出入り口部分が崩壊した、研究所『ナチュラル・セレクション』の前。瓦礫と化した建物の上にて、ユノの本気の姿とされる“超人JUNO”が、その破滅的な拳を以てして敵陣を悉く塵へと変えていく。
放たれた弾丸のすべてを軽やかに避けていく、その俊敏な脚。加えて、かまいたちの如き音速の接近によって対象を確実に抹消していく力業の手際。異能力者が立ち塞がろうとも彼女は一切と苦戦を強いられることなく、降りかかる異能力は総てその拳で打ち消してしまう、最強の生身を武器にした豪快な立ち回り。
もはや敵無し。苦戦しながらも敵陣を相手取っていたタイチやビオラという実力者の苦労を、水泡に帰すかのような圧倒的なその強さ。
彼女が拳を振るう度、付近の物体や地形が更地へと成り果てる。挙句には歪んだ空間が暫しと名残になり続け、これによって正常な距離感が認識できなくなるなどして、彼女の規格外な強さが形となってこの一帯に刻まれていく。
これには、敵前逃亡を図る敵陣が続出した。多くが武器を捨ててその場から逃げ出していくのだが、背にした瞬間にも降りかかる投げつけられた瓦礫であったり、鷲掴みにして叩き付けた人間をも武器にして振り回して一掃していったり、時には跳躍で、逃亡する敵の目の前へと着地して拳を振るい、遠くの対象に対しては拳の一撃を衝撃波として飛ばしていったりと、彼女は誰一人とも逃がすことの無い縦横無尽な暴走を働いてみせていく。
まさに、“災厄が襲い掛かってきた”かのような光景だった。これには味方陣営の自分でさえも戦慄してしまい、あれが、ユノという人物の正体なのかと、今まで目にしてきたクールビューティな姿からは想像もつかない暴れっぷりに、ただただと息を呑んでいく。
この人に敵う人間なんて、この世にいないんじゃないか。超越者という存在を知らされた現在においてでも、この疑問は確信に近しいものを感じてしまえる。そうして自分が食い入るように眼前のそれを眺めている最中にも、敵陣の混乱を好機と見たタイチが周囲へと指示を送り始めた。
「ビオラ! おまえはどさくさに紛れて、敵前逃亡を図った敵方の人間を数名程度と生け捕りにしてきてくれ! 彼らは大事な関係者だ。できるだけ、この研究所でどんな研究を進めてきたのか。この研究所がひいきにしている商売相手なんかを、本人達から聞き出せるようにしておきたい! そのためにも、数名の捕虜が必要になる! 敵が全滅する前に、今すぐ行ってきてくれ! くれぐれも、ユノの攻撃に巻き込まれるんじゃないぞ!」
「あんた、たまにはイイ指示を出すじゃない。いいわ、あたしが行ってきてあげる!」
「ラミア! 菜子! チシカ! おまえ達は、ここで待機だ! 先の戦闘で疲弊しているだろう。ユノの暴走に巻き込まれない程度の距離で、現場で待機していてくれ! ——レイラン! オキクルミ! おまえ達は、現場に残る彼女らの護衛を! 万が一の場合に備えて、彼女らを避難させるための機動力が必要になる。異能力を持つ者として責任重大だぞ! しっかりな! ……カンキ! おまえは、おれと一緒に来い!」
「え? あ、はい!」
俺だけ、タイチさんと……!?
