脇役系主人公は見届ける   作:祐。

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第38話 被検体の男

 カプセルから解放された、特殊な体質を持つとされる被検体の男。彼は、レイジのかつての恋人の、その仇として外界に解き放たれていくと、攻撃を仕掛けてきたタイチを狙って、閉じ込められていた部屋から即行と出ていったものだった。

 

 タイチもまた、その男の戦闘力からユノに委ねようと誘導のために撤退を行っていく。そんな命懸けの追いかけっこが研究所で行われているのだろう破壊音が響き渡ってくる状況の中で、自分はカプセルのあった部屋に留まって探検隊の人々の無事を確認していった。

 

 皆が非常に衰弱した様子ではあるものの、息があることから助かる余地を思わせる。自分はすぐにも探検隊の人々を安静にさせていくと、傍に置いてあったスーパーホログラフィーを拾うように手にしていきながら、付近で項垂れるように座り込んでいたレイジへとそう声を掛けていく。

 

「レイジさん! 探検隊の皆さんのことを、よろしくお願いいたします! 俺はスーパーホログラフィーの探知機能で、他にも囚われている方々がいないかどうかを捜索してきますから!」

 

 こちらのお願いに対し、レイジは「あぁ」と素直に答えてきたものだった。

 ただ、その声音は落ち込んでいるようにもうかがえた。このことから、彼としても被検体の男を解き放ってしまったことに負い目を感じているのかもしれない。

 

 この部屋をレイジに任せた自分は、未だ戦闘音が鳴り止まない研究所のエントランス付近まで戻ってきた。

 研究所の内部を読み込む上で、この場所が一番広範囲で調べることができたからだ。自分は危険を承知の上で、身を隠しながらスーパーホログラフィーを操作して映し出されたホログラムを眺めていく。

 

 その間にも、無線からは息を切らしたタイチの声が響いていたものだ。

 

『ハァ、ハァ、ッ全員に通達だ……! だいぶ過酷な攻防を強いられたものだったが、おれの誘導によって、被検体の男を本気のユノとかち合わせることができた……! 現在、その男とユノは、研究所の内部を主として交戦中……! だが、これに乗じて研究所の人間が、またしてもおれらに狙いを定めて攻撃を仕掛けてきている! ——全員、最後まで気を抜くなよ……ッ!! ヤバくなったら即撤退……!! イケる雰囲気ならガンガン攻めていけ……!!』

 

 無線の忠告と共にして、エントランスと通じている各通路からは武装した研究員がなだれ込んできた。

 

 第二ラウンドといったところか。瓦礫に身を隠すこちらに彼らは気が付くこともなく、今も敷地内に滞在しているであろう何でも屋の連中に向かって一直線と走っていくその様子。これに、自分は息を潜めてうかがっていきながら、頃合いを見て無線越しに報告を行っていく。

 

「こちら、カンキです。現在、研究所のエントランスでスーパーホログラフィーを起動して周辺を捜索しております。今現在と判明している新たな情報として、四時の方角に、今もユノさんと交戦中である男が収容されていたものと同様の物と思われるカプセルの存在を、確認できました。その数は、二十個ほど。自分は現在、身動きがとれない状況に置かれているため、どなたか、そちらの部屋へ移動できる方がございましたら、そちらへと急行をお願いいたします——」

 

 ガタッ。付近の瓦礫の音に、自分はビクッと身体を跳ねるように反応してしまう。

 小声で行っていたこちらの報告に、敵陣営の人間が気配でも感じたのだろうか。数名となってエントランスの内部を捜索し始めた相手方の動きに、自分は絶体絶命の危機を覚えていく。

 

 ……だが、その不安を遥かに超える場面と出くわすこととなってしまった。

 直後にも破壊された、エントランスの壁。この世の終わりのような破壊の音が響き渡ると同時にして、敵方の悲鳴と、刀を鞘から引き抜いては納めてというカチカチとした音が聞こえ出すこの現場。

 

 思わず顔を出した自分。そこで目撃したのは、研究所内を移動するように交戦していた、超人JUNOと被検体の男がぶつかり合う激しい戦闘の様子だった。

 

 双方が戦闘慣れした動作で、互いに攻撃を避け合いながら、自身が得意とする間合いで攻撃を交わし合う光景。

 超人JUNOによる驚異の身体能力が男へと一気に接近を果たし、その破滅的な拳による殴打を繰り返していくサマ。一方、居合によって一定の間合いを維持するよう軽やかなステップを見せていく被検体の男。実力は互角なのだろうか。共にして異次元の攻防を繰り広げる戦闘を自分は眺めていると、次にも渾身の居合斬りをくぐり抜けたJUNOが一気に攻め立てていく。

 

 ——戦車が衝突したかのような重い音。ガントレットによるボディブローが炸裂したことによって男が寝ぼけ眼を開かせていくと、そこから一発一発と空間を揺るがす凶悪無慈悲な殴打で男を吹き飛ばしたJUNO。吹き飛んだ男が一直線を描いて研究所内の壁を貫いていったものだったが、そんな吹き飛ぶ男に追い付いたJUNOが急降下で空から襲い来ると、直後にも隕石の如きクレーターを作り出して周囲を木っ端微塵にしてしまう。

 

