔か?」

 

 飛び交う銃弾の中で繰り広げられる会話。付近では、鎌で両断された跡をオキクルミは「スゲーなコレ!!!」と食い入るように眺めていたりと、もはややりたい放題なその光景。

 

 一方、武装した研究員が一気に数を増やし始めていた。

 戦力では勝っていても、数で圧倒されている現状。特にこの状況は凡人組が苦戦を強いられており、自分はキャリングケースのスーパーホログラフィーを起動することも許されず、自分を守るように立ち回ってくれているラミアと菜子も、向けられた銃口に対して無力であった。

 

 次の時にも、菜子が肩を撃たれて悲鳴を上げていった。

 血が床に飛び散り、少女が痛がりながら後退していく。だが、容赦の無い攻撃が少女に集中していくと、菜子の命が危ないと悟った自分はキャリングケースを投げ出してしまいながら、少女の手をとって物陰へと移動させようとした、その時。

 

 ——腕に走る激痛。少女を掴む自分の腕もまた、銃弾を受けて流血し始める。

 堪らず勢いで引いてしまい、菜子を抱きとめる形で吹き抜けの廊下へと移動した。だが、吹き抜けがありながらも、大広間を囲うような円形であるこの廊下には、安全な場所など存在しなかったものだ。

 

 すぐにも、自分の背後から響き渡らせた廊下の足音。それが五名ほどの集団となってこちらを捉えてくると、躊躇いなく向けた複数の銃口と、発砲された単発式のそれらが襲い来る。

 

 どうしようもない。そう思った自分は菜子を庇うように両腕を広げ、直ぐにも訪れるだろう激痛に備えて歯を食いしばった。

 

 ……尤も、そんな最悪の予測を裏切る形となって、大広間で崩落した瓦礫の一部分が突如と手前に降ってきた突然の出来事。それが廊下に打ち付けられてバウンドしていくと、その時にも瓦礫が帯びていた不自然な挙動に自分は注目してしまう。

 

 柱の一部らしいそれは、目まぐるしいほどにぎゅるぎゅると縦に回転していたのだ。激しい不可解さに自分は呆気にとられていく中で、それは廊下でバウンドするなり、銃を構える研究員達の方へと勢いよく飛んでいく。

 

 落ちてきた時に銃弾を防いでくれたその上に、不可解な挙動を以てして研究員に襲い掛かったこの瓦礫。更におかしい挙動として、これに直撃した研究員もまた激しい回転を行いながら、弾けるように飛んでいくのだ。

 

 そして、人に当たった衝撃で跳ね返った瓦礫が、また研究員と衝突する。すると、これもまた敵が弾けるように回転しながら飛んでいき始め、また瓦礫が跳ね返っては壁に当たって、ピンボールの玉のようにバウンドしていっては……といった具合に、この瓦礫一つで研究員達は悉くと蹂躙されていった。

 

 なんだ、これは……?

 不思議に思った自分が呆然とするその手前。ピンチに陥っていたこちらを助けるように、吹き抜けの部分からチシカが降りてきた。

 

「危機一髪やったなぁっ!! 凡人から徹底的に潰していく敵の作戦も、中々に侮れへんもんやなっ。まっ、ウチからしたらそないな敵、むしろ恰好の的兼都合の良い“ボール”の補充になって助かるんやけどなっ」

 

「あ、ありがとうチシカ……! すごい助かった……!! でも、ボールって何……?」

 

 自分の問い掛け。それにチシカは、ものすごくドヤった表情を見せていく。

 

「なんやなんやっ?? そないに、ウチが編み出したチシカ流戦闘術のことが気になるんかっ?? ——ええで。凡人の端くれ仲間として、特別に教えたるっ!」

 

 と言って、チシカは足元に転がっていた石ころ程度の破片を蹴り上げていく。

 そこからリフティングの要領で、破片をトントンと蹴り続けていく彼女の動作。すると、チシカが蹴っている破片は直にも、やけに高速で回転し始める不可解な挙動を見せ始めた。

 

 戦闘中にも関わらず、チシカは自慢げな調子でこちらに見せ付けながらセリフを口にする。

 

「ウチの戦闘術はな、“物体に回転を与える”ことで、飛び道具を作り出す戦い方を得意としとるっ。だから、見てみっ。今も蹴ってるちっこいコレが、なんかすごい回転を帯びとるやろっ。コレが、ウチが編み出したチシカ流戦闘術っ。ほんでな、こっからやで。なんや、すんごい回転しとるコレを、こうして蹴り出していくと……っ」

 

 リフティングで蹴り上げていた破片。それをチシカは適当に他所へと蹴り出していくと、その破片は通常の軌道で飛んでいくや否や、床に着弾すると同時にして弾けるよう宙へ放り出されていく。

 

 だが、その回転は未だ収まらない。宙へ飛んだ破片は高速回転しながら綺麗な軌道を描いていくと、それはまるで、チシカの下に戻ってくるかのように落下をし始めて、そして突き出していた彼女の足にコツンッと当たって、またリフティングして……という光景をこちらに見せ付けてきたのだ。

 

 彼女がボールと称した理由が分かった気がした。それと共にして、グレンを含む、異能力を持たないながらも独自の戦闘術を開拓する何でも屋達に、敬意の念さえも覚えていく。

 

「回転を与えた物体が、自分の下に戻って来たり、地面や壁に反射して飛び回る武器に変わるんだな! すごいなそれ……!」

 

「そうやろそうやろっ!! 自分、中々に見る目あるなぁっ!! さっき自分らを助けたのも、ウチの戦闘術の賜物やっ!! ——同じ凡人として憧れるやろっ!! ウチとしても自分らは好印象に映っとるから、任務が終わった後にも、ウチの弟子として特別に伝授してやってもええよっ!!」