まさかの選出に驚きを隠せない自分。そんなこちらの傍らでタイチが他所へと腕を突き出していくと、彼が足元から放った導火線のような刃が森林の奥へと消えていき、この線を辿るようすぐにも引き返してきた刃の波を目撃する。
それの上には、自分が壊してしまったはずのスーパーホログラフィーが、新品のキャリングケースとなって乗せられていた。念のためとタイチが用意していた予備の二代目を刃が運んでくると、その波の到達と共にタイチの手元へと飛ばされて、タイチがそれをキャッチするなり地面に置いて起動させていきながら、こちらにそう説明し始めてくる。
「悪いな、カンキ。この先は非常に危険な任務となってしまうものだが、こいつを一番上手く扱えるおまえの力が必要なんだ!」
「あの、俺は具体的に何をすればいいんでしょうか?」
「そんな難しい技術は要求しないぞ。ただおれの隣で、こいつを持っていてくれればいいだけだ。それで余力があれば、周辺地域の様子なんかを口頭でおれに伝えてくれ。——現場に向かう途中に説明したことを覚えているだろうか。この辺を調査する探検隊が行方不明となってしまっていると。その彼らはもしかしたら、この研究所に収容されてしまっている可能性が高いからな」
「人質の救出ですね。俺がスーパーホログラフィーで人質の在処を特定し、タイチさんが救助しに行くと」
「話が早くて助かる! おれは機械の扱いがどうも下手くそでな、すぐこいつを壊してしまうんだ。だから、こいつの扱いに長けたカンキの存在が、今のおれに必要でな!」
と言って、起動してパソコンのような形へと変形したスーパーホログラフィーをこちらに手渡してくるタイチ。
「これから、おれはカンキを担いでいく。目指す場所は、今もユノが暴れ回っている現場の、その奥にある研究所だ。——彼女の報告によれば、人ひとり入れる、液体に満たされたカプセルなんかが大量に設置された部屋なんかもあるらしいな。それが爆発物だったりする可能性も考慮しなければならないが、そいつは、この研究所が活動するに至る、その目的なんかを暴く重要なサンプルにもなり得るから、そちらの確保や回収も同時に済ませていきたいと考えている。まぁ、尤も最優先するべきは行方不明者の捜索だな」
「では、俺は人質の捜索とカプセルの在処をお知らせすればよろしいですね」
「あぁ、頼むぞ。——それじゃあ行くぞ! みんなも頼んだぞ!! 気張っていけ!!」
駆け出すタイチが、こちらに腕を回してくるなり脇で担ぐようにして飛び出していく。これに自分はスーパーホログラフィーを持ちながら連れ去られていくと、タイチの跳躍によってあっという間に戦闘区域へと突入した。
よりにもよって、戦闘の中心部となる場所を突っ切っていくタイチ。その駆け抜ける速度もやはり常人のそれではなく、異能力者ならではの身体能力と言えるだろう高速を以てして中央を突っ走ったものだ。
そんな彼の真正面を横切った、彼女の存在。紅色のコートがわずかながらに迸った光景に自分は死を悟る中で、タイチはその先に見える、断面図のようになった研究所の入り口を見据えながらそのセリフを口にしてくる。
「悪いなカンキ! こんな危険な目に遭わせてしまってな!」
「い、いえ! 俺にもできることがあるのでしたら、全力を尽くしたいと考えておりましたから……!」
「頼りにしてるぜ! ……それとは別にして、おまえと共有しておきたい情報がある!」
共有しておきたい情報? こちらの返答を待つまでもなく、タイチは続けてくる。
「レイジのことだ! チシカの報告にもあったように、あいつ、おれの指示を無視して研究所の奥へと向かってしまったようなんだ! そのこと自体は別にいいのさ。あいつのことは心配いらないからな。——如何せんあいつは、本人の意思に関係なく、死のうと思っても死ぬことが許されない、“不死身の体質”を持つ人間なものだからな!」
「不死身の体質……!?」
先ほどの混戦においても、レイジという何でも屋はその能力を遺憾なく発揮していた。