 この風圧で自分はよろけながらも、二人の様子へと注目していった。

 刹那、空間を絶つ斬撃。宇宙にできた裂け目のような色合いの居合斬りが迸る。これを悟って回避を行っていたJUNOだが、この隙へと付け込んだ被検体の男が彼女に詰め寄っていくと、その刀を引き抜いて通常の斬撃を彼女へと浴びせていく。それらをJUNOはガントレットで冷静に防ぎ切っていくと、瞬間的にも見せた男の居合に、JUNOは咄嗟にその場で跳躍を行った——

 

 宇宙色の途方無き分厚い斬撃。それを空中で仰け反るようにして跳び越えたJUNOが全身を捻じるようにして回転していくと、間髪入れずに次々と繰り出された居合の連続斬りを、彼女は身体の回転によって空中で鮮やかに回避し続けていく。

 

 そして、振り向きざまの居合。男が見越したように踵を返して振り返ったその瞬間、彼が抜刀するよりも先に着地を果たしていたJUNOが、引き寄せられるような挙動で接近して腹部に拳を一発。これに男が再び目を見開いて怯んでいくと、そのまま男を持ち上げるようにして弧を描き、その勢いで地面に叩き付けては脚をコンパスのように回転させて、男を地面に引き摺るようにしてから、振りかぶった腕で地面へと全力の叩き付けを行って男を跳ね飛ばしていったのだ。

 

 ……圧倒的だ。素人目から見ても、JUNOの戦闘力は目の前の男とはまるで桁違い。

 一見すると実力が並んでいるように見えた二人の戦闘。だが、JUNOは男の攻撃を確実に見極めるだけの洞察力を持ち合わせており、彼の行動に多大なリスクを突き付けることで圧倒していたものだ。

 

 それも、通常の刀の攻撃と居合斬りを、JUNOはしっかりと判断している。タイチの報告にあったように、あの被検体の男の居合斬りは“防御を貫通する”という特性があるようだったものだが、JUNOはそれを念頭に置いて、居合斬りのみはしっかりと回避を行っていた。

 

 そして、眼前から襲い来る破滅の拳。まるで“災厄”の如き破壊力を宿す彼女の一撃は、相手にとっても相当なプレッシャーとなることだろう。

 

 異能力を持たぬ一般人だなんて信じられない。まさに超人という呼び名に相応しい暴走っぷりで男を圧倒したJUNOは、本気を出してから一度としてその声を発さず、ただただ両手を広げ、コートをなびかせ、その仮面で不気味に佇んでいく。彼女の姿は英雄と呼ぶには存在が禍々しく、また、命をもろともしない残虐性も伴った立ち回りから、ダークヒーローのような圧を醸し出して被検体の男へと立ち塞がったものだ。

 

 ——とんだ強敵と出くわした。ボロボロになった男が立ち上がり、寝ぼけ眼で必死な形相を見せていきながら、目の前の存在を見遣っていく。

 口元の血を拭い、右手の鞘を握り締めていく。そして男はフラフラとした足取りで数歩と彼女へ近付いていきながらも、次に彼は、ボソッとそのセリフを口にしてきた。

 

「…………超越者」

 

 反応を示すJUNO。彼を見遣るその視線も、仮面越しのもの。

 男はボロボロながらも体勢を整えて、彼女を真っ直ぐと見つめていく。そして半閉じの目でじっとJUNOの姿を捉えていくと、男はセリフを続けたものだった。

 

「…………ううん、違う。超越者、じゃない……。超越者、“ウェザード”、じゃない……」

 

 ウェザード……?

 スーパーホログラフィーを抱えて、自分も少しだけ歩み寄る。耳にしたその名前に疑問を抱きつつある今だが、こちらの存在にも目もくれずに、被検体の男はセリフを口にする。

 

「…………じゃあ、君は誰……? 僕を呼びに来たのが、ウェザードじゃないとしたら……僕は一体、誰に呼ばれた……?」

 

 静かな声音で喋る男。これにJUNOが一歩踏み出していくと、それに反応するよう男は一気に飛び出して彼女へと斬りかかる。

 

 ——だが、そこには火花が飛び散っていた。

 JUNOの左手のガントレット。それが、扉をノックするかのような軽い動作で刀を弾き返していて、この状況を理解した瞬間にも繰り出された右腕のボディブローが、男の腹部に炸裂する。

 

 だが、殴られながらも彼は居合斬りを繰り出していった。

 迸る宇宙色。空間に生み出された分厚い裂け目が斬撃として走り出すと、それはJUNOの頭部を確実に捉えて吹き飛ばしていた。

 

 はずだった。

 九十度と傾げられた彼女の首。ポニーテールごと避けた分厚いそれを横目に、身体を一切と動かさず首だけで攻撃を回避していくJUNOの様子。共にして向けられた仮面が眼前の男をじっと見遣っていくと、至近距離で攻撃を外した男の呆然としたサマを吹き飛ばすかの如く、JUNOは右腕のアッパーをその顎にかまして盛大に打ち上げていったものだ。

 

 崩壊した研究所に舞う男。その原型を留めているだけでも、彼もまた常人ではないことが確かだった。

 

 だが、この男との戦いがこれで終わったわけでもなかった。

 次にも目撃する光景と、そう遠くない内にも明かされる男の正体。その彼の口から繰り出された、超越者と思われる新たな存在“ウェザード”の名前。何もかもが謎に満ちた事柄ばかりの連続だったものだが、直にも自分は、“ある身近な存在”をキッカケとして、これらを知ることになるのである。

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