脇役系主人公は見届ける   作:祐。

35 / 39
第36話 超人JUNO

 研究所『ナチュラル・セレクション』内部。

 

 先頭を往くタイチとビオラが、途端にこちらへ引き返してきた。その先にいるのだろう異能力者との戦いも切り上げてこちらに合流してきたその二人は、急ぐようにして来た道を辿っていく。

 

 そして直にも、自分と菜子、ラミアが固まるこの集団を通りすがるようにしながら、タイチはこちらへと清々しいほどの撤退指示を出してきたのだ。

 

「おまえら! 急いで撤退するぞ!! ユノの本気に巻き込まれたら、おれでも無事に生きて帰れるか分からないものだからな!!」

 

 物騒な物言いとは裏腹に、すごく楽しそうにしながら通りすがったタイチ。続くビオラも「何ぼうっとしてるの! 早くして!」と焦り気味に促してきて、出口へと向かっていく。

 

 この様子に、自分と菜子はポカンとしたサマを晒していった。

 ユノの本気とは一体? 味方である自分らがどうして避難しなければならないのか? 続出する疑問に菜子と顔を合わせていく自分だったものだが、稲富の二人に続くようラミアが急いで出口へと走り出していくと、唖然としているこちらへと慌てながら声を掛けてきたものだ。

 

「ちょっとナニしてるんですかー!! カンキさんも菜子さんも、早く逃げてください!! これでお二方に死なれてしまいましたら、一番近くにいたウチの責任になるんですからねー!! それだけは勘弁ですよ!? 他人のせいでジブンが犠牲になるなんてバカみたいじゃないですか!!」

 

「待ってくれラミア! どうしてタイチさんもビオラさんもみんな、こんなに慌てて撤退し始めているんだ!?」

 

 ラミアにそそのかされる形で、自分と菜子も走り出す。

 後ろから迫る研究員の追撃なんて、もはや無視。こちらを狙ってくる銃撃も円形の廊下である構造で防いでいきながら、自分らの前を走るラミアがキレ気味に答えてくる。

 

「逆に何でお二方が知らないんですか!! あのヒトの助手をしておきながら、あのヒトが有する“災害並”のお力を把握してらっしゃらないなんて、どんだけあのヒトのことを信用しているんですか!! ——あんなのが常に隣り合わせにいると考えただけでも、ウチは命の危機すら覚えますね!!」

 

「そんなに……ユノさんはそんなに、とんでもない力を持っているってことなのか!?」

 

「見てもらった方が早いです!! なので、さっさと研究所からおさらばしますよ!! ホラこっちです!!」

 

 複雑な研究所の中を、ラミアは完璧な空間把握能力でこちらを案内する。とても頼もしい少女の背に自分と菜子が安心感を抱いていくその中で、先にも激しい戦闘を繰り広げた大広間に到着するなり、同じく撤退するレイランとオキクルミが合流した。……双方、とてもワクワクしたその顔で。

 

「ラミア! カンキ君に菜子ちゃんも! みんな急いで出口に戻ろう! じゃないと、せっかくの特等席が無くなっちゃうから!! ——すごいんだよ本当に! 私、ユノさんの“あの姿”を近くで見るの、初めてなんだから!」

 

「アッハハハ!!! ホントになー! ユノがホンキ出すなんて滅多に無いもんなー!! でもナンデ、こんなラクショーな任務でホンキなんか出すんだ? だったらオレとの手合わせでもホンキ出してくれりゃァいいのにさ。ナンデなんだ?? 基準わかんねー」

 

「基準もなにも、ユノさんにとっては、この任務がそれだけ大事なものだからってことなのかもね。……そっか、クルミは前の合同作戦にいなかったから、ユノさんの事情とか分からないもんね」

 

「ナニ? 前のゴードーサクセン?? いつの話??」

 

「そ! 逃げながら説明するから!」

 

 避難中とは思えないウキウキなテンションで会話するレイランとオキクルミ。

 これが何でも屋というものなのか……。なんていう内心を抱きながら、皆に案内される形で研究所の出口まで走ってきた自分と菜子。共にして、先に安全圏を確保していたタイチが「こっちだ!」と腕で促してくる様子に皆が集合していくその最中にて、他の場所から駆け付けてきたチシカが報告するようセリフを口にしたものだ。

 

「おったおったぁっ!! なぁなぁ聞いてやぁっ!! ウチと一緒におったゾンビのあんちゃんが、無線の会話を聞いとったっちゅうのに、一人で先に進んでいってしもたんやっ!! ウチが必死こいて引き留めたっちゅうのに、ゾンビのあんちゃん、『んなこと知るか』とか言うて、“超人のねいちゃん”とこに向かってしもたんやけど、ウチどないすればよかったんやっ!?」

 

「レイジのことか? あいつ……」

 

 チシカの報告。レイジが撤退の指示を無視し、ユノと思われる人物の下へと向かってしまったというそれに対するタイチの反応。彼がすぐにも研究所へと向いていった表情から、タイチは何かを知っているようにもうかがえる。

 