不死身の体質。彼はタイチの異能力によって千切りのような肉片へと変えられたにも関わらず、彼は死ぬことで発動する異能力によって死神のようなものを呼び出した上に、そのまま死ぬどころか当の本人は、一点に集結した肉片が合わさることで元の姿に再生してしまった。
常軌を逸したその光景。今もこびりつく当時の状況に、タイチはセリフを続けてくる。
「だから、レイジのやつに関する心配なら必要はないのさ。ただ、一つ。それとは別にして、おれが懸念している事態が存在してしまっている」
「それは何ですか……?」
「……この研究所に収容されていると思われる、とある”被検体”だ」
「とある被検体?」
こちらの問い掛けに、言われるまでもないといった具合にタイチが口にする。
「とある“男”が、この施設に収容されているとのことらしい。おれも詳しくは知らないものだが、どうやらその男もまた、“特殊な体質”を持つ人間であるらしいんだ」
「その男が、タイチさんの懸念とどのような関係が?」
「レイジが言うには、その男、レイジの恋人の“仇”とのことらしい」
「恋人の仇……」
スーパーホログラフィーによって読み込まれた地形が、水色のホログラムとして浮かび上がってくる。その様子を他所にして、タイチは真っ直ぐと研究所を目指しながらこちらへの説明を続けてきた。
「仇自体は何人かいるらしいんだが、その内の一人がその男らしく、しかもどういうことか、被検体としてこの研究所に収容されているとのことだ。その被検体もまた特殊な体質を持っているが故に、その細胞を目当てにひっ捕らえたんだろうというのがレイジの見解だな。……まるで、ユノの愛人であり、幻獣を召喚できる特殊な体質を持つ蓼丸ヒイロも、この研究所の人間によって連れ去られたようにな」
「ですが、タイチさんの懸念点とその男が、一体どのような関係が?」
「おれが最も懸念している、最悪とされるそのケース。そいつはな……レイジのやつが、恋人の仇として殺すべく、その男を解放してしまうところにある」
「解放されるとマズイんですか?」
「考えてもみろ。異能力とは異なる、特殊な体質の二つの事例を。それぞれ、幻獣を召喚できる特殊な体質と、不死身の体質だぞ。前者はおれも見たことがないからともかく、後者は厄介にもほどがあるだろう。実質、殺すことによる無力化が図れないんだぞ。——つまり、異能力とは異なる効果を持つ、その、特殊な体質という第二の能力は、おれ達にとってまだまだ未知数なトンデモ要素を孕んでいる可能性がある。そんな存在を、外界に解き放ってみろ。取り返しのつかない事態が引き起こされても何らおかしくない! だから、その男を易々と解放させるわけにはいかないんだ! そのためにも、レイジには一旦、その場で思い留まってもらう必要がある!」
異能力は云わば、特定の事象を発生させたりする力のことだ。しかし、特殊な体質と呼ばれるものは“異能力と別物扱い”されていて、あちこちの組織から狙われる程度には所有者が非常に少なく、かつ、それがもたらす効果というのも、不死身といった強力な効果を持つことが判明している。
特殊な体質の最もとされるメリットは、“異能力との併用が可能”であることだろう。それを証拠として、ユノの愛人である蓼丸ヒイロは、『物体や事象に潜り込む異能力』を持ちながらも、その異能力とは別として、幻獣を召喚できる特殊な体質を兼ね備えているとのこと。
実際、レイジも不死身の体質を持ちながら、異能力として『自身が死ぬことで死神を呼び出せる異能力』を持ち合わせていた。タイチが懸念としているのはその部分であり、もしも解放した男が異能力を持ち合わせでもしていたら、それはつまり、脅威となり得る存在を世界に解き放つことになってしまう、ということを考慮しているのだと思われる。
断面図となった研究所へと進入した自分ら。このままタイチに担がれながら自分はスーパーホログラフィーを眺め遣っていき、レイジと思われる存在が研究所の最深部に到達していることを彼に知らせていく。