 

「本当か! これは心強いな……! 俺としても、助けられてばかりじゃ足を引っ張るだけだし、ぜひとも教えてもらいたいな……!」

 

「なんや自分、すっごいやる気に満ちとるなぁっ!! ええよっ!! そんじゃあまずは、この任務で生き残るところからやなっ!! ウチとしても、見る目がある一番弟子を死なせたくないしな。せやから、弟子のガールフレンドも一緒にウチが守ったるわっ!!」

 

 意気揚々と破片を蹴り出したチシカ。それが壁に跳ね返って円形の廊下へと飛んでいくと、その先から来ていたのだろう研究員を倒していって、そこから弾けるように跳ね返った先には、さらに別の研究員が……という光景を展開した。

 

 構えるチシカと並ぶように、自分も立ち上がっていく。その脇では、ガールフレンドという言葉に「あ、アタシとカッシーはそんな仲じゃないし!!」というツッコミと共にして、菜子も撃たれた場所を労わりながら金属バットを構えて佇んでいく。

 

 直にも、なだれ込むように廊下から研究員達が現れた。これにチシカと菜子が好戦的に立ち塞がっていくと、それぞれ、チシカは機敏な動作で研究員へ接近して、菜子はあろうことかバットで銃弾を打ち返してという立ち回りで、二人は戦闘に臨んでいったのだった。

 

 

 

 

 

 思った以上に敵が多くて、なかなか前に進めない。セキュリティも実に厳重であり、自動的に閉まるトビラだったり、自動的に銃弾を発射し始めるタレットだったりと、こちらを迎え撃つ設備が充実しすぎている。

 

 これには、タイチやビオラも苦戦を強いられていた。その二人こそは着実と道を切り開いていて、彼らに続くようオキクルミが針金を操る異能力で縦横無尽に立ち回っていく。レイランも黒色のポンチョによる不規則的な攻撃で敵を蹴散らしていて、レイジに関しては、死ぬ度に死神を発現して一掃して、再生して生き返ってはまた殺されてというサイクルを繰り返していた。

 

 ラミアと菜子、それにチシカの凡人組も奮闘する中で、自分は菜子を守るためと思って投げ捨ててしまったキャリングケースを開いていく。

 ……だが、それは既に破損してしまっていたようだった。超高性能の代償として超脆弱という性質上、ちょっと投げ遣っただけでも壊れてしまうことが発覚すると共にして、もはや自分はお荷物と化してしまったこの状態。

 

 ここで、タイチが耳につけている無線で、全員に聞こえるそのチャンネルでユノへとセリフを掛けていったのだ。

 

「ユノ! そちらの状況はどんなもんだ!」

 

『ヒイロの手掛かりは無いわ』

 

「それも大事だが、この施設の情報なんかでも分かったことはないか! 普通の研究所にしては、あまりにも警備が厳重すぎる! きっと、そうまでしないとならない要因。——それほどまでしてでも、奴らが隠したがる代物なんかがこの施設のどこかにあるのかもしれない! その、守らなければならないものが万が一、取扱に注意しなければならない爆発物なんかだったりした場合を考慮すると、このまま情報も無く先に進むことはあまりにも危険なんだ!」

 

 タイチの訴え掛けに対し、ユノは平然とした声音で答えていく。

 

『この研究所もまた、いつしかと話に聞いた、細胞を研究する施設と同系統の建物であることは確かよ。——ヒイロの身柄を運送していた乗り物を襲撃して、ヒイロを連れ去らったその連中。彼らもまた細胞に関する研究を行っていたと、あの死んだ男が言っていたように、研究所の奥へ進むにつれて、人ひとり入れる、液体で満たされた大量のカプセルなんかが見受けられる部屋なんかは、施設内に点在しているようね』

 

「少なくとも、それらを刺激する行為はよろしくないかもしれないな。——ま、それとは別にしてだ……。ユノ! こちらにも少々と人手が要る! 用心棒の異能力者も思った以上にやるもんでな、下手すれば撤退もあり得るかもしれない!」

 

『だったら、あとは私が単独で調査するわ。貴方達は先に稲富へ帰還しなさい』

 

「所属は違えども、何でも屋の仲間を敵地に置いていくわけにはいかないだろう!」

 

『私は構わないわ』

 

「いいや、おれが構うね!!」

 

 どんな返答だよ……と呟いていくレイジ。そんな彼が敵の銃弾で撃たれて死んでいく様子を横目に、先を往くタイチは次の時にも、ユノへとそれを提案し始めたのだ。

 

「ユノ! ちょっとだけでいい! ほんの少しだけでいいから、おまえの“本気の姿”でどうか、この研究所内にいる敵を一掃してもらいたい!! じゃないとおれ達も、蓼丸ヒイロの捜索に協力できる状態になれないんだ!!」

 

 “本気の姿”。前々からその存在が示唆されていたタイチのセリフに、ユノがそう返していく。

 

『ダメよ。この研究所が無くなるわ。せっかくと見つけた、ヒイロに繋がるヒントも無くなってしまうかもしれないのですもの』

 

「おれ達のいる場所だけでもいい! ここさえ一掃してもらえれば、それで十分だ!」

 

『…………』

 

 現に、ラミアや菜子が体力の限界を迎えていた。

 彼女らの奮闘があったからこそ、我々は背後から挟まれずに敵を迎え撃つことができていた。しかし、二人の何でも屋がここでリタイアしてしまえば防御が手薄となり、撤退を余儀なくされる状況下であったことは確かだろう。

 

 暫しもの沈黙。だが、それを自ら破るようにしてユノは再び喋り出すと、次にも彼女はそのセリフを告げていったのだった。

 

『分かったわ。今すぐそちらに向かうから、貴方達は即刻、その場から退避してちょうだい』

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