 だが、タイチがレイジを引き戻そうと一歩踏み出した瞬間。次の時にも一同に降りかかったのは、研究所を押し潰さんとばかりに上空から襲い掛かった、大地を揺るがすほどの規格外な衝撃だった——

 

 

 

 

 

 あまりにも突然のことすぎて、何が起きたのか理解が追い付かない。

 一瞬ながら飛んでいたこの意識。いつの間にか気を失っていた事実も、その瞬間的なブラックアウトから目を覚ましていく形で認識したものだ。

 

 身体を起こしていきながら、吹き飛ばされていた自分の地点を確認する。共にして視界に入ったのは、周辺に散らばった大量の刃の破片というその光景。付近ではタイチが両手を突き出しており、その格好をしながら大量の刃で壁を形成していたその様子から、彼が咄嗟に作り出してくれたこれによって自分は無事で済んだのだと悟っていく。

 

 また、各々も自衛手段で難を逃れていた。ラミアはビオラのピンク色のスライムによって衝撃から身を守られており、菜子はオキクルミの機動性と針金によって、担がれる形で空から下りてきながらこちらと合流を果たしてくる。

 

 チシカも、レイランの蠢く謎のポンチョによって、なんとか無事で済んでいた。

 それぞれがそれぞれを確認し合って、協力し合うことで生還していく。そんな、とても心強い光景を目撃していきながらも、同時にしてこの状況を生み出したのであろう目先の“それ”へと、自分は意識を向けていったものだ。

 

 ——そこを中心として、研究所という原型が跡形も無く破壊されていた。衝撃と共に発生した砂埃も晴れつつある今、崩落して瓦礫となった光景に一人、立ち上がるような動作で動き始めるその長身の人影……。

 

 すぐにも、これの正体を知ることとなる。晴れ往く煙から姿を現すように、“それ”は佇んでいたものだったから。

 

 身長は、百七十九はあるだろうか。灰色まじりの白髪は腰辺りにまで伸びており、その長髪を分厚く束ねることで大きなポニーテールを作り出している。黒色のバイクパンツに、膝丈まであるブーツを着用するそのシルエットはクールビューティとも言えるだろうが、見慣れた佇まいとは相反して、そのアウターは返り血の如き紅色の分厚いコートと、シャツも黒色で“異なる姿の彼女”を演出している。

 

 特に際立っていたのが、着用している仮面とガントレットだった。その素顔を覆い隠す仮面は黒色でありながら、ジャックオーランタンのようなおどろおどろしい赤色の目と口が刻まれていて、非常に不気味な雰囲気を放っている。ガントレットも、見慣れた彼女のイメージカラーである黒色と赤色に染まった力強いものであり、蹴り技を主体とする彼女の立ち回りからはまるで想像できないアクセサリーだった。

 

 今、“それ”は両腕を緩く上げていき、その両手を開いて、圧倒的なオーラを放ち始めていく。

 ——瓦礫の破片が舞い落ちる空間。射し込む日差しに照らされて、“それ”が纏うコートは風になびかれる。周辺の森林も先の衝撃で吹き飛んだことから更地となっており、一瞬にして変貌したこの一帯に、未だ残る奥の研究所からは大量の研究員が、武器を携えながら“それ”へと矛先を向けていく。

 

 振り返っていく“それ”。この動作も悠々としており、強者の風格を醸し出すそれを前にして、敵陣が恐れおののきながら武器を構えていった。

 だが、“それ”はまるで動じない。視界いっぱいに横並びとなった大量の敵や異能力者を前にして、次の時にも“それ”は、引き絞るようにゆっくりと右腕を振りかぶっていったのだ。

 

 何か、とんでもないことが起こる。それだけは予感してしまえた、眼前の予備動作。

 “彼女”が動き出したその瞬間、動きを悟った敵陣が一斉に攻撃を仕掛け始めた。放たれた銃弾に、迫る異能力者。自分らの進行を妨げてきた最大戦力が、束となって結集して襲い掛かる眼前の状況。たった一人に対して全力で仕掛けてきた絶望的なこれを前にして、次にも“彼女”は、引き絞った右腕を、大気をぶん殴るようにして思い切りと振り抜いていったのだ——

 

 ——この世ならざる、空間ごと爆ぜる爆発音。右腕は大気中のあらゆるエネルギーを纏いながら振り抜かれて、それが放たれるとほぼ同時に引き起こされた、分厚い衝撃波による空間の歪み。

 

 瓦礫も、人も、地面も。そこに在る概念すべてを塵へと化す、破滅的な拳の一撃。放たれた拳の衝撃が大砲のような塊となって一直線に、かつそれは剛速球にもなって、目で追い付けないほどの勢いで敵陣の中心に着弾していったその光景。

 

 後方にあった、生き残った部分の研究所がまたしても吹き飛んでいく。破裂とも言える崩壊を迎えた建物の残骸が、宙を舞っていくその様子を目撃して、運良く逃れた生存者はみんな呆気にとられたサマで、それを眺め遣っていたものだった。

 

 ……何なんだ、これは。自分は一体、何を見せられているんだ。

 味方であるハズの自分と菜子も、唖然として佇んでいたものだ。そんな初見の自分らへとタイチは歩み寄ってくると、次にも敵陣へと飛び出していく目の前の“彼女”を眺めながら、彼はそのセリフを口にしていった。

 

「どうだ、すげー驚いただろう。こいつが、ユノの本気の姿だ」

 

「ユノさんの……本気の姿……?」

 

 今まで、手を抜いていたというのか?