それを聞いたタイチは、レイジの下へと急ぐ決断を下していった。すぐさまこちらを担いで廊下を高速で駆け抜けていくと、直にして到着した白色の一本道の、その先にあった自動ドアをタイチは思い切りと蹴り飛ばすことで無理やり最深部に進入したものだ。
派手に吹き飛んでいった自動ドアの扉。それが転がるように飛んでいくと、この先にいたのだろうレイジが右手で受け止めるようにドアを掴んでは、見向きもせずに投げ捨てていく。
……三角形のような形をした部屋だった。その隅から隅まで、ユノの報告にあったカプセルがずらりと並ぶこの光景。それらには緑色の液体が満たされており、ぶくぶくと泡が浮き上がるその傍らで、カプセルの中に収容された人間達が、呼吸器を装着させられた状態で存在している。
それらのほとんどが、探検服を身に付けていた。この様子から、行方不明となっていたのだろう探検隊の人間であることがうかがえて、目を瞑って意識を失っている様子と、一方で呼吸が行われているその様子から、彼らが無事であることをひと目で確認することができたものだ。
しかし、レイジが目の前に立っているそのカプセルだけは、他とはまるで異なる雰囲気を醸し出していた。
三角形の部屋の、その一番奥。出入口から真っ直ぐと進んだ先にある、一回りと巨大なカプセルの前。蹴り破られた扉を捨てるレイジが佇むその背後には、探検隊とはまた異なる衣類を身に付けた“男”が、周囲と同じように収容されていたのだ。
その身長は百八十二ほど。紺色のショートヘアーと男らしい顔の輪郭が特徴的な、一見すると至って普通のその青年。身に付けている服装も、紺色のコートに暗い黄色のシャツ、コートと同色のパンツに茶色の靴という格好。ただ、身に付けるそれらはカジュアルと呼ぶには少々と派手であり、フォーマル寄りでありながらもファンタジーチックな質感のあるものだった。
カプセルの中で目を瞑る男。外の状況も知らぬまま液体に満たされる彼を眼前にして、レイジはこちらへと振り返りながら、呟くようにセリフを口にし始めた。
「止めるんじゃねぇぞ。“こいつら”への復讐こそが、不死身である故に死ぬことを許されなくなった俺の、唯一と残された生き甲斐なんだ。この、俺の生きる目的をてめぇら、決して奪おうとはするなよ」
そう言い、レイジは懐から一丁の拳銃を取り出した。
手に持った拳銃を、持て余すかのような動作で持ち上げる彼。そしてその銃口をタイチへと向けていくのだが、武器を向けられたタイチもまた、平常運転である清々しい調子で返答し始める。
「唯一の生き甲斐か。じゃあ、ここで目の前の仇を仕留めてしまったら、おまえの生きる目的が無くなってしまうことになるな」
「なにも、仇はこいつだけじゃねぇ。こいつはな、もう複数と存在していやがる忌々しい連中の、その一人に過ぎねぇんだ」
「だが、生き甲斐がまた一つと無くなることには代わりないだろう? だったら、意識もない相手を今ここで、それも一方的に決着をつけてしまうだなんて、なんだか勿体無くないか?」
「てめぇには関係のねぇことだ」
「いいや、関係あるね。そう易々と、その被検体を解放させるわけにはいかない。この研究所に囚われるほどの、特殊な体質の細胞を持っている人間なんだろう。そんな、未知数の危険を孕んだ存在を簡単に世界へ放出させるわけにはいかないんだ。レイジも、頭ではそれを分かっているんだろう?」
「生憎だが、俺にはそれほどの器用さが備わってなんかいねぇんだよ。——殺された俺の恋人アンジュも、俺のことをそう言って笑っていやがった。……俺の不器用なところがよ、逆に愛らしいんだと」
タイチへと向けていた拳銃を、自身のこめかみへとあてがったレイジ。これにタイチが腕を突き出し、すぐさま刃を発射しようと構えたことによって、レイジは静止させられる前にその引き金を自分で引いて、あろうことか自分自身へと発砲していったのだ。
——自らの頭部を撃ち抜いたレイジ。これにタイチが「やめろ!!」と声を上げていくのだが、瞬間にも出現したレイジの死神が拳を握り締めていくと、それは何の迷いもなく男のカプセルを粉砕してしまう。
ガラスが割れる音。飛び出す液体。共にして、引きずり出すように中の男性を取り出した死神が、ドクロの顔で男の頭部を嚙み千切ろうと襲い掛かる。
だが、死神が男を噛み切ろうとした時の事だった。その男が瞑っていた目を開けて、寝ぼけ眼のような垂れ下がった紺色の瞳で、目の前の死神を見遣るなり右手に“杖のような刀”を出現させていくその光景——
居合、抜刀。この時にも、目に見えない速度から放たれた高速の斬撃。
何時ぞやとアレウスが繰り出した居合斬りとは異なる、空間に迸る非常に分厚い斬撃だった。それはまるで、宇宙にできた裂け目のような色合いを持っており、これが死神の身体を真っ二つに両断していくと、死神はおどろおどろしい悲鳴を上げながら霧のようになって姿を消してしまう。
すぐにも、生き返ったレイジが起き上がる。そして、手に持つ拳銃を、消えた死神から解放されつつある落下中の男へと向けられた。
だが、レイジもまた、その男の瞬間的な居合によって両断されてしまった。
瞼より上の部分と、両足のふくらはぎより下の部分のみが残る様子。この攻撃に伴って、迸った斬撃は周囲の機材をも両断していくと、これによって瞬く間に研究所は停電してしまい、視界が一気に悪くなったものだった。
この状態で、被検体の男はタイチを狙い始めた。
寝ぼけ眼はそのままに、居合の構えを取りながら真っ直ぐと駆け抜ける男の姿。これにタイチが即座に両手両足から刃を生やして周囲へ伸ばしていくと、その鋭利な刃で部屋のカプセルを端から破壊しては探検隊の人々を解放し、かつ、タイチは男を引き付けるように出口へと駆け出しながら、呆然と佇むこちらへと指示を送ってきたのだ。
「カンキ!!! 行方不明者の生存確認を!! 停電で機能が停止した今、彼らに何があってもおかしくない!!!」
「タイチさん!」
「おれのことは気にするな!!!」
伸ばした刃で男を攻撃するが、その異能力は悉くと居合の分厚い斬撃によって消し飛ばされる。
だが、タイチの狙いは、自身に注意を向けるためのものだったことだろう。そのまま追い掛ける男と共にこの場から姿を消したタイチを自分は見送っていくと、すぐにも倒れ込む探検隊の人々の脈を確認しつつ、その間にも無線から流れてくるタイチのセリフに耳を傾けていたものだ。
『聞いてくれ! 緊急事態だ!! 非常に強力な戦闘力を持つ、特殊な体質を持つのであろう人物との交戦状態に入った!! やつは中々にデキる!! おれの異能力を全て防ぎ切るその剣術が非常に厄介だ!! ——どうやら、やつが繰り出す斬撃にからくりがあるらしくてな!! こいつの攻撃は“あらゆる物体を貫通”して、壁なんかで身を守っているこちらへと、確実に攻撃を届かせてくる!!』
突然の警告に、すぐ反応を示したのがビオラだった。
『ねぇ何! ちょっと、どういうこと!? タイチあんた、なにやってるのよ!?』
『ビオラも気を付けろ!! 出くわしたら、斬撃を回避することに専念しろ!! どんなにスライムを重ねようが、こいつの攻撃は、その“スライムの弾力でさえ無視してくる”!!! こちらがどんなに防御しようが、その分厚い鉄壁をも貫通してこちらに斬撃を届かせてくるんだ!!』
『だ、だからタイチ! あんたね——』
『ユノ!!! 今からこいつを、そっちまで誘導するからな!! ——研究所で捕らわれていた被検体の一人だったんだが、こうまでなってしまったらやむを得ない!! だから、こいつの相手を頼む!!!』
声を荒げるタイチの様子から、彼にも余裕が無いことがうかがえた。
探検隊の無事が確認できた今、自分はレイジの方を見遣っていく。こうして投げ掛けた視線の先では、いつの間にか再生を果たしていた彼が、項垂れるようにして座り込んでいたものだ。
——解放された男によってもたらされた、緊急事態。レイジの恋人の仇というその男は、次にも“彼女”とぶつかり合うこととなる。