 菜子と出会ったばかりの頃を思い出す。あの時にも、自分らを守るべくユノが振るった脚の一撃は、目の前の異能力者に留まらずその後方の地形や建物さえも悉く吹き飛ばしていた。

 

 あの時でさえ、自分はこの世ならざる衝撃を受けたものだった。しかし、それが彼女の本気ではなかったという事実を耳にして、そんな彼女が本気を出したらとも考えただけで、途端と、悪寒が背筋を駆け巡り出していく。

 

「ユノさんって、異能力者ではないんですよね……?」

 

「にわかには信じ難いが、スーパーホログラフィーがそれを証明してしまっているからな。つまり、ユノという人物は、異能力というものを持たずしてあれほどの身体能力を有している、“一般人”と言えるだろう。——あっはっはっは!!! いやぁ、だから面白い!! ユノという人物は、実に興味深いなぁ!」

 

「あ、あれが一般人……」

 

 自分は、無言の菜子と目が合っていく。

 そして二人してタイチへと向き直っていくと、次にも彼はそれを説明してくれたものだった。

 

「何でも屋にとっちゃあ、ユノという人間は非常に特殊な立ち位置にいる存在でな。ま、何でも屋に留まらず、騎士団を始めとする国の連中なんかも、あいつにはひと目を置いているものではあるが。そんな感じに多くの連中が目をつけるだけあって、ユノという何でも屋が有するポテンシャルは、まさに唯一無二とも言えるだろう。——桁外れの破壊力。並外れた身体能力。異能力に頼ることなく破滅をもたらすその姿は、“災厄”の如く。そこから彼女は、“超人JUNO(ジュノー)”という異名で世間に知れ渡っているんだぜ」

 

「超人JUNO……。まず、あのユノさんが世間に知れ渡っているということが、俺にとっては衝撃的なものでしたが……」

 

「無理もない。ユノはその正体を公表しないでいるからな。だから世間は、超人JUNOがユノであることを知らない。そんなものだから、超人JUNOは、時としてふらっと姿を現す名も無きヒーローとして、“流浪の救世主”という異名でも呼ばれることがあったりするものさ」

 

 流浪の救世主……。その異名を聞いて、自分は“彼女”の戦いぶりを眺めていく。

 

 通常の脚の速さを遥かに凌駕する、生けるかまいたちの如き俊敏なその動作。瞬きも許さない速度で相手に詰め寄っていくと、彼女は破壊的な拳によって、一人一人を確実に消し飛ばしていく。それが通りすがるように繰り出される地獄のような光景と、異能力者に対しての更なる容赦の無さが、彼女の無敵さに磨きをかけていくのだ。

 

 敵から繰り出される、茨の攻撃。地面から生やしたそれを、触手のようにして操る敵の異能力。それに捕まってしまえば最後、身動きがとれないまま鋭利な棘でズタズタに引き裂かれること必須のそれに対して、彼女は真っ向から突撃していっては、絡まってくるそれらを拳で容易く粉砕していく。

 

 時には握りつぶし、死角から迫るそれに対しても、まるで後頭部に目がついているのかと言わんばかりに的確と相手の攻撃手段を潰していくその様子。そして異能力者へと一気に迫っていくと、彼女は敵の腹にボディブローをかましていき、これに怯んだ相手の首を鷲掴みにすると共にして、弧を描くような力任せの叩き付けで敵を黙らせた。

 

 だが、彼女は止まらない。叩き付けに際限は無く、弧を描くそれが十回、二十回、三十回とひたすらに連続と繰り出される容赦の無い攻撃。既に相手のあらゆる部位が潰れ、弾け、砕けもする様子はもはや残虐とも呼ぶことができ、それでも叩き付けることをやめない彼女は、手に持ったそれを地面に叩き付け、これによってバウンドした敵を最後に殴りつけて吹き飛ばすことによって、ようやくと一段落していったのだ。

 

 ……救世、主…………?

 味方からしても、災厄と呼ぶに相応しかった。もはや、人類が生み出した禁忌的な存在なのでは? そんな疑問が脳裏をよぎる自分の真横では、彼女の暴れ回る姿に興奮を隠しきれないレイランとオキクルミが声援を送っている。

 

 一方で、ラミアやビオラはドン引きといった具合に眺めていた。そんな彼女らの傍でもタイチは面白いなと呟いていて、菜子やチシカは、ただただ唖然としながら目の前の光景を見遣っていく。

 

 超人JUNO。ユノの本気の姿というものがもたらした影響は、周囲の状況に留まらなかったことだ。そんな、流浪の救世主とも呼ばれる彼女の物語は、直後にもこの現場において、さらなる展開を招き入れることとなる。

 

 ——単独で研究所の奥へと進んでいった、レイジの行動によって。